説明

導電ペースト用貴金属粉末及びその製造方法

【課題】 ペースト膜の電気抵抗が低く、且つセラミック基板との結合性が変化せず、焼成に際して何ら欠陥が生じることがない導体回路素子を与える導電ペースト用貴金属粉末を提供すること。
【解決手段】 理論密度の少なくとも92%の密度を有し且つ平均粒径が6μm以下であることを特徴とする導電ペースト用貴金属粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス上への導電回路、発熱体回路、集電電極等の導体材料として利用することができる導電ペースト用貴金属粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス上への導電回路、発熱体回路、集電電極等の形成には、通常、貴金属粉末を含有する焼付け用導電ペーストが使用される。
【0003】
焼付け用導電ペーストは、一般に、貴金属粉末、基板との結合性を担う金属酸化物やガラス系フリットなどの無機酸化物及び有機ビヒクルからなり、セラミックスなどの絶縁基板や各種素子等にスクリーン印刷等の方法で塗布した後、焼成することにより導電膜または発熱体回路の形成が行なわれる。
【0004】
特に、発熱体回路を形成する電子部品やセンサー部品分野では、高い精度や耐久性を有する貴金属発熱体が要求されている。
【0005】
更に、近年では、より抵抗の低い発熱体回路を形成せしめることができるペーストが望まれている。
【0006】
かかる要望に応えるべく、従来より様々な貴金属ペーストの開発が行なわれている。例えば、特許文献1には、貴金属粉末の表面を有機酸金属塩で被覆し、次に不活性雰囲気中で熱処理して得られる高温焼成対応貴金属粉末及び当該貴金属粉末が有機ビヒクルに分散されてなる導体ペーストが開示されている。また、特許文献2には、Pt、Pd、Rh及びIrより選ばれる貴金属又は該貴金属の2種以上の合金からなる貴金属表面上に、貴金属粉末の質量を基準にして200〜3000ppmの金属酸化物が担持されている金属酸化物担持貴金属粉末について開示されている。しかし、特許文献1及び2に記載のような金属酸化物担持貴金属粉末は、金属酸化物の担持により、電気抵抗が高くなり、また、セラミック基板との結合性が変化し、焼成に際して歪みの発生源となる可能性があるなどの問題がある。
【0007】
特許文献3には、Pd粉末と、酸易溶性化合物と、有機溶媒とを混練した後、有機溶媒を揮発除去し、得られるPd粉末と酸易溶性化合物との混合物を300℃以上で加熱処理し、次いで放冷し、酸で該化合物を溶解し、Pd粉末を回収する方法が記載されている。また、特許文献4には、白金粉末と、長周期表の3族乃至15族の何れかの金属元素の酸化物の少なくとも一種の粉末からなる添加剤とを混合する混合工程と、該混合工程で得られる混合粉末に所定温度の熱処理を施す熱処理工程と、該熱処理が施された混合粉末を酸又はアルカリで処理することにより該添加剤を溶解する溶解工程と、該添加剤が溶解された混合粉末に洗浄処理を施すことにより該添加剤を除去する除去工程からなる白金粉末の製造方法が開示されている。しかし、これらの方法は、貴金属粉末と酸易溶性化合物または金属酸化物粉末との混合であるため、貴金属粉末の表面を十分に覆うまでは至らず、熱処理を行ったときに貴金属粉末の凝集が起きるという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平8−7644号公報
【特許文献2】特開2006−193796号公報
【特許文献3】特開平8−176602号公報
【特許文献4】特開2006−299385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
湿式還元法により得られる貴金属粉末の表面に金属酸化物を担持させて熱処理することにより、該貴金属粉末の表面に付着している不純物を除去することができ、貴金属ペースト膜の膨張を抑えることができる。しかし、前述のとおり、貴金属粉末の表面に金属酸化物を担持させると、ペースト膜の電気抵抗が高くなり、また、セラミック基板との結合性が変化し、焼成に際して歪みの発生源となるなどの問題がある。近年、導電回路素子の複雑化、信頼性の向上及び精密化に伴い、このような結合性の変化が導電回路素子の欠陥を生じさせるという問題ある。
【0010】
本発明の目的は、上記の如き問題を解決し、ペースト膜の電気抵抗が低く、且つセラミック基板との結合性が変化せず、焼成に際して何ら欠陥が生じることがない導体回路素子を与える導電ペースト用貴金属粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、湿式還元法で得られる密度が理論密度より低い貴金属粉末の密度をより高め、且つ粉末の凝集を抑制することにより、上記の如き目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして、本発明は、理論密度の少なくとも92%の密度を有し且つ平均粒径が6μm以下であることを特徴とする導電ペースト用貴金属粉末を提供するものである。
【0013】
本発明は、また、貴金属以外の金属塩の水溶液に貴金属粉末を分散させ、該金属塩を不溶化処理して貴金属粉末の表面に該金属塩を析出担持させ、次いで該金属塩が担持された貴金属粉末を熱処理し、熱処理によって生成する金属酸化物を酸またはアルカリ水溶液を使用して除去することを特徴とする上記の貴金属粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
金属酸化物を担持させ、熱処理した後、該金属酸化物を除去することにより得られる本発明の導電ペースト用貴金属粉末は、不純物量が極めて少なく、密度が高く、本発明の貴金属粉末を用いてなる導電ペーストは、ペースト膜の収縮特性において膨張する温度域が全くみられず、金属酸化物を担持してなる貴金属粉末を用いてなる導電ペーストに比べて、電気的特性に優れている。従って、本発明の貴金属粉末を用いてなる導電ペーストを使用することにより、欠陥のない導電回路を形成せしめることができるという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の導電ペースト用貴金属粉末およびその製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0016】
本発明の貴金属粉末は、従来の導電ペースト用貴金属粉末と同様に、Pt、Pd、Rh、Irまたはこれらの2種もしくはそれ以上の合金よりなることができる。その形状には特に制限はないが、一般に球状であることが好ましい。
【0017】
このような球状の貴金属粉末は、例えば、以下に述べる湿式還元法によって製造することができるが、その方法に限定されるものではない。
【0018】
湿式還元法において出発原料として使用される貴金属含有化合物としては、白金化合物として、例えば、塩化白金酸 H(PtCl)・6HO、塩化白金酸アンモニウム(NHPtCl、塩化白金酸カリウム K(PtCl)等が挙げられ、パラジウム化合物として、例えば、塩化パラジウム PdCl、ジクロロジアンミンパラジウム Pd(NHCl、テトラアンミンジクロロパラジウム Pd(NHCl・nHO等が挙げられ、ロジウム化合物として、例えば、塩化ロジウム RhCl・3HO等が挙げられ、イリジウム化合物として、例えば、塩化イリジウム酸 H(IrCl)・6HO等が挙げられる。これらの化合物は、それぞれ単独でまたは合金化すべき金属の種類及び比率に応じて2種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
これらの貴金属化合物は、水性媒体中に溶解又縣濁させた状態で還元剤を加えて還元することにより貴金属にすることができる。還元に使用しうる還元剤としては、例えば、ヒドラジン水化物、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等のヒドラジン化合物を挙げることができる。その使用量は、反応における理論量より過剰であればよい。還元は、通常、25〜95℃の温度で行なうことができる。
【0020】
また、上記還元は、アンモニウム化合物を添加しつつ行なうことが望ましい。添加しうるアンモニウム化合物としては、例えば、水酸化アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硼酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、その添加量は、貴金属1molに対して、NH換算で通常5〜14mol、特に7〜12molの範囲内が好適であり、この範囲内で制御することにより、得られる貴金属粉末のSEM(走査型電子顕微鏡)の写真から測定される平均粒径を0.2〜3μm、好ましくは0.5〜2μmの範囲内にコントロールすることができ、目的とする粒径をもつ貴金属粉末を得ることができる。
【0021】
このようにして湿式で製造される貴金属粉末の密度は一般に理論密度の90%未満である。この貴金属粉末の密度を理論密度の92%以上、特に94%以上とすることにより電気抵抗の低減化を図ることができる。
【0022】
貴金属粉末の密度は熱処理を行うことにより高めることができる。熱処理を行なう際、貴金属粉末の焼結を抑えるために、貴金属粉末の表面に金属塩が担持される。この金属塩は熱処理することにより金属酸化物となるが、この金属酸化物は熱処理後酸又はアルカリ水溶液で処理することにより除去されるので、使用される金属塩は、熱処理によって形成される金属酸化物を酸又はアルカリ水溶液により除去することができるものであることが望ましい。このような金属塩としては、例えば、マグネシウム、イットリウム、亜鉛、アルミニウム、ストロンチウム、カルシウム、バリウム、マンガン等の硝酸塩又は塩化物塩が挙げられる。これらのうち、貴金属粉末への担持性に優れているマグネシウム、イットリウム、亜鉛又はアルミニウムの金属塩が好適である。
【0023】
金属塩の担持は、例えば、金属塩を溶解した水溶液に貴金属粉末を分散させ、該金属塩を不溶化処理する、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウムなどのアリカリ水溶液を添加して中和することによって行なうことができる。金属塩の担持量は、通常、貴金属粉末に対して、酸化物換算で40000〜60000ppmの範囲内、特に約50000ppmが好適であるが、それに制限されるものではなく、例えば、熱処理温度が低い場合には、少なくとも2000ppmの少ない担持量で熱処理することもでき、また、熱処理温度が高い場合には、約500000ppmまでの高い担持量とすることもできるが、それ以上多量に担持してもそれに伴うだけの効果はない。
【0024】
金属塩を担持させた貴金属粉末は、次いで、大気または不活性ガス中にて約550〜約1200℃の範囲内の温度で熱処理される。貴金属表面上に担持された金属塩が熱処理中の貴金属粉末の焼結凝集を抑え、貴金属粉末の密度を上げる。熱処理温度が約550℃未満では、粉末の密度が上がらず、反対に約1200℃を超えると、貴金属粉末が焼結凝集し、貴金属粉末の平均粒径が6μmを超えることがあり、それを用いて形成される焼成膜
の電気抵抗を下げる効果が得られない。
【0025】
担持された金属塩は上記の熱処理により金属酸化物となるが、この金属酸化物は熱処理後に除去される。金属酸化物のうち、MgO及びYは酸水溶液、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などで処理することにより溶解除去することができ、また、Alはアルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などで処理することにより溶解除去することができ、さらに、ZnOは酸又はアルカリ水溶液の何れでも溶解除去することができる。
【0026】
かくして本発明の貴金属粉末を得ることができる。
【0027】
本発明により提供される貴金属粉末は、電気伝導性に優れており、例えば、導体回路素子用の導電ペーストとして有利に使用することができる。
【0028】
本発明の貴金属粉末は、従来の導体ペーストの調製法と同様にして、フリットと共にビヒクル中に、例えば、3本ロールミルなどを用いて混合分散させることにより導電ペーストとすることができる。フリットは、セラミックス基体への貴金属膜の密着性の付与や貴金属膜の抵抗調整材及びヒーター使用時の貴金属導電膜中の貴金属の結晶粒の粗大化を抑制するなどの目的で使用されるものであり、本発明で使用されるフリットとしては、例えば、Al、ZrO、Y、CaO、MgO、V、SiOなどが挙げられ、これらは、基板成分、焼成温度、使用条件などに応じて、それぞれ単独で又は2種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
ビヒクルとしては、例えば、エチルセルロース、アルキッド、ポリビニルプチラール、アクリル樹脂などをターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、セルソルブなどの高沸点溶剤に溶解したものを使用することができる。
【0030】
導電ペーストの組成は、貴金属粉末の粒径及び量、フリットの種類、粒径及び量、ビヒクルの組成及び量、焼成条件、製品の用途などに応じて適宜変えることができるが、一般に、貴金属粉末は65〜85mass%、フリットは5〜15mass%、そしてビヒクルは10〜20mass%の範囲内が適当である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
実施例1
白金換算で400gの塩化白金酸を含む水溶液2000mlを80℃に加熱し、予め調製し80℃に保持した80%ヒドラジン水和物200mlと、NH換算で280gの酢酸アンモニウムを含む水溶液3200mlを徐々に加えて反応させ、洗浄、ろ過、乾燥を行ない、平均粒径1μmの球形状白金粉末を得た。次いで、白金粉末の質量に対してY換算で50000ppmとなるように計量した硝酸イットリウムの水溶液に球形状白金粉末を分散させ後、室温以下に冷却し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上にイットリウム錯体を析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持されたイットリウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化イットリウム換算で49550ppmのイットリウム錯体が担持されていることがわかった。
【0033】
次いで、イットリウム錯体を析出担持した白金粉末を大気中1000℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0034】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化イットリウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。得られた白金粉末の不純物分析を行ったところ、イットリウムの残存量は80ppmであった。
【0035】
該白金粉末、アルミナ粉末、及びエチルセルロースとターピネオール等とからなる有機ビヒクルを、白金粉末80mass%、アルミナ粉末8mass%及び有機ビヒクル12mass%の成分組成となるように計量し、一次混練した後、3本ロールミルにて仕上げ混練を行い、白金ペースト30gを得た。
【0036】
実施例2
実施例1と同様にして得られたイットリウム錯体を析出担持した白金粉末を大気中1200℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0037】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化イットリウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。
【0038】
次いで、該白金粉末を実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0039】
実施例3
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末の質量に対してY換算で5000ppmとなるように計量した硝酸イットリウムの水溶液に球形状白金粉末を分散させ後、室温以下に冷却し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上にイットリウム錯体を析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持されたイットリウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化イットリウム換算で4970ppmのイットリウム錯体が担持されていることがわかった。
【0040】
次いで、イットリウム錯体を析出担持した白金粉末を大気中600℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0041】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化イットリウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。
【0042】
該白金粉末を実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0043】
実施例4
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末の質量に対してMgO換算で5000ppmとなるように計量した硝酸マグネシウムの水溶液に球形状白金粉末を分散させ後、60℃に加熱し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上に水酸化マグネシウムを析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持された水酸化マグネシウムを再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化マグネシウム換算で4960ppmの水酸化マグネシウムが担持されていた。
【0044】
次いで、水酸化マグネシウムを析出担持した白金粉末を大気中800℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0045】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化マグネシウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。得られた白金粉末の不純物分析を行ったところ、マグネシウムの残存量は77ppmであった。
【0046】
該白金粉末を実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0047】
実施例5
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末の質量に対してZnO換算で5000ppmとなるように計量した硝酸亜鉛の水溶液に球形状白金粉末を分散させ後、60℃に加熱し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上に亜鉛錯体を析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持された亜鉛錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化亜鉛換算で4950ppmの亜鉛錯体が担持されていることがわかった。
【0048】
次いで、亜鉛錯体を析出担持した白金粉末を大気中700℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0049】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化亜鉛を塩酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。得られた白金粉末の不純物分析を行ったところ、亜鉛の残存量は430ppmであった。
【0050】
該白金粉末を実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0051】
実施例6
パラジウム換算で50gのジクロロジアンミンパラジウム粉末と純水を50℃に加熱し、28%アンモニア水溶液160mlを加え、予め調製し45℃に保持した硫酸ヒドラジン水溶液3000mlを加え反応させ、洗浄、ろ過、乾燥を行ない、平均粒径1μmの球形状パラジウム粉末を得た。次いで、パラジウム粉末の質量に対してMgO換算で50000ppmとなるように計量した硝酸マグネシウムの水溶液に球形状パラジウム粉末を分散させ後、60℃に加熱して、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状パラジウム粉末表面上に水酸化マグネシウムを析出担持したパラジウム粉末を得た。その一部を採取し、パラジウム粉末に担持された水酸化マグネシウムを再度溶解させ、ICPで分析したところ、パラジウム粉末表面上に酸化マグネシウム換算で49520ppmの水酸化マグネシウムが担持されていることがわかった。
【0052】
次いで、水酸化マグネシウムを析出担持したパラジウム粉末を不活性ガス中800℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0053】
熱処理にてパラジウム粉末表面上に生成した酸化マグネシウムとマグネシウムを硝酸で溶解させて除去し、パラジウム粉末を得た。
【0054】
該パラジウム粉末を実施例1と同様に処理して、パラジウムペースト30gを得た。
【0055】
実施例7
白金換算で45gの塩化白金酸を含む水溶液300mlとロジウム換算で5gの塩化ロジウム酸を含む水溶液25mlを混合し、その混合溶液を80℃に加熱し、予め調製し80℃に保持した80%ヒドラジン水和物20mlとNH換算で28gの酢酸アンモニウムを含む水溶液320mlを徐々に加え反応させ、洗浄、ろ過、乾燥を行ない、平均粒径1μmの球形状をした90mass%Pt−10mass%Rh合金粉末を得た。
【0056】
次いで、合金粉末の質量に対してY換算で20000ppmとなるように計量した硝酸イットリウムの水溶液に該合金粉末を分散させ後、室温以下に冷却し、アンモニア水溶液を添加して中和し、90mass%Pt−10mass%Rh合金粉末表面上にイットリウム錯体を析出担持した合金粉末を得た。その一部を採取し、該合金粉末に担持さ
れたイットリウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、該合金粉末表面上に酸化イットリウム換算で19850ppmのイットリウム錯体が担持されていることがわかった。
【0057】
次いで、イットリウム錯体を析出担持した90mass%−Pt10mass%Rh合金粉末を大気中1200℃で2時間保持する熱処理を行った。
【0058】
熱処理にて該合金粉末表面上に生成した酸化イットリウムを硝酸で溶解させて除去し、90mass%−Pt10mass%Rh合金粉末を得た。
【0059】
該合金粉末を実施例1と同様に処理して、90mass%−Pt10mass%Rh合金粉末ペースト30gを得た。
【0060】
実施例8
白金換算で45gの塩化白金酸を含む水溶液300mlとパラジウム換算で5gの塩化パラジウム酸を含む水溶液25mlを混合し、その混合溶液を80℃に加熱し、予め調製し80℃に保持した80%ヒドラジン水和物20mlとNH換算で28gの酢酸アンモニウムを含む水溶液320mlを徐々に加え反応させ、洗浄、ろ過、乾燥を行ない、平均粒径1μmの球形状をした90mass%Pt−10mass%Pd合金粉末を得た。
【0061】
次いで、合金粉末の質量に対してAl換算で5000ppmとなるように計量した硝酸アルミニウムの水溶液に該合金粉末を分散させ後、60℃にて加熱して、アンモニア水溶液を添加して中和し、90mass%Pt−10mass%Pd合金粉末表面上にアルミニウム錯体を析出担持した合金粉末を得た。その一部を採取し、該合金粉末に担持されたアルミニウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、該合金粉末表面上に酸化アルミニウム換算で4960ppmのアルミニウム錯体が担持されていることがわかった。
【0062】
次いで、アルミニウム錯体を析出担持した90mass%−Pt10mass%Pd合金粉末を大気中800℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0063】
熱処理にて該合金粉末表面上に生成した酸化アルミニウムを水酸化ナトリウム水溶液にて溶解させて除去し、90mass%−Pt10mass%Pd合金粉末を得た。得られた合金粉末の不純物分析を行ったところ、アルミニウムの残存量は40ppmであった。
【0064】
次いで、該合金粉末を実施例1と同様に処理して、90mass%Pt−10mass%Pd合金粉末ペースト30gを得た。
【0065】
実施例9
白金45gを含む塩化白金酸水溶液300mlとイリジウム5gを含む塩化イリジウム酸溶液25ml混合した溶液を80℃に加熱し、予め調製し80℃に保持した80%ヒドラジン水和物20mlとNH換算で28gの酢酸アンモニウムを含む水溶液320mlを徐々に加え反応させ、洗浄、ろ過、乾燥を行ない、平均粒径0.7μmの球形状の90mass%−Pt10mass%Ir合金粉末を得た。次いで、該合金粉末の質量に対してMgO換算で3000ppmとなるように計量した硝酸マグネシウムの水溶液に該合金粉末を分散させ後、60℃に加熱し、アンモニア水溶液を添加して中和し、該合金粉末表面上に水酸化マグネシウムを析出担持した90mass%Pt−10mass%Ir合金粉末を得た。その一部を採取し、該合金粉末に担持された水酸化マグネシウムを再度溶解し、ICPで分析したところ、該合金粉末表面上に酸化マグネシウム換算で2975ppmの水酸化マグネシウムが担持されていることがわかった。
【0066】
次いで、水酸化マグネシウムを析出担持した90mass%Pt−10mass%Ir合金粉末を大気中1000℃で2時間保持することにより熱処理を行った。
【0067】
熱処理にて該合金粉末表面上に生成した酸化マグネシウムを硝酸溶解させて除去し、90mass%Pt−10mass%Ir合金粉末を得た。
【0068】
次いで、該合金粉末を実施例1と同様に処理して、90mass%Pt−10mass%Ir合金粉末ペースト30gを得た。
【0069】
比較例1
実施例1で得られた平均粒径1μmの熱処理していない球形状白金粉末を使用し、実施例1と同様にして、白金ペースト30gを得た。
【0070】
比較例2
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末と、該白金粉末の質量に対してMgO換算で50000ppmとなるように計量した酸化マグネシウムとを混合し、次いで、大気中800℃で2時間保持することにより熱処理を行ない、白金粉末と酸化マグネシウムとの混合粉末を得た。
【0071】
次いで、該混合粉末中の酸化マグネシウムを硝酸で溶解させて酸化マグネシウムを除去し、白金粉末を得た。
【0072】
次いで、該白金粉末を使用して実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0073】
比較例3
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末と、該白金粉末の質量に対してMgO換算で50000ppmとなるように計量した酸化マグネシウムと有機ビヒクルとを3本ロールミルで混合し、次いで140℃で乾燥してビヒクル成分を飛散させ、大気中で800℃にて2時間保持することにより熱処理を行ない、白金粉末と酸化マグネシウムとの混合粉末を得た。
【0074】
次いで、該混合粉末中の酸化マグネシウムを硝酸で溶解させて酸化マグネシウムを除去し、白金粉末を得た。
【0075】
次いで、該白金粉末を使用して実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0076】
比較例4
実施例4で得られた酸化マグネシウムが白金粉末表面上に担持された熱処理していない白金粉末を使用して、実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0077】
比較例5
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末と、該白金粉末の質量に対してMgO換算で300000ppmとなるように計量した酸化マグネシウム粉末とを混合し、次いで、大気中で800℃にて2時間保持することにより熱処理を行ない、白金粉末と酸化マグネシウムとの混合粉末を得た。
【0078】
次いで、該混合粉末中の酸化マグネシウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た

【0079】
該白金粉末を使用して実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0080】
比較例6
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末の質量に対してSrO換算で50000ppmとなるように計量した硝酸ストロンチウムの水溶液に該球形状白金粉末を分散させ後、60℃に加熱し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上にストロンチウム錯体を析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持されたストロンチウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化ストロンチウム換算で190ppmのストロンチウム錯体が担持されていた。
【0081】
次いで、ストロンチウム錯体を析出担持した白金粉末を大気中で600℃にて2時間保持することにより熱処理を行った。
【0082】
熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化ストロンチウムを硝酸で溶解して除去し、白金粉末を得た。
【0083】
該白金粉末を使用して実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0084】
比較例7
実施例1で得られた平均粒径1μmの球形状白金粉末の質量に対して質量に対してCaO換算で50000ppmとなるように計量した硝酸カルシウムの水溶液に該球形状白金粉末を分散させ後、60℃に加熱し、アンモニア水溶液を添加して中和し、球形状白金粉末表面上にカルシウム錯体を析出担持した白金粉末を得た。その一部を採取し、白金粉末に担持されたカルシウム錯体を再度溶解し、ICPで分析したところ、白金粉末表面上に酸化カルシウム換算で175ppmの水酸化カルシウムが担持されていることがわかった。
【0085】
次いで、カルシウム錯体を析出担持した白金粉末を大気中で600℃にて2時間保持することにより熱処理を行った。
【0086】
次いで、熱処理にて白金粉末表面上に生成した酸化カルシウムを硝酸で溶解させて除去し、白金粉末を得た。
【0087】
次いで、該白金粉末を使用して実施例1と同様に処理して、白金ペースト30gを得た。
【0088】
比較例8
実施例6で得られた平均粒径1μmの熱処理していない球形状パラジウム粉末を使用し、実施例6と同様にして、白金ペースト30gを得た。
【0089】
比較例9
実施例7で得られた平均粒径1μmの熱処理していない球形状90mass%Pt−10mass%Rh合金粉末を使用し、実施例7と同様にして、白金ペースト30gを得た。
【0090】
比較例10
実施例8で得られた平均粒径1μmの熱処理していない球形状90mass%Pt−10mass%Pd合金粉末を使用し、実施例8と同様にして、白金ペースト30gを得た

【0091】
比較例11
実施例9で得られた平均粒径0.7μmの熱処理していない球形状90mass%−Pt10mass%Ir合金粉末を使用し、実施例9と同様にして、白金ペースト30gを得た。
【0092】
以上の実施例及び比較例で得られた粉末について、比重瓶による真比重(粉末の密度)を測定した。その結果を表−1に示す。表−1において、○は粉末の密度が各貴金属粉末の理論密度の92%以上であることを示し、×は92%未満であることを示す。
【0093】
また、実施例及び比較例で得られた粉末について、粉末の加熱減量を熱重量分析装置(TG−DTA)にて測定した。その結果も表−1に示す。表−1において、○は加熱減量が0.2%未満であることを示し、×は0.2%以上であることを示す。
【0094】
さらに、実施例及び比較例で得られた粉末について、沈降法による平均粒径を測定した。その結果も表−1に示す。表−1において、○は粉末の平均粒径が6μm以下であることを表し、×は6μm超であることを表す。
【0095】
他方、実施例及び比較例で得られたペーストをスクリーン印刷し、乾燥したペースト膜を基板より剥がし、丸めたペースト膜を作製し、このペースト膜を加熱した時の収縮特性を熱機械分析装置(TMA)にて測定した。収縮特性で白金膜が膨張する温度領域が観察されるものを×(0.1%以上)とし、膨張が見られなかったものを○(0.1%未満)とし、その結果を表−1に併せて示す。
【0096】
また、実施例及び比較例で得られたペーストをアルミナ基体にスクリーン印刷した後、100℃で20分間乾燥後、1500℃で60分間保持焼成して導電膜を形成した。得られた導電膜について、マルチテスター及び表面粗さ計を用いて比抵抗値を求めた。その結果も表−1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
上記表−1に示すとおり、貴金属粉末上に金属塩を担持し熱処理を行い、次いで生成する金属酸化物を除去することによって、白金粉末の対理論密度比は86.4%(比較例1
)から95.6%(実施例1)に増加し、白金ペースト導電膜の比抵抗は23.8μΩcm(比較例1)から21.9μΩcm(実施例1)に低減した。また、加熱減量は0.65%(比較例1)から0.17%(実施例1)に低下し、白金粉末に付着している不純物が取り除かれ、ペースト膜の熱膨張も1.7%(比較例1)から0.017%(実施例1)と著しく低下した。
【0099】
上記表−1から明らかなとおり、本発明に従う実施例1〜9の貴金属粉末は密度が高く、貴金属ペースト導電膜の比抵抗が低く、膨張もないという優れた特性を有する。
【0100】
これに対し、熱処理を行っていない比較例1、比較例8、比較例9、比較例10及び比較例11の貴金属粉末は、それに付着している不純物によって、ペースト膜の膨張がおこり、また、貴金属粉末の密度が対理論密度比90%未満であり、貴金属ペースト導電膜の比抵抗も高い。
【0101】
金属酸化物との混合による熱処理が行われている比較例2、比較例3及び比較例5の白金粉末の平均粒径は大きく、白金膜の比抵抗も大きい。比較例3では、白金粉末の焼結による凝集体が3本ロールミルの混合で崩すことができず、ペースト化することができなかった。
【0102】
金属塩としてストロンチウム塩又はカルシウム塩を用いた比較例6及び比較例7の白金粉末では、白金粉末上に担持させた酸化ストロンチウム又は酸化カルシウムの担持量が低く、そのため、熱処理で白金粉末の焼結が生じて白金粉末の平均粒径が増加し、白金ペースト導電膜の比抵抗が増加した。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1の白金ペースト及び比較例1の白金ペーストから形成されたペースト膜を加熱した時の収縮特性を熱機械分析装置(TMA)にて測定した結果を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
理論密度の少なくとも92%の密度を有し且つ平均粒径が6μm以下であることを特徴とする導電ペースト用貴金属粉末。
【請求項2】
Pt、Pd、Rh、Irまたはこれらの2種もしくはそれ以上の合金の粉末である請求項1に記載の貴金属粉末。
【請求項3】
貴金属以外の金属塩の水溶液に貴金属粉末を分散させ、該金属塩を不溶化処理して貴金属粉末の表面に該金属塩を析出担持させ、次いで該金属塩が担持された貴金属粉末を熱処理し、熱処理によって生成する金属酸化物を酸またはアルカリ水溶液を使用して除去することを特徴とする請求項1または2に記載の貴金属粉末の製造方法。
【請求項4】
貴金属以外の金属塩がマグネシウム、イットリウム、亜鉛またはアルミニウムである請求項3に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−144215(P2010−144215A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322537(P2008−322537)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】