説明

射出成形円筒回転部品

【課題】特定の形状精度を有することにより得られる回転精度の高い射出成形円筒回転部品を提供すること。
【解決手段】ASTM-D1238に定められるメルトフローレート値が25g/10min以上であるポリアセタール樹脂(I)であることを特徴とし、外周と軸穴の各円筒度の平行度が部品高さあたり5μm/mm未満を満たす射出成形円筒回転部品であり、軸穴への嵌合率が20%以上であり、かつ外周の部品高さあたりの円筒度が10μm/mm未満であることを満たす射出成形円筒回転部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外周と軸穴の平行度で規定されて得られる回転精度に優れた高精度の射出成形円筒回転部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、金属と比較して大幅に軽量、自己潤滑性、静音性などに優れるエンジニアリングプラスチックであり、摩擦摩耗性、繰り返し衝撃性、そして大量生産が可能なことから多種の分野において回転体の用途として広く利用されてきた。近年、製品の回転高精度化、高速化が求められ、それに伴い歯車やフランジ等の射出成形円筒回転部品の回転時の高精度化が求められている。
【0003】
従来技術では、高精度な射出成形円筒回転部品を得る方法として、部分的に金型内を加圧した成形方法と組み合わせて成形したり、精度を保つために金属をインサート成形したりする方法がとられていた。そのために、新たな装置や工程を施さなくては精度をあげることが困難であった。(特許文献1、特許文献2、特許文献3)
また、高精度に回転をするための評価方法として真円度、円筒度、同軸度などが用いられてきたがどれも内側または外側のみの精度であり、歯車を代表例として内側軸穴回転角度と外側歯車の回転角度の相関正確性は確認されてこなかった。(特許文献3)
なお、本発明で使用する用語は下記の意味である。
射出成形円筒回転部品:中空円筒状の軸穴を中心部にもち、更に軸穴の開口部を含む面を有し、軸穴を中心として回転する円筒形の部品のことをさす。特に形状に限定はされるものではないが、プリンターや複写機のドラムフランジや軸受け、歯車、ローラー、コロ、拍車、工業部品では戸車などが例としてあげられる。
円筒度の平行度:射出成形円筒回転部品の外周及び軸穴部を高さ方向に分割して真円度を測定し、中心線からの各位置の径のバラツキを円筒度として求め、更に軸穴の円筒形状を真直とみなした時に外周の円筒形状がどれだけ曲がっているかを示したものであり軸穴に対してどれだけ平行に回転をすることができるかを表すことができる。図1はこの円筒度の平行度の測定手法を模式的に説明するものである。
嵌合率:軸穴にシャフトを嵌合させた際にどれだけ軸穴内部の面がシャフトに接触するかを示したもので、軸穴全表面積に対するシャフトの接触割合を数値化したものである。具体的には真円度測定器にて表面の凹凸を測定し、その凹凸の最小径点から軸穴径の0.2%以内の距離に存在する面積をBearingRatioから計算して求める。なお、測定方向は軸穴の高さ方向でも円周方向でもどちらでも構わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−144763号公報
【特許文献2】特開2002−96366号公報
【特許文献3】特開2001−229593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特定の形状精度を有することにより得られる回転精度の高い射出成形円筒回転部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、良好な外周と軸穴の円筒度の平行度をもつ射出成形円筒回転体の回転伝達精度が良いことを見出した。更にポリアセタール樹脂の分子量を良好にした円筒部品の軸穴円筒平行度が良好になることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ASTM-D1238に定められるメルトフローレート値が25g/10min以上であるポリアセタール樹脂(I)であることを特徴とし、外周と軸穴の各円筒度の平行度が部品高さあたり5μm/mm未満を満たす射出成形円筒回転部品であり、軸穴への嵌合率が20%以上でありかつ外周の円筒度が部品高さあたり10μm/mm未満であることを満たす射出成形円筒回転部品である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の射出成形円筒部品は、回転伝達精度に優れる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】円筒度の平行度の測定手法を模式的に説明する図である。先ず軸穴と外周それぞれの円筒度を測定する。軸穴円筒度を0μm/mmとした時、すなわち軸穴の円筒形状を真直とみなした時、外周形状がどのようになっているかを再計算し、再計算した外周形状の円筒度を数値化したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願発明について具体的に説明する。
【0010】
本発明において成形品の精度評価測定方法として真円度測定器を用いた円筒度の平行度を用いた。この測定方法は軸穴部分と外周部分の各円筒度を測定し、これは回転する部品が、部品自体としてどれだけ正確に回転するかという軸穴の精度と次の部品にどれだけ正確に回転を伝えられるかを部品外周の精度を組み合わせることにより成形品全体の回転精度を確認することができる方法でその値が小さいものほど回転精度が良いものである。この評価方法と実際の回転伝達の正確性との相関に関しては歯車形状サンプルを用い、片歯噛合い試験機にて確認を行った。この片歯噛合い試験とは、相噛合う歯車を中心間距離を一定にして回転させた時、どれだけ駆動側の歯車と同じように従動側サンプルが回転できるかを噛合い誤差として計算させるもので実際の円筒物回転の回転方法と近似した動きの下、測定をすることができる。
【0011】
片歯噛合い試験結果より、高精度な回転体として必要な円筒度の平行度は歯幅あたり5μm/mm未満、好ましくは4μm/mm未満、更に好ましくは3μm/mm未満である。また、本発明におけるもうひとつの精度評価測定方法として真円度測定器を用いた嵌合率を利用した。これは円筒部品を回転させる際に軸穴にシャフトを嵌合させることが必須でありそのシャフトがどれだけ部品軸穴部の壁面と接触しているかを計算させることにより円筒部品がどれだけ安定して回転することができるかを判別することが可能な方法である。この値は数値が大きいものほどシャフトへの接触割合が高く軸穴が安定して回転を行うことができる。また、更に部品外側の円筒度の精度を高めることにより軸穴の回転角度をより正確に伝達することができるため部品外周の円筒度と軸穴の嵌合率を組み合わせてより精度の高い回転部品の定義方法とした。
【0012】
上記測定においてより正確な回転伝達を行うことのできる成形品の精度は嵌合率20%以上、歯幅あたりの外周円筒度10μm/mm未満好ましくは嵌合率30%以上、外周円筒度8μm/mm未満更に好ましくは嵌合率50%以上、外周円筒度5μm/mm未満である。上記の数値を満たすためには、分子量を下げることにより成形時の流動性を上げ、金型転写性を向上させる方法がある。
【0013】
本発明において必要なポリアセタール樹脂(I)の分子量変化によるASTM-D1238に定められるメルトフローレート値は、25以上好ましくは30以上である。これよりも低いと流動性がおちるため、成形時に金型内に完全充填されず結果として不均一な収縮変形を起こしてしまう。ここで規定されるポリアセタール樹脂(I)は、公知のポリアセタール樹脂であって特に限定されるものではない。本発明において、上記ポリアセタール樹脂は一種類、もしくは二種類以上の混合物で用いても差し支えない。
【0014】
本発明の歯車部品としては公知のものであれば特に限定されるものではないが、例
えば、平歯車、内歯車、ラック歯車、はすば歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、は
すばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギア、ねじ歯車、円筒ウオーム
ギア、ハイポイドギア、ノビコフ歯車等をあげることができる。
【0015】
本発明の射出成形円筒部品は高回転角度伝達精度の特徴をもつ。従来は材料の改良による精度向上には限界があるために、金属インサート成形して特殊な構造としたり、特殊な成形方法や二次加工等によって精度を高めたりする方法がとられるが、本発明によれば軸穴と外周の円筒度の平行度または軸穴の嵌合率と円筒度を規定することによって高精度の定義を確立し、さらに分子量を特定した材料によって、容易に高精度を出すことができ、回転角度伝達に優れることが特徴である。ここで、本発明の射出成形円筒部品を製造する方法に関しては特に限定されるものではなく、公知の製造方法を用いることができるが、精度を保つために特殊設備や後加工などを取り入れる必要はなく一般的な射出成形を用いることが可能である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において記載した評価は、以下の方法により実施した。
(1)円筒度の平行度、嵌合率測定
真円度円筒形状測定機(テーラーホブソン社製Talyrond365)を用いてサンプル軸穴部の円筒度を測定し、解析ソフト(テーラーホブソン社製 TalyMap)平行度及び嵌合率を計算させた。
(2)メルトフローレート(MFR:g/10min.)
ASTM−D1238により東洋精機株式会社製のMELT INDEXERを用いて190℃、2160gの条件下で測定した。
(3)歯車サンプル成形
射出成形機(ファナック株式会社製 ROBOSHOT α−50iA)を用いて シリンダー温度190℃、射出時間3秒、保圧時間15秒、冷却時間15秒に設定し、モジュール0.6、歯数100、ピッチ円直径60mmの平歯、及び同諸元のネジレ角20度のはす歯の歯車金型を80℃の金型温度で歯先円直径が平歯は61.2mm、はす歯は64.6mmになるような圧力条件で成形した。
(4)歯車の片歯噛み合い試験
歯車噛合回転角伝達誤差測定機(株式会社小笠原プレシジョンラボラトリー製)を用いて 以下の条件にて行い、JIS B1702−1に準じて全噛合い誤差を確認し、以下の指標でその精度を確認した。
全噛合い誤差 ◎:〜3’00” ○:3’01” 〜4’00”×:4’01”〜。
相手歯車:モジュール0.6、ピッチ円直径60mm、歯数100の平歯、及び同諸元のネジレ角20度のはす歯で、精度がプレ級の金属歯車。
軸間距離は平歯で60mm、はす歯で62.157mmと設定し、トルク0〜0.8N・m、回転数300rpmとした。
【0017】
また、実施例、比較例には下記成分を用いた。
<ポリアセタール樹脂>
(a−1)旭化成ケミカルズ株式会社製ポリアセタール樹脂(コポリマー) テナック(登録商標)−C HC750
MFR=25g/10min.
(a−2)旭化成ケミカルズ株式会社製ポリアセタール樹脂(コポリマー) テナック(登録商標)−C HC450を65質量部と、旭化成ケミカルズ株式会社製ポリアセタール樹脂(コポリマー) テナック(登録商標)−C HC750を35質量部混合したもの。
MFR=15g/10min.
(a−3)旭化成ケミカルズ株式会社製ポリアセタール樹脂(コポリマー) テナック(登録商標)−C 4520。
MFR=10g/10min.
以上の(a−1)〜(a−3)のポリアセタール樹脂を使用して歯車サンプルを射出成形し、以下の表に示す様に評価した。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明で得られる射出成形円筒回転体は、回転角度精度に優れるため、OA、自動車、電気電子、その他工業などの各種分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM-D1238に定められるメルトフローレート値が25g/10min以上であるポリアセタール樹脂(I)であることを特徴とし、外周と軸穴の各円筒度の平行度が部品高さあたり5μm/mm未満を満たす射出成形円筒回転部品であり、軸穴への嵌合率が20%以上でありかつ外周の円筒度が部品高さあたり10μm/mm未満であることを満たす射出成形円筒回転部品。
【請求項2】
歯車である請求項1記載の射出成形円筒回転部品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173040(P2009−173040A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73083(P2009−73083)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【分割の表示】特願2006−128201(P2006−128201)の分割
【原出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】