説明

射出成形方法及び射出成形装置

【課題】型締力を増大させることなく、異種形状の複数のキャビティにて品質の整った樹脂成型品の成形を行うことができる射出成形方法及び射出成形機を提供する。
【解決手段】異種形状よりなる複数個のキャビティを有する金型を用いて射出成形を行うホットランナー方式金型を用いた射出成形方法において、閉じている金型の他のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、所望の一個のキャビティに樹脂材料を射出し、次いで、所望の一個のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、各樹脂流路と連通した射出シリンダ内に次の所望のキャビティの容量に見合う樹脂材料を供給し、次いで、所望のキャビティに通じる樹脂流路を開放した状態で、所望のキャビティの内容量に相応する樹脂材料を射出し、時間差をもって複数のキャビティへの樹脂材料の射出を行い、所望の複数のキャビティに射出した樹脂材料の固化後に金型を開いて成形品を同時に型外しすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製品の射出成形方法及び射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品は、押出成形やブロー成形、射出成形など様々な成形方法により所定形状に加工されている。
【0003】
これらの成形方法の中でも、射出成形は、比較的複雑な断面形状を形成することができるため、様々な樹脂製品の成形において実施されている。
【0004】
この射出成形は、加熱溶融した樹脂材料を、所定の型締圧力にて閉じた金型内に注入して冷却固化させ、金型を開いて取出して所望する樹脂成形品を得る加工方法として知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−039496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の射出成形では、金型に設けた複数のキャビティ全部に、溶融させた樹脂材料を同時に射出しているため、複数のキャビティにて成形される成形品の投影面積の和が大きくなると、大きな型締力が必要となる。
【0007】
したがって、この型締力に対応した大型の射出成形機が必要となってしまい、成形機の設置スペースや、成形機の設置コストが増大することとなり、その結果、樹脂成形品の製造コストが上昇してしまうこととなっていた。
【0008】
また、金型に形成した複数のキャビティがそれぞれ異種形状である場合、各キャビティに同時に樹脂材料を射出すると、それぞれのキャビティにかかる圧力が異なるために、不均一な成形品が成形されてしまう場合があった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、型締力を増大させることなく、異種形状の複数のキャビティにて品質の整った樹脂成型品の成形を行うことができる射出成形方法及び射出成形機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来の課題を解決するために、請求項1に係る射出成形方法では、異種形状よりなる複数個のキャビティを有する金型を用いて射出成形を行うホットランナー方式金型を用いた射出成形方法において、閉じている金型の他のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、所望の一個のキャビティに樹脂材料を射出し、次いで、所望の一個のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、各樹脂流路と連通した射出シリンダのピストンを後退しながらピストンロッドに形成したスクリューコンベアを介して射出シリンダ内に次の所望のキャビティの容量に見合う樹脂材料を供給し、次いで、所望のキャビティに通じる樹脂流路を開放した状態で、射出シリンダより所望のキャビティの内容量に相応する樹脂材料を供給し、時間差をもって複数のキャビティへの樹脂材料の供給を行い、所望の複数のキャビティに射出した樹脂材料の固化後に金型を開いて成形品を同時に型外しすることとした。
【0011】
また、請求項2に係る射出成形装置では、射出成形機の固定側プラテンと可動側プラテンとにそれぞれ固定金型と可動金型とを装着し、これらの金型によって異種形状の複数個のキャビティを形成し、上記固定側プラテンに装着した固定金型に、複数の異種形状のキャビティに樹脂材料を射出するための複数のゲートを形成し、さらに上記射出シリンダのノズルとの接続部から分岐して複数のゲートに連通する樹脂材料流路を形成すると共に、複数の異種形状のキャビティに連通した上記ゲートを互いに時間差を有して開閉させる複数の開閉弁を設け、しかも、射出シリンダは、1回目の射出作業後にスクリューコンベア機能を有したピストンが後退する際に、2回目の射出の樹脂材料が射出シリンダ内に供給されるように構成した。
【0012】
また、請求項3に係る射出成形装置では、請求項2に記載の射出成形装置において、前記固定金型は、射出シリンダより射出される樹脂材料の受入れ開口が形成された取付プレートと、前記樹脂材料流路が形成されたマニフォールドプレートと、前記キャビティの一側部を構成するキャビティプレートとで構成するとともに、前記開閉弁は、尖鋭状とした先端で前記ゲートを閉塞するロッドと、圧力により前記ロッドを進退させる進退機構とよりなるニードルバルブとし、前記進退機構を前記マニフォールドプレート内に設けていることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、型締力を増大させることなく、異種形状の複数のキャビティにて品質の整った樹脂成型品の成形を行うことができる射出成形方法及び射出成形機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態における射出成形装置の構成を示した説明図である。
【図2】本実施形態に係る射出成形装置の金型装置を示した説明図である。
【図3】本実施形態に係る射出成形方法の流れを示したフローである。
【図4】本実施形態に係る射出成形方法による成形過程を模式的に示した説明図である。
【図5】本実施形態に係る射出成形方法による成形過程を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本実施形態における射出成形装置Aの外観を示した説明図である。
【0016】
射出成形装置Aは、樹脂材料Jを溶融状態として射出する射出部1と、加圧した金型内に溶融状態の樹脂(以下、溶融樹脂ともいう。)を受け入れて樹脂製品を成形する成形部2とで構成している。
【0017】
射出部1の内部には、供給された樹脂材料J加熱して可塑化する射出シリンダ21が備えられており、該射出シリンダ21は前端に射出ノズル23を有している。また、射出シリンダ21内には、射出部材としてのピストン50が回転自在に、かつ、進退自在に配設される。
【0018】
該ピストン50は、射出シリンダ21内を後方に向けて延在させたピストンロッド51の前端にスクリューヘッド50aを備え、また、ピストンロッド51の外周面には、螺旋状のスクリューコンベア53が形成される。
【0019】
そして、ピストン50に連動連結された計量用モータ52を駆動し、ピストン50を回転させると、射出シリンダ21の後部に配設されたホッパ20内から樹脂材料Jが射出シリンダ21内に供給され、スクリューコンベア53に沿って前進させられる。それに伴って、ピストン50は後退させられ、スクリューヘッド50aの前方に加熱され溶融させられた樹脂が溜められる。
【0020】
また、射出工程時に、射出用モータを駆動し、ピストン50を回転させることなく前進させると、スクリューヘッド50aの前方に溜められた溶融樹脂は、射出ノズル23から金型部5(後述)へ射出され樹脂製品が成形されることとなる。
【0021】
成形部2は、土台部3上に配置された型締部4と、同型締部4により加圧された状態で、射出部1より圧入される溶融樹脂を受け入れる金型部5とで構成している。
【0022】
型締部4は、土台部3に立設した固定プラテン6と、同固定プラテン6から間隔を隔てて立設したトグルサポート7とが備えられており、固定プラテン6とトグルサポート7との間には、可動プラテン9のガイド部材としてのタイバー8(図においては、そのうちの2本のタイバー8だけが示される。)が4本架設されている。
【0023】
可動プラテン9は、4本のタイバー8をそれぞれ挿通させた状態で、同タイバー8に沿って(図1では左右方向に)摺動可能に構成している。
【0024】
また、トグルサポート7と可動プラテン9との間には、可動プラテン9をタイバー8に沿って移動させるためのトグル機構13が介設されている。
【0025】
トグル機構13は、進退部材としてのクロスヘッド15、該クロスヘッド15に対して揺動自在に支持されたトグルレバー16、前記トグルサポート7に対して揺動自在に支持されたトグルレバー17、及び前記可動プラテン9に対して揺動自在に支持されたトグルアーム18を備え、クロスヘッド15とトグルレバー16との間、トグルサポート7とトグルレバー17との間、可動プラテン9とトグルアーム18との間、トグルレバー16とトグルレバー17との間、及びトグルレバー17とトグルアーム18との間がそれぞれリンク結合される。また、前記トグルサポート7の後端面(図において左端面)のほぼ中央に、型締用の駆動部としての型締用モータ14が取り付けられている。
【0026】
この型締用モータ14は、前述のクロスヘッド15に連動連結されており、型締用モータ14を駆動し、クロスヘッド15を進退させることによって、前記トグル機構13を作動可能としている。
【0027】
例えば、型締用モータ14を正方向に駆動し、クロスヘッド15を前進(図において右方向に移動)させることによって、トグル機構13を作動させると、可動プラテン9が前進させられ、金型部5の型閉じを行うことができる。
【0028】
また、型締用モータ14を更に正方向に駆動すると、トグル機構13は、型締用モータ14によって発生させられた推進力にトグル倍率を乗じた型締力を発生させる。したがって、該型締力によって型締めが行われ、金型部5内にキャビティ空間が形成されることとなる。
【0029】
また、この状態で型締用モータ14を逆方向に駆動し、クロスヘッド15を後退(図において左方向に移動)させ、トグル機構13を作動させると、可動プラテン9が後退させられ、金型部5の型開きが行われる。
【0030】
金型部5は、キャビティを構成する面(以下、キャビティ面ともいう。)を可動プラテン9側へ向けた状態で固定プラテン6に取り付けられた固定金型10と、キャビティ面を固定プラテン6側へ向けた状態で可動プラテン9に取り付けられた可動金型11とで構成している。
【0031】
具体的には、図2に示すように、固定金型10は、射出部1との接続口40を備えると共に、固定金型10全体を固定プラテン6に取付るための固定側取付プレート41と、射出された溶融樹脂を各キャビティC1,C2に導くための湯道26を備えたマニフォールドプレート42と、成形する樹脂製品の一側面の形状が象られた固定側キャビティプレート43と、で構成している。なお、本実施形態では、説明を容易とするために、異種形状の2つのキャビティC1及びC2により樹脂成形を行うこととしているが、これに限定されるものではなく、更なるキャビティを設けるようにしても良いのは勿論である。
【0032】
固定側取付プレート41は、後述の可動側取付プレート44と共に、マニフォールドプレート42やエジェクタプレート45、各キャビティプレート43,46を挟圧するためのプレートである。
【0033】
また、固定側取付プレート41の略中央部には、射出部1の射出シリンダ21が連結される接続口40が形成されており、同接続口40の先端は、マニフォールドプレート42の湯道26に連通されている。すなわち、射出部1により接続口40に射出された溶融樹脂は湯道26に導入される。
【0034】
固定側キャビティプレート43には、導入された溶融樹脂を各キャビティに導くための湯道26が形成されている。具体的には、湯道26は、射出部1からの溶融樹脂を受け入れる流入湯道27と、同流入湯道27より分岐して第1キャビティC1に溶融樹脂を導く第1分岐湯道28と、流入湯道27より分岐して第2キャビティC2に溶融樹脂を導く第2分岐湯道29とで構成している。
【0035】
また、マニフォールドプレート42には、湯道26の周辺部を加熱する加熱手段が内蔵されており、湯道26中を流れる溶融樹脂の溶融状態を保持可能とした所謂ランナーレス金型(ホットランナー式)としている。
【0036】
また、第1分岐湯道28及び第2分岐湯道29の下流側には、各キャビティC1,C2毎にそれぞれ独立して溶融樹脂の流入や停止を行うことのできる第1ゲートバルブ30及び第2ゲートバルブ31が配設されている。
【0037】
各ゲートバルブ30,31は、内部を流通する溶融樹脂を保温して溶融状態を保つことのできる筒状体34と、同筒状体34のキャビティ側端部に設けられ、溶融樹脂を各キャビティC1,C2へ射出する射出開口35と、筒状体34内で進退自在に構成され、射出開口35を閉塞する尖鋭状のロッド37とが備えられている。
【0038】
また、各ロッド37の固定側取付プレート41側端部には、筒状体34内に配設したロッド37を油圧により進退させるロッド進退機構38がそれぞれ設けられている。
【0039】
このロッド進退機構38を駆動することにより、尖鋭状としたロッド37を移動させて、射出開口35を閉塞したり開放可能に構成している。すなわち、各ゲートバルブ30,31は、所謂ニードルバルブとしている。また、各ロッド進退機構38にはそれぞれ油圧配管38aが接続されており、図示しない油圧供給装置により供給される作動油の圧力で、独立して駆動可能に構成している。なお、図2中において、第1ゲートバルブ30は開状態(溶融樹脂が第1キャビティC1に流入可能な状態)を示し、第2ゲートバルブ31は閉状態(溶融樹脂が第2キャビティC2に流入不可能な状態)を示している。
【0040】
また、上述のようにロッド進退機構38は、マニフォールドプレート42内に設けることとしている。したがって、例えばロッド進退機構38を固定側取付プレート41に配設した場合に比して、ロッド37の長さを可及的に短くすることができ、ロッド37の変形による不具合を防止したり、ロッド37の耐久性を向上させることができる。
【0041】
固定側キャビティプレート43には、第1ゲートバルブ30の射出開口35の位置に、第1キャビティC1を構成する第1キャビティ部C1aが形成され、また、第2ゲートバルブ31の射出開口35の位置に、第2キャビティC2を構成する第2キャビティ部C2aが形成されている。
【0042】
これらキャビティ部C1a及びC2aは、後述の可動側キャビティプレート46に形成されたコア部と併せることで、第1キャビティC1及び第2キャビティC2を形成する。
【0043】
また、キャビティ部C1a及びC2aには、それぞれ第1ゲートバルブ30及び第2ゲートバルブ31の射出開口35をのぞませて、溶融樹脂を流入させるためのゲート口36が形成されている。すなわち、第1ゲートバルブ30及び第2ゲートバルブ31は、複数の異種形状のキャビティに連通したゲート口36を互いに時間差を有して開閉させる機能を有する複数の開閉弁の役割を果たす。
【0044】
一方、可動金型11は、同可動金型11全体を可動プラテン9に取付るための可動側取付プレート44と、成形後の樹脂成形品を各キャビティC1,C2から取り外す取り外し機構(図示せず)を備えたエジェクタプレート45と、成形する樹脂製品の他側面の形状が象られた可動側キャビティプレート46と、で構成している。
【0045】
可動側取付プレート44は、前述の固定側取付プレート41と共に、マニフォールドプレート42やエジェクタプレート45、各キャビティプレート43,46を挟圧するためのプレートである。
【0046】
エジェクタプレート45は、各キャビティC1,C2に溶融樹脂を充填して固化させた後、型開きを行って樹脂成型品の取出を行う際に、各樹脂成型品の可動側キャビティプレート46から抜去補助を行う取り外し機構が備えられたプレートである。
【0047】
また、可動側キャビティプレート46は、前述のキャビティ部C1a及びC2aに対向する位置に、それぞれ第1コア部C1b及び第2コア部C2bが形成されており、それぞれを会合させて第1キャビティC1及び第2キャビティC2を形成する。なお、本実施形態においては、第1キャビティC1の投影面積は、第2キャビティC2の投影面積の3倍とした異種形状としている。
【0048】
なお、可動側キャビティプレート46のコア部C1b及びC2bには、前述のエジェクタプレート45の取り外し機構により出没する突片が臨ませてあり、樹脂成型品の取出の際にこの突片が突出することで、樹脂成型品の可動側キャビティプレート46からの抜去補助が行われる。
【0049】
上述のような構成を有する射出成形装置Aにおいて、本実施形態に係る射出成形方法では、樹脂材料Jを、複数のキャビティC1,C2へ同時に射出するのではなく、時間差を設けながら順に射出する点に特徴を有している。そこで、本実施形態に係る射出成形方法について、図3〜図5を参照しながら説明する。図3は本実施形態に係る射出成形方法の流れを示したフローであり、図4及び図5は、本実施形態に係る射出成形方法による成形過程を模式的に示した説明図である。なお、図3のフローは繰り返し行われるものであるため、以下の説明において、最初のステップS11から、最後のステップS22をまとめて「1サイクル」とし、その次に行われるサイクルを「次のサイクル」、前に行われたサイクルを「前のサイクル」のように表現する。また、図4及び図5は、説明を容易とするために、金型部5及び射出部1のみを簡略化して示している。
【0050】
本実施形態に係る射出成形方法では、まず型締部4により可動プラテン9を固定プラテン6に接近させて、図4(a)に示すように、固定金型10と可動金型11とを重合させる型閉じを行う(ステップS11)。
【0051】
具体的には、図1に示した型締用モータ14を正方向に駆動し、クロスヘッド15を前進(図1において右方向に移動)させ、トグル機構13を作動させて、可動プラテン9を前進し、金型部5の型閉じをする。なお図4(a)は、完全に型閉じが終了していない状態を示しており、各キャビティ部C1a,C2a、及び各コア部C1b,C2bによって各キャビティC1,C2は、まだ形成されていない。また、このとき射出部1には、図4(a)に示すように、前のサイクルにて既に可塑化工程が行われている状態にある。
【0052】
その後、さらにトグル機構13によって両金型10,11に圧力を加え(ステップS12)、固定金型10と可動金型11との間にキャビティC1,C2を形成する。
【0053】
次に、溶融樹脂を第1キャビティC1に射出する第1キャビティ射出充填工程を行う(ステップS13)。本工程では、図4(b)に示すように、第1ゲートバルブ30の射出開口35を開放した状態(以下、開状態という。)とし、第2ゲートバルブ31の射出開口35を閉塞した状態(以下、閉状態という。)とするとともに、ピストン50を射出シリンダ21内で前進させ、第1分岐湯道28を介して第1キャビティC1内部に溶融樹脂を充填する。なお、図中において各ゲートバルブ30,31の開閉状態を示すにあたり、開状態を網掛け、閉状態を白抜きで示しているが、これは理解を容易とするためのものであり、各ゲートバルブ30,31内の溶融樹脂の有無を示すものではない。
【0054】
また、このとき、第1キャビティC1内に圧入される溶融樹脂によって、可動金型11に対し、固定金型10から離れる方向への力が発生する。そこで、この力に抗するために、トグル機構13により可動金型11に対し、固定金型10に近接させる向きへの力を付与する。本実施例では、このとき必要な力の大きさをPとする。
【0055】
次に、第1キャビティC1に充填した溶融樹脂を保圧する第1キャビティ保圧工程を行う(ステップS14)。本工程では、ステップS13において開状態としていた第1ゲートバルブ30を閉状態として、第1キャビティC1内の圧力を保つ。
【0056】
次に、図4(c)に示すように、第1キャビティC1への射出により、第2キャビティC2での成形に足りなくなった樹脂材料Jを射出シリンダ21に補給する第2キャビティ充填用可塑化工程を行う(ステップS15)。具体的には、第2キャビティC2の容量に見合う樹脂材料Jをホッパ20に供給して、射出シリンダ21内に溶融樹脂を貯留する。なお、ゲートバルブ30,31は、両者とも射出開口35を閉状態としている。
【0057】
また、このとき第1キャビティC1は、固定側キャビティプレート43及び可動側キャビティプレート46に形成された図示しない冷却水路に冷却媒体(例えば、水)を流通させ、第1キャビティC1内に充填された樹脂を冷却して固化させる第1キャビティ冷却工程を行う(ステップS16)。
【0058】
次に、溶融樹脂を第2キャビティC2に射出する第2キャビティ射出充填工程を行う(ステップS17)。本工程では、図5(a)に示すように、第1ゲートバルブ30の射出開口35を閉状態とし、第2ゲートバルブ31を開状態とするとともに、ピストン50を射出シリンダ21内で前進させ、第2分岐湯道29を介して第2キャビティC2内部に溶融樹脂を充填する。
【0059】
また、このとき、前述の第1キャビティ射出充填工程(ステップS13)と同様、第2キャビティC2内に圧入される溶融樹脂によって、可動金型11に対し、固定金型10から離れる方向への力が発生する。そこで、この力に抗するために、トグル機構13により可動金型11に対し、固定金型10に近接させる向きへの力を付与する訳であるが、第2キャビティC2の投影面積は、第1キャビティC1の投影面積の1/3であるため、このとき必要となる力は、第1キャビティ射出充填工程で必要とした力の3分の1、すなわち、1/3Pとなる。
【0060】
したがって、充填時に必要な型締圧が少なくて済むことから、第1キャビティ射出充填工程で要した型締圧(P)と同じ型締圧を第2キャビティ射出充填工程で付与する場合に比して、型締用モータ14に要する電力を削減することができ、生産コストを安価にすることができる。
【0061】
また、上述の如く、第1キャビティ射出充填工程と第2キャビティ射出充填工程とを別個に行うこととしているため、各キャビティC1,C2に同時に樹脂材料を射出する場合に比して、各キャビティC1,C2がそれぞれ異種形状であっても、それぞれのキャビティC1,C2にかかる圧力を一定とすることができるため、均一な成形品を成形することができる。併せて、各キャビティC1,C2毎に、それぞれ異なった圧力を付与するように設定することもできる。
【0062】
さらに、第1キャビティ射出充填工程の後、第2キャビティ充填用可塑化工程を行い、その後、第2キャビティ射出充填工程を行うこととしたため、射出シリンダ容量が小さい射出成形装置Aであっても、複数の異種形状の樹脂成型品を成形することができる。
【0063】
換言すれば、複数の異種形状のキャビティのうち、最大容量のキャビティに充填できる容量を備えた射出シリンダであれば、1サイクルで複数の異種形状の樹脂成型品を成形することができる。
【0064】
次に、第2キャビティC2に充填した溶融樹脂を保圧する第2キャビティ保圧工程を行う(ステップS18)。本工程では、ステップS17において開状態としていた第2ゲートバルブ31を閉状態として、第2キャビティC2内の圧力を保つ。
【0065】
次に、図5(b)に示すように、次のサイクルにて第1キャビティC1への充填に必要な樹脂材料Jを射出シリンダ21に供給する第1キャビティ充填用可塑化工程を行う(ステップS19)。具体的には、第1キャビティC1の容量に見合う量の樹脂材料Jをホッパ20に供給して、射出シリンダ21のピストンロッド51に形成したスクリューコンベア53を回転させ、樹脂材料Jを加熱して溶融樹脂としながら射出シリンダ21の先端方向へ送給する。このとき射出シリンダ21の先端部分で溶融樹脂が増えるに従い、ピストン50は後方へ徐々に移動することとなる。なお、この可塑化工程を行う際は、ゲートバルブ30,31は、両者とも閉状態としている。
【0066】
また、このとき第2キャビティC2は、固定側キャビティプレート43及び可動側キャビティプレート46に形成された図示しない冷却水路に冷却媒体(例えば、水)を流通させ、第2キャビティC2内に充填された樹脂を冷却して固化させる第2キャビティ冷却工程を行う(ステップS20)。
【0067】
そして、図1に示した型締用モータ14を逆方向に駆動し、クロスヘッド15を後退(1図において左方向に移動)させ、トグル機構13を作動させて、可動プラテン9が後退し、図5(c)に示すように金型部5の型開きを行う(ステップS21)。
【0068】
その後、可動金型11のエジェクタプレート45に設けられた取り外し機構(図示せず)を駆動して、可動金型11より第1キャビティC1により形成された樹脂成形品60と、第2キャビティC2により形成された樹脂成形品61とを可動金型11から取り外す取出工程を行う(ステップS22)。またこのとき、作業に必要である場合には、射出成形装置Aの休止時間をとることもできる。
【0069】
このようにして1サイクルが終了すると、再びステップS11に戻り次のサイクルを開始して、繰り返し樹脂成形品60,61を製造することとなる。
【0070】
上述してきたように、本実施形態に係る射出成形方法によれば、異種形状よりなる複数個のキャビティC1,C2を有する金型部5を用いて射出成形を行うホットランナー方式金型を用いた射出成形方法において、閉じている金型部5の他のキャビティ(例えば、第2キャビティC2)に通じる樹脂流路を閉塞した状態(例えば、第2ゲートバルブ31を閉状態)で、所望の一個のキャビティ(例えば、第1キャビティC1)に樹脂材料を射出し、次いで、所望の一個のキャビティ(例えば、第1キャビティC1)に通じる樹脂流路を閉塞した状態(例えば、第1ゲートバルブ30を閉状態)で、各樹脂流路(例えば、湯道26)と連通した射出シリンダ21のピストン50を後退しながらピストンロッド51に形成したスクリューコンベア53を介して射出シリンダ21内に次の所望のキャビティ(例えば、第2キャビティC2)の容量に見合う樹脂材料を供給し、次いで、所望のキャビティ(例えば、第2キャビティC2)に通じる樹脂流路を開放した状態(例えば、第2ゲートバルブ31を開状態)で、射出シリンダ21より所望のキャビティ(例えば、第2キャビティC2)の内容量に相応する樹脂材料を供給し、時間差をもって複数のキャビティC1,C2への樹脂材料の供給を行い、所望の複数のキャビティC1,C2に射出した樹脂材料の固化後に金型部5を開いて樹脂成形品60,61を同時に型外しすることとしたため、型締力を増大させることなく、異種形状の複数のキャビティにて品質の整った樹脂製品の成形を行うことができる射出成形方法を提供することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る射出成形装置によれば、射出成形機(例えば、成形部2)の固定プラテン6と可動プラテン9とにそれぞれ固定金型10と可動金型11とを装着し、これらの金型10,11によって異種形状の複数個のキャビティ(例えば、キャビティC1,C2)を形成し、上記固定プラテン6に装着した固定金型10に、複数の異種形状のキャビティ(例えば、キャビティC1,C2)に樹脂材料を射出するための複数のゲート(例えば、ゲート口36)を形成し、さらに上記射出シリンダ21のノズル(射出ノズル23)との接続部から分岐して複数のゲート(例えば、ゲート口36)に連通する樹脂材料流路(たとえば、流入湯道27,第1分岐湯道28,第2分岐湯道29)を形成すると共に、複数の異種形状のキャビティ(例えば、キャビティC1,C2)に連通した上記ゲート(例えば、ゲート口36)を互いに時間差を有して開閉させる複数の開閉弁(例えば、ゲートバルブ30,31)を設け、しかも、射出シリンダ21は、1回目の射出作業後にスクリューコンベア53機能を有したピストンロッド51が後退する際に、2回目の射出の樹脂材料が射出シリンダ21内に供給されるように構成したため、型締力を増大させることなく、異種形状の複数のキャビティにて品質の整った樹脂製品の成形を行うことができる射出成形機を提供することができる。
【0072】
さらに、本実施形態に係る射出成形装置では、前記固定金型10は、射出シリンダ21より射出される樹脂材料の受入れ開口(例えば、接続口40)が形成された取付プレート(例えば、固定側取付プレート41)と、前記樹脂材料流路(例えば、湯道26)が形成されたマニフォールドプレート42と、前記キャビティC1,C2の一側部を構成するキャビティプレート(例えば、固定側キャビティプレート43)とで構成するとともに、前記開閉弁(例えば、ゲートバルブ30,31)は、尖鋭状とした先端で前記ゲート(例えば、ゲート口36)を閉塞するロッド37と、圧力(例えば、油圧)により前記ロッド37を進退させる進退機構(例えば、ロッド進退機構38)とよりなるニードルバルブとし、前記進退機構(例えば、ロッド進退機構38)を前記マニフォールドプレート42内に設けていることとしたため、例えばロッド進退機構38を固定側取付プレート41に配設した場合に比して、ロッド37の長さを可及的に短くすることができ、ロッド37の変形による不具合を防止したり、ロッド37の耐久性を向上させることができる。
【0073】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0074】
例えば、本実施の形態においては、型締用の駆動部として型締用モータ14が使用されるようになっているが、型締用の駆動部として型締用モータ14に代えて型締シリンダを使用し、該型締シリンダを駆動することによって、直接クロスヘッド15を進退させることができる。また、本実施の形態においては、トグル機構13を作動させることによって型締力を発生させるようにしているが、トグル機構13を使用することなく、所謂油圧式によって型締等を行うように構成しても良い。
【0075】
また、本実施形態では、金型部5に形成したキャビティは2つとしたため、大まかな流れとして、第1キャビティ射出充填工程→第2キャビティ充填用可塑化工程→第2キャビティ射出充填工程→第1キャビティ充填用可塑化工程→(戻る)を繰り返し行うこととしたが、これに限定されるものではない。
【0076】
例えば、キャビティを3個設けた場合には、第1キャビティ射出充填工程→第2キャビティ充填用可塑化工程→第2キャビティ射出充填工程→第3キャビティ充填用可塑化工程→第3キャビティ射出充填工程→第1キャビティ充填用可塑化工程→(戻る)を繰り返し行うことで、同様に樹脂成型品を得ることができる。
【0077】
また、各キャビティ射出充填工程で充填対照となるキャビティは、必ずしも1つでなくとも良い。例えば、第1キャビティ射出充填工程で1つの第1キャビティに充填し、第2キャビティ射出充填工程で、第1キャビティの容量の半分より小さい容量を有する2つのキャビティ(第2キャビティ及び第3キャビティ)に充填するようにしても良い。このとき、第2キャビティ及び第3キャビティは、同形状又は投影面積が同じである方がより好ましい。
【0078】
また、本実施形態においてロッド進退機構38は、図示しない油圧供給装置により供給される作動油の圧力でロッド37を進退させるよう構成したが、例えば、空気の圧力によりロッド37を進退させるよう構成しても良い。
【0079】
また、本実施形態において、ロッド進退機構38への圧力供給は、マニフォールドプレート42に設けた接続部材38bを介して行うこととしたが、これに限定されるものではなく、例えば、接続部材38bは、固定側取付プレート41に設けるようにしても良い。
【0080】
また、本実施形態では、一つのキャビティ(例えば、キャビティC1)からは、一つの樹脂成形品(例えば、樹脂成形品60)が成形されるよう構成したが、これに限定されるものではなく、一つのキャビティに、更に小さな複数の小キャビティを形成し、複数の樹脂成型品が得られるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 射出部
2 成形部
4 型締部
5 金型部
6 固定プラテン
9 可動プラテン
10 固定金型
11 可動金型
13 トグル機構
21 射出シリンダ
23 射出ノズル
26 湯道
30 第1ゲートバルブ
31 第2ゲートバルブ
35 射出開口
37 ロッド
38 ロッド進退機構
38a 油圧配管
40 接続口
41 固定側取付プレート
42 マニフォールドプレート
43 固定側キャビティプレート
50 ピストン
51 ピストンロッド
53 スクリューコンベア
A 射出成形装置
C1 第1キャビティ
C2 第2キャビティ
J 樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種形状よりなる複数個のキャビティを有する金型を用いて射出成形を行うホットランナー方式金型を用いた射出成形方法において、
閉じている金型の他のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、所望の一個のキャビティに樹脂材料を射出し、次いで、所望の一個のキャビティに通じる樹脂流路を閉塞した状態で、各樹脂流路と連通した射出シリンダのピストンを後退しながらピストンロッドに形成したスクリューコンベアを介して射出シリンダ内に次の所望のキャビティの容量に見合う樹脂材料を供給し、
次いで、所望のキャビティに通じる樹脂流路を開放した状態で、射出シリンダより所望のキャビティの内容量に相応する樹脂材料を供給し、時間差をもって複数のキャビティへの樹脂材料の供給を行い、
所望の複数のキャビティに射出した樹脂材料の固化後に金型を開いて成形品を同時に型外しすることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
射出成形機の固定側プラテンと可動側プラテンとにそれぞれ固定金型と可動金型とを装着し、これらの金型によって異種形状の複数個のキャビティを形成し、上記固定側プラテンに装着した固定金型に、複数の異種形状のキャビティに樹脂材料を射出するための複数のゲートを形成し、さらに上記射出シリンダのノズルとの接続部から分岐して複数のゲートに連通する樹脂材料流路を形成すると共に、複数の異種形状のキャビティに連通した上記ゲートを互いに時間差を有して開閉させる複数の開閉弁を設け、しかも、射出シリンダは、1回目の射出作業後にスクリューコンベア機能を有したピストンが後退する際に、2回目の射出の樹脂材料が射出シリンダ内に供給されるように構成したことを特徴とする射出成形装置。
【請求項3】
前記固定金型は、射出シリンダより射出される樹脂材料の受入れ開口が形成された取付プレートと、前記樹脂材料流路が形成されたマニフォールドプレートと、前記キャビティの一側部を構成するキャビティプレートとで構成するとともに、前記開閉弁は、尖鋭状とした先端で前記ゲートを閉塞するロッドと、圧力により前記ロッドを進退させる進退機構とよりなるニードルバルブとし、前記進退機構を前記マニフォールドプレート内に設けていることを特徴とする請求項2に記載の射出成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate