寒天オリゴ糖の分離精製方法
【課題】β−アガラーゼによる寒天オリゴ糖の生産において、生産された寒天オリゴ糖からネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを簡単に分離精製する方法を提供すること。
【解決手段】 基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法とする。
【解決手段】 基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天由来のオリゴ糖を分離精製する方法に関するものであって、より詳しくは、β−アガラーゼを使用して生産された寒天オリゴ糖からネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを効率的に分離精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するヘテロ多糖類が多く知られている。この内、海藻由来のものとしては寒天、カラギーナン、アルギン酸などが知られており、増粘剤やゲル化剤として特に食品や化粧品の素材として広く利用されている。
寒天の主成分であるアガロースから得られる寒天オリゴ糖には、2糖、4糖、6糖等が混在している。近年、これらの寒天オリゴ糖には、抗炎症作用、ガン抑制機能や抗酸化作用、皮膚の美白・保湿効果など優れた生理活性が存在することが報告されている。
【0003】
寒天オリゴ糖の生産方法として、寒天を酸によって化学的に加水分解を行う方法や、寒天を市販のアガラーゼを用いて分解し、生産する方法が知られている。アガラーゼはα−アガラーゼとβアガラーゼに分類され、分解様式が夫々異なる。α−アガラーゼはアガロース中のα−1,3結合を切断し、アガロオリゴ糖を生産する。一方、β−アガラーゼは、β−1,4結合を切断し、ネオアガロオリゴ糖を生産する。
【0004】
しかし、何れの方法によって寒天オリゴ糖が得られたとしても、単糖を含めて複数の糖の混合物(6糖、4糖、2糖類)が調製される結果となり、単一の寒天オリゴ糖を大量生産することは不可能であった。これまで、2糖、4糖、6糖等の個々の寒天オリゴ糖の物理的、生理化学的特性については研究されていない。単一の寒天オリゴ糖を得ることができれば、2糖、4糖、6糖夫々について生理化学的特性について評価を行うことができ、上述した優れた生理活性が2糖、4等、6糖の何れに存在するのかを特定することができる。
【0005】
単一の寒天オリゴ糖を得るためには、クロマト分画などを用いた単離・精製の工程を行うことが考えられる。しかし、クロマト分画の工程は、極めて煩雑なものであって、簡易に大量生産をすることができないという問題が生じている。2糖、4糖、6糖夫々について生理化学的特性について評価するためには、夫々の単一の寒天オリゴ糖が大量に必要となり、より簡易な精製方法が開発されることが望まれている。
【0006】
単一の寒天オリゴ糖を得る方法として、特許文献1には、セルビプリオ属に属する新規微生物に寒天を分解させてネオアガロビオース(2糖)を生産し、さらに硫酸アンモニウム若しくは塩化アンモニウム処理を施してネオアガロビオース(2糖)を単糖に分解する酵素の活性を選択的に低下させることにより、単一の寒天オリゴ糖としてネオアガロビオース(2糖)のみを生産することを可能とする方法が提案されている。
この方法により、寒天を分解して得られる寒天オリゴ糖のうち、2糖であるネオアガロビオースのみを生産することが可能となっている。
【0007】
しかしながら、この方法では、他の寒天オリゴ糖であるネオアガロテトラオース(4糖)若しくはネオアガロヘキサオース(6糖)を単一のオリゴ糖として生産することはできない。ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを効率よく分離することができれば、ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)夫々ついて生理化学的特性について評価することができ、生理生化学的特性評価に応じた夫々の単一のオリゴ糖として大量生産することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−311812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、β−アガラーゼによる寒天オリゴ糖の生産において、生産された寒天オリゴ糖からネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを簡単に分離精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、寒天をβ−アガラーゼによって分解することによって生産されたオリゴ糖を、水分が含有された有機溶媒に溶解させることによって4糖であるネオアガロテトラオースを選択的に抽出することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
請求項1に係る発明は、基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記β−アガラーゼが、β−アガラーゼIであることを特徴とする請求項1に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記有機溶媒が、アセトン又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1または2に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記有機溶媒に、さらに塩化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、有機溶媒に水分が含有されることから、寒天分解酵素としてβ−アガラーゼを使用して生産された寒天オリゴ糖を有機溶媒に溶解させることができる。寒天オリゴ糖を、有機溶媒に溶解させることから、ネオアガロヘキサオース(6糖)よりもネオアガロテトラオース(4糖)の方が有機溶媒に溶解しやすいため、有機溶媒中にネオアガロテトラオース(4糖)を選択的に溶解させることができる。ネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に溶解された有機溶媒を乾燥させることにより、ネオアガロテトラオース(4糖)を精製することができる。また、有機溶媒に溶解しなかった残渣からネオアガロヘキサオース(6糖)を得ることができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、前記β−アガラーゼがβ−アガラーゼIであることから、寒天を基質として使用するため、主にネオアガロテトラオース(4糖)を生産することができ、ネオアガロビオース(2糖)の生産を少なくすることができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、前記有機溶媒がアセトン又はアセトニトリルであることから、有機溶媒中にネオアガロヘキサオース(6糖)に対してネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に溶解させることができ、有機溶媒に溶解しなかった残渣には、より多くのネオアガロヘキサオース(6糖)を残存させることができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、前記有機溶媒にさらに塩化ナトリウムを添加することから、有機溶媒中にネオアガロヘキサオース(6糖)に対してネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に溶解させることができ、有機溶媒に溶解しなかった残渣には、より多くのネオアガロヘキサオース(6糖)を残存させることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することから、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を維持しつつ、有機溶媒中に溶解する糖濃度を上昇させることができ、より効率的にネオアガロテトラオース(4糖)を分離精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法は、寒天を基質とし、寒天分解酵素としてβ−アガラーゼを使用することにより寒天を分解し、生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法である。分解、生産された当該オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させることよってネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に有機溶媒に溶解し、当該有機溶媒を減圧乾燥させることにより、ネオアガロテトラオース(4糖)を選択的に得ることができる。また、有機溶媒溶解後の残渣物からネオアガロヘキサオース(6糖)を得ることができる。
【0022】
寒天は、ガラクトースを基本骨格とする多糖類であって、中性のゲル化能に富むアガロースとイオン性のゲル化能を持たないアガロペクチンとからなる。本発明では、テングサ、オゴノリ、オバクサ、イタニグサ等を原料とした寒天を使用することができる。一般に市販されている寒天を使用することができ、粉末状、フレーク状、固形状、角寒天、糸寒天等、その他種々の形状ものを使用することができる。
【0023】
本発明において寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼは、β−1,4結合を切断し、ネオアガロオリゴ糖を生産する。βアガラーゼにはβ−アガラーゼIとIIがあり、双方使用することが可能であるが、βアガラーゼIを使用することが好ましい。β−アガラーゼIIは寒天を基質とした場合、主としてネオアガロビオース(2糖)が得られ、ネオアガロテトラオース(4糖)は少量しか得られないが、β−アガラーゼIは寒天を基質とした場合、主としてネオアガロテトラオース(4糖)を得ることができ、ネオアガロビオース(2糖)は少量しか得られないからである。本発明においては、Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼIを使用することができる。
【0024】
本発明で使用可能な有機溶媒としては、鎖式炭化水素、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、含窒素化合物類、芳香族炭化水素等が挙げられる。本発明においては、溶媒の回収再利用も考慮して揮発性がある程度高い溶媒を用いることが好ましく、例えばアセトン、アセトニトリル、ブタノール、2メチル2ブタノールが好ましく用いられる。さらには、アセトン、アセトニトリルを使用することがより好ましい。寒天をβ−アガラーゼによって分解して得られた寒天オリゴ糖を、アセトンとアセトニトリルに溶解させることよってネオアガロテトラオース(4糖)がより選択的に有機溶媒に溶解され抽出することができるからである。
【0025】
有機溶媒には糖類がほとんど溶解しないため、本発明においては、寒天オリゴ糖を溶解させるために水分が含有される。水分の含有量は、特に限定はされないが、溶媒の全体積のうち、1%〜20%程度が水分となるように含有されるのが好ましい。最適な水分量は、各有機溶媒によって異なる。例えば、有機溶媒としてアセトンを選択した場合は5%の水分の含有が、アセトニトリルを使用した場合は、10%の水分の含有が最適となっている。
【0026】
前記有機溶媒には、さらに塩化ナトリウムが添加されるのが好ましい。塩化ナトリウムを添加すると溶液の親水性が上昇し、寒天オリゴ糖に配位する水分が減少するため、ネオアガロテトラオース(4糖)より親水性の高いネオアガロヘキサオース(6糖)が有機溶媒中に溶解しにくくなり、ネオアガロテトラオース(4糖)がより選択的に有機溶媒に溶解するからである。
添加される塩化ナトリウムの量は、特に限定はされないが、0.1〜5g/lが好ましい。
【0027】
前記有機溶媒には、さらにフェニルホウ酸が添加されるのが好ましい。オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させることよって、ネオアガロテトラオース(4糖)がネオアガロヘキサオース(6糖)より選択的に有機溶媒に溶解する。フェニルホウ酸を有機溶媒中に添加すると、ネオアガロテトラオース(4糖)が有機溶媒にネオアガロヘキサオース(6糖)より選択的に溶解する割合がフェニルホウ酸の添加前と添加後とで変更されることなく、且つ、有機溶媒に溶解する寒天オリゴ糖の糖濃度が上昇するため、より効率よくネオアガロテトラオース(4糖)を抽出することができるからである。
有機溶媒に添加されるフェニルホウ酸の添加量は、特に限定はされないが、5g〜200g/lが好ましい。最適なフェニルホウ酸の添加量は選択した有機溶媒により夫々異なる。例えば、有機溶媒としてアセトニトリルを使用した場合は12g/l、アセトンを使用した場合は8g/l、ブタノールを使用した場合は120g/lである。
【0028】
本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法を複数回行うことにより、有機溶媒に溶解されたネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に得ることができ、より純度の高いネオアガロテトラオース(4糖)を得ることができる。同時に、有機溶媒に溶解後の残渣についても、本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法を複数回行うことにより、さらに有機溶媒からは残渣に残存したネオアガロテトラオース(4糖)が抽出され、残渣にはネオアガロヘキサオース(6糖)が残存するため、残渣のネオアガロヘキサオース(6糖)の純度を高めることができる。また、複数回分離精製を行うごとに、有機溶媒の種類を変更してもよい。例えば、1回目の精製時に有機溶媒としてブタノールを使用し、2回目の精製時にはアセトンを、3回目の精製時にはアセトニトリルを使用することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示すことにより、本発明を明確に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0030】
(酵素液の調製)
寒天分解酵素は、Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼ(Sigma社製)を精製せずに使用した。20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に71.4U/mlの濃度になるように酵素液を調製し、エッペンドルフチューブに1mlずつ分注し、−20℃で冷凍保存した。冷凍保存したものをその都度解凍を行い使用した。
【0031】
(寒天オリゴ糖の調製)
粉末アガロース(和光純薬社製)15mgと酵素液100μlを20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)900μlに加えた。25℃で240時間反応後、未反応の粉末アガロースを遠心分離機(10,000rpm、5分間、4℃)により取り除き、上清液を100℃、5分間煮沸することで酵素反応を停止した。
この上清液中の溶解した寒天オリゴ糖の定量分析を液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて行った。
結果を図1に示す。
【0032】
図1の通り、ネオアガロヘキサオース(6糖)は9.6分、ネオアガロテトラオース(4糖)は10.3分の位置にピークが現れている。11.5分の位置に現れている小さいピークは、ネオアガロビオース(2糖)である。
ネオアガロヘキサオース(6糖)の生産量は1.8g/l、ネオアガロテトラオース(4糖)の生産量は2.69g/lである。従って、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の生成比は、1:1.5となっている。
Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼIを使用していることから、ネオアガロテトラオース(4糖)の生産量が多く、ネオアガロビオース(2糖)の生産量が少なくなっている。
【0033】
(寒天オリゴ糖の分離)
上記上清液(寒天オリゴ糖溶液)を凍結乾燥機(島津製作所社製)を用いて凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。乾燥後、乳鉢を用いて摩砕した。得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が20%含有された有機溶媒(アセトニトリル)1mlに溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物(残渣)を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解した。その後、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
結果を図2に示す。
【0034】
図2の通り、ネオアガロヘキサオース(6糖)は9.54分、ネオアガロテトラオース(4糖)は10.27分の位置にピークが現れている。図1と比較して図2では、ネオアガロヘキサオース(6糖)のピークが、ネオアガロテトラオース(4糖)のピークよりもかなり低くなっていることがわかる。
図1では、精製前のネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の比率は1:1.5であった。一方、図2では、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の比率は、1:5.1となっている。これにより、精製前よりもネオアガロテトラオース(4糖)の濃度が増加していることがわかる。
従って、本発明による寒天オリゴ糖の生成方法によって、ネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に有機溶媒に溶解していることがわかる。
【0035】
(添加水分量の調整)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が夫々0、5、10、15、20%含有された有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、2メチル2ブタノール)1mlに夫々溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物(残渣)を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行い、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を算出した。
結果を図3に示す。
【0036】
図1に示される通り、精製前の濃度比は、ネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:1.5であった。これに対して、図3では、アセトン、アセトニトリル、ブタノール、2メチル2ブタノール夫々に水分5〜20%含有させた場合、精製後の濃度比が大幅に変化し、ネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:4.5〜1:17であった。これにより、ネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が精製後に大幅に増加しているのがわかる。また、水分の含有濃度によって、6糖と4糖の濃度比が変化していることから、有機溶媒中の水分の含有量によってネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を制御することができることがわかる。
一方、メタノール、エタノール、プロパノールについては、水分の含有量を増減させたとしてもネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比の増減は少ないことがわかる。
【0037】
(塩化ナトリウムの添加)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、塩化ナトリウムを0、1、2、3、4、5g/lを夫々添加した有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン)1mlに夫々溶解させた。前記有機溶媒には、メタノールとエタノールについては蒸留水が含有されておらず、アセトニトリルについては蒸留水を20%含有させ、アセトンについては蒸留水を夫々10、15、20%含有させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。その後、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を算出した。
メタノール、エタノール、アセトニトリルの結果について図4に、アセトンの結果については図5に示す。
【0038】
アセトンに水分が15%含有されている場合、図3によれば濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:2であった。これに対して、図4に示されるように、塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:6に上昇した。
アセトンに水分が10%含有されている場合、濃度比は図3に示されるようにネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:7であった。これに対して、図5に示されるように、さらに塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:12へと上昇した。
アセトニトリルに水分が20%含有されている場合、濃度比は図3に示されるようにネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:5であった。これに対して、図4に示されるように塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:9へと上昇した。
従って、有機溶媒に塩化ナトリウムを添加することにより、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が上昇し、ネオアガロテトラオース(4糖)の選択性がより上昇することがわかる。
【0039】
(最適フェニルホウ酸添加量の決定)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、フェニルホウ酸を0〜200g/l夫々添加した有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。前記有機溶媒には、蒸留水は含有させなかった。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比の結果について、アセトンとアセトニトリルについては図6に、ブタノールについては図7に示す。有機溶媒中の糖濃度の変化について、アセトンとアセトニトリルについては図8に、ブタノールについては図9に示す。
【0040】
図6、図7に示される通り、アセトン、アセトニトリル、ブタノールではフェニルホウ酸の濃度を増加してもネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が変化せず、一定であることがわかる。
従って、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加したとしても、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比は変動しないことがわかる。
【0041】
図8、図9に示される通り、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、溶媒中の糖濃度が増加するのがわかる。糖濃度は、アセトニトリルを使用した場合、フェニルホウ酸濃度12g/l、アセトンでは8g/l、ブタノールでは120g/l以上で一定となっており、これら各濃度が夫々の有機溶媒においての最適フェニルホウ酸の添加量であることがわかる。
従って、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、有機溶媒中の糖濃度が増加し、最適フェニルホウ酸濃度は、選択する有機溶媒によって異なることがわかる。
【0042】
(フェニルホウ酸を添加した場合の水分の影響)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水を0、5、10、15、20%夫々含有された有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。前記有機溶媒には、アセトニトリルを使用した場合は12g/l、アセトンでは8g/l、ブタノールでは120g/l、フェニルホウ酸を添加している。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度の結果について、アセトンについては図10に、アセトニトリルについては図11に、ブタノールについては図12に夫々示す。
【0043】
図10、図11、図12に示す通り、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加したネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度が、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加しないネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度よりも高いことがわかる。
以上より、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、有機溶媒に溶解するネオアガロテトラオース(4糖)がより多く溶解されるため、寒天オリゴ糖の精製効率が上がることがわかる。
【0044】
(精製後の寒天オリゴ糖の純度の比較)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が0〜20%含有された有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。得られた寒天オリゴ糖の乾燥粉末の重量を測定した。
その後、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
測定された重量を100%とし、液体クロマトグラフィの結果から得られたネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)の濃度から純度を算出した。
結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、アセトンに水分が5%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が精製前約26%から精製後約86%、水分が10%含有されている場合、精製後57%となった。また、アセトニトリルに水分が20%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が約60%、ブタノールに水分が10%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が62%となった。
以上より、何れの場合も、精製前の純度26%から約2倍以上高い純度でのネオアガロテトラオース(4糖)の精製が一回の有機溶媒による抽出で可能となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る寒天オリゴ糖の精製方法は、4糖、6糖が混在した寒天オリゴ糖から、ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを分離するのに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】寒天をβ−アガラーゼによって分解し寒天オリゴ糖を生産した後、精製前のクロマトグラムである。
【図2】寒天をβ−アガラーゼによって分解し寒天オリゴ糖を生産した後、有機溶媒としてアセトニトリルを使用し、本発明にかかる精製を行った後のクロマトグラムである。
【図3】各有機溶媒における水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図4】メタノール、エタノール、アセトニトリルにおける塩化ナトリウムの添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図5】アセトンに水分を夫々10%、15%、20%含有させた有機溶媒における塩化ナトリウムの添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図6】アセトンとアセトニトリルにおけるフェニルホウ酸の添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図7】ブタノールにおけるフェニルホウ酸の添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図8】アセトンとアセトニトリルにおけるフェニルホウ酸の添加量と、有機溶媒中の糖濃度との関係を表した図である。
【図9】ブタノールにおけるフェニルホウ酸の添加量と、有機溶媒中の糖濃度との関係を表した図である。
【図10】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のアセトンにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【図11】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のアセトニトリルにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【図12】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のブタノールにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒天由来のオリゴ糖を分離精製する方法に関するものであって、より詳しくは、β−アガラーゼを使用して生産された寒天オリゴ糖からネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを効率的に分離精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するヘテロ多糖類が多く知られている。この内、海藻由来のものとしては寒天、カラギーナン、アルギン酸などが知られており、増粘剤やゲル化剤として特に食品や化粧品の素材として広く利用されている。
寒天の主成分であるアガロースから得られる寒天オリゴ糖には、2糖、4糖、6糖等が混在している。近年、これらの寒天オリゴ糖には、抗炎症作用、ガン抑制機能や抗酸化作用、皮膚の美白・保湿効果など優れた生理活性が存在することが報告されている。
【0003】
寒天オリゴ糖の生産方法として、寒天を酸によって化学的に加水分解を行う方法や、寒天を市販のアガラーゼを用いて分解し、生産する方法が知られている。アガラーゼはα−アガラーゼとβアガラーゼに分類され、分解様式が夫々異なる。α−アガラーゼはアガロース中のα−1,3結合を切断し、アガロオリゴ糖を生産する。一方、β−アガラーゼは、β−1,4結合を切断し、ネオアガロオリゴ糖を生産する。
【0004】
しかし、何れの方法によって寒天オリゴ糖が得られたとしても、単糖を含めて複数の糖の混合物(6糖、4糖、2糖類)が調製される結果となり、単一の寒天オリゴ糖を大量生産することは不可能であった。これまで、2糖、4糖、6糖等の個々の寒天オリゴ糖の物理的、生理化学的特性については研究されていない。単一の寒天オリゴ糖を得ることができれば、2糖、4糖、6糖夫々について生理化学的特性について評価を行うことができ、上述した優れた生理活性が2糖、4等、6糖の何れに存在するのかを特定することができる。
【0005】
単一の寒天オリゴ糖を得るためには、クロマト分画などを用いた単離・精製の工程を行うことが考えられる。しかし、クロマト分画の工程は、極めて煩雑なものであって、簡易に大量生産をすることができないという問題が生じている。2糖、4糖、6糖夫々について生理化学的特性について評価するためには、夫々の単一の寒天オリゴ糖が大量に必要となり、より簡易な精製方法が開発されることが望まれている。
【0006】
単一の寒天オリゴ糖を得る方法として、特許文献1には、セルビプリオ属に属する新規微生物に寒天を分解させてネオアガロビオース(2糖)を生産し、さらに硫酸アンモニウム若しくは塩化アンモニウム処理を施してネオアガロビオース(2糖)を単糖に分解する酵素の活性を選択的に低下させることにより、単一の寒天オリゴ糖としてネオアガロビオース(2糖)のみを生産することを可能とする方法が提案されている。
この方法により、寒天を分解して得られる寒天オリゴ糖のうち、2糖であるネオアガロビオースのみを生産することが可能となっている。
【0007】
しかしながら、この方法では、他の寒天オリゴ糖であるネオアガロテトラオース(4糖)若しくはネオアガロヘキサオース(6糖)を単一のオリゴ糖として生産することはできない。ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを効率よく分離することができれば、ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)夫々ついて生理化学的特性について評価することができ、生理生化学的特性評価に応じた夫々の単一のオリゴ糖として大量生産することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−311812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、β−アガラーゼによる寒天オリゴ糖の生産において、生産された寒天オリゴ糖からネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを簡単に分離精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、寒天をβ−アガラーゼによって分解することによって生産されたオリゴ糖を、水分が含有された有機溶媒に溶解させることによって4糖であるネオアガロテトラオースを選択的に抽出することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
請求項1に係る発明は、基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記β−アガラーゼが、β−アガラーゼIであることを特徴とする請求項1に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記有機溶媒が、アセトン又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1または2に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記有機溶媒に、さらに塩化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、有機溶媒に水分が含有されることから、寒天分解酵素としてβ−アガラーゼを使用して生産された寒天オリゴ糖を有機溶媒に溶解させることができる。寒天オリゴ糖を、有機溶媒に溶解させることから、ネオアガロヘキサオース(6糖)よりもネオアガロテトラオース(4糖)の方が有機溶媒に溶解しやすいため、有機溶媒中にネオアガロテトラオース(4糖)を選択的に溶解させることができる。ネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に溶解された有機溶媒を乾燥させることにより、ネオアガロテトラオース(4糖)を精製することができる。また、有機溶媒に溶解しなかった残渣からネオアガロヘキサオース(6糖)を得ることができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、前記β−アガラーゼがβ−アガラーゼIであることから、寒天を基質として使用するため、主にネオアガロテトラオース(4糖)を生産することができ、ネオアガロビオース(2糖)の生産を少なくすることができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、前記有機溶媒がアセトン又はアセトニトリルであることから、有機溶媒中にネオアガロヘキサオース(6糖)に対してネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に溶解させることができ、有機溶媒に溶解しなかった残渣には、より多くのネオアガロヘキサオース(6糖)を残存させることができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、前記有機溶媒にさらに塩化ナトリウムを添加することから、有機溶媒中にネオアガロヘキサオース(6糖)に対してネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に溶解させることができ、有機溶媒に溶解しなかった残渣には、より多くのネオアガロヘキサオース(6糖)を残存させることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することから、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を維持しつつ、有機溶媒中に溶解する糖濃度を上昇させることができ、より効率的にネオアガロテトラオース(4糖)を分離精製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法は、寒天を基質とし、寒天分解酵素としてβ−アガラーゼを使用することにより寒天を分解し、生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法である。分解、生産された当該オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させることよってネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に有機溶媒に溶解し、当該有機溶媒を減圧乾燥させることにより、ネオアガロテトラオース(4糖)を選択的に得ることができる。また、有機溶媒溶解後の残渣物からネオアガロヘキサオース(6糖)を得ることができる。
【0022】
寒天は、ガラクトースを基本骨格とする多糖類であって、中性のゲル化能に富むアガロースとイオン性のゲル化能を持たないアガロペクチンとからなる。本発明では、テングサ、オゴノリ、オバクサ、イタニグサ等を原料とした寒天を使用することができる。一般に市販されている寒天を使用することができ、粉末状、フレーク状、固形状、角寒天、糸寒天等、その他種々の形状ものを使用することができる。
【0023】
本発明において寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼは、β−1,4結合を切断し、ネオアガロオリゴ糖を生産する。βアガラーゼにはβ−アガラーゼIとIIがあり、双方使用することが可能であるが、βアガラーゼIを使用することが好ましい。β−アガラーゼIIは寒天を基質とした場合、主としてネオアガロビオース(2糖)が得られ、ネオアガロテトラオース(4糖)は少量しか得られないが、β−アガラーゼIは寒天を基質とした場合、主としてネオアガロテトラオース(4糖)を得ることができ、ネオアガロビオース(2糖)は少量しか得られないからである。本発明においては、Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼIを使用することができる。
【0024】
本発明で使用可能な有機溶媒としては、鎖式炭化水素、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、含窒素化合物類、芳香族炭化水素等が挙げられる。本発明においては、溶媒の回収再利用も考慮して揮発性がある程度高い溶媒を用いることが好ましく、例えばアセトン、アセトニトリル、ブタノール、2メチル2ブタノールが好ましく用いられる。さらには、アセトン、アセトニトリルを使用することがより好ましい。寒天をβ−アガラーゼによって分解して得られた寒天オリゴ糖を、アセトンとアセトニトリルに溶解させることよってネオアガロテトラオース(4糖)がより選択的に有機溶媒に溶解され抽出することができるからである。
【0025】
有機溶媒には糖類がほとんど溶解しないため、本発明においては、寒天オリゴ糖を溶解させるために水分が含有される。水分の含有量は、特に限定はされないが、溶媒の全体積のうち、1%〜20%程度が水分となるように含有されるのが好ましい。最適な水分量は、各有機溶媒によって異なる。例えば、有機溶媒としてアセトンを選択した場合は5%の水分の含有が、アセトニトリルを使用した場合は、10%の水分の含有が最適となっている。
【0026】
前記有機溶媒には、さらに塩化ナトリウムが添加されるのが好ましい。塩化ナトリウムを添加すると溶液の親水性が上昇し、寒天オリゴ糖に配位する水分が減少するため、ネオアガロテトラオース(4糖)より親水性の高いネオアガロヘキサオース(6糖)が有機溶媒中に溶解しにくくなり、ネオアガロテトラオース(4糖)がより選択的に有機溶媒に溶解するからである。
添加される塩化ナトリウムの量は、特に限定はされないが、0.1〜5g/lが好ましい。
【0027】
前記有機溶媒には、さらにフェニルホウ酸が添加されるのが好ましい。オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させることよって、ネオアガロテトラオース(4糖)がネオアガロヘキサオース(6糖)より選択的に有機溶媒に溶解する。フェニルホウ酸を有機溶媒中に添加すると、ネオアガロテトラオース(4糖)が有機溶媒にネオアガロヘキサオース(6糖)より選択的に溶解する割合がフェニルホウ酸の添加前と添加後とで変更されることなく、且つ、有機溶媒に溶解する寒天オリゴ糖の糖濃度が上昇するため、より効率よくネオアガロテトラオース(4糖)を抽出することができるからである。
有機溶媒に添加されるフェニルホウ酸の添加量は、特に限定はされないが、5g〜200g/lが好ましい。最適なフェニルホウ酸の添加量は選択した有機溶媒により夫々異なる。例えば、有機溶媒としてアセトニトリルを使用した場合は12g/l、アセトンを使用した場合は8g/l、ブタノールを使用した場合は120g/lである。
【0028】
本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法を複数回行うことにより、有機溶媒に溶解されたネオアガロテトラオース(4糖)をより選択的に得ることができ、より純度の高いネオアガロテトラオース(4糖)を得ることができる。同時に、有機溶媒に溶解後の残渣についても、本発明に係る寒天オリゴ糖の分離精製方法を複数回行うことにより、さらに有機溶媒からは残渣に残存したネオアガロテトラオース(4糖)が抽出され、残渣にはネオアガロヘキサオース(6糖)が残存するため、残渣のネオアガロヘキサオース(6糖)の純度を高めることができる。また、複数回分離精製を行うごとに、有機溶媒の種類を変更してもよい。例えば、1回目の精製時に有機溶媒としてブタノールを使用し、2回目の精製時にはアセトンを、3回目の精製時にはアセトニトリルを使用することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示すことにより、本発明を明確に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0030】
(酵素液の調製)
寒天分解酵素は、Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼ(Sigma社製)を精製せずに使用した。20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)に71.4U/mlの濃度になるように酵素液を調製し、エッペンドルフチューブに1mlずつ分注し、−20℃で冷凍保存した。冷凍保存したものをその都度解凍を行い使用した。
【0031】
(寒天オリゴ糖の調製)
粉末アガロース(和光純薬社製)15mgと酵素液100μlを20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)900μlに加えた。25℃で240時間反応後、未反応の粉末アガロースを遠心分離機(10,000rpm、5分間、4℃)により取り除き、上清液を100℃、5分間煮沸することで酵素反応を停止した。
この上清液中の溶解した寒天オリゴ糖の定量分析を液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて行った。
結果を図1に示す。
【0032】
図1の通り、ネオアガロヘキサオース(6糖)は9.6分、ネオアガロテトラオース(4糖)は10.3分の位置にピークが現れている。11.5分の位置に現れている小さいピークは、ネオアガロビオース(2糖)である。
ネオアガロヘキサオース(6糖)の生産量は1.8g/l、ネオアガロテトラオース(4糖)の生産量は2.69g/lである。従って、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の生成比は、1:1.5となっている。
Pseudomonas atlantica由来のβ−アガラーゼIを使用していることから、ネオアガロテトラオース(4糖)の生産量が多く、ネオアガロビオース(2糖)の生産量が少なくなっている。
【0033】
(寒天オリゴ糖の分離)
上記上清液(寒天オリゴ糖溶液)を凍結乾燥機(島津製作所社製)を用いて凍結乾燥させ水を含む溶媒を取り除いた。乾燥後、乳鉢を用いて摩砕した。得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が20%含有された有機溶媒(アセトニトリル)1mlに溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物(残渣)を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解した。その後、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
結果を図2に示す。
【0034】
図2の通り、ネオアガロヘキサオース(6糖)は9.54分、ネオアガロテトラオース(4糖)は10.27分の位置にピークが現れている。図1と比較して図2では、ネオアガロヘキサオース(6糖)のピークが、ネオアガロテトラオース(4糖)のピークよりもかなり低くなっていることがわかる。
図1では、精製前のネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の比率は1:1.5であった。一方、図2では、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の比率は、1:5.1となっている。これにより、精製前よりもネオアガロテトラオース(4糖)の濃度が増加していることがわかる。
従って、本発明による寒天オリゴ糖の生成方法によって、ネオアガロテトラオース(4糖)が選択的に有機溶媒に溶解していることがわかる。
【0035】
(添加水分量の調整)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が夫々0、5、10、15、20%含有された有機溶媒(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、アセトン、2メチル2ブタノール)1mlに夫々溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物(残渣)を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行い、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を算出した。
結果を図3に示す。
【0036】
図1に示される通り、精製前の濃度比は、ネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:1.5であった。これに対して、図3では、アセトン、アセトニトリル、ブタノール、2メチル2ブタノール夫々に水分5〜20%含有させた場合、精製後の濃度比が大幅に変化し、ネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:4.5〜1:17であった。これにより、ネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が精製後に大幅に増加しているのがわかる。また、水分の含有濃度によって、6糖と4糖の濃度比が変化していることから、有機溶媒中の水分の含有量によってネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を制御することができることがわかる。
一方、メタノール、エタノール、プロパノールについては、水分の含有量を増減させたとしてもネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比の増減は少ないことがわかる。
【0037】
(塩化ナトリウムの添加)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、塩化ナトリウムを0、1、2、3、4、5g/lを夫々添加した有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン)1mlに夫々溶解させた。前記有機溶媒には、メタノールとエタノールについては蒸留水が含有されておらず、アセトニトリルについては蒸留水を20%含有させ、アセトンについては蒸留水を夫々10、15、20%含有させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。その後、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比を算出した。
メタノール、エタノール、アセトニトリルの結果について図4に、アセトンの結果については図5に示す。
【0038】
アセトンに水分が15%含有されている場合、図3によれば濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:2であった。これに対して、図4に示されるように、塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:6に上昇した。
アセトンに水分が10%含有されている場合、濃度比は図3に示されるようにネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:7であった。これに対して、図5に示されるように、さらに塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:12へと上昇した。
アセトニトリルに水分が20%含有されている場合、濃度比は図3に示されるようにネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:5であった。これに対して、図4に示されるように塩化ナトリウム5g/lを添加した場合は、濃度比はネオアガロヘキサオース(6糖):ネオアガロテトラオース(4糖)=1:9へと上昇した。
従って、有機溶媒に塩化ナトリウムを添加することにより、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が上昇し、ネオアガロテトラオース(4糖)の選択性がより上昇することがわかる。
【0039】
(最適フェニルホウ酸添加量の決定)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、フェニルホウ酸を0〜200g/l夫々添加した有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。前記有機溶媒には、蒸留水は含有させなかった。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比の結果について、アセトンとアセトニトリルについては図6に、ブタノールについては図7に示す。有機溶媒中の糖濃度の変化について、アセトンとアセトニトリルについては図8に、ブタノールについては図9に示す。
【0040】
図6、図7に示される通り、アセトン、アセトニトリル、ブタノールではフェニルホウ酸の濃度を増加してもネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比が変化せず、一定であることがわかる。
従って、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加したとしても、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比は変動しないことがわかる。
【0041】
図8、図9に示される通り、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、溶媒中の糖濃度が増加するのがわかる。糖濃度は、アセトニトリルを使用した場合、フェニルホウ酸濃度12g/l、アセトンでは8g/l、ブタノールでは120g/l以上で一定となっており、これら各濃度が夫々の有機溶媒においての最適フェニルホウ酸の添加量であることがわかる。
従って、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、有機溶媒中の糖濃度が増加し、最適フェニルホウ酸濃度は、選択する有機溶媒によって異なることがわかる。
【0042】
(フェニルホウ酸を添加した場合の水分の影響)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水を0、5、10、15、20%夫々含有された有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。前記有機溶媒には、アセトニトリルを使用した場合は12g/l、アセトンでは8g/l、ブタノールでは120g/l、フェニルホウ酸を添加している。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。
精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度の結果について、アセトンについては図10に、アセトニトリルについては図11に、ブタノールについては図12に夫々示す。
【0043】
図10、図11、図12に示す通り、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加したネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度が、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加しないネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度よりも高いことがわかる。
以上より、有機溶媒にフェニルホウ酸を添加すると、有機溶媒に溶解するネオアガロテトラオース(4糖)がより多く溶解されるため、寒天オリゴ糖の精製効率が上がることがわかる。
【0044】
(精製後の寒天オリゴ糖の純度の比較)
上記得られた寒天オリゴ糖粉末を所定量採取し、蒸留水が0〜20%含有された有機溶媒(アセトン、アセトニトリル、ブタノール)1mlに溶解させた。所定温度(25℃)で3時間振とうした後、未溶解の固形物を遠心分離機(10,000rpm、5分間)により取り除いた。上清液を試験管エバポレータにて減圧乾燥し、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末が得られた。得られた寒天オリゴ糖の乾燥粉末の重量を測定した。
その後、精製された寒天オリゴ糖の乾燥粉末を採取した上清液と同量の蒸留水に溶解し、液体クロマトグラフィ(D−7000、日立製作所社製)、カラム(Sugar KS−802、Shodex社製)を用い、カラム温度は50℃、流速0.8ml/分、移動相は蒸留水とし、検出器(refractive index detector、日立製作所社製L−7490)を用いて寒天オリゴ糖の定量分析を行った。
測定された重量を100%とし、液体クロマトグラフィの結果から得られたネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)の濃度から純度を算出した。
結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、アセトンに水分が5%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が精製前約26%から精製後約86%、水分が10%含有されている場合、精製後57%となった。また、アセトニトリルに水分が20%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が約60%、ブタノールに水分が10%含有されている場合、ネオアガロテトラオース(4糖)の純度が62%となった。
以上より、何れの場合も、精製前の純度26%から約2倍以上高い純度でのネオアガロテトラオース(4糖)の精製が一回の有機溶媒による抽出で可能となっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る寒天オリゴ糖の精製方法は、4糖、6糖が混在した寒天オリゴ糖から、ネオアガロテトラオース(4糖)とネオアガロヘキサオース(6糖)とを分離するのに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】寒天をβ−アガラーゼによって分解し寒天オリゴ糖を生産した後、精製前のクロマトグラムである。
【図2】寒天をβ−アガラーゼによって分解し寒天オリゴ糖を生産した後、有機溶媒としてアセトニトリルを使用し、本発明にかかる精製を行った後のクロマトグラムである。
【図3】各有機溶媒における水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図4】メタノール、エタノール、アセトニトリルにおける塩化ナトリウムの添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図5】アセトンに水分を夫々10%、15%、20%含有させた有機溶媒における塩化ナトリウムの添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図6】アセトンとアセトニトリルにおけるフェニルホウ酸の添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図7】ブタノールにおけるフェニルホウ酸の添加量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)に対するネオアガロテトラオース(4糖)の濃度比との関係を表した図である。
【図8】アセトンとアセトニトリルにおけるフェニルホウ酸の添加量と、有機溶媒中の糖濃度との関係を表した図である。
【図9】ブタノールにおけるフェニルホウ酸の添加量と、有機溶媒中の糖濃度との関係を表した図である。
【図10】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のアセトンにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【図11】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のアセトニトリルにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【図12】フェニルホウ酸を添加した場合としなかった場合のブタノールにおける水分含有量と、ネオアガロヘキサオース(6糖)とネオアガロテトラオース(4糖)の溶解度との関係を表した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、
前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項2】
前記β−アガラーゼが、β−アガラーゼIであることを特徴とする請求項1に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、アセトン又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1または2に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項4】
前記有機溶媒に、さらに塩化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項5】
前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項1】
基質として使用される寒天に、寒天分解酵素として使用されるβ−アガラーゼを添加して生産された寒天オリゴ糖を分離精製する方法であって、
前記寒天オリゴ糖を水分が含有された有機溶媒に溶解させ、残渣を分離した後、前記有機溶媒を乾燥させることによってネオアガロテトラオースを選択的に分離、精製することを特徴とする寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項2】
前記β−アガラーゼが、β−アガラーゼIであることを特徴とする請求項1に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、アセトン又はアセトニトリルであることを特徴とする請求項1または2に記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項4】
前記有機溶媒に、さらに塩化ナトリウムを添加することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【請求項5】
前記有機溶媒に、さらにフェニルホウ酸を添加することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の寒天オリゴ糖の分離精製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−153490(P2009−153490A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337911(P2007−337911)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月2日 社団法人 日本生物工学会発行の「第59回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月2日 社団法人 日本生物工学会発行の「第59回日本生物工学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【Fターム(参考)】
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