説明

導電性ペースト及びそれを用いた配線基板

【課題】安価でイオンマイグレーションの発生による短絡を生じにくく、酸化による導電性の低下が抑制された導電性ペースト及びそれを用いた配線基板を提供する。
【解決手段】銅ナノ粒子及び下記一般式(1)で表されるチアジアゾールを含有することを特徴とする導電性ペーストを用いる。


(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。)
【効果】銅ナノ粒子を導電材料として用いているため、安価でイオンマイグレーションの発生による短絡を生じにくいという利点がある。また、該ペースト中に含まれる銅ナノ粒子の酸化を防止できるため、酸化による導電性の低下が抑制された優れた導電性ペーストである。したがって、本発明の導電性ペーストは、プリント配線基板等の導電パターンの形成用の材料として好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅ナノ粒子の酸化による導電性の低下を抑制することができ、導電パターンの形成に用いることのできる導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プリント配線基板等に導電パターンを形成する材料として、銀ナノ粒子を導電材料とした導電性ペーストが知られている。この導電性ペーストをセラミック等の基材上に塗布、焼き付けを行うことで、銀ナノ粒子が焼結されて導電パターンを形成することができる。しかしながら、銀ナノ粒子を導電材料とした導電性ペーストは、イオンマイグレーションが発生して絶縁層を通電させるため短絡を生じる問題があり、さらに銀ナノ粒子は高価であるという問題もあった。そこで、安価でイオンマイグレーションが発生しにくい銅を導電材料に用いた導電性ペーストが注目されている。
【0003】
ここで、銅は銀に比べ酸化しやすく、導電性ペーストに用いるナノサイズの銅ナノ粒の場合、表面積が大きいためにより酸化されやすく、この酸化によって導電性が低下するという問題があった。この銅の酸化を防止する手法としては、ジブチルヒドロキシトルエン(以下、「BHT」と略記する。)を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、BHTによる酸化防止は十分でなく、銅の酸化による導電性の低下は避けられなかった。
【0004】
そこで、安価でイオンマイグレーションの発生による短絡を生じず、酸化による導電性の低下が抑制された導電性ペーストが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−146890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、安価でイオンマイグレーションの発生による短絡を生じにくく、酸化による導電性の低下が抑制された導電性ペースト及びそれを用いた配線基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、銅ナノ粒子を導電材料として用いた導電性ペーストにおいて、該ペーストに特定の硫黄化合物を配合することにより、銅ナノ粒子の酸化が大幅に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、銅ナノ粒子及び下記一般式(1)で表されるチアジアゾールを含有することを特徴とする導電性ペースト及びそれを用いた配線基板に関する。
【0009】
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性ペーストは、銅ナノ粒子を導電材料として用いているため、安価でイオンマイグレーションの発生による短絡を生じにくいという利点がある。また、該ペースト中に含まれる銅ナノ粒子の酸化を防止できるため、酸化による導電性の低下が抑制された優れた導電性ペーストである。したがって、本発明の導電性ペーストは、プリント配線基板等の導電パターンの形成用の材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の導電性ペーストは、銅ナノ粒子及び下記一般式(1)で表されるチアジアゾールを含有するものである。
【0012】
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。)
【0013】
本発明の導電性ペーストに用いる銅ナノ粒子は、ナノサイズの平均粒子径を有する金属銅の微粒子である。この銅ナノ粒子の平均粒子径としては、より低温での焼結が可能となることから、1〜500nmの範囲が好ましく、10〜300nmの範囲がより好ましく、30〜200nmの範囲がさらに好ましい。
【0014】
銅ナノ粒子の平均粒子径は、FPAR−1000型濃厚系粒径アナライザー(大塚電子株式会社製)による動的光散乱法や、SALD−7100型島津ナノ粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製)によるレーザー回折・散乱法などによって測定することができる。
【0015】
前記銅ナノ粒子の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、銅化合物を、ポリオールで還元するポリオール還元法が挙げられる。ポリオール還元法で用いることができる銅化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等が挙げられる。また、ポリオール還元法で還元剤として用いることができるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロプレングリコール、ブチレングリコール等のジオールが挙げられる。これらの銅化合物及びポリオールは、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。
【0016】
上記のポリオール還元法で銅ナノ粒子を製造する際に、保護剤を用いることが好ましい。この保護剤としては、銅と親和性のある配位子を有する高分子が好ましく、例えば、ポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレート等の非イオン性のポリマーが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルピロリドンが好ましい。なお、保護剤は、1種類のみで用いることも2種以上併用することもできる。
【0017】
前記銅ナノ粒子の製造は、前記銅化合物、ポリオール及び保護剤を反応容器に仕込み、生成した銅ナノ粒子の酸化を防止するために、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスを吹き込みながら、120℃以上に加熱することによって行うことができる。一次粒子径を小さくするには目的温度まで急激に加熱することが好ましい。加熱温度は、120℃以上であればよいが、180〜200℃の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明の導電性ペーストに用いるチアジアゾールは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。)
【0020】
上記一般式(1)中のR及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基であるが、このアルキル基は、直鎖状のものでも分岐状のものでも構わない。また、上記一般式(1)中のR及びRとしては、炭素原子数6〜12のアルキル基がより好ましく、具体例には、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1−メチルオクチル基等が挙げられる。上記一般式(1)で表されるチアジアゾールの中でも、R及びRが同一のものが好ましく、R及びRがともに1−メチルオクチル基であるものが特に好ましい。
【0021】
なお、上記一般式(1)で表されるチアジアゾールは、「新実験化学講座14 有機化学の合成と反応III」(第1735〜1741頁;財団法人日本化学会編、昭和53年2月20日発行)等に記載の公知の合成方法により、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールと脂肪族スルフィドを原料として、酸化剤を作用させることにより製造することができる。
【0022】
本発明の導電性ペースト中の上記一般式(1)で表されるチアジアゾールの配合量は、ナノ銅粒子の酸化抑制を十分に行えることから、ナノ銅粒子100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲が好ましく、1〜40重量部の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明の導電性ペーストには、塗布性を付与するため、前記銅ナノ粒子及び前記チアジアゾール以外に、溶剤を配合することが好ましい。この溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン等の有機溶剤、水が挙げられる。これらの溶剤は、1種類のみで用いることができるが、混合して分離しない範囲で2種以上併用することもできる。
【0024】
本発明の導電性ペーストには、上記の銅ナノ粒子、チアジアゾール及び溶剤の他、本発明の効果を阻害しない範囲で各種添加剤を配合しても構わない。このような添加剤としては、レベリング剤、分散剤、揺変性付与剤(チキソトロピック粘性付与剤)、消泡剤、充填剤、可塑剤、硬化触媒等が挙げられる。
【0025】
本発明の導電性ペーストは、上記の銅ナノ粒子、チアジアゾール及び溶剤、さらに必要に応じて加えた各種添加剤を通常の方法で、撹拌混合して均一な液とすることで調製することができるが、必要に応じて3本ロール、ボールミル、アトライター、サンドミル等を用いて攪拌分散して調製しても構わない。
【0026】
本発明の配線基板は、本発明の導電性ペーストを用いて、セラミック、ガラス等の基材上に導電パターンを形成したものである。この導電パターンを基材上に形成する方法としては、まず、導電パターンを形成する基材上に導電性ペーストを回路配線の形状に塗布し、溶剤を乾燥後、焼き付けする方法が挙げられる。この際の導電性ペーストの塗布方法としては、版式印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンス法等を用いることができる。
【0027】
版式印刷法としては、例えば、凸版印刷、平版印刷、凹版印刷、孔版印刷等を挙げられる。また、インクジェット印刷法としては、ピエゾ方式、サーマル方式いずれの方式も用いることができる。さらに、ディスペンス法として、画像処理により導電性ペーストの塗布量をコントロールして配線を形成する方法が挙げられる。
【0028】
上記の焼き付けは、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で、通常、600〜800℃の温度で焼き付けを行うことができるが、本発明の導電性ペーストは、より低温での焼き付けも可能であり、450〜600℃での焼き付けも可能である。
【実施例】
【0029】
以下に具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、銅ナノ粒子の平均粒子径は、下記の条件で測定した。
【0030】
[銅ナノ粒子の平均粒子径の測定]
銅ナノ粒子の分散体の一部をエチレングリコールで希釈し、FPAR−1000型濃厚系粒径アナライザー(大塚電子株式会社製)を用いて、測定条件を温度25℃、媒体の屈折率1.4306、粘度17.4mPa・sとして平均粒子径を測定した。
【0031】
(製造例1)
酢酸銅(II)(関東化学株式会社製)240mg、エチレングリコール(関東化学株式会社製)240ml、ポリビニルピロリドン(和光純薬工業株式会社製)33gを丸底フラスコに仕込んだ。その後、窒素ガスの吹込みを行いながら、5分で180℃まで昇温し、180℃で10分間加熱撹拌を行った。次いで、この反応混合物を中空糸型限外濾過膜モジュール(ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製「HIT−1−FUS1582」;表面積145cm、分画分子量15万)中に循環させ、滲出す濾液と同量の精製水を加えながら、限外濾過モジュールからの濾液が約500mLとなるまで循環させて精製した。精製水の供給を止め、そのまま限外濾過法により濃縮すると、536mgの有機化合物/ナノ銅粒子複合体の水分散体が得られた。分散体中の不揮発物量は30質量%、不揮発物中の銅ナノ粒子の含有率は95質量%であった。得られた銅粒子を、上記の動的光散乱法により測定した平均粒子径は176nmであった。分散体の広角X線回折からは、還元銅であることが確認された。
【0032】
(実施例1)
製造例1で得られた銅ナノ粒子の水分散体7.7mg(銅ナノ粒子として2.2mg)、下記式(2)で表されるチアジアゾール(DIC株式会社製「DAILUBE R−300」)9mg、トルエン90g及びエタノール10gを均一に混合して、導電性ペースト(1)を調製した。
【0033】
【化4】

【0034】
(比較例1)
製造例1で得られた銅ナノ粒子の水分散体7.7mg(銅ナノ粒子として2.2mg)、BHT(関東化学株式会社製)0.9mg、トルエン90及びエタノール10gを均一に混合して、導電性ペースト(2)を調製した。
【0035】
上記の実施例1及び比較例1で得られた導電性ペースト(1)及び(2)について、プラズモン共鳴吸収スペクトルを測定して、銅ナノ粒子の酸化状態を観察し、導電性ペーストの酸化防止性を評価した。
【0036】
[プラズモン共鳴吸収スペクトルの測定]
各導電性ペーストの調製直後より、日本分光株式会社製MV−2000型フォトダイオードアレイ式紫外可視吸収スペクトル測定装置を用いて、400〜800nmまで0.1秒間で掃引して、紫外可視吸収スペクトルの測定を開始した。測定は、導電性ペーストの調製直後及び調製後2時間経過時の2回行った。
【0037】
なお、プラズモン共鳴吸収とは、ナノ微粒子中の電子が光と相互作用することにより光の吸収を生じる現象であり、ナノ微粒子の酸化が進行した場合、光の吸収強度(吸光度)が低下するため、これを測定することで、銅ナノ粒子の酸化状態を把握することができ、吸光度の低下がない場合、酸化の進行が少ないといえる。
【0038】
[酸化防止性の評価]
上記で測定したプラズモン共鳴吸収スペクトルの導電性ペーストの調製直後及び調製後2時間経過時の極大吸光度の値の変化率(%)を下記式(1)によって算出し、得られた値から、下記の基準にしたがって酸化防止性を評価した。
○:変化率が2%未満である。
×:変化率が2%以上である。
【0039】
【数1】

【0040】
導電性ペーストとして、酸化による導電性の低下が少ない優れた性能を発揮するには、このプラズモン共鳴吸収スペクトルの極大吸光度の導電性ペースト調製後の1時間毎の変化率が、毎時2%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。
【0041】
実施例1及び比較例1で得られた導電性ペースト(1)及び(2)についての上記測定及び評価の結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示した評価結果から、実施例1で得られた本発明の導電性ペースト(1)は、プラズモン共鳴吸収スペクトルの極大吸光度の変化率が0.88%と極めて少なく、非常に優れた酸化防止性を有することが分かった。
【0044】
一方、比較例1は、本発明の導電性ペーストにおいて必須成分であるチアジアゾールを配合しなかった例であるが、この導電性ペースト(2)は、プラズモン共鳴吸収スペクトルの極大吸光度の変化率が5.59%と大きく、酸化防止性が不十分であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ナノ粒子及び下記一般式(1)で表されるチアジアゾールを含有することを特徴とする導電性ペースト。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜18のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記銅ナノ粒子100質量部に対して、前記一般式(1)で表されるチアジアゾールを0.1〜50質量部含有する請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の導電性ペーストを用いて導電パターンを形成したことを特徴とする配線基板。

【公開番号】特開2012−99236(P2012−99236A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243566(P2010−243566)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】