説明

容量調整機能を有する酸素圧縮機の圧力制御方法

【要 約】
【課 題】 容量可変酸素圧縮機の電力消費を削減でき、かつ酸素需給プラント全体を安定して操業できる酸素圧縮機の圧力制御方法を提供する。
【解決手段】 酸素需給プラントに容量調整機能を有する容量可変酸素圧縮機を1台以上配設し、容量可変酸素圧縮機の出側に配設される酸素ホルダー内の高圧酸素の圧力を測定して、高圧酸素の圧力がしきい値αを超えたときに容量可変酸素圧縮機の容量を減少させ、さらに容量可変酸素圧縮機に供給される低圧酸素の圧力を測定して、低圧酸素の圧力がしきい値βを超えたときに低圧酸素を放散することによって、高圧酸素の圧力をしきい値α以下に低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量調整機能を有する酸素圧縮機を配設した酸素需給プラントにおける酸素圧縮機の圧力制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から種々の酸素需給プラント(たとえば特許文献1,2,3参照)が実用化されており、それらの酸素需給プラントでは一般に共通の母管から分岐した配管に酸素圧縮機が配設され、その酸素圧縮機の入側配管の機械的保護を目的として吸込圧力制御が行なわれる。酸素需給プラントの上流に設置される酸素発生設備(たとえば酸素分離器等)のトラブルが発生する等の理由で、酸素圧縮機への酸素供給が遮断されたときには、酸素圧縮機が稼動することによって入側配管内が真空になり、入側配管が変形あるいは破損する惧れがある。酸素圧縮機の吸込圧力制御は、このような入側配管の変形や破損を防止するために、入側配管内の圧力を規定値(0.2kg/cm2=19.6kPa程度)に維持するものである。
【0003】
酸素需給プラントで使用される酸素圧縮機は、ガイドベーン等の容量調整機能を有して容量を変化できる酸素圧縮機(以下、容量可変酸素圧縮機という)と、容量調整機能を持たず出側から入側へ戻るバイパス配管を設けてバイパス弁の開度を調整する酸素圧縮機(以下、容量固定酸素圧縮機という)と、に大別される。
複数台の酸素圧縮機を配設した酸素需給プラントでは、各々の酸素圧縮機の吸込圧力制御が干渉して、入側配管内の圧力を一定に維持することが困難になる惧れがある。そこで従来は、酸素需給プラントに配設された酸素圧縮機のうち、容量調整可変酸素圧縮機の1台のみを吸込圧力制御の対象とし、その他の酸素圧縮機のガイドベーンあるいはバイパス弁を固定して稼動させることが多い。
【0004】
また、酸素需給プラントに配設された酸素圧縮機の稼動効率の良い順番に優先稼動順位を付与し、その優先稼動順位に従って稼動させることによって、複数台の酸素圧縮機の全体的な稼動効率を最適化することも行なわれている。
酸素の需給変動が大きい酸素需給プラントでは、酸素圧縮機の出側に酸素ホルダーを配設して、酸素の需給変動を吸収する技術も知られている。ただし酸素供給量が過剰に増大したときは、酸素圧縮機の出側に設けられた圧力放散弁を制御して、酸素圧縮機の出側配管内の圧力が上昇し過ぎないように調整している。
【0005】
酸素需給プラントにおける酸素の需要と供給のバランス(以下、酸素需給バランスという)を維持するためには、需要量に応じて酸素発生設備の酸素発生量を変化させ、酸素の供給量と需要量を一致させることが望ましい。しかし、酸素発生設備における酸素発生の過程は化学反応であるから、酸素発生量を変更するには長時間を要する。したがって、酸素の需要量の急激な変化が生じたときに、酸素の供給量を迅速に追随させることは困難である。
【0006】
しかも、酸素圧縮機には容量調整機能を持たず一定量の圧力送給のみを行なうものもある。そのため、容量調整機能を持たない酸素圧縮機(すなわち容量固定酸素圧縮機)を配設した酸素需給プラントでは、酸素供給量は、階段状に変化せざるを得ず、連続的に変化させることは難しいので、酸素の需要量の急激な変化に供給量を追随させることは極めて困難である。
【0007】
以上に説明した通り、従来の酸素需給プラントでは、酸素需給バランスを精度良く維持することは困難であり、酸素の需要量に対して供給量が過剰になる、あるいは不足する状況が頻繁に発生している。とりわけ酸素の供給量が不足すると、酸素圧縮機の出側に配設される設備(すなわち酸素を消費する設備)の稼動停止を招く。そのため酸素の供給量が著しく減少しないように、酸素圧縮機の出側配管の圧力を高めに保持している。
【特許文献1】特開2004-316462号公報
【特許文献2】特開平9-144687号公報
【特許文献3】特開平6-346894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の酸素需給プラントでは、酸素圧縮機の吸込圧力制御を行なっているので、酸素圧縮機の入側配管の変形や破損を防止できる。また、酸素需給バランスが崩れたときには、酸素圧縮機の稼動台数を調整する、あるいは酸素ホルダーを用いて圧力変動を吸収する等の対応を施している。ただし、酸素需給バランスの崩れに起因して酸素圧縮機の出側配管あるいは酸素ホルダーの圧力が大幅に上昇し、これらの対応を施しても変動を吸収できない場合は、酸素圧縮機の出側配管から酸素を放散する。しかし酸素圧縮機の出側配管を流通する酸素は、酸素圧縮機を稼動させて昇圧した酸素(以下、高圧酸素という)であるから、その高圧酸素を放散することは省エネルギーの観点から望ましくない。
【0009】
本発明は、酸素圧縮機(特に容量可変酸素圧縮機)の電力消費を削減でき、かつ酸素需給プラント全体を安定して操業できる酸素圧縮機の圧力制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、酸素圧縮機の入側配管を流通する酸素(以下、低圧酸素という)を放散すれば、エネルギーの消費を削減する効果が得られる点に着目した。そして、酸素需給バランスが崩れたときに低圧酸素の放散を可能にする技術について調査研究を行なった。その結果、容量調整機能を有する酸素圧縮機(すなわち容量可変酸素圧縮機)を酸素需給プラントに配設し、高圧酸素の圧力が上昇したときに容量可変酸素圧縮機の容量を減少させ、それに伴って低圧酸素の圧力が上昇したときに低圧酸素を放散することによって、酸素圧縮機の出側に配設される設備(すなわち酸素を消費する設備)の稼動を停止させず、酸素需給プラント全体を安定して操業できることが分かった。
【0011】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、酸素需給プラントに容量調整機能を有する容量可変酸素圧縮機を1台以上配設し、容量可変酸素圧縮機の出側に配設される酸素ホルダー内の高圧酸素の圧力を測定して、高圧酸素の圧力がしきい値αを超えたときに容量可変酸素圧縮機の容量を減少させ、さらに容量可変酸素圧縮機に供給される低圧酸素の圧力を測定して、低圧酸素の圧力がしきい値βを超えたときに低圧酸素を放散することによって、高圧酸素の圧力をしきい値α以下に低下させる容量可変酸素圧縮機の圧力制御方法である。
【0012】
本発明の容量可変酸素圧縮機の圧力制御方法においては、容量可変酸素圧縮機は、ガイドベーンを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸素需給プラントにおける酸素圧縮機の電力消費を削減し、かつ酸素需給プラント全体を安定して操業できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の酸素圧縮機の圧力制御方法を適用する酸素需給プラントの例を示す配管図である。酸素発生設備1(たとえば酸素分離器等)から発生した低圧酸素は、母管2から入側配管3a,3bを通って容量可変酸素圧縮機4あるいは容量固定酸素圧縮機5に供給される。
容量調整機能を有する容量可変酸素圧縮機4は、容量調整機構7(たとえばガイドベーン等)を備えており、低圧酸素の流量に応じて容量調整機構7を調整して容量を最適化することによって、容量可変酸素圧縮機4の駆動電力が変化する。その結果、電力消費を最適化でき、省エネルギーに寄与する。
【0015】
容量調整機能を持たない容量固定酸素圧縮機5は、出側配管8bから入側配管3bに戻るバイパス配管9を設け、バイパス弁10の開度を調整することによって、低圧酸素の流量の変化に対応する。したがって、容量固定酸素圧縮機5の電力消費は、低圧酸素の流量に関わらず一定である。
図1には容量可変酸素圧縮機4と容量固定酸素圧縮機5とを、それぞれ1台ずつ配設する例を示したが、本発明では容量可変酸素圧縮機4を1台以上配設することを必須の要件とし、容量固定酸素圧縮機5は必ずしも配設する必要はない。容量固定酸素圧縮機5を酸素需給プラントに配設する場合は1台以上であれば良い。
【0016】
容量可変酸素圧縮機4の入側配管3aには容量調整機構7を取付けて、吸込圧力制御を行なう。容量可変酸素圧縮機4を1台配設する場合は、その容量可変酸素圧縮機4を吸込圧力制御の対象とする。容量可変酸素圧縮機4を2台以上配設する場合は、各々の容量可変酸素圧縮機4で吸込圧力制御を行なっても良いが、それぞれの吸込圧力制御が干渉する惧れがある。そのため、容量調整機能が最も高精度で効率良く作動する容量可変酸素圧縮機4を1台選別して、その容量可変酸素圧縮機4を吸込圧力制御の対象とすることが好ましい。いずれの場合も容量可変酸素圧縮機4を対象として吸込圧力制御を行ない、容量固定酸素圧縮機5では吸込圧力を制御しない。
【0017】
容量可変酸素圧縮機4や容量固定酸素圧縮機5で昇圧された酸素(以下、高圧酸素という)は、出側配管8a,8bから高圧酸素配管11を通って酸素ホルダー12に貯留された後、酸素を消費する設備13に供給される。酸素ホルダー12は、酸素需給バランスのバッファとなるものであり、基本的には酸素ホルダー12を用いて酸素需給バランスの崩れに起因する圧力変動を吸収する。したがって大規模な酸素ホルダー12を設置すれば圧力変動を全て吸収できるが、多額の建設費と維持費を必要とするので、経済的に不利である。
【0018】
そこで酸素ホルダー12を大型化する代わりに、酸素ホルダー12に高圧酸素圧力計14を配設し、高圧酸素の圧力を監視する。
本発明では、吸込圧力制御による低圧酸素供給量の増加あるいは高圧酸素使用量の減少等の理由で酸素ホルダー12内の高圧酸素の圧力が上昇し、高圧酸素圧力計14の測定値が予め設定されたしきい値αを超えると、容量調整機構7を調整して低圧酸素の流量に応じて容量可変酸素圧縮機4の容量を減少させる。このようにして高圧酸素の流量が強制的に絞られるので、酸素ホルダー12の圧力上昇が抑えられる。
【0019】
一方、母管2内では低圧酸素が余剰となるので、低圧酸素の圧力が上昇する。そこで、母管2に低圧酸素圧力計15を配設して、低圧酸素の圧力を監視する。そして低圧酸素圧力計15の測定値が、予め設定されたしきい値βを超えると、低圧酸素放散弁16を開いて低圧酸素を放散する。
このようにして高圧酸素圧力計14の測定値が、しきい値αを下回るまで低下すると、低圧酸素放散弁16を閉じて通常の吸込圧力制御を行なう。なお、吸込圧力制御は従来から公知の制御方法を採用すれば良い。
【0020】
以上に説明した通り、本発明では酸素ホルダー12内の高圧酸素の圧力が上昇したときに、低圧酸素を放散するので、容量可変酸素圧縮機4の電力消費を削減し、かつ酸素需給プラント全体を安定して操業できる
容量可変酸素圧縮機4が1台のみで需給バランスの崩れに起因する圧力変動を吸収できない場合は、容量可変酸素圧縮機4を2台以上配設しても良い。その場合は、1台目の容量可変酸素圧縮機4の制御下限を検出して2台目の容量可変酸素圧縮機4の操作出力を強制的に絞り込む等の連携した制御を行なう。
【0021】
また、容量固定酸素圧縮機5は必ずしも使用する必要はない。容量固定酸素圧縮機5を使用する場合は、その台数は特に限定しない。容量固定酸素圧縮機5を使用しても、本発明を適用して容量可変酸素圧縮機4の圧力制御を行なうことによって、容量可変酸素圧縮機4の電力消費を削減し、かつ酸素需給プラント全体を安定して操業できる
【実施例】
【0022】
図1に示す酸素需給プラントにて容量可変酸素圧縮機の圧力制御を行なった。なお、容量可変酸素圧縮機4を1台配設し、容量固定酸素圧縮機5を4台配設したが、図1には簡略化して容量可変酸素圧縮機4と容量固定酸素圧縮機5を1台ずつ示す。
酸素発生設備1として酸素分離器を使用し、その酸素発生設備1から発生した低圧酸素を母管2から入側配管3a,3bを通って容量可変酸素圧縮機4あるいは容量固定酸素圧縮機5に供給した。容量可変酸素圧縮機4は、容量調整機構7としてガイドベーンを備えており、低圧酸素の流量に応じて容量調整機構7を調整して容量を最適化することによって、容量可変酸素圧縮機4の駆動電力が変化する。一方、容量固定酸素圧縮機5は、出側配管8bから入側配管3bにバイパス配管9を設け、バイパス弁10を調整することによって、低圧酸素の流量の変化に対応する。したがって、容量固定酸素圧縮機5の電力消費は、低圧酸素の流量に関わらず一定であった。
【0023】
定常状態の操業においては、入側配管3aに配設された容量調整機構7を低圧酸素の圧力に応じて調整することによって吸込圧力制御を行なった。この吸込圧力制御は、容量可変酸素圧縮機4の1台のみを対象として行なった。その他の容量可変酸素圧縮機4は容量調整機構7の開度を一定に保持し、容量固定酸素圧縮機5はバイパス弁の開度を一定に保持して操業した。
【0024】
容量可変酸素圧縮機4や容量固定酸素圧縮機5で昇圧された高圧酸素は、出側配管8a,8bから高圧酸素配管11を通って酸素ホルダー12に貯留された後、酸素を消費する設備13に供給した。
このようにして酸素需給プラントを操業する間、酸素ホルダー12に配設した高圧酸素圧力計14で酸素ホルダー12内の高圧酸素の圧力を監視した。一方で予めしきい値αを設定しておき、高圧酸素圧力計14の測定値が上昇してしきい値αを超えると、容量調整機構7を調整して低圧酸素の流量に応じて容量可変酸素圧縮機4の容量を減少させた。
【0025】
容量可変酸素圧縮機4の容量を減少させることによって母管2内の低圧酸素が余剰となるので、低圧酸素の圧力が上昇するのは避けられない。そこで、母管2に低圧酸素圧力計15を配設して、低圧酸素の圧力を監視する一方で、予めしきい値βを設定しておき、低圧酸素圧力計15の測定値がしきい値βを超えると、低圧酸素放散弁16を開いて低圧酸素を放散した。
【0026】
そして、高圧酸素圧力計14の測定値がしきい値αを下回るまで低下すると、通常の吸込圧力制御を行なった。
このようにして酸素需給プラントを操業すると、低圧酸素の流量に応じて容量調整機構7を調整して容量可変酸素圧縮機4の容量を最適化でき、その結果、容量可変酸素圧縮機4の電力消費を最適化できたので、酸素圧縮機の電力消費を削減する効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の酸素圧縮機の圧力制御方法を適用する酸素需給プラントの例を示す配管図である。
【符号の説明】
【0028】
1 酸素発生設備
2 母管
3a 入側配管
3b 入側配管
4 容量可変酸素圧縮機
5 容量固定酸素圧縮機
7 容量調整機構
8a 出側配管
8b 出側配管
9 バイパス配管
10 バイパス弁
11 高圧酸素配管
12 酸素ホルダー
13 酸素を消費する設備
14 高圧酸素圧力計
15 低圧酸素圧力計
16 低圧酸素放散弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素需給プラントに容量調整機能を有する容量可変酸素圧縮機を1台以上配設し、前記容量可変酸素圧縮機の出側に配設される酸素ホルダー内の高圧酸素の圧力を測定して、前記高圧酸素の圧力がしきい値αを超えたときに前記容量可変酸素圧縮機の容量を減少させ、さらに前記容量可変酸素圧縮機に供給される低圧酸素の圧力を測定して、前記低圧酸素の圧力がしきい値βを超えたときに前記低圧酸素を放散することによって、前記高圧酸素の圧力をしきい値α以下に低下させることを特徴とする容量可変酸素圧縮機の圧力制御方法。
【請求項2】
前記容量可変酸素圧縮機が、ガイドベーンを有することを特徴とする請求項1に記載の容量可変酸素圧縮機の圧力制御方法。


【図1】
image rotate