説明

導電性モノマーとそのポリマー又はオリゴマー及び有機蛍光体

【課題】導電性高分子の周囲を完全に絶縁したモノマー、それを用いた導電性ポリマー又はオリゴマー及び有機蛍光体の提供。
【解決手段】導電性骨格を絶縁性骨格で完全に覆った閉環状構造モノマー。具体的にはK1分子として表示される次式化合物が例示される。


導電性ポリマー又はオリゴマーは、前記導電性モノマーの導電性骨格同士が結合した導電性高分子主鎖と、前記記載の導電性モノマーの絶縁性骨格同士が結合した絶縁層とにより構成る。さらに有機蛍光体は、その主体が前記導電性モノマー又は前記導電性ポリマー又はオリゴマーからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性骨格の周囲が絶縁性骨格で囲まれた構造を有する導電性モノマーと、導電性高分子主鎖が絶縁層で覆われた線状導電性ポリマー又はオリゴマー及び励起源の照射により蛍光を発する有機蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Insulated Molecular Wires(以下、IMWsと略)は、導電性高分子主鎖が分子レベルにおいて絶縁被覆された構造を有しており、模式的にはナノレベルの電気コードと捉えることができる。
また、IMWsは、導電性高分子主鎖の会合が抑制されるために、固体状態における発光量子収率が高く、ディスプレイ材料やセンサ材料への応用という観点からも注目を集めている。これまでにロタキサン構造(環状の分子(リング)の穴を棒状の分子(軸)が貫通した構造を有する分子集合体。リングと軸はつながっていない。)や絶縁性高分子によるラッピングを利用してIMWsが合成されているが、いずれも2成分間の(すなわち導電性高分子主鎖と絶縁層の間の)分子間相互作用を利用して合成されているため、それらは互いに連結されておらず構造上の欠陥の生成は避けられない。
最近、我々のグループは、環状の分子に連結された導電性高分子モノマーを環状分子の内部でカップリング反応することによって、導電性高分子主鎖が絶縁層によって共有結合的に連結されたIMWsの合成を試みた(図1)。しかしながら、環状分子内部における反応は、立体障害によって進行しないことが明らかとなっている。つまり、導電性高分子の周囲を完全に絶縁することは不可能とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、導電性高分子の周囲を完全に絶縁したモノマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の導電性モノマーは、導電性骨格を構成する導電性分子の側鎖に修飾された絶縁性分子同士の閉環状結合により前記絶縁性骨格が構成されていることを特徴とする。
発明2の導電性ポリマー又はオリゴマーは、その導電性高分子主鎖が、発明1の導電性モノマーの導電性骨格同士が結合されて構成され、この導電性高分子主鎖が、前記モノマーの絶縁性骨格により構成された絶縁層により覆われていることを特徴とする。
発明3の有機蛍光体は、その主体が発明1の導電性モノマー又は発明2の導電性ポリマー又はオリゴマーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、従来では不可能とされた欠陥のない環状構造、つまり閉環状構造で導電性骨格を絶縁性骨格で完全に覆うことを実現したものである。
その結果、従来の不完全の絶縁層を持つものに比べ電荷移動度が向上した。
このような構造は空想的には長年提案されては来たが、それを実現できなかったものであった。
具体的には、実施例で明らかにしたように、導電性高分子の側鎖に修飾した反応性置換基を環化することによって実現したものであるが、共有結合で連結された絶縁層を有する自己貫通型IMWsである。
また、発明3では、閉環状構造の絶縁性骨格により導電性高分子の分子運動が抑制され、溶液中においてその蛍光強度を向上させることができた。また、絶縁層によって導電性骨格が覆われているために導電性骨格の会合が抑制され、その結果、固体状態においても高い蛍光強度を達成できた。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】以前に試みられたK1分子の合成スキーム(実現できないことが明らかになっている)
【図2】K1分子の合成スキーム
【図3】K2分子のH−NMRスペクトル
【図4】K4分子のH−NMRスペクトル
【図5】K5分子合成途中のH−NMRスペクトル変化(メタセシス反応の追跡)
【図6】K5分子のH−NMRスペクトル
【図7】K5分子の結晶構造
【図8】K1分子のH−NMRスペクトル
【図9】K1分子の結晶構造
【図10】K1分子およびK2分子の吸収スペクトルと蛍光スペクトル
【図11】K6分子およびK7分子の合成スキーム
【図12】K8分子およびK9分子の合成スキーム
【図13】K6分子のH−NMRスペクトル
【図14】K7分子のH−NMRスペクトル
【図15】K8分子のH−NMRスペクトル
【図16】K9分子のH−NMRスペクトル
【図17】K6分子およびK8分子の吸収スペクトルと蛍光スペクトル
【図18】K7分子およびK9分子の吸収スペクトルと蛍光スペクトル
【図19】K1分子、K2分子、K4分子、K5分子、K6分子、K7分子、K8分子、およびK9分子のディファレンシャルパルスボルタモグラム
【図20】K14分子およびK14Br分子の合成スキーム
【図21】K15分子の合成スキーム
【発明を実施するための形態】
【0007】
なお、その構造上の特徴からこのようなポリマーあるいはオリゴマー(発明2)を「自己貫通型」IMWsと定義する。
本コンセプトは様々な導電性高分子に適用可能であると考えられるが、最も汎用性の高い導電性高分子のひとつであるポリチオフェンに関して、実施例を示す。
本発明では、導電性高分子の側鎖に修飾した反応性置換基を環化することによって、共有結合で連結された絶縁層を有する自己貫通型IMWsの合成を可能とした。
その結果、
(1)ロタキサンの合成と異なり、水系溶媒を用いない合成法のため、デバイスを作製した場合、その寿命の向上が見込める(微量残存水分はデバイス劣化の原因となるため)。
(2)合成が比較的容易である。
(3)共有結合によって環状分子が連結されているため、軸である導電性高分子の共役系が平面構造に固定され、有効共役長が向上する。有効共役長の向上は導電性の向上に直結する。
(4)上記(3)の為に、フィルムの電荷移動度が、環状化合物を有さない参照化合物と比較して向上した。
(5)共有結合によって環状分子が連結されているため、軸である導電性高分子の分子運動が抑制され、溶液中においてその蛍光強度が向上する。
(6)絶縁層における被覆効果のため、固体状態での蛍光強度が向上する。
IMWsは、固体状態でも効率的な発光を達成できるため、有機ELなどのディスプレイ材料や、センサへの応用が期待されている。また、ナノレベルの電気コードとしてナノテクノロジーの分野でも注目を集めている。
なお、以下の実施例は、本発明の一例を示すもので、当該実施例に示す合成方法を利用しえるものであれば、いずれも、本発明のモノマー、オリゴマー又はポリマー及び有機蛍光体を合成することが可能である。
【実施例1】
【0008】
以下に、一般的な導電性高分子のひとつであるポリチオフェンを主鎖に有する分子を用いた例を説明する。完成したモノマーの構造は、(化1)に示す化学構造のK1分子である。K1分子の環状絶縁性骨格は炭素数6のアルキル鎖を2本有するが、この長さは炭素数5から8の間が好ましい。
【化1】

【0009】
その製造方法は以下の通りである(図2)。すなわち、既知化合物である3,3’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェンを出発原料として、K2分子、K3分子、K4分子、K5分子、の順に直列的に合成し、最終的にK5分子を原料としてK1を合成した。
ステップ1(K2分子の合成)
K2分子は、絶縁性骨格を持たず、従って後述の種々測定においてK1分子の比較例となる。K2分子の構造を(化2)に示す。
【化2】

【0010】
K2分子の合成
3−3’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン(1.0 g, 3.1 mmol)、2,6−ジメトキシフェニルボロン酸(2.24 g, 12.3 mmol)、2−ジシクロへキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(127 mg, 0.31 mmol)、ビスジベンジリデンアセトンパラジウム(0)(89 mg, 0.15 mmol)、リン酸三カリウム(3.18 g, 15.1 mmol)を乾燥トルエン(10 mL)に加え、アルゴン雰囲気下で8時間加熱還流した。反応溶液を放冷し、蒸留水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧留去した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)にて精製することによって、白色の粉末を得た。
K2分子の同定(図3)
M.p.: 217−218°C. H−NMR (CDCl, TMS): 3.49 (s, 12H), 6.35 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.87 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 7.10 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.14 (d, J = 4.8 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 55.20, 103.89, 114.11, 122.55, 128.11, 129.99, 131.35, 134.26, 157.82. MALDI−TOF−MASS, 438.98, calculated 438.10 (C2422).
【0011】
ステップ2(K3分子の合成)
K3分子の合成
1Mの三臭化ホウ素ジクロロメタン溶液(9.12 mL, 9.12 mmol)をK2分子(1.0 g, 2.28 mmol)のジクロロメタン溶液に氷浴下でゆっくりと滴下した。室温に戻しながら3時間撹拌した後、10 mLのメタノールを加え、反応を停止した。反応溶液を酢酸エチルで希釈し、蒸留水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧留去した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=1/1)にて精製することによって白色の粉末を得た。この粉末をK3分子(化3)とした。
【化3】


化合物K3の同定
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl/ MeOD, TMS): 6.45 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 7.01 (d, J = 5.4 Hz, 2H), 7.07 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.21 (d, J = 5.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl/ MeOD): 106.84, 110.54, 124.45, 128.95, 129.79, 130.36, 132.40, 155.33. MALDI−TOF−MASS, 383.11, calculated 382.03 (C2014).
【0012】
ステップ3(K4分子の合成)
ビチオフェン骨格に反応性置換基となるオレフィンを修飾した分子(化4に示す化学構造を有する。以下K4分子という。)を合成した(図2)。
【化4】

【0013】
具体的にはアルゴン雰囲気下において、前記K3分子(3.0 g, 7.84 mmol)、トリフェニルフォスフィン(16.45 g, 62.8 mmol)、3−ブテン−1−オール(4.53 mmol, 62.8 mmol)のテトラヒドロフラン溶液にジイソプロピルアゾジカルボキシレート(12.7g, 62.8 mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応溶液を1時間超音波照射した。反応溶液を減圧留去し、残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製した。
K4分子の同定(図4)
M.p.: 79°C. H−NMR (CDCl/ MeOD, TMS): 2.28 (m, 8H), 3.63 (m, 4H), 3.72 (m ,4H), 4.99 (m, 8 H), 5.70 (m, 4H), 6.28 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.81 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 7.00 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.09 (d, J = 4.8 Hz, 2H) 13C−NMR (CDCl/ MeOD): 33.60, 37.20, 104.59, 114.73, 116.55, 121.88, 127.81, 130.06, 131.92, 134.29, 134.71, 157.13. MALDI−TOF, 608.04, calculated 607.99 (C2226). MALDI−TOF−MASS, 598.01, calculated 598.22 (C3638).
【0014】
ステップ4(K5分子の合成)
上記K4分子を出発原料として、オレフィン部位の閉環メタセシス反応によって、(化5)に示す化学構造を有する化合物を合成した(以下これをK5分子という(図2))。
【化5】

【0015】
具体的には、K4分子のジクロロメタン溶液に第2世代グラブス触媒(5 mo%)を加え、室温で2時間撹拌した。反応溶液をシリカゲルで濾過し、触媒を減圧留去した。溶媒を減圧流去し、得られた残さをジクロロメタンに溶解し、メタノールを加えることで白色の沈殿を得た。反応途中のH−NMRスペクトル変化より、この反応が定量的に進行することが確認された(図5)。
K5分子の同定(図6)
M.p. >300 °C. H−NMR (CDCl, TMS): 2.14 (m, 8H), 3.80 (m, 4H), 4.00 (m, 4H), 5.11 (dt, J = 1.2, 1.8 Hz, 4H), 6.71 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.73 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 7.38 (t, J = 8.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 32.63, 68.45, 107.40, 117.61, 122.62, 128.39, 129.13, 129.97, 130.73, 133.55, 158.79. MALDI−TOF−MASS, 542.04, calculated 542.16 (C3230
また、K5分子の生成はX線結晶構造解析によって確認した(図7)。
【0016】
ステップ5(K1分子の合成)
K5分子は、以下の接触水素化によってK1分子とした。
具体的には、K5分子とパラジウムカーボン(10 mol%)をジクロロメタン/メタノールの混合溶媒に分散させ、水素雰囲気下で2時間撹拌した。反応溶液をシリカゲルで濾過し、溶媒を減圧留去した。得られた残さをジクロロメタンに溶解し、メタノールを加えることで白色の沈殿を得た。
K1分子の同定(図8)
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl, TMS): 0.93 (m, 4H), 1.17 (m, 4H), 1.50 (m, 8H), 3.75 (tt, J = 4.8, 8.4 Hz, 4H), 4.05 (dt, J = 4.8, 6.6 Hz, 4H), 6.95 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.75 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 6.97 (d, J = 4.8 Hz, 2H), 7.38 (t, J = 8.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 27.23, 30.26, 69.73, 107.10, 117.45, 122.57, 129.36, 130.00, 131.03, 133.35, 158.93. MALDI−TOF−MASS, 546.13, calculated 546.19(C3234).
また、K1分子の生成はX線結晶構造解析によって確認した(図9)。
【0017】
吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル測定
K1分子とその比較化合物K2分子(環状部分を持たない)を吸収スペクトルによって比較した結果、K1分子の極大吸収波長は、K2分子のそれと比較して長波長側に現れた(図10および表1)。
【表1】

【0018】
確認された極大吸収波長の長波長シフトは、環状化合物による導電性高分子主鎖のコンフォメーションの固定のために有効共役長が向上したことを示す。また、それぞれの蛍光スペクトル測定において、K1分子の蛍光強度は、K4分子と比較して、2.5倍に向上した(図10および表2)。
蛍光スペクトルは、日立ハイテク社製日立分光蛍光光度計F−7000によって測定した。光源は、150Wキセノンランプを用い、励起波長290 nmにて励起した。K1およびK4分子のジクロロメタン溶液(濃度:5 ´ 10−6 M)に関して測定した。
確認された蛍光強度の向上は、環状分子によって導電性高分子主鎖の分子運動が抑制されたために、光励起状態の失活過程が抑制されたことに起因する。以上のように、自己貫通型の共役系分子においては、(1)有効共役長の向上、(2)蛍光量子収率の向上、が達成され得ることが明らかになった。
【表2】

【実施例2】
【0019】
K1分子を基本骨格として共役系が拡張された化合物は図11のスキームに従って合成した。また、その比較例として、K2分子を基本骨格として共役系が拡張された化合物も図12のスキームに従って合成した。
【0020】
図11のスキームに従って、K1分子を出発原料として、導電性骨格の共役系が拡張された(化6)に示す化学構造を持つK6分子および(化7)に示す化学構造を持つK7分子を合成した(図11)。すなわち、K1を出発原料として、その臭化物K1BrおよびK1Brを合成し、引き続いて、K6分子およびK7分子を合成した。
【化6】


【化7】

【0021】
ステップ1(K1BrおよびK1Br合成)
K1分子を基本骨格として共役系が拡張された化合物は図11のスキームに従って合成した。
K1分子(1.0 g, 1.83 mmol)をクロロホルム/酢酸(150 mL/50 mL)の混合溶媒に溶解し、氷浴下で撹拌しながら、N−ブロモスクシイミド(325 mg, 1.83 mmol)を数回にわけて加えた。その後、室温に戻しながら3時間撹拌した。反応溶液を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去し、残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)で精製することによって、 第一成分として二臭素化物(K1Br)および第二成分として一臭素化物(K1Br)を得た(図11)。
K1Brの同定
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl, TMS): 0.98 (m, 4H), 1,21 (m, 4H), 1,53 (m, 8H), 3.75 (m, 4H), 4.06 (m, 4H), 6.68 (m, 4H), 6.72 (s, 1H), 6.72 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 7.38 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.39 (t, J = 7.8 Hz, 1H). 13C−NMR (CDCl): 27.39, 27.40, 30.27, 50.88, 69.73, 69.74, 106.85, 107.08, 109.97, 116.11, 116.43, 123.08, 129.28, 130.40, 130.56, 130.94, 131.48, 131.77, 132.67, 135.17, 158.75, 158.85. MALDI−TOF−MASS, 625.25, calculated 624.10 (C3233BrO).
K1Brの同定
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl, TMS): 1.01 (m, 4H), 1.24 (m, 4H), 1.54 (m, 8H), 3.74 (m, 4H), 4.08 (m, 4H), 6.67 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.69 (s, 2H), 7.39 (t, J = 8.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 27.59, 30.31, 69.76, 106.84, 110.56, 115.16, 130.96, 131.41, 131.71, 134.41, 158.69. MALDI−TOF−MASS, 702.10, calculated 702.01 (C3232Br).
【0022】
ステップ2(K6分子の合成)
ステップ1で得られた化合物K1Br(150 mg, 0.21 mmol)、2−トリブチルスタニルチオフェン(318 mg, 0.85 mmol)、トランスジクロロビストリフェニルフォスフィンパラジウム(II)(1.5 mg, 10 mol/K1Br)を乾燥ジメチルフォルムアミドに溶解し、70度で12時間撹拌した。反応溶液を酢酸エチルで希釈し、フッ化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧留去した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=5/3)で精製することによって、黄色の粉末を得た。
K6分子の同定(図13)
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl, TMS): 1.01 (m, 4H), 1.27 (m, 8H), 1.52 (m, 4H), 3.77 (dt, J = 2.4, 9.6 Hz, 4H), 4.09 (m, 4H), 6.70 (d, J =8.4 Hz, 4H), 6.90 (s, 2H), 6.93 (m, 4H), 7.11 (dd, J = 1.2, 4.8 Hz, 2H), 7.41 (t, J = 8.4, 2H). 13C−NMR (CDCl): 27.47, 30.30, 69.77, 106.92, 122.41, 123.48, 126.30, 127.55, 130.51, 132.04, 132.29, 133.88, 158.83. MALDI−TOF−MASS, 710.95, calculated 710.17 (C4038).
【0023】
ステップ3(K7分子の合成)
前記ステップ1で得た化合物K1Br(150 mg, 0.24 mmol)、2,2’−ビチオフェン−5−ボロン酸ピナコールエステル(105 mg, 0.36 mmol),炭酸ナトリウム(76 mg, 0.72 mmol)、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)(27 mg, 10 mol%/K1Br)をトルエン/エタノール/蒸留水(4 mL/1 mL/1 mL)の混合溶媒に溶解し、アルゴン雰囲気下で5時間加熱還流した。反応溶液をジクロロメタンで希釈し、蒸留水で洗浄した。有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧留去した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=5/3)で精製することによって、黄色の粉末を得た。
K7分子の同定(図14)
M.p.: 235−237°C. H−NMR (CDCl, TMS): 0.98 (m, 4H), 1.21 (m, 4H), 1.59 (m, 8H), 3.77 (m, 4H), 4.08 (m, 4H), 6.70 (d, J = 8.4, 2H), 6.71 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.77 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 6.82 (d, J = 4.8, 1H), 6.88 (s, 1H), 7.00 (m, 3H), 7.12 (dd, J = 1.2, 3.6 Hz, 1H), 7.18 (dd, J = 1.2, 4.8 Hz, 1H), 7.39 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.42 (t, J = 8.4 Hz, 1H). 13C−NMR (CDCl): 27.35, 27.40, 29.69, 30.28, 69.74, 69.77, 106.96, 107.01, 116.81, 116.86, 122.97, 123.18, 123.43, 124.15, 124.23, 126.36, 127.80, 129.43, 130.25, 130.40, 131.55, 131.84, 132.95, 133.08, 135.19, 137.25, 137.38, 158.86. MALDI−TOF−MASS, 710.03, calculated 710.17 (C4038).
【0024】
K6分子およびK7分子のそれぞれの比較例である(化8)に示す構造のK8分子と(化9)に示す構造のK9分子を図12のスキームに従って以下のようにして合成した。すなわち、K2を出発原料として、その臭化物K2BrおよびK2Brを合成し、引き続いて、K8分子およびK9分子を合成した。K8分子およびK9分子は、K2分子を基本骨格として共役系が拡張された構造を有する。すなわち絶縁層を有さない。
【化8】


【化9】

【0025】
ステップ4(K2BrおよびK2Brの合成)
K2BrおよびK2Brの合成
K2BrおよびK2Brの合成は、K1BrおよびK1Brの合成と同様の試薬、条件の下に、 K1分子の代わりにK2分子を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/1)により行い、第一成分としてK2Brおよび第二成分としてK2Brを得た(図11)。
K2Brの同定
M.p. 210−211°C. H−NMR (CDCl, TMS); 3.50 (s, 6H), 3.53 (s, 6H), 6.34 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 3.37 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.82 (s, 1H), 6.84 (d, J = 4.8 Hz, 1H), 7.10 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.11 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.14 (d, J = 4.8 Hz, 1H). 13C−NMR (CDCl3): 55.21, 103.82, 103.90, 109.07, 113.58, 122.99, 128.45, 128.58, 130.37, 130.51, 131.34, 133.14, 133.83, 135.94, 157.77. MALDI−TOF−MASS, 517.89, calculated 516.01 (C2421BrO).
K2Brの同定
M.p.: 298−299°C (decomp.). H−NMR (CDCl, TMS): 3.54 (s, 12H), 6.36 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 6.79 (s, 2H), 7.13 (t, J = 8.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 55.27, 103.84, 109.67, 112.52, 128.98, 130.90, 133.76, 134.74, 157.79. MALDI−TOF−MASS, 594.88, calculated 593.92 (C2420BrO).

【0026】
ステップ5(K8分子の合成)
K8分子の合成は、K6の合成と同様の試薬、条件の下に、K1Br分子の代わりに前記ステップ4で得たK2Br分子を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=5/3)により行なった。
K8分子の同定(図15)
M.p. >300°C. H−NMR (CDCl, TMS): 3.55 (s, 12H), 6.36 (dd, J = 3.6, 5.4 Hz, 2H), 7.01 (dd ,J = 1.2, 3.6 Hz, 2H), 7.11 (t, J = 8.4 Hz, 2H), 7.15 (dd, J = 1.2, 5.4 Hz, 2H). 13C−NMR (CDCl): 55.27, 103.93, 113.62, 123.01, 123.73, 127.61, 128.41, 128.45, 130.93, 133.16, 134.04, 137.98, 157.75. MALDI−TOF−MASS, 601.89, calculated 602.07 (C3226).
【0027】
ステップ6(K9分子の合成)
K9分子の合成は、K7分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K1Br分子の代わりに前記ステップ4で得たK2Br分子を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=5/3)により行なった
K9分子の同定(図16)
M.p.: 103−105°C. H−NMR (CDCl, TMS): 3.52 (s, 6H), 3.54 (s, 6H), 6.36 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.37 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.89 (d, J = 5.4 Hz, 1H), 6.98 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 6.99 (s, 1H), 7.00 (dd, J = 3.6, 5.4 Hz, 1H), 7.04 (d, J = 3.6 Hz, 1H), 7.10 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.11 (t, J = 8.4 Hz, 1H), 7.14 (dd, J = 1.2, 3.6 Hzm 1 H), 7.16 (d, J = 5.4 Hz, 1 H), 7.19 (dd, J = 1.2, 5.4 Hz, 1H). 13C−NMR (CDCl): 55.22, 55.23, 103.87, 103.95, 122.82, 123.42, 123.48, 124.18, 124.23, 127.80, 128.28, 128.37, 130.38, 130.76, 131.50, 133.53, 133.81, 133.84, 135.42, 136.95, 137.38, 157.75, 157.77. MALDI−TOF−MASS, 602.04, calculated 602.07 (C3226).
【0028】
K6分子およびK7分子の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル測定
これらのオリゴマー系に関しても、自己貫通型のオリゴマーであるK6分子およびK7分子は、それらの比較化合物であるK8分子およびK9分子と比べて、(1)有効共役長の向上、(2)蛍光量子収率の向上、が確認された。図17にK6分子とK8分子の吸収および蛍光スペクトル、図18にK7分子とK9分子の吸収および蛍光スペクトルを示す。(表3)にまとめられた通り、自己貫通型のチオフェンオリゴマーであるK6分子とK8分子は、それぞれK7分子およびK9分子と比較して、極大吸収波長が長波長側に有しており、高い蛍光量子収率を示す。
【表3】

【実施例3】
【0029】
電気化学特性
自己貫通型のチオフェン誘導体、K1分子、K6分子、K8分子とそれぞれの比較参照化合物である、K2分子、K7分子、K9分子の電気化学測定において(ディファレンシャルパルスボルタンメトリ)、自己貫通型のチオフェン誘導体は、比較参照化合物と比べて、いずれも低い酸化電位を有することが明らかになった(図19)。これは、吸収スペクトル測定の結果と一致するが、すなわち、有効共役長の向上によって、酸化に伴い生じるラジカルカチオンが安定化されることを示唆している。(表4)の酸化電位はフェロセンの酸化電位に対する相対電位である。
【表4】

【実施例4】
【0030】
固体状態における蛍光特性
固体状態における蛍光量子収率を積分球を用いることによって求めた。その結果、 自己貫通型のチオフェン誘導体、K1分子、K6分子、K8分子は、それぞれの比較参照化合物である、K2分子、K7分子、K9分子よりも高い蛍光量子収率を有することが明らかとなった。これは、環状化合物による自己会合の抑制、すなわち、インシュレーション効果によるものと考えられる(表5)。
【表5】

【実施例5】
【0031】
トランジスター特性(電荷移動度測定)
自己貫通型のチオフェン誘導体であるK6分子、K7分子と、それぞれの比較参照化合物であるK8分子およびK9分子のスピンコートフィルムについて、電荷移動度を求めた結果、自己貫通型のチオフェン誘導体であるK6分子、K7分子は、それぞれの比較参照化合物であるK8分子およびK9分子よりも10倍程度高い電荷移動度を有することが明らかになった。以下の(表6)にトランジスター特性を示す。
【表6】

【実施例6】
【0032】
自己貫通型ビチオフェンであるK1分子をユニットとしたポリマーを図20のスキームに従って合成した。
ポリマーに溶解性を付与するために環状絶縁性骨格にアルキル鎖を修飾した。このアルキル鎖の長さに特に制限はなく、鎖長は可変である。以下に記述する例においては、既知化合物である、4−ペンチル−2,6−ジメトキシフェニルボロン酸と3,3’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェンを出発原料にして、K10分子、K11分子、K12分子、K13分子の順に直列的に合成し、最終的にK13分子を原料として、K14分子を合成した。アルキル鎖を有したK1分子の類似化合物であるK14分子の構造を(化10)に示す。
【化10】

【0033】
ステップ1(K10分子の合成)
K10分子の合成は、K2分子の合成と同様の試薬、条件の下に、2,6−ジメトキシフェニルボロン酸の代わりに既知化合物である4−ペンチル−2,6−ジメトキシフェニルボロン酸を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/2)により行なった。
【0034】
ステップ2(K11分子の合成)
K11分子の合成は、K3分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K2分子の代わりに前記K10分子を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン=1/2)により行なった。
【0035】
ステップ3(K12分子の合成)
K12分子の合成は、K4分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K3分子の代わりに前記K11分子を出発原料に用いて行なった。精製は、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン/ヘキサン=1/2)により行なった。
【0036】
ステップ4(K13分子の合成)
K13分子の合成は、K5分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K4分子の代わりに前記K12分子を出発原料に用いて行なった。
【0037】
ステップ5(K14分子の合成)
K14分子の合成は、K1分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K4分子の代わりに前記K13分子を出発原料に用いて行なった。
【0038】
ステップ6(K14Br分子の合成)
K14Br分子の合成は、K1Br分子の合成と同様の試薬、条件の下に、K1分子の代わりに前記K14分子を出発原料に用いて行なった。
【0039】
ステップ7(K14分子の重合)
図21のスキームに従って、K14Br分子を原料モノマーとしてニッケルを触媒とした山本カップリング反応によって自己貫通型ポリチオフェンであるK15分子(すなわちK14分子の重合体。構造を(化11)に示す。)を得た。
【化11】

【産業上の利用可能性】
【0040】
Insulated Molecular Wiresは、一般的な導電性高分子と比較して固体状態で高い発光特性を有する(表5)。従って、IMWsは、エレクトロルミネッセンスデバイスや高感度センサ素子への応用が期待されているが、このようなデバイス作製にあたって、化学構造上の欠陥は致命的である。本発明で合成できる自己貫通型の導電性オリゴマー又はポリマーは、これまでに報告例のあるロタキサン構造と異なり、絶縁性骨格と導電性骨格とが共有結合によって連結されているため、全く欠陥を持たないIMWsである。
また、環状絶縁性骨格は、導電性骨格の分子運動を固定する効果もあり、これによって、導電性オリゴマー又はポリマーの有効共役長が向上される。このような効果は、既存のアプローチ(すなわち、ロタキサン構造やポリマーラッピング)によっては実現できない。有効共役長の向上は、高い導電性につながる。従って、本発明は、高い導電性を有する材料を提供できる(表6)。
さらに、前記の分子運動の固定化の効果によって、溶液中における蛍光強度の向上も達成できた。この点も、既存のアプローチには見られない本発明の特長である。
以上の点から、本発明で合成できる自己貫通型のオリゴマー又はポリマーは、高い発光特性と導電性を兼ね備えた高分子であり、有機エレクトロニクスの産業分野において重要な材料となり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0041】
【非特許文献1】Anderson et. al., Angew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 1028.
【非特許文献2】Anderson et. al., Nature Materials, 2002, 1, 160.
【非特許文献3】Hadziioanou et. al., Chem. Mater, 2004, 16, 4383.
【非特許文献4】Shinkai et. al., J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 4548.
【非特許文献5】Frechet et. al., Macromolecules, 2000, 33, 3634.
【非特許文献6】Anderson et. al., Nano Lett., 2008, 8, 4546.
【非特許文献7】Terao et. al., Chem. Lett. 2009, 38, 76.
【非特許文献8】Ryan M. Harrison, NNIN REU Research Accomplishments, 2008, 152.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性骨格の周囲が絶縁性骨格で囲まれた構造を有する導電性モノマーであって、前記導電性骨格を構成する導電性分子の側鎖に修飾された絶縁性分子同士の閉環状結合により前記絶縁性骨格が構成されていることを特徴とする導電性モノマー。
【請求項2】
導電性高分子主鎖が絶縁層で覆われた線状導電性ポリマー又はオリゴマーであって、前記導電性高分子主鎖が、請求項1に記載の導電性モノマーの導電性骨格同士が結合されて構成され、この導電性高分子主鎖が、前記モノマーの絶縁性骨格により構成された絶縁層により覆われていることを特徴とする導電性ポリマー又はオリゴマー。
【請求項3】
励起源の照射により蛍光を発する有機蛍光体であって、その主体が請求項1に記載の導電性モノマー又は請求項2に記載の導電性ポリマー又はオリゴマーであることを特徴とする有機蛍光体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−32198(P2011−32198A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178991(P2009−178991)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月4日 インターネットアドレス「http://www.nnin.org/doc/2008NNINireuHARRISON.pdf」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】