説明

導電性支持体、プロセスカートリッジ及び画像形成装置

【課題】電気抵抗調整層及び空隙保持部材等を形成して帯電部材とする製造工程においても、また、導電性支持体を組み込んだ帯電部材としての使用開始の初期、及び、その後の長期間の使用においても、形状変動が小さく、感光体ドラムとの間に安定した高精度の空隙を維持することが可能であり、像担持体表面の均一帯電が可能で、かつ、耐久性の高い導電性支持体を提供する。
【解決手段】少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、化学的粗面化処理が施され、次いでリン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理が施されている導電性支持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式において、感光体に対し帯電処理を実行するローラ等の導電性支持体に関し、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリなどの電子写真方式を採用した画像形成装置に使用される帯電ローラ等の帯電部材に応用することができる導電性支持体に用いる導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置において、感光体に対して帯電処理を行う帯電部材としては、帯電ローラが一般的に用いられている。図4は電子写真方式の画像形成装置の概略図である。
【0003】
従来の電子写真方式の画像形成装置120は、静電潜像が形成される感光体ドラム101、感光体ドラム101に接触して帯電処理を行う帯電ローラ102、レーザ光等の露光手段103、感光体ドラム101の静電潜像にトナーを付着させる現像ローラ104、帯電ローラ102にDC電圧を印加するためのパワーパック105、感光体ドラム101上のトナー像を記録紙107に転写処理する転写ローラ106、転写処理後の感光体ドラム101をクリーニングするためのクリーニング装置108、及び、感光体ドラム101の表面電位を測定する表面電位計109から構成されている。
【0004】
また、従来の電子写真方式の画像形成装置120は、プロセスカートリッジ着脱方式の装置となっている。即ち、従来の電子写真方式の画像形成装置120は、感光体ドラム101、帯電ローラ102、現像ローラ104、及び、クリーニング装置108を含むプロセス機器を一括して画像形成装置本体に対して着脱自在のプロセスカートリッジ110としている。このプロセスカートリッジ110は、少なくとも、感光体ドラム101及び帯電ローラ102を備えていればよい。このプロセスカートリッジ110は、画像形成装置に対して所定の箇所に装着されることにより、画像形成装置本体側の駆動系及び電気系と接続状態となる。なお、図4では、他の電子写真プロセスにおいて通常必要な機能ユニットは、本明細書において必要としないので、省略してある。
【0005】
次に、従来の電子写真方式の画像形成装置120の基本的な作像動作について説明する。感光体ドラム101に接触された帯電ローラ102に対してDC電圧をパワーパック105から給電すると、感光体ドラム101の表面は、一様に高電位に帯電する。その直後に、画像光が感光体ドラム101の表面に露光手段103により照射されると、感光体ドラム101の照射された部分は、その電位が低下する。このような帯電ローラ102による感光体ドラム101の表面への帯電メカニズムは、帯電ローラ102と感光体ドラム101との間の微少空間におけるパッシェンの法則に従った放電であることが知られている。
【0006】
画像光は、画像の白/黒に応じた光量の分布であるので、かかる画像光が照射されると、画像光の照射によって感光体ドラム101の面に記録画像に対応する電位分布、即ち、静電潜像が形成される。このように静電潜像が形成された感光体ドラム101の部分が現像ローラ104を通過すると、その電位の高低に応じてトナーが付着し、静電画像を可視像化したトナー像が形成される。かかるトナー像が形成された感光体ドラム101の部分に、記録紙107が所定のタイミングでレジストローラ(図示せず)により搬送され、前記トナー像に重なる。そして、このトナー像が転写ローラ106によって記録紙に転写された後、該記録紙107は、感光体ドラム101から分離される。分離された記録紙107は、搬送経路を通って搬送され、定着ユニット(図示せず)によって、加熱定着された後、機外へ排出される。このようにして転写が終了すると、感光体ドラム101は、その表面がクリーニング装置108によりクリーニング処理され、さらに、クエンチングランプ(図示せず)により、残留電荷が除去されて、次回の作像処理に備えられる。
【0007】
このような画像形成装置では、帯電ローラが、感光体ドラムの表面を所望の電位に帯電し、次いで、露光装置が、感光体ドラムに画像光を投射して、所望の画像に対応する静電潜像を、感光体上に形成し、さらに、現像ローラが、静電潜像をトナーによって現像し、感光体ドラム上にトナー像(顕像)を形成し、その後、転写ローラが、感光体ドラム上のトナー像を、記録紙に転写し、クリーニング装置が、転写されず感光体ドラム上に残留したトナーを清掃するとともに、転写ローラによって、トナー像を転写された記録紙は、不図示の定着装置へと搬送される(定着装置は、トナーを加熱及び加圧して記録紙上に定着する)と云う手順で画像形成が行われる。
【0008】
ここで、帯電ローラを用いた帯電方式としては、感光体にローラを接触させる接触帯電方式が一般に用いられているが(特開昭63−149668号公報、特開平1−2111779号公報、特開平1−267667号)、接触帯電方式には、
(1)帯電ローラを構成している物質が帯電ローラから染み出し、これが被帯電部材の表面に付着移行して帯電ローラ跡を残すこと、
(2)帯電ローラに交流電圧を印加したときに、被帯電体に接触している帯電ローラが振動するので、帯電音が発生すること、
(3)感光体ドラム上のトナーが帯電ローラに付着する(特に、上述の染み出しによって、よりトナー付着がおこりやすくなる。)ので、帯電ローラの帯電性能が低下すること、
(4)帯電ローラを構成している物質が感光体ドラムへ付着すること、及び、
(5)感光体ドラムを長期停止したときに、帯電ローラが永久変形すること、
と云った問題があった。
【0009】
このような問題を解決する方法として、帯電ローラを感光体に近接させる近接帯電方式が考案されている(特開平03−240076号公報、特開平4−358175号公報、特開平5−107871号公報等)。近接帯電方式は、帯電ローラと感光体との最近接距離(空隙)が50〜300μmになるように対向させ、帯電ローラに電圧を印加することにより、感光体を帯電させる技術である。この近接帯電方式では、帯電装置と感光体が接触していないために、接触帯電装置で問題となる「帯電ローラを構成している物質の感光体への付着」「感光体を長期停止したときに生ずる、永久変形」は問題とならない。また、「感光体上のトナー等が帯電ローラに付着することによる帯電性能の低下」に関しても、特開平3−240076号公報、特開平4−358175号公報等で、帯電ローラと感光体との間の空隙を保持する、ローラ両端部に設けたスペーサリング層により解決できることが記載されている。
【0010】
しかしながら、これら従来技術文献にはスペーサリング層によって空隙を精密に設定する具体的な手段の記載はなく、帯電ローラおよびスペーサリングの寸法精度がばらつくことによってこの空隙が変動し、その結果、感光体の帯電電位が均一にならずに変動するという不具合を有している。
【0011】
ここで、特開2002−139893公報(特許文献1)記載の技術では、所定の厚みを持ったテープ状の空隙保持手段により、これらの不具合を解決している。しかしながら、テープ状部材の磨耗、帯電ローラとテープ状部材間へのトナーの進入、固着等により、長期間使用において、感光体と帯電ローラ間の空隙を維持できないという不具合がある。また、テープの厚みのばらつきのため、高精度の空隙を形成することができない。
【0012】
また、特開2005−24830公報(特許文献2)記載技術では、電気抵抗調整層の両端部に空隙保持部材を圧入する構成になっている。電気抵抗調整層と空隙保持部材の構成(関係)は、電気抵抗調整層の端部に空隙保持部材が形成され、空隙保持部材は、電気抵抗調整層の端面及び、導電性支持体と接している。このことにより、テープ状の空隙保持部材を用いた場合より、長期の信頼性が向上した。
【0013】
しかしながら、製造工程において、成形品の歪み取りのためにエージング工程を実施後、空隙保持部材や電気抵抗調整層に対して不要部の除去加工を行うことで、電気抵抗調整層及び空隙保持部材の表層が削られると、周囲環境の影響を大きく受けるようになる。
【0014】
さらに、電気抵抗調整層にトナー等が固着して性能低下する等の問題を防止するために、塗装工程で電気抵抗調整層の上に表面層を塗布により形成し、表層の保護層とするが、保護層を形成した後も、高温、高湿度環境下においては、吸湿により電気抵抗調整層が膨張し、電気抵抗調整層と空隙保持部材との間で形成される段差が変動することで、空隙を高精度で維持することが困難になる(ここで、図5は吸湿により電気抵抗調整層が膨張し、電気抵抗調整層と空隙保持部材との間で形成される段差が変動することを示すモデル説明図である)。
【特許文献1】特開2002−139893公報
【特許文献2】特開2005−24830公報
【特許文献3】特開平11−293476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、即ち、電気抵抗調整層及び空隙保持部材等を形成して帯電部材とする製造工程においても、また、帯電部材としての使用開始の初期、及び、その後の長期間の使用においても、形状変動を小さくし、感光体ドラム(感光体、潜像担持体あるいは像担持体)との間に安定した高精度の空隙を維持することが可能であり、像担持体表面の均一帯電が可能で、かつ、耐久性の高い、長寿命な帯電部材、その帯電部材を有するプロセスカートリッジ、さらに、このようなプロセスカートリッジを有する画像形成装置を可能とする、導電性支持体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
吸湿により電気抵抗調整層が膨張し、電気抵抗調整層と空隙保持部材との間で形成される段差の変動について、本発明者等がさらに詳細に検討を進めた結果、電気抵抗調整層の外径のみが膨張して段差が変動するのではなく、図6にモデル的に示すように同時に電気抵抗調整層の内径も大きくなり、その結果、電気抵抗調整層が導電性支持体から剥離していることが判った。また、空隙保持部材は像担持体と当接して用いられるため、常に力が加わった状態となっており、そのため空隙保持部材も導電性支持体から剥離しやすく、この空隙保持部材が導電性支持体から剥離したときには、電気抵抗調整層の導電性支持体からの剥離を促進しているものと考えられ、これら剥離を予防することにより帯電部材としての寿命を長くすることができるものと考えて本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明の導電性支持体は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、化学的粗面化処理が施され、次いでリン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理が施されていることを特徴とする。
【0018】
請求項2に記載の本発明の導電性支持体は、像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、ジルコニウム塩処理が施されていることを特徴とする。
【0019】
請求項3に記載の本発明の帯電部材は、上記請求項1または請求項2に記載の導電性支持体を有することを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の本発明のプロセスカートリッジは、請求項3に記載の帯電部材が、該帯電部材の空隙保持部材の表面が像担持体に接する位置に配置されていることを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載の本発明の画像形成装置は、請求項4に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る本発明の導電性支持体によれば、像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、化学的粗面化処理が施され、次いでリン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理が施されているので、導電性支持体側面に形成される電気抵抗調整層との接着に適した表面状態を形成することができるので、長期間の使用に耐えられ、また高温・高湿での使用条件下であっても、導電性支持体と電気抵抗調整層あるいは空隙保持部材との接着の信頼性を高めることができる。また、化学的粗面化処理により粗面化されているために、サンドブラストなどの物理的な粗面化を行った場合に問題となるブラストメディア残存による接着性低下や帯電不良等のおそれがない。
【0023】
請求項2に係る本発明の導電性支持体によれば、像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、ジルコニウム塩処理が施されているので、導電性支持体側面に形成される電気抵抗調整層との接着に適した表面状態を形成することができるので、長期間の使用に耐えられ、また高温・高湿での使用条件下であっても、導電性支持体と電気抵抗調整層あるいは空隙保持部材との接着の信頼性を高めることができる。また、ブラストメディアによる問題が生じやすい物理的な粗面化も、また、その他の粗面化処理も行わなくても充分な効果が得られる。
【0024】
請求項3に係る本発明の帯電部材は、上記請求項1または請求項2に記載の導電性支持体を有する構成により、その導電性支持体と電気抵抗調整層あるいは空隙保持部材との接着において、高温・高湿での使用条件下であっても高い信頼性が維持され、長寿命な帯電部材とすることができる。
【0025】
請求項4に係るプロセスカートリッジは、請求項3に記載の帯電部材が、該帯電部材の空隙保持部材の表面が像担持体に接する位置に配置されている。このために、プロセスカートリッジとして、高温・高湿での使用条件下であっても高い信頼性が維持され、長寿命となる。
【0026】
請求項5に係る本発明の画像形成装置は、請求項4に記載のプロセスカートリッジを有しているために、高温・高湿での使用条件下であっても高い信頼性が維持され、プロセスカートリッジの交換頻度を少なくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明における導電性支持体は、像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、該帯電部材が導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、上記導電性支持体の電気抵抗調整層及び空隙保持部材が設けられる表面部分に、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理及びジルコニウム塩処理のいずれかが行われていることが必要であり、また、上記リン酸亜鉛処理及びリン酸鉄処理においては、これらの処理が行われる前にこれら処理が行われる導電性支持体表面に予め化学的粗面化処理が行われている必要がある。
【0028】
本発明において、導電性支持体は通常、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄やその合金(ステンレスを含む)などの金属から形成する。最終的に帯電ローラとする場合にはローラ材形状の導電性支持体を用いる。
【0029】
このような導電性支持体の、電気抵抗調整層及び空隙保持部材が設けられる表面部分にリン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理を施す場合には、充分な密着性を得るために、その処理に先立って化学的粗面化処理を行う必要がある。
【0030】
化学的粗面化処理とは、導電性支持体の、電気抵抗調整層及び空隙保持部材が設けられる表面部分をエッチングし粗面化する方法であり、一般に、対象となる金属部材表面を塩酸、硫酸あるいは硝酸等の酸に接触させて、該表面を化学的にエッチングすることにより、機械的方法同様に金属部材表面を粗面化する方法である。ここで、金属の表面は、通常、金属組織の違いや結晶粒界の存在により化学的に不均一であるために、この方法によれば活性な部分が優先的にエッチングされて表面に凹凸が形成される。
【0031】
しかし、本発明の化学的粗面化処理としては、このような一般のエッチング処理よりも、
・金属の表面へ皮膜形成を伴う化学エッチング処理
・上記皮膜を除去する化学エッチング処理
の2工程をこの順で行う化学的粗面化処理(特開平11−293476号公報(特許文献3)参照。以下、二段化学的粗面化処理と云う)であると、表面の凹凸がくさび効果を有する形状となるために、本発明の効果がより高くなる。
【0032】
ここで、上記皮膜形成を伴う化学エッチング処理は、被処理面が、鉄系、亜鉛系、アルミニウム系、および銅系からなる場合、亜鉛イオン、ニッケルイオン、コバルトイオン、カルシウムイオンおよびマンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の重金属イオンと、りん酸イオンと、を少なくとも含有し、かつ、pHが1〜5の範囲である水溶液により行う。
【0033】
また、上記皮膜形成を伴う化学エッチング処理は、被処理面がステンレス系からなる場合にはシュウ酸イオンとフッ素化合物とを含有する水溶液を用いて行う。
【0034】
一方、皮膜除去処理は、被処理面が鉄系の材料である場合にはクロム酸水溶液または強アルカリ水溶液を用い、アルミニウム系の材料である場合には硝酸を用い、あるいは被処理面がステンレス系の材料である場合には例えば、硝酸とフッ化水素酸とからなる混酸を用い、それぞれ皮膜形成を伴う化学エッチング処理で形成された皮膜を除去する。
【0035】
本発明におけるリン酸亜鉛処理は、リン酸イオンと亜鉛イオンとを含む溶液からリン酸亜鉛を、導電性支持体表面に析出させるものであり、本発明における、リン酸鉄処理は、リン酸イオンと鉄イオンとを含む溶液からリン酸鉄を析出させるものであり、塗料の金属への密着性向上の目的に調整済みの調剤(溶液、スプレー等)が日本パーカライジング社等から入手可能であり、それらの使用方法に従って実施することができる。
【0036】
また、本発明におけるジルコニウム塩処理は有機ケイ素単量体とジルコニウムのフッ素化合物とを含む溶液(水、あるいは水とアルコールとの混合溶液)を被処理金属面に塗布し、その後乾燥させることにより、被処理金属面にジルコニウム塩を形成させるものであり、塗料の金属への密着性向上の目的に調整済みの調剤が日本パーカライジング社等から入手可能であり、それらの使用方法に従って実施することができる。
【0037】
本発明において、上記導電性支持体の上記処理面上に、電気抵抗調整層は画像形成装置において用いられる帯電部材で用いられる電気抵抗調整層を形成する。なお上記処理は少なくとも導電性支持体の電気抵抗調整層形成部分に施す必要があるが、さらに導電性支持体の空隙保持部材形成部に上記処理を施すことにより、導電性支持体と空隙保持部材との接着性が向上するため、帯電部材としての耐久性が向上するので、より好ましい。
【0038】
ここで、本発明における電気抵抗調整層は、高分子型イオン導電材料が分散された熱可塑性樹脂組成物(マトリクスポリマー)により形成されていることが導電性部材として必要な電気抵抗安定性の点で好ましい。
【0039】
本発明における電気抵抗調整層に用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではないが、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)およびその共重合体(アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS))等の汎用樹脂であれば、成形加工が容易であり、好適に用い得る。これらの樹脂のうち、機械強度が高く、かつ、機械加工がしやすいので、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を用いることが望ましい。
【0040】
このような熱可塑性樹脂に分散させる高分子型イオン導電材料としては、ポリエーテルエステルアミド成分を含有する高分子化合物が好ましい。ポリエーテルエステルアミドはイオン導電性の高分子材料であり、マトリクスポリマー中に分子レベルで均一に分散、固定化される。したがって、導電性顔料を分散した組成物に見られるような分散不良に伴う抵抗値のバラツキが生じない。また、高分子材料であるため、ブリードアウトが生じ難い。マトリクスポリマーへの配合量については、電気抵抗調整層の体積固有抵抗値を所望の値にする必要があることから、熱可塑性樹脂が30〜70重量%、高分子型イオン導電材が70〜30重量%とすることが好ましい。
【0041】
本発明における電気抵抗調整層の体積固有抵抗は10〜10Ωcmであることが好ましい。電気抵抗調整層の体積固有抵抗が10Ωcmを越えると、帯電能力や画像形成装置に用いた場合の転写能力が不足してしまい、10Ωcmよりも体積固有抵抗が低いと、画像形成装置に用いた場合に感光体全体への電圧集中によるリークが生じてしまう。
【0042】
電気抵抗調整層を形成するための樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、各材料の混合物を二軸混練機、ニーダー等で溶融混練することによって、容易に製造できる。電気抵抗調整層としての導電性支持体上への形成は、押出成形や射出成形等の手段で導電性支持体に上記半導電性樹脂組成物を直接被覆することによって、容易に行うことができ、このとき導電性支持体との接触面積も大きくなるので、本発明の構成も相俟って、導電性支持体と電気抵抗調整層との間に強固な結合が生じ、保持力も強くなる。
【0043】
ここで、電気抵抗調整層を射出成形で導電性支持体周面(側面)に設置することで、導電性支持体との接触面積も大きく、かつ、保持力も強くなる。
【0044】
空隙保持部材は通常、熱可塑性樹脂から構成し、例えば、射出成形または押し出し成形により別部材として作製した後、電気抵抗調整層に隣接するように配置し、導電性支持体と接着する。このとき、シアノアクリレート系接着剤等、いわゆる瞬間接着剤などの接着剤を塗布することで、長期間に亘ってに空隙保持部材の脱離を防止することができる。ここで導電性支持体がローラ形状である場合には空隙保持部材を導電性支持体に圧入するような寸法で形成することにより、より高い接着性が確保される。
【0045】
空隙保持部材は感光体基層とのショート電流の発生を防止するため、絶縁性材料からなることが好ましい。具体的には、体積固有抵抗が1013Ω・cm以上であることが好ましい。
【0046】
空隙保持部材の材料としては、絶縁性材料である他は特に限定するものではないが、感光体を傷つけない程度に軟らかく、また成形加工が容易であること等の理由から、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0047】
空隙保持部材の導電性支持体への接着後、空隙保持部材の表面と像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように、電気抵抗調整層表面と空隙保持部材表面とに段差(高低差)を設けるが、このときに、例えば仕上げ切削を行ってもよい。
【0048】
すなわち、熱可塑性樹脂は成形後、形状成形や冷却時に生じる内部応力の開放により、形状が微小に変化する傾向がある。そのため成形冷却後、成形温度以下で成形品を加熱し内部応力の開放を加速させ、内部応力が開放しきったところで仕上げ切削などの2次加工を実施してもよい。
【0049】
電気抵抗調整層表面と空隙保持部材表面と間の高低差は所定の値に保つ必要があり、好ましくは100μm以下である。この高低差が大きくなると導電性部材への印加電圧を高くする必要があり、その結果、像担持体(感光体)の電気的劣化や異常放電が発生し易くなるおそれが生じる。
【0050】
ここで、導電性支持体上に電気抵抗調整層を外気に露出する状態のまま使用すると、電気抵抗調整層にトナー等が固着して性能低下する場合がある。このような不具合は、電気抵抗調整層の表面に表面層を形成することで、予防することができる。
【0051】
このような表面層の抵抗値は電気抵抗調整層のそれよりも大きくなるように形成され、それによって感光体欠陥部への電圧集中、異常放電(リーク)を回避することができる。ただし、表面層の抵抗値を高くしすぎると帯電能力や転写能力が不足してしまうため、表面層と電気抵抗調整層との抵抗値の差を10Ωcm以下にすることが好ましい。
【0052】
表面層を形成する材料としては、製膜性が良好であるという点で熱可塑性樹脂組成物が好適である。樹脂材料としては、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が非粘着性に優れ、トナー固着防止の面で好ましい。これら熱可塑性樹脂は電気的に絶縁性であるため、各種導電材料を配合・分散することによって表面層の抵抗を調整する。
【0053】
表面層の電気抵抗調整層上への形成は、上記表面層構成材料を有機溶媒に分散して塗料を作製し、スプレー塗装、ディッピング等によってコーティングすることによって行うことができる。表面層の膜厚は、形成が容易で、かつ、電気抵抗調整層の働きを阻害しない範囲であることが必要で、10〜30μm程度が好ましい。
【0054】
しかしながら、上記表面層形成は万能な方法ではない。例えば表面層形成前に生じた問題に対しては当然無力である。例えば、得られた導電性支持体を成形温度以下で成形品を加熱し内部応力の開放を加速させ(エージング)、電気抵抗調整層と空隙保持部材とに段差を設け、電気抵抗調整層の上に表面層を塗布で形成する構成で帯電部材が形成されるが、製造途中では、エージングで乾ききった状態から、室温に放置されるとき、及び、切削で表層部が剥き出しになることで周囲環境の影響を受けることが考えられる。また、製品としての使用環境としては、温度は氷点下レベルからから30〜40℃、湿度も15%〜約70%の範囲での放置される場合も想定され、これらの場合、表面層が設けられていても長期間に亘る影響を完全には排除できない。
【0055】
すなわち、導電性支持体に被覆される電気抵抗調整層と空隙保持部材とは別材料から形成されるが、特に、電気抵抗調整層をABS樹脂と導電材とのコンパウンド材から形成したときには、その含水率が空隙保持部材に対して大きくなる。しかし、帯電部材として求められる帯電特性等を考えると吸水状態を変化させることは難しく、吸水の結果として生じる電気抵抗調整層の膨潤により、帯電部材と感光体との空隙精度の低下、帯電部材と非帯電部材の接触等による部材の磨耗劣化などの不具合が発生する可能性がある。
【0056】
しかし、本発明においては、電気抵抗調整層に上記のようにABS樹脂を用いた場合であっても、導電性支持体の電気抵抗調整層及び空隙保持部材が設けられる表面部分に、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理及びジルコニウム塩処理のいずれかが行われており、かつ、リン酸亜鉛処理及びリン酸鉄処理においては、これらの処理が行われる前にこれら処理が行われる導電性支持体表面に予め化学的粗面化処理が行われているので、このような不具合は予め防止されている。
【0057】
すなわち、化学的粗面化処理により、導電性支持体表面の表面自由エネルギーを増加されており、かつ、リン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理がおこなわれているので導電性支持体と電気抵抗調整層との間の接着性が帯電ローラなどの帯電部材として求められるレベルまで向上している。
【0058】
また、本発明においてジルコニウム塩処理を行った場合には、化学的粗面化処理なしでも、導電性支持体と電気抵抗調整層との間の接着性は帯電ローラなどの帯電部材として求められるレベルに達している。
【0059】
このため本発明に係る導電性支持体を用いた帯電部材では、使用環境下(特に高温高湿条件)において、各部材は吸湿したとしても導電性支持体と電気抵抗調整層(樹脂からなる層)とが強固に接着しているので、電気抵抗調整層の膨張が低減され、帯電部材として求められる空隙保持部材と電気抵抗調整層との間の高低差の精度が維持され、かつ、感光体と電気抵抗調整層との空隙も長期間に亘って高精度に維持される。
【0060】
図1は本発明に係る導電性支持体、及び、本発明に係る導電性支持体を用いてなる帯電部材の製造の各工程における表面状態を説明するモデル図(化学的粗面化処理(二段化学的粗面化処理)を行う場合)であり、また、図2は本発明に係る導電性支持体を用いてなる帯電部材(帯電ローラ)Aのモデル断面図である。
【0061】
未処理の導電性支持体1(図1(a)に対して、二段化学的粗面化処理を行う。二段化学的粗面化処理の第1段階として金属の表面に皮膜形成を伴う化学エッチング処理を行った状態を図1(b)に示す。図中1aが形成された皮膜である。
【0062】
次いで形成された皮膜1aを除去する皮膜除去処理を行い(図1(c))、次いで、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、及び、ジルコニウム塩処理から選ばれる処理を行い表面にリン酸亜鉛、リン酸鉄あるいはジルコニウム塩(これらの符号は1b)を形成させ(図1(d))、本発明に係る導電性支持体を得る。次いで、この導電性支持体側面の、上記化学的粗面化処理およびリン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、及び、ジルコニウム塩処理から選ばれる処理により処理された面に電気抵抗調整層2、空隙保持部材3(電気抵抗調整層2とは異なる材質からなる)及び保護層4を形成し、導電性支持体を用いてなる帯電ローラを得る(図1(e)及び図2参照)。
【0063】
図3は図2に示す帯電部材(帯電ローラ)が、その空隙保持部材3の表面が像担持体5に接する位置に配置されている状態を示すモデル図であり、帯電部材1は像担持体5に任意の圧力で当接されて配置される。また、空隙保持部材3は画像形成領域を外した非画像形成領域に形成されている。この状態で帯電部材Aに電圧を印加することにより、感光体4の帯電を行うことができる。
【0064】
本発明の導電性支持体は、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該電気抵抗調整層の両端部に隣接してそれぞれ空隙保持部材を備え、該空隙保持部材の表面と像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体として好適に用いることができるが、本発明の導電性支持体をローラ状の導電性支持体として有する帯電ローラは、例えば図4の電子写真方式の画像形成装置における帯電ローラ102に置き換えて用いることができ、そのとき、帯電部材としての使用開始の初期、及び、その後の長期間の使用においても、形状変動を小さくし、感光体ドラム(潜像担持体)との間に安定した高精度の空隙を維持することが可能であり、像担持体表面の均一帯電が可能で、かつ、耐久性の高い、長寿命な帯電ローラとして機能する。
【実施例】
【0065】
以下に本発明の導電性支持体の実施例について具体的に説明する。
【0066】
〈実施例1〉
導電性支持体としてステンレス(SUS304)からなるローラ(外径10mm)表面に二段化学的粗面化処理を行った。すなわち表面を、アルカリ脱脂剤にて清浄にした後、常温の10%塩酸中に10分間浸漬して酸洗した。次に、このローラを95℃に加温したシュウ酸鉄処理液中に10分間浸漬して、その表面に皮膜重量6.5g/mのシュウ酸鉄皮膜を形成した。このとき用いたシュウ酸鉄処理液は、硝酸を5g/l、フッ化水素酸を1.5g/l、およびシュウ酸を30g/lの濃度で添加した水溶液である。
【0067】
さらに、このシュウ酸鉄皮膜が形成されたステンレス製ローラを、常温の硝酸−フッ化水素酸混酸(硝酸13%、フッ化水素酸1.2%の水溶液)中に約5分間浸漬してシュウ酸鉄皮膜を剥離し、直ちに水洗した後、0.5%のγ−アミノプロピルトリエトキシシラン水溶液(エタノールを4.5%含有する)に30秒間浸漬し、100℃に設定した熱風乾燥炉にて10分間乾燥し、化学的粗面化処理を終了した。その後表面粗さ計により、上記化学的粗面化処理により処理面が粗面化したことを確認した。
【0068】
このような化学的粗面化処理を行った導電性支持体に対して、日本パーカライジング社のりん酸亜鉛処理剤、パルボンド3100を用い、その処理方法に従って、りん酸亜鉛処理を行い、本発明に係る、化学的粗面化処理と、その化学的粗面化処理後のリン酸亜鉛処理を施した導電性支持体Aを得た。
【0069】
〈実施例2〉
上記導電性支持体A同様に、ただし、日本パーカライジング社のりん酸鉄処理剤、バルボス525Tを用い、その処理方法に従って、りん酸鉄処理を行い、本発明に係る、化学的粗面化処理と、その化学的粗面化処理後のリン酸鉄処理を施した導電性支持体Bを得た。
【0070】
〈実施例3〉
上記同様に酸化スケールを除去した導電性支持体に対して、日本パーカライジング社のジルコニウム塩処理剤、アロジン404を用い、その処理方法に従って、りん酸鉄処理を行い、本発明に係るジルコニウム塩処理を施した導電性支持体Cを得た。
【0071】
〈比較例1〉
実施例1と同様に、ただし、化学的粗面化処理を行うことなしにリン酸亜鉛処理を行った導電性支持体Dを準備した。
【0072】
〈比較例2〉
実施例1で用いた導電性支持体に対して、その電気抵抗調整層及び空隙保持部材を形成・接着する部分にやすりをかけて、上記実施例における化学的粗面化処理と同等レベルに粗面化させた後水系洗浄剤で洗浄し、導電性支持体Eとした。
【0073】
〈比較例3〉
実施例1で用いた導電性支持体に対して、その電気抵抗調整層及び空隙保持部材を形成・接着する部分にサンドブラスト処理を行って、上記実施例における化学的粗面化処理と同等レベルに粗面化させたのち、水系洗浄剤により洗浄を行った。その後、実施例1同様にしてりん酸亜鉛処理を行い、導電性支持体Fを準備した。
【0074】
<帯電ローラの作製>
上記導電性支持体A〜Fを用いて、それぞれ帯電ローラA〜Fを作製した。
【0075】
すなわち、上記導電性支持体A〜Fの処理面に電気抵抗調整層を形成した。すなわち、ABS樹脂(デンカABS GR−3000、電気化学工業製)50重量部、及び、ポリエーテルエステルアミド(IRGASTAT P18、チバスペシャリティケミカルズ社製)50重量部からなるベース樹脂100重量部に対して、ポリカーボネート−グリシジルメタクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(モディパーC L440−G、日本油脂(株)製)を4.5重量部を混合し、溶融混練して調整した電気抵抗調整層用樹脂組成物を、上記導電性支持体A〜Fの処理面の中央部上に射出成形(インサート成形)し、電気抵抗調整層を形成した。
【0076】
次いで、この電気抵抗調整層の両端部に、予め射出成形によって形成した空隙保持部材を、接着剤にて導電性支持体A〜Fのそれぞれの処理面と、電気抵抗調整層の端部とに接着剤(スリーボンド瞬間接着剤1781)によって接着させた。
【0077】
次いで、成形時の歪み除去を目的として、これらを1時間、120℃に設定した定温庫に入れてアニールを行った。さらにその後、切削加工によって、空隙保持部の外径(最大径)を12.7mm、電気抵抗調整部(電気抵抗調整層)の外径を12.65mmとなるように仕上げを行った。
【0078】
次いで、切削加工を施した電気抵抗調整部の表面に、アクリルシリコーン樹脂(3000VH−P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤(川上塗料製)、及び、カーボンブラック(全固形分に対して30重量%)からなる混合物をスプレーコーティングすることにより、膜厚約10μmの表面層を形成し、最後に、80℃、1時間の加熱処理により、表面層の塗料樹脂を加熱硬化させて、帯電ローラA〜Fを得た。これら帯電ローラA〜Fは、いずれも導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該電気抵抗調整層の両端部に隣接してそれぞれ空隙保持部材を備え、該空隙保持部材の表面と像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材である。
【0079】
<帯電ローラの評価>
(高温多湿テスト)
上記帯電ローラA〜Fを30℃、RH90%の環境下で24時間放置した。この高温高湿放置テストの前後(放置前及び放置後)の電気抵抗調整層外径と空隙保持部材外径との差を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1より本発明に係る導電支持材を用いた帯電ローラでは高温高湿条件下に放置されたときにも、電気抵抗調整層外径と空隙保持部材外径との差が約20μmであることが判るが、この値は画像形成装置の帯電ローラとして充分に用いることができる高低差である。
【0082】
(引き抜き力テスト)
電気抵抗調整層及び空隙保持部材と導電性支持体との間の接着力評価として、上記の高温高湿度(30℃、90%)環境放置後に引き抜き力を測定した。具体的には空隙保持部材をフォースゲージで引張り空隙保持部材がはずれる時の力を引き抜き力とした。
【0083】
その結果を表1に併せて示す。実施例1、2及び3に係るにおいては20kg以上の値(画像形成装置の帯電ローラとして充分に用いることができる値)を示たが、比較例においては約1/3程度の引き抜き力であり、画像形成装置の帯電ローラとしては用いることがでないレベルであった。
【0084】
(耐久性)
上記帯電ローラA〜Cと同様に作製した帯電ローラを図4にモデル的に示す電子写真方式の画像形成装置の帯電ローラ102に置き換えて使用し、それらの耐久性を調べた。その結果、いずれも、長期間の使用において、使用開始直後同様に、形状変動が小さく、感光体ドラム(潜像担持体)との間に安定した高精度の空隙を維持することが可能であり、像担持体表面の均一帯電が可能であったため、鮮鋭な画像の形成が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は導電性支持体と電気抵抗調整層との接着性が向上しているため、長期間の使用に耐えられ、また高温・高湿での使用条件下であっても、導電性支持体と電気抵抗調整層との接着の信頼性を高めることができる。また、化学的粗面化処理により粗面化されているために、サンドブラストなどの物理的な粗面化を行った場合に問題となるブラストメディア残存による接着性低下や帯電不良等のおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明に係る導電性支持体、及び、本発明に係る導電性支持体を用いてなる帯電部材の製造の各工程における表面状態を説明するモデル図(二段化学的粗面化処理を行う場合)である。(a)未処理の導電性支持体を示す図である。(b)金属の表面に皮膜形成を伴う化学エッチング処理を行った状態を示す図である。(c)形成された皮膜1aを除去する皮膜除去処理を行った状態を示す図である。(d)リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、及び、ジルコニウム塩処理から選ばれる処理を行い、表面にリン酸亜鉛、リン酸鉄及びジルコニウム塩のいずれかを形成させた状態を示す図である。(e)電気抵抗調整層を形成した状態を示す図である。
【図2】本発明に係る導電性支持体を用いてなる帯電部材(帯電ローラ)Aのモデル断面図である。
【図3】帯電ローラの空隙保持部材3の表面が像担持体5に接する位置に配置されている状態を示すモデル図である。
【図4】電子写真方式の画像形成装置の概略図である。
【図5】従来の帯電ローラでの問題を説明するためのモデル説明図である。
【図6】本発明の解決手段に至る検討で解析された帯電ローラでの問題を説明するためのモデル説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 導電性支持体
1a 形成された皮膜
1b リン酸亜鉛、リン酸鉄及びジルコニウム塩のいずれか
2 電気抵抗調整層
3 空隙保持部材
4 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、
該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、
少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、化学的粗面化処理が施され、次いでリン酸亜鉛処理あるいはリン酸鉄処理が施されていることを特徴とする導電性支持体。
【請求項2】
像担持体付近に配置されて用いられる帯電部材用の導電性支持体であって、
該帯電部材が、導電性支持体、該導電性支持体の表面に設置される電気抵抗調整層、及び、該導電性支持体の表面に設置され、かつ、該電気抵抗調整層の両端部にそれぞれ隣接する2つの空隙保持部材を備え、さらに該空隙保持部材の表面と上記像担持体とが当接したときに該像担持体の表面と前記電気抵抗調整層との間に一定間隔の空隙が形成されるように該空隙保持部材の表面と前記電気抵抗調整層の表面との間に高低差が設けられている帯電部材用の導電性支持体において、
少なくとも電気抵抗調整層が設けられる上記導電性支持体の表面部分に、ジルコニウム塩処理が施されていることを特徴とする導電性支持体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性支持体を有することを特徴とする帯電部材。
【請求項4】
請求項3に記載の帯電部材が、該帯電部材の空隙保持部材の表面が像担持体に接する位置に配置されていることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項4に記載のプロセスカートリッジを有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−259513(P2006−259513A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79415(P2005−79415)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】