導圧管の詰まり検知可能程度推定システム
【課題】検知可能な詰まりの程度を自動的に推定させる。
【解決手段】詰まり特性演算部11と、変形特性演算部12と、圧力伝播モデル演算部13と、評価判定部14と、演算制御部15と、表示部16とを設ける。詰まり特性演算部11は、演算制御部15から指定された詰まりの程度から、その詰まりの流量特性を求める。変形特性演算部12は、管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形率を求める。圧力伝播モデル演算部13は、求められた詰まりの流量特性と変形特性とを用いて、圧力伝播モデルを求める。評価判定部14は、求められた圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価し、適用される導圧管の詰まり診断手法によって指定された詰まりの程度を検知可能か否かを、基準値と比較して判定する。演算制御部15は、評価判定部14での評価判定結果に基づいて、詰まり特性演算部11へ指定する詰まりの程度を変え、検知可・不可の境界を絞り込む。
【解決手段】詰まり特性演算部11と、変形特性演算部12と、圧力伝播モデル演算部13と、評価判定部14と、演算制御部15と、表示部16とを設ける。詰まり特性演算部11は、演算制御部15から指定された詰まりの程度から、その詰まりの流量特性を求める。変形特性演算部12は、管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形率を求める。圧力伝播モデル演算部13は、求められた詰まりの流量特性と変形特性とを用いて、圧力伝播モデルを求める。評価判定部14は、求められた圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価し、適用される導圧管の詰まり診断手法によって指定された詰まりの程度を検知可能か否かを、基準値と比較して判定する。演算制御部15は、評価判定部14での評価判定結果に基づいて、詰まり特性演算部11へ指定する詰まりの程度を変え、検知可・不可の境界を絞り込む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プロセス工業分野では、例えばプロセス変量を検出してプロセスを制御するために、圧力発信器や差圧発信器が使用されている。圧力発信器は圧力伝送器とも、差圧発信器は差圧伝送器とも呼ばれる。圧力発信器は絶対圧やゲージ圧を、差圧発信器は2点間の差圧を測定するものであり、圧力、流量、液位、比重などのプロセス変量測定のために用いられている。一般に、圧力・差圧発信器(以下、総称する時は単に発信器と呼ぶ)を用いてプロセス変量を測定する場合、測定対象の流体が流れるプロセス配管から導圧管と呼ばれる細い管路を介して、測定対象を発信器に導入する。
【0003】
図12に圧力発信器を用いたシステム(圧力測定システム)の概略図を示す。この圧力測定システムにおいて、圧力発信器1は、プロセス配管2から分岐された導圧管3を通して導かれる流体の圧力を検出する。
【0004】
図13に差圧発信器を用いたシステム(差圧測定システム)の概略図を示す。この差圧測定システムにおいて、差圧発信器4は、プロセス配管2から分岐された導圧管3−1,3−2を通して導かれる流体の圧力差を検出する。なお、このシステムにおいて、プロセス配管2には差圧発生機構(オリフィス等)5が設けられており、この差圧発生機構5を挟む前後の位置から導圧管3−1,3−2が分岐されている。
【0005】
このような圧力測定システムや差圧測定システムのシステム構成では、測定対象によっては固形物などが導圧管の内部に付着し、導圧管が詰まることがある。導圧管が完全に詰まると、プロセス変量を正確に測定できなくなるため、プラントへの影響は甚大である。しかし、導圧管が完全に詰まるまでは発信器に圧力が伝わるため、詰まりの影響はプロセス変量の測定値には現れ難い。
【0006】
このような問題に対して、導圧管が不要なリモートシール型の圧力発信器も実用化されている。しかしながら、導圧管を用いてプロセス変量を測定しているプラントは非常に多く、導圧管の詰まり診断機能をオンラインで実現することが求められている。
【0007】
この課題に対して、流体の圧力揺動を利用して導圧管の詰まりを診断する手法や装置が既に提案されている。
【0008】
例えば特許文献1には、圧力信号の最大変動幅(最大値と最小値の差)の減少から導圧管の詰まりが検知できることが示されている。
【0009】
特許文献2,3には、圧力や差圧の揺動の大きさ、及び、それらから計算されるパラメータを用いて導圧管の詰まりを検知・診断する装置・方法が開示されている。
【0010】
特許文献4には、差圧から抽出した揺動の標準偏差やパワースペクトル密度といった、揺動の大きさを反映した統計量や関数から導圧管の状態を診断する装置・手法が開示されている。
【0011】
特許文献5には、圧力揺動の上下動回数など、揺動の速さから詰まりを診断する装置・手法が示されている。なお、この特許文献5に記載された発明は、圧力や差圧の揺動の振幅ではなく、揺動の速さ(周波数)に基づいているという点で他の特許文献1〜4に記載された発明と異なっているが、圧力や差圧の揺動を利用しているという点では共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−11473号公報
【特許文献2】特許第3139597号公報
【特許文献3】特許第3129121号公報
【特許文献4】特表2002−538420号公報
【特許文献5】特開2010−127893号公報
【特許文献6】特許3147275号公報
【特許文献7】特開2007−47012号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ミニ特集「分布定数系の制御 最近の進歩」,計測と制御,第19巻,第11号(1980)
【非特許文献2】正田英介:制御工学(工学基礎講座(11)),培風館(1982)
【非特許文献3】足立修一:システム同定の基礎,東京電機大学出版局(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の導圧管の詰まりを検知する手法では、どの程度の詰まりならば検知できるかということは必ずしも明らかでなかった。もちろん、実際に詰まった導圧管や模擬詰まりを用意して、実流実験(実際に流体を流して行う実験)を実施すれば、検知可能な詰まりの程度を知ることはできる。しかし、実際に診断を行うプラントと同条件で事前に実験ができるケースばかりとは限らない。実験をすることなく、検知可能な詰まりの程度が推定できれば、その推定値が大まかなものであっても有用な知見が得られると思われるが、そういった方法は未だ提供されていない。
【0015】
検知可能な詰まりの程度は、流体の種類やその物理特性(例えば密度、粘度、体積弾性率)などに影響されることが予想される。そうだとすれば、ある流体の特定の条件下で詰まりが検知できたからといって、他の流体の異なる条件下において同じ詰まりが検知できるということにはならない。
【0016】
そのため、従来技術によって詰まりが検知できるといっても、その程度については、同条件下での実流実験を行わない限り、知ることは通常、困難であった。
【0017】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、検知可能な詰まりの程度を自動的に推定させることが可能な導圧管の詰まり検知可能程度推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的を達成するために本発明は、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムであって、導圧管およびこの導圧管に連通する連通管とこれら管を流れる流体とを管路系とし、この管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算する変形特性演算手段と、指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算する詰まり特性演算手段と、変形特性演算手段によって演算された変形特性と詰まり特性演算手段によって演算された詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段と、圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段と、変形特性演算手段、詰まり特性演算手段、圧力伝播モデル演算手段および評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定する検知可能詰まり程度推定手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、管路系を構成する要素(例えば、発信器の受圧面(ダイアフラム)、導圧管路内を満たす流体、導圧管の管壁)の圧力変化に対する変形特性が演算され、また指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性が演算され、この演算された変形特性と詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルが演算され、この演算された圧力伝播モデルが評価判定される。本発明では、変形特性を演算する変形特性演算手段、詰まりの流量を演算する詰まり特性演算手段、管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段および演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度が推定される
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算し、また判定対象として指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算し、この演算した変形特性と詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルを演算し、この演算した圧力伝播モデルを評価判定するようにし、変形特性を演算する変形特性演算手段、詰まりの流量を演算する詰まり特性演算手段、管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段および演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定するようにしたので、検知可能な詰まりの程度を自動的に推定させるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】正常時の圧力測定システムを示す図である。
【図2】導圧管が詰まった時の圧力測定システムを示す図である。
【図3】導圧管内の圧力伝播特性に影響する要素(詰まりの流量特性、詰まり−発信器の間にある管路系を構成する要素の変形率)を説明する図である。
【図4】導圧管内の詰まりの両側で各々圧力が等しいという仮定を置いた状態を示す図である。
【図5】導圧管内の圧力伝播特性に影響する要素から圧力伝播に関する微分方程式モデル(圧力伝播モデル)が得られる様子を説明する図である。
【図6】詰まりから発信器間の管路系を構成する要素の例を示す図である。
【図7】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例1)である。
【図8】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例2)である。
【図9】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例3)である。
【図10】参考例1〜3のシステムの構成を利用した詰まり検知可能程度推定システムの構成図(実施の形態1)である。
【図11】参考例1〜3のシステムの構成を利用した詰まり検知可能程度推定システムの構成図(実施の形態2)である。
【図12】圧力発信器を用いたシステム(圧力測定システム)の概略図である。
【図13】差圧発信器を用いたシステム(差圧測定システム)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず、実施の形態の説明に入る前に、本発明を想到するまでの経緯および本発明の原理について述べる。
【0023】
〔経緯〕
圧力・差圧の揺動を用いた導圧管の詰まりを検知する導圧管の詰まり診断手法として、種々の診断手法が提案されているが、検知の原理こそ異なるものの、利用している物理現象は同じである。それは、導圧管中の詰まり(閉塞)が、管路内の圧力伝播に対するローパスフィルタとして作用するという現象である。
【0024】
以下、図12に示した圧力測定システムを例にとって説明する。なお、図13に示した差圧測定システムでは導圧管が2本になることを除き、本発明に関しては本質的な違いはないので、発信器として圧力発信器を利用する図12に示した圧力測定システムを代表例として説明する。
【0025】
図1に正常時の圧力測定システムを示す。この場合、導圧管3には詰まりが生じていないので、プロセス配管2内の流体(プロセス流体)の圧力の揺動(上下動)がほぼそのままの形で圧力発信器1に伝達され、圧力発信器1における圧力揺動となる。
【0026】
しかし、図2に示すように、導圧管3に詰まり(閉塞)6が生じると、この詰まり(閉塞)6が圧力伝播に対するローパスフィルタとして働き、圧力発信器1で検出される圧力揺動は、詰まり(閉塞)6が無い場合に比べて減衰したものになる。特に、周波数が高いほど、減衰幅は大きくなる。これを揺動の振幅や周波数の変化から捉えることで導圧管3の詰まりを検知する。
【0027】
発明者らは導圧管3内の圧力伝播特性について検討した結果、その特性に影響する主要な要素は、詰まり(閉塞)6の流量特性(流体の流れ易さ)と、詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7(図3参照)、およびその流体7に接している圧力発信器1の受圧面(圧力発信器1の内部の連通管8の末端のダイアフラム)9や導圧管3の管壁3aなどの管路系を構成する要素の、圧力変化に対する変形率の二つであると考えた。そして、これら二つの要素の特性から圧力伝播特性モデルを構築し、そのモデルを用いて導圧管の詰まり診断の可否を判定する方法を想到した。以下、本方法の原理について説明し、それから詳細を述べる。
【0028】
〔発明の原理〕
導圧管3内の圧力伝播特性モデルは、厳密には分布定数系としてモデル化すべきである。しかし、分布定数系は扱いが難しいので、以下では詰まり(閉塞)6の両側で各々圧力が等しいという仮定を置いて(図4参照)、単純化した集中定数系モデルで説明する。なお、集中定数系モデルに基づいて実施しても、多くの場合問題は無い。なお、分布定数系や集中定数系については、非特許文献1にその詳細が述べられているので、ここでの説明は省略する。
【0029】
この集中定数系モデルは、前述した二つの主要要素(詰まりの流量特性、管路系を構成する要素の変形率)によって構成されている。以下、図5を参照しながら、それぞれについて説明する。
【0030】
詰まり(閉塞)6の流量特性は、詰まり(閉塞)6の両端の圧力差(差圧)と詰まりの程度によって決まる。詰まり(閉塞)6から見てプロセス配管側の圧力をP1(t)、同じく圧力発信器1がある側(以下、検出端側と呼ぶ)の圧力をP2(t)、詰まり(閉塞)6を流れる流量をQ(t)(プロセス配管側から検出端側に流れる向きを正とする)で表すとすると、詰まり(閉塞)6の流量特性は次式のような関係となる。式中の関数fは、詰まりの程度によって定まる関数である。また、tは時間を表す。
【0031】
【数1】
【0032】
次に、詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7、およびその流体7に接している圧力発信器1の受圧面9や導圧管3の管壁3aなどの管路系を構成する要素(図6参照)の、圧力変化に対する変形率について述べる。これらの要素の変形は、圧力変化(時間微分)に比例して増減する。そして、変形量の増減分だけ、詰まり(閉塞)6を通って流体7が流入・流出する(ただし、漏洩は無いとする)。以上より、詰まり(閉塞)6を流れる流量Q(t)は、次式のように表される。
【0033】
【数2】
【0034】
なお、この式において比例定数となっているCは、管路系を構成する要素(図6参照)の圧力変化に対する変形のしやすさを表す定数となっている。以下ではこの定数Cを指して変形率と呼ぶ。数式で書き表すと、次式のように表される。
【0035】
【数3】
【0036】
ここで、Vは詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7の体積である。Cが大きいほど、圧力変化による各要素の変形量の和が大きい、すなわち変形し易いことを意味する。
【0037】
ここで、(1)式、(2)式からQ(t)を消去すると、圧力伝播に関する微分方程式モデル(圧力伝播モデル)が得られる。
【0038】
【数4】
【0039】
このような数式モデルが得られれば、このモデルを解析したり、このモデルを用いてシミュレーションすることで、プロセス配管1から圧力発信器1までの圧力伝播特性、すなわち圧力揺動の減衰を推定することが可能となる。本発明では、このことを利用して、導圧管の詰まり検知可能程度を推定する。
【0040】
なお、本発明は主に、流体の圧力揺動を利用して導圧管の詰まりを診断する手法を利用することを想定しているが、それだけに限るものではない。すなわち、本発明は、導圧管中の詰まり(閉塞)が管路内の圧力伝播に対するローパスフィルタとして作用するという現象を利用していれば、他の詰まり診断手法であっても有効である。
【0041】
例えば、特許文献6、7では、発信器が接続されているプロセス配管の制御弁(コントロール・バルブ)の操作信号にステップ状の波形を重畳し、その信号に対する圧力や差圧の応答から導圧管の詰まりを診断するという技術が開示されている。
【0042】
これらの技術は、制御弁の操作によって生じた圧力や差圧の変化が発信器に伝播する際に、導圧管路内の詰まりがローパスフィルタとして作用するため、圧力応答波形が変化することを利用している。このような手法においても、本発明の原理を用いれば、詰まりによる応答変化を推定することができるため、導圧管の詰まり検知可能程度の推定が可能となる。
【0043】
以下、具体的な実施の形態について、上述した発明の原理と同様、圧力測定システムを例にとって説明する。
【0044】
〔参考例1〕
図7に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例1)を示す。この参考例1のシステムは、詰まり程度指定部10と、詰まり特性演算部11と、変形特性演算部12と、圧力伝播モデル演算部13と、評価判定部14(14A)とから構成されている。評価判定部14Aは、圧力伝播特性評価部141と、基準値を記憶する記憶部142と、判定部143とを有する。
【0045】
このシステムにおいて、詰まり程度指定部10からは、判定対象として所望の詰まりの程度を指定する。詰まり特性演算部11は、指定された詰まりの程度から、その詰まりの流量特性(詰まり両端の差圧−詰まりを流れる流量の特性)を求め、圧力伝播モデル演算部13へ送る。この場合、詰まりの流量特性を求める方法としては、理論式を用いる方法、実測値を用いる方法などがある。
【0046】
〔理論式を用いる方法〕
理論式を用いる方法は、流体力学などで知られている各種の法則などから詰まりの差圧‐流量特性を求めるものである。例えば、詰まり内の流れが層流であり、詰まり部分の形状が円筒状であるとすると、ハーゲン・ポアズイユの式から次のような関係式が得られる。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、μは流体の粘度、lは詰まりの長さ、dは詰まりの直径、πは円周率である。この式を用いれば、詰まりの長さと詰まりの直径が与えられた場合に、詰まり両端の差圧と詰まりを流れる流量の関係式を得ることができる。
【0049】
〔実測値を用いる方法〕
実測値を用いる方法では、詰まりを模擬した閉塞流路を用意し、その差圧‐流量特性を測定することで、(1)式の関係を得る。また、詰まりの程度(直径や長さ)を何通りか用意して測定し、その結果を補間(内挿)すれば、測定した条件以外の様々な条件での特性を推定して利用することも可能となる。
【0050】
この他、システム同定による方法も考えられる。これは、詰まり両端の圧力(すなわちP1とP2)を同時に測定し、システム同定手法によってP1からP2への圧力伝達特性を求め、その結果から詰まりの流路特性を求めようというものである。ただし、(1)式で示したように、この特性は詰まりの流路特性の他、管路系を構成する要素の変形率Cに依存する。よって、この方法が可能なのは、Cが既知の測定装置がある場合に限られる。なお、システム同定手法については非特許文献3にその詳細が述べられているので、詳しい手順についてはここでは省略する。
【0051】
変形特性演算部12は、管路系全体もしくは管路系の中で特に変形し易い要素の圧力変化に対する変形率を演算によって求め、その求めた変形率を変形特性として圧力伝播モデル演算部13へ送る。主要な要素には、流体自身、圧力発信器の受圧面(ダイアフラム)がある。以下ではまず、この二つの要素の変形率を求める一般的な方法について述べ、それから他の要素や他の方法について述べる。
【0052】
流体自身の変形率は、流体の体積弾性率が既知であれば以下の式から算出できる。
【0053】
【数6】
【0054】
ここで、Kは流体の体積弾性率、Vは詰まりと圧力発信器との間を満たす流体の体積である。
【0055】
なお、Vは詰まりの位置によって変わることに注意する必要がある。例えば、ある特定の箇所が詰まり易いということであれば、その箇所から圧力発信器の間の管路の体積をVとすれば、その箇所が詰まった時に検知できるかどうかが判定できる。
【0056】
なお、一般的には、変形率Cが小さいほど、すなわちVが小さいほど詰まり検知は難しくなるので、詰まる可能性がある箇所のうち最も圧力発信器寄りの場所を仮定してVを算出すれば、詰まり検知が最も難しいであろうケースを評価できる。
【0057】
この他、気体の状態方程式などから(3)式の右辺(dV/dP2)を求めることによって、流体の変形率を求める方法もある。
【0058】
圧力発信器の受圧面(ダイアフラム)の変形率については、受圧面の設計仕様から得られるのであれば、その数値を用いるのが最も確実である。
【0059】
なお、流体によっては、この2つのうちの片方のみを考慮すれば良い場合がある。例えば、圧縮性流体の場合は流体の変形率が受圧面のそれを大きく上回る場合が多いので、流体のそれのみを考慮すれば十分な場合が大半である。一方、非圧縮性流体の場合は、流体がほとんど変形しないため、受圧面の変形率のみを考慮すれば足りる場合が大半である。
【0060】
この他、導圧管も圧力に伴って変形する。しかし、最もよく用いられる金属製の導圧管の場合、その変形率は前述した2つの要素に比べれば小さいことが普通である。よって、通常は無視しても構わない。ただし、導圧管が柔らかい樹脂の場合には、考慮する必要が出てくる場合もあろう。
【0061】
また、詰まりの流路特性同様、システム同定による方法も可能である。この方法はこれまで述べた方法でCの値を求められない場合に有効である。この方法を用いる場合は、差圧−流量特性が既知の模擬閉塞が必要となる。また、この方法で直接得られるのは、管路系を構成する各要素の個別の変形率ではなく、その和であることに注意を要する。個別の変形率を求める必要がある場合には、模擬閉塞と圧力発信器との間を満たす流体の体積Vを変えて複数通り実験を行うとよい(圧力発信器の受圧面の変形はVに依存しないが、流体の変形量はVに比例することを利用する)。
【0062】
圧力伝播モデル演算部13では、詰まり特性演算部11によって求められた詰まりの流量特性と変形特性演算部12によって求められた変形特性とを用いて、プロセス配管と導圧管の接続点から圧力発信器までの圧力伝播モデルを演算によって求める。モデルの形式は様々なものが考えられる。(4)式で表される微分方程式モデルであれば、非線形の動特性を表現できる。一方、詰まりの流量特性が(5)式のような形で表されるケースでは、圧力伝播モデルは線形時不変の動的モデルで表すことができる。例えば、(7)式のような微分方程式、(8)式のような伝達関数で表現できる。なお、伝達関数表現については、非特許文献2に詳細に述べられているので、ここでの説明は省略する。
【0063】
【数7】
【0064】
【数8】
【0065】
【数9】
【0066】
ただし、sはラプラス演算子、P1(s)とP2(s)はP1(t)とP2(t)のラプラス変換を表す。Rは詰まりの流量特性を決定する係数であり、例えば、詰まり内の流れが層流であり、詰まり部分の形状が円筒状であれば、理論式としては(9)式で定義される定数となる。(8)式は、プロセス配管と導圧管の接続点から圧力発信器までの伝達特性が、時定数がRCである一次のローパスフィルタで特徴付けられることを意味する。
【0067】
その他、圧力伝播モデルの形式としては、ステップ応答や周波数応答なども利用できる。また、分布定数系モデルを使っても構わない。
【0068】
評価判定部14Aにおいて、圧力伝播特性評価部141は、圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価する。判定部143は、圧力伝播特性評価部141によって評価された圧力伝播特性の評価結果に基づいて、適用される導圧管の詰まり診断手法によって指定された詰まりの程度を検知可能かどうかを、記憶部142に記憶されている基準値と比較して判定する。なお、判定結果は、適用する導圧管の詰まり診断手法、そのために用いられる圧力発信器によって変わりうることに注意する。これは、詰まり検知の性能が、診断手法や圧力発信器の仕様・性能に依存するからである。
【0069】
〔参考例2〕
図8に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例2)を示す。この参考例2のシステムの特徴は、圧力伝播モデルを用いたシミュレーションにより、詰まった時の圧力波形を模擬することで、診断の可否判定を行うことにある。
【0070】
このシステムにおいて、評価判定部14(14B)は、評価部144と、基準値を記憶する記憶部145と、判定部146とから構成されている。評価部144は、圧力波形生成部144Aと、詰まり時波形模擬部144Bと、詰まり時指標評価部144Cとを備えている。以下、それぞれについて説明する。なお、圧力伝播モデルを得る過程については参考例1と同じなので、説明を省略する。
【0071】
圧力波形生成部144Aは、診断時のプロセス配管圧力波形と同様な信号を生成する。ここでいう圧力波形であるが、例えば、特許文献1〜5のように圧力揺動による診断手法であれば、圧力波形とは圧力揺動波形のこととなる。また、特許文献6、7のようにステップ状の圧力変化を重畳させる方法であれば、圧力波形はステップ状の波形となる。
【0072】
圧力波形の生成方法はいくつかある。例えば、圧力波形を圧力揺動波形とした場合、診断の対象となる導圧管に詰まりが無い状態で、同じく診断の対象となる圧力発信器を使って圧力揺動波形を収集し、それをそのまま用いる方法がある。この方法は実際に診断の対象となる圧力揺動波形をそのまま用いるので、判定の確度が高くなる。また、収集した圧力揺動信号からそのパワースペクトル密度を推定し、それと同様なパワースペクトルを持つ信号を擬似的に生成して用いる方法もある。このような信号は、正規乱数(正規分布に従う乱数)の系列とフィルタの組み合わせで生成できる。この方法は、十分な長さの圧力揺動波形を直接収集できない場合などに有効である。
【0073】
診断の対象となる導圧管から直接圧力揺動波形を収集できない場合については、運転条件や流体の特性が近い他の圧力測定点、他のプロセスにて収集したデータを基に、前述した方法を用いて揺動波形を擬似的に生成する方法が考えられる。また、流体の圧力揺動のパワースペクトル密度に関する性質が理論的にある程度わかっている場合には、それを利用して生成することも可能であろう。
【0074】
診断に用いる圧力波形がステップ状の波形である場合についても同様である。導圧管に詰まりが無い状態で、制御弁にステップ状の操作信号を重畳した時の圧力応答波形を収集し、それをそのまま用いる、ステップ状の波形をそのまま模擬圧力信号にするといった方法が考えられる。
【0075】
詰まり時波形模擬部144Bは、圧力波形生成部144Aによって生成された信号と圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルとを用いて、導圧管が詰まった時に圧力発信器で観測されるであろう模擬圧力波形信号をシミュレーションによって生成する。生成方法としては計算機による数値シミュレーションが最も一般的であるが、他の方法でも可能である。例えば、圧力伝播モデルと等価な電気回路を用意し、圧力波形生成部144Aによって生成された信号を電気信号として前記回路に印加すれば、出力として詰まり時の模擬波形を電気信号として得ることができる。
【0076】
詰まり時指標評価部144Cは、詰まり時波形模擬部144Bによって生成された模擬圧力波形信号に、適用される導圧管の詰まり診断手法を適用し、詰まりの判断基準となる指標を求めることで、指定された詰まりに対する指標の評価を行う。判定部146は、詰まり時指標評価部144Cで求められた指標と記憶部142に記憶されている基準値とを比較し、指定された詰まりの程度を検知可能かどうかを判定する。
【0077】
〔参考例3〕
図9に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例3)を示す。この参考例3のシステムにおいて、評価判定部14(14C)は、参照モデル記憶部147と、圧力伝播特性比較判定部148とから構成されている。なお、圧力伝播モデルを得る過程については参考例1と同じなので、説明を省略する。
【0078】
参照モデル記憶部147には、適用する導圧管の詰まり診断手法によって検知可能な状況に対応する圧力伝播モデルが参照モデルとして記憶されている。例えば、プロセス配管から圧力発信器までのステップ応答の時定数が1[s]以上であれば検知可能であるとか、5[Hz]において振幅が1/10以下であれば検知可能であるとか、そのような形で与えられた特性を、圧力伝播モデルと伝播特性が比較可能な形式で(必要であれば変換して)保持する。可能であれば、圧力伝播モデル演算部13が使う形式と同じ形式で保持することが、後の比較が容易になるという点で好ましい。
【0079】
圧力伝播特性比較判定部148は、圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルと、参照モデル記憶部147に記憶されている参照モデルとを比較し、圧力伝播モデルの減衰特性が参照モデルと同程度、もしくはそれ以上と判断された場合、詰まりの検知が可能と判定する。
【0080】
例えば、圧力伝播モデル、参照モデル共に、(8)式の伝達関数形式で表されていたとする。ここで、参照モデルが、時定数が1[s]以上であるような(8)式の伝達関数だとすれば、比較対象である圧力伝播モデルの時定数が1[s]以上であれば詰まりは検知可能、1[s]未満であれば検知不可という判定になる。このように、本実施の形態は、モデルを介して詰まり検知の可否を判定することに特徴がある。
【0081】
〔実施の形態1〕
参考例1〜3によると、ある所与の詰まりの程度に対して、適用する導圧管の詰まり診断手法で検知可能かどうかを判定することができる。特定の詰まりの程度に対する検知可否を知る目的であれば、この手法をそのまま適用すればよい。一方、詰まりがどの程度まで進行したら検知可能なのかを知りたい場合もある。以下に説明する実施の形態1の詰まり検知可能程度推定システムは、このような目的に参考例1〜3を利用したものである。
【0082】
この実施の形態1のシステムの構成は、図10に示すように、参考例1〜3の詰まり特性演算部11と変形特性演算部12と圧力伝播モデル13と評価判定部14との構成に対し、演算制御部15と表示部16とを付加したものになっている。
【0083】
このシステムにおいて、演算制御部15は、評価判定部14からの評価判定結果に基づいて、詰まり特性演算部11へ指定する詰まりの程度を変えて行くことで、検知可能な詰まりの程度を求める。その結果は表示部16に表示される。
【0084】
演算制御部15の挙動の一例を示す。まず、詰まりの程度の初期値を決める。そして、その詰まりの程度を詰まり特性演算部11に入力し、参考例1〜3による結果を評価判定部14から得る。
【0085】
もし、詰まり検知可能ということであれば、与えた詰まりの程度は検知可能ということになるので、より重度の詰まりの程度(例えば、詰まり部分の直径を少し小さくする)で再度同じ手順を試行する。
【0086】
一方、詰まり検知不可ということであれば、与えた詰まりの程度は検知できないということになるので、より軽度の詰まりの程度(例えば、詰まり部分の直径を少し大きくする)で再度同じ手順を試行する。
【0087】
以上の手順を繰り返すことで、検知可・不可の境界を絞り込むことができる。その結果、どこまで詰まりが進行すれば検知可能かどうかを推定することができる。
【0088】
なお、演算制御部15の挙動は上述した方法に限られるものではない。例えば、詰まり部分の直径の初期値として導圧管の内径の半分を与え、この直径を少しずつ小さくしながら参考例1〜3を行い、検知可能と判定されるまで繰り返すことでも、検知可能な詰まりの直径の最大値を推定できる。
【0089】
〔実施の形態2〕
実施の形態1では、演算制御部15によって制御された繰り返し演算を基に検知可能な詰まりの程度の推定を行った。一方、逆算を行うことで詰まりの程度を推定することも可能である。以下に説明する実施の形態2の詰まり検知可能程度推定システムは、そのような例を示す。
【0090】
この実施の形態2のシステムの構成は、図11に示すように、参考例1〜3の詰まり特性演算部11と変形特性演算部12と圧力伝播モデル13と評価判定部14との構成に対し、検知可能モデル集合演算部17と検知可能詰まり程度集合演算部18と表示部19とを付加したものになっている。
【0091】
このシステムにおいて、検知可能モデル集合演算部17は、詰まり検知が可能と判断される条件を、圧力伝播モデル演算部13と評価判定部14との関係に基づいた演算によって、検知可能なモデル集合として得る。
【0092】
一例として、参考例3に基づいた方法を示す。例えば、参考例3の参照モデルとして、時定数が1〔s〕以上となる(8)式の伝達関数モデルが与えられており、圧力伝播モデル演算部13が用いるモデル形式も(8)式で与えられていたとする。この場合、検知可能なモデル集合は、「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」として得られる。
【0093】
別の一例として、参考例2に基づいた例を示す。圧力伝播モデル演算部13が用いるモデル形式が(8)式の伝達関数として得られていたとする。検知可能モデル集合演算部17は、(8)式の時定数RCを変えて、評価判定部14に詰まり検知の可否を判定させる。その結果、時定数が1〔s〕以上であれば検知可能、それ以下では困難と判断されれば、検知可能なモデル集合は「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」となる。
【0094】
検知可能詰まり程度集合演算部18は、検知可能モデル集合演算部17からの検知可能なモデル集合を入力とし、詰まり検知が可能と判断される条件を、詰まり特性演算部11と,変形特性演算部12と,圧力伝播モデル演算部13との関係に基づいた演算によって、検知可能な詰まりの程度の集合(範囲)として得る。
【0095】
例えば、前述した方法により、検知可能なモデル集合が「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」として得られていたとする。ここで、変形特性演算部12により、変形率Cが得られていたとすれば、検知可能な条件は「R>1/C」という形になる。更に、(9)式の関係を利用すれば、検知可能なつまりの長さl、詰まりの直径dの存在範囲を特定することができる。また、詰まりの長さlを一点に固定すれば、検知可能な詰まりの直径dの上限を求めることもできる。
【0096】
以上のように、実施の形態2では、検知可能なモデル集合、検知可能な詰まりの程度の集合、という順に逆算していくことで、検知可能な詰まりの程度を推定する。なお、本実施の形態は、参考例3に基づいて実施するのが最も好ましい。参考例3を用い、更に、参照モデルの形式と、圧力伝播モデル演算部13が用いるモデルの形式を同じにしておけば、検知可能なモデル集合は比較的容易な演算により得ることができるからである。
【0097】
なお、上述した参考例1〜3では、圧力発信器を用いた圧力測定システム(図12)を対象として説明したが、差圧発信器を用いた差圧測定システム(図13)を対象としても同様にして、その導圧管に生じる詰まりに対する診断の可否を判定することが可能である。この場合、差圧測定システムでは導圧管が2本になるが、導圧管路の圧力伝播モデルを各導圧管毎に用い、同様にして診断の可否を判定すればよい。実施の形態1,2でも、同様にして、差圧測定システムだけではなく、差圧測定システムでも、導圧管の詰まり検知可能程度を推定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の導圧管の詰まり検知可能程度推定システムは、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムとして、圧力発信器を用いた圧力測定システムや差圧発信器を用いた差圧測定システムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
1…圧力発信器、2…プロセス配管、3,3−1,3−2…導圧管、3a…管壁、4…差圧発信器、5…差圧発生機構(オリフィス等)、6…詰まり(閉塞)、7…流体、8…連通管、9…受圧面(圧力発信器の内部のダイアフラム)、10…詰まり程度指定部、11…詰まり特性演算部、12…変形特性演算部、13…圧力伝播モデル演算部、14(14A,14B,14C)…評価判定部、141…圧力伝播特性評価部、142…記憶部、143…判定部、144…評価部、144A…圧力波形生成部、144B…詰まり時波形模擬部、144C…詰まり時指標評価部、145…記憶部、146…判定部、147…参照モデル記憶部、148…圧力伝播特性比較判定部、15…演算制御部、16…表示部、17…検知可能モデル集合演算部、18…検知可能詰まり程度集合演算部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、プロセス工業分野では、例えばプロセス変量を検出してプロセスを制御するために、圧力発信器や差圧発信器が使用されている。圧力発信器は圧力伝送器とも、差圧発信器は差圧伝送器とも呼ばれる。圧力発信器は絶対圧やゲージ圧を、差圧発信器は2点間の差圧を測定するものであり、圧力、流量、液位、比重などのプロセス変量測定のために用いられている。一般に、圧力・差圧発信器(以下、総称する時は単に発信器と呼ぶ)を用いてプロセス変量を測定する場合、測定対象の流体が流れるプロセス配管から導圧管と呼ばれる細い管路を介して、測定対象を発信器に導入する。
【0003】
図12に圧力発信器を用いたシステム(圧力測定システム)の概略図を示す。この圧力測定システムにおいて、圧力発信器1は、プロセス配管2から分岐された導圧管3を通して導かれる流体の圧力を検出する。
【0004】
図13に差圧発信器を用いたシステム(差圧測定システム)の概略図を示す。この差圧測定システムにおいて、差圧発信器4は、プロセス配管2から分岐された導圧管3−1,3−2を通して導かれる流体の圧力差を検出する。なお、このシステムにおいて、プロセス配管2には差圧発生機構(オリフィス等)5が設けられており、この差圧発生機構5を挟む前後の位置から導圧管3−1,3−2が分岐されている。
【0005】
このような圧力測定システムや差圧測定システムのシステム構成では、測定対象によっては固形物などが導圧管の内部に付着し、導圧管が詰まることがある。導圧管が完全に詰まると、プロセス変量を正確に測定できなくなるため、プラントへの影響は甚大である。しかし、導圧管が完全に詰まるまでは発信器に圧力が伝わるため、詰まりの影響はプロセス変量の測定値には現れ難い。
【0006】
このような問題に対して、導圧管が不要なリモートシール型の圧力発信器も実用化されている。しかしながら、導圧管を用いてプロセス変量を測定しているプラントは非常に多く、導圧管の詰まり診断機能をオンラインで実現することが求められている。
【0007】
この課題に対して、流体の圧力揺動を利用して導圧管の詰まりを診断する手法や装置が既に提案されている。
【0008】
例えば特許文献1には、圧力信号の最大変動幅(最大値と最小値の差)の減少から導圧管の詰まりが検知できることが示されている。
【0009】
特許文献2,3には、圧力や差圧の揺動の大きさ、及び、それらから計算されるパラメータを用いて導圧管の詰まりを検知・診断する装置・方法が開示されている。
【0010】
特許文献4には、差圧から抽出した揺動の標準偏差やパワースペクトル密度といった、揺動の大きさを反映した統計量や関数から導圧管の状態を診断する装置・手法が開示されている。
【0011】
特許文献5には、圧力揺動の上下動回数など、揺動の速さから詰まりを診断する装置・手法が示されている。なお、この特許文献5に記載された発明は、圧力や差圧の揺動の振幅ではなく、揺動の速さ(周波数)に基づいているという点で他の特許文献1〜4に記載された発明と異なっているが、圧力や差圧の揺動を利用しているという点では共通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平7−11473号公報
【特許文献2】特許第3139597号公報
【特許文献3】特許第3129121号公報
【特許文献4】特表2002−538420号公報
【特許文献5】特開2010−127893号公報
【特許文献6】特許3147275号公報
【特許文献7】特開2007−47012号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ミニ特集「分布定数系の制御 最近の進歩」,計測と制御,第19巻,第11号(1980)
【非特許文献2】正田英介:制御工学(工学基礎講座(11)),培風館(1982)
【非特許文献3】足立修一:システム同定の基礎,東京電機大学出版局(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来の導圧管の詰まりを検知する手法では、どの程度の詰まりならば検知できるかということは必ずしも明らかでなかった。もちろん、実際に詰まった導圧管や模擬詰まりを用意して、実流実験(実際に流体を流して行う実験)を実施すれば、検知可能な詰まりの程度を知ることはできる。しかし、実際に診断を行うプラントと同条件で事前に実験ができるケースばかりとは限らない。実験をすることなく、検知可能な詰まりの程度が推定できれば、その推定値が大まかなものであっても有用な知見が得られると思われるが、そういった方法は未だ提供されていない。
【0015】
検知可能な詰まりの程度は、流体の種類やその物理特性(例えば密度、粘度、体積弾性率)などに影響されることが予想される。そうだとすれば、ある流体の特定の条件下で詰まりが検知できたからといって、他の流体の異なる条件下において同じ詰まりが検知できるということにはならない。
【0016】
そのため、従来技術によって詰まりが検知できるといっても、その程度については、同条件下での実流実験を行わない限り、知ることは通常、困難であった。
【0017】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、検知可能な詰まりの程度を自動的に推定させることが可能な導圧管の詰まり検知可能程度推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような目的を達成するために本発明は、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムであって、導圧管およびこの導圧管に連通する連通管とこれら管を流れる流体とを管路系とし、この管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算する変形特性演算手段と、指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算する詰まり特性演算手段と、変形特性演算手段によって演算された変形特性と詰まり特性演算手段によって演算された詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段と、圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段と、変形特性演算手段、詰まり特性演算手段、圧力伝播モデル演算手段および評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定する検知可能詰まり程度推定手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、管路系を構成する要素(例えば、発信器の受圧面(ダイアフラム)、導圧管路内を満たす流体、導圧管の管壁)の圧力変化に対する変形特性が演算され、また指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性が演算され、この演算された変形特性と詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルが演算され、この演算された圧力伝播モデルが評価判定される。本発明では、変形特性を演算する変形特性演算手段、詰まりの流量を演算する詰まり特性演算手段、管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段および演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度が推定される
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算し、また判定対象として指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算し、この演算した変形特性と詰まりの流量特性とから管路系の圧力伝播モデルを演算し、この演算した圧力伝播モデルを評価判定するようにし、変形特性を演算する変形特性演算手段、詰まりの流量を演算する詰まり特性演算手段、管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段および演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定するようにしたので、検知可能な詰まりの程度を自動的に推定させるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】正常時の圧力測定システムを示す図である。
【図2】導圧管が詰まった時の圧力測定システムを示す図である。
【図3】導圧管内の圧力伝播特性に影響する要素(詰まりの流量特性、詰まり−発信器の間にある管路系を構成する要素の変形率)を説明する図である。
【図4】導圧管内の詰まりの両側で各々圧力が等しいという仮定を置いた状態を示す図である。
【図5】導圧管内の圧力伝播特性に影響する要素から圧力伝播に関する微分方程式モデル(圧力伝播モデル)が得られる様子を説明する図である。
【図6】詰まりから発信器間の管路系を構成する要素の例を示す図である。
【図7】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例1)である。
【図8】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例2)である。
【図9】本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例3)である。
【図10】参考例1〜3のシステムの構成を利用した詰まり検知可能程度推定システムの構成図(実施の形態1)である。
【図11】参考例1〜3のシステムの構成を利用した詰まり検知可能程度推定システムの構成図(実施の形態2)である。
【図12】圧力発信器を用いたシステム(圧力測定システム)の概略図である。
【図13】差圧発信器を用いたシステム(差圧測定システム)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず、実施の形態の説明に入る前に、本発明を想到するまでの経緯および本発明の原理について述べる。
【0023】
〔経緯〕
圧力・差圧の揺動を用いた導圧管の詰まりを検知する導圧管の詰まり診断手法として、種々の診断手法が提案されているが、検知の原理こそ異なるものの、利用している物理現象は同じである。それは、導圧管中の詰まり(閉塞)が、管路内の圧力伝播に対するローパスフィルタとして作用するという現象である。
【0024】
以下、図12に示した圧力測定システムを例にとって説明する。なお、図13に示した差圧測定システムでは導圧管が2本になることを除き、本発明に関しては本質的な違いはないので、発信器として圧力発信器を利用する図12に示した圧力測定システムを代表例として説明する。
【0025】
図1に正常時の圧力測定システムを示す。この場合、導圧管3には詰まりが生じていないので、プロセス配管2内の流体(プロセス流体)の圧力の揺動(上下動)がほぼそのままの形で圧力発信器1に伝達され、圧力発信器1における圧力揺動となる。
【0026】
しかし、図2に示すように、導圧管3に詰まり(閉塞)6が生じると、この詰まり(閉塞)6が圧力伝播に対するローパスフィルタとして働き、圧力発信器1で検出される圧力揺動は、詰まり(閉塞)6が無い場合に比べて減衰したものになる。特に、周波数が高いほど、減衰幅は大きくなる。これを揺動の振幅や周波数の変化から捉えることで導圧管3の詰まりを検知する。
【0027】
発明者らは導圧管3内の圧力伝播特性について検討した結果、その特性に影響する主要な要素は、詰まり(閉塞)6の流量特性(流体の流れ易さ)と、詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7(図3参照)、およびその流体7に接している圧力発信器1の受圧面(圧力発信器1の内部の連通管8の末端のダイアフラム)9や導圧管3の管壁3aなどの管路系を構成する要素の、圧力変化に対する変形率の二つであると考えた。そして、これら二つの要素の特性から圧力伝播特性モデルを構築し、そのモデルを用いて導圧管の詰まり診断の可否を判定する方法を想到した。以下、本方法の原理について説明し、それから詳細を述べる。
【0028】
〔発明の原理〕
導圧管3内の圧力伝播特性モデルは、厳密には分布定数系としてモデル化すべきである。しかし、分布定数系は扱いが難しいので、以下では詰まり(閉塞)6の両側で各々圧力が等しいという仮定を置いて(図4参照)、単純化した集中定数系モデルで説明する。なお、集中定数系モデルに基づいて実施しても、多くの場合問題は無い。なお、分布定数系や集中定数系については、非特許文献1にその詳細が述べられているので、ここでの説明は省略する。
【0029】
この集中定数系モデルは、前述した二つの主要要素(詰まりの流量特性、管路系を構成する要素の変形率)によって構成されている。以下、図5を参照しながら、それぞれについて説明する。
【0030】
詰まり(閉塞)6の流量特性は、詰まり(閉塞)6の両端の圧力差(差圧)と詰まりの程度によって決まる。詰まり(閉塞)6から見てプロセス配管側の圧力をP1(t)、同じく圧力発信器1がある側(以下、検出端側と呼ぶ)の圧力をP2(t)、詰まり(閉塞)6を流れる流量をQ(t)(プロセス配管側から検出端側に流れる向きを正とする)で表すとすると、詰まり(閉塞)6の流量特性は次式のような関係となる。式中の関数fは、詰まりの程度によって定まる関数である。また、tは時間を表す。
【0031】
【数1】
【0032】
次に、詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7、およびその流体7に接している圧力発信器1の受圧面9や導圧管3の管壁3aなどの管路系を構成する要素(図6参照)の、圧力変化に対する変形率について述べる。これらの要素の変形は、圧力変化(時間微分)に比例して増減する。そして、変形量の増減分だけ、詰まり(閉塞)6を通って流体7が流入・流出する(ただし、漏洩は無いとする)。以上より、詰まり(閉塞)6を流れる流量Q(t)は、次式のように表される。
【0033】
【数2】
【0034】
なお、この式において比例定数となっているCは、管路系を構成する要素(図6参照)の圧力変化に対する変形のしやすさを表す定数となっている。以下ではこの定数Cを指して変形率と呼ぶ。数式で書き表すと、次式のように表される。
【0035】
【数3】
【0036】
ここで、Vは詰まり(閉塞)6と圧力発信器1との間の導圧管3内にある流体7の体積である。Cが大きいほど、圧力変化による各要素の変形量の和が大きい、すなわち変形し易いことを意味する。
【0037】
ここで、(1)式、(2)式からQ(t)を消去すると、圧力伝播に関する微分方程式モデル(圧力伝播モデル)が得られる。
【0038】
【数4】
【0039】
このような数式モデルが得られれば、このモデルを解析したり、このモデルを用いてシミュレーションすることで、プロセス配管1から圧力発信器1までの圧力伝播特性、すなわち圧力揺動の減衰を推定することが可能となる。本発明では、このことを利用して、導圧管の詰まり検知可能程度を推定する。
【0040】
なお、本発明は主に、流体の圧力揺動を利用して導圧管の詰まりを診断する手法を利用することを想定しているが、それだけに限るものではない。すなわち、本発明は、導圧管中の詰まり(閉塞)が管路内の圧力伝播に対するローパスフィルタとして作用するという現象を利用していれば、他の詰まり診断手法であっても有効である。
【0041】
例えば、特許文献6、7では、発信器が接続されているプロセス配管の制御弁(コントロール・バルブ)の操作信号にステップ状の波形を重畳し、その信号に対する圧力や差圧の応答から導圧管の詰まりを診断するという技術が開示されている。
【0042】
これらの技術は、制御弁の操作によって生じた圧力や差圧の変化が発信器に伝播する際に、導圧管路内の詰まりがローパスフィルタとして作用するため、圧力応答波形が変化することを利用している。このような手法においても、本発明の原理を用いれば、詰まりによる応答変化を推定することができるため、導圧管の詰まり検知可能程度の推定が可能となる。
【0043】
以下、具体的な実施の形態について、上述した発明の原理と同様、圧力測定システムを例にとって説明する。
【0044】
〔参考例1〕
図7に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例1)を示す。この参考例1のシステムは、詰まり程度指定部10と、詰まり特性演算部11と、変形特性演算部12と、圧力伝播モデル演算部13と、評価判定部14(14A)とから構成されている。評価判定部14Aは、圧力伝播特性評価部141と、基準値を記憶する記憶部142と、判定部143とを有する。
【0045】
このシステムにおいて、詰まり程度指定部10からは、判定対象として所望の詰まりの程度を指定する。詰まり特性演算部11は、指定された詰まりの程度から、その詰まりの流量特性(詰まり両端の差圧−詰まりを流れる流量の特性)を求め、圧力伝播モデル演算部13へ送る。この場合、詰まりの流量特性を求める方法としては、理論式を用いる方法、実測値を用いる方法などがある。
【0046】
〔理論式を用いる方法〕
理論式を用いる方法は、流体力学などで知られている各種の法則などから詰まりの差圧‐流量特性を求めるものである。例えば、詰まり内の流れが層流であり、詰まり部分の形状が円筒状であるとすると、ハーゲン・ポアズイユの式から次のような関係式が得られる。
【0047】
【数5】
【0048】
ここで、μは流体の粘度、lは詰まりの長さ、dは詰まりの直径、πは円周率である。この式を用いれば、詰まりの長さと詰まりの直径が与えられた場合に、詰まり両端の差圧と詰まりを流れる流量の関係式を得ることができる。
【0049】
〔実測値を用いる方法〕
実測値を用いる方法では、詰まりを模擬した閉塞流路を用意し、その差圧‐流量特性を測定することで、(1)式の関係を得る。また、詰まりの程度(直径や長さ)を何通りか用意して測定し、その結果を補間(内挿)すれば、測定した条件以外の様々な条件での特性を推定して利用することも可能となる。
【0050】
この他、システム同定による方法も考えられる。これは、詰まり両端の圧力(すなわちP1とP2)を同時に測定し、システム同定手法によってP1からP2への圧力伝達特性を求め、その結果から詰まりの流路特性を求めようというものである。ただし、(1)式で示したように、この特性は詰まりの流路特性の他、管路系を構成する要素の変形率Cに依存する。よって、この方法が可能なのは、Cが既知の測定装置がある場合に限られる。なお、システム同定手法については非特許文献3にその詳細が述べられているので、詳しい手順についてはここでは省略する。
【0051】
変形特性演算部12は、管路系全体もしくは管路系の中で特に変形し易い要素の圧力変化に対する変形率を演算によって求め、その求めた変形率を変形特性として圧力伝播モデル演算部13へ送る。主要な要素には、流体自身、圧力発信器の受圧面(ダイアフラム)がある。以下ではまず、この二つの要素の変形率を求める一般的な方法について述べ、それから他の要素や他の方法について述べる。
【0052】
流体自身の変形率は、流体の体積弾性率が既知であれば以下の式から算出できる。
【0053】
【数6】
【0054】
ここで、Kは流体の体積弾性率、Vは詰まりと圧力発信器との間を満たす流体の体積である。
【0055】
なお、Vは詰まりの位置によって変わることに注意する必要がある。例えば、ある特定の箇所が詰まり易いということであれば、その箇所から圧力発信器の間の管路の体積をVとすれば、その箇所が詰まった時に検知できるかどうかが判定できる。
【0056】
なお、一般的には、変形率Cが小さいほど、すなわちVが小さいほど詰まり検知は難しくなるので、詰まる可能性がある箇所のうち最も圧力発信器寄りの場所を仮定してVを算出すれば、詰まり検知が最も難しいであろうケースを評価できる。
【0057】
この他、気体の状態方程式などから(3)式の右辺(dV/dP2)を求めることによって、流体の変形率を求める方法もある。
【0058】
圧力発信器の受圧面(ダイアフラム)の変形率については、受圧面の設計仕様から得られるのであれば、その数値を用いるのが最も確実である。
【0059】
なお、流体によっては、この2つのうちの片方のみを考慮すれば良い場合がある。例えば、圧縮性流体の場合は流体の変形率が受圧面のそれを大きく上回る場合が多いので、流体のそれのみを考慮すれば十分な場合が大半である。一方、非圧縮性流体の場合は、流体がほとんど変形しないため、受圧面の変形率のみを考慮すれば足りる場合が大半である。
【0060】
この他、導圧管も圧力に伴って変形する。しかし、最もよく用いられる金属製の導圧管の場合、その変形率は前述した2つの要素に比べれば小さいことが普通である。よって、通常は無視しても構わない。ただし、導圧管が柔らかい樹脂の場合には、考慮する必要が出てくる場合もあろう。
【0061】
また、詰まりの流路特性同様、システム同定による方法も可能である。この方法はこれまで述べた方法でCの値を求められない場合に有効である。この方法を用いる場合は、差圧−流量特性が既知の模擬閉塞が必要となる。また、この方法で直接得られるのは、管路系を構成する各要素の個別の変形率ではなく、その和であることに注意を要する。個別の変形率を求める必要がある場合には、模擬閉塞と圧力発信器との間を満たす流体の体積Vを変えて複数通り実験を行うとよい(圧力発信器の受圧面の変形はVに依存しないが、流体の変形量はVに比例することを利用する)。
【0062】
圧力伝播モデル演算部13では、詰まり特性演算部11によって求められた詰まりの流量特性と変形特性演算部12によって求められた変形特性とを用いて、プロセス配管と導圧管の接続点から圧力発信器までの圧力伝播モデルを演算によって求める。モデルの形式は様々なものが考えられる。(4)式で表される微分方程式モデルであれば、非線形の動特性を表現できる。一方、詰まりの流量特性が(5)式のような形で表されるケースでは、圧力伝播モデルは線形時不変の動的モデルで表すことができる。例えば、(7)式のような微分方程式、(8)式のような伝達関数で表現できる。なお、伝達関数表現については、非特許文献2に詳細に述べられているので、ここでの説明は省略する。
【0063】
【数7】
【0064】
【数8】
【0065】
【数9】
【0066】
ただし、sはラプラス演算子、P1(s)とP2(s)はP1(t)とP2(t)のラプラス変換を表す。Rは詰まりの流量特性を決定する係数であり、例えば、詰まり内の流れが層流であり、詰まり部分の形状が円筒状であれば、理論式としては(9)式で定義される定数となる。(8)式は、プロセス配管と導圧管の接続点から圧力発信器までの伝達特性が、時定数がRCである一次のローパスフィルタで特徴付けられることを意味する。
【0067】
その他、圧力伝播モデルの形式としては、ステップ応答や周波数応答なども利用できる。また、分布定数系モデルを使っても構わない。
【0068】
評価判定部14Aにおいて、圧力伝播特性評価部141は、圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価する。判定部143は、圧力伝播特性評価部141によって評価された圧力伝播特性の評価結果に基づいて、適用される導圧管の詰まり診断手法によって指定された詰まりの程度を検知可能かどうかを、記憶部142に記憶されている基準値と比較して判定する。なお、判定結果は、適用する導圧管の詰まり診断手法、そのために用いられる圧力発信器によって変わりうることに注意する。これは、詰まり検知の性能が、診断手法や圧力発信器の仕様・性能に依存するからである。
【0069】
〔参考例2〕
図8に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例2)を示す。この参考例2のシステムの特徴は、圧力伝播モデルを用いたシミュレーションにより、詰まった時の圧力波形を模擬することで、診断の可否判定を行うことにある。
【0070】
このシステムにおいて、評価判定部14(14B)は、評価部144と、基準値を記憶する記憶部145と、判定部146とから構成されている。評価部144は、圧力波形生成部144Aと、詰まり時波形模擬部144Bと、詰まり時指標評価部144Cとを備えている。以下、それぞれについて説明する。なお、圧力伝播モデルを得る過程については参考例1と同じなので、説明を省略する。
【0071】
圧力波形生成部144Aは、診断時のプロセス配管圧力波形と同様な信号を生成する。ここでいう圧力波形であるが、例えば、特許文献1〜5のように圧力揺動による診断手法であれば、圧力波形とは圧力揺動波形のこととなる。また、特許文献6、7のようにステップ状の圧力変化を重畳させる方法であれば、圧力波形はステップ状の波形となる。
【0072】
圧力波形の生成方法はいくつかある。例えば、圧力波形を圧力揺動波形とした場合、診断の対象となる導圧管に詰まりが無い状態で、同じく診断の対象となる圧力発信器を使って圧力揺動波形を収集し、それをそのまま用いる方法がある。この方法は実際に診断の対象となる圧力揺動波形をそのまま用いるので、判定の確度が高くなる。また、収集した圧力揺動信号からそのパワースペクトル密度を推定し、それと同様なパワースペクトルを持つ信号を擬似的に生成して用いる方法もある。このような信号は、正規乱数(正規分布に従う乱数)の系列とフィルタの組み合わせで生成できる。この方法は、十分な長さの圧力揺動波形を直接収集できない場合などに有効である。
【0073】
診断の対象となる導圧管から直接圧力揺動波形を収集できない場合については、運転条件や流体の特性が近い他の圧力測定点、他のプロセスにて収集したデータを基に、前述した方法を用いて揺動波形を擬似的に生成する方法が考えられる。また、流体の圧力揺動のパワースペクトル密度に関する性質が理論的にある程度わかっている場合には、それを利用して生成することも可能であろう。
【0074】
診断に用いる圧力波形がステップ状の波形である場合についても同様である。導圧管に詰まりが無い状態で、制御弁にステップ状の操作信号を重畳した時の圧力応答波形を収集し、それをそのまま用いる、ステップ状の波形をそのまま模擬圧力信号にするといった方法が考えられる。
【0075】
詰まり時波形模擬部144Bは、圧力波形生成部144Aによって生成された信号と圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルとを用いて、導圧管が詰まった時に圧力発信器で観測されるであろう模擬圧力波形信号をシミュレーションによって生成する。生成方法としては計算機による数値シミュレーションが最も一般的であるが、他の方法でも可能である。例えば、圧力伝播モデルと等価な電気回路を用意し、圧力波形生成部144Aによって生成された信号を電気信号として前記回路に印加すれば、出力として詰まり時の模擬波形を電気信号として得ることができる。
【0076】
詰まり時指標評価部144Cは、詰まり時波形模擬部144Bによって生成された模擬圧力波形信号に、適用される導圧管の詰まり診断手法を適用し、詰まりの判断基準となる指標を求めることで、指定された詰まりに対する指標の評価を行う。判定部146は、詰まり時指標評価部144Cで求められた指標と記憶部142に記憶されている基準値とを比較し、指定された詰まりの程度を検知可能かどうかを判定する。
【0077】
〔参考例3〕
図9に本発明の実施に利用する詰まり診断可否判定システムの構成図(本発明の理解を助けるための参考例3)を示す。この参考例3のシステムにおいて、評価判定部14(14C)は、参照モデル記憶部147と、圧力伝播特性比較判定部148とから構成されている。なお、圧力伝播モデルを得る過程については参考例1と同じなので、説明を省略する。
【0078】
参照モデル記憶部147には、適用する導圧管の詰まり診断手法によって検知可能な状況に対応する圧力伝播モデルが参照モデルとして記憶されている。例えば、プロセス配管から圧力発信器までのステップ応答の時定数が1[s]以上であれば検知可能であるとか、5[Hz]において振幅が1/10以下であれば検知可能であるとか、そのような形で与えられた特性を、圧力伝播モデルと伝播特性が比較可能な形式で(必要であれば変換して)保持する。可能であれば、圧力伝播モデル演算部13が使う形式と同じ形式で保持することが、後の比較が容易になるという点で好ましい。
【0079】
圧力伝播特性比較判定部148は、圧力伝播モデル演算部13によって演算された圧力伝播モデルと、参照モデル記憶部147に記憶されている参照モデルとを比較し、圧力伝播モデルの減衰特性が参照モデルと同程度、もしくはそれ以上と判断された場合、詰まりの検知が可能と判定する。
【0080】
例えば、圧力伝播モデル、参照モデル共に、(8)式の伝達関数形式で表されていたとする。ここで、参照モデルが、時定数が1[s]以上であるような(8)式の伝達関数だとすれば、比較対象である圧力伝播モデルの時定数が1[s]以上であれば詰まりは検知可能、1[s]未満であれば検知不可という判定になる。このように、本実施の形態は、モデルを介して詰まり検知の可否を判定することに特徴がある。
【0081】
〔実施の形態1〕
参考例1〜3によると、ある所与の詰まりの程度に対して、適用する導圧管の詰まり診断手法で検知可能かどうかを判定することができる。特定の詰まりの程度に対する検知可否を知る目的であれば、この手法をそのまま適用すればよい。一方、詰まりがどの程度まで進行したら検知可能なのかを知りたい場合もある。以下に説明する実施の形態1の詰まり検知可能程度推定システムは、このような目的に参考例1〜3を利用したものである。
【0082】
この実施の形態1のシステムの構成は、図10に示すように、参考例1〜3の詰まり特性演算部11と変形特性演算部12と圧力伝播モデル13と評価判定部14との構成に対し、演算制御部15と表示部16とを付加したものになっている。
【0083】
このシステムにおいて、演算制御部15は、評価判定部14からの評価判定結果に基づいて、詰まり特性演算部11へ指定する詰まりの程度を変えて行くことで、検知可能な詰まりの程度を求める。その結果は表示部16に表示される。
【0084】
演算制御部15の挙動の一例を示す。まず、詰まりの程度の初期値を決める。そして、その詰まりの程度を詰まり特性演算部11に入力し、参考例1〜3による結果を評価判定部14から得る。
【0085】
もし、詰まり検知可能ということであれば、与えた詰まりの程度は検知可能ということになるので、より重度の詰まりの程度(例えば、詰まり部分の直径を少し小さくする)で再度同じ手順を試行する。
【0086】
一方、詰まり検知不可ということであれば、与えた詰まりの程度は検知できないということになるので、より軽度の詰まりの程度(例えば、詰まり部分の直径を少し大きくする)で再度同じ手順を試行する。
【0087】
以上の手順を繰り返すことで、検知可・不可の境界を絞り込むことができる。その結果、どこまで詰まりが進行すれば検知可能かどうかを推定することができる。
【0088】
なお、演算制御部15の挙動は上述した方法に限られるものではない。例えば、詰まり部分の直径の初期値として導圧管の内径の半分を与え、この直径を少しずつ小さくしながら参考例1〜3を行い、検知可能と判定されるまで繰り返すことでも、検知可能な詰まりの直径の最大値を推定できる。
【0089】
〔実施の形態2〕
実施の形態1では、演算制御部15によって制御された繰り返し演算を基に検知可能な詰まりの程度の推定を行った。一方、逆算を行うことで詰まりの程度を推定することも可能である。以下に説明する実施の形態2の詰まり検知可能程度推定システムは、そのような例を示す。
【0090】
この実施の形態2のシステムの構成は、図11に示すように、参考例1〜3の詰まり特性演算部11と変形特性演算部12と圧力伝播モデル13と評価判定部14との構成に対し、検知可能モデル集合演算部17と検知可能詰まり程度集合演算部18と表示部19とを付加したものになっている。
【0091】
このシステムにおいて、検知可能モデル集合演算部17は、詰まり検知が可能と判断される条件を、圧力伝播モデル演算部13と評価判定部14との関係に基づいた演算によって、検知可能なモデル集合として得る。
【0092】
一例として、参考例3に基づいた方法を示す。例えば、参考例3の参照モデルとして、時定数が1〔s〕以上となる(8)式の伝達関数モデルが与えられており、圧力伝播モデル演算部13が用いるモデル形式も(8)式で与えられていたとする。この場合、検知可能なモデル集合は、「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」として得られる。
【0093】
別の一例として、参考例2に基づいた例を示す。圧力伝播モデル演算部13が用いるモデル形式が(8)式の伝達関数として得られていたとする。検知可能モデル集合演算部17は、(8)式の時定数RCを変えて、評価判定部14に詰まり検知の可否を判定させる。その結果、時定数が1〔s〕以上であれば検知可能、それ以下では困難と判断されれば、検知可能なモデル集合は「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」となる。
【0094】
検知可能詰まり程度集合演算部18は、検知可能モデル集合演算部17からの検知可能なモデル集合を入力とし、詰まり検知が可能と判断される条件を、詰まり特性演算部11と,変形特性演算部12と,圧力伝播モデル演算部13との関係に基づいた演算によって、検知可能な詰まりの程度の集合(範囲)として得る。
【0095】
例えば、前述した方法により、検知可能なモデル集合が「RC>1となるような(8)式の伝達関数の集合」として得られていたとする。ここで、変形特性演算部12により、変形率Cが得られていたとすれば、検知可能な条件は「R>1/C」という形になる。更に、(9)式の関係を利用すれば、検知可能なつまりの長さl、詰まりの直径dの存在範囲を特定することができる。また、詰まりの長さlを一点に固定すれば、検知可能な詰まりの直径dの上限を求めることもできる。
【0096】
以上のように、実施の形態2では、検知可能なモデル集合、検知可能な詰まりの程度の集合、という順に逆算していくことで、検知可能な詰まりの程度を推定する。なお、本実施の形態は、参考例3に基づいて実施するのが最も好ましい。参考例3を用い、更に、参照モデルの形式と、圧力伝播モデル演算部13が用いるモデルの形式を同じにしておけば、検知可能なモデル集合は比較的容易な演算により得ることができるからである。
【0097】
なお、上述した参考例1〜3では、圧力発信器を用いた圧力測定システム(図12)を対象として説明したが、差圧発信器を用いた差圧測定システム(図13)を対象としても同様にして、その導圧管に生じる詰まりに対する診断の可否を判定することが可能である。この場合、差圧測定システムでは導圧管が2本になるが、導圧管路の圧力伝播モデルを各導圧管毎に用い、同様にして診断の可否を判定すればよい。実施の形態1,2でも、同様にして、差圧測定システムだけではなく、差圧測定システムでも、導圧管の詰まり検知可能程度を推定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の導圧管の詰まり検知可能程度推定システムは、プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムとして、圧力発信器を用いた圧力測定システムや差圧発信器を用いた差圧測定システムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
1…圧力発信器、2…プロセス配管、3,3−1,3−2…導圧管、3a…管壁、4…差圧発信器、5…差圧発生機構(オリフィス等)、6…詰まり(閉塞)、7…流体、8…連通管、9…受圧面(圧力発信器の内部のダイアフラム)、10…詰まり程度指定部、11…詰まり特性演算部、12…変形特性演算部、13…圧力伝播モデル演算部、14(14A,14B,14C)…評価判定部、141…圧力伝播特性評価部、142…記憶部、143…判定部、144…評価部、144A…圧力波形生成部、144B…詰まり時波形模擬部、144C…詰まり時指標評価部、145…記憶部、146…判定部、147…参照モデル記憶部、148…圧力伝播特性比較判定部、15…演算制御部、16…表示部、17…検知可能モデル集合演算部、18…検知可能詰まり程度集合演算部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムであって、
前記導圧管およびこの導圧管に連通する連通管とこれら管を流れる流体とを管路系とし、この管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算する変形特性演算手段と、
指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算する詰まり特性演算手段と、
前記変形特性演算手段によって演算された変形特性と前記詰まり特性演算手段によって演算された詰まりの流量特性とから前記管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段と、
前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段と、
前記変形特性演算手段、前記詰まり特性演算手段、前記圧力伝播モデル演算手段および前記評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定する検知可能詰まり程度推定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記詰まり特性演算手段は、
前記指定される詰まりの程度を検知可能な詰まりの程度の候補として入力し、
前記検知可能詰まり程度推定手段は、
前記評価判定手段での評価判定結果に基づいて前記詰まり特性演算手段に指定する検知可能な詰まりの程度の候補を変えて行くことによって、検知可能な詰まりの程度を求める
ことを特徴とする導圧管の詰まり診断可否判定システム。
【請求項3】
請求項1に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記検知可能詰まり程度推定手段は、
前記圧力伝播モデル演算手段と前記評価判定手段との関係に基づいた演算によって、詰まり検知が可能と判断される条件を、検知可能なモデル集合として求める検知可能モデル集合演算手段と、
前記検知可能モデル集合演算手段によって求められた検知可能なモデル集合を入力とし、前記詰まり特性演算手段と前記変形特性演算手段と前記圧力伝播モデル演算手段との関係に基づいた演算によって、詰まり検知が可能と判断される条件を、検知可能な詰まりの程度の集合として求める検知可能詰まり程度集合演算手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり診断可否判定システム。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記管路系の圧力伝播モデルとして、集中定数系で近似した数学モデルを用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、下記(1)式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【数1】
但し、前記(1)式において、P1(t)は詰まりから見てプロセス配管側の圧力、P2(t)は詰まりから見て検出端側の圧力、fは詰まりの流量特性を決定する関数、tは時間、Cは管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形率。
【請求項6】
請求項5に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、前記(1)式中の関数f(P1(t)−P2(t))を、P1(t)−P2(t)の一次関数である(P1(t)−P2(t))/Rに置き換えた下記(2)式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【数2】
但し、前記(2)式において、Rは詰まりの流量特性を決定する係数。
【請求項7】
請求項5に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、伝達関数で表現したモデルを用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価する圧力伝播特性評価手段と、
前記圧力伝播特性評価手段によって評価された結果を基に適用される詰まり診断手法で前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを基準値と比較して判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項9】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
診断時のプロセス配管圧力波形と同様な信号を生成する圧力波形生成手段と、
前記圧力波形生成手段によって生成された信号と前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルとを用いて前記導圧管が詰まった時に観測されるであろう模擬圧力波形信号をシミュレーションによって生成する詰まり時波形模擬手段と、
前記詰まり時波形模擬手段によって生成された模擬圧力波形信号に、適用される導圧管の詰まり診断手法を適用し、詰まりの判断基準となる指標を求める詰まり時指標評価手段と、
前記詰まり時指標評価手段によって求められた指標と基準値とを比較して前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項10】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
適用する導圧管の詰まり診断手法によって検知可能な状況に対応する圧力伝播モデルを参照モデルとして記憶する参照モデル記憶手段と、
前記参照モデル記憶手段に記憶されている参照モデルと前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルとを比較し、その比較結果に基づいて前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記詰まり特性演算手段は、
前記詰まりの流量特性を演算する際にハーゲン・ポアズイユの式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記導圧管から導かれてくる流体の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記変形特性演算手段は、
前記流体が非圧縮性流体である場合、前記変形特性として、前記圧力検出手段の受圧面の変形特性を演算する
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記導圧管から導かれてくる流体の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記変形特性演算手段は、
前記流体が圧縮性流体である場合、前記変形特性として、前記流体の体積弾性率と,前記判定対象として指定された詰まりと前記圧力検出手段との間を満たす前記流体の体積とから、前記流体の変形特性を演算する
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項1】
プロセス配管から分岐された導圧管に生じる詰まりに対して検知可能な詰まりの程度を推定する導圧管の詰まり検知可能程度推定システムであって、
前記導圧管およびこの導圧管に連通する連通管とこれら管を流れる流体とを管路系とし、この管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形特性を演算する変形特性演算手段と、
指定される詰まりの程度からその詰まりの流量特性を演算する詰まり特性演算手段と、
前記変形特性演算手段によって演算された変形特性と前記詰まり特性演算手段によって演算された詰まりの流量特性とから前記管路系の圧力伝播モデルを演算する圧力伝播モデル演算手段と、
前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルを評価判定する評価判定手段と、
前記変形特性演算手段、前記詰まり特性演算手段、前記圧力伝播モデル演算手段および前記評価判定手段を利用して、検知可能な詰まりの程度を推定する検知可能詰まり程度推定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記詰まり特性演算手段は、
前記指定される詰まりの程度を検知可能な詰まりの程度の候補として入力し、
前記検知可能詰まり程度推定手段は、
前記評価判定手段での評価判定結果に基づいて前記詰まり特性演算手段に指定する検知可能な詰まりの程度の候補を変えて行くことによって、検知可能な詰まりの程度を求める
ことを特徴とする導圧管の詰まり診断可否判定システム。
【請求項3】
請求項1に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記検知可能詰まり程度推定手段は、
前記圧力伝播モデル演算手段と前記評価判定手段との関係に基づいた演算によって、詰まり検知が可能と判断される条件を、検知可能なモデル集合として求める検知可能モデル集合演算手段と、
前記検知可能モデル集合演算手段によって求められた検知可能なモデル集合を入力とし、前記詰まり特性演算手段と前記変形特性演算手段と前記圧力伝播モデル演算手段との関係に基づいた演算によって、詰まり検知が可能と判断される条件を、検知可能な詰まりの程度の集合として求める検知可能詰まり程度集合演算手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり診断可否判定システム。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記管路系の圧力伝播モデルとして、集中定数系で近似した数学モデルを用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、下記(1)式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【数1】
但し、前記(1)式において、P1(t)は詰まりから見てプロセス配管側の圧力、P2(t)は詰まりから見て検出端側の圧力、fは詰まりの流量特性を決定する関数、tは時間、Cは管路系を構成する要素の圧力変化に対する変形率。
【請求項6】
請求項5に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、前記(1)式中の関数f(P1(t)−P2(t))を、P1(t)−P2(t)の一次関数である(P1(t)−P2(t))/Rに置き換えた下記(2)式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【数2】
但し、前記(2)式において、Rは詰まりの流量特性を決定する係数。
【請求項7】
請求項5に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記集中定数系で近似した数学モデルとして、伝達関数で表現したモデルを用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルの圧力伝播特性を評価する圧力伝播特性評価手段と、
前記圧力伝播特性評価手段によって評価された結果を基に適用される詰まり診断手法で前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを基準値と比較して判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項9】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
診断時のプロセス配管圧力波形と同様な信号を生成する圧力波形生成手段と、
前記圧力波形生成手段によって生成された信号と前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルとを用いて前記導圧管が詰まった時に観測されるであろう模擬圧力波形信号をシミュレーションによって生成する詰まり時波形模擬手段と、
前記詰まり時波形模擬手段によって生成された模擬圧力波形信号に、適用される導圧管の詰まり診断手法を適用し、詰まりの判断基準となる指標を求める詰まり時指標評価手段と、
前記詰まり時指標評価手段によって求められた指標と基準値とを比較して前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項10】
請求項1〜3の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記評価判定手段は、
適用する導圧管の詰まり診断手法によって検知可能な状況に対応する圧力伝播モデルを参照モデルとして記憶する参照モデル記憶手段と、
前記参照モデル記憶手段に記憶されている参照モデルと前記圧力伝播モデル演算手段によって演算された圧力伝播モデルとを比較し、その比較結果に基づいて前記指定された詰まりの程度を検知できるか否かを判定する判定手段と
を備えることを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記詰まり特性演算手段は、
前記詰まりの流量特性を演算する際にハーゲン・ポアズイユの式を用いる
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記導圧管から導かれてくる流体の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記変形特性演算手段は、
前記流体が非圧縮性流体である場合、前記変形特性として、前記圧力検出手段の受圧面の変形特性を演算する
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載された導圧管の詰まり検知可能程度推定システムにおいて、
前記導圧管から導かれてくる流体の圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記変形特性演算手段は、
前記流体が圧縮性流体である場合、前記変形特性として、前記流体の体積弾性率と,前記判定対象として指定された詰まりと前記圧力検出手段との間を満たす前記流体の体積とから、前記流体の変形特性を演算する
ことを特徴とする導圧管の詰まり検知可能程度推定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−24576(P2013−24576A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156426(P2011−156426)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]