説明

導電性ペースト

【課題】高密度実装化に伴う狭隣接実装においても、ペーストの塗布性に優れ、はんだ微小片の飛散を抑制することが可能な、特に、角板形チップ部品における電極端部の下地膜形成等に適した導電性ペーストを提供すること。
【解決手段】本発明の導電性ペーストは、銀粉55〜65質量%、鉛フリーの無機バインダー1〜5質量%、有機ビヒクル1〜10質量%及び溶剤20〜40質量%からなり、前記銀粉のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3〜6μmであり、銀粉全量の50質量%以上が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmのフレーク状銀粉であり、且つ溶剤が、沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの単一溶剤又はその混合物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、特に角板形チップ部品の電極の端部において、めっき膜の下地膜形成等に適用される導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
角板形チップ部品の電極端部において、めっき膜の下地膜を形成する導電性ペーストとしては、導電性粉末、無機バインダー、有機ビヒクル及び溶剤等を含むものが一般的に使用されている。従来の導電性ペーストは、ペーストの良好な塗布性や、乾燥後又は焼成後における膜の収縮性抑制及びピンホール発生防止等を解決するためにその成分等の改良が種々行われている。例えば、特許文献1及び2には、導電性粉末として、フレーク状の金属粉を特定割合で含有する導電性ペーストが提案されている。
【0003】
ところで、最近、電子情報機器の小型化、薄型化、軽量化、多機能化が急速に進み、これに伴い、角板形チップ部品においても小型化、高密度実装化が加速している。例えば、角板形チップ部品の実装時において、該部品の高密度実装化によるはんだフィレットの幅を極端に小さくした狭隣接実装と無洗浄化が進展しており、ランドの隙間が100μm以下のものも実現可能となっている。
一方、このような狭隣接実装化が進むに従い、従来の導電性ペーストを用いた角板形チップ部品の実装時においては、例えば、はんだ付けの際にチップ部品の端面電極から溶融したはんだの微小片が飛散するという、いわゆるはんだの爆ぜが生じ、該部品実装間でのはんだブリッチによる短絡の発生率が高くなってきている。
【特許文献1】特開2001−261974号公報
【特許文献2】特開平8−97527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、高密度実装化に伴う狭隣接実装においても、はんだ微小片の飛散、いわゆるはんだの爆ぜを抑制することが可能であり、角板形チップ部品の電極端部の下地膜形成等におけるペースト塗布性に優れた導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、上記爆ぜの原因が、例えば、角板形チップ部品の電極の端部において、めっき膜の下地膜を導電性ペーストにより形成した場合、形成された膜に微小な空洞が形成される割合が高くなり、このため、該空洞がはんだ付け時の加熱等により膨張して該膜を突き破り、爆ぜの一つの原因になっている可能性が高いことを突きとめた。そこで、該空洞の発生を防止するよう、導電性粉末の種類、形状、割合、更には、溶剤の種類等を検討し、特定の導電性粉末及び溶媒を特定割合で含有する導電性ペーストを用いることにより狭隣接実装においても爆ぜの発生率を低下させることができることを見出し本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明によれば、銀粉55〜65質量%、鉛フリーの無機バインダー1〜5質量%、有機ビヒクル1〜10質量%及び溶剤20〜40質量%からなり、前記銀粉のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3〜6μmであり、銀粉全量の50質量%以上が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmのフレーク状銀粉であり、且つ溶剤が、沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの単一溶剤又はその混合物であることを特徴とする導電性ペーストが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性ペーストは、銀粉、鉛フリーの無機バインダー、有機ビヒクル及び溶剤を特定割合で含み、特定の銀粉及び溶剤を配合するので、塗布性に優れ、しかも、角板形チップ部品の実装時における、はんだの微小片の飛散、いわゆるはんだの爆ぜの発生率を効率良く抑制することができる。従って、特に、狭隣接実装に適する角板形チップ部品を製造する際の導電性ペーストとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の導電性ペーストは、導電性粉末として、銀粉を含有する。
前記銀粉は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3〜6μmであり、銀粉全量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmのフレーク状銀粉である必要がある。上記銀粉の各条件を充足しない場合には、例えば、角板形チップ部品の実装時において、はんだの爆ぜの発生率が高くなる恐れがある。
前記フレーク状銀粉の長軸径、短軸径及び厚さの測定は、「粉体粒度測定法」(第2頁の第1章 粒度の定義と表示法、1.2 単一粒子径及び第1.1表 単一粒子径の定義、粉体工学研究会編 養賢堂発行 昭和40年2月20日)に基づき、走査型電子顕微鏡の銀粉の像を二次元的にみて二本の平行線ではさみ最小の間隔を示すときの間隔を短軸径とし、短軸径に直交する二本の平行線で本像をはさんだときの間隔を長軸径とし、厚さは二本の平行線ではさみ最小の間隔と定義し実測した。
【0009】
前記フレーク状銀粉の長短度(長軸径/短軸径)及び扁平度(短軸径/厚さ)は、爆ぜの発生率をより抑制するために長短度0.6〜3の範囲、扁平度3〜50の範囲とすることが好ましい。ここで、長短度及び扁平度は、「粉砕と粉体物性」(第35頁の第2章 粉体の基本的特性、2.3 粒子形状、2.3.1 形状指数、八嶋三郎 編、(株)培風館発行 昭和61年12月15日)の定義に基づく。また、前記フレーク状銀粉以外の銀粉の粒径は、上記D50を充足すれば特に限定されないが、爆ぜをより防止するには、そのほとんどが、粒径0.2〜1μmの微小銀粉であることが好ましい。
【0010】
本発明の導電性ペーストにおいて、前記銀粉の配合割合は、ペースト全量に対して55〜65質量%、好ましくは58〜62質量%である。この範囲外では、例えば、角板形チップ部品の実装時において、はんだの爆ぜの発生率が高くなる恐れがあり、更には、角板形チップの製造時において塗布性が低下する恐れがある。
前記特定形状及び粒径を有する銀粉の製造は、例えば、還元法で製造した銀粉末を、湿式ボールミル法等の機械的加工処理により混合・粉砕等することにより得ることができる。
【0011】
本発明の導電性ペーストは、鉛フリー無機バインダーを含有する。
前記無機バインダーは、軟化点500〜600℃程度の鉛フリー無機バインダーが好ましく、例えば、ビスマス系ガラス(Bi2O3、B2O3、Al2O3、ZnO、SiO2)、酸化亜鉛系ガラス、酸化リン系ガラス等が挙げられる。
前記無機バインダーの粒径は、適宜選択できるが、本発明の所望の効果を十分発揮するように、またペースト内に十分分散させるために、通常、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3.0μm以下、好ましくはD50が0.5〜2.0μmである。
本発明の導電性ペーストにおいて、前記無機バインダーの配合割合は、ペースト全量に対して1〜5質量%、好ましくは3〜5質量%である。この範囲外では、例えば、角板形チップ部品の実装時において、はんだの爆ぜの発生率が高くなる恐れがある。
【0012】
本発明の導電性ペーストは、有機ビヒクルを含有する。
前記有機ビヒクルは、導電性ペーストに使用される公知のものを用いることができ、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂等が挙げられる。
本発明の導電性ペーストにおいて、前記有機ビヒクルの配合割合は、ペースト全量に対して、1〜10質量%、好ましくは5〜8質量%である。この範囲外では、例えば、角板形チップ部品の実装時において、はんだの爆ぜの発生率が高くなる恐れがある。
【0013】
本発明の導電性ペーストは、溶剤を含有する。
前記溶剤は、導電性ペーストの乾燥時や焼成時等において、膜内に空洞が生じないようにするために、沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの溶剤を用いる必要があり、このような沸点及び蒸気圧を有する混合溶剤であっても良い。即ち、このような沸点及び蒸気圧を示さない溶剤、若しくはこのような沸点及び蒸気圧を示さない溶剤を含む混合溶媒の使用では、爆ぜの抑制が充分でない。沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの溶剤としては、例えば、ブチルカルビトールアセテート、フタル酸ジエチル、フタル酸ブチル等が挙げられる。好ましくは、これらの単一溶剤が挙げられ、特に好ましくはブチルカルビトールアセテートの単一溶剤が挙げられる。
本発明の導電性ペーストにおいて、前記溶剤の配合割合は、20〜40質量%、好ましくは25〜35質量%である。この範囲外では、例えば、角板形チップ部品の実装時において、はんだの爆ぜの発生率が高くなる恐れがあり、更には、角板形チップ部品の製造時において塗布性が低下する恐れがある。
【0014】
本発明の導電性ペーストは、例えば、角板形チップ部品の端面電極におけるめっき膜の下地膜として、印刷、塗布、転写等により膜形成することができる。該端面電極膜の作成には、通常、120〜180℃程度の乾燥工程と、ピーク温度600〜650℃程度の焼成工程が実施されるが、本発明の導電性ペーストは、形成される膜内における空洞の発生率を充分抑制することができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
レーザー回折式粒度測定器(商品名「マイクロトラック FRA」、日機装社製)により測定したD50が5μmであり、銀粉全量の70質量%が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmで、長短度0.6〜3、且つ扁平度3〜50のフレーク状銀粉である導電性銀粉末60質量部と、D50が1.5μmビスマス系ガラス(Bi2O3、B2O3、Al2O3、ZnO、SiO2)4質量部と、エチルセルロース7質量部と、沸点246.8℃、200℃における蒸気圧200hPaのブチルカルビトールアセテート29質量部とを混合して導電性ペーストを調製した。
得られた導電性ペーストを転写法により角板形チップ抵抗器の端面電極部に塗布し、ピーク温度600℃で焼成を行った。
そして、本発明の導電性ペーストの塗布性を観察すると、上電極及び裏電極へのペーストのかぶさり幅は電極幅の1/3以下であり、ニジミは観察されなかった。また顕微鏡で塗布面を観察したところカスレも認められず、良好な結果を得た。そこで、更に、ニッケルめっきを施した後、錫めっきをバレル法により電気めっきして角板形チップ抵抗器を作製した。
【0016】
爆ぜは、実装におけるチップ抵抗器の基板への取り付けの際に適用したはんだ材料と錫めっき膜とが溶解した金属が微小片として飛散することにより発生する。この原因の一つとして、角板形チップ部品の端面電極の最外のめっき膜である錫膜の一部が実装時に飛散することが考えられる。
そこで、爆ぜ発生の確認検査は、角板チップ抵抗器の製造時において、端面電極の下地膜の導電性ペーストの塗布時にニジミ、カスレ等の不具合が発生しなかったものについて、ガラスエポキシ基板上にその部品を等間隔におき、250℃、10分間加熱した後、爆ぜの原因となる錫膜の飛散発生率をルーペを用いて目視で観察し、該錫膜の飛散が発生したチップ抵抗器の個数を、測定した全体チップ抵抗器の個数により除すことにより算出した値を爆ぜ発生率とした。
爆ぜが全く発生しなかったものを○、50ppm以下の発生が観察されたものを△、100ppm以上の発生が観察されたものを×とした。結果を表1に示す。
【0017】
実施例2及び3
導電性銀粉末の配合割合を55質量部及びブチルカルビトールアセテートの配合割合を34質量部に(実施例2)、若しくは導電性銀粉末の配合割合を65質量部及びブチルカルビトールアセテートの配合割合を24質量部に(実施例3)代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0018】
比較例1
導電性銀粉末を、D50が7μmであり、銀粉全量の70質量%が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmで、長短度0.6〜3、且つ扁平度3〜50のフレーク状銀粉である導電性銀粉末60質量部に(D50が本発明の範囲外)、代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
尚、比較例において、上電極及び裏電極へのペーストのかぶさり幅が電極幅の1/3を超えてニジミが発生した場合、若しくはカスレが発生した場合には、爆ぜ発生の確認検査は行なわなかった。
【0019】
比較例2
導電性銀粉末を、D50が1μmであり、銀粉全量の70質量%が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmで、長短度0.6〜3、且つ扁平度3〜50のフレーク状銀粉である導電性銀粉末60質量部に(D50が本発明の範囲外)、代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0020】
比較例3
導電性銀粉末を、D50が5μmであり、銀粉全量の70質量%が、長軸径7.0μm以上、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmで、長短度3.5以上、且つ扁平度3〜50のフレーク状銀粉である導電性銀粉末60質量部に(長軸径が本発明の範囲外)、代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0021】
比較例4
導電性銀粉末を、D50が5μmであり、銀粉全量の70質量%が、長軸径1.0〜2.8μm、短軸径0.5〜1.8μm及び厚さ0.1μm未満で、長短度1.1〜5.6、且つ扁平度18以上のフレーク状銀粉である導電性銀粉末60質量部に(長軸径、短軸径、厚さが本発明の範囲外)、代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0022】
比較例5
溶媒を、沸点246.8℃、200℃における蒸気圧200hPaであるブチルカルビトールアセテートと、沸点219℃、200℃における蒸気圧450hPaであるテルピネオールとの容積比1:1の混合溶媒に代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0023】
比較例6
溶媒を、沸点295℃、蒸気圧100hPaであるフタル酸ジエチルと、沸点219℃、200℃における蒸気圧450hPaであるテルピネオールとの容積比1:1の混合溶媒に代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0024】
比較例7
溶媒を、沸点219℃、200℃における蒸気圧450hPaであるテルピネオールに代えた以外は、実施例1と同様に導電性ペーストを調製し、更にチップ抵抗器の作製を行い、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粉55〜65質量%、鉛フリーの無機バインダー1〜5質量%、有機ビヒクル1〜10質量%及び溶剤20〜40質量%からなり、
前記銀粉のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3〜6μmであり、銀粉全量の50質量%以上が、長軸径3.0〜6.0μm、短軸径2.0〜5.0μm及び厚さ0.1〜0.6μmのフレーク状銀粉であり、且つ溶剤が、沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの単一溶剤又はその混合物であることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記無機バインダーのレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量累積粒径D50が3.0μm以下である請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
沸点240〜300℃、200℃における蒸気圧100〜300hPaの溶剤が、ブチルカルビトールアセテート、フタル酸ジエチル、フタル酸ブチルであることを特徴とする請求項1又は2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
角板形チップ部品の端面電極におけるめっき膜の下地膜形成用であることを特徴とする導電性ペースト。

【公開番号】特開2007−52980(P2007−52980A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236520(P2005−236520)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(591100769)釜屋電機株式会社 (16)
【出願人】(598087368)株式会社徳力化学研究所 (1)
【Fターム(参考)】