説明

導体線及び回転電機

【課題】コアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、構成部材の材質やスロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる導体線を実現する。
【解決手段】回転電機のコイル用の導体線4。導体素線41を複数本集合させてなる導体素線束42と、導体素線束42の周囲を被覆する可撓性の絶縁被覆材46と、を備える。絶縁被覆材46の径方向内側に導体素線41どうしが相対移動可能な被覆内隙間Gを有し、導体素線束42の延在方向に直交する延在直交平面での絶縁被覆材46の断面形状が変形可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のコイル用の導体線及び当該導体線を備えた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機又は発電機としての回転電機に備えられるステータは、複数のスロットを有するステータコアにコイルが取り付けられて構成される。回転電機に備えられるロータも同様に、複数のスロットを有するロータコアにコイルが取り付けられて構成される場合がある。例えば特開平09−009588号公報(特許文献1)には、ステータコアの周方向に分散配置された複数のスロットに、断面が円形の導体素線が多数回巻き付けられたコイルを備えたステータが記載されている。すなわち、特許文献1の回転電機は、断面が円形の導体素線が複数本集合して構成される導体線を備えている。
【0003】
上記のように、断面が円形の導体素線を用いて構成される導体線では、当該導体線がステータに取り付けられる際にスロット内において導体素線間に隙間が生じ易く、コイルの占積率を高めることが難しい。導体素線間の隙間を小さくして占積率を高めるためには、導体素線の径を小さくすることも有効である。しかし、導体素線の径を小さくする場合には、コア(ステータコア又はロータコア)に巻き付ける際に断線しないような工夫が必要となり、また、コアへの巻き付け回数が多くなって巻き付け工程に長い時間を要する等の課題がある。一方、占積率を高めるためには、断面が矩形状の導体素線を用いてコイルを構成することも有効である。しかし、スロットの形状も導体素線の断面形状に対応するほぼ矩形状に限定され、スロット或いはティースの形状を必ずしも最適な形状とすることができないという課題がある。
【0004】
また、特開2011−091943号公報(特許文献2)には、複数の導線を束ねた導線束の外周に変形可能な絶縁体を設けた導体線を用いてコイルを構成することが記載されている。特許文献2では、導体束の形状(導体線の断面形状)を任意の形状に変化させることができ、導体線間の隙間を小さくして占積率を高めることができると謳われている。しかし、当該特許文献2の図5〜図9を参照すれば、導体線の断面形状を自由に変形可能とするためには、導線束の外周を覆う絶縁体を、比較的高い伸縮性を有する材料を用いて構成する必要があると言える。つまり、導体線を構成する絶縁体の材質次第では、必ずしも占積率を高めることができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−009588号公報
【特許文献2】特開2011−091943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、コアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、構成部材の材質やスロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることができる導体線の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る、回転電機のコイル用の導体線の特徴構成は、導体素線を複数本集合させてなる導体素線束と、前記導体素線束の周囲を被覆する可撓性の絶縁被覆材と、を備え、前記絶縁被覆材の径方向内側に前記導体素線どうしが相対移動可能な被覆内隙間を有し、前記導体素線束の延在方向に直交する延在直交平面での前記絶縁被覆材の断面形状が変形可能な点にある。
【0008】
ここで、導体素線束の周囲とは、当該導体素線束の延在直交平面での断面の周囲のことである。また、被覆内隙間は、絶縁被覆材の径方向内側で導体素線どうしが相対移動可能となるように絶縁被覆材の内部に形成される隙間であり、互いに密着し合って相対移動不可能な導体素線どうしの間に形成される隙間や互いに密着し合って相対移動不可能な導体素線と絶縁被覆材との間に形成される隙間は、被覆内隙間には含まれない。また、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0009】
この特徴構成によれば、絶縁被覆材が可撓性を有すると共に絶縁被覆材の径方向内側に被覆内隙間が存在するので、この被覆内隙間の部分において導体素線どうしが相対移動可能となる。よって、絶縁被覆材が高い伸縮性を有していない場合であっても、延在直交平面での導体線の断面形状を比較的自由に変形させることができる。そのため、導体線を回転電機のコイル用に用いてコアに取り付ける際に、スロット開口部の幅によらずにスロット内への導体線の挿入を容易に行なうことができる。また、複数本の導体素線を束ねて導体線を構成しているので、細い導体素線を用いて占積率を高めつつコアへの巻き付け回数を少なく抑えることができ、導体線の巻き付け工程を効率化できる。更に、導体素線束が絶縁被覆材により被覆されているので、スロット内への挿入の際に導体素線が損傷することを抑制できると共に絶縁性を容易に確保できる。そして、スロット内への挿入後は、隣り合う導体線が互いに接するように配置することで複数本の導体線どうしの隙間を小さく抑えることができ、更にはスロット形状に合わせて導体線を変形させ、導体線とスロット内壁面との隙間も小さく抑えることができる。よって、占積率を高めることができる。従って、この特徴構成によれば、コアへの巻き付け工程を簡略化できると共に、構成部材(絶縁被覆材)の材質やスロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることが可能な導体線が実現できる。
【0010】
ここで、前記延在直交平面での断面において、互いに隣接する前記導体素線どうしを接触させた状態で前記導体素線束に外接する仮想外接円の最小径が、前記絶縁被覆材を真円に変形させた状態での内径である真円内径よりも小さいと好適である。
【0011】
この構成によれば、互いに隣接する導体素線どうしを接触させて中央部に密集させた状態での仮想的な外周面と絶縁被覆材を真円に変形させた状態での内面との間に、所定の隙間空間が形成される。よって、被覆内隙間を適切に形成することができる。
【0012】
また、前記仮想外接円の最小径と前記絶縁被覆材の前記真円内径との差が、前記導体素線の直径以上であると好適である。
【0013】
この構成によれば、少なくとも導体素線1本分の隙間が確保され、有意な大きさを有する被覆内隙間を、適切かつ確実に形成することができる。
【0014】
また、前記絶縁被覆材の内面の周長が、全ての前記導体素線を互いに接触させて一列に配置した状態での前記導体素線束に外接する長円の周長以下であると好適である。
【0015】
なお、「長円」とは、互いに対向する2つの平行な直線と互いに対向する2つの円弧とを組み合わせて形成される形状である。
【0016】
導体素線束に外接する外接曲線の周長は、全ての導体素線を互いに接触させて一列に配置した状態で最も長くなる。よって、絶縁被覆材の内面の周長をそのような外接曲線の周長と同じにすれば、導体線の変形自由度を最大限に確保することができる。また、絶縁被覆材の内面の周長をこのような導体素線束の外接曲線の周長より長くすることは、無駄に被覆内隙間が大きくなるだけであって適切ではない。そこで、絶縁被覆材の内面の周長を、このような導体素線束の外接曲線の周長以下の範囲内で設定することにより、絶縁被覆材の周長を適切に設定することができる。
【0017】
また、セミオープン型の複数のスロットを有するステータコア又はロータコアを巻き付け対象とし、前記絶縁被覆材の径方向における所定の基準方向の両側から押圧して前記絶縁被覆材を変形させることで、前記被覆内隙間が解消されて全ての前記導体素線と前記絶縁被覆材とが全体として密集した密集状態となり、真円状態での前記絶縁被覆材の直径が、互いに隣接するティース間のスロット開口部の幅であるスロット開口幅より大きく、前記密集状態での前記絶縁被覆材の前記基準方向の幅が、前記スロット開口幅以下となると好適である。
【0018】
なお、「セミオープン型のスロット」は、ステータコア又はロータコアの径方向に開口するスロット開口部の幅が、それよりスロット奥側の部分に比べて狭いスロットである。
【0019】
この構成によれば、導体素線と絶縁被覆材とが全体として密集した密集状態でスロット開口部の幅方向と絶縁被覆材に対する押圧方向(基準方向)とを合致させることで、スロット開口部に対して導体線を通過可能とすることができる。よって、セミオープン型のスロットであっても、そのスロット内に導体線を挿入可能とすることができる。
【0020】
また、前記密集状態での前記絶縁被覆材の前記基準方向の幅が、前記スロット開口幅に合致すると好適である。
【0021】
なお、「合致する」とは、比較対象となる事象が実質的に同一であることを表す概念であり、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態を含む。
【0022】
この構成によれば、被覆内隙間の大きさが必要最小限の大きさとなる。よって、セミオープン型のスロット内に導体線を挿入可能としつつ、必要以上に被覆内隙間が拡大されて占積率が低下することを抑制できる。
【0023】
また、前記導体素線束と前記絶縁被覆材とが非接着状態とされていると好適である。
【0024】
なお、「接着状態」とは、互いに接する2つの物体が力学的に固着している状態である。従って、「非接着状態」とは、2つの物体が互いに接していない状態、又は力学的に固着することなく接している状態である。
【0025】
この構成によれば、導体素線束と絶縁被覆材との間にも被覆内隙間を形成することができる。よって、導体素線どうしだけでなく、導体素線と絶縁被覆材との間でも相対移動が可能となり、延在直交平面での導体線の断面形状を更に自由に変形させることができる。
【0026】
また、前記導体素線は、裸線であると好適である。
【0027】
なお、「裸線」とは、表面が絶縁体により覆われていないむき出しの導体素線のことである。従って、樹脂等の電気的絶縁材料による被覆や被膜が表面に設けられた導体素線は、裸線には含まれない。一方、表面に酸化皮膜が形成された導体素線は、裸線に含まれる。
【0028】
この構成によれば、導体素線の表面に絶縁体の被膜や被覆等が設けられている場合に比べて、導体線全体の断面積に占める導体素線の導体部分の断面積の和を大きく確保することが容易になる。従って、スロット内での導体部分の密度を高くすることができ、コイルの占積率を高めることが容易になる。
【0029】
本発明に係る回転電機の特徴構成は、これまで説明してきた各種構成の導体線を用いて構成されたコイルをスロット内に備える点にある。
【0030】
この特徴構成によれば、これまで説明してきた各種構成の導体線を用いて、コアへの導体線の巻き付け工程を簡略化できると共に、導体線の構成部材(絶縁被覆材)の材質やスロット形状にかかわらずコイルの占積率を高めることが可能な回転電機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る回転電機の斜視図である。
【図2】ステータの部分拡大断面図である。
【図3】導体線の構造を示す斜視図である。
【図4】導体線の構造を示す断面図である。
【図5】被覆内隙間を説明するための導体線の仮想断面図である。
【図6】被覆内隙間を説明するための導体線の仮想断面図である。
【図7】導体線の製造工程を説明する図である。
【図8】ステータの製造工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る導体線及びその導体線を備えた回転電機の実施形態について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明に係る導体線を、インナーロータ型の回転電機100のコイル3に適用した場合を例として説明する。コイル3用の導体線4は、図3に示すように、導体素線41を複数本集合させてなる導体素線束42と、導体素線束42の周囲を被覆する可撓性の絶縁被覆材46とを備えている。すなわち導体線4は、導体素線41を複数本集合させてなる導体素線束42の周囲を、可撓性を有する絶縁被覆材46により被覆した構造を有している。本実施形態に係る導体線4は、その内部構造に特徴を有しており、回転電機100はそのような導体線4を用いた点に特徴を有している。以下、回転電機100の全体構成、導体線4の構成、ステータコア2に対する導体線4の配置構成、回転電機100の製造方法の順に詳細に説明する。
【0033】
なお、以下の説明では、特に断らない限り、「軸方向L」、「周方向C」、「径方向R」は、後述するステータコア2の円筒状のコア基準面21(例えばステータコア2の内周面)の軸心を基準として定義している。
【0034】
1.回転電機の全体構成
本実施形態に係る回転電機100の全体構成について、図面を参照して説明する。図1に示すように、回転電機100は、ステータ1と、このステータ1の径方向Rの内側に回転可能に設けられたロータ6とを備えている。ステータ1は、ステータコア2と、このステータコア2に取り付けられたコイル3とを備え、コイル3は導体線4をステータコア2に巻き付けて構成されている。なお、図1では、煩雑さを避けるために、ステータコア2から軸方向Lに突出するコイル3の部分であるコイルエンド部については、一対のスロット22から突出する部分のみを示し、他の部分の図示を省略している。図1では、残りのスロット22の軸方向Lの端部には、コイル3を構成する複数本の導体線4の断面が表れている。また、図1では、ロータ6の一部を透視的に描いている。
【0035】
ステータコア2は、磁性材料を用いて形成されている。ステータコア2は、例えば、円環板状の電磁鋼板を複数枚積層した積層構造体とし、或いは磁性材料の粉体を加圧成形してなる圧粉材を主な構成要素として形成することができる。ステータコア2は、コイル3を巻き付け可能とすべく、複数のスロット22を有する。ここでは、スロット22は、ステータコア2の円筒状のコア基準面21の軸方向Lに延びると共に、当該コア基準面21の周方向Cに複数分散配置されている。また、複数のスロット22は、ステータコア2の軸心から放射状に径方向Rに延びるように形成されている。なお、「円筒状のコア基準面21」とは、スロット22の配置や構成に関して基準となる仮想的な面である。本実施形態では、図1に示すように、隣接する2つのスロット22の間に形成される複数のティース23の径方向Rの内側の端面を含む仮想的な円筒状の面であるコア内周面を、コア基準面21としている。なお、円筒状のコア内周面と同心であって、軸方向L視(軸方向Lに沿って見た場合)における断面形状が当該コア内周面の軸方向L視における断面形状と相似の関係にある円筒状の面(仮想面を含む)も、本発明における「円筒状のコア基準面21」になり得る。本実施形態では、図1に示すように、ステータコア2は円筒状に形成されているため、例えば、ステータコア2の外周面を「円筒状のコア基準面21」とすることもできる。
【0036】
ステータコア2は、周方向Cに沿って一定間隔で分散配置された複数のスロット22を有している。そして、これら複数のスロット22は互いに同じ形状とされている。また、ステータコア2は、隣接する2つのスロット22の間に形成される複数のティース23を有する。本実施形態では、スロット22は、軸方向L及び径方向Rに延びると共に周方向Cに所定の幅を有する溝状に形成されている。本実施形態では、図2に示すように、各ティース23の周方向Cを向く2つの側面23aが互いに平行な平行ティースとしているため、各スロット22は、周方向Cの幅が径方向Rの外側へ向かうに従って次第に広くなるように形成されている。従って、各スロット22の内壁面22aは、周方向Cに互いに対向すると共に径方向Rの外側へ向かうに従って互いの間隔が広くなるように形成された2つの平面と、当該2つの平面よりも径方向Rの外側に形成されて軸方向Lに延びる断面円弧状の面とを有している。また、各スロット22は径方向Rの内側に開口(ステータコア2の内周面に開口)する径方向開口部22bを有すると共にステータコア2の軸方向Lの両側(軸方向両端面)に開口する軸方向開口部22cを有するように形成されている。スロット22の内壁面22aには、スロット絶縁部24が設けられている。本実施形態では、内壁面22aの全体に絶縁粉体塗装が施されており、この絶縁粉体塗装の塗膜によってスロット絶縁部24が形成されている。
【0037】
ステータコア2における周方向Cに互いに隣接する2つのスロット22間に、各ティース23が形成されている。本実施形態では、各ティース23は、当該ティース23における周方向Cを向く2つの側面23a(以下、単に「ティース側面23a」という。)が互いに平行となるように形成されている。すなわち、本実施形態におけるステータコア2は、平行ティースを備えている。ここでは、各ティース23の先端部には、ティース側面23aの他の部分に対して周方向Cに突出する周方向突出部23bが形成されている。これにより、2つのティース側面23aにおける周方向突出部23bを形成するための段差部を除いた大部分が、互いに平行となるように形成されている。図2から明らかなように、これらの2つのティース側面23aは、径方向Rに平行に配置されている。
【0038】
上記のように、各ティース23が先端部に周方向突出部23bを備えることにより、各スロット22の径方向開口部22bの開口幅W2は、それよりスロット22の奥側(径方向Rの外側)の部分に比べて狭くなっている。ここで、径方向開口部22bの開口幅W2は、径方向開口部22bにおける周方向Cの幅、すなわち径方向Rに直交する方向の幅である。この開口幅W2は、図2の断面に示されるように、ステータ1の軸方向Lに直交する面内における径方向開口部22bの幅である。そして、各スロット22は、径方向開口部22bの開口幅W2が、コイル3が配置される部分における周方向Cの幅よりも狭くなっている。このように、本実施形態に係るステータコア2は、セミオープン型のスロット22を有する。本実施形態では、径方向開口部22bが本発明における「スロット開口部」に相当し、当該径方向開口部22bの開口幅W2が本発明における「スロット開口幅」に相当する。
【0039】
本実施形態では、回転電機100は三相交流(U相、V相、W相)で駆動される三相交流電動機又は三相交流発電機である。従って、ステータ1のコイル3は、三相(U相、V相、W相)のそれぞれに対応して、U相コイル、V相コイル、W相コイルに分けられている。そのため、ステータコア2には、U相用、V相用及びW相用のスロット22が、周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置されている。本例では、ステータコア2には、毎極毎相あたりのスロット数が「2」となるように、U相コイルが挿入される2つのU相用スロットと、V相コイルが挿入される2つのV相用スロットと、W相コイルが挿入される2つのW相用スロットとが、記載の順に周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置されている。なお、毎極毎相あたりのスロット数は適宜変更可能であり、例えば「1」や「3」等とすることができる。また、回転電機100を駆動する交流電源の相数も適宜変更可能であり、例えば「1」、「2」、「4」等とすることができる。
【0040】
コイル3は、導体線4をステータコア2に巻き付けて構成される。この際のステータコア2への導体線4の巻き方としては、公知の各種方法を用いることができる。例えば、重ね巻及び波巻のいずれか一方と集中巻及び分布巻のいずれか一方との組み合わせにより導体線4をステータコア2に巻き付けて、コイル3を構成することができる。
【0041】
また、電機子としてのステータ1(ステータコア2)の径方向Rの内側には、永久磁石や電磁石(図示せず)を備えた界磁としてのロータ6が、ステータ1に対して相対回転可能に配置されている。そして、ステータ1から発生する回転磁界によりロータ6が回転する。すなわち、本実施形態に係る回転電機100は、インナーロータ型で回転界磁型の回転電機となっている。
【0042】
2.導体線の構成
次に、コイル3を構成する導体線4について説明する。導体線4は、各相のコイル3を構成する導体であり、この導体線4をステータコア2に巻き付けることにより、コイル3が構成される。図3に示すように、この導体線4は、導体素線41を複数本集合させてなる導体素線束42と、当該導体素線束42の周囲を被覆する可撓性の絶縁被覆材46とを有する。
【0043】
導体素線41は、例えば銅やアルミニウム等により構成された線状の導体である。図4に示すように、本実施形態では、各導体素線41は、延在方向Aに直交する平面である延在直交平面P(図3を参照)での断面形状が円形状であり、比較的小径のものが用いられる。例えば、直径(素線径D3)が0.2mm以下の導体素線41が好適に用いられる。また、本実施形態では、導体素線41として、裸線を用いている。すなわち、この裸線でなる導体素線41は、銅やアルミニウム等の導体の表面が絶縁体によって覆われておらず、導体表面がむき出しになっている。ところで、導体の表面が酸化してできる酸化皮膜は弱い電気的絶縁性を有する場合があるが、このような酸化皮膜はここでいう絶縁体には含まれない。従って、導体の表面に酸化皮膜が形成されたものも、この裸線でなる導体素線41に含まれる。なお、導体素線41の表面に、樹脂(例えばポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂等)等の電気的絶縁材料からなる絶縁皮膜が形成されていても好適である。この絶縁皮膜は、後述する絶縁被覆材46とは異なり、各導体素線41の表面を覆う皮膜として形成される。
【0044】
そして、複数本の導体素線41が集合して導体素線束42が構成される。導体素線束42を構成する導体素線41の本数は、最終的な導体線4の太さ(断面積)と、各導体素線41の太さ(断面積)及び形状とによって決定される。本実施形態では、図2に示すように、各スロット22内の空間を6本の導体線4によって満たすように、各導体線4の太さ(断面積)が設定されており、それに合わせて導体素線束42の太さ(断面積)、並びに導体素線41の本数及び太さ(断面積)等が設定されている。図3に示すように、本実施形態では、複数本の導体素線41を撚って束ねることにより1本の導体素線束42が構成されている。
【0045】
絶縁被覆材46は、可撓性を有する電気的絶縁部材であり、導体素線束42の周囲を被覆するように設けられている。ここで、導体素線束42の周囲とは、延在直交平面Pでの導体素線束42の断面の周囲(外周)のことであり、導体素線束42の延在方向Aの端部は含まれない。すなわち、絶縁被覆材46は、導体素線束42の周囲の全周を覆うと共に、導体素線束42の延在方向Aの端部に設けられた接続部を除いて延在方向Aに沿った全域を覆うように設けられている。ここで、接続部は、1つの導体線4を他の導体線4又は他の導体に電気的に接続するための部分である。なお、導体素線束42の延在方向Aは、導体線4の延在方向と等しいため、以下では、導体線4の延在方向も同じ符号「A」で表す。
【0046】
絶縁被覆材46としては、可撓性を有すると共に電気的絶縁性を有する材質が用いられ、例えば、フッ素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンスルファイド等の各種合成樹脂が用いられる。ここで、「可撓性」とは、曲げたり撓ませたりすることができる性質のことである。また、本実施形態に係る絶縁被覆材46は、導体線4を曲げたり撓ませたりしてステータコア2に巻き付けるために必要十分な伸縮性を有しておれば良く、伸縮性はあまり高くなくても良い。ここで、「伸縮性」とは、伸びたり縮んだりすることができる性質のことである。ここでは特に、絶縁被覆材46の径方向における伸縮性は特に要求されない。例えば、外力が作用していない状態での真円状態における周長を基準とする伸長後の周長が130%以下、その中でも120%以下、更には110%以下に抑えられるような材料を用いて、絶縁被覆材46を構成することができる。このような絶縁被覆材46は、本実施形態では、導体素線束42の周囲を包む可撓性のシート状材料又は筒状材料によって構成されている。
【0047】
絶縁被覆材46の径方向内側(絶縁被覆材46の内部)に配置される導体素線41の密集度は、導体素線束42の径方向内側領域に比べて径方向外側領域の方が低くなる傾向がある。ここでは、導体素線束42を、導体素線41の密集度に応じて2層に分けて考える。図4に示すように、これらの2層には、絶縁被覆材46の中央部に位置する第一集合層43と、第一集合層43の周囲に位置する第二集合層44とが含まれる。
【0048】
第一集合層43では、複数の導体素線41は、互いに密着し合って高い密集度で集合している。第一集合層43に含まれる複数の導体素線41は、このように互いに密着し合うことで、大きな外力が作用しない限り互いに相対移動しにくくなっている。複数の導体素線41は、それぞれの導体線4の径方向及び周方向に互いに相対移動しにくくなっている。ここで、本実施形態では、導体素線41として、延在直交平面Pでの断面形状が円形状のものを用いている。このため、導体素線束42の第一集合層43を構成する複数の導体素線41どうしの間には、線間隙間gが形成される。線間隙間gは、それぞれ独立して、その周囲が互いに密接する複数(例えば3本)の導体素線41の外表面によって囲まれて軸方向Lに延びるように形成される。
【0049】
第二集合層44では、複数の導体素線41は、ある程度は密集しているものの完全には互いに密着し合うことなく第一集合層43よりも低い密集度で集合している。導体素線束42の第二集合層44を構成する複数の導体素線41どうしの間には、線間隙間gとは異なる被覆内隙間Gが形成される。このような被覆内隙間Gは、軸方向Lに延びる比較的大きい隙間として形成される。被覆内隙間Gは、第一集合層43における線間隙間gに相当する隙間が、互いに所定間隔を空けて隣接する導体素線41の間を介して互いにつながったものとして形成される。また、本実施形態では、導体素線束42と絶縁被覆材46とが完全には接着されておらず、非接着状態とされている。そのため、導体素線41どうしの間だけでなく、導体素線41と絶縁被覆材46との間にも被覆内隙間Gが形成される。第二集合層44に含まれる複数の導体素線41は、被覆内隙間Gを介して互いに離間して配置されることで、大きな外力が作用しなくても容易に、互いに相対移動可能となっている。複数の導体素線41は、それぞれの導体線4の径方向及び周方向の少なくとも一方に、互いに相対移動可能となっている。
【0050】
ここで、延在直交平面Pでの断面において、互いに隣接する導体素線41どうしを接触させた状態で導体素線束42に外接する仮想外接円CCを想定する。図4に示すように、導体線4の通常状態では、仮想外接円CCの直径(外接円径D1)は絶縁被覆材46の真円状態での内径(真円内径D2)に合致する。すなわち、「D1=D2」の関係が成立する。一方、本実施形態に係る導体線4は絶縁被覆材46の径方向内側に被覆内隙間Gを有しており、第二集合層44に含まれる複数の導体素線41は互いに相対移動してその全体が中央部に密集することも可能である(図5を参照)。この場合、仮想外接円CCの外接円径D1は最小(最小外接円径D1n)となる。延在直交平面Pでの断面における、仮想外接円CCの最小外接円径D1nと絶縁被覆材46の真円内径D2とを比較すると、図5から明らかなように、仮想外接円CCの最小外接円径D1nは絶縁被覆材46の真円内径D2よりも小さい。すなわち、「D1n<D2」の関係が成立する。
【0051】
本実施形態では、仮想外接円CCの最小外接円径D1nと絶縁被覆材46の真円内径D2との差が、導体素線41の素線径D3以上とされている。すなわち、「D2−D1n≧D3」の関係が成立するように設定されている。図5の例では、仮想外接円CCの最小外接円半径(D1n/2)と絶縁被覆材46の真円半径(D2/2)との差が、導体素線41の素線径D3に合致している。従って本例では、仮想外接円CCの最小外接円径D1nと絶縁被覆材46の真円内径D2との差が、導体素線41の素線径D3の2倍程度とされている。このように、仮想外接円CCの最小外接円径D1nを、絶縁被覆材46の真円内径D2よりも導体素線41の素線径D3分を超えて小さくすることで、有意な大きさを有する被覆内隙間Gを適切かつ確実に形成することができる。なお、延在直交平面Pでの断面における、絶縁被覆材46内の断面積に対する被覆内隙間Gの断面積の割合(隙間割合)は、例えば5%〜35%、その中でも15%〜30%等とすることができる。
【0052】
なお、絶縁被覆材46の内面46aの周長は、図6に示すように全ての導体素線41を互いに接触させて一列に配置した状態での導体素線束42に外接する長円(外接長円)Eの周長以下とするのが好適である。外接長円Eの周長は、全ての導体素線41を互いに接触させて一列に配置した状態で最も長くなる。よって、絶縁被覆材46の内面46aの周長をそのような外接長円Eの周長と同じにすれば、導体線4の変形自由度を最大限に確保することができる。また、絶縁被覆材46の内面46aの周長をこのような導体素線束42の外接長円Eの周長より長くすることは、無駄に被覆内隙間Gが大きくなるだけであって適切ではない。そこで、絶縁被覆材46の内面46aの周長を、このような導体素線束42の外接長円Eの周長以下の範囲内で設定することにより、絶縁被覆材46の周長を適切に設定することができる。また、被覆内隙間Gの大きさを適切に設定することができ、上記の隙間割合を所望の範囲内に収めることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る導体線4では、絶縁被覆材46の径方向内側に被覆内隙間Gが存在するので、この被覆内隙間Gの部分において導体素線41どうしが導体線4の径方向及び周方向の少なくとも一方に相対移動可能となっている。特に、絶縁被覆材46が真円状態である場合には、被覆内隙間Gが相対的に大きく、絶縁被覆材46の中で導体素線41どうしの相対移動が容易である。これに加えて、絶縁被覆材46は可撓性を有しているため、当該絶縁被覆材46自体は容易に変形可能となっている。これにより、導体線4(導体素線束42及び絶縁被覆材46)は、延在直交平面Pでの断面形状を比較的自由に変形可能な構成となっている(図8を参照)。すなわち、絶縁被覆材46の変形に追従して、その内部の被覆内隙間Gの部分において導体素線41どうしが相対移動することで、導体線4の断面形状を容易に変形可能である。
【0054】
なお、本実施形態では、延在直交平面Pでの導体線4の断面形状を真円状とした状態での外径(真円外径D4)は、各スロット22の径方向開口部22bの開口幅W2よりも大きく設定されている。このように、真円外径D4が径方向開口部22bの開口幅W2よりも大きい導体線4を用いて、それをステータコア2へ巻き付けるので、ステータコア2への導体線4の巻き付け回数を少なく抑え、巻き付け工程を簡略化及び効率化することが可能となっている。
【0055】
3.ステータコアに対する導体線の配置構成
次に、本実施形態に係る導体線4のステータコア2に対する配置構成について説明する。図2に示すように、ステータコア2が有する複数のスロット22のそれぞれの中には、複数本(本例では6本)の導体線4が配置され、当該複数本の導体線4の内の隣り合う導体線4が互いに接するように配置されている。本実施形態では、各スロット22内の複数本の導体線4の全部が、周方向Cの同じ位置において径方向Rに沿って一列に並ぶように配置されている。従って、このステータ1は、導体線4が径方向Rに複数本配列された複数層巻構造(本例では6層巻構造)とされている。各導体線4は、各スロット22内において、当該スロット22に沿って軸方向Lに平行な方向を延在方向Aとして直線状に配置されている。
【0056】
ここで、各スロット22内に配置された導体線4の本数は、各スロット22内に配置される部分のみに着目して数える。本実施形態では、ステータコア2から取り外した状態で1本につながっている導体線4を同じスロット22に6回巻き付けることにより、各スロット22内に6本の導体線4が配置された構成としている。なお、ステータコア2から取り外した状態で2本の導体線4を同じスロット22に3回ずつ巻き付け、或いはステータコア2から取り外した状態で3本の導体線4を同じスロット22に2回ずつ巻き付けることにより、各スロット22内に6本の導体線4が配置された構成としても好適である。また、各スロット22内の6本の導体線4が、ステータコア2から取り外した状態でも6本独立している構成としても好適である。いずれにしても、ステータコア2が有する複数のスロット22のそれぞれの中に、複数本(本例では6本)の導体線4が配置されるように導体線4をステータコア2に巻き付けることにより、コイル3が構成される。
【0057】
上記のように、導体線4は、延在直交平面Pでの断面形状を変形させることが容易な構成となっている。従って、各スロット22内において、当該スロット22の形状に合わせて導体線4を変形させ、複数本の導体線4どうしの隙間及び導体線4とスロット22の内壁面22aとの隙間を小さく抑え、コイル3の占積率を高めることができる。このように隙間が小さい状態を実現するため、各スロット22内において、隣り合う導体線4どうしが互いに接した状態となっている。より詳しくは、図2に示すように、複数本の導体線4のそれぞれが、隣接する他の導体線4の接触面に沿った形状の接触面を有し、当該接触面において互いに面接触で接触している。また、本実施形態では、各スロット22内に配置された複数本の導体線4の全てが、スロット22の内壁面22aに沿った形状の部分を有し、当該部分において内壁面22aに面接触で接触している。すなわち、各導体線4は、内壁面22aに平行であって当該内壁面22aに面接触で接触する接触面を有する。
【0058】
上記のような導体線4の接触面は、スロット22内において、複数の導体線4のそれぞれが、内壁面22a又は他の導体線4に押し付けられて変形することにより形成されている。本実施形態では、各スロット22内において、複数本の導体線4が、径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置されている。すなわち、複数本の導体線4は、これらに外力が全く作用していない自然状態に比べて変形した状態となっている。
【0059】
また、各スロット22内の空間を複数本(本例では6本)の導体線4によって満たすように、各導体線4の太さ(延在直交平面Pにおける断面積)が設定されている。従って、複数本の導体線4がスロット22内に収容された状態では、図2に示すように、各導体線4が互いに接触して或いはスロット22の内壁面22aと接触して変形し、複数本の導体線4どうしの隙間及び導体線4とスロット22の内壁面22aとの隙間が非常に小さい状態となる。この状態では、複数本の導体線4の断面形状を合わせた形状は、スロット22の軸方向Lに直交する断面の形状に適合している。
【0060】
本実施形態では、各スロット22の内壁面22aは、互いに平行でなく対向する2つの平面や軸方向Lに延びる断面円弧状の面を有している。このようなスロット22に、断面形状が固定された比較的太い線状導体を配置すると、当該線状導体とスロット22の内壁面22aとの間の隙間が大きくなり易い。しかし、本実施形態の構成によれば、各導体線4の断面形状がスロット22の内壁面22aの形状に追従して変形することにより、内壁面22aとの隙間を小さくすることが容易になっている。このように各導体線4の断面形状が変形することによって、隣接する導体線4どうしが密着し、或いは導体線4と内壁面22aとが密着して隙間が小さくなる。この際、各導体線4の断面形状が内壁面22aの形状に追従して変形することにより、或いは、断面形状が変形容易な導体線4どうしが互いに押圧されることにより、複数本の導体線4のそれぞれの断面形状は様々に変形する。このため、同じスロット22の中に配置された複数本の導体線4は、断面形状がそれぞれ異なるものとなり得る。
【0061】
上記のように隙間が少ない状態で複数本の導体線4がスロット22内に収容されるためには、各スロット22内において、複数本の導体線4がスロット22の径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保っていると好適である。本実施形態では、径方向開口部22bからの導体線4の飛び出しを抑えるために、スロット22の径方向開口部22bに、当該径方向開口部22bを塞ぐための閉塞部材25が配置されている。このような部材は、いわゆるウェッジと呼ばれるものである。この閉塞部材25は、ティース23の先端部に形成された周方向突出部23bの径方向Rの外側の面に当接することにより、導体線4を径方向Rの内側から支持する。このため、閉塞部材25は、スロット22の径方向開口部22bの開口幅W2より大きい周方向Cの幅を有し、ステータコア2の軸方向Lの長さ以上の軸方向Lの長さを有する。この閉塞部材25は、各種合成樹脂等、磁気抵抗及び電気抵抗の比較的大きい材質により形成されていると好適である。なお、径方向開口部22bに閉塞部材25を配置しない構成とすることも、好適な実施形態の1つである。この場合でも、径方向開口部22bに最も近い導体線4が、スロット22内で径方向開口部22bの開口幅W2より周方向Cに大きくなるように変形して閉塞部材25の役割を担う。これにより、複数本の導体線4が、径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置される。
【0062】
図1に示すように、1つのスロット22内に収容された複数本の導体線4は、ステータコア2の軸方向Lの端部から突出し、周方向Cに延びて他のスロット22内に収容される。図示の例では、ステータコア2は周方向Cに分散して48個のスロット22を有しており、毎極毎相あたりのスロット数が「2」に設定されている。そして、1つのスロット22内の導体線4は、当該スロット22から6スロット離れて配置された他のスロット22内の導体線4に接続されている。図1では一対のスロット22間を結ぶ導体線4の部分のみを示しているが、実際には全てのスロット22について同様に、ステータコア2から軸方向Lに突出した導体線4の部分が、スロット22間を結んで周方向Cに延びるように配置される。このようにステータコア2から突出する導体線4の部分が集まってコイルエンド部が形成される。ここで、コイルエンド部は、ステータコア2から軸方向Lの外側へ突出したコイル3の部分を指す。このコイルエンド部における導体線4の具体的な配置構成は、重ね巻や波巻等の具体的なコイル3の巻き方によって異なる。なお、本願発明においては、上記のとおり、コイル3の巻き方を自由に選択することが可能である。
【0063】
4.回転電機の製造方法
次に、本実施形態に係る回転電機100の製造方法について説明する。図7は、回転電機100の構成部品としての導体線4の製造工程を順に説明するための図である。また、図8は、導体線4を組み込んで製造されるステータ1の製造工程を順に説明するための図である。なお、図8では、ステータコア2が備える複数のスロット22の中の1つのみを示しているが、他のスロット22についても同様の工程が実行される。
【0064】
まず、図7(a)に示すように、所定の太さ(断面積)を有する導体素線41を所定本数分準備する。導体素線41の本数は、最終的な導体線4の太さ(断面積)と、各導体素線41の太さ(断面積)及び形状とに応じて設定される。そして、図7(b)に示すように、これら複数の導体素線41を、延在直交平面Pでの断面形状が全体として真円以外の形状となるように寄せ集めて導体素線束42とする。導体素線束42の全体形状は、例えば楕円状、長円状、三角形状、四角形状等とすることができる。すなわち、導体素線束42を構成する導体素線41に外接する外接曲線が真円以外の楕円状、長円状、三角形状、四角形状等となるように、導体素線束42を形成する。図7(b)には、一例として、長円状(レーストラック状)の外接曲線となるように導体素線束42が形成された例が示されている。
【0065】
その後、図7(c)に示すように、導体素線束42に対して、本実施形態において可撓性のシート状筒状材料によって構成された絶縁被覆材46を、その周囲から被覆する。このとき、導体素線束42の外形に沿うように、絶縁被覆材46の断面形状も本例では長円状とされる。このような形状は、真円状態とされた絶縁被覆材46を当該絶縁被覆材46の径方向における所定の基準方向Sの両側から押圧して変形(ここでは偏平化)させた形状に相当する。そして、このようにして形成される導体線4では、絶縁被覆材46の内側に上述した被覆内隙間Gが実質的に存在せず、全ての導体素線41と絶縁被覆材46とが全体として密集した状態(密集状態)となっている。このとき、本実施形態では、この密集状態での絶縁被覆材46の基準方向Sの幅W1が、スロット22の径方向開口部22bの開口幅W2(図2及び図8を参照)に合致するように設計される。
【0066】
ここでは図示は省略するが、その後、絶縁被覆材46の断面形状を真円状とすると、密集状態にある導体素線41が適度にほぐれて絶縁被覆材46の径方向内側に被覆内隙間Gが形成される。これは、導体素線束42を構成する全ての導体素線41の断面積の和は一定であるのに対して、絶縁被覆材46の内部面積は、その周長が一定であれば断面形状が真円の場合に最大となることによる。なお、絶縁被覆材46の断面形状を一旦真円状とすることは必須ではなく、図7(c)の形状を維持したままで、導体線4をステータ1の製造工程に提供することも可能である。
【0067】
その後、図8(a)に示すように、複数本の導体線4をスロット22内に挿入する。ここでは、複数本の導体線4を、1本ずつ順に径方向開口部22bから挿入する。これにより、導体線4は、径方向Rの内側から外側へ向かって径方向開口部22bを介してスロット22内へ挿入される。ところで、本実施形態では、延在直交平面Pでの導体線4の断面形状を真円状とした状態での外径(真円外径D4)は、スロット22の径方向開口部22bの周方向Cの開口幅W2よりも大きい。従って、導体線4を径方向開口部22bからスロット22内へ挿入する際には、導体線4の断面形状を変形させて当該導体線4の周方向Cの幅を開口幅W2以下とした状態で挿入する。
【0068】
具体的には、本実施形態では導体線4の径方向における所定の基準方向Sの両側から導体線4を押圧し、絶縁被覆材46及びその内側の導体素線束42の断面形状を変形(ここでは偏平化)させて長円状とする。この形状は、導体線4の製造工程における最終段階での形状に一致する。そのため、導体線4が図7(c)の形状を維持したままでステータ1の製造工程に提供される場合には、この変形工程は省略可能である。これにより、絶縁被覆材46の内側に被覆内隙間Gが実質的に存在せず(それ以前に存在していた場合には、その被覆内隙間Gが解消され)、全ての導体素線41と絶縁被覆材46とが全体として密集した密集状態となる。上述したように、本実施形態では、この密集状態での絶縁被覆材46の基準方向Sの幅W1(図7(c)を参照)が、スロット22の径方向開口部22bの開口幅W2に合致するように設計されている。これにより、図8(a)に示すように、導体線4に対する押圧方向である基準方向Sを径方向開口部22bの幅方向である周方向Cに合致させることで、径方向開口部22bに対して導体線4を通過可能とすることができる。よって、セミオープン型のスロット22であっても、そのスロット22内に導体線4を適切に挿入可能とすることができる。
【0069】
この場合において更に、上記のように密集状態での絶縁被覆材46の基準方向Sの幅W1と径方向開口部22bの開口幅W2とが合致する場合には、被覆内隙間Gの大きさが必要最小限の大きさとなる。よって、導体線4の断面形状を自由に変形可能とするための被覆内隙間Gが必要以上に拡大されて占積率が低下することを抑制できる。すなわち、セミオープン型のスロット22を有するステータコア2を巻き付け対象とする場合における、当該ステータコア2への巻き付け工程の効率化とコイル3の占積率の向上とを考慮して、これら双方をそれぞれバランス良く実現することが可能となっている。
【0070】
その後、図8(b)に示すように、スロット22内に全て(本例では6本)の導体線4が挿入されると、それら複数本の導体線4を、スロット22の径方向開口部22bから押圧する。ここでは、押圧ジグ8を径方向開口部22bから挿入して導体線4を径方向Rの外側へ向かって押圧する。これにより、スロット22内の複数本の導体線4を、当該スロット22の形状に合わせて変形させ、当該導体線4とスロット22の内壁面22aとの隙間及び複数本の導体線4どうしの隙間を小さくする。そして最後に、図8(c)に示すように、閉塞部材25をスロット22の径方向開口部22bに挿入する。ここでは、スロット22内の複数本の導体線4における最も径方向開口部22b側(径方向Rの内側)の面とティース23の周方向突出部23bとの間に閉塞部材25を配置する。例えば、平板状の閉塞部材25は、スロット22の軸方向開口部22cから軸方向Lに沿って挿入することができる。このように閉塞部材25を配置することにより、スロット22内に配置された導体線4が径方向開口部22bから飛び出すことを抑制できる。そして、複数本の導体線4が、径方向開口部22b側から押圧された状態での形状を保って配置される。以上のようにして各スロット22の中に配置された複数本の導体線4のそれぞれは、同じスロット22内の他の導体線4と比べて断面形状が異なるものとなる。
【0071】
図示は省略するが、その後、ステータ1に対して径方向Rの内側にロータ6を回転可能な状態で組み付けることにより、回転電機100が完成する。
【0072】
5.その他の実施形態
最後に、本発明に係る導体線及び回転電機の、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0073】
(1)上記の実施形態では、仮想外接円CCの最小外接円径D1nと絶縁被覆材46の真円内径D2との差が、導体素線41の直径(素線径D3)以上とされている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、少なくとも絶縁被覆材46の径方向内側で導体素線41どうしが相対移動可能であれば、仮想外接円CCの最小外接円径D1nと絶縁被覆材46の真円内径D2との差が導体素線41の素線径D3未満とされても良い。
【0074】
(2)上記の実施形態では、導体素線束42と絶縁被覆材46とが非接着状態とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、導体素線束42と絶縁被覆材46とが接着状態とされた構成としても良い。この場合、上記の実施形態とは異なり、被覆内隙間Gは、導体素線41と絶縁被覆材46との間には形成されず導体素線41どうしの間にのみ形成される。なお、このような構成は、例えば、絶縁被覆材46を構成する樹脂材料を溶融させて導体素線束42の周囲に適量供給しつつ、導体素線束42を延在方向Aに移動させることにより実現できる。これにより、絶縁被覆材46の内面46aを、導体素線束42の周囲の形状に適合した凹凸を有する形状とすることで、導体素線束42と絶縁被覆材46とを接着状態とすることができる。この場合であっても、導体素線41どうしの間に形成される被覆内隙間Gの部分において導体素線41どうしが相対移動可能となり、導体線4の断面形状は容易に変形可能となる。
【0075】
(3)上記の実施形態では、複数本の導体素線41を撚って束ねることにより1本の導体素線束42が構成される例について説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、複数本の導体素線41を撚ることなく束ねることにより1本の導体素線束42が構成されても良い。
【0076】
(4)上記の実施形態では、延在直交平面Pでの各導体素線41の断面形状が円形状である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、延在直交平面Pでの各導体素線41の断面形状を、例えば、四角形状、三角形状、五角形状、六角形状、八角形状等の各種多角形状としても良い。
【0077】
(5)上記の実施形態では、隣り合う導体線4どうしの接触面が周方向Cに延びる状態で、複数本の導体線4の全部が各スロット22内で径方向Rに沿って一列に並ぶように配置されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、スロット22内での導体線4の断面形状や配列は、適宜決定することができる。例えば、隣り合う導体線4どうしの接触面が無作為に様々な方向を向く状態で、スロット22内に複数本の導体線4が配置された構成としても良い。或いは、各スロット22内に配置される複数本の導体線4が、径方向Rに沿った列を周方向Cに複数列有するように配置された構成としても良い。
【0078】
(6)上記の実施形態では、導体線4の真円外径D4がスロット22の径方向開口部22bの開口幅W2よりも大きく設定されている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、導体線4の真円外径D4がスロット22の径方向開口部22bの開口幅W2以下の値に設定された構成としても良い。
【0079】
(7)上記の実施形態では、セミオープン型のスロット22及び平行ティースを有するステータコア2を、導体線4による巻き付け対象とする例について説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、スロット形状やティース形状は適宜設定することができる。例えば、オープン型のスロット22を有するステータコア2を巻き付け対象としても良い。オープン型のスロット22とは、上記の実施形態で説明した周方向突出部23bを有さず、径方向開口部22bの幅がそれよりスロット奥側の部分と等しいスロット22である。また、平行スロットを有するステータコア2を巻き付け対象としても良い。平行スロットとは、周方向Cに対向する2つの内壁面22aが互いに平行となるように形成されたスロット22である。また、上記の実施形態で説明したものと類似のスロットを有するロータコアを、導体線4による巻き付け対象とすることも可能である。
【0080】
(8)上記の実施形態では、本発明に係る導体線を、インナーロータ型の回転電機100のコイル3に適用した例について説明した。しかし、本発明の適用対象はこれに限定されない。すなわち、ステータ1に対して径方向Rの外側にロータ6が配置されるアウターロータ型の回転電機100のコイル3を適用対象としても良い。或いは、ラジアルギャップ型の回転電機100に限らず、アキシャルギャップ型の回転電機100のコイル3を適用対象とすることも可能である。
【0081】
(9)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、回転電機のコイル用の導体線及び当該導体線を備えた回転電機に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
100:回転電機
2:ステータコア
3:コイル
4:導体線
22:スロット
22b:径方向開口部(スロット開口部)
23:ティース
41:導体素線
42:導体素線束
46:絶縁被覆材
A:延在方向
P:延在直交平面
G:被覆内隙間
W1:基準方向の幅
W2:開口幅
CC:仮想外接円
D1n:最小外接円径
D2:真円内径
D3:素線径
E:外接長円(長円)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のコイル用の導体線であって、
導体素線を複数本集合させてなる導体素線束と、前記導体素線束の周囲を被覆する可撓性の絶縁被覆材と、を備え、
前記絶縁被覆材の径方向内側に前記導体素線どうしが相対移動可能な被覆内隙間を有し、前記導体素線束の延在方向に直交する延在直交平面での前記絶縁被覆材の断面形状が変形可能な導体線。
【請求項2】
前記延在直交平面での断面において、互いに隣接する前記導体素線どうしを接触させた状態で前記導体素線束に外接する仮想外接円の最小径が、前記絶縁被覆材を真円に変形させた状態での内径である真円内径よりも小さい請求項1に記載の導体線。
【請求項3】
前記仮想外接円の最小径と前記絶縁被覆材の前記真円内径との差が、前記導体素線の直径以上である請求項2に記載の導体線。
【請求項4】
前記絶縁被覆材の内面の周長が、全ての前記導体素線を互いに接触させて一列に配置した状態での前記導体素線束に外接する長円の周長以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の導体線。
【請求項5】
セミオープン型の複数のスロットを有するステータコア又はロータコアを巻き付け対象とし、
前記絶縁被覆材の径方向における所定の基準方向の両側から押圧して前記絶縁被覆材を変形させることで、前記被覆内隙間が解消されて全ての前記導体素線と前記絶縁被覆材とが全体として密集した密集状態となり、
真円状態での前記絶縁被覆材の直径が、互いに隣接するティース間のスロット開口部の幅であるスロット開口幅より大きく、前記密集状態での前記絶縁被覆材の前記基準方向の幅が、前記スロット開口幅以下となる請求項1から4のいずれか一項に記載の導体線。
【請求項6】
前記密集状態での前記絶縁被覆材の前記基準方向の幅が、前記スロット開口幅に合致する請求項5に記載の導体線。
【請求項7】
前記導体素線束と前記絶縁被覆材とが非接着状態とされている請求項1から6のいずれか一項に記載の導体線。
【請求項8】
前記導体素線は、裸線である請求項1から7のいずれか一項に記載の導体線。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の導体線を用いて構成されたコイルをスロット内に備える回転電機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−110861(P2013−110861A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254147(P2011−254147)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】