説明

封着材料

【課題】光吸収特性が良好であり、且つ熱的安定性が良好な封着材料を創案することにより、アクティブ素子等の熱劣化を防止しつつ、有機ELディスプレイ等の気密性および信頼性を高めること。
【解決手段】本発明の封着材料は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を合量で70〜99.9体積%含有し、更に遷移金属酸化物粉末を0.1〜20体積%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着材料に関し、特にレーザー光等による封着に好適な封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代のフラットディスプレイパネルとして、有機ELディスプレイが注目されている。有機ELディスプレイは、直流電圧で駆動できるため駆動回路を簡略化できるとともに、液晶ディスプレイのように視野角依存性がなく、また自己発光のため明るく、更には応答速度が速い等の利点がある。現在、有機ELディスプレイは、主に携帯電話等の小型携帯機器に利用されているが、今後は超薄型テレビへの応用が期待されている。
【0003】
有機ELディスプレイは、2枚のガラス基板、金属等の陰電極、有機発光層、ITO等の陽電極、接着材料等で構成される。そして、有機ELディスプレイは、液晶ディスプレイと同様にして、薄膜トランジスタ(TFT)等のアクティブ素子を各画素に配置して、駆動させる方式が主流であり、この場合、ガラス基板として、無アルカリガラスが使用される。
【0004】
従来、接着材料として、低温硬化性を有するエポキシ樹脂、或いは紫外線硬化樹脂等の有機樹脂が使用されてきた。しかし、有機樹脂は、気体の侵入を完全に遮断できないため、有機ELディスプレイ内部の気密性を保持することが困難である。このため、有機樹脂を用いると、有機ELディスプレイの表示特性が経時的に劣化する問題が生じる。また、有機樹脂は、ガラス基板同士を低温で接着できる利点を有するものの、耐水性が低い欠点を有している。このため、有機樹脂を用いると、長期間の使用により、有機ELディスプレイの信頼性が低下する問題も生じる。なお、有機EL照明等の有機ELデバイスも同様の構成を備えており、同様の技術的課題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6416375号明細書
【特許文献2】特開2006−315902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス粉末を含む封着材料は、有機ELディスプレイ内部の気密性を長期に亘って保持することができ、しかも耐水性に優れている。したがって、有機樹脂に替えて、ガラス粉末を含む封着材料を用いると、上記問題を解消することができる。
【0007】
しかし、上記封着材料は、一般的にガラス粉末の軟化点が300℃以上であるため、有機ELディスプレイに適用することが困難であった。その理由は、ガラス基板同士を封着するためには、電気炉等に有機ELディスプレイ全体を投入し、ガラス粉末の軟化点以上の温度で熱処理する必要があり、この場合、アクティブ素子や有機発光層が熱劣化してしまうからである。
【0008】
このような事情に鑑み、近年、封着材料にレーザー光等の照射光を照射し、有機ELディスプレイを封着する方法が検討されている。レーザー光等を用いると、封着すべき部位のみを局所加熱できるため、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。例えば、特許文献1、2には、封着材料にレーザー光を照射して、フィールドエミッションディスプレイの前面ガラス基板と背面ガラス基板を封着することが記載されている。
【0009】
しかし、特許文献1、2には、レーザー光等による局所加熱に好適な材料構成について記載がなく、材料開発の指針を見出すことができない。また、封着材料の光吸収特性を高めるために、ガラス粉末のガラス組成中に光吸収成分を添加する方法も検討段階にあるが、ガラス組成の成分バランスを考慮すると、光吸収成分の添加量には限界があり、封着材料の光吸収特性を十分に高めることが困難な場合がある。さらに、ガラス組成系によっては、ガラス組成中に光吸収成分を添加すると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、ガラスの熱的安定性が低下し、封着処理を適正に実行できない場合もある。
【0010】
そこで、本発明は、光吸収特性が良好であり、且つ熱的安定性が良好な封着材料を創案することにより、アクティブ素子等の熱劣化を防止しつつ、有機ELディスプレイ等の気密性および信頼性を高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意努力の結果、封着材料中に遷移金属酸化物粉末を所定量添加することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の封着材料は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を合量で70〜99.9体積%含有し、更に遷移金属酸化物粉末を0.1〜20体積%含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の封着材料は、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を合量で70〜99.9体積%含有する。このようにすれば、有機ELディスプレイ内部の気密性を維持することができる。なお、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末を含有しない態様を完全に排除するものではないが、後述の通り、熱膨張係数の低下および機械的強度の向上を目的として、耐火性フィラー粉末を含有することが好ましい。
【0013】
本発明者等は、鋭意調査の結果、封着材料中に遷移金属酸化物粉末を添加すれば、ガラスの熱的安定性をあまり低下させずに、封着材料の光吸収特性を顕著に向上できることを見出した。すなわち、本発明の封着材料は、必須成分として、遷移金属酸化物粉末を0.1〜20体積%含有する。封着材料中に遷移金属酸化物粉末を添加すると、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換できるため、封着すべき部位のみを局所加熱することができ、結果として、アクティブ素子等の熱劣化を防止した上で、ガラス基板同士を封着することができる。また、遷移金属酸化物粉末を添加すれば、ガラス粉末の組成設計の自由度が高まり、結果として、ガラスの熱的安定性を高めやすくなる。一方、本発明の封着材料は、遷移金属酸化物粉末の含有量を20体積%以下に規制している。このようにすれば、グレーズ焼成時または照射時に、ガラスが失透する事態を防止することができる。
【0014】
第二に、本発明の封着材料は、遷移金属酸化物粉末がCuOであることを特徴とする。CuOは、遷移金属酸化物の中でも光吸収特性に優れているため、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができる。
【0015】
第三に、本発明の封着材料は、遷移金属酸化物粉末の平均粒子径D50が5μm以下であることを特徴とする。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
【0016】
第四に、本発明の封着材料は、遷移金属酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であることを特徴とする。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0017】
第五に、本発明の封着材料は、ガラス粉末が、Bi−B系ガラス、Bi−SiO系ガラス、ZnO−B−SiO系ガラス、V−P系ガラス、SnO−P系ガラスのいずれかであることを特徴とする。
【0018】
第六に、本発明の封着材料は、ガラス粉末が、ガラス組成として、遷移金属酸化物を0.1モル%以上含有することを特徴とする。このようにすれば、レーザー光等がガラスにも吸収されるため、封着材料の光吸収特性が向上する。
【0019】
第七に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の含有量が0.1〜75体積%であることを特徴とする。このようにすれば、封着材料の熱膨張係数が被封着物の熱膨張係数に整合しやすくなるとともに、封着部位の機械的強度が向上する。
【0020】
第八に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする。
【0021】
第九に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が15μm未満であることを特徴とする。
【0022】
第十に、本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であることを特徴とする。
【0023】
第十一に、本発明の封着材料は、照射光による封着に用いることを特徴とする。このようにすれば、封着材料を局所加熱することができ、耐熱性が低い部材(例えばアクティブ素子、有機発光層、有機色素等)の熱劣化を防止することができる。
【0024】
第十二に、本発明の封着材料は、上記照射光がレーザー光であることを特徴とする。レーザー光としては、種々のレーザー光が使用可能である。特に、半導体レーザー、YAGレーザー、COレーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。なお、レーザー光を封着材料に的確に吸収させるため、レーザー光の発光中心波長は500〜1600nm、特に750〜1300nmが好ましい。
【0025】
第十三に、本発明の封着材料は、上記照射光が赤外光であることを特徴とする。このようにすれば、広範囲に亘って、封着材料を局所加熱することができ、結果として、有機ELデバイス等の生産効率が向上する。
【0026】
第十四に、本発明の封着材料は、熱膨張係数が75×10−7/℃以下であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数」は、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指し、測定温度範囲は30〜300℃とする。
【0027】
第十五に、本発明の封着材料は、実質的にPbOを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、封着材料中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。
【0028】
第十六に、本発明の封着材料は、有機ELデバイスまたは太陽電池の封着に用いることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の封着材料において、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の含有量は合量で70〜99.9体積%であり、80〜99.9体積%、90〜99.5体積%、特に95〜99体積%が好ましい。ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の含有量が合量で70体積%より少ないと、有機ELディスプレイ等の気密性を確保し難くなる。一方、ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の含有量が合量で99.9体積%より多いと、遷移金属酸化物粉末の含有量が少なくなるため、封着材料の光吸収特性が低下し、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに変換し難くなる。
【0030】
本発明の封着材料において、遷移金属酸化物粉末の含有量は0.1〜20体積%、好ましくは0.5〜10体積%、より好ましくは1〜5体積%である。遷移金属酸化物粉末の含有量が0.1体積%より少ないと、封着材料の光吸収特性が低下し、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに変換し難くなる。一方、遷移金属酸化物粉末の含有量が20体積%より多いと、封着材料の熱的安定性が低下し、また封着材料の流動性も低下し、結果として、封着強度が低下しやすくなる。
【0031】
また、遷移金属酸化物粉末として、種々の遷移金属酸化物(例えばCuO、Fe、NiO、V、CoO、TiO、MoO、MnO等)が使用可能であるが、その中でもCuOが特に好ましい。CuOは、グレーズ焼成時または照射時にCu2+としてガラス中に拡散しやすく、更には赤外域の吸収が大きいため、レーザー光等の光エネルギーを熱エネルギーに効率的に変換することができる。
【0032】
本発明の封着材料において、遷移金属酸化物粉末の平均粒子径D50は5μm以下、0.01〜5μm、0.5〜4μm、特に1〜3μmが好ましい。遷移金属酸化物粉末の平均粒子径D50が0.01μmより小さいと、グレーズ焼成時または照射時に、遷移金属酸化物粉末がガラスに溶け込みやすくなり、封着材料の熱的安定性が低下しやすくなる。一方、遷移金属酸化物粉末の平均粒子径D50が5μmより大きいと、遷移金属酸化物粉末を封着材料中に均一に分散させることが困難になり、局所的に封着不良が発生するおそれがある。
【0033】
本発明の封着材料において、遷移金属酸化物粉末の最大粒子径Dmaxは30μm以下、20μm以下、特に10μm以下が好ましい。遷移金属酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であると、封着厚みを狭小化しやすくなり、この場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板および封着部位にクラック等が発生し難くなる。一方、遷移金属酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが30μmより大きいと、遷移金属酸化物粉末の一部がグレーズ面に露出しやすくなるため、両ガラス基板間のギャップを均一化し難くなる。
【0034】
ガラス粉末として、種々のガラスが使用可能である。特に、Bi−B系ガラス、Bi−SiO系ガラス、ZnO−B−SiO系ガラス、V−P系ガラス、SnO−P系ガラスは、低融点特性を有し、且つ熱的安定性が良好であるため、好ましい。ここで、「〜系ガラス」とは、明示の成分を必須成分として含み、且つ明示の成分の含有量が合計で30モル%以上、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上の場合を指す。
【0035】
Bi−B系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Bi 15〜50%、B 15〜50%、ZnO 0〜45%(好ましくは1〜40%)含有することが好ましい。このようにすれば、低融点特性と熱的安定性を高いレベルで両立させることができる。特に、熱的安定性を高めるために、ガラス組成中にBaOを0.1モル%以上添加することが好ましい。
【0036】
Bi−SiO系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Bi 15〜50%、B 10〜35%、SiO 0.5〜30%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性、低融点特性および耐水性を高いレベルで両立させることができる。
【0037】
ZnO−B−SiO系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 20〜50%、B 15〜35%、ZnO 1〜45%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性と低膨張特性を高いレベルで両立させることができる。特に、低融点化するために、ガラス組成中にアルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)を0.1モル%以上添加することが好ましい。
【0038】
−P系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、V 25〜55%、P 15〜45%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性と低融点特性を高いレベルで両立させることができる。なお、V−P系ガラスは、Vが光吸収特性を有しているため、封着材料の光吸収特性を高めることができる。
【0039】
SnO−P系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜70%、P 18〜50%(好ましくは20〜30%)含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性と低融点特性を高いレベルで両立させることができる。なお、熱的安定性を高めるために、ガラス組成中にZnOを1モル%以上添加することが好ましい。
【0040】
各ガラス系において、上記成分以外にも、ガラス組成中に遷移金属酸化物を0.1モル%以上、0.1〜10モル%、特に0.5〜5モル%添加することが好ましい。ガラス組成中に遷移金属酸化物を添加すれば、レーザー光等の照射時に熱エネルギーへの変換を促進することができる。遷移金属酸化物は、CuO、Fe、NiO、V、CoO、TiO、MoO、MnO等が好ましい。これらの遷移金属酸化物は、光吸収特性が良好であるとともに、ガラスの熱的安定性を高めることができる。
【0041】
本発明の封着材料は、上記の通り、環境的観点から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
【0042】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の含有量は0.1〜75体積%、20〜70体積%、25〜65体積%、30〜60体積%、特に35〜55体積%が好ましい。
耐火性フィラー粉末を添加すれば、封着材料の熱膨張係数が被封着物の熱膨張係数に整合しやすくなり、封着部位に不当な応力が残留する事態を防止することができる。また、耐火性フィラー粉末を添加すれば、封着部位の機械的強度を高めることもできる。但し、耐火性フィラー粉末の含有量が75体積%より多いと、融剤であるガラス粉末の含有量が相対的に少なくなるため、封着材料の流動性が低下し、封着強度が低下しやすくなる。特に、被封着物が無アルカリガラスである場合、耐火性フィラー粉末の含有量は40体積%以上、特に50体積%以上が好ましい。このようにすれば、封着材料の熱膨張係数が無アルカリガラス等の熱膨張係数に整合しやすくなる。
【0043】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末は、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種または二種以上が好ましい。これらの耐火性フィラー粉末は、熱膨張係数が低いことに加えて、機械的強度が高く、しかもガラス粉末との適合性が良好である。また、上記の耐火性フィラー粉末以外にも、熱膨張係数の調整、流動性の調整および機械的強度の改善のために、石英ガラス、β−ユークリプタイト等の耐火性フィラー粉末を添加することができる。
【0044】
本発明の封着材料において、ガラス粉末の平均粒子径D50は15μm未満、0.5〜10μm、特に1〜5μmが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が15μm未満であると、ガラス粉末の軟化点が低下し、封着材料の流動性が高まるとともに、封着厚みを狭小化しやすくなり、この場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板および封着部位にクラック等が発生し難くなる。
【0045】
本発明の封着材料において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは30μm以下、20μm以下、特に10μm以下が好ましい。ガラス粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であると、ガラス粉末の軟化点が低下し、封着材料の流動性が高まるとともに、封着厚みを狭小化しやすくなり、この場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板および封着部位にクラック等が発生し難くなる。
【0046】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50は15μm未満、0.5〜10μm、特に1〜5μmが好ましい。耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50を15μm未満にすると、封着厚みを狭小化することができ、この場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板および封着部位にクラック等が発生し難くなる。一方、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が15μm以上であると、封着部位が厚くなり、有機ELディスプレイ等を薄型化し難くなる。なお、耐火性フィラー粉末の効果(例えば、封着材料の熱膨張係数を低下させる効果)を的確に享受するために、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50は0.5μm以上が好ましい。
【0047】
本発明の封着材料において、耐火性フィラー粉末の最大粒子径Dmaxは30μm以下、20μm以下、特に10μm以下が好ましい。耐火性フィラー粉末の最大粒子径Dmaxを30μm以下にすると、封着厚みを狭小化することができ、この場合、ガラス基板と封着材料の熱膨張係数の差が大きくても、ガラス基板および封着部位にクラック等が発生し難くなる。一方、耐火性フィラー粉末の最大粒子径Dmaxが30μmより大きいと、耐火性フィラー粉末の一部がグレーズ面から露出しやすくなるため、両ガラス基板間のギャップを均一化し難くなる。
【0048】
本発明の封着材料において、熱膨張係数は75×10−7/℃以下、65×10−7/℃以下、55×10−7/℃以下、特に50×10−7/℃以下が好ましい。封着材料の熱膨張係数を低下させると、被封着物の熱膨張係数が低い場合、被封着物や封着部位に残留する応力を低減することができ、結果として、封着部位が応力破壊して、有機ELディスプレイ等の気密性が損なわれる事態を防止しやすくなる。特に、被封着物が無アルカリガラス(熱膨張係数:約38×10−7/℃)の場合、封着材料の熱膨張係数は10〜55×10−7/℃が好ましい。
【0049】
本発明の封着材料において、軟化点は550℃以下、500℃以下、特に465℃以下が好ましい。軟化点が550℃より高いと、レーザー光等を照射しても、ガラス粉末が軟化し難い傾向があり、封着強度を高めるためには、レーザー光等の出力を上げなければならず、有機ELディスプレイ等の生産効率が低下しやすくなる。なお、軟化点の下限は特に限定されないが、ガラス粉末の熱的安定性を考慮すれば、軟化点は350℃以上、特に385℃以上が好ましい。ここで、「軟化点」とは、示差熱分析装置(DTA)で測定した値を指し、測定は空気中で行い、昇温速度を10℃とする。
【0050】
本発明の封着材料は、封着厚みを均一化するために、更にガラスファイバー、ガラスビーズ、シリカビーズ、樹脂ビーズ等をスペーサーとして10体積%まで含有してもよい。
【0051】
本発明の封着材料は、粉末のまま使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱いやすくなる。ビークルは、主に溶媒と樹脂バインダーとからなり、樹脂バインダーはペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、通常、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いてガラス基板等に塗布された後、脱バインダー工程に供される。
【0052】
樹脂バインダーとしては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。
【0053】
溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂バインダー等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0054】
本発明の封着材料は、有機ELデバイスの封着に用いることが好ましい。その理由は、有機ELデバイスは、耐熱性や耐水性に乏しい部材を備えているため、照射光による封着処理を行う必要性が大きいからである。特に、有機ELディスプレイ、有機EL照明はその必要性が大きい。
【0055】
本発明の封着材料は、太陽電池の封着に用いることが好ましく、色素増感型太陽電池の封着に用いることがより好ましい。グレッチェルらが開発した色素増感型太陽電池は、次世代の太陽電池として期待されている。色素増感型太陽電池は、透明導電膜が形成された透明電極基板と、透明電極基板に形成された多孔質酸化物半導体層(主にTiO層)からなる多孔質酸化物半導体電極と、その多孔質酸化物半導体電極に吸着されたRu色素等の有機色素と、ヨウ素を含むヨウ素電解液と、触媒膜と透明導電膜が形成された対極基板等で構成される。本発明の封着材料を色素増感型太陽電池に用いると、気体の侵入を完全に遮断できるため、電池特性の低下を防止しつつ、太陽電池からヨウ素電解液が漏洩する事態を防止することができる。また、本発明の封着材料を色素増感型太陽電池に用いると、照射光による封着処理に供することができるため、有機色素等の構成部材の熱劣化を防止した上で、透明電極基板と対極基板を封着することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0057】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜3)及び比較例(試料No.4)を示している。
【0058】
【表1】

【0059】
次のようにして表1に記載の各試料を調製した。まず、表中のガラス組成になるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、このガラスバッチを白金坩堝に入れて1100℃で1時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスを薄片状に成形した。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、空気分級し、平均粒子径D50が2.5μm、最大粒子径Dmaxが20μmの各ガラス粉末を得た。
【0060】
遷移金属酸化物粉末として、CuOを用いた。CuOは、平均粒子径D50が3.0μm、最大粒子径Dmaxが20μmになるように調製した。
【0061】
耐火物フィラー粉末として、コーディエライトを用いた。コーディエライトは、平均粒子径D50が2.5μm、最大粒子径Dmaxが20μmになるように調製した。
【0062】
表中に示す通り、ガラス粉末、耐火性フィラー粉末および遷移金属酸化物粉末を混合し、試料No.1〜4を作製した。試料No.1〜4につき、ガラス転移点、軟化点、熱膨張係数、接合の可否を評価した。
【0063】
ガラス転移点、軟化点は、DTA装置で測定した。測定は、大気中において、昇温速度10℃/分で行い、室温から測定を開始した。
【0064】
熱膨張係数は、TMA装置で測定した。測定温度範囲は30〜300℃とした。なお、測定試料は、各試料を緻密に焼結させたものを用いた。
【0065】
次のようにして接合の可否を評価した。まず各試料とエチルセルロース系ビークルを混錬し、粘度が約150Pa・sになるように調製した後、三本ロールミルで均一に混錬し、ペースト化した。このペーストを、短冊状に加工したガラス基板の中心部に線幅0.8mm×長さ4mm×厚み20μmになるように印刷塗布した後、乾燥オーブンで120℃で30分間乾燥した。次に、表中に示す軟化点で120分間焼成し、ビークルに含まれる樹脂成分を脱バインダーし、グレーズ膜を得た。焼成に際し、昇降温速度は10℃/分とした。続いて、得られたグレーズ膜上に、同一形状のグレーズ膜が形成されていないガラス基板を正確に重ねた後、グレーズ膜が形成されていないガラス基板側からグレーズ膜に沿って、波長808nmの半導体レーザー(出力10W、走査速度5mm/s)を照射した。レーザー光により封着材料が軟化流動し、両ガラス基板が接合されたものを「可」、封着材料が軟化流動せず、両ガラス基板が接合されなかったものを「不可」と評価した。
【0066】
表1から明らかなように、試料No.1〜3は、遷移金属酸化物粉末を含んでいるため、レーザー光により両ガラス基板を接合することができた。一方、試料No.4は、遷移金属酸化物を含んでいないため、レーザー光を適正に吸収することができず、レーザー光により両ガラス基板を接合することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を含有する封着材料において、
ガラス粉末と耐火性フィラー粉末を合量で70〜99.9体積%含有し、
更に遷移金属酸化物粉末を0.1〜20体積%含有することを特徴とする封着材料。
【請求項2】
遷移金属酸化物粉末がCuOであることを特徴とする請求項1に記載の封着材料。
【請求項3】
遷移金属酸化物粉末の平均粒子径D50が5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の封着材料。
【請求項4】
遷移金属酸化物粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の封着材料。
【請求項5】
ガラス粉末が、Bi−B系ガラス、Bi−SiO系ガラス、ZnO−B−SiO系ガラス、V−P系ガラス、SnO−P系ガラスのいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の封着材料。
【請求項6】
ガラス粉末が、ガラス組成として、遷移金属酸化物を0.1モル%以上含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の封着材料。
【請求項7】
耐火性フィラー粉末の含有量が0.1〜75体積%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の封着材料。
【請求項8】
耐火性フィラー粉末が、コーディエライト、ウイレマイト、アルミナ、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化スズから選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の封着材料。
【請求項9】
耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50が15μm未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の封着材料。
【請求項10】
耐火性フィラー粉末の最大粒子径Dmaxが30μm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の封着材料。
【請求項11】
照射光による封着に用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の封着材料。
【請求項12】
照射光がレーザー光であることを特徴とする請求項11に記載の封着材料。
【請求項13】
照射光が赤外光であることを特徴とする請求項11に記載の封着材料。
【請求項14】
熱膨張係数が75×10−7/℃以下であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の封着材料。
【請求項15】
実質的にPbOを含有しないことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の封着材料。
【請求項16】
有機ELデバイスまたは太陽電池の封着に用いることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の封着材料。

【公開番号】特開2011−57477(P2011−57477A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206612(P2009−206612)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】