説明

射出成形法によるマイクロニードル製造用の金型

【課題】剣山型マイクロニードルを射出成形で作製するための金型、特に金型の穴の目詰まりの清掃が容易で良好な状態に維持し易い金型を提供する。
【解決手段】直方体状の金属製平板の角に複数の切り込み部分を形成させ、そのような2枚1組の金属平板で1列の微小針が作製できるような窪みを持った鋳型を作製する。その鋳型を必要な個数だけ集めて金型を作製することによって、分解して清掃が容易な金型として射出成形に使用して、良好な形状の剣山型マイクロニードルを作製できることを見出した。この結果により、金属平板の組合せにより、金型の穴の目詰まりの清掃が容易で良好な状態に維持し易い射出成形用の金型が提供できるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法によるマイクロニードルの製造に用いる射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルの製造方法としては、これまで色々な製造方法が試みられ報告されている。まず、材質が金属製か、樹脂製かで、大きく製造方法は異なってくる。樹脂製のマイクロニードルは、加工が容易であり、色々な形状のマイクロニードルが作製できるため、多くの検討が進められている。例えば、特許文献1や特許文献2に示されるように、樹脂製の平板を加熱溶融して、微小針を引き出す方法が開示されている。更に、特許文献3と特許文献4では、ヒアルロン酸やコラーゲン、水溶性ポリマー樹脂を用いて、鋳型に注入し、微小針を作製する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、鋳型に熔融した樹脂を注入してマイクロニードルを作成する場合、マイクロニードルの微小針の先端部が欠けやすいことから、特許文献5では、鋳型を末端開放形にした上で、更にテフロン(登録商標)加工が行われている。一般的に、鋳型を使用する場合、微小針の先端部に相当する鋳型部分に樹脂が残存して、操作を繰り返す内に、鋳型の穴が次第に詰って行く状況が見られる。しかしながら、一度、樹脂が詰った鋳型の穴から、樹脂を除去することは、あまり容易ではない。微小針の先端部に相当する部分に詰った樹脂をきれいに除くことは非常に難しい問題になっている。
以上のようなことから、従来の技術では、樹脂製のマイクロニードルを射出成形方法で製造することはあまり行なわれていなかった。また、マイクロニードル用の鋳型に関しても、先端の尖った金型を作るのが難しいこと等の問題があり、射出成形方法で鋭利な先端部を持つマイクロニードルを大量に製造することは難しいとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/093679号公報
【特許文献2】WO2010/016218号公報
【特許文献3】特開2008−142183号公報
【特許文献4】特開2010−082401号公報
【特許文献5】特開2009−061745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、射出成形方法によるマイクロニードルの製造に使用する金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これまで溶融樹脂による射出成形による多種の製品を作製してきたが、今回、マイクロニードルの射出成形法での作製にあたり、目詰まりし易い鋳型の改良から取り組んだ。マイクロニードルの微小針に対応する鋳型の穴の部分の清掃を容易にするため、2枚1組の金属平板で1列の微小針が作製できるようにし、それを必要な個数だけ集めて金型を作製すれば、分解して清掃が容易な鋳型となることを見出した。この鋳型を用いて射出成形に応用すると、予想外にも良好な剣山型マイクロニードルが作製できることを見出した。本発明は、以上の知見に基づいて研究を重ねることによって、鋭利な先端部を持った剣山型マイクロニードルの射出成形用の金型を完成させたものである。
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)射出成形用の金型であって、
直方体形状の金属平板の一つの角に複数の切り込み部分が開設されており、
その鏡像となる金属平板と重ね合わせて、
切り込み部分が一致するように設定された一組の鋳型を形成し、
その鋳型を複数重ね合わせる
ことにより作製されることを特徴とする、射出成形用金型。
(2)上記金型の穴が、1cm当たりに50〜200個存在することを特徴とする、上記(1)に記載の金型。
(3)上記金属平板が、真鍮製、ステンレス製、工具鋼製、合金工具鋼製、高速度工具鋼製、超硬合金製、シリコン製である、上記(1)または(2)に記載の金型。
(4)上記金型の穴の形状が、三角錐状、四角錐状、円錐状、楕円錐状、円錐台状、楕円錐台状、三角錐台状、四角錐台状または円柱状である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金型。
(5)上記金属平板が、縦が400μm、横が12000μm、長さが15000μmの直方体状であり、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金型。
(6)上記金型の穴の大きさが、深さが400〜800μm、開口部の直径または縦、横がそれぞれ100〜450μmである、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の金型。
(7)複数が、5〜15個のことである、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の金型。
(8)上記一組の鋳型の穴が、1cm当たり5〜15個存在することである、上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の金型。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、剣山型マイクロニードルを射出成形法で製造するための金型に関するものである。微小なマイクロニードルに関する金型は、射出成形時の目詰まりが起きやすく、一度目詰まりが起きると、そのような金型は剣山型マイクロニードルの不良品製造することになるので、直ちに目詰まりの除去が必要になる。本発明の金型は、目詰まりの除去が容易な、組立て方式の金型であり、しかも、多数の微小針を持つ剣山型マイクロニードルを作製することができる。このように本発明の金型を用いることにより、微小針の先端部我鋭利で欠損のない剣山型マイクロニードルを射出成形法で安定的に大量生産できるようになった。更には、金型に設置する穴の形状を容易に変更できるため、多種の微小針の形状を持った剣山型マイクロニードルを工業的スケールで製造できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の金型の一部を表わした図である。この金属平板と鏡像になる金属平板を合わせ、切り込み部分同士が重なるようにする。それを一組として、何組かを重ねて本発明の金型が形成される。切り込み部分同士が重なることで形成される四角錐状の窪みに射出成形法で、熔融した樹脂を流し込む。それにより、四角錐状の微小針を持つ剣山型マイクロニードルが作製される。
【図2】本発明の金型の一部を表わした図である。楕円錐状の切込みが金属平板に刻まれている。
【図3】図1と同様の切込みが存在する金型の一部を表わした図(拡大写真)である。
【図4】図3の金属平板2枚を一組として、11組重ねて金型を作成し、その金型を用いて射出成形法で製造された剣山型マイクロニードルの全体図(拡大写真)である。
【図5】図4の剣山型マイクロニードルの微小針の斜視図(拡大写真)である。
【図6】図4の剣山型マイクロニードルの微小針先端部の拡大図(拡大写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を、添付図面に示された好ましい態様を参照して更に詳細に説明する。
【0011】
本発明の「金型」とは、直方体状の金属平板2枚一組で形成される鋳型を複数個集めて作製される金型のことである。複数個とは、5〜15個のことであり、好ましくは、8〜12個が挙げられる。
本発明の「鋳型」とは、直方体状の金属平板の一辺の角に、図1に示されるような切り込み部分(削除部分)を作成し、その鏡像体の金属平板(切り込みのある図1の直方体と左右対称のもの)と重ね合わせて、切り込み部分同士が一致するように調整されたものを言う。2枚一組の金属平板の切り込み部分同士で構成される穴は、射出成形された時に樹脂が充填され、マイクロニードルの微小針を形成する場となる。鋳型の穴の形状は、切り込み部分の形状によって変化し、図1と図2の場合には四角錐状となるが、三角錐状、円錐状、楕円錐状、円錐台状、楕円錐台状、三角錐台状、四角錐台状または円柱状の形状も取ることができる。鋳型の穴の大きさは、穴の深さが400〜800μmであり、穴の開口部の直径または縦横の距離が、それぞれ100〜450μmである。好ましくは、80〜200μmである。
この穴の個数としては、穴の形状や大きさにも依るが、1cm当たり5〜15個である。好ましくは1cm当たり5〜10個である。
金型の穴の数としては、1cmの基板当りに50〜200本存在することが望ましい。特に好ましいものとしては、80〜120本を挙げることができる。
【0012】
本発明の「直方体状」とは、金属平板2枚一組で形成される鋳型を複数個集めて金型を形成する時、鋳型が相互に密着した状態が作れ、穴の開口した金型の表面がほぼ均一の表面になるために、金属平板の形状として、サイズが揃った直方体の形状のものを言う。その結果として、射出成形を行なった際、金型に鋳型の穴以外の隙間がないので、余分なところに樹脂が入り込まない(バリができない)樹脂製の剣山型マイクロニードルが作製できる。
本発明の「直方体状の金属平板」の1枚の大きさは、マイクロニードルの単位面積当たりの微小針の数によって変化するが、例えば縦が100〜1000μm、横が1000〜15000μm、長さが1000〜20000μmの直方体状の金属平板が挙げられる。好ましくは、縦が300〜800μm、横が5000〜12000μm、長さが5000〜15000μmの直方体状の金属平板を挙げることができる。
【0013】
本発明の「金属」とは、射出成形法の金型に用いられる金属であれば、特に限定されるものではないが、例えばステンレス鋼、耐熱鋼、超合金、合金工具鋼、工具鋼、炭素鋼、合金鋼、高速度工具鋼、超硬合金、銅合金、アルミニウム合金、シリコン等あるいは例えばフッソ、チタン等の被膜処理をした汎用金属を挙げることができる。好ましくは、耐熱鋼、超合金、合金工具鋼、工具鋼、炭素鋼、合金鋼、高速度工具鋼を挙げることができる。
【0014】
本発明の「切り込み部分」の作製方法としては、グラインダー等の公知の微細加工の手段を使用することができる。例えば、平面研削盤、成形研削盤、治具研削盤、プロファイル研削盤、放電加工機、微細加工機、レーザー加工機等を使用して製作することが出来る。
本発明の「射出成形法」とは、公知の汎用手段であり、例えば熱可塑性樹脂を高温にして熔融させ、低温の金型に高圧注入して固化させる方法を言う。射出成形に使用する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等を挙げることができる。好ましい熱可塑性樹脂としては、例えばポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂等のポリカーボネート樹脂を挙げることができる。
【0015】
本発明の金型を用いて射出成形で得られるマイクロニードルは、形状に応じてそのまま実用に供することもできるし、更に加工して、微小針の先端部をより鋭利なものとすることもできる。
従って、本発明の金型も、マイクロニードルの目的に応じて、先端部の形状や、金型の穴の形状を適切に選択することができる。
微細加工を行っても加工上の問題で、金属平板を図1のように削除して得られる切込みの角は鋭利に成り難い。しかし、金属平板を合わせることにより合わせ目は極めて鋭利な角を形成出来る。この方法により、角を鋭利にするか鈍くするかのコントロールが出来るので、必要形状を自由に選択する事が出来る。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に何等限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)剣山型マイクロニードルの射出成形用金型の製造
合金工具鋼製の直方体平板(縦400μm、横が12000μm、長さが15000μmの直方体)の横の一辺の角に、成形研削盤を用いて図1に示されるような三角錐状の切り込みを複数設置した。その結果、図3に示される切り込み(長さ600μm、下部の深さ80μm、下部の幅200μm)を1cm当たり5〜11個持った直方体平板と、その鏡像体となる直方体平板を作製し、切り込み部分が重なるように合わせて2枚一組とし、扁平な四角錐の穴を持つ鋳型を構築した。この鋳型を11枚重ねて剣山型マイクロニードルの金型を作成することができた。この鋳型には成形時に樹脂から発生するガス、樹脂の流路内にある空気等を逃がすための微細なガス逃げのための流路加工(エアーベント、エアー逃げ)を施している。なお、エアーベントの加工についてはマイクロニードルの先端部のみ、又は稜線部のみ、又は両方に加工を施す事を行なっている。これにより樹脂の充填速度を加速し、又は樹脂ガスの逃がし効果によるガス焼けを免れることができる。
【0018】
(実施例2)上記金型を用いた剣山型マイクロニードルの射出成形法による製造
実施例1で作製された金型を用いて、ファナック社製射出成形機にセットし、公知文献等(特開平10−72529)に準じて、ポリグリコール酸樹脂を溶融して射出成形を行なった。冷却後、金型から射出成形された剣山型マイクロニードルを取り出した。得られた剣山型マイクロニードルを図4、図5に示す。
剣山型マイクロニードルの微小針の先端部は、図6に示されるように先端の直径が約51μmであり、高さが約600μmの扁平な四角錐状の微小針を持つ剣山型マイクロニードルが作製できた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の金型は、金属平板(直方体)の一辺に、多様な切込みを設定することによって、それを組み合わせて、多様な形態の微小針を持つマイクロニードルを作製することができる。しかも、金型の穴が樹脂によって目詰まりを起こしても、本発明の金型は、容易に分解し清掃することができる。従って、本発明の金型は、良好な状態に維持することができるため、射出成形法による剣山型マイクロニードルの金型として最適であり、この金型を使用することにより、剣山型マイクロニードルが先端部の欠損がなく安定した品質で工業的なスケールで製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形用の金型であって、
直方体状の金属平板の一つの角に複数の切り込み部分が開設されており、
その鏡像となる金属平板と重ね合わせて、
切り込み部分が一致するように設定された一組の鋳型を形成し、
その鋳型を複数重ね合わせる
ことにより作製されることを特徴とする、射出成形用金型。
【請求項2】
上記金型の穴が、1cm当たりに50〜200個存在することを特徴とする、請求項1に記載の金型。
【請求項3】
上記金属平板が、銅合金、ステンレス鋼製または合金工具鋼製、高速度工具鋼製である、請求項1または2に記載の金型。
【請求項4】
上記金型の穴の形状が、三角錐状、四角錐状、円錐状、楕円錐状、円錐台状、楕円錐台状、三角錐台状、四角錐台状または円柱状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金型。
【請求項5】
上記金属平板が、縦が100〜1000μm、横が1000〜15000μm、長さが1000〜20000μmの直方体状である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金型。
【請求項6】
上記金型の穴の大きさが、深さが400〜800μm、開口部の直径または縦、横がそれぞれ100〜450μmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金型。
【請求項7】
上記の複数が、上記鋳型を5〜15個のことである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金型。
【請求項8】
上記一組の鋳型の穴が、1cm当たり5〜15個存在することである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−143978(P2012−143978A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4585(P2011−4585)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(506174979)株式会社ニート (4)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】