説明

対象物表面の消毒方法及びその消毒方法に用いる消毒薬袋

【課題】開封操作が容易で、かつ消毒薬担持体を指でつかんで使用する必要のない非接触タイプの対象物表面の消毒方法を提供すること。
【解決手段】袋体12と袋体12内に気密に封入された消毒薬担持体14とを有する消毒薬袋10を準備すること、消毒薬袋10の袋体12を開封して消毒薬担持体14を露出させること、および露出した消毒薬担持体14を対象物表面に接触させること、を包含する対象物表面の消毒方法である。袋体12は、表面側フィルム16と裏面側フィルム18とで構成されこれらの周囲がシールされる。表面側フィルム16の端部に延出片16aが形成される。延出片16aに引裂部22が形成される。開口部24を通して消毒薬担持体14が露出し袋体12に保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に医療用器具などの対象物表面の消毒方法及びその消毒方法に用いる消毒薬袋に関し、詳しくは、三方コックなどの医療用器具の表面を消毒する際に、使用者が消毒薬に接触することがなく容易に消毒できる対象物に対する非接触タイプの消毒方法及びその消毒方法に用いる消毒薬袋に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用器具などを消毒する際に、脱脂綿などに消毒用エタノールを含浸した消毒綿が使用されている。そして、この消毒綿に含浸されたエタノールの蒸発を抑えるために、消毒綿をパッケージした消毒綿用容器が従来より提案されている。
【0003】
例えば、特開平2004−182290号公報(特許文献1)には、複数の消毒綿を開口部を有する容器内に収容し、該開口部を留め具により密封した袋詰め消毒綿が提案されている。しかし、この公報に開示された袋詰め消毒綿では、留め具により開口部の開閉操作をするために不便であり、また複数の消毒綿を収容しているためにサイズが大型となり携帯にも不便である。
【0004】
一枚の消毒綿がパッケージされた携帯に便利である消毒薬袋が、特開平7−116072号公報(特許文献2)に開示され、また市販もされている。
【0005】
この消毒薬袋40は、図7に示すように、2枚のフィルムを重ねてその周囲が熱融着によりシールされて形成された袋体41と、この袋体41内に封入された消毒薬を担持体に含浸させた消毒薬担持体42とを有する。該消毒薬袋42の周囲にはシール部43が設けられている。該シール部43の縁部には、切り裂き用の切れ目44が形成されている。
【0006】
消毒薬袋40を使用する際には、切れ目44の両側のシール部43の縁部を両手で持って袋を引き裂く。切れ目44から袋42は開封して内部の消毒薬担持体42の一部が露出するので、消毒薬担持体42の一部を指又はピンセットなどでつかんで袋体41から取り出し、医療用器具などの対象物表面に接触させることにより対象物を消毒する。
【0007】
しかし、この消毒薬袋では、切り目44から開封する際に比較的大きい力を必要とするため開封操作が難しい。袋体から消毒薬担持体をピンセットや指で取り出して使用するので、消毒の操作が不便である。さらに、その消毒操作の際に、指に消毒薬が付着するおそれがある。そのため、殺菌力が強い消毒薬を使用する場合では、皮膚に刺激を受けたり、皮膚荒れを生じるおそれがある。
【特許文献1】特開平2004−182290号公報
【特許文献2】特開平7−116072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、開封操作が容易である対象物表面の消毒方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の他の目的は、消毒薬担持体を指やピンセットでつかんで使用する必要のない非接触タイプの対象物表面の消毒方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、上記対象物表面の消毒方法に用いる消毒薬袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象物表面の消毒方法は、袋体と該袋体内に気密に封入された消毒薬担持体とを有する消毒薬袋を準備すること、
該消毒薬袋の該袋体を開封して該消毒薬担持体を露出させること、および
手で該消毒薬担持体に触れることなく該露出した消毒薬担持体を対象物表面に接触させること、を包含する対象物表面の消毒方法であって、
該袋体は、重ねられた表面側フィルムと裏面側フィルムとで構成されそれらの周囲の開放端部は互いに気密状にシール(結合)され、
該消毒薬担持体は、消毒薬とこの消毒薬を含浸したシート状の担持体とを有し、
該表面側フィルムの端部が該シール部から外側へ延出されて延出片が形成され、この延出片に所定幅をおいて2つの引裂部が形成され、該消毒薬袋の使用時には、2つの引裂部間に形成された延出片の掴み部を該引裂部から引き裂くことにより該表面側フィルムの一部が引き裂かれて袋体の表面側に開口部が形成され、該開口部を通して該消毒薬担持体の中央部が露出し、該消毒薬担持体の両端部が、袋体に残った表面側フィルムの側部と裏面側フィルムとによって保持されている。
【0012】
一つの実施形態では、前記表面側フィルムおよび裏面側フィルムが軟質フィルムで形成され、前記開口部から消毒薬担持体を露出させて消毒を行う際に、袋体の裏面側フィルムを指で押すことにより袋体を変形させて、消毒薬担持体の表面が表面側フィルムの側部表面より外側に位置させる。
【0013】
一つの実施形態では、前記表面側フィルムが一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記引裂部の引き裂き方向と該延伸フィルムの引き裂き方向とが実質的に一致する。
【0014】
一つの実施形態では、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なる。
【0015】
一つの実施形態では、前記裏面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記表面側フィルムの引き裂き方向と該裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交し、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なり、表面側フィルムの延出片に形成された2つの引裂部の位置において、裏面側フィルムの延出片に2つの引裂部が形成されている。
【0016】
一つの実施形態では、前記開口部が表面側フィルムの幅方向の中央部に形成され、該開口部の幅寸法が袋体の幅寸法の0.4〜0.8倍である。
【0017】
一つの実施形態では、前記担持体が脱脂綿又は不織布よりなり、前記消毒薬がイソプロパノール又はエタノールを含有する。
【0018】
一つの実施形態では、一枚の矩形状フィルムを折り重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの3方の開放端部がシールされている。
【0019】
一つの実施形態では、二枚の矩形状フィルムを重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの4方の開放端部がシールされている。
【0020】
一つの実施形態では、前記消毒薬袋が使い捨てであって、前記袋体に封入されている前記消毒薬担持体の量が、1回の消毒に適切な量であり、前記対象物表面の消毒を行った後に、前記使用済みの消毒薬担持体および袋体を廃棄する。
【0021】
一つの実施形態では、前記袋体に封入されている前記シート状担持体の枚数が1枚であり、そのシート状担持体が一重又は二つ折りにされた2重である。
【0022】
本発明の消毒薬袋は、袋体と該袋体内に気密に封入された消毒薬担持体とを有する消毒薬袋であって、
該袋体は、重ねられた表面側フィルムと裏面側フィルムとで構成されそれらの周囲の開放端部は互いに気密状にシール(結合)され、
該消毒薬担持体は、消毒薬をシート状の担持体に含浸して構成され、該消毒薬袋の保管時には該消毒薬が該袋体内に密封され、
該表面側フィルムの端部が該シール部から外側へ延出されて延出片が形成され、この延出片に所定幅をおいて2つの引裂部が形成され、該消毒薬袋の使用時には、2つの引裂部間に形成された延出片の掴み部を該引裂部から引き裂くことにより該表面側フィルムの幅方向中央部が引き裂かれて袋体の表面側に開口部が形成され、該開口部を通して該消毒薬担持体の中央部が露出し、該消毒薬担持体の両端部が、袋体に残った表面側フィルムの側部と裏面側フィルムとによって保持されており、
該袋体を指でつかんで持ち上げ、手で該消毒薬担持体に触れることなく該露出した消毒薬担持体を対象物表面に接触させて対象物表面を消毒することが可能である。
【0023】
一つの実施形態では、前記表面側フィルムおよび裏面側フィルムが軟質であって、前記開口部から消毒薬担持体を露出させて消毒を行う際に、袋体の裏面側フィルムを指で押すことにより、袋体を変形させて、消毒薬担持体の表面が、表面側フィルムの側部表面より外側に位置するように変形させることが可能である。
【0024】
一つの実施形態では、前記表面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記引裂部の引き裂き方向と該延伸フィルムの引き裂き方向とが実質的に一致する。
【0025】
一つの実施形態では、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なる。
【0026】
一つの実施形態では、前記裏面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記表面側フィルムの引き裂き方向と該裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交し、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なり、表面側フィルムの延出片に形成された2つの引裂部の位置において、裏面側フィルムの延出片に2つの引裂部が形成されている。
【0027】
一つの実施形態では、前記開口部が表面側フィルムの幅方向の中央部に形成され、該開口部の幅寸法が、袋体の幅寸法の0.4〜0.8倍である。
【0028】
一つの実施形態では、前記担持体が脱脂綿又は不織布よりなり、前記消毒薬がイソプロパノール又はエタノールを含有する。
【0029】
一つの実施形態では、一枚の矩形状フィルムを折り重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの3方の開放端部がシールされている。
【0030】
一つの実施形態では、二枚の矩形状フィルムを重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの4方の開放端部がシールされている。
【0031】
一つの実施形態では、前記袋体に封入されている前記消毒薬担持体の量が、1回の消毒に適切な量であり、前記対象物表面の消毒を行った後に、前記使用済みの消毒薬担持体および袋体を廃棄することにより使い捨てとされる。
【0032】
一つの実施形態では、前記袋体に封入されている前記シート状担持体の枚数が1枚であり、そのシート状担持体が一重又は二つ折りにされた2重である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の対象物表面の消毒方法によれば、2つの引裂部間に形成された延出片の掴み部を該引裂部から引き裂くことにより表面側フィルムの一部が引き裂かれて袋体の表面側に開口部が形成され、その開口部を通して消毒薬担持体が露出し、該消毒薬担持体の両端部が、袋体に残った表面側フィルムの側部と裏面側フィルムとによって保持される。
【0034】
このように、消毒薬袋を使用する際には、引裂部を引き裂くだけで表面側フィルムの一部が切り裂かれて開口部が形成されるので、操作が容易である。
【0035】
特に、その引裂部の方向と表面側フィルムの引裂方向とを一致させることにより、引裂部の引き裂きに連続して表面側フィルムが切り裂かれる。
【0036】
消毒薬袋は、開口部から露出された状態で袋体に保持されるので、袋体を手でもった状態で対象物表面を消毒することができる。従って、消毒薬に手指が触れることがない。
【0037】
表面側フィルムおよび裏面側フィルムは共に可撓性を有しているので、袋体を指で摘んで変形でき、小さい対象物表面に沿って袋体を変形させその対象物表面の消毒を行うことができる。特に、消毒薬担持体はフィルム厚みに比べて厚いので、開口部から消毒薬担持体を露出させると、消毒薬担持体の表面が表面側フィルムより外側へ突出する状態となる。よって、消毒薬担持体表面を対象物表面に容易に接触させることができる。
【0038】
フィルムの掴み部を切り裂いた後は、その掴み部が袋体に接続していると、掴み部が袋体から切り離されて医療用器具内に紛れることがない。または掴み部を袋体から分離できるようにしてもよく、この場合には切れ端が消毒の邪魔になることがない。
【0039】
袋体に封入されている消毒薬担持体の量が1回の消毒に適切な量であり、対象物表面の消毒を行った後に使用済みの消毒薬担持体および袋体を廃棄するようにすることにより、消毒薬袋のサイズが小さくなる。従って、衣類のポケットなど入れておくことができて便利に使用できる。
【0040】
また、裏面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、表面側フィルムの引き裂き方向と裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交し、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なり、表面側フィルムの延出片に形成された2つの引裂部の位置において、裏面側フィルムの延出片に2つの引裂部が形成されていることにより、消毒薬袋の製造工程が簡略化でき、その製造コストを低減できると共に、表面側フィルムのみを容易に切り裂くことが可能になる。
【0041】
すなわち、消毒薬袋の袋体を製造するには、表面側フィルムと裏面側フィルムとを重ね合わせ、周縁部をシールした後に、両フィルムの延出片に引裂部を機械加工などによって同時に形成できるので、表面側フィルムの延出片だけに引裂部を形成する場合に比べて、製造工程が簡略化できる。
【0042】
また、表面側フィルムの引き裂き方向と裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交していることにより、表面側フィルムの引き裂き方向において裏面側フィルムは引き裂き難いので、表面側フィルムを切り裂く際に、裏面側フィルムが同時に切り裂かれることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の実施形態を図面について説明する。
【0044】
図1〜図4に示すように、本発明の消毒薬袋10は、袋体12と、該袋体12内に気密に封入された消毒薬担持体とを有する。
【0045】
該袋体12は、表面側フィルム16と裏面側フィルム18とを重ねてそれらの周囲の開放端部をシールして気密に形成されている。この実施形態では、一枚の矩形状フィルムを折り返して重ね、正方形又は長方形の表面側フィルム16と裏面側フィルム18の周囲の3方を加熱によりシールして袋体12が形成されている。また、別の実施形態では、二枚の矩形状フィルムを重ね、正方形又は長方形の表面側フィルム16と裏面側フィルム18の周囲の4方を加熱によりシールして袋体12が形成されている。
【0046】
袋体12の平面形状は、四角形、長方形、円形、楕円形など用途に応じて適宜変更することができる。また、周囲のシールは、一枚のフィルムを折り返した開放端部側をシールしてもよいし、二枚のフィルムを重ねて全周をシールしてもよい。本発明でシールとは、フィルムの内層を形成した熱融着性樹脂の熱融着によって行ってもよく、あるいは接着剤を用いて行ってもよい。
【0047】
表面側フィルム16および裏面側フィルム18に使用するフィルムとしては、以下の構成を有する積層体を使用することができる。
【0048】
図5に示すように、フィルムの外側から順に、外層30、第1の接着剤層31、アルミニウム層32、第2の接着剤層33、切り裂き方向に方向性を有する延伸樹脂層34、第3の接着剤層35および加熱シール層(内層)36が積層された積層体である。
【0049】
外層30としては、ポリエチレンテレフタレートからなる厚みが12μmのフィルムで形成することができる。
【0050】
第1の接着剤層31としては、従来より公知のドライラミネートで形成することができ、外層30とアルミニウム層32とを接着させる。このドライラミネートは、通常ポリエチレンなどを含有する。
【0051】
アルミニウム層32としては、厚みが7μmのアルミニウムフィルムで形成することができる。
【0052】
第2の接着剤層33としては、第1の接着剤層31と同様に、ドライラミネートで形成することができ、アルミニウム層32と延伸樹脂層34とを接着させる。
【0053】
切り裂き方向に方向性を有する延伸樹脂層34としては、切り裂き方向性のある厚みが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムで形成することができる。
【0054】
第3の接着剤層35としては、第1の接着剤層31と同様に、ドライラミネートで形成することができ、上記方向性を有する延伸樹脂層34と加熱シール層36とを接着させる。
【0055】
加熱シール層36としては、剥がしやすい厚さが30μmのフィルムで形成することができる。この加熱シール層36が、袋体12の最内層となる。
【0056】
加熱シール層36は、従来より公知のポリエチレンなどで形成することができる。
【0057】
なお、裏面側フィルム18は、上記構成の積層体以外に、引き裂き方向性のない(つまり、引き裂き難い)フィルムを使用することもできる。このように構成することにより、表面側フィルム16を引き裂いたときに、表面側フィルム16の引き裂き部位以外(および裏面側フィルム)は引き裂かれないようにすることができる。
【0058】
本発明で使用される消毒薬担持体14は、消毒薬を担持体に含浸したもので構成される。
【0059】
消毒薬としては、70容量%イソプロパノール(イソプロパノール68.0〜72.0容量%)、消毒用エタノール(エタノール76.9〜81.4容量%)を含有するものが好適に使用される。この消毒薬には、通常、0.02〜0.2重量%塩化ベンザルコニウム液、0.02〜0.5重量%グルコン酸クロルヘキシジン液、ポビドンヨード10重量%液、その他アルコール製剤が含有される。
【0060】
担持体としては、ガーゼ、脱脂綿、不織布が挙げられる。
【0061】
このような構成の消毒薬担持体14が、上記袋体12内に密封される。消毒薬担持体14は、一枚が一重で袋体12内に密封してもよく、あるいは一枚を二つ折にして2重で袋体12内に密封してもよい。
【0062】
図1〜図4に示すように、袋体12のシール部20の外側に表面側フィルム16および裏面側フィルム18がそれぞれ延出されて延出片16a、18aが形成されている。表面側フィルム16の延出片16aおよび裏面側フィルム18の延出片18aは互いに接着されていない。これらの延出片16a,18aは、フィルムを切り裂く際の指で摘む部分となっている。
【0063】
袋体12の表面側フィルム16の幅方向の中央部において、上記延出片16aに所定幅をおいて2つの引裂部22が形成されている。この引裂部22は表面側フィルムの縁部からシール部20に達していない。引裂部22の引裂方向は、上記延伸樹脂層34の延伸方向と実質的に一致している。上記延出片16aに形成された掴み部16bの幅寸法は、袋体12の幅寸法の0.4〜0.8倍とすることができる。好ましくは、掴み部16aの幅寸法は袋体12の幅寸法の約1/2である。引裂部22は、切り線、V字カット、スリット等であってもよい。
【0064】
この掴み部16bを指で掴んで引裂部22に沿って表面側フィルム16を引き裂くことにより、該引裂部22から袋体12の表面側フィルム16を容易に引き裂くことができる。表面側フィルム16を引き裂いた後、袋体12の中央部には開口部24が形成され、該開口部24の両側において、袋体12には表面側フィルム16よりなる側部26、26が残っている。そのため、消毒薬担持体14の中央部は開口部24から露出するが、消毒薬担持体14の両側部は、裏面側フィルム18と表面側フィルム16の側部26との間で挟まれた状態となり、消毒薬担持体14は袋体12に保持される。この開口部26の幅寸法は、袋体12の幅寸法の0.4〜0.8倍が好ましい。0.8倍より大きいと、消毒薬担持体14が袋体12に保持され難くなり、0.4倍より小さいと消毒薬担持体14の接触面積が小さくなりすぎる。
【0065】
袋体12の幅および縦寸法は、限定するものではないが、5〜6cm程度が使用に便利である。袋体12の厚み寸法は、実質的にその担持体の厚みであるが、1mm以下が好ましい。開口部26の幅寸法は2.5cm〜4.0cmが使用に便利である。
【0066】
なお、上記実施形態では、表面側フィルム16のみに引裂部22を形成するようにしたが、表面側フィルム16および裏面側フィルム18の延出片16a、18aにそれぞれ同じ位置において引裂部22を形成するように構成してもよい。この場合、裏面側フィルム18が一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、表面側フィルム16の引き裂き方向と裏面側フィルム18の引き裂き方向とが略直交するように配置され、裏面側フィルム18の端部がシール部より外側へ延出されて延出片16a、18aが形成され、表面側フィルム16の延出片と裏面側フィルム18の延出片16a,18aが接着しない状態で重なり、表面側フィルム16の延出片16aに形成された2つの引裂部22の位置において、裏面側フィルム18の延出片18aに2つの引裂部22が形成されている。
【0067】
本発明の消毒薬袋を製造するには、例えば、以下のように実施することができる。
【0068】
表面側フィルム16および裏面側フィルム18として、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムを使用し、表面側フィルム16と裏面側フィルム18の引き裂き方向(すなわち、フィルムの延伸方向)が略直交するように両フィルムを配置する。
【0069】
両フィルム16,18の間に、消毒薬担持体を配置し、重ねられた表面側フィルム16と裏面側フィルム18の周囲を気密状にシールする。その際、表裏面側フィルム16、18の端部に延出片16a,18aが形成されるようにする。この両延出片16a,18aに、所定幅をおいて2つの引裂部22を切断などの機械加工によって同時に形成する。ここで、引裂部22の引き裂き方向は表面側フィルム16の引き裂き方向と一致させるようにする。
【0070】
さらに具体的に説明すると、積層された両フィルム16,18のロールを一定幅でカットし、その後ラミネート溶着を行って袋状に加工する。
【0071】
このため、表面側フィルム16のみに引裂部22を設ける場合では、表面側フィルム16のロール状態、もしくは、表面側フィルム16をロール状態から裏面側フィルム18に重ね合わせる直前段階において、カットする必要がある。そのためにはロール部の形状が複雑になるか、もしくはロール状態にする前に、表面側フィルム16をカットする工程が必要となり、製造工程が複雑化し、かつ製造時間および費用がかさむ。
【0072】
これに対して、上記実施形態のように表裏面側フィルム18に同じ箇所で引裂部22を設ける場合では、引き裂き方向性を有する表面側フィルム16と裏面側フィルム18の重ね合わせ方向を実質上直交するように重ね合わせし、その後溶着して袋を成形する。その後、延出片16a,18aに引裂部22を設ける。
【0073】
その場合に、上下配置した表面側フィルム16のロール機構と裏面側フィルム18のロール機構をラミネート溶着装置の位置で略直交するように配置する。両フィルムの延出片はラミネート溶着されていない。
【0074】
このように実施することで、製造ラインにおけるロール回転機構部および表面側フィルム16と裏面側フィルム18の重ね合わせ機構部のライン製造が単純化され、余分なスペースを必要とせず、また製造時間および費用を抑えることができる。
【0075】
なお、裏面側フィルム18の引き裂き方向は、表面側フィルム16の引き裂き方向に対して直交するのが良いが、やや傾斜していてもよい。また、裏面側フィルム18の厚みを表面側フィルム16の厚みに比して厚くする(例えば、表面側フィルムの厚みが30μmの場合には、裏面側フィルムの厚みを250−300μmとする)ことで、表面側フィルム16のみを容易に引き裂かれるように構成してもよい。
【0076】
使用者は、袋体12の側部あるいは裏面側を指で摘んで、その消毒薬担持体14を医療用器具などの対象物に接触させることにより、消毒を行うことができる。消毒薬担持体14の表面が表面側フィルム16の側部表面より外側に位置しているので、対象物に消毒薬担持体14の表面を容易に接触させることができる。開口部26から消毒薬担持体14を露出させて消毒を行う際に、袋体12の裏面側フィルム18を指で押すことにより袋体12を変形させれば、さらに消毒薬担持体14の表面を対象物に容易に接触させることができる。
【0077】
袋体12の変形が容易にかつ確実に行えるように、例えば、図7に示すように、袋体12の両側部の中央部に、熱融着などにより補強部38を設けてもよい。
【0078】
本発明でいう対象物としては、医療用器具に限定するものではなく、消毒に必要なすべての物品を含めるものとする。
【0079】
本発明では、シール層をイージーピールシーラント30(剥がしやすい厚さが30μmのフィルム)で形成することにより、消毒薬が揮散することを防止しながら、加熱により容易に表面側フィルム16および裏面側フィルム18を熱融着してシールすることができる。また、このシール層はイソプロパノールやエタノールを含む消毒薬の浸透を阻止するので接着剤層などがその機能を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の消毒薬袋の一実施形態の平面図。
【図2】図1に示す消毒薬袋を開封している状態を示す斜視図。
【図3】図1に示す消毒薬袋をさらに開封している状態を示す斜視図。
【図4】図1に示す消毒薬袋の断面図。
【図5】図1に示す消毒薬袋のフィルムの断面図。
【図6】本発明の消毒薬袋の一実施形態の使用状態を示す説明図。
【図7】従来の消毒薬袋の平面図。
【符号の説明】
【0081】
10 消毒薬袋
12 袋体
14 消毒薬担持体
16 表面側フィルム
18 裏面側フィルム
20 シール部
22 引裂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋体と該袋体内に気密に封入された消毒薬担持体とを有する消毒薬袋を準備すること、
該消毒薬袋の該袋体を開封して該消毒薬担持体を露出させること、および
手で該消毒薬担持体に触れることなく該露出した消毒薬担持体を対象物表面に接触させること、を包含する対象物表面の消毒方法であって、
該袋体は、重ねられた表面側フィルムと裏面側フィルムとで構成されそれらの周囲の開放端部は互いに気密状にシールされ、
該消毒薬担持体は、消毒薬とこの消毒薬を含浸したシート状の担持体とを有し、
該表面側フィルムの端部が該シール部から外側へ延出されて延出片が形成され、この延出片に所定幅をおいて2つの引裂部が形成され、該消毒薬袋の使用時には、2つの引裂部間に形成された延出片の掴み部を該引裂部から引き裂くことにより該表面側フィルムの一部が引き裂かれて袋体の表面側に開口部が形成され、該開口部を通して該消毒薬担持体の中央部が露出し、該消毒薬担持体の両端部が、袋体に残った表面側フィルムの側部と裏面側フィルムとによって保持されている対象物表面の消毒方法。
【請求項2】
前記表面側フィルムおよび裏面側フィルムが軟質フィルムで形成され、前記開口部から消毒薬担持体を露出させて消毒を行う際に、袋体の裏面側フィルムを指で押すことにより袋体を変形させて、消毒薬担持体の表面が、表面側フィルムの側部表面より外側に位置させる、請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項3】
前記表面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記引裂部の引き裂き方向と該延伸フィルムの引き裂き方向とが実質的に一致する請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項4】
前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なる請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項5】
前記裏面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記表面側フィルムの引き裂き方向と該裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交し、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なり、表面側フィルムの延出片に形成された2つの引裂部の位置において、裏面側フィルムの延出片に2つの引裂部が形成されている請求項3に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項6】
前記開口部が表面側フィルムの幅方向の中央部に形成され、該開口部の幅寸法が袋体の幅寸法の0.4〜0.8倍である請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項7】
前記担持体が脱脂綿又は不織布よりなり、前記消毒薬がイソプロパノール又はエタノールを含有する請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項8】
一枚の矩形状フィルムを折り重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの3方の開放端部がシールされている請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項9】
二枚の矩形状フィルムを重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの4方の開放端部がシールされている請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項10】
前記消毒薬袋が使い捨てであって、前記袋体に封入されている前記消毒薬担持体の量が1回の消毒に適切な量であり、前記対象物表面の消毒を行った後に、前記使用済みの消毒薬担持体および袋体を廃棄する、請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項11】
前記袋体に封入されている前記シート状担持体の枚数が1枚であり、そのシート状担持体が一重又は二つ折りにされた2重である、請求項1に記載の対象物表面の消毒方法。
【請求項12】
袋体と該袋体内に気密に封入された消毒薬担持体とを有する消毒薬袋であって、
該袋体は、重ねられた表面側フィルムと裏面側フィルムとで構成されそれらの周囲の開放端部は互いに気密状にシールされ、
該消毒薬担持体は、消毒薬とこの消毒薬を含浸したシート状の担持体とを有し、
該表面側フィルムの端部が該シール部から外側へ延出されて延出片が形成され、この延出片に所定幅をおいて2つの引裂部が形成され、該消毒薬袋の使用時には、2つの引裂部間に形成された延出片の掴み部を該引裂部から引き裂くことにより該表面側フィルムの幅方向中央部が引き裂かれて袋体の表面側に開口部が形成され、該開口部を通して該消毒薬担持体の中央部が露出し、該消毒薬担持体の両端部が、袋体に残った表面側フィルムの側部と裏面側フィルムとによって保持されており、
手で該消毒薬担持体に触れることなく該露出した消毒薬担持体を対象物表面に接触させて対象物表面を消毒することが可能である消毒薬袋。
【請求項13】
前記表面側フィルムおよび裏面側フィルムが軟質フィルムから形成され、前記開口部から消毒薬担持体を露出させて消毒を行う際に、袋体の裏面側フィルムを指で押すことにより、袋体を変形させて、消毒薬担持体の表面が、表面側フィルムの側部表面より外側に位置するように変形させることが可能な請求項12に記載の消毒薬袋。
【請求項14】
前記表面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記引裂部の引き裂き方向と該延伸フィルムの引き裂き方向とが実質的に一致する請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。
【請求項15】
前記裏面側フィルムの端部が前記シール部
より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なる請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。
【請求項16】
前記裏面側フィルムが、一方向に引き裂かれ得る延伸フィルムを含む積層フィルムからなり、前記表面側フィルムの引き裂き方向と該裏面側フィルムの引き裂き方向とが略直交し、前記裏面側フィルムの端部が前記シール部より外側へ延出されて延出片が形成され、前記表面側フィルムの延出片と裏面側フィルムの延出片が接着しない状態で重なり、表面側フィルムの延出片に形成された2つの引裂部の位置において、裏面側フィルムの延出片に2つの引裂部が形成されている請求項14に記載の対象物表面の消毒薬。
【請求項17】
前記開口部が表面側フィルムの幅方向の中央部に形成され、該開口部の幅寸法が、袋体の幅寸法の0.4〜0.8倍である請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。
【請求項18】
前記担持体が脱脂綿又は不織布よりなり、前記消毒薬がイソプロパノール又はエタノールを含有する請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。
【請求項19】
一枚の矩形状フィルムを折り重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの3方の開放端部がシールされている請求項12に記載の消毒薬袋。
【請求項20】
二枚の矩形状フィルムを重ねて前記表面側フィルムと前記裏面側フィルムとが形成され、該表裏面側フィルムの4方の開放端部がシールされている請求項12に記載の消毒薬袋。
【請求項21】
前記袋体に封入されている前記消毒薬担持体の量が1回の消毒に適切な量であり、前記対象物表面の消毒を行った後に、前記使用済みの消毒薬担持体および袋体を廃棄することにより使い捨てとされる、請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。
【請求項22】
前記袋体に封入されている前記シート状担持体の枚数が、1枚であり、そのシート状担持体が一重又は二つ折りにされた2重である、請求項12に記載の対象物の消毒薬袋。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−244840(P2007−244840A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157747(P2006−157747)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】