説明

射出成形機の運転状態監視方法及び装置

【課題】 成形条件の設定作業等を能率的に行い、かつ十分な成形品質を確保するとともに、異常の発生自体を事前に予期して無用な運転停止を回避する。
【解決手段】 射出成形機の運転状態を監視するに際し、予め、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定するとともに、運転時に、状態項目に係わる状態を検出することにより検出した状態が非正常条件を満たすか否かを判別し、非正常条件を満たすときは非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形機の運転時には、運転状態を監視し、異常が発生したなら所定の異常処理を行っている。監視対象となる異常には、切換スイッチが正規の切換状態でない切換異常,移動部が移動限界に達していない動作異常,安全ドアが正規の開閉状態にない開閉異常,手動運転時の操作異常,センサの検出異常,不良品に係わる成形異常など、様々な異常が存在し、また、異常処理としては、通常、異常が発生したことに伴う警報出力,運転の停止及び異常履歴の保存が行われる。
【0003】
このように、異常処理は、異常状態が継続することにより射出成形機或いは成形品に無視できない悪影響が生じることを防止するための処理であり、この種の異常処理には、例えば、特開2004−155085号公報に開示される射出成形機の異常解除装置、即ち、射出成形機における比較的重い異常の発生時に、少なくとも異常内容を表示した異常表示欄及びこの異常表示欄に隣接しかつタッチパネルを用いた異常解除ボタンを有する異常表示ウィンドウを、ディスプレイに表示するウィンドウ表示機能を備え、異常を除去した後、異常解除ボタンの操作により異常発生前の状態に復帰させることができるようにした異常解除装置のように、異常が発生した際に、少なくともオペレータに対して異常の発生を知らせ、必要な対策を促すことができる処理が含まれている。
【特許文献1】特開2004−155085号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した射出成形機における従来の異常処理は、次のような解決すべき課題が存在した。
【0005】
第一に、本来の異常に対する対処を目的とするため、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態には対応できない。例えば、圧力リミッタが設けられた射出制御系の場合、正常状態は、リミット圧力以内の充填圧力となるが、充填圧力が高まった場合、圧力リミッタにより充填圧力が制限されるため、異常状態にはならない制御が実行される。しかし、この状態は、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態と考えられ、圧力を上昇させる何らかの原因が存在している。したがって、圧力リミッタが無ければ、充填圧力はいずれ限界に達し、異常状態として現れるが、圧力リミッタが存在することにより、異常状態にはならない。結局、このような非正常状態は、モニタデータとしても現れにくく、見掛上は正常に動作しているため、オペレータにより見過ごされることも少なくないが、実際には、成形品質等の成形結果に微妙に影響する。特に、成形条件の設定時に、目標とする成形品質が得られない場合、その原因を捕らえることが容易でなく、設定作業に時間がかかり、しかも十分に成形品質を確保できない虞れがある。
【0006】
第二に、異常処理は、実際に異常が発生してからの処理となるため、異常の発生自体を事前に予期したり或いは予防することには繋がらない。結局、異常処理が実行されることに伴う無用な運転停止を招くことになり、生産効率の低下や成形品の歩留まり低下などを招いてしまう。
【0007】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した射出成形機の運転状態監視方法及び装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る射出成形機の運転状態監視方法は、上述した課題を解決するため、射出成形機の運転状態を監視するに際し、予め、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定するとともに、運転時に、状態項目に係わる状態を検出することにより検出した状態が非正常条件を満たすか否かを判別し、非正常条件を満たすときは非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行うことを特徴とする。
【0009】
この場合、発明の好適な態様により、非正常条件を満たすか否かの判別は、ショット毎に行い、任意のショットが終了したならリセットすることができる。また、所定の表示は、少なくとも非正常状態H1…が発生したことを自動表示してもよいし、少なくとも非正常状態H1…の内容を表示してもよいし、或いは非正常状態H1…が発生したことを自動表示した後、手動操作により非正常状態H1…の内容を表示してもよい。
【0010】
一方、本発明に係る射出成形機の運転状態監視装置1は、上述した課題を解決するため、射出成形機Mの運転状態を監視する運転状態監視装置を構成するに際して、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する条件設定手段2と、運転中における状態項目に係わる状態を検出する状態検出手段3と、この状態検出手段3により検出した状態が非正常条件を満たすか否かを判別処理する状態判別処理手段4と、この状態判別処理手段4により非正常条件を満たすと判別したなら非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示処理を行う表示処理手段5を備えることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、表示処理手段5は、少なくとも非正常状態H1…が発生したことを表示する表示機能5sを備えて構成できるし、少なくとも非正常状態H1…の内容を表示する表示機能5cを備えて構成することもできる。
【発明の効果】
【0012】
このような本発明に係る射出成形機の運転状態監視方法及び装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 状態項目に係わる状態を検出することにより、検出した状態が非正常条件を満たすか否かを判別し、非正常条件を満たすときに、非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行うようにしたため、オペレータにより見過ごされやすい非正常状態の発生を容易かつ確実に確認でき、成形品質等の成形結果に微妙に影響する原因を速やかに特定することにより、成形条件の設定作業等を能率的に行うことができるとともに、十分な成形品質を確保できる。
【0014】
(2) 異常が発生する前に、異常状態には達しない非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行うため、異常の発生自体を事前に予期したり或いは予防することができる。したがって、異常処理が実行されることに伴う無用な運転停止を回避することができ、生産効率の向上及び成形品の歩留まり向上を実現できる。
【0015】
(3) 好適な態様により、非正常条件を満たすか否かの判別を、ショット毎に行い、任意のショットが終了したならリセットするようにすれば、少なくともショット毎の非正常状態をリアルタイムで確認することができるため、履歴を残したり複雑な表示画面を構成することなく簡易に実施でき、コスト的なメリットを享受できる。
【0016】
(4) 好適な態様により、所定の表示を行うに際し、少なくとも非正常状態H1…が発生したことを自動表示するようにすれば、最低限の情報である非正常状態H1…の発生有無を知ることができる。したがって、最小の表示エリアによる表示が可能となり、他の必要なデータ表示が隠れてしまう不具合を回避できるため、これ以上の表示を不要とし、より能率的な作業を希望するベテランのオペレータにとって最適となる。
【0017】
(5) 好適な態様により、所定の表示を行うに際し、少なくとも非正常状態H1…の内容を表示するようにすれば、非正常状態H1…の種類(内容)を直接確認できる。したがって、非正常状態H1…の内容(サポートメッセージ等)を速やかに確認できるため、成形条件の設定支援としての利用を希望するベテラン以外のオペレータにとって最適となる。
【0018】
(6) 好適な態様により、所定の表示を行うに際し、非正常状態H1…が発生したことを自動表示した後、手動操作により非正常状態H1…の内容を表示するようにすれば、上述した(4)と(5)のメリットの双方を享受或いは使い分けることができ、より使い勝手及び利便性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る運転状態監視装置1を備える射出成形機Mの構成について、図2及び図3を参照して説明する。
【0021】
図2中、仮想線で示すMは射出成形機であり、機台Mbと、この機台Mb上に設置された射出装置Mi及び型締装置Mcを備える。射出装置Miは、加熱筒21を備え、この加熱筒21の前端に図に現れない射出ノズルを有するとともに、加熱筒21の後部には材料を供給するホッパ22を備える。一方、型締装置Mcには可動型と固定型からなる金型23を備える。また、機台Mb上には側面パネル24を起設し、この側面パネル24にカラー液晶ディスプレイ等を用いたディスプレイ25を配設する。このディスプレイ25は、図3に示すように、タッチパネル25tが付設され、タッチパネル25tを含むディスプレイ25は、機台Mbに内蔵したコントローラ本体30mに接続する。
【0022】
図3は、成形機コントローラ30のブロック構成図を示す。31はCPUであり、このCPU31には内部バス32を介してチップセット33を接続する。また、チップセット33には、PCIバス等のローカルバスを用いたバスライン34を接続してHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)制御系を構成する。このため、バスライン34には、RAM,ROM等の各種メモリ類を総括する内部メモリ35を接続する。さらに、バスライン34には、表示インタフェース36を介して上述したディスプレイ25及びタッチパネル25tを接続するとともに、入出力インターフェイス37を介してメモリカード等の記憶メディア38に対する読出及び書込を行うドライブユニット39を接続する。
【0023】
一方、チップセット33には、バスライン34と同様のバスライン40を接続してPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)制御系を構成する。このため、バスライン40には、各種スイッチやリレー等を含むスイッチ群41から得る切換データDd…をCPU31に付与し、かつCPU31から得る制御指令データDo…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス42を接続するとともに、各種センサを含むセンサ群43から得る検出信号Sd…を、アナログ−ディジタル変換してCPU31に付与し、かつCPU31から得る制御指令データをディジタル−アナログ変換して得た制御信号So…を対応するアクチュエータに付与する入出力インターフェイス44を接続する。これにより、所定のフィードバック制御系及びオープンループ制御系が構成される。
【0024】
したがって、前述した内部メモリ35には、PLCプログラムとHMIプログラムを格納するとともに、各種処理プログラムを格納する。なお、PLCプログラムは、射出成形機Mにおける各種工程のシーケンス動作や射出成形機Mの監視等を実現するためのソフトウェアであり、HMIプログラムは、射出成形機Mの動作パラメータの設定及び表示,射出成形機Mの動作監視データの表示等を実現するためのソフトウェアである。これらのソフトウェアは、成形機コントローラ30を搭載する射出成形機Mの固有アーキテクチャとして構築され、特に、本実施形態に係る運転状態監視方法に係わる処理を実行できる。
【0025】
次に、本実施形態に係る運転状態監視装置1の構成について、図1〜図5を参照して説明する。
【0026】
上述した成形機コントローラ30は、射出成形機Mの全体の制御を司るコンピュータ機能を有するとともに、本実施形態に係る運転状態監視装置1としても機能する。図4に、成形機コントローラ30により実現される運転状態監視装置1の機能ブロック図を示す。図4において、2は条件設定手段(条件設定機能)であり、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する機能を備える。この非正常条件は、内部メモリ35に設定されるため、内部メモリ35は、条件設定手段2の主要部を構成する。
【0027】
本実施形態では、状態項目として、(a)スクリュ位置,(b)充填圧力,(c)速度−圧力切換位置,(d)保圧切換,(e)保圧位置,(f)エジェクタピン位置を例示する。また、各状態項目に対して設定される非正常条件は次のようになる。(a)スクリュ位置の場合、「計量工程完了後から射出工程開始までの間にスクリュの計量位置が設定した値を越えたとき」又は「射出工程完了から射出圧抜完了までの間に、計量位置が設定した値を越えたとき」が非正常条件となる。射出保圧力が高く、クッション量が多い場合などにスクリュ位置が後退して戻されるためである。(b)充填圧力の場合、「射出工程中に、充填圧力がリミット圧力に達したとき(又は到達が予測されるとき)」が非正常条件となる。圧力リミッタにより充填圧力が高くなった場合にリミット圧力に制限されるためである。(c)速度−圧力切換位置の場合、「速度−圧力切換を圧力モードで行った際に設定位置よりも手前で圧力が切換圧力に達したとき」又は「速度−圧力切換を外部モードで行った際に設定位置よりも手前で外部からの切換信号を検出したとき」が非正常条件となる。速度−圧力切換を圧力モードで行うときは、設定位置を通過した後に切換わることが条件になり、外部モードで行うときは、設定位置を通過した後に切換信号を検出することが条件になるためである。(d)保圧切換の場合、「速度−圧力切換位置に達しなかったとき」,「速度−圧力切換圧力に達しなかったとき」及び「外部からの速度−圧力切換のための切換信号が入力されなかったとき」が非正常条件となる。(e)保圧位置の場合、「射出工程で設定位置まで前進し、設定位置を保持する保圧モードにおいて、設定位置に達しないとき」が非正常条件となる。(f)エジェクタピン位置の場合、「エジェクタピンを前進させて成形品の一部やゲートを切断する際に、エジェクタピンが前進位置が設定位置まで達しないとき」が非正常条件となる。
【0028】
一方、図4において、3は状態検出手段(状態検出機能)であり、運転中における上述した状態項目に係わる状態を検出する機能を有する。したがって、スイッチ群41及びセンサ群43が状態検出手段3の主要部を構成する。また、4は状態判別処理手段(状態判別処理機能)であり、状態検出手段3により検出した状態が条件設定手段2により設定された非正常条件を満たすか否かを判別処理する機能を有する。したがって、コントローラ本体30mが状態判別処理手段4を構成する。
【0029】
さらに、5は表示処理手段であり、状態判別処理手段4により非正常条件を満たすと判別したなら非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示処理を行う機能を有する。したがって、ディスプレイ25が表示処理手段5の主要部を構成する。例示の表示処理手段5は、非正常状態H1…が発生したことを表示する第一表示機能5sと非正常状態H1…の内容を表示する第二表示機能5cを備えている。図1及び図2は、ディスプレイ25に表示される工程監視画面Vmを示す。工程監視画面Vmにおいて、51は第一表示機能5sにより表示されるアイコン(「!Check」)を示すとともに、52は第二表示機能5cによりウィンドウ表示されるサポートメッセージ表示画面を示す。したがって、アイコン51は、非正常状態H1…が発生したことに表示するとともに、サポートメッセージ表示画面52は、非正常状態H1…の内容を表示する。
【0030】
なお、ディスプレイ25の表示画面における上段と下段には、各種画面を切換える画面項目毎に設けた複数の画面切換キーK1,K2,K3…が表示される。この画面切換キーK1…は、使用頻度の高さを考慮してランク分けされ、上段に、型開閉画面切換キーK1,エジェクタ画面切換キーK2,射出・計量画面切換キーK3,温度画面切換キーK4,モニタ画面切換キーK5,主要条件画面切換キーK6,条件切換画面切換キーK7を有する成形機の動作条件の設定に係わる第一のグループGaが横一列に配されるとともに、下段に、これ以外となる段取り画面切換キーK8,工程監視画面切換キーK9,生産情報画面切換キーK10,波形画面切換キーK11,統計画面切換キーK12,トレンド画面切換キーK13を有する第二のグループGbが横一列に配される。なお、第二のグループGbは、第一階層が表示された状態であるが、画面右端の階層画面切換キーKcをタッチすることにより、第二階層における画面切換キーに入れ替えることができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る運転状態監視方法について、図1〜図5を参照しつつ図6に示すフローチャートに従って説明する。
【0032】
今、射出成形機Mでは、試し打ち(テストショット)を行いながらオペレータが成形条件の設定を行なっているものとする。ディスプレイ25では、工程監視画面切換キーK9が選択(ON)され、図2に示す工程監視画面Vmが表示されている。
【0033】
まず、テストショットによる射出成形機Mの運転が行われれば、本実施形態に係る運転状態監視方法により非正常状態に対する監視が行われる(ステップS1)。この場合、スイッチ群41及びセンサ群43(状態検出手段3)から、運転中における状態項目、即ち、上述した(a)スクリュ位置,(b)充填圧力,(c)速度−圧力切換位置等に係わる状態が検出され、検出された位置検出データ,圧力検出データ,切換検出データ等は、コントローラ本体30mに付与される。コントローラ本体30m(内部メモリ35(条件設定手段2))には、検出された状態に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件が設定されているため、コントローラ本体30m(状態判別処理手段4)は、検出された状態(位置検出データ,圧力検出データ,切換検出データ等)を監視し、非正常条件を満たすか否かの判別処理を行う(ステップS2)。
【0034】
そして、任意の状態項目に係わる状態が所定の非正常条件を満たしたものとする。例えば、検出されるスクリュ位置(状態項目)に係わる位置検出データを監視し、計量工程完了後から射出工程開始までの間に、設定された計量位置を越えた場合には、非正常条件を満たすことになる。これにより、ディスプレイ25(表示処理手段5)の工程監視画面Vmには、図1に示す「!Check」のアイコン51が自動表示される(ステップS3)。この場合、各状態は、複数の状態項目のうちの一つでも非正常条件を満たせば、アイコン51が自動表示される。
【0035】
図5に、ディスプレイ25に表示される画面上部の一部を抽出して示す。図5(a)はアイコン51が表示される前の画面、図5(b)はアイコン51が表示された画面を示す。ディスプレイ25に表示される画面上部には、図5(a)に示すように、四つの汎用表示部53a,53b…53dが表示され、この汎用表示部53a…は、画面切換が行われても常時表示される。アイコン51は、汎用表示部53dに自動表示される。したがって、最小の表示エリアによる表示が可能となり、工程監視に必要な各種データ表示が行われる工程監視画面Vmには全く影響しないため、他の必要なデータ表示が隠れてしまう不具合を回避できる。アイコン51が自動表示されれば、オペレータは、非正常状態H1…が発生したこと、即ち、最低限の情報である非正常状態H1…の発生有無を知ることができる。よって、これ以上の表示を不要とし、より能率的な作業を希望するベテランのオペレータにとって最適となる。
【0036】
一方、アイコン51を手動操作により選択(ON)すれば、図1に示すサポートメッセージ表示画面52をウィンドウ表示することができる(ステップS4,S5)。例示のサポートメッセージ表示画面52は、七項目の非正常状態H1,H2,H3…H7がメッセージにより表示され、非正常条件を満たした非正常状態H1…のメッセージの先頭に有するアラーム表示L1,L2,L3がON表示される。例示の場合、上から二段目の非正常状態H2と五段目の非正常状態H5が、例えば、黒色表示から黄色表示に変更され、発生した非正常状態H1…の種類(内容)を直接確認できる。よって、非正常状態H1…の内容となるサポートメッセージを速やかに確認できるため、成形条件の設定支援としての利用を希望するベテラン以外のオペレータにとって最適となる。
【0037】
サポートメッセージ表示画面52の内容を確認したなら、「閉じる」キー53を選択(ON)することにより、サポートメッセージ表示画面52のウィンドウ表示を閉じることができる(ステップS6,S7)。このように、アイコン51を自動表示した後、手動操作によりサポートメッセージ表示画面52を表示するため、アイコン51を自動表示したときのメリットとサポートメッセージ表示画面52を表示したときのメリットの双方を享受或いは使い分けることができ、使い勝手及び利便性を高めることができる。
【0038】
そして、任意のショットが終了することにより、一連の監視処理による判別結果等はリセットされ、初期状態に戻される(ステップS8,S9)。これにより、次のショットを行う際には、初期状態から新たに監視処理が行われる(ステップS1…)。なお、任意のショットにおいて非正常状態H1…が検出されない場合は、そのショットにおけるアイコン51の自動表示は行われない(ステップS2)。また、アイコン51が自動表示されてもアイコン51を手動操作しない場合は、そのショットにおけるサポートメッセージ表示画面52は表示されない(ステップS4)。
【0039】
以上の監視処理は、非正常状態に対しての監視処理である。したがって、本来の異常が発生した場合には異常処理が行われる。この場合、重異常であれば、特開2004−155085号公報に開示される異常処理が行われ、軽異常であれば、図5(b)に示すように、成形機コントローラ30に備える軽異常表示機能により、汎用表示部53aに異常コードを含む異常メッセージが表示される。軽異常に関しては、異常メッセージに従って軽異常を除去すればよい。
【0040】
このように、本実施形態に係る運転状態監視方法及び装置1によれば、状態項目に係わる状態を検出することにより、検出した状態が非正常条件を満たすか否かを判別し、非正常条件を満たすときに、非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行うようにしたため、オペレータにより見過ごされやすい非正常状態の発生を容易かつ確実に確認でき、成形品質等の成形結果に微妙に影響する原因を速やかに特定することにより、成形条件の設定作業等を能率的に行うことができるとともに、十分な成形品質を確保できる。また、異常が発生する前に、異常状態には達しない非正常状態H1,H2,H3…に係わる所定の表示を行うため、異常の発生自体を事前に予期したり或いは予防することができる。したがって、異常処理が実行されることに伴う無用な運転停止を回避することができ、生産効率の向上及び成形品の歩留まり向上を実現できる。
【0041】
他方、図7には、サポートメッセージ表示画面52の変更例を示す。図7に示すサポートメッセージ表示画面52は、各非正常状態H1,H2…のメッセージの後に、監視を行うか否かを選択できる監視選択部61と、履歴を残すか否かを選択できる履歴選択部62を設けたものである。前述したように、ベテランのオペレータにとって非正常状態が当然に予測される場合や特定の状態項目に着目して監視を行いたい場合には、非正常状態H…の監視が不要となる状態項目が生じる。この場合、監視選択部61を利用して監視の必要な非正常状態と不要な非正常状態を選択して設定できる。例示の場合、上から四段目の非正常状態H4と五段目の非正常状態H5に対する監視は行わない。なお、この設定は運転モードが切換わった際にリセットし、次回の設定時や本生産に移行した際に、設定が有効として残る不具合を回避する。
【0042】
また、サポートメッセージ表示画面52に表示される監視結果は、履歴として残らないが、このような監視結果であっても、履歴として残したい場合がある。この場合には、履歴選択部62により、履歴を残したい非正常状態H1…を選択して設定できる。例示の場合、上から二段目の非正常状態H2と六段目の非正常状態H6の監視結果が履歴として保存される。したがって、後に、特定の(選択した)状態項目に対して過去の監視結果がどのような状態にあったかを確認できる。通常、異常処理が行われる場合には、全て履歴として保存されるが、非正常状態の履歴は、さほど重要性はないため、選択して保存することにより、いわばメモとして残すことができる。
【0043】
図8には、サポートメッセージ表示画面52の他の変更例を示す。同図に示すサポートメッセージ表示画面52は、各非正常状態H1,H2…のメッセージの後に、過去5回のショットにおける監視結果を履歴として表示する履歴表示部63を設けたものである。したがって、過去6回以前のショットにおける監視結果は順次消去される。例示の場合、直前のショットでは、上から二段目の非正常状態H2が非正常状態であったことを示し、今回も継続していることを把握できるなど、このような履歴表示部63を設ければ、設定作業全体の状況を時間軸により把握できる。なお、図7と図8を組合わせた実施も勿論可能である。また、図7及び図8において、図1と同一部分には同一符号を付してその構成を明確にした。
【0044】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,手法,形状,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0045】
例えば、状態項目として七項目を例示したが、一項目でもよいし八項目以上であってもよい。他の状態項目としては、ブレーキ制御の有無がある。この場合、「射出目標設定位置が、最前進位置よりも同じか少し手前でリミット位置となり、モータに対するブレーキ制御が行われたこと」が非正常条件となる。また、第二表示機能5cによる非正常状態H1…の内容は、第一表示機能5sにより表示されるアイコン51を手動操作して表示する場合を示したが、アイコン51を表示させることなく、非正常状態H1…の内容を直接自動表示してもよい。この場合、例えば、任意の非正常状態が発生した時点において、発生した非正常状態H1…をリアルタイムで汎用表示部53d…に表示するとともに、次に、他の非正常状態H2…が発生したなら、既に表示されている汎用表示部53d…に書換えて表示する。この際、既に発生した件数の有無或いは数を表示し、確認キー等により再表示できるようにする。このように、非正常状態H1…に係わる表示は、各種形態により実施できる。なお、本発明に係る運転状態確認方法は、成形条件の設定作業に用いて好適であるが、本生産を行う際における非正常状態の監視にも勿論適用することができる。この場合、予期しない事故や故障を防止できるとともに、安定した成形(生産)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る運転状態監視装置に用いるディスプレイの表示画面図、
【図2】同運転状態監視装置を備える射出成形機の概要図、
【図3】同射出成形機に備える成形機コントローラのブロック構成図、
【図4】同射出成形機に備える運転状態監視装置の機能ブロック図、
【図5】本発明の最良の実施形態に係る運転状態監視方法によりアイコンを表示する際の表示説明図、
【図6】同運転状態監視方法による処理手順を説明するためのフローチャート、
【図7】同運転状態監視装置に用いるディスプレイに表示されるサポートメッセージ表示画面の変更例を示す表示画面図、
【図8】同サポートメッセージ表示画面の他の変更例を示す表示画面図、
【符号の説明】
【0047】
1:運転状態監視装置,2:条件設定手段,3:状態検出手段,4:状態判別処理手段,5:表示処理手段,5s:表示機能(第一表示機能),5c:表示機能(第二表示機能),H1…:非正常状態,M:射出成形機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視方法において、予め、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定するとともに、運転時に、前記状態項目に係わる状態を検出することにより検出した状態が前記非正常条件を満たすか否かを判別し、非正常条件を満たすときは非正常状態に係わる所定の表示を行うことを特徴とする射出成形機の運転状態監視方法。
【請求項2】
前記非正常条件を満たすか否かの判別は、ショット毎に行い、任意のショットが終了したならリセットすることを特徴とする請求項1記載の射出成形機の運転状態監視方法。
【請求項3】
前記表示は、少なくとも非正常状態が発生したことを自動表示することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の運転状態監視方法。
【請求項4】
前記表示は、少なくとも非正常状態の内容を表示することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の運転状態監視方法。
【請求項5】
前記表示は、非正常状態が発生したことを自動表示した後、手動操作により非正常状態の内容を表示することを特徴とする請求項1記載の射出成形機の運転状態監視方法。
【請求項6】
射出成形機の運転状態を監視する射出成形機の運転状態監視装置において、運転状態に係わる一又は二以上の異なる状態項目に対して、正常状態を外れ、かつ異常状態には達しない非正常状態となる所定の非正常条件を設定する条件設定手段と、運転中における前記状態項目に係わる状態を検出する状態検出手段と、この状態検出手段により検出した状態が前記非正常条件を満たすか否かを判別処理する状態判別処理手段と、この状態判別処理手段により非正常条件を満たすと判別したなら非正常状態に係わる所定の表示処理を行う表示処理手段を備えることを特徴とする射出成形機の運転状態監視装置。
【請求項7】
前記表示処理手段は、少なくとも非正常状態が発生したことを表示する表示機能を備えることを特徴とする請求項6記載の射出成形機の運転状態監視装置。
【請求項8】
前記表示処理手段は、少なくとも非正常状態の内容を表示する表示機能を備えることを特徴とする請求項6記載の射出成形機の運転状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−216449(P2007−216449A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37708(P2006−37708)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】