説明

導体接続ワッシャ、それを使った接続機構及び導体接続ワッシャの製造方法

【課題】簡易にかつ確実に低い接触抵抗で2つの導体を電気的に接続する。
【解決手段】2つの導体を電気的に接続するために2つの導体の間に配置する導体接続ワッシャであり、中央にワッシャ穴を有する金属の板部と、板部と一体に板部の両面にそれぞれ形成された24個以上のコンタクト突起とを有し、それらのうち16個以上のコンタクト突起は、板部の外周に沿って一方の面と他方の面側に交互に折り曲げられ、8個以上のコンタクト突起は、ワッシャ穴の内周に沿って一方の面と他方の面側に交互に折り曲げられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2つの導体を電気的に接続するための導体接続ワッシャとそれを使った接続機構、および導体接続ワッシャの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
双極型電池などの電気部品の端子間を電気的に接続するためにバスバーを用いることが多い。そして、電気部品の端子とバスバーとの接続では、超音波溶接やネジ締めが主流である。このような電気部品同士の接続や電気部品の端子とバスバーとの接続に関する従来技術として特許文献1〜3などがある。また、2つの導体の接触についての研究は長年行われており、例えば、接触部分での電流密度分布に関する研究報告として非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-140624号公報
【特許文献2】特開2005-327677号公報
【特許文献3】特開2005-268029号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】箕輪功,中村充伸,“接触スポット内部の電流密度分布のシミュレーション”,電子情報通信学会論文誌,C−II, Vol.J76-C-II, No.10, pp. 637-643, 1993年10月。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、電池の集電体をバネ性の金属プレートでクランプする接続構造が示されている。しかし、板バネ程度のバネ力では平面同士の接続で十分に低い接触抵抗を実現するのは難しい。
【0006】
特許文献2は、貫通穴に突起部を入れてから超音波溶着で接続を行っている。この方法の場合、端子自体の係止(突起)に超音波のホーンをあてることで、通常の平面同士での超音波溶着時の圧接荷重はそれほど大きくなくてよい。しかし、接合後の強度が増加するわけではない。また接合後の着脱はできない。
【0007】
特許文献3の導電性部材は、ワッシャ状の部材の上下両面に無数の突起または溝が設けられている。そして、導電性部材が端子とバスバーの間に挟まれネジ締結することによって、突起の部分が端子表面の汚染層を除去して良好な接続を得るというものである。しかし、特許文献3には、突起の詳細な形状や配置は記載されておらず、良好な接続抵抗を得るためには突起の形状によっては従来の単純なネジ締結と同程度の締め付け荷重が必要であり、締め付けトルクの管理が必要になる。また、開示された導電性部材は切削加工または鍛造で製造するしかない。切削加工では加工費が高くなることが予想され、現実的な適用は難しいと考えられる。鍛造で製造した場合も、切削加工したもの程ではないにしても加工費は高くなる。また、鍛造で製造した場合は、突起の頂点を急峻なものとすることは難しいので、突起による酸化物の除去も難しくなり、相当な荷重を掛ける必要があると思われる。
【0008】
なお、特許文献3の導電性部材に似た従来技術として、歯車座金がある。材質は、鋼またはバネ用りん青銅である。歯車座金は、外円及び内円に歯車状の切り欠きがありその凸部をねじっている。目的はネジの緩み止めである。具体的には、ネジの締め付け力によってねじられた凸部は平らになるが、ねじれた状態へ戻ろうとする反力でネジの緩みを防止するものである。しかし、凸部がねじられた角度は小さいので、仮に端子とバスバーの間に挿入しても端子やバスバーの中へ侵入することはできず、低荷重で良好な電気的接続は難しい。
【0009】
本発明の目的は、簡易にかつ確実に低い接触抵抗で2つの導体を電気的に接続できる導体接続ワッシャ及びそれを使った接続機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によれば、2つの導体を電気的に接続するための導体接続ワッシャは、中央にワッシャ穴を有する金属の板部と、板部の外周に沿って、板部の両面にそれぞれ複数板部と一体形成されたコンタクト突起と、ワッシャ穴の内周に沿って、板部の両面にそれぞれ複数板部と一体に形成されたコンタクト突起と、を含み、上記外周に沿ったコンタクト突起と上記内周に沿ったコンタクト突起の合計数は24以上とするように構成されている。
【0011】
なお、導体接続ワッシャは、純銅の40%程度(30〜50%)の導電率であり、2つの導体よりも硬い銅合金を用いればよい。また、突起を、板の同じ位置からはいずれか一方の面のみに形成してもよい。
【0012】
この発明によるバスバーと電気部品の端子との接続機構は、上記端子は板状の端子基部と、端子基部から直角に延長された軸と、軸の先端に固定され、軸より大きい径を有する端子ヘッドとから構成されており、
軸に挿通されるワッシャ穴を有し、上記端子基部と隣接して配置された前記導体接続ワッシャと、軸に挿通されるバスバー穴を有し、導体接続ワッシャと隣接して配置されたバスバーと、軸に挿通される、端子ヘッドの径よりも小さい幅のスリットを有し、バスバーと端子ヘッドの間に挿入されたU字状のカムブロックと、を含み、
上記カムブロックは、U字状のカムブロックの開放端側の厚みは、導体接続ワッシャの非加圧時の厚さとバスバーの厚さの和と、端子基部と端子ヘッド間の距離との差より小とされており、U字状のカムブロックの閉塞端側の厚みは、上記差より大とされており、U字状のカムブロックの開放端側と閉塞端側との間に斜面が形成されている。
【0013】
あるいは、この発明のもう1つの観点によるバスバーと電気部品の端子との接続機構は、上記端子は板状の端子基部と、端子基部から直角に延長形成されたネジと、ネジの先端部に取り付けられ、ネジより大きい径を有するナットとから構成されており、
ネジに挿通されるワッシャ穴を有し、端子基部と隣接して配置された前記導体接続ワッシャと、ネジに挿通されるバスバー穴を有し、導体接続ワッシャと隣接して配置されたバスバーと、を含み、
ナットによりバスバーを端子基部側に押圧して導体接続ワッシャのコンタクト突起を端子基部とバスバーとに接触させている。
【0014】
本発明の導体接続ワッシャの製造方法は、型抜き過程、第1突起形成過程、裏返し過程、第2突起形成過程を有する。型抜き過程は、1枚の金属板を切断することで、すべてのコンタクト突起が板部の面と一致する状態で、板部とコンタクト突起が一体的に形成された展開接続部材を形成する。第1突起形成過程は、展開接続部材の一部のコンタクト突起を曲げることで、板部の一方の面のコンタクト突起を形成する。裏返し過程は、一方の面のコンタクト突起が形成された展開接続部材を裏返す。第2突起形成過程は、第1突起形成過程で曲げなかったコンタクト突起を、板の他方の面側に曲げる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導体接続ワッシャはコンタクト突起を有するので、面同士が接触する場合よりも小さい荷重で確実に電気的接続できる。また、電流が端部に集中する特性を考慮してコンタクト突起を外周と内周に沿って配置しているので、少ないコンタクト突起で効率的に電流を流すことができる。つまり、コンタクト突起の数を少なくできるので、1つのコンタクト突起に加わる力はより大きく、単にコンタクト突起を設ける場合よりもさらに小さい荷重で確実に電気的接続ができる。従って、本発明の導体接続ワッシャによれば、簡易にかつ確実に低い接触抵抗で2つの導体を電気的に接続できる。
【0016】
本発明の接続機構は、本発明の導体接続ワッシャに適した機構であり、カムブロックあるいはネジを用いてバスバーと端子基部とで導体接続ワッシャを挟みつける構造である。従って、簡単にバスバーと端子とを接続できる。
【0017】
本発明の導体接続ワッシャの製造方法によれば、1枚の導電性の板から本発明の導体接続ワッシャを簡易な工程で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】Aは端子とそれに装着されたカムブロックの平面図、Bは本発明の接続機構の構成を示す側面図。
【図2】端子の側面図。
【図3】Aはカムブロックの平面図、Bはカムブロックの側面図。
【図4】Aは本発明の導体接続ワッシャの平面図、Bは導体接続ワッシャの側面図、CはAにおける4C−4C断面図。
【図5】本発明の導体接続ワッシャの斜視図。
【図6】導体接続ワッシャを展開した展開接続部材を示す平面図。
【図7】バスバーと端子基部とで導体接続ワッシャを挟んだ状態の断面図。
【図8】コンタクト突起の変形実施例を示す図。
【図9】本発明の接続機構の他の構成を示す側面図。
【図10】圧着部を有する導体接続ワッシャを展開した平面図。
【図11】導体接続ワッシャの変形実施例を示す平面図。
【図12】導体接続ワッシャの他の変形実施例を示す平面図。
【図13】2つのバスバーを直接ネジで締結したときの締め付け荷重と接触抵抗の関係を実測した結果を示す図。
【図14】シミュレーションに用いた2つのバスバーと導体接続ワッシャの構成を示す図。
【図15】バスバー820の面820Bを1V、バスバー810の面810Bを0Vとしたときの電圧の分布を示す図。
【図16】Aは導体接続ワッシャの径が12mm、厚さが0.5mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図、Bは導体接続ワッシャの径が12mm、厚さが0.4mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図、Cは導体接続ワッシャの径が12mm、厚さが0.3mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図。
【図17】Aは導体接続ワッシャの径が18mm、厚さが0.5mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図、Bは導体接続ワッシャの径が18mm、厚さが0.4mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図、Cは導体接続ワッシャの径が18mm、厚さが0.3mmの場合の抵抗値と片方の面の突起の数(歯数)の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポイント
本発明は、主に比較的大きな電流が流れる導体同士の接続を対象としている。あまり大きな電流が流れない場合、接触抵抗をあまり気にする必要はない。しかし、大電流が流れる場合には、接触抵抗によって大きなジュール熱が生じるので、接触抵抗を小さくする必要がある。従って、電気部品の端子とバスバーとの接続のように大電流が流れる場合には、できるだけ広い面積で接触させて接触抵抗を小さくしようと考えてきた。その結果、表面同士をできるだけ広い面積で接触させ、超音波溶接やネジ締めで固定する方法が主流となっている。このように、接触抵抗を小さくすることが必要なところでは、非特許文献1の研究結果は活用されていない。また、特許文献1〜3の発明には、前述のように問題が残されている。
【0020】
参考文献1(曽田範宗,“摩擦と潤滑”,岩波全書192,p.33,1954年)には、軟鋼平面における真実接触面積が示されており、見掛け接触面積が2000mmの場合に、荷重が500kgfのときは真実接触面積が5mm、100kgfのときは真実接触面積が1mm、20kgfのときは真実接触面積が0.2mm、5kgfのときは真実接触面積が0.05mm、2kgfのときは真実接触面積が0.02mmであることが開示されている。大きな荷重で2つの平らな金属を押さえつければ、真実接触面積が増加することが分かる。つまり、現在の主流の1つであるネジ締めは、大きな荷重を加えることで接触面積を大きくし、接触抵抗を小さくしていると考えられる。
【0021】
ところで、参考文献1から、真実接触面積は見掛け接触面積の1/400〜1/100000であることが分かる。つまり、実際にはほとんどの部分が接触していない。そこで、本発明は、平面状の2つの導体を大きな荷重で押し付け合うのではなく、確実な接触を実現するためにあえて導体接続ワッシャにコンタクト突起を設けた。また、コンタクト突起がより確実に接触すること、コンタクト突起に効率よく電流を流すことを実現するために、電流を集中させやすい外周と内周にコンタクト突起を集中させた。このように、コンタクト突起を外周と内周に集中して配置することにより、コンタクト突起の数が少なくできるので個々のコンタクト突起に十分な荷重を加えることができる。また、コンタクト突起が外周や内周に沿って形成されているので、頂点が急峻な突起を簡単に製造できる。さらに、非特許文献1が示す現象(接触部分の周辺に電流が集中する現象)は、個々のコンタクト突起でも生じていると考えられる。従って、接触部分の面積が同じでも、導体と接触する部分の周の長さの合計が長くなるようにした方が、電流が集中する部分の面積を広くできるので、接触抵抗を小さくできる。そこで、外周のコンタクト突起の数を面ごとに16個以上、内周のコンタクト突起の数を面ごとに8個以上としている。本発明は、このような考え方から創作された発明である。
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0023】
図1Aは、本発明の接続機構に使用される端子200とそれに装着されたカムブロック300を示す平面図であり、図1Bは接続機構の構成を示す側面図である。この接続機構は、電気部品900に取り付けられた端子200とバスバー穴810を有するバスバー800とを接続する機構である。電気部品900に半田付け又は溶接などにより固定された、あるいは電気部品の一部と一体に形成された端子200は図2に側面で示すように円板状の端子基部230と、端子基部230の中心に直角に一体形成された円柱状の軸220と、軸220の先端に一体形成され、軸220の径よりも大きい円形の端子ヘッド210とを有している。端子基部230から端子ヘッド210の方向に、導体接続ワッシャ100、バスバー800、カムブロック300の順番に配置され、軸220が導体接続ワッシャ100のワッシャ穴130(図4A参照)、バスバー穴810、及びカムブロック300のスリット310を貫通する。カムブロック300はバスバー800と端子基部230との間に導体接続ワッシャ100を挟む押圧力を与える。なお、バスバー穴810とワッシャ穴130の径は端子ヘッド210の径よりも大きい。
【0024】
図3のA,Bは、カムブロック300の構造を示し、Aは平面図、Bは側面図である。カムブロック300は、U字状であり、U字の両腕の間に形成されているスリット310の幅は軸220の径より大とされ、端子ヘッド210の径より小とされている。カムブロック300の開放端311側の厚みは、軸220に導体接続ワッシャ100とバスバー800とを取り付けた状態で、スリット310に軸220を挿入できる厚さとされている。即ち、カムブロック300の開放端側の厚みは、導体ワッシャ100の非加圧時の厚さとバスバー800の厚さの和と、軸220の長さ(端子基部230と端子ヘッド210間の距離)との差より小とされる。また、カムブロック300の両腕は、スリット310の閉塞端312側に近付くに従って厚くなるよう斜面320が形成されている。さらに、カムブロック300は、スリット310の閉塞端312側の厚みが、スリット310の閉塞端312まで軸220を挿入したときに導体接続ワッシャ100が端子基部230とバスバー800によって挟みつけられた状態となる厚さである。即ち、カムブロック300の閉塞端312側の厚みは前述の差より大とされている。カムブロック300の斜面320の閉塞端312側の端には、逆止丘330が形成されている。逆止丘330が形成されている部分はスリット310の閉塞端312の部分よりも厚くなっており、軸220がカムブロック300に完全に挿入すれば、カムブロック300が軸220からはずれることを防ぐ効果がある。
【0025】
図4のA,B,Cは、導体接続ワッシャの構造を示す図である。Aは平面図、Bは側面図、CはAの4C−4C線での断面図である。図5は導体接続ワッシャの斜視図である。導体接続ワッシャ100は金属板からプレス加工により形成され、中央にワッシャ穴130を有する円形の板部110と、板部110の両面から交互に切り起こされ、各面に24個以上形成されたコンタクト突起121-n, 122-n (n=1, 2, …, N),123-m, 124-m (m=1, 2, …, M)(ただし、Nは16以上の整数、Mは8以上の整数)からなる。
【0026】
具体的には、それぞれの面の16個以上のコンタクト突起121-n, 122-n (n=1, 2, …, N)は、円形の板部の外周に沿って交互に互いに反対側の面から突出するよう形成され、それぞれの面の8個以上のコンタクト突起123-m, 124-m (m=1, 2, …, M)は、板部の中央に形成された穴の内周に沿って交互に互いに反対側の面から突出するよう形成される。穴の内周に沿って形成されたコンタクト突起123-m, 124-mと外接する円で規定されるワッシャ穴130は端子ヘッド210の径より大であり、カムブロック300の湾曲部の外形より小とされている。バスバー穴810も端子ヘッド210の径より大であり、導体接続ワッシャ100の外形より小とされている。ただし、後述の変形実施例のように、バスバー穴810及びワッシャ穴130としてバスバー800及び導体接続ワッシャ100の端辺から切り込んだスリットを形成すれば、スリットの幅は軸220が通ればよく、端子ヘッド210の径より小さくてもよい。
【0027】
導体接続ワッシャ100は、接触抵抗を小さくする観点からは純銅に近い導電率を有することが望まれる。一方、バスバー800及び端子200よりも硬い銅合金を用いれば、コンタクト突起がバスバー800、端子基部230の導体表面に食い込むので接触抵抗を小さくしやすいが、銅合金の硬度を高くすると導電率が小さくなる。そこで、導体接続ワッシャ100としては、純銅の30〜50%の導電率を有する銅合金を使用するのが好ましい。特に、純銅の約40%の導電率を有する銅合金であれば、導電率の面でも機械的特性(硬度、弾性率)の面でもよい特性を有する。
【0028】
なお、図4Aでは、コンタクト突起121-nと122-nを外周辺に沿って交互に、またコンタクト突起123-m、124-mを内周辺に沿って交互に設けたが(ただし、nは1以上N以下の整数、mは1以上M以下の整数)、板部110上の同じ位置(板の面に沿った2次元上の位置)で板部の一方と他方の両面にコンタクト突起を形成してもよい。このように同じ位置で両面に突起を形成するには、プレス加工でなく鋳造やブロックからの切削で形成する必要があり、あまり現実的でない。一方、図4Aのように板部110の外周辺及び内周辺に沿って交互に形成するのであれば、導体接続ワッシャ100を1枚の導電性板から型抜き加工で容易に製造できる。
【0029】
図6は、導体接続ワッシャを展開した(突起の方向を板の面と一致させた)平面図を示す。具体的には、型抜き過程S151、第1突起形成過程S152、裏返し過程S153、第2突起形成過程S154によって簡易に製造できる。型抜き過程S151は、1枚の導電性板を切断することで、すべてのコンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mの方向が板部110の面と一致する状態で、板部110とコンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mが一体的に形成された展開接続部材100’を形成する。第1突起形成過程S152は、展開接続部材100’の一部のコンタクト突起121-n、123-mを曲げることで、板110の一方の面のコンタクト突起121-n、123-mを形成する。裏返し過程S153は、一方の面のコンタクト突起が形成された展開接続部材100’を裏返す。第2突起形成過程S154は、第1突起形成過程で曲げなかったコンタクト突起122-n、124-mを、板部110の他方の面側に曲げる。このような方法によって図4Aに示した導体接続ワッシャは簡単に製造できる。また、コンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mの頂点は、型抜き過程S151で形成されるので、急峻にできる。各コンタクト突起の先端角度は好ましくは50〜70度である。また、第1突起形成過程S152と第2突起形成過程S154におけるコンタクト突起の板部110からの曲げ角度は60度より大きく90度より小さいことが好ましい。
【0030】
図7は、バスバー800と端子基部230とで導体接続ワッシャを挟んだ状態の断面図である。上述のようにコンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-m(図7においてはこれらを代表して120で示す)の方向と板部110の面とのなす角θを90度より小さくすれば、加わる荷重によってコンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mは、端子基部230やバスバー800の表面をワイピングし、90度の場合よりもさらに食い込むので良好な接触を実現しやすい。なお、コンタクト突起121-n、122-n、123-m、1234-mと板部110の面とのなす角θが小さすぎると、コンタクト突起が湾曲しやすくなり、荷重を加えても端子基部230やバスバー800に食い込みにくくなってしまう。従って、コンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mと板部110の面とのなす角θは60度より大きいことが望ましい。また、カムブロック300の逆止丘330を乗り越える際に荷重が最も大きくなり、乗り越えた後は荷重が少し小さくなるが、コンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mは少しではあるが撓むことや導体接続ワッシャ100全体の弾性によって、接続に必要な荷重は維持される。
【0031】
なお、前述の導体接続ワッシャ100の各コンタクト突起の先端は端子基部230と1点で接触するよう先端に向かって幅が狭くなる角度をなしているが、例えば図8に1つのコンタクト突起120の先端を示すように、端子基部230と2点で接触するよう先端部を2分しそれぞれ先端に向かって幅が狭くなる2つの接触部120a,120bを形成してもよい。2つの接触部120a,120bは同一面内に形成してもよいし、一方を導体接続ワッシャ100の半径方向内側に更に折り曲げて2つの接触点が半径方向にずれるよう形成してもよい。図8のコンタクト突起の構造は以下の変形実施例においても適用してよい。
【0032】
本発明の導体接続ワッシャは上述のようにコンタクト突起を有するので、面同士が接触する場合よりも小さい荷重で確実に電気的接続できる。また、電流が端部に集中する特性を考慮してコンタクト突起を外周と内周に沿って配置しているので、少ないコンタクト突起で効率的に電流を流すことができる。つまり、コンタクト突起の数を少なくできるので、単にコンタクト突起を設ける場合よりもさらに小さい荷重で確実に電気的接続ができる。従って、本発明の導体接続ワッシャによれば、簡易にかつ確実に低い接触抵抗で2つの導体を電気的に接続できる。また、小さい荷重でよいので、カムブロックを用いるような加圧機構でも安定した接続を確保できる。
【0033】
本発明の接続機構は、本発明の導体接続ワッシャに適した機構であり、カムブロックを用いてバスバーと端子とで導体接続ワッシャを挟みつける構造である。従って、簡単にバスバーと端子とを接続できる。
【0034】
本発明の導体接続ワッシャの製造方法によれば、1枚の導電性の板から本発明の導体接続ワッシャを製造する方法であり、簡易な工程で導体接続ワッシャを製造できる。
【0035】
[変形実施例]
図1の実施例ではカムブロックにより押圧する接続機構を実現する例を示したが、図9に示すようにカムを使用せず、ネジ締めにより押圧する接続機構としてもよい。即ち、この変形実施例では、端子200’の端子基部230から軸として機能するネジ240が直角に一体形成されており、そのネジ240に導体接続ワッシャ100とバスバー800が挿通され、バスバー800の上からワッシャ260を介して端子ヘッドとして機能するナット250により押圧する構成とされている。
【0036】
図10は導体接続ワッシャの変形実施例を展開した平面図である。導体接続ワッシャ100は接続部151を有している。接続部151は板部110の外周に一端が固着されている。接続部151は、コンタクト突起121-n、122-n、123-m、124-mが接触する端子基部とは異なる部品と接続するための手段である。例えば、接続部151は他の電気回路との接続のための圧着端子として使用できる。このように接続部を備えれば、電圧の測定などに便利である。この変形例の導体接続ワッシャは、図10のコンタクト突起を曲げることで作ることができる。
【0037】
図11は導体接続ワッシャ100の他の変形実施例であり、図4Aとの差異は、外周が円でなく6角形とされ、6角形の各辺に沿ってコンタクト突起が形成されている。その他は図4Aと同じである。もちろん、外周は6角形に限らず、任意の多角形でよいことは明らかであるが、好ましくは5角以上の正多角形がよい。
【0038】
図12は導体接続ワッシャ100の更に他の変形実施例であり、図4Aとの差異は、中心のワッシャ穴130による内周が閉じておらず、ワッシャ穴130の径と同じ幅で中心から導体接続ワッシャ100の外周まで切り取られたスリット160が形成されていることである。この構成によれば、ワッシャ穴130の径を軸220の径より大とし、かつ端子ヘッド210の径より小とすることができる。図示してないが、図11に示した導体接続ワッシャ100においても、図12と同様にワッシャ穴130からその径と同じ幅で多角形の一辺まで切り取ってスリットを形成してもよい。
【0039】
実験及びシミュレーション
図13は、2つのバスバーを直接ネジで締結したときの締め付け荷重と接触抵抗の関係を実測した結果である。荷重が大きい方が抵抗が小さくなる傾向があることが分かる。図14にシミュレーションに用いた2つのバスバー810,820と導体接続ワッシャ100の構成を示す。2つのバスバー810、820は導体接続ワッシャ100を挟んだ状態である。この図の例では、コンタクト突起の数を上下それぞれ20個としている。図15はバスバー820の垂直断面820Bを1V、バスバー810の垂直断面810Bを0Vとしたときの電圧の分布を等電圧線で示している。このような電圧の分布を解析して接触抵抗を求めた。
【0040】
図16のA,B,Cは、導体接続ワッシャ100の径(φ)が12mmの場合の抵抗値と片方の面のコンタクト突起の数(図では「歯数」と表示している)の関係をシミュレーションにより求めた結果を示している。図17のA,B,Cも同様のシミュレーション結果であり、導体接続ワッシャの径(φ)が18mmの場合の抵抗値と片方の面のコンタクト突起の数(歯数)の関係を示している。
【0041】
図16Aと図17Aは板部110の厚さ(t)が0.5mmの場合、図16Bと図17Bは板部110の厚さ(t)が0.4mmの場合、図16Cと図17Cは板部110の厚さ(t)が0.3mmの場合を示している。また、図中のhはコンタクト突起の長さ、「全面」を示す線はバスバー810,820同士を直接全面接触させた場合の接触抵抗、「基準」を示す線は抵抗値が安定する(直線状となる)値を示し、全面接触の場合の1.5倍の値を示す線である。歯数が4、8、16は外周にのみコンタクト突起を付けた場合であって、1つの歯の接触している面積を仮想的に変えることで、どの歯数の場合もバスバー810、820と接触している面積の合計は同じにしている。歯数が24のときは外周に16個、内周に8個のコンタクト突起を付けた場合を示している。外周の16個のコンタクト突起は歯数が16個の場合と同じである。つまり、歯数が24個の場合は、バスバー810、820と接触している面積も増えている。また、各図の右端の位置(本来ならば歯数100の位置)に示した抵抗値は、外周のみに板厚と同じ幅のリング状の突起を付けた場合(外周全体が接触している場合)を示している。このときのバスバー810、820と接触している面積は歯数が16個の場合の2倍にしている。
【0042】
図16のA,B,Cと図17のA,B,Cのすべての線で共通して、歯数が4、8、16のように増加すると抵抗値が小さくなっている。従って、接触面積が同じでもコンタクト突起の周の長さが長くなると接触抵抗が小さくなることが分かる。また、歯数が4、8、16の場合に比べると、歯数が24のところに段差がある。これは、内周にも突起を設けた効果だと考えられる。そして、歯数が24(外周に16個、内周に8個)の場合と外周全体を接触させた場合の抵抗値には大きな差がないことが分かる。また、このシミュレーションの全面接触は、理想的な全面接触の場合の結果を示している。しかし、現実には全面では接触しないので、実測で得られる接触抵抗は基準が示す抵抗値程度になると考えられる。従って、外周のコンタクト突起の数を面ごとに16個以上、内周のコンタクト突起の数を面ごとに8個以上とすることで、全面接触させ、ネジ締めなどで荷重を加えた場合に近い接触抵抗にできると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、主に比較的大きな電流が流れる導体同士の接続に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
100:導体接続ワッシャ
110:板部
121,122,123,124:コンタクト突起
130:ワッシャ穴
151:接続部
160:スリット
200,200’:端子
220:軸
230:端子基部
260:ワッシャ
310:スリット
320:斜面
330:逆止丘
800:バスバー
810:バスバー穴
900:電気部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの導体を電気的に接続するための導体接続ワッシャであって、
中央にワッシャ穴を有する金属の板部と、
上記板部の外周に沿って、上記板部の両面にそれぞれ複数上記板部と一体形成されたコンタクト突起と、
上記ワッシャ穴の内周に沿って、上記板部の両面にそれぞれ複数上記板部と一体に形成されたコンタクト突起と、
を含み、上記板部に形成された上記コンタクト突起の合計数は24以上とされていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項2】
請求項1記載の導体接続ワッシャにおいて、上記外周に沿った上記コンタクト突起の数は上記板部の両面にそれぞれ16個以上であり、上記内周に沿った上記コンタクト突起の数は上記板部の両面にそれぞれ8個以上であることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の導体接続ワッシャにおいて、当該導体接続ワッシャは、上記2つの導体よりも硬い金属で形成されていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、当該導体接続ワッシャは、純銅の30〜50%の導電率を有する銅合金で形成されていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記コンタクト突起は、上記板部の外周及び上記ワッシャ穴の内周に沿って一方面及び他方の面から交互に立ち上がるよう折り曲げられていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記コンタクト突起と上記板部のなす角は、60度より大きく90度より小さいことを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記板部の外周は円形であることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記板部の外周は正多角形であることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記ワッシャ穴の中心から穴の径の幅で上記板部の外周縁まで切り取られたスリットが形成されていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、各上記コンタクト突起は先端に向かって幅が狭くなる角を有していることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、各上記コンタクト突起の先端部は2分され、それぞれ先端に向かって幅が狭くなる角を有していることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか記載の導体接続ワッシャにおいて、上記板部の外周の一部から延長して形成され、上記2つの導体以外の外部の導体と接続する接続部が設けられていることを特徴とする導体接続ワッシャ。
【請求項13】
バスバーと電気部品の端子との接続機構であって、
上記端子は板状の端子基部と、上記端子基部から直角に延長された軸と、上記軸の先端に固定され、上記軸より大きい径を有する端子ヘッドとから構成されており、
上記軸に挿通されるワッシャ穴を有し、上記端子基部と隣接して配置された請求項1乃至12のいずれか記載の導体接続ワッシャと、
上記軸に挿通されるバスバー穴を有し、上記導体接続ワッシャと隣接して配置されたバスバーと、
上記軸に挿通される、上記端子ヘッドの径よりも小さい幅のスリットを有し、上記バスバーと上記端子ヘッドの間に挿入されたU字状のカムブロックと、
を含み、
上記カムブロックは、
U字状のカムブロックの開放端側の厚みは、上記導体接続ワッシャの非加圧時の厚さと上記バスバーの厚さの和と、上記端子基部と上記端子ヘッド間の距離との差より小とされており、
U字状の上記カムブロックの閉塞端側の厚みは、上記差より大とされており、
U字状の上記カムブロックの開放端側と閉塞端側との間に斜面が形成されていることを特徴とする接続機構。
【請求項14】
請求項13記載の接続機構において、U字状の上記カムブロックの閉塞端と開放端の途中に最も厚くなる逆止丘が形成されていることを特徴とする接続機構。
【請求項15】
バスバーと電気部品の端子との接続機構であって、
上記端子は板状の端子基部と、上記端子基部から直角に延長形成されたネジと、上記ネジの先端部に取り付けられ、上記ネジより大きい径を有するナットとから構成されており、
上記ネジに挿通されるワッシャ穴を有し、上記端子基部と隣接して配置された請求項1乃至12のいずれか記載の導体接続ワッシャと、
上記ネジに挿通されるバスバー穴を有し、上記導体接続ワッシャと隣接して配置されたバスバーと、
を含み、
上記ナットにより上記バスバーを上記端子基部側に押圧して上記導体接続ワッシャのコンタクト突起を上記端子基部と上記バスバーとに接触させていることを特徴とする接続機構。
【請求項16】
請求項5記載の導体接続ワッシャの製造方法であって、
1枚の金属板を切断することで、すべての上記コンタクト突起が上記板部の面と一致する状態で、上記板部と上記コンタクト突起が一体的に形成された展開接続部材を形成する型抜き過程と、
上記展開接続部材の一部の上記コンタクト突起を曲げることで、上記板部の一方の面のコンタクト突起を形成する第1突起形成過程と、
一方の面のコンタクト突起が形成された上記展開接続部材を裏返す裏返し過程と、
上記第1突起形成過程で曲げなかった上記コンタクト突起を、上記板部の他方の面側に曲げる第2突起形成過程と
を有することを特徴とする導体接続ワッシャの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−9411(P2012−9411A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37975(P2011−37975)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】