説明

導電性トラックの製造方法

有機金属化合物を溶液から基板上に塗布するコーティングステップと、還元剤を含有する酸性溶液を用いて実施することを特徴とする還元ステップとを含む、導電性トラックの製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物を溶液から基板上に塗布するコーティングステップと、還元ステップとを含む、導電性トラックの製造方法に関する。本発明の中で、前記還元ステップは作成ステップとも考えられ、このステップでは非導電性トラックまたは膜から導電性トラックまたは膜を作成する。場合によっては、有機金属化合物は、還元ステップ前に、電磁放射に露光することによって活性化してもよい。
【0002】
導電性トラックは、現在、電子回路(例えば、コンピュータおよびディスプレイ)やアンテナから帯電防止膜まで、さまざまな用途で、主要要素の1つとして利用されている。これらのトラックは、導電性金属(例えば、銅、銀、または金)、セラミックス(例えば、ITO)、またはポリマー(例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))から作製され、多様なサイズおよび形状で、さまざまな方法によって製造することができる。
【0003】
導電性トラックを作成するための従来の方法は、例えば化学気相堆積もしくは物理気相堆積によって、基板上に導電性層を堆積するステップを含む。次に、その導電性層の上に感光性コーティングを堆積し、そのコーティングを局所的に露光する。この局所露光において、感光性層の露光部分と非露光部分とに溶解性の差が生じ、可溶性部分は、その後適当な溶媒を用いて除去する。次のステップでは、導電性層を強力なエッチング液に曝露し、残った感光性コーティングで保護されていない部分を除去する。最終ステップでは、別の溶媒を用いて、残った感光性コーティングを除去する。この方法を使用して、さまざまな種類の基板上に、小さいフィーチャで明瞭な導電性トラックを作成することができるが、この方法は包括的であり、非常に費用がかかる。さらに、加工ステップのほとんどは、バッチ式でしか利用できず、この技法はロール・ツー・ロール加工方式には適さない。
【0004】
前の方法で説明したステップの数を減らすために、US2003/207568から代替の方法が公知であるが、ここでは感光性コーティング剤としての特別な有機金属化合物と、導電性金属前駆体とが開示さている。この化合物は、式MLL’X(式中、Mは金属であり、Lは中性配位子であり、L’は負に帯電した配位子であり、Xは陰イオンである)によって定義される。この化合物を溶液から基板に塗布し、フォトリソグラフィ用マスクを通して局所的に露光して、導電性部分を作成する。最終ステップでは、材料を適切な溶媒に曝露することによって、露光されていない非導電性部分を除去する。
【0005】
別の方法は、無電解めっきの概念に基づいている。この方法では、基板を続けていくつかの浴に曝露する。まず基板をエッチングし、良好な接着性を確保するために中和し、触媒の吸収を確実にするために活性化する。次に、これを触媒に曝露して導電性層の堆積を促し、導電性層の堆積を改善する促進剤に曝露する。最後に、基板を導電性材料の溶液に曝露して、導電性層を作成する。この方法を用いて、高導電性トラックを作成することができる。しかしながら、この方法は非常に複雑であり、溶液は毒性で非常に強力であることが多い。さらに、この方法は、加工パラメータに非常に敏感であり、わずかに逸脱すると、望ましくない部分に導電性材料が自然に沈着する結果をもたらしうる。
【0006】
導電性トラックを製造するためのより便利な方法は、導電性インクの印刷(例えば、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、またはフレキソ印刷)に基づく。このようなインクは、通常は、ポリマー溶液またはコロイド金属粒子のナノ分散液から構成されている。このような方法には、追加のパターニングステップを用いずに、導電性トラックを所望のサイズおよび形状で作成できるという利点がある。しかしながら、基板にコロイド金属粒子またはポリマーを塗布後、塗布した材料を導電性にするために熱処理が必要とされる。コロイド金属粒子の場合は、安定分散液を形成するために金属粒子に塗布される有機コーティング剤を除去し、これらの粒子を焼結して高密度の導電性金属トラックにする。ポリマーの場合は、残ったあらゆる溶媒を除去するために熱処理を適用する。このような熱処理は、長い時間(典型的には30分間を超える)にわたり、比較的高い温度(典型的には150℃を上回る)を必要とする。したがって、これらの技法は、最も一般的なポリマー基板上に導電性トラックを塗布する場合には適さない。結果として、無機(例えば、ガラスまたはシリコン)ポリマー基板または高価な特殊なポリマー基板(例えば、ポリイミド)のみを使用することができる。さらに、導電性ポリマーの導電率は、無機の対照物と比較すると、比較的低い。
【0007】
したがって、本発明の目的は、さまざまな種類の基板上に導電性トラックを作成するための低温での単純な方法であって、上述の印刷技法と互換性がある方法を提供することである。本方法で作成された導電性トラックは、非常に高い導電率と優れた機械的特性を示す。
【0008】
本発明により、この目的は、還元ステップが還元剤を含有する酸性溶液を用いて実施される、冒頭の段落に記載した方法によって達成される。
【0009】
本発明の方法では、製造方法における温度が70℃未満に維持されることが好ましい。
【0010】
導電性トラックとは、導電性材料のパターンであり、これはいかなる形状またはサイズであってもよく、ただしトラックの導電率は1メートル当たり1000ジーメンス(S/m)を上回るべきであるという制約があるものと理解されるべきである。前記トラックは、それを堆積する基板全体を覆ってもよいが、基板の一部のみを覆ってもよい。さらに、前記トラックは、単一のフィーチャまたは複数のフィーチャとみなすことができる。
【0011】
本発明において、有機金属化合物とは、金属と炭素原子との間に直接的または間接的化学結合を含有するあらゆる化合物として理解されるべきである。この結合は共有性またはイオン性の性質を有しうる。種々の金属が有機金属化合物を形成することで知られているが、本発明では、単独または組み合わせでの以下の金属:銅、アルミニウム、白金、パラジウム、銀、または金が好適である。前記化合物の有機物の割合は、好適な溶媒中に十分に溶解させることができる程度に大きい割合であるべきである。またこれは、導電性トラックの最終特性に対して制限的な作用を有さない程度に小さい割合であるべきである。本発明の好適な実施形態では、有機金属化合物は、金属カルボキシレートまたは金属チオレートの群に属し、炭素原子の数は4〜20個である。本発明のより好適な実施形態では、有機金属化合物は金属カルボキシレートの群に属し、炭素原子の数は8〜12個であり、また炭素骨格は分岐している。本発明のさらに好適な実施形態では、有機金属化合物はネオデカン酸金属塩、最も好ましくはネオデカン酸銀である。
【0012】
本発明の代替の実施形態では、導電性トラックの膜形成および/または導電率は、有機金属溶液に固体有機化合物を添加することによって改善される。前記化合物は、有機金属化合物と同じ溶媒中に溶解しうる、オリゴマーまたはポリマー成分であってよい。前記化合物の分子量は、少なくとも500グラム/モルであるべきである。使用することができるオリゴマーまたはポリマーは当業者に既知であり、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PE)、またはポリ(エチレンテレフタレート)(PET)であってもよいが、これらに限定されない。本発明の別の実施形態では、固体有機化合物はポリマー前駆体である。このポリマー前駆体は、少なくとも1個の活性基を有しているべきであり、これは開始剤を添加して、または開始剤を添加せずに、別の活性基と反応しうる。このようなポリマー前駆体の例は当業者に既知であり、重合時にポリマーまたはポリマーネットワークを形成しうるあらゆる種であると理解される。この例には、メチルメタクリレート、エチレン、プロピレン、またはブタジエンがあるが、これらに限定されない。開始剤は、好ましくはUV開始剤であり、これはUV光の吸収時にポリマー前駆体と反応することが可能である。原則として、例えばCiba Specialty Chemicals社のあらゆるIrgacure(登録商標)開始剤など、いかなる既知のUV開始剤を典型的な濃度範囲約1〜10質量%で使用してもよい。
【0013】
有機金属化合物を基板に塗布するために、有機金属化合物は適切な溶媒に溶解させる。有機金属化合物は、所望の加工方法に要求される粘度や表面張力などの加工パラメータの調整を行なえるように、前記溶媒に十分に可溶性であるべきである。本発明の好適な実施形態では、溶媒は芳香族有機溶媒、例えばトルエンまたはキシレンである。溶媒は有機金属化合物を基板に塗布した後に蒸発させるが、残留溶媒が有機金属層に依然として存在する可能性もある。
【0014】
有機金属化合物は、溶液から基板に薄層を塗布するために使用することができる既知のいかなる方法によって、溶液から基板に塗布してもよい。堆積の方法としては、いかなる追加のパターニングステップも必要とせずに、目的とする導電性トラックのパターンが直接堆積できるような方法が好適である。トラックを所望のパターンに塗布するために使用できる方法には、例えば、インクジェット印刷、溶液流延法、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、スピンコーティング、ドクターブレーディング、ディップコーティング、キャピラリーフィリング、またはスプレーコーティングが含まれる。
【0015】
有機金属化合物を塗布する基板は、ポリマー基板、セラミック基板、ガラス基板、または金属基板であるが、ただし基板を溶液に曝露している間に、このような有機金属化合物または還元剤を含有する溶液中で前記基板が溶解すべきではないという制約がある。導電性トラックの低温製造方法により、高い温度で分解および/または変形しやすい可撓性の汎用ポリマー基板、例えばポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、あるいは少なくとも80%のポリ(エチレンテレフタレート)およびトリアセチルセルロース(TAC)を含むもの、または少なくとも80%トリアセチルセルロースを含むものなどを使用することが可能である。高温焼結が要求されることから、従来技術では、インクジェット印刷などの便利な堆積技法は使用できない。
【0016】
有機金属化合物を塗布する基板は、いかなる形状またはサイズであってもよい。基板は、例えば、シート、スライド、箔、プレート、繊維、または多孔質膜であってよい。
【0017】
原則として、導電性は電磁放射に露光せずに達成することができる。一方、そのようなトラックまたは膜の導電率は、照射を受けた対照物と比較してかなり低い。したがって、電磁放射に露光することによって有機金属化合物を活性化することは好ましい。この処理は、還元時間を著しく短くすることも判明している。この露光は、導電性トラックの最終特性へのいかなる重大な変化も伴わずに、周囲条件下または任意の不活性雰囲下で実施することができる。電磁照射は、波長範囲200〜1000nm、好ましくは250〜450nmの光源に露光することによって実行する。本発明のより好適な実施形では、露光に使用する光はUV光である。
【0018】
実施例で使用する光源は、高圧水銀蒸気光源である。スペクトルはフィルターを用いずに使用し、(この種のランプで普通であるように)365nmでピーク発光を示す。このランプの主要部は、250〜450nmで発光する。
【0019】
好適には、露光量1〜10J/cmの波長320〜390nmの光を使用する。波長200〜300nmの光源を使用する場合、露光量は0.1〜1J/cmまで減少させることができる。
【0020】
「重大」なのは露光量(強度×時間)であり、光源の強度だけではないことは当業者に既知である。また、要求される露光量は、使用する有機金属化合物の吸収スペクトルによって異なる。これは、より高エネルギーのUV光(<300nm)は、通常はより低エネルギーのUV光(300〜400nm)よりもより容易に吸収されることを意味する。
【0021】
実際に、日光のみで、露光ステップの役割を果たすのに十分となりうる。必要であれば、日常的な試行によって、要求される露光量および露光時間を容易に決定することができる。
【0022】
代替の実施形態では、有機金属化合物を電磁放射に局所的に露光することによって、有機金属化合物の一部のみを活性化する。これは例えば、フォトリソグラフィックUVマスク露光またはホログラフィックUV露光を用いて行なうことができる。このパターン化された露光の結果、有機金属膜に潜像が作成される。この潜像は、露光部分と非露光部分との間の還元速度の違いを特徴とする。したがって、還元ステップにおいて、露光部分は非露光部分よりも容易に還元されて導電性トラックとなる。好適には、適当な溶媒、例えばトルエン、キシレン、またはイソプロパノールなどを用いて、非露光部分に残った材料を除去する。
【0023】
最終ステップでは、有機金属化合物と固体有機化合物とを含む層を還元剤を含有する酸性溶液に曝露する。前記溶液に使用する溶媒は、関連する時間規模(典型的には5分未満)で、基板および/または照射されたトラックを溶解したり、あるいはこれらにその他の有害な影響を与えるべきではない。本発明の好適な実施形態では、溶媒は水および/またはアルコールである。金属イオンを金属に還元するために使用する還元剤は、金属イオンの還元をもたらすのに適当な酸化/還元電位を有するべきである。基板上および/または導電性トラック上にこれらの化学物質の望ましくない残留物が堆積するのを防止するために、還元剤およびその酸化誘導体は上述の溶媒組成物に十分に可溶性であるべきである。またこれらは、関連する時間規模(典型的には5分未満)で、使用された基板にいかなる有害な影響も与えるべきではない。本発明の好適な実施形態では、還元剤は、フェノール化合物またはその誘導体(例えば、ハイドロキノン、メトール、p−アミノフェノール、ピロガロール、カテコール、アミドール)、および/またはアスコルビン酸、ギ酸、あるいはホウ酸である。これらの物質は、単独で、または組み合わせて使用することができる。本発明のより好適な実施形態では、還元剤は、ハイドロキノンまたはその誘導体である。
【0024】
好ましくは、還元剤は、ほぼ0.01〜5モル/リットル程度、より好ましくは0.1〜2モル/リットルの濃度で使用する。
【0025】
還元剤が酸性特性を有する場合(ハイドロキノンまたはアスコルビン酸)、この化合物を適切な溶媒、例えばアルコールおよび/または水に単に溶解するだけで十分であろう。あるいは、適量の硫酸または水酸化ナトリウムを還元剤の溶液に添加することによって、溶液の酸性性質を得ることもできる。還元性溶液のpHは、2〜7未満、例えば6.9が最適であることが判明している。本発明の好適な実施形態では、還元性溶液のpHは2.5〜6であり、さらに好適な実施形態では、還元性溶液のpHは3〜5である。
【0026】
希釈していないアルコールの場合、これはC2H5O−およびH+の形成をもたらす(COH+を形成する)。H+は電位差を生じ、これはpHメーターで測定される。
【0027】
添加剤は、還元性溶液の使用寿命を長くするために、および/または還元時間を短くするために使用することができる。これらの例は当業者に既知であり、例えば亜硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムであってよいが、これらに限定されない。還元ステップでは、溶液を基板に接触させるいかなる方法を用いてもよい。これには例えば、ディップコーティングおよびスプレーコーティングがある。
【0028】
PETなどの汎用プラスチックで作られた基板との適合性を確保するために、上述のような方法全体を低温で実施してもよく、この温度は一般に100℃未満である。本発明の好適な実施形態では、方法を0℃〜70℃で実施する。本発明のより好適な実施形態では、方法を15℃〜40℃で実施する。
【0029】
驚くべきことに、本発明による方法で製造した導電性トラックは、機械的荷重下で(曲げ試験および引張り試験において)、その高い導電率を維持することが判明した。したがって、これらのトラックは、可撓性基板と理想的な組み合わせを形成する。
【0030】
決して本発明を制限するものではないが、説明の目的で、いつくかの実施例を以下に挙げる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ITO電極を有するねじれネマチックセル(灰色の曲線)、および本発明による方法で作成された電極を有するセル(黒色の曲線)のスイッチング電圧の測定値を表わす図である。
【図2】図1で使用されているものと同じセルのスイッチング電圧3Vでのスイッチング速度(開閉)の測定値を表わす図である。
【図3】本発明による方法で得られた4本のトラックを示す写真である。
【図4】本発明による方法で得られたトラックの4端子プローブ測定によるI−V曲線を示す図である。
【図5】本発明による導電性トラックを含む膜のひずみの関数としての応力および抵抗を表わす図である。
【図6】本発明による導電性トラックを含む3×3膜の繰り返し荷重時の抵抗を表わす図である。
【図7】本発明による方法で得られた導電性トラックの還元浴のpHの関数としての抵抗を表わす図である。
【図8】フォトリソグラフィによって得られたさまざまなサイズの導電性トラックの顕微鏡画像を示している。顕微鏡画像は、反射で撮影した。
【0032】
実施例
実施例1:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。この溶液を3×3cmのホウケイ酸ガラススライド上に4000rpmで30秒間スピンコートした。次に、このスライドを1.6質量%のハイドロキノン水溶液に5分間浸漬して、得られたネオデカン酸銀層を還元し、その後これらのスライドをまず脱塩水で、続いてイソプロパノールで洗浄した。最後に、圧縮窒素を用いてスライドを乾燥させた。ポリイミド前駆体をこれらの電極の上部にスピンコートし、真空下、180℃で120分間硬化させた。次にベルベット布を用いて、このポリイミドに一軸ラビング処理を行った。5μmのスペーサを含有するUV硬化性接着剤を用いて、ラビング方向が互いに垂直となるように2つの基板を接着して、TN LCセルを作成した。ITO電極に基づくLCセルを同じ手順で作成した。これらのセルにLC材料であるE7(Merck)を毛管力によって充填し、その後これらの電極をインジウム半田で接合した。DMS 703 Autronic(Melchers GmbH)とCCD−Spect−2カメラとを組み合わせて使用し、LCセルのスイッチング特性を測定した。図1および2は、これらの測定の結果を示している。本発明による方法で得られた電極がITOで作成した電極と同様のスイッチング特性を示していることがわかる。
【0033】
実施例2:
ネオデカン酸銀をキシレン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。インクジェット印刷によって、この溶液を厚さ50ミクロンのPET箔基板に塗布してラインパターンを形成した。次に、このラインパターンをUV光源(強度0.5W/cm)に10秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液に、このパターンを含むPET箔を15秒間ディップすることで、パターンを還元して導電性トラックにした。上述の全方法は、室温で実施した。図3は、このようにして形成した4本のトラックを示している。トラックの長さは2cm、幅は200μm、高さは1μmであった。これらのラインをいくらかの銀ペーストで接続した。4本全てのライン上の抵抗を同時に測定し、18Ωであることがわかった。単一のトラックの導電率(S/m)は、トラックの長さ(2cm)をこの距離上のトラックの抵抗(18Ω)とトラックの断面積(4×200μm×1μm=800μm)とで除することによって計算した。これは、以下に等しい:
σ(S/m)=2×10−2/(18×800×10−12)=1.4×10S/m
【0034】
実施例3:
ネオデカン酸銀をキシレン中に、質量比それぞれ1:2で溶解した。インクジェット印刷によって、この溶液をホウケイ酸ガラス基板に塗布してラインパターンを形成した。次に、このラインパターンをUV光源(強度0.5W/cm)に10秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液に、このパターンを含む基板を15秒間ディップすることで、パターンを還元して導電性トラックにした。上述の全方法は、室温で実施した。このような印刷されたトラック(長さ1cm、幅127μm、高さ131nm)1本の抵抗を4端子プローブ法を用いて測定した。得られたI−V曲線を図4に示す。抵抗は、92.2Ωと計算された。この値から、実施例2に示したものと同じ方法で、導電率が6.5×10S/mと計算された。
【0035】
実施例4:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。これに0.6質量%のポリスチレン(MW3680g/mol)を添加して、溶解させた。この溶液をスピンコーティング(2000rpm、60秒間)によって、厚さ50ミクロンのPET箔基板に塗布した。次に、得られたネオデカン酸銀の膜とPET基板とをUV光源(強度0.5W/cm)に10秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液に、露光した膜とPET基板とを15秒間ディップすることで、露光したネオデカン酸銀膜を還元して導電性膜にした。ここでは導電性膜は、本発明に記述されているように、導電性トラックであるとみなした。上述の方法は、室温で実施した。
【0036】
PET基板の上部に得られた導電性膜の抵抗を機械的荷重下で試験した。これらの試験は、CairnsおよびCrawford(Cairns, Crawford, Proceedings of the IEEE 2005, 93(8), 1451 −1458)によって記載されているとおりに実施した。図5には、20%ひずみまで引張ったときの抵抗への影響を示している。5%ひずみまでは抵抗の上昇がないことが認められた。5%ひずみ後に抵抗は上昇するが、およそ100%ひずみで試料が破損したとき(グラフには示さない)、抵抗は依然としてわずか約160Ωであった。挿入図は、試験試料の形状を示している。また、PET基板の上部に得られた導電性膜には、疲労試験も行なった。ここでは、直径3.75cmのシリンダーに試料を12,000回巻き付けた。図6は、12,000サイクル後でも、抵抗に認められる変化がなかったことを示している。図5および6はどちらも、PET基板の上部に得られた導電性膜が、非常に良好な機械的特性を有することを示している。
【0037】
実施例5:
ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液に、適量の硫酸または水酸化ナトリウムを添加して、さまざまなpH(1.1〜8.7)の還元性溶液を製造した。ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。この溶液をスピンコーティング(4000rpm、30秒間)によって、3×3cmの厚さ50ミクロンのPET箔基板に塗布した。次に、得られたネオデカン酸銀の膜とPET基板とをUV光源(強度0.5W/cm)に10秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、露光した膜とPET基板とを製造した還元性溶液に15秒間ディップすることで、露光したネオデカン酸銀膜を還元して導電性膜にした。上述の全方法は、室温で実施した。図7は、還元性溶液のpHに対してプロットした、各膜の導電率を示している。還元性溶液の理想pH領域は、2.5〜6.5であることがわかる。pH値2.3未満では、導電率は測定できなかった。
【0038】
実施例6:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。直径1mmのポリエチレン繊維をこの溶液に通すことによって、この繊維をネオデカン酸銀でコートした。次のステップでは、コートした繊維をUV光源(強度0.05W/cm)に100秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液にこの繊維を15秒間で通して、活性化させたネオデカン酸銀を還元して導電性トラックにした。上述の全方法は、室温で実施した。作成された導電性繊維は、抵抗約3Ωcm−1を有した。
【0039】
実施例7:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。この溶液をホウケイ酸ガラス基板上にスピンコートした。次のステップでは、コートした基板をUV光源(強度0.05W/cm)に100秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、アスコルビン酸10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液にこの繊維を15秒間で通して、活性化させたネオデカン酸銀を還元して導電性トラックにした。上述の全方法は、室温で実施した。
【0040】
実施例8:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。この溶液をホウケイ酸ガラス基板上にスピンコートした。次のステップでは、コートした基板をUV光源(強度0.05W/cm)に100秒間露光して、ネオデカン酸銀を活性化させた。最終ステップでは、ピロカテコール10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%の溶液にこの繊維を15秒間で通して、活性化させたネオデカン酸銀を還元して導電性トラックにした。上述の全方法は、室温で実施した。
【0041】
実施例9:
ネオデカン酸銀をトルエン中に、質量比それぞれ2:3で溶解した。この溶液をホウケイ酸ガラス基板の上部に、3000rpmでスピンコートした。続いて、得られた個体膜をフォトリソグラフィ用ラインマスク(0.5mm周期、充填比0.5)を通してUV光源(強度0.05W/cm)に120秒間露光して、ネオデカン酸銀を局所的に活性化させた。パターン露光ステップ後、ハイドロキノン10質量%、エタノール54質量%、脱塩水36質量%を含有する溶液に、ネオデカン酸銀膜を15秒間ディップした。このステップにおいて、露光部分は十分な速度で還元されて導電性銀トラックになったが、非露光部分は非導電性のままであり、イソプロパノールで膜全体を濯ぐことによって依然として除去することができた。上述の全方法は、室温で実施した。このようなフォトリソグラフィによって得られたトラック(長さ1cm、幅250μm、高さ200nm)1本の抵抗は、約47Ωと測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を溶液から基板上に塗布するコーティングステップと、還元剤を含有する酸性溶液を用いて実施することを特徴とする還元ステップとを含む、導電性トラックの製造方法。
【請求項2】
前記有機金属化合物の基板上への塗布後であり、かつ前記還元ステップ前に、電磁放射への露光によって前記有機金属化合物を活性化させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記有機金属化合物を電磁放射に局所的に露光することによって、前記化合物の一部のみを活性化させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記製造を、0℃〜70℃、好ましくは15℃〜40℃の温度範囲で実施する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記有機金属化合物が金属カルボキシレートである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記有機金属化合物が金属チオレートである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記有機金属化合物がネオデカン酸銀である、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記有機金属化合物を非極性溶媒中に溶解させる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記基板がポリマー基板である、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記基板が少なくとも80%のポリ(エチレンテレフタレート)を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記基板が少なくとも80%のトリアセチルセルロースを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記基板が、シートまたは繊維など、任意の形状およびサイズを有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記電磁放射の供給源が、波長範囲200〜1000nmの光である、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記電磁放射の供給源が、波長範囲250〜450nmの光である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記還元性溶液中の還元剤が、単独または組み合わせでの、フェノール化合物またはその誘導体、アスコルビン酸、ギ酸、またはホウ酸である、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記還元剤が、ハイドロキノンまたはその誘導体である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記還元剤を、水とアルコールとの混合物に溶解させる、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
固体有機化合物を前記有機金属化合物を含有する溶液に添加する、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記固体有機化合物が、ポリマー性、オリゴマー性、またはモノマー性である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記固体有機化合物が、前記モノマー性化合物と重合開始剤との混合物である、請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
前記重合開始剤がUV開始剤である、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−506775(P2011−506775A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538696(P2010−538696)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067705
【国際公開番号】WO2009/080642
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(509257318)テヒニッシェ ウニヴェルシテート アイントホーフェン (5)
【氏名又は名称原語表記】Technische Universiteit Eindhoven
【住所又は居所原語表記】Den Dolech 2, NL−5600 MB Eindhoven, Netherlands
【Fターム(参考)】