説明

導電性・吸放熱性に優れた塗装鋼板

【課題】 発熱部品からの熱を効率よく吸収し、発熱部品の昇温抑制に適した塗装鋼板を得る。
【解決手段】 導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けたことを特徴とする。なお、基材が、黒色の塗布型化成処理皮膜を設けためっき鋼板またはステンレス鋼板でもよい。さらに、めっき鋼板またはステンレス鋼板を基材とし、導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料と、芳香族環を有する有機顔料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けてもよい。反対面には同様に吸放熱性および/または導電性の塗膜、あるいは公知の塗装鋼板の塗膜構成のいずれを設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸・放熱性を高めた導電性塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
CPU、パワートランジスタ、ディスクドライブなどIT関連部品や半導体部品は稼動時に発熱して昇温する。高温は使用者にとって危険なだけでなく、発熱器具、部品や装置とって故障や誤作動の原因となる。温度上昇によるトラブルは発熱器具、部品を小型化、高密度化するほど大きな問題となる。昇温による故障や誤作動を防止するにはファンなどで冷風を発熱器具、部品に吹きつけて冷却する方法があるが、ファンなど部品が増大し、最終製品のサイズ、重量も増加してしまう。ドラフト作用をもつ筺体で発熱器具、部品を覆う方法もあるが、ドラフト作用のため通風孔を筺体に形成する必要があり、気密性や電磁シールド性に劣る筺体になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小型化、高密度化の要求にこたえ、機密性電磁シールド性に優れた筺体を得るうえでは筺体を構成する材料自体の放熱特性を向上させることが必要である。材料自体の優れた放熱特性は電器・電子機器用の筺体にのみならず蛍光灯や液晶のバックライトを始めとする照明器具・部品の反射板に使用した場合でも、照明器具の発効効率や寿命が高まることなど種々の用途で要求される特性である。また、CPU、パワートランジスタ、ディスクドライブなどIT関連部品や半導体部品において、動作周波数あるいは出力が高くなるに伴い、筺体にはより高い電磁シールド性が求められるようになっており、塗装鋼板で筺体を形成する際には、特に筺体の内面側の塗膜に高い電磁シール性すなわち高い導電性が要求されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−224017号公報
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明はこのような要求にこたえるために案出されたものであり、めっき鋼板またはステンレス鋼板を基材とし、吸放熱性と導電性を有する熱吸収性塗膜を設けることにより発熱を効率よく吸収して外部に放散し、高い電磁シールド性も有する塗装鋼板を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の塗装鋼板は、その目的を達成するため、導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けたことを特徴とする。なお、基材が、黒色の塗布型化成処理皮膜を設けためっき鋼板またはステンレス鋼板でもよい。さらに、めっき鋼板またはステンレス鋼板を基材とし、導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料と、芳香族環を有する有機顔料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けてもよい。反対面には同様に吸放熱性および/または導電性の塗膜、あるいは公知の塗装鋼板の塗膜構成のいずれを設けてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の塗装鋼板で発熱器具、部品からの熱が塗膜に効率よく吸収され、金属基材を熱伝導して外部に放散される。そのため昇温に起因した部材における寿命低下が防止され、信頼できる構造部材が得られる。また、クリア塗膜であることから下地金属光沢が活かされ淡い色調が付与された意匠性の高い製品になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の塗装鋼板は、めっき鋼板またはステンレス鋼板を金属基材1とし、金属基材1の1面に吸放熱導電塗膜2、他面に下塗り塗膜3を介して上塗り塗膜4を設けている。(図1)塗膜2,3の形成に先立ち、脱脂、酸洗、表面調整処理、クロメート処理、黒色クロメート処理、リン酸塩処理、黒色リン酸塩処理、クロムフリー処理、黒色クロムフリー処理などの塗装前処理を必要に応じて1種、または2種以上施し、塗膜密着性の向上に有効な化成処理皮膜5を金属基材1の表面に設けてもよい。
【0008】
化成処理は金属基材や塗料との組み合わせで適宜選定すればよいが、黒色の塗布型化成処理を施せば、より高い吸放熱性を得ることができる。黒色の塗布型化成処理皮膜は公知の塗布型クロメート皮膜や公知のシリカ系、ジルコニア系、チタン系などの塗布型のクロムフリー皮膜にカーボンブラックやカーボングラファイトなど、あるいはシアニンブラック、酸化鉄ブラックなどの黒顔料を添加することで形成できる。特にカーボンブラックやカーボングラファイトは化成処理皮膜に添加するには粒径も小さく、また、導電性も有するので本発明に好適である。ここでの黒色はクリアー塗装後の塗装板の明度L値として50以下であれば効果が期待できる。
【0009】
金属基材1には溶融亜鉛、合金化溶融亜鉛、電器亜鉛めっきなどの亜鉛めっき、亜鉛−5%アルミ、亜鉛−55%アルミなどの亜鉛−アルミ合金系めっき、亜鉛−アルミ−マグネシウム、亜鉛−ニッケル、アルミ−シリコンなどのめっき層6を設けためっき鋼板や、無垢のステンレス鋼板が使用される。基材表面で乱反射を促進させて熱吸収効率を向上させるため、表面粗さの大きな基材は効果が大きい。
【0010】
本発明で使用する樹脂は芳香族環を有する。実験の結果、芳香族環を有する樹脂は、他の樹脂に比べて熱の吸収性が高いことが分った。芳香族環の共役2重結合が、樹脂に含まれる近傍の不対電子や他の2重結合との相互作用で熱吸収性を高めることがひとつの要因とも考えられるが、原理は定かではない。こうした樹脂としてはレギュラーポリエステル樹脂、高分子ポリエステル樹脂などのポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ変性高分子ポリエステル樹脂などが挙げられる。樹脂に合わせて硬化剤はウレタン系、メラミン系樹脂など公知のものを使用できる。クリア塗膜であることにより、芳香族環による熱吸収が顔料で遮断されずに効率よく行うことができる。また、裏面塗膜にクリア塗膜を用いることで、プレッシャーマークの発生を抑制することができる。
【0011】
クリア塗膜には導電性付与のため導電性フィラーを添加する。導電性フィラーとしてはニッケル、銀、錫、銅、アルミ、鉄などの金属粉、およびリン鉄などが挙げられる。粒径形状などの制限はないが、導電性や塗料中での安定性からニッケル粉、リン鉄粉などが望ましい。リン鉄は吸放熱性を高める点でも好ましい。添加量は塗膜中に1〜50重量%が望ましい。1%未満では導電効果が十分でなく、50%を超えると塗装性が低下する。
【0012】
また、使用用途によって塗膜を着色する必要が生じる場合は、着色顔料として芳香族環を有する有機顔料を用いることができる。他の顔料では芳香族環の吸収効果を遮断してしまうが、芳香族環を有する有機顔料ではそうしたことがない。こうした顔料としてはシアニンブルー、シアニングリーン、シアニンレッドなどが挙げられる。
【0013】
塗膜は乾燥膜厚で2〜15μmが好ましい。2μm未満では膜厚が薄すぎ、熱吸収効果が十分でなく、15μmを超えると塗装焼付け時にワキなどが発生しやすくなる。吸放熱導電塗膜は両面に配してもよいし、片面でもよい。片面の場合反対面には通常使用されるPCM塗膜および前処理を使用することができる。
【0014】
熱吸収性は放射率によりあらわすことができる。放射率は一定量の熱をサンプルに照射した場合の、サンプルの温度上昇を測定するもので、D&S AERD放射率計(京都電子社製)などで測定することができる。
【実施例1】
【0015】
板厚0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板に、表面調整処理を施し、塗布型クロメート処理したのち、オモテ面にポリエステル系プライマーを乾燥膜厚で5μm、ポリエステル上塗り塗膜を乾燥膜厚で13μm、裏面に表1(No.1〜16)の組成の塗膜を塗装焼付けし、20℃の恒温室内で裏面の放射率および導電性を測定した。放射率はD&S AERD放射率計(京都電子社製)を用い、導電率はロレスタGP(三菱化学社製)を用い、ESPプローブで測定した。
【実施例2】
【0016】
実施例1で塗布型クロメート処理の代わりに、塗布型クロメート処理(日本ペイント社製NRC300)にカーボンブラックを固形分換算で1%になるよう添加した黒色塗布型クロメート処理をクロム付着量30mg/mになるよう塗布、乾燥し、その裏面側に表1(No.17〜20)の組成の塗料を塗装焼付けし、裏面の放射率および導電性を測定した。
〔比較例1〕
【0017】
実施例1で、裏面塗膜を表1のNo.21〜25に代えて同様に裏面の放射率および導電性を測定した。
【表1】

【0018】
表1の結果のように、本発明では放射率、導電率とも良好であったが、導電粉が少ないNo.24は導電性が不足し、膜厚が少ないNo.23芳香族環がない樹脂であるNo. 21,22 芳香族環がない顔料を加えたNo.25は放射率が不足した。また、放熱効果を確認するため、No.2の塗装鋼板から120×60mmの試験片を3片切り出し、放熱試験に供した。放熱試験では上部および側面2面が開放された図2の試験ボックス11にヒーター12を収容し、ヒーター12から試験片10までの距離を50mmに固定して試験片10をボックスの上部および側面2面に、裏面をヒーター側にして密着固定した。ヒーター12に一定値10Wの熱量をかけ、試験ボックス内の温度が安定する2時間後のボックス内の温度を測定したところ、吸放熱塗膜を設けた塗装鋼板No.1(放射率0.70)では、2時間後の温度は50℃であったのに対し、裏面側に吸放熱塗膜のない無垢の亜鉛めっき鋼板(放射率0.08)を用いた場合では2時間後の温度は80℃に上昇しており、吸放熱塗膜による放熱効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上のように、本発明により、吸・放熱性に優れた塗装鋼板を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従った塗装鋼板の断面図
【図2】塗装鋼板の吸熱・放熱特性が筐体内部の温度上昇に及ぼす影響を調査した試験装置
【符号の説明】
【0021】
1:金属基材 2:吸放熱導電塗膜 3:下塗り塗膜 4:上塗り塗膜
5:化成処理皮膜 6:めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板またはステンレス鋼板を基材とし、導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けたことを特徴とする導電性・吸放熱性に優れた塗装鋼板。
【請求項2】
基材が、黒色の塗布型化成処理皮膜を設けためっき鋼板またはステンレス鋼板であることを特徴とする請求項1記載の導電性・吸放熱性に優れた塗装鋼板。
【請求項3】
めっき鋼板またはステンレス鋼板を基材とし、導電性フィラーを1〜50重量%含有した芳香族環を有する樹脂塗料と、芳香族環を有する有機顔料によるクリア塗膜を乾燥膜厚で2〜15μm設けたことを特徴とする導電性・吸放熱性に優れた塗装鋼板。

























【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−95709(P2006−95709A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281169(P2004−281169)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】