説明

導電性フィルム

【課題】導電性、透明性、ニュートンリング防止性に優れた導電性フィルムを提供すること。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片面に、(i)特有構造の繰り返し単位を主成分として含有するポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、および(ii)導電性高分子(A)の質量に対して1質量%以上30質量%以下の、平均粒径10nm以上200nm以下の凝集粒子(B)を構成成分として含む透明導電層が設けられた導電性フィルムであって、(iii)透明導電層の表面における中心面平均表面粗さRaが10nm以上250nm以下である導電性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性フィルムに関する。さらに詳しくは、液晶ディスプレイ(LCD)、透明タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンスランプ等の透明電極や、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の電磁波シールド材として好適に使用される導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電性フィルムは、LCDや透明タッチパネル等の透明電極や、PDP等の電磁波シールド材として用いられている。
【0003】
かかる透明導電性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)等の透明基材フィルム表面の少なくとも片面に、酸化インジウム(In)、酸化錫(SnO)、InとSnOの混合焼結体(ITO)等を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のドライプロセスによって設けたものがよく知られている。このようなドライプロセスは、純度の高い透明導電層を精度良く製膜することができるという点においては非常に優れているが、製膜速度が遅く、また真空を用いるために時間的にもエネルギー的にもロスが多く、生産性の低いものである。さらに、このようなドライプロセスにより得られた透明導電性フィルムは、使用される際にウェブ状で連続加工や打ち抜き加工がなされたり、表面加工工程において曲げられた状態で用いられたり、あるいは曲げられた状態で保管されたりするため、各工程中や保管中において、透明導電層にクラックが発生して表面抵抗が増大する等の問題がある。
【0004】
一方、透明基材フィルムの上に、導電性高分子を含む液体を塗布する方法(ウェットプロセス)により形成された透明導電層は、膜自体に柔軟性があり、クラック等の問題は生じにくい。また、ウェットプロセスは製造コストが比較的安価であり、かつ一般的に製膜速度が速いことから、生産性に優れるという利点がある。
【0005】
このようなウェットプロセスに用いられる導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等が知られている。しかしながら、これらの導電性高分子を用いて得られる透明導電性フィルムは、開発の初期段階では高い導電性が得られず、その結果、帯電防止用途等に用途が限定されていた。また、透明導電層自体の色相が問題となる場合もあった。
【0006】
そこで、ウェットプロセスにより得られる透明導電層の導電性を向上する、色相を改善する、あるいは導電性高分子の収率を向上する等の目的で、導電性高分子の製法の改良等が行われている。例えば、3,4−ジアルコキシチオフェンをポリアニオンの存在下で酸化重合することによって得られるポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリアニオンとからなる導電性高分子(特許文献1)は、例えば特許文献2および特許文献3等に記載の方法により、高い光線透過率を保ったまま非常に低い表面抵抗を発現している。
【0007】
このような導電性高分子を用いた透明導電性フィルムをタッチパネルの透明電極として使用した場合は、タッチパネルの上部電極と下部電極とが接触した際にニュートンリングが発生してしまい、視認性の点で問題となる。これは、透明導電層表面が平滑であるために生じるものである。そこで、上部電極または下部電極の少なくともいずれか一方の電極において、透明基材フィルムと透明導電層との間に、バインダーに微粒子を分散させたニュートンリング防止層を設けて、ニュートンリングの発生を抑制することが検討されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−313521号公報
【特許文献2】特開2002−193972号公報
【特許文献3】特開2003−286336号公報
【特許文献4】特開2000−246844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献4に記載の方法では、ニュートンリング防止層と透明導電層との2つの層を形成するために、2回のコーティングを行うこととなり、生産性が低くなり、ウェットプロセスの生産性が高いというメリットが低減してしまう。また、2回のコーティングを行うことにより、透明性が低くなってしまう。また、比較的粗面であるニュートンリング防止層の上に透明導電層を形成するため、導電性が低くなってしまう。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、導電性、透明性、ニュートンリング防止性に優れた導電性フィルムを生産性良く提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、導電性高分子と凝集粒子とを含む透明導電層を有し、かつ特定の表面性を有する導電性フィルムが、優れた導電性、透明性、およびニュートンリング防止性を有することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、
(1)基材フィルムの少なくとも片面に、
(i)下記式(I)で表される繰り返し単位を主成分として含有するポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、および
(ii)導電性高分子(A)の質量に対して1質量%以上30質量%以下の、平均粒径10nm以上200nm以下の凝集粒子(B)
を構成成分として含む透明導電層が設けられた導電性フィルムであって、
(iii)透明導電層の表面における中心面平均表面粗さRaが10nm以上250nm以下
である導電性フィルムである。
【0013】
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。)
【0014】
さらに本発明は、
(2)表面抵抗が1Ω/□以上10000Ω/□以下、全光線透過率が60%以上であること、
(3)ヘイズが10%未満であること、
(4)基材フィルムと透明導電層との間にアンカーコート層が設けられたこと
のうち、少なくともいずれか1つの態様を具備することによって、さらに優れた導電性フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、導電性、透明性、ニュートンリング防止性に優れた導電性フィルムを提供することができる。また、本発明は、導電性高分子を用いたウェットプロセスによるものであり、かつニュートンリング防止層と透明導電層とを別々に2層形成する必要がないため、上記のような導電性フィルムを、生産性良く提供することができる。本発明の導電性フィルムは、LCD、透明タッチパネル、有機エレクトロルミネッセンス素子、無機エレクトロルミネッセンス素子等の透明電極や、PDP等の電磁波シールド材として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の導電性フィルムの断面図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の導電性フィルムを、まず図面を用いて説明する。図1は、本発明の導電性フィルムの断面図、すなわち層構成の一例を示すものである。図1中、符号1は基材フィルム、符号2は透明導電層、符号3は必要に応じて設けられるアンカーコート層、符号4は必要に応じて設けられるハードコート層を示す。図1から分かるように、本発明の導電性フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に透明導電層が積層されたものである。このような構成を有するものであれば、例えばアンカーコート層やハードコート層等の他の機能層が、本発明の目的を損なわない限りにおいて形成されていても良い。
【0018】
以下、本発明について、さらに詳述する。
[導電性フィルム]
本発明の導電性フィルムは、後述する基材フィルムの少なくとも片面に、後述する透明導電層が設けられたものである。
本発明の導電性フィルムは、透明導電層の表面における中心面平均表面粗さRaが10nm以上250nm以下である。ここでRaは、次の測定方法により求められる。
【0019】
(中心面平均表面粗さRaの測定方法)
ZYGO社製非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより中心面平均表面粗さRaを以下の式より求めた。
【0020】
【数1】

【0021】
Zjkは測定方法(283μm)、それと直行する方法(213μm)をそれぞれM分割、N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における2次元粗さチャート上の高さである。
【0022】
Raが上記数値範囲にあると、ニュートンリング防止性に優れると同時に、導電性、透明性にも優れ、またこれらのバランスに優れたものとなる。かかるバランスは、本発明の導電性フィルムを透明電極や電磁波シールド材として用いた場合において、とりわけ好適なバランスとなる。Raが小さすぎる場合は、透明性と導電性は優れる傾向にあるが、ニュートンリング防止性に劣る傾向にある。他方、Raが大きすぎる場合は、ニュートンリング防止性は優れる傾向にあるが、透明性と導電性は劣る傾向にある。このような観点から、Raは、好ましくは50nm以上200nm以下、さらに好ましくは90nm以上140nm以下である。
【0023】
上記のような透明導電層の表面における中心面平均表面粗さRaを達成するためには、凝集粒子(B)の配合量および平均粒径を後述するような態様とすればよい。配合量を増やしたり平均粒径を大きくしたりすると、Raは高くなる傾向にある。また、透明導電層の厚みを薄くすると、Raは高くなる傾向にある。
【0024】
本発明の導電性フィルムは、表面抵抗が1Ω/□以上10000Ω/□以下の範囲にあることが好ましい。表面抵抗が上記数値範囲にあると、導電性が好適であり、透明電極や電磁波シールド材として好適に用いることができる。表面抵抗が高すぎる場合は、透明電極や電磁波シールド材としての機能が不十分となる傾向にある。他方、表面抵抗は低いほど好ましいが、低すぎる場合は、コストが高くなる傾向にある。また、製造工程が不安定化して生産性が低くなる傾向にある。また、透明性が低くなる傾向にある。このような観点から、表面抵抗は、さらに好ましくは10Ω/□以上5000Ω/□以下、特に好ましくは100Ω/□以上3000Ω/□以下である。かかる表面抵抗は、透明導電層の厚みを厚くしたり、導電性高分子の配合量を多くしたりすると低くなる傾向にあり、これらによって適宜調整することができる。
【0025】
また、本発明の導電性フィルムは、全光線透過率が60%以上であることが好ましい。全光線透過率が上記数値範囲にあると、透明性が良好であり、LCDや透明タッチパネルの透明電極や、PDPの電磁波シールド材として用いた場合に、視認性に優れる。全光線透過率が低すぎる場合は、視認性に劣る傾向にある。このような観点から、全光線透過率は、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。かかる全光線透過率は、基材フィルムの透明性を高くしたり、透明導電層の厚みを薄くしたり、後述の凝集粒子(B)の平均粒径を小さくしたり、配合量を少なくしたりすると高くなる傾向にあり、これらによって適宜調整することができる。
なお、本発明においては、上述の表面抵抗と全光線透過率とを、同時に満たす態様が特に好ましい。
【0026】
さらに、本発明の導電性フィルムは、ヘイズが10%未満であることが好ましい。ヘイズが上記数値範囲にあると、透明性が良好であり、LCDや透明タッチパネルの透明電極や、PDPの電磁波シールド材として用いた場合に、視認性に優れる。ヘイズが高すぎる場合は、視認性に劣る傾向にある。他方、ヘイズは低いほど好ましいが、低すぎる場合は、十分な導電性、およびニュートンリング防止性を得ることが困難となる傾向にあり、現実的な下限は0.1%程度である。このような観点から、ヘイズは、より好ましくは0.1%以上6%未満、さらに好ましくは1%以上5%未満、特に好ましくは2%以上4%未満である。かかるヘイズは、基材フィルムの透明性を高くしたり、透明導電層の厚みを薄くしたり、凝集粒子(B)の平均粒径を小さくしたり、配合量を少なくしたりすると低くなる傾向にあり、これらによって適宜調整することができる。
【0027】
[透明導電層]
本発明における透明導電層は、導電性高分子(A)、および凝集粒子(B)を構成成分として含む。本発明においては、透明導電層中に適度な粒径を有する凝集粒子(B)を適度な量含有することによって、透明導電層の表面に適度な凹凸を形成する。かかる凹凸により、透明タッチパネル等において、対向する導電性フィルムの透明導電層同士が接触した際にも、ニュートンリングの発生を抑制することができる。
【0028】
透明導電層の厚みは、0.01μm以上0.3μm以下であることが好ましい。厚みを上記数値範囲とすることによって、ニュートンリング防止性、導電性、透明性に優れ、これらのバランスに優れたものとすることができる。また、凝集粒子(B)の脱落を抑制することができる。厚みが薄すぎる場合は、導電性に劣る傾向にある。また、凝集粒子(B)が脱落しやすくなる傾向にある。他方、厚すぎる場合は、ニュートンリング防止性、透明性に劣る傾向にある。このような観点から、厚みは、さらに好ましくは0.02μm以上0.25μm以下、特に好ましくは0.05μm以上0.15μm以下である。
【0029】
以下、本発明における透明導電層を構成する各構成成分について説明する。
(導電性高分子(A))
本発明における導電性高分子(A)は、下記式(I)で表される繰り返し単位を主成分として含有するポリカチオン状のポリチオフェン(以下、ポリ(3,4−ジ置換チオフェン)と呼称する場合がある。)とポリアニオンとを含む。すなわち、導電性高分子(A)は、ポリ(3,4−ジ置換チオフェン)とポリアニオンとの複合化合物である。導電性高分子(A)は、水に分散させた分散液として用いられる。
【0030】
【化2】

【0031】
上記式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。かかるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
また、RおよびRは、一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。炭素数1以上12以下のアルキレン基としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、2,3−ブチレン基、2,3−ペンチレン基,1,2−シクロヘキシレン基等が挙げられる。特にメチレン基および1,2−エチレン基、1,2−シクロヘキシレン基等の1,2−アルキレン基が好ましい。このような1,2−アルキレン基は、例えば、エテン、プロペン、ヘキセン、オクテン、デセン、ドデセン、およびスチレン等のα−オレフィン類を臭素化して得られる1,2−ジブロモアルカン類から誘導することができる。置換基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基もしくはフェニル基が挙げられる。置換基としての炭素数1以上12以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
【0032】
ここで「主として」とは、ポリチオフェンを構成する繰返し単位全体に対して、上記式(I)で表される単位の含有量が、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%であることを意味する。他の繰り返し単位として、上記式(I)において、置換基ORおよび/またはORのない繰り返し単位が挙げられる。
【0033】
上記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリチオフェンは、カチオン性を示すものである。このようなカチオン性を示すポリチオフェンは、例えば、特開平01−313521号公報に記載の方法により、モノマーである3,4−ジ置換チオフェンを酸化重合することにより得ることができる。
【0034】
ポリアニオンとしては、高分子状カルボン酸、高分子状スルホン酸等が挙げられる。高分子状カルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等が挙げられる。高分子状スルホン酸としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等が挙げられる。
【0035】
また、高分子状カルボン酸および高分子状スルホン酸等のポリアニオンは、ビニルカルボン酸、ビニルスルホン酸等のアニオン性のモノマーのみから重合される単独重合体であってもよい。また、複数種のアニオン性モノマーからなる共重合体であってもよい。さらには、アニオン性モノマーと当該モノマーと共重合可能な他のモノマー類との共重合体であってもよい。アニオン性モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、アクリレート類、スチレン等を挙げることができる。ポリアニオンが共重合体である場合には、少なくとも1種のアニオン性モノマーが共重合体成分として含まれていればよく、複数種のアニオン性モノマー、あるいは、複数種の他の共重合モノマーを任意に用いることができる。
【0036】
ポリアニオンとしては、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、および少なくとも一部が金属塩となっているポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。ポリアニオンの数平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは2,000〜500,000である。
【0037】
導電性高分子(A)中のポリアニオンを構成するアニオン性モノマーの含有量は、ポリ3,4−ジ置換チオフェンの上記式(I)で表される繰り返し単位1モルに対し、好ましくは0.1〜20モル%、より好ましくは0.25〜10モル%、特に好ましくは0.5〜5モル%である。
本発明においては、以上のような導電性高分子(A)を用いることによって、透明導電層の導電性、および透明性を優れたものとすることができる。
【0038】
(凝集粒子(B))
本発明における透明導電層は、凝集粒子(B)を構成成分として含む。かかる凝集粒子(B)は、透明導電層中において一次粒子が凝集して二次粒子を形成した凝集体である。凝集粒子(B)としては、あらかじめ凝集体となっているものを用いてもよいし、あるいは、もともと一次粒子の分散体であるものが、透明導電層を形成するためのコーティング組成物を作成する過程ないし透明導電層を形成する過程において凝集体を形成するものであってもよい。なお、本発明においては、透明導電層中に、凝集に関与しないで存在する一次粒子を有していてもよいが、個数で60%以上の一次粒子が凝集に関与していることが必要である。かかる凝集に関与している一次粒子は、個数で80%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明における凝集粒子(B)の平均粒径(二次粒子の平均粒径)は、10nm以上200nm以下である。平均粒径を上記数値範囲とすることによって、透明導電層表面において、凝集粒子(B)によって形成される凹凸の高さが適度なものとなり、本発明が規定する中心面平均表面粗さRaの態様とすることが容易となる。また、ニュートンリング防止性、導電性、および透明性に同時に優れる。また、透明導電層からの凝集粒子(B)の脱落を抑制することができる。平均粒径が小さすぎる場合は、透明導電層表面において、凝集粒子(B)による凹凸が形成されにくい傾向にあり、ニュートンリング防止性に劣る傾向にある。他方、大きすぎる場合は、透明性および導電性に劣る傾向にある。また、凝集粒子(B)が脱落しやすくなる傾向にある。このような観点から、平均粒径は、好ましくは20nm以上150nm以下、さらに好ましくは30nm以上100nm以下、特に好ましくは30nm以上50nm以下である。なお、透明導電層を形成する過程で一次粒子が凝集体を形成して凝集粒子(B)となる場合は、凝集粒子(B)の配合量が後述する範囲となるように一次粒子の配合量を選択すればよい。また、凝集粒子(B)を形成する一次粒子の平均粒径は、2nm以上8nm以下であることが好ましく、配合量を上記のとおりに選択して、その上で平均粒径を上記数値範囲とすることによって、かかる一次粒子が凝集体を形成し易くなり、また、凝集粒子(B)の平均粒径を本発明が規定する数値範囲とすることが容易となる。
【0040】
凝集粒子(B)の配合量は、導電性高分子(A)の質量に対して1質量%以上30質量%以下である。配合量を上記数値範囲とすることによって、透明導電層表面において、凝集粒子(B)によって形成される凹凸の頻度が適度なものとなり、本発明が規定する中心面平均表面粗さRaの態様とすることが容易となる。また、透明導電層を形成する過程で一次粒子が凝集体を形成して凝集粒子(B)となる場合は、かかる凝集体を形成しやすくなる。また、ニュートンリング防止性、導電性、および透明性に同時に優れる。配合量が少なすぎる場合は、透明導電層表面において、凝集粒子(B)による凹凸が疎となる傾向にあり、ニュートンリング防止性に劣る傾向にある。他方、多すぎる場合は、凝集粒子(B)による凹凸が蜜となる傾向にあり、結果として突起部分と平坦部分とで高さの差がなくなる傾向にあり、ニュートンリング防止性に劣る傾向にある。また、透明性および導電性に劣る傾向にある。このような観点から、配合量は、導電性高分子(A)の質量に対して、好ましくは2質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0041】
以上のような本発明における凝集粒子(B)は、その種類は特に限定されず、有機系凝集粒子でもよいし、無機系凝集粒子でもよい。なかでも、コーティング組成物において分散性に優れる、あるいは得られる透明導電層の強度に優れる等という観点から、有機系凝集粒子としては、シリコーン微粒子からなる一次粒子が凝集体を形成したものが好ましく、無機系凝集粒子としては、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム等の金属酸化物からなる一次粒子が凝集体を形成したものが好ましい。中でも無機系凝集粒子が好ましく、シリカからなる一次粒子が凝集体を形成したものが好ましく、透明性により優れる。
【0042】
本発明における透明導電層は、一次粒子の平均粒径が1μm以上の粒子(以下、大粒子と呼称する場合がある。)を実質的に含有しない態様が好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、透明導電層中の大粒子の含有量が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下であることを示す。従来、ニュートンリング防止性を発現するためにこのような大粒子を含有し、さらに一次粒子の平均粒径が1μm未満の粒子(以下、小粒子と呼称する場合がある。)を含有するものが多くあったが、かかる態様では、大粒子の周りに小粒子が凝集してしまい、透明性に劣るものしか得ることができなかった。さらに、このような場合において透明性を高くすべく透明導電層の厚みを薄くすると、導電性フィルムがカールしてしまうため、優れた透明性が得られる程度に透明導電層の厚みを薄くすることは事実上不可能であった。これに対して本発明は、透明導電層中における凝集粒子(B)によって表面凹凸形状が形成され、ニュートンリング防止性を発現するものである。そして、かかる凝集粒子(B)は透明導電層の表層部分に集中的に存在する態様となり、中間部分には凝集粒子(B)は少量しか存在せず(凝集体を形成する前の一次粒子は存在している可能性がある)、よってカールを抑制すべく透明導電層の厚みを厚くしたとしたとしても、透明性を維持できるというものである。
【0043】
(透明導電層に添加してもよいその他の成分)
本発明における透明導電層には、必要に応じて、透明導電層の強度を向上する目的で、ポリエステル、ポリアクリル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の適当な有機高分子材料をバインダーとして添加することができる。
【0044】
また、本発明における透明導電層には、必要に応じて、透明導電層の強度を向上する目的で、アルコキシシランを添加することができる。かかるアルコキシシランとしては、メチルトリアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、トリメチルアセトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
上記のようなアルコキシシランは、加水分解され、その後の縮合反応された反応生成物の形態で透明導電層中に存在するが、かかる加水分解、および縮合を効率よく進行させる目的で、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、酸性触媒または塩基性触媒を用いることができる。酸性触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸、しゅう酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等が好適である。塩基性触媒としては、アンモニア、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の有機アミン化合物、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物等が好適である。
【0046】
[透明導電層の形成方法]
本発明における透明導電層は、透明導電層を形成するためのコーティング組成物(以下、コーティング組成物と呼称する場合がある。)を基材フィルム上に塗布し、乾燥することによって形成される。
【0047】
(透明導電層を形成するためのコーティング組成物)
本発明におけるコーティング組成物は、上述の導電性高分子(A)、および凝集粒子(B)(および/またはコーティング組成物を作成する過程ないし透明導電層を形成する過程において凝集して、透明導電層において凝集粒子(B)となりうる単分散粒子でもよい。以下、このような単分散粒子を凝集性粒子と呼称する場合がある。)を水に分散させたものである。
【0048】
かかるコーティング組成物は、導電性高分子(A)、および凝集粒子(B)(および/または凝集性粒子)と、必要に応じて透明導電層に添加してもよいその他の成分および/またはコーティング組成物に添加してもよいその他の成分等の各成分を、攪拌下で混合して調製することができる。また、導電性高分子(A)、および凝集粒子(B)(および/または凝集性粒子)は、各々をあらかじめ水に分散させた分散液として用いることが好ましく、混合が容易となり、コーティング組成物が均一となる。
【0049】
(コーティング組成物に添加してもよいその他の成分)
透明導電層を形成するためのコーティング組成物には、必要に応じて、バインダーを溶解させる目的、基材フィルムに対する濡れ性を改善する目的、固形分濃度を調整する目的で、水と相溶性のある適当な溶媒を添加することができる。かかる溶媒としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、アミド類(ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド等)等が好ましく挙げられる。
【0050】
また、本発明における透明導電層を形成するためのコーティング組成物には、必要に応じて、基材フィルムに対する濡れ性を向上させる目的で、少量の界面活性剤を添加することができる。かかる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等)、フッ素系界面活性剤(例えば、フルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル4級アンモニウム、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等)等が好ましく挙げられる。
【0051】
(塗布方法)
上記のようなコーティング組成物を基材フィルムの少なくとも片面に塗布する。かかる塗布方法としては、それ自体公知の方法を使用することができる。例えば、リップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等が好ましく挙げられる。
【0052】
コーティング組成物を基材フィルム上に塗布する際には、必要に応じて、塗工性を向上させる目的、基材フィルムと透明導電層との密着性を向上させる目的で、基材フィルム表面に、コロナ放電処理、プラズマ放電処理等の物理的表面処理を行うことができる。また、基材フィルムと透明導電層との密着性を向上させる目的においては、基材フィルムと透明導電層との間に、後述するアンカーコート層を設けることが好ましい。
【0053】
(乾燥、硬化方法)
コーティング組成物を塗布後、加熱乾燥して透明導電層を形成する。かかる加熱乾燥条件としては、好ましくは80〜160℃で10〜120秒間、さらに好ましくは100〜150℃で20〜60秒間である。バインダーとして熱硬化性樹脂を用いた場合には、かかる熱硬化性樹脂が十分に硬化する加熱乾燥条件を選択する。また、バインダーとしてUV硬化性樹脂またはEB硬化性樹脂を用いた場合には、一般的には予備乾燥を行った後に、紫外線照射または電子線照射を行う。
かくして、基材フィルム上に透明導電層を形成することができる。
【0054】
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステルや、アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボニル基等の官能基で一部変性した樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等からなるフィルムが好適である。
【0055】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられる。ポリエステルは、全酸成分を基準として20モル%以下、好ましくは10モル%以下の第3成分を共重合していてもよい。
【0056】
これらの基材フィルムのうち、機械特性や透明性に優れ、付着異物や内部異物が少なく、かつ生産コストが比較的低いという観点から、PET、PEN、またはそれらの共重合体からなる基材フィルムが特に好ましい。基材フィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下が好ましい。厚みが上記数値範囲にあると、LCD、透明タッチパネル、PDP等に用いる際に好適である。厚みが厚すぎる場合は、基材フィルムの剛性が強すぎて、得られた導電性フィルムの取り扱いが困難となる傾向にある。
【0057】
基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合は、基材フィルムと透明導電層との間に、後述するアンカーコート層を設けた態様が好ましい。かかるアンカーコート層により、基材フィルムと透明導電層との密着性を高くすることができ、例えば透明タッチパネルにおいては、透明タッチパネルの耐久性を高くすることができる。かかるアンカーコート層は、後述するように、アンカーコート層を形成するための塗液(以下、塗液と呼称する場合がある。)を塗布することにより形成される。かかる塗布は、任意の段階で実施することができるが、ポリエステルフィルムの製造過程で実施することが好ましく、特に、配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布することが好ましい。
【0058】
ここで、配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向および横方向のいずれか一方向に延伸配向した一軸延伸フィルム、更には、縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向したもの(最終的に縦方向、および横方向に再延伸して配向結晶化を完了する前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。中でも、未延伸フィルム、または一軸延伸フィルムに、アンカーコート層を形成するための塗液を塗布して、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すことが好ましい。
【0059】
[アンカーコート層]
本発明におけるアンカーコート層は、透明性を備えるものであれば特に限定されないが、透明導電層との密着性を高める、あるいは透明性をより高くするという観点から、ポリエステル樹脂、およびオキサゾリン基とポリアルキレンオキシド鎖とを有するアクリル樹脂の両方を構成成分として含むものが好ましい。
【0060】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂としては、特に限定されないが、以下に示す多塩基酸またはそのエステル形成誘導体と、ポリオールまたはそのエステル形成誘導体とから得られるポリエステル樹脂を挙げることができる。かかるポリエステル樹脂は、水(多少の有機溶剤を含有していても良い)に可溶性または分散性であることが特に好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂の多塩基酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、これらの酸成分を2種類以上含有する共重合ポリエステル樹脂が好ましい。なお、ポリエステル樹脂には、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分や、p−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸成分が含まれていても良い。
【0062】
ポリエステル樹脂のポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン等や、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等を挙げることができる。
【0063】
(アクリル樹脂)
オキサゾリン基とポリアルキレンオキシド鎖とを有するアクリル樹脂としては、以下に示すモノマーを共重合成分として含むアクリル樹脂を挙げることができる。かかるアクリル樹脂は、水(多少の有機溶剤を含有していても良い)に可溶性または分散性であることが特に好ましい。
【0064】
オキサゾリン基を有するモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中で、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手しやすく好適である。かかるオキサゾリン基を有するアクリル樹脂を用いることにより、アンカーコート層の凝集力が向上し、透明導電層との密着性がより強固になる。さらに、フィルム製膜工程内や透明導電層加工工程における金属ロールに対する耐擦傷性を基材フィルム表面に付与できる。オキサゾリン基を有するモノマーの含有量は、アクリル樹脂中の含有量として、2〜40質量%、好ましくは3〜35質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。含有量が上記数値範囲にあると、密着性、耐擦傷性により優れる。
【0065】
ポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部に、ポリアルキレンオキシドを反応させたものを挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖としては、ポリメチレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド等を挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位数は、3〜100であることが好ましい。かかるポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を用いることにより、アンカーコート層中において、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂との相溶性が、ポリアクリレンオキシド鎖を有しないアクリル樹脂の場合と比較して良好となり、アンカーコート層の透明性を向上させることができる。なお、ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位数が上記数値範囲にあると、アンカーコート層の透明性、および透明導電層との密着性に優れる。ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位数が3より小さい場合は、ポリエステル樹脂との相溶性が低くなる傾向にあり、アンカーコート層の透明性が低くなる傾向にある。他方、100より大きい場合は、アンカーコート層の耐湿熱性が低くなる傾向にあり、高湿度、高温下において、透明導電層との密着性が悪化する傾向にある。ポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーの含有量は、アクリル樹脂中の含有量として、3〜40質量%、好ましくは4〜35質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。含有量が上記数値範囲にあると、透明性、密着性により優れる。
【0066】
アクリル樹脂のその他の共重合成分としては、例えば以下のモノマーを挙げることができる。すなわち、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)(以下、アクリレートおよびメタクリレートを(メタ)アクリレートと呼称する場合がある。);2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシ基またはその塩を有するモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、アクリロイルモルフォリン、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマル酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等であるが、これらのモノマーに限定されない。
【0067】
アンカーコート層を形成するポリエステル樹脂の、アンカーコート層中の含有割合は、好ましくは5〜95質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。アンカーコート層を形成するオキサゾリン基とポリアルキレンオキシド鎖とを有するアクリル樹脂の、アンカーコート層中の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ポリエステル樹脂、およびアクリル樹脂の含有割合が上記数値範囲にあると、透明導電層との密着性に優れる。また、透明性により優れる。ポリエステル樹脂の含有割合が95質量%を超える、もしくはオキサゾリン基とポリアルキレンオキシド鎖とを有するアクリル樹脂の含有割合が5質量%未満であると、アンカーコート層の凝集力が低下する傾向にあり、透明導電層との密着性が低くなる傾向にある。また、透明性に劣る傾向にある。
【0068】
(アンカーコート層に添加してもよいその他の成分)
アンカーコート層中には、脂肪族ワックスを0.5〜30質量%含有させることが好ましく、1〜10質量%含有させることがさらに好ましい。含有量が上記数値範囲にあると、基材フィルムの滑性、および基材フィルムとアンカーコート層との密着性に優れる。含有量が0.5質量%より少ない場合は、滑性が低くなる傾向にある。他方、30質量%を越える場合は、密着性が低くなる傾向にある。
【0069】
好ましく用いられる脂肪族ワックスの具体例としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバオイル、パームワックス、ロジン変性ワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス等の植物系ワックス、ミツロウ、ラノリン、鯨ロウ、セラックワックス等の動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス、フィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の合成炭化水素系ワックス等が挙げられる。中でも、滑性が良好なことから、カルナバワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが好ましい。これらの脂肪族ワックスは、環境問題や、取り扱いの容易さの観点から、水分散体であることが特に好ましい。
【0070】
アンカーコート層中には、平均粒径0.005〜0.5μmのフィラーを0.1〜20質量%含有させることが好ましい。含有量が上記数値範囲にあると、基材フィルムの滑性、およびアンカーコート層の透明性に優れる。含有量が0.1質量%未満の場合は、滑性が低くなる傾向にあり、ロール状に巻き取ることが困難となる傾向にある。他方、20質量%を超える場合は、アンカーコート層の透明性が低くなる傾向にあり、各種ディスプレイや透明タッチパネル等の用途に使用できなくなることがある。
【0071】
好ましく用いられるフィラーの具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素(シリカ)、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等およびこれらの複合体の無機微粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックス等の有機微粒子が挙げられる。中でも、水不溶性の固体物質が水分散液中で沈降してしまうのを抑制するという目的において、比重が3を超えないフィラーが好ましい。
アンカーコート層中には、必要に応じて、上記成分以外の他の樹脂、例えば帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0072】
(アンカーコート層の厚さ)
アンカーコート層の厚さは、0.01〜0.3μm、好ましくは0.02〜0.25μmである。厚さが薄すぎる場合は、透明導電層との密着力が低くなる傾向にある。他方、厚すぎる場合は、ブロッキングが生じやすくなる傾向にある。また、アンカーコート層の透明性が低くなる傾向にある。なお、アンカーコート層の厚みは、塗液の固形分濃度や塗布量によって、適宜調整することができる。
【0073】
[アンカーコート層の形成方法]
(アンカーコート層を形成するための塗液)
以上のような本発明におけるアンカーコート層は、アンカーコート層を構成する各構成成分を含む塗液を、基材フィルム上に塗布し、乾燥することによって形成される。かかる塗液は、水溶液、水分散液、乳化液等の水性塗液の形態で使用されることが好ましい。
【0074】
塗液の固形分濃度は、通常20質量%以下であるが、1〜10質量%であることが特に好ましい。固形分濃度が上記数値範囲にあると、塗液の、基材フィルムに対する濡れ性が良好なものとなる。また、アンカーコート層の外観に優れる。また、塗液の貯蔵安定性に優れる。固形分濃度が1質量%未満の場合は、基材フィルムに対する濡れ性に劣る傾向にある。他方、20質量%を超える場合は、塗液の貯蔵安定性が低くなる傾向にある。また、アンカーコート層の外観に劣る傾向にある。なお、塗布量は、アンカーコート層の厚みが前述の数値範囲となるようにすればよい。
【0075】
(塗布方法)
塗液を塗布する塗布方法としては、それ自体公知の方法を使用することができる。例えば、リップダイレクト法、コンマコーター法、スリットリバース法、ダイコーター法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、エアーナイフコート法、ディップコート法、バーコーター法等が好ましく挙げられる。これらの塗布方法は、単独で用いても良いし、組み合わせて用いても良い。なお、アンカーコート層は、必要に応じて、基材フィルムの片面のみに形成しても良いし、両面に形成しても良い。
【0076】
塗液を基材フィルム上に塗布する際には、必要に応じて、塗工性を向上させる目的、基材フィルムとの密着性を向上させる目的で、基材フィルム表面に、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理等の物理的表面処理を施すか、あるいは上記アンカーコート層を構成する各構成成分と共に、これらと化学的に不活性な界面活性剤を併用することが好ましい。かかる界面活性剤は、上記アンカーコート層を形成するための塗液の、基材フィルムに対する濡れ性を向上させるものであり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪族エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン系界面活性剤や非イオン系界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、塗液中の固形分の質量を基準として、0.1〜10質量%含まれていることが好ましい。
【0077】
(乾燥方法)
塗液を塗布後、加熱乾燥してアンカーコート層を形成する。かかる加熱乾燥条件としては、塗液中の水分が十分に蒸発するような条件を選択する。なお、アンカーコート層を形成するための塗液は、前述の通り、未延伸フィルム、または一軸延伸フィルムに塗布して、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すことが好ましい。
かくして、基材フィルム上にアンカーコート層を形成することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の評価は以下のように行った。
【0079】
(1)凝集粒子(B)の平均粒径および凝集率
導電性フィルムを断面方向にスライスし、厚さ100nmの超薄切片とし、透過型電子顕微鏡(例えば日本電子製JEM−1200EX)を用いて、倍率約10万倍で透明導電層中の凝集粒子を観察した。次いで、観測から得られた写真を用いて、画像解析装置等により、個々の凝集粒子の円面積相当直径を求めた。凝集粒子1000個について測定を実施し、これらを数平均した値を平均粒径(単位:nm)とした。なお、ここでは、2個以上の一次粒子が集まっているものを凝集粒子とした。また、一次粒子の判定は、10万〜100万倍の高倍率で粒子を観測し、かかる粒子が凝集体であることが確認できなかったものを一次粒子とした。
さらに、透過型電子顕微鏡を用いて、一次粒子の個数が確認できる倍率で、2×10−3mmの範囲にある全一次粒子数、および凝集粒子の形成に関与している一次粒子数をカウントし、凝集粒子の形成に関与している一次粒子数を全一次粒子数で除した値を凝集率(単位:%)として、以下の基準で評価した。
◎:凝集率が80%以上
○:凝集率が60%以上80%未満
×:凝集率が60%未満
なお、本発明においては、凝集粒子の種類の同定は、SEM−XMA、ICPによる金属元素の定量分析などを使用して行うことができる。また、一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡の倍率を10万〜100万倍とすることで、上述した凝集粒子の平均粒径の測定方法に準じて求めることができる。
【0080】
(2)中心面平均表面粗さRa
ZYGO社製非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより中心面平均表面粗さRaを以下の式より求めた。
【数2】

Zjkは測定方法(283μm)、それと直行する方法(213μm)をそれぞれM分割、N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における2次元粗さチャート上の高さである。
【0081】
(3)透明導電層およびアンカーコート層の厚み
透明導電層およびアンカーコート層の厚み(単位:nmまたはμm)は、反射分光膜厚計(大塚電子製、商品名:FE−3000)を用いて、代表的な屈折率の波長分散の近似式としてn−k Cauchyの分散式を引用し、スペクトルの実測値とフィッティングさせることにより求めた
【0082】
(4)全光線透過率およびヘイズ
JIS K7150に従い、スガ試験機(株)製のヘイズメーターHCM−2Bにて測定した。測定は、導電性フィルムの任意の5箇所について実施し、それらの平均値を全光線透過率(単位:%)およびヘイズ(単位:%)とした。
【0083】
(5)表面抵抗
三菱化学社製Lorester MCP−T600を用いて、JIS K7194に準拠して測定した。測定は、導電性フィルムの、透明導電層側の表面において、任意の5箇所について実施し、それらの平均値を表面抵抗(単位:Ω/□)とした。
【0084】
(6)ニュートンリング防止性
得られた導電性フィルムを、透明導電層側の表面がガラス板側となるようにガラス板に貼り合わせ、さらにゴムローラーを用いてガラス板に押し付け、ニュートンリングの発生状態を観測した。観測は、三波長蛍光管下、基材フィルム側から目視で実施し、以下の基準で判定した。
◎:ニュートンリングが発生しない。
○:押し付けた瞬間にニュートンリングが発生するが、ゴムローラーを離した後1秒以内に消失する。
×:ゴムローラーを離した後、ニュートンリングが消失するのに1秒以上かかるか、消失しない。
【0085】
(7)凝集粒子の脱落評価
得られた導電性フィルムの透明導電層を、250g/cmの荷重をかけてガラス板に擦り付け、その後の凝集粒子の脱落状況を顕微鏡にて観察し、以下の基準で判定した。なお、顕微鏡による観察は、任意の1mm×1mmの領域5箇所について実施した。
○:凝集粒子の脱落あり
×:凝集粒子の脱落なし
【0086】
[実施例1]
<アンカーコート層を形成するための塗液の調製>
ポリエステル樹脂:酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸65モル%/イソフタル酸30モル%/5−ナトリウムスルホイソフタル酸5モル%、グリコール成分がエチレングリコール90モル%/ジエチレングリコール10モル%で構成されているポリエステル(ガラス転移点温度(Tg)=80℃、数平均分子量13000)を用いた。
なお、かかるポリエステル樹脂は、例えば特開平6−116487号公報の実施例1に記載の方法に準じて常法により得ることができる。
アクリル樹脂:メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されているアクリル(Tg=50℃)を用いた。
なお、かかるアクリル樹脂は、例えば特開昭63−37167号公報の製造例1〜3に記載の方法に準じて常法により得ることができる。
フィラー:シリカおよびチタニアの複合無機微粒子(平均粒径100nm)を用いた。
なお、かかるフィラーは、例えば特開平7−2520号公報の製造例および実施例に記載の方法に準じて常法により得ることができる。
脂肪族ワックス:カルナバワックス(中京油脂株式会社製、商品名:セロゾール524、固形分濃度30質量%)を用いた。
界面活性剤:ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製、商品名:ナロアクティーN−70)を用いた。
【0087】
以上のようにして得られた各成分を、得られる塗液の固形分中における質量比率が、ポリエステル樹脂が67部、アクリル樹脂が20部、フィラーが3部、脂肪族ワックスが5部、界面活性剤が5部となるように、攪拌羽根を用いて混合し、イオン交換水で希釈し、アンカーコート層を形成するための塗液(固形分濃度8質量%)を作成した。
【0088】
<基材フィルムおよびアンカーコート層の形成>
溶融ポリエチレンテレフタレート(〔η〕=0.63dl/g(25℃、オルトクロロフェノール)、Tg=79℃)をダイより押し出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとした。次いで、かかる未延伸フィルムを縦方向に3.4倍延伸し、縦一軸延伸フィルムを得た。その後、得られた縦一軸延伸フィルムの両面に、上記で得られたアンカーコート層を形成するための塗液を、ロールコーターで均一に塗布した。次いで、横方向に120℃で3.6倍延伸し、220℃で幅方向に3%収縮させながら熱固定を行い、アンカーコート層が形成された、厚さ188μmの基材フィルムを得た。なお、アンカーコート層の厚さは0.07μmであった。
【0089】
<透明導電層の形成>
導電性高分子(A)として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸(数平均分子量Mn=150,000)、およびシランカップリング剤を主成分とする導電性塗液(日本アグファゲバルト製、商品名:Orgacon S−300、固形分濃度1.1質量%)に、凝集性シリカ粒子の水分散体(日産化学製、商品名:スノーテックスXS、一次粒子の平均粒径4〜6nm)を、凝集粒子(B)の固形分質量が、導電性高分子の固形分質量に対して10質量%となるように添加して、透明導電層を形成するためのコーティング組成物を作成した。得られたコーティング組成物を、マイヤーバーを用いて、乾燥後の透明導電層の厚みが0.1μmとなるように、上記で得られたアンカーコート層が形成された基材フィルムのアンカーコート層上に塗布し、140℃で1分間の乾燥を行い、透明導電層を形成し、導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
【0090】
[実施例2、比較例1〜3]
凝集粒子の種類、平均粒径、および配合量を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの特性を表1に示す。
表1から分かるように、本発明の要件を満たした場合のみ、十分なニュートンリング防止性、導電性、および透明性を同時に有する導電性フィルムが得られた。これらの導電性フィルムは、透明タッチパネル用途において好適に用いることができる。
【0091】
【表1】

【符号の説明】
【0092】
1 基材フィルム
2 透明導電層
3 アンカーコート層
4 ハードコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、
(i)下記式(I)で表される繰り返し単位を主成分として含有するポリカチオン状のポリチオフェンとポリアニオンとを含む導電性高分子(A)、および
(ii)導電性高分子(A)の質量に対して1質量%以上30質量%以下の、平均粒径10nm以上200nm以下の凝集粒子(B)
を構成成分として含む透明導電層が設けられた導電性フィルムであって、
(iii)透明導電層の表面における中心面平均表面粗さRaが10nm以上250nm以下
である導電性フィルム。
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、相互に独立して、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって、任意に置換されていてもよい炭素数1以上12以下のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
表面抵抗が1Ω/□以上10000Ω/□以下、全光線透過率が60%以上である請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
ヘイズが10%未満である請求項1または2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
基材フィルムと透明導電層との間にアンカーコート層が設けられた請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−8945(P2011−8945A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148624(P2009−148624)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】