説明

導電性ペースト及びセラミック電子部品

【課題】セラミック素体に対する接触抵抗の増大を招き難い、単板型のセラミック素体を用いた外部電極形成用導電性ペーストを提供する。
【解決手段】内部電極を有しない単板型のセラミック素体1と、セラミック素体1の表面に形成される外部電極2,3とを備えるセラミック電子部品の外部電極2,3を形成するのに用いられる導電性ペーストであって、導電性成分と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有しており、ガラスフリットの塩基度が0.39以上であり、Pb成分を含有しない、導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばサーミスタなどのセラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられる導電性ペースト、並びに該導電性ペーストにより形成された外部電極を有するセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々なセラミック電子部品が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、単板型のサーミスタ素体の外表面に一対の外部電極を形成してなる正特性サーミスタが開示されている。正特性サーミスタでは、サーミスタ素体は、正の抵抗温度特性を有する半導体セラミックスからなる。特許文献1に記載のようなサーミスタでは、サーミスタ素体の外表面に、導電ペーストの塗布・焼付けにより外部電極が形成されていることが多い。
【0003】
ところで、セラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられる上記導電性ペーストは、通常、導電性成分としての金属粉末と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む。ガラスフリットは、導電性ペーストのセラミックスに対する接合性を高めたり、焼結を促進させたりするために添加されている。従来、このガラスフリットとしては、Pb含有ガラスが用いられることが多かった。しかしながら、環境負担を軽減するために、近年、Pbを含有しない、Pbフリーのガラスフリットを用いることが強く求められている。
【0004】
そこで、下記の特許文献2には、Pbフリーの導電性ペーストが開示されている。ここでは、ガラスフリットがホウ酸と酸化ビスマスとからなり、金属粉末としての銀粉末に対し、上記ガラスフリットを、重量比で98:2〜90:10の範囲で配合してなる導電性ペーストが開示されている。
【特許文献1】特開平8−138905号公報
【特許文献2】特開2001−167632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されている導電性ペーストでは、ガラスフリットが、ホウ酸と酸化ビスマスとからなるため、Pbフリー化を実現することができ、環境負担を軽減することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の導電性ペーストをセラミック素体の外表面に塗布し、焼付けて外部電極を形成した場合、ガラスとセラミックスとが反応し、高抵抗の界面層が形成されることがわかった。そのため、外部電極とセラミック層との接触抵抗が高くならざるを得なかった。
【0007】
例えば正特性サーミスタや負特性サーミスタなどのサーミスタでは、温度変化により抵抗が変化する特性を利用しているものであるため、温度変化以外の理由により抵抗値に影響を与える要因が存在することが好ましくない。すなわち、サーミスタの製造後の選別作業や調整作業が複雑化し、コストが高くつくおそれがある。
【0008】
なお、サーミスタなどの抵抗素子以外のセラミック電子部品においても、外部電極のセラミック素体に対する接触抵抗が高くなることは好ましくない。すなわち、セラミックコンデンサやセラミックバリスタなどの他のセラミック電子部品においても、同様に、外部電極のセラミック素体に対する接触抵抗は低いことが強く求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、セラミック素体に対する接触抵抗の増大を招き難い、外部電極形成用の導電性ペースト、並びにそのような導電ペーストにより形成された外部電極を有するセラミック電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る導電性ペーストは、内部電極を有しない単板型のセラミック素体と、前記セラミック素体の表面に形成される外部電極とを備えるセラミック電子部品の前記外部電極を形成するのに用いられる導電性ペーストであって、導電性成分と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有しており、ガラスフリットの塩基度が0.39以上であり、Pb成分を含有しないことを特徴とする。
【0011】
なお、塩基度とは、酸素イオン供与能力をあらわし、塩基度の値が大きいほど酸素イオンを供与し易い。
【0012】
本発明におけるガラスフリットの塩基度は、森永健次らにより提案されたものであり、例えば彼の著書「K.Morinaga,H.Yoshida And H.Takebe:J.Am Cerm.Soc.,77,3113(1994)」の中で規定されている。該文献によれば、以下に示すような式を用いてガラスフリットの塩基度を規定するとしている。
【0013】
酸化物MOのM−O間の結合力は陽イオン−酸素イオン間引力Aとして次式で与えられる。
【0014】
=Z・Z02−/(R+R02−=Z・2/(R+1.40)
:陽イオンの価数、酸素イオンは2
:陽イオンのイオン半径(Å)、酸素イオンは1.40Å
このAの逆数X(1/A)を単成分酸化物MOの酸素供与能力とする。
【0015】
≡1/A
このXをXCaO=1、XSiO2=0と規格化した値は、各単成分酸化物のB指標(CaO当量塩基度)と定義され、相対的な塩基度の強さを表わす。
【0016】
この各成分のB指標を陽イオン分率により多成分系へ拡張すると、任意の組成のガラス酸化物の融体のB指標(=塩基度)が算出できる。
【0017】
塩基度=ΣC・X
:陽イオン分率
なお、表1に単成分酸化物の塩基度(B指標)を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明に係る導電性ペーストでは、好ましくは、上記ガラスフリットの塩基度は0.41以上とされる。塩基度が0.41以上である場合には、外部電極のセラミック素体に対する接触抵抗をより一層低くすることが可能となる。
【0020】
好ましくは、ガラスフリット全体に占めるビスマス含有比率は25.2〜59.5原子%の範囲とされる。この場合には、導電性ペーストの焼付けにより形成された外部電極の半田濡れ性が高められ、半田付け性を向上することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る導電性ペーストは、上記のように、単板型のセラミック素体の外表面に形成される外部電極を形成するために用いられるが、特に、セラミック電子部品としてのサーミスタに、本発明の導電性ペーストを好適に用いることができる。すなわち、サーミスタでは、前述したように、抵抗温度特性を利用するため、外部電極のセラミック素体に対する接触抵抗により、抵抗温度特性が影響を受けないことが望ましい。従って、本発明の導電性ペーストは、サーミスタの外部電極を形成するのに好適に用いることができる。
【0022】
本発明に係るセラミック電子部品は、内部電極を有しない単板型のセラミック素体と、前記セラミック素体の表面に形成された複数の外部電極とを備え、前記外部電極が、導電性成分と、塩基度が0.39以上であるガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む導電性ペーストの焼付けにより形成された導電膜により構成されていることを特徴とする。
【0023】
好ましくは、セラミック素体は、正または負の抵抗温度特性を有するサーミスタ素体であり、その場合には、本発明に従って、外部電極のサーミスタ素体に対する接触抵抗が低い、サーミスタを得ることができる。
【0024】
なお、本発明に係る導電性ペーストは、上記のように内部電極を有しない単板型のセラミック素体を用いたセラミック電子部品の外部電極を形成するのに用いられ、また本発明に係るセラミック電子部品は、内部電極を有しない単板型のセラミック素体を用いたものである。
【0025】
積層型のセラミック電子部品では、電気抵抗が問題となる主たる部分は、内部電極とセラミック層との界面である。外部電極は内部電極と電気的に接続されるものであり、従って、外部電極とセラミックスとの間の抵抗についてはさほど問題とはならない。
【0026】
これに対して、内部電極を有しない単板型のセラミック素体を用いたセラミック電子部品では、外部電極とセラミック素体との界面の抵抗値が大きな問題となる。従って、本願発明では、内部電極を有しない単板型のセラミック素体を用いたセラミック電子部品を対象としているものである。言い換えれば、内部電極を有する積層型セラミック電子部品では、上記のように外部電極は内部電極と電気的に接続されるため、外部電極とセラミック層との界面の抵抗の影響を受け難いため、本発明の効果は、積層型セラミック電子部品では、実質的に意味を有するものとはならない。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る導電性ペーストは、導電性成分と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有しており、ガラスフリットの塩基度が0.39以上であるため、ガラスフリットが焼付けに際して溶融した場合、抵抗値が高い界面層が形成され難い。よって、セラミック素体に対する接触抵抗が低い外部電極を確実に形成することが可能となる。そして、本発明に係るセラミック電子部品は、上記導電性ペーストの焼付けにより形成された導電膜により外部電極が形成されているので、セラミック電子部品において、セラミック素体に対する外部電極の接触抵抗を十分に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより本発明を明らかにする。
【0029】
(1)負特性サーミスタの作製
出発原料として、下記表2に示す組成に従って、SiO、B(OH)、Alなどの酸化物を秤量し、混合し、Pt製のるつぼに入れ、900〜1100℃の温度に保持し、完全に溶融させた。溶融物を取り出し、急冷し、ガラスカレットを得た。得られたガラスカレットをボールミルで湿式粉砕し、下記の表3に示す試料No.1〜10のガラス組成のガラス粉末を得た。
【0030】
また、参考例として、Pb入りガラス粉末を試料No.11として作製した。
【0031】
次に、導電性粉末として、粒径が0.5〜2μmのAg粉末を用意し、エチルセルロース系樹脂を有機溶媒に溶解してなる有機ビヒクルに、試料No.1〜11のいずれかのガラス粉末と、Ag粉末とを加え、3本ロールミルで混練し、試料No.1〜11の導電性ペーストを得た。なお、Ag粉末とガラス粉末との混合比率は、体積比で9:1とした。
【0032】
このようにして得られた各導電性ペーストを、Mn系半導体セラミックスからなる図1に示す直径7mm及び厚み1mmの円板状のサーミスタ素体1の両面に、直径5mmの円形となるようにスクリーン印刷し、大気中で最高温度750℃及び保持時間600秒となるようにメッシュベルト炉を用いて焼付け、外部電極2,3を形成した。このようにして、円板型の負特性サーミスタ4を得た。
【0033】
次に、上記のようにして焼付けられた外部電極2,3に、直径0.6mmのリード線を半田付けし、特性評価用サンプルとした。なお、半田として、Sn−Ag−Cu系半田を用いた。
【0034】
【表2】

【0035】
(2)評価
25℃の恒温槽中で、各負特性サーミスタの一対のリード線間の抵抗値を測定した。また、目視により、半田付けに際しての半田濡れ性を確認した。結果を下記の表3に併せて示す。なお、試料No.11については、Pb入り導電性ペーストであるため、評価試験は行っていない。
【0036】
各試料No.の導電性ペーストにおけるガラスフリットの塩基度を、下記の表3に併せて示す。
【0037】
下記の表3に示すように、本発明の範囲に含まれる、試料No.4〜10のガラス粉末を用いた導電性ペーストでは、抵抗値が約19Ω以下となっていることがわかる。特に、試料No.5〜10では、塩基度が0.41以上であるため、抵抗値が16.0Ω以下とより一層低くされており、好ましいことがわかる。さらに、抵抗値を16.0Ω未満とし得るため、塩基度は、0.49以上とすることがより一層望ましい。
【0038】
これに対して、本発明の範囲外である試料No.1〜3に係る組成のガラス粉末を用いた導電性ペーストでは、抵抗値は20Ω以上であった。従って、完成品としての負特性サーミスタの電気的特性に、電極の接触抵抗が悪影響を及ぼすことがわかる。
【0039】
さらに、ビスマスを含有している試料No.4,6,7,9,10に係るガラス粉末を用いた導電性ペーストでは、ビスマス含有比率が25.2〜59.5原子%の範囲にあるため、ビスマスを含んでいない試料No.5,8の場合に比べて、半田濡れ性が良好であり、外部電極2,3に対するリード線の半田付けを容易に行うことが可能であった。
【0040】
【表3】

【0041】
なお、上記実験例では、円板状のサーミスタ素体を用いた負特性サーミスタにつき説明したが、本発明は、負特性サーミスタに限らず、正特性サーミスタ、あるいはサーミスタ以外のセラミック電子部品、例えば、セラミックコンデンサやセラミックバリスタに適用することができる。すなわち、内部電極を有しない単板型のセラミック素体を用いたセラミック電子部品に外部電極を形成するのに、本発明の導電性ペーストを広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は、本発明の一実施例で用意された負特性サーミスタの外観を示す斜視図であり、(b)はその正面断面図。
【符号の説明】
【0043】
1…サーミスタ素体
2…外部電極
3…外部電極
4…負特性サーミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極を有しない単板型のセラミック素体と、前記セラミック素体の表面に形成される外部電極とを備えるセラミック電子部品の前記外部電極を形成するのに用いられる導電性ペーストであって、
導電性成分と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとを含有しており、ガラスフリットの塩基度が0.39以上であり、Pb成分を含有しないことを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項2】
前記ガラスフリットの塩基度が0.41以上である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記ガラスフリット全体に占めるビスマス含有比率が25.2〜59.5原子%である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記セラミック電子部品がサーミスタである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
内部電極を有しない単板型のセラミック素体と、
前記セラミック素体の表面に形成された複数の外部電極とを備え、
前記外部電極が、導電性成分と、塩基度が0.39以上であるガラスフリットと、有機ビヒクルとを含む導電性ペーストの焼付けにより形成された導電膜により構成されている、セラミック電子部品。
【請求項6】
前記セラミック素体が、正または負の抵抗温度特性を有するサーミスタ素体である、請求項5に記載のセラミック電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−273256(P2007−273256A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97576(P2006−97576)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】