説明

射出成形装置

【課題】合成樹脂中にガラス等のフィラーが入っている場合に、このフィラーが成形品の表面側に浮き出てこないようにし、均一な転写を得ること。
【解決手段】キャビティS内への合成樹脂の注入前に、固定金型部6の熱媒体通路35内に熱い蒸気を供給して固定金型部6のキャビティ形成面側を合成樹脂の軟化点温度以上に昇温させるが、パーティング面に段差40を設けることにより、パーティング面に最も近い熱媒体通路35をキャビティSの下端部の近くに設けて極力パーティング面の高い面26A、6Aに近づけることができるので、キャビティSに近いパーティング面も固定金型部6のキャビティ形成面側の中央部等の温度と同等に昇温することができる。しかも、固定金型部6のキャビティ形成面側の加熱された熱が外気流通路38により温度が低い可動金型部26へと熱伝達されにくく熱を奪われにくいから、パーティング面においても昇温が十分となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態でキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の射出成形装置は、例えば特許文献1などに開示されているように、溶融した合成樹脂を射出する前に成形品の表面側を成形する表面側キャビティ形成面を加熱し、転写性の向上を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特開平6−254924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、合成樹脂の熱がパーティング面から可動金型部に伝わって、表面側キャビティ形成面の昇温が必ずしも十分なものとならず、合成樹脂中にガラスやカーボン等のフィラーが入っている場合には、この昇温されないパーティング面近くで表面側に前記フィラーが浮き出てくるという問題があった。そして、十分な昇温を得るためには、固定金型のキャビティ形成面側を加熱するために、熱媒体を供給するための熱媒体通路を極力パーティング面に近づけねばならないが、強度面から近づけることは困難である。
【0004】
そこで本発明は、上記の点に鑑み、合成樹脂中にガラス等のフィラーが入っている場合に、このフィラーが成形品の表面側に浮き出てこないようにし、均一な転写が得られる射出成形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため第1の発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態でキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形装置において、
前記固定金型のキャビティ形成面側の合成樹脂を加熱又は冷却するために加熱用媒体又は冷却用媒体を供給するための熱媒体通路を前記固定金型のキャビティに沿って形成し、
前記固定金型と可動金型とのパーティング面がキャビティより遠い方が低くなるように段差を介して高い面と低い面とを形成すると共に、
前記キャビティより遠い前記低い面の上方位置に最も低い前記熱媒体通路を配設した
ことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態でキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形装置において、
前記固定金型のキャビティ形成面側の合成樹脂を加熱又は冷却するために加熱用媒体又は冷却用媒体を供給するための熱媒体通路を前記固定金型のキャビティに沿って形成し、
前記固定金型と可動金型とのパーティング面がキャビティより遠い方が低くなるように段差部を介して高い面と低い面とを形成すると共に前記段差部を含む前記パーティング面に吸引源により吸引されて取り入れられた外気を通過させて排出させる外気流通路を形成し、
前記キャビティより遠い前記低い面の上方位置に最も低い前記熱媒体通路を配設した
ことを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記最も低い熱媒体通路の中心と前記高い面との長さをこの熱媒体通路の内径の2倍以下にすると共に、前記キャビティの外端位置から前記最も低い熱媒体通路の中心との長さをこの熱媒体通路の内径の1倍以上3倍以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、合成樹脂中にガラス等のフィラーが入っている場合に、このフィラーが成形品の表面側に浮き出てこないようにし、均一な転写が得られる射出成形装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図1乃至図6に基づき、本発明の実施の形態について説明する。先ず、図1に基づいて、本発明の第1の実施の形態の射出成形装置の全体構成について説明する。1は図示しない固定プラテンにボルトによって取り付けられた固定側組立体であり、この固定側組立体1は固定側第1ベースプレート2と、この固定側第1ベースプレート2にボルトによって固定された固定側第2ベースプレート3と、この固定側第2ベースプレート3にボルトによって固定された固定側第3ベースプレート4と、この固定側第3ベースプレート4の凹部内に配設されてこの固定側第3ベースプレート4にボルトにより固定される固定金型部6と、前記固定側第1ベースプレート2の前記固定プラテン寄りに設けられ固定側第1ベースプレート2を固定プラテンに対して位置決めするロケートリング7と、このロケートリング7に隣設して配設されたスプルーブッシュ8等から成る。
【0010】
そして、前記スプルーブッシュ8の中心には図示しない射出ノズルから射出されるガラスやカーボン等のフィラーを含んだ溶融した合成樹脂を通すための第1スプルー9が形成され、その下端部には第1ランナー10が形成され、このランナー10の出口たる第2スプルー11が形成され、更にこの第2スプルー11の下端部には第2ランナー12が形成され、この第2ランナー12の出口たるゲート(サイドゲート)13が形成される。このゲート13は前記固定金型部6のキャビティS端部においてこのキャビティS端部に開設された開口部に側方から連通する。
【0011】
一方、20は図示しない可動プラテンにボルトによって取り付けられた可動側組立体であり、この可動側組立体20は可動側第1ベースプレート21と、この可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第2ベースプレート22(エジェクタプレート)と、この可動側第2ベースプレート22を囲むように前記可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第3ベースプレート23と、この可動側第3ベースプレート23にボルトによって固定された可動側第4ベースプレート24と、この可動側第4ベースプレート24の凹部内に嵌合してこの第4プレート24に固定される可動金型部26等から成る。
【0012】
そして、前記可動側第3ベースプレート23に立設されたガイド棒(図示せず)が、固定側第3ベースプレート4に設けられたガイド孔に挿入して、このガイド孔に前記ガイド棒が案内されて可動側組立体20が上下可能となる。
【0013】
この可動金型部26上面と前記固定金型部6の下面に形成された凹部下面とでキャビティSが形成され、このキャビティS内にフィラーを含む溶融した合成樹脂が注入され、成形品が作製される。
【0014】
30は固定金型部6寄りの前記固定側第3ベースプレート4に形成された熱媒体通路で、31は可動金型部26寄りの可動側第4ベースプレート24に形成された熱媒体通路で、32は前記可動金型部26中間部位に形成された熱媒体通路で、これらの熱媒体通路30、31、32にはキャビティS内に注入される合成樹脂に適した温度に応じて固定金型部6、可動側第4ベースプレート24及び可動金型部26が所定温度に維持されるように、常時熱媒体が供給される。
【0015】
また、35は前記固定金型部6のキャビティSに近い部位にこのキャビティSに沿って形成された熱媒体通路で、この熱媒体通路35内に加熱用媒体である熱い蒸気や冷却用媒体である冷却水を流して固定金型部6のキャビティ形成面側を加熱又は冷却する。
【0016】
次に、図2乃至図6に基づいて説明すると、平面視四角形状を呈すると水平面と4つの垂下面とから成る成形品を成型するための前記キャビティSを形成する固定金型部6と可動金型部26とのパーティング面に段差部40を設けることにより、可動金型部26のキャビティSの下端部における底面を形成する部分及びその周囲の高い面26Aとこの高い面26Aの周囲の低い面26Bを形成すると共に、この可動金型部26の高い面26A及び低い面26Bに合わせて固定金型6にも高い面6A及び低い面6Bを形成する。即ち、固定金型部6と可動金型部26とのパーティング面がキャビティSより遠い方が低くなるように段差部40を介して高い面26A、6Aと低い面26B、6Bとを形成する。
【0017】
そして、前記段差部40を含む前記パーティング面に吸引源(図示せず)により吸引されて取り入れられた外気を通過させて排出させる外気流通路を形成するが、以下詳述する。即ち、固定金型6の前記段差部40及びこれに連なる低い面6Bの一部、即ち段差部40近くの一部は僅か切除して、全周に亘って可動金型部26との間に縦断面がL字形状の通路38を形成する。更には、固定金型6の高い面6Aには、全周に亘って所定間隔毎に凹部6Cを形成し、可動金型部26の高い面26Aとの間に前記外気流通路38に連通する通路39を形成する。
【0018】
しかも、パーティング面に最も近い断面が円形の熱媒体通路35の中心から外気流通路38上面までの距離L1は、熱媒体通路35の穴内径の2倍以下としてパーティング面に最も近い前記熱媒体通路35を極力パーティング面の高い面26A、6Aに近づけると共に、パーティング面に最も近い前記熱媒体通路35の中心から前記キャビティSの外端位置、言い換えると通路39の内側端までの距離L2は、熱媒体通路35の穴内径の1倍以上3倍以下の間の長さとなるように形成する。
【0019】
そして、図2に示すように、第2ランナー12に近い固定金型6の高い面6A及び凹部6Cと可動金型部26の高い面26Aとの間の通路39に連通する外気導入路41、41を前記固定金型部6に形成し、また各外気導入路41、41と前記外気流通路38とを連通する連通路42を固定金型部6と可動金型部26との間に形成する。更に、前記外気導入路41、41から最も遠い位置の前記外気流通路38に連通する連通路43を固定金型部6と可動金型部26との間に形成すると共にこの連通路43に連通する外気導出路44を前記固定金型部6に形成する。
【0020】
以上の構成により、初めに媒体通路30、31、32には常時熱媒体が供給されて、固定金型部6、可動側第4ベースプレート24及び可動金型部26が所定温度に維持されており、この状態下において、固定金型部6の熱媒体通路35内に熱媒体である熱い蒸気を供給して、固定金型部6のキャビティ形成面側を加熱して、このキャビティS内に射出する合成樹脂の種類に応じた所定温度、即ち固定金型部6のキャビティ形成面側を合成樹脂の軟化点温度以上となるように昇温を開始させ、固定側組立体1と可動側組立体20とを型閉めする(図1参照)。このように、昇温を開始した後に型閉めする場合に限らず、昇温の開始と同時に型閉めしたり、型閉めしてから昇温を開始してもよい。
【0021】
以上のように、キャビティS内への溶融した合成樹脂の注入前に、固定金型部6の熱媒体通路35内に熱い蒸気を供給することにより、極めて短時間で、固定金型部6のキャビティ形成面側を合成樹脂の軟化点温度以上となるように昇温させることができる。
【0022】
この場合、パーティング面に段差40を設けることにより、パーティング面に最も近い前記固定金型部6の熱媒体通路35をキャビティSの下端部の近くに設けて極力パーティング面の高い面26A、6Aに近づけることができるので、キャビティSに近いパーティング面も固定金型部6のキャビティ形成面側の中央部等の温度と同等に昇温することができる。しかも、固定金型部6のキャビティ形成面側の加熱された熱が断熱層ともいえる外気流通路38により温度が低い可動金型部26へと熱伝達されにくく熱を奪われにくいから、前記パーティング面においても昇温が十分となる。
【0023】
そして、固定金型部6のキャビティ形成面側が前述した所定温度となると、蒸気の供給を止めて昇温を停止し、射出ノズルをスプルーブッシュ8に通して、フィラーを含む溶融した合成樹脂Jを第1スプルー9、第1ランナー10、第2スプルー11、第2ランナー12及びゲート13を介して前記可動金型部27と固定金型部6との間のキャビティS内に射出注入する。
【0024】
そして、この溶融した合成樹脂Jの注入と同時に又は注入開始後の注入中に、前記吸引源により外気導出路44、連通路43、外気流通路38、通路39、通路42、外気導入路41、41を介して金型内に導入された外気と共に合成樹脂中のガスや金型内の空気を圧縮させずに、射出成形装置外へ排出させる。このように排出できれば、溶融した合成樹脂Jの注入開始後もこの合成樹脂Jの圧縮密度を高めるため、圧縮を開始すると共に注入圧力を維持して保圧するが、保持圧力によってキャビティ形成面に圧縮された合成樹脂は均一に転写されることとなる。なお、この場合、前述したように、前記パーティング面においても昇温が十分となるから、パーティング面近くで成形品の表面側にフィラーが浮き出てくることは極力防止される。
【0025】
そして、前記固定金型部6の熱媒体通路35の熱媒体通路36内に冷却用媒体である冷却水の供給を開始させて、合成樹脂Jの固定金型部6のキャビティ形成面側を固化させる。この場合、固定金型部6のキャビティ形成面側の中央部と、固定金型部6と可動金型部26のパーティング面との冷却温度が均一ではなく、合成樹脂の収縮時間の差ができて、成形品が変形し易いが、この冷却時間差を一定にすることができるので、変形が防止できる。
【0026】
そして、キャビティS内の合成樹脂が固化して、成形品として両金型部6、26から取り出せる程度まで冷却を持続し、キャビティSより取り出すのに十分なほど合成樹脂が固化したら、固定金型部6の熱媒体通路35内への冷却水の供給を停止し、その後型開きして、エジェクターピンによる成形品を離型して、次の成形品の生産に備える。
【0027】
以上のように、本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】射出成形装置の縦断正面図である。
【図2】固定金型部の底面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】図2のC−C拡大断面図である。
【図6】図2のD−D拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
6 固定金型部
26 可動金型部
35 熱媒体通路
38 外気流通路
39 通路
40、42 連通路
41 外気導入路
44 外気導出路
S キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とを閉じた状態でキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形装置において、
前記固定金型のキャビティ形成面側の合成樹脂を加熱又は冷却するために加熱用媒体又は冷却用媒体を供給するための熱媒体通路を前記固定金型のキャビティに沿って形成し、
前記固定金型と可動金型とのパーティング面がキャビティより遠い方が低くなるように段差を介して高い面と低い面とを形成すると共に、
前記キャビティより遠い前記低い面の上方位置に最も低い前記熱媒体通路を配設した
ことを特徴とする射出成形装置。
【請求項2】
固定金型と可動金型とを閉じた状態でキャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形装置において、
前記固定金型のキャビティ形成面側の合成樹脂を加熱又は冷却するために加熱用媒体又は冷却用媒体を供給するための熱媒体通路を前記固定金型のキャビティに沿って形成し、
前記固定金型と可動金型とのパーティング面がキャビティより遠い方が低くなるように段差部を介して高い面と低い面とを形成すると共に前記段差部を含む前記パーティング面に吸引源により吸引されて取り入れられた外気を通過させて排出させる外気流通路を形成し、
前記キャビティより遠い前記低い面の上方位置に最も低い前記熱媒体通路を配設した
ことを特徴とする射出成形装置。
【請求項3】
前記最も低い熱媒体通路の中心と前記高い面との長さをこの熱媒体通路の内径の2倍以下にすると共に、前記キャビティの外端位置から前記最も低い熱媒体通路の中心との長さをこの熱媒体通路の内径の1倍以上3倍以下としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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