説明

導電性材料、及び、該導電性材料を含有する抵抗体ペースト、抵抗体、薄膜。

【課題】本発明は、電気抵抗率が低く、TCR特性に優れ、貴金属を含有していない導電性材料及びそれを含有する抵抗体ペースト、抵抗体、薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をPrで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料であって、La4-XPrBaCu13(0.05≦X≦0.60)で表されることを特徴とする導電性材料及び該導電材料を含有する抵抗体ペースト、抵抗体、薄膜を提供する。
また、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をCoで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料であって、LaBaCu5-YCo13(0.05≦Y≦0.35)で表されることを特徴とする導電性材料及び該導電材料を含有する抵抗体ペースト、抵抗体、薄膜を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な導電性材料、及び、該導電性材料を含有する抵抗体ペースト、抵抗体、薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗体ペーストおよび、これを用いた抵抗体は一般に、導電性材料、有機ビヒクル、さらには、抵抗値の調整、結合性を付与する為のガラス材料を主な成分として含有している。そして、導電性材料としては、従来、白金(Pt)、酸化ルテニウム(RuO)等の貴金属を含む材料が用いられていた(例えば、特許文献1)。しかしながら、貴金属は高価であり、また、その資源量は限られていることから、代替材料が求められていた。
【0003】
導電性材料の特性としては、高温大気中でも安定であり、電気抵抗率が低く、抵抗温度係数(TCR)が小さいことが求められている。特に、電気抵抗率が1mΩcm程度以下と低く、かつ、抵抗温度係数が小さい材料が求められている。
【0004】
しかしながら、貴金属を含有しない材料で上記条件を同時に満たす材料は発見されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、電気抵抗率(比抵抗)が低く、かつ、TCR(抵抗温度係数)特性に優れ、貴金属を含有していない導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をPrで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料であって、
La4-XPrBaCu13(0.05≦X≦0.60)で表されることを特徴とする導電性材料を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、貴金属成分を使用していないにも関わらず、電気抵抗率が低く、TCR特性に優れた導電性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1において得られたLaBaCu13及びシミュレーションにより得られたLaBaCu13のX線回折パターン
【図2】本発明の実施例1において得られたLa3.6Pr0.4BaCu13のX線回折パターン
【図3】本発明の実施例1において得られたLa4-XPrBaCu13の電気抵抗率の温度依存性
【図4】本発明の実施例1において得られたLa4-XPrBaCu13の200Kにおける電気抵抗率の組成依存性
【図5】本発明の実施例1において得られたLa4-XPrBaCu13の500Kにおける電気抵抗率の組成依存性
【図6】本発明の実施例1において得られたLa4-XPrBaCu13の200K〜500Kにおける抵抗温度係数の組成依存性
【図7】本発明の実施例2において得られたLaBaCu4.75Co0.2513のX線回折パターン
【図8】本発明の実施例2において得られたLaBaCu5−YCo13の電気抵抗率の温度依存性
【図9】本発明の実施例2において得られたLaBaCu5−YCo13の200Kにおける電気抵抗率の組成依存性
【図10】本発明の実施例2において得られたLaBaCu5−YCo13の500Kにおける電気抵抗率の組成依存性
【図11】本発明の実施例2において得られたLaBaCu5−YCo13の200K〜500Kにおける抵抗温度係数の組成依存性
【図12】本発明の実施例3において参照試料として得られたLaBaCu13の基板による電気伝導率特性の変化
【図13】本発明の実施例3において得られたLaBaCu5−YCo13の薄膜試料についての電気伝導率の温度依存性
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施形態]
ペロブスカイト酸化物はその結晶構造上、電気伝導の異方性が小さくなることが期待でき、酸化物であることから高温大気中でも安定である。このため、抵抗体等の電子部品を用途とする導電性材料として好ましく使用することができる。
【0010】
中でも、本発明で母体材料(基本組成)として用いているLaBaCu13はその構造中に規則的な酸素欠陥を有しており、高い導電性を有することも確認されている(非特許文献1)。係る物質については従来から各種検討がなされており、例えばCuサイトの一部をCoで置換した物質が報告されているが(非特許文献2)、Pr又はCo置換によって電気抵抗率が低減することは報告されていなかった。
【0011】
本発明の発明者らは、ペロブスカイト型構造を有するLaBaCu13の一部を所定量のPrまたはCoで置換することにより、電気抵抗率(比抵抗)が低く、TCR特性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
まず、本実施の形態においては、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をPrで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料について説明する。すなわち、これは、La4-XPrBaCu13(0.05≦X≦0.60)で表される導電性材料であって、母体材料(基本組成)であるLaBaCu13よりも電気抵抗率が低減されたものである。なお、実際の化合物では微量の酸素が欠損したり、過剰に存在する場合があるため、例えば酸素の組成比が、12.65、13.35のように13から若干ずれることがある。このため、厳密には上記化学式はLa4-XPrBaCu13+δと表わされるが、本発明では便宜上、La4-XPrBaCu13と表わすこととし、このように微量の酸素欠損、酸素過剰を生じている場合も包含するものとする。なお、本明細書中の他のペロブスカイト酸化物についても同様である。
【0013】
La4-XPrBaCu13の製造方法については特に限定されるものではなく、例えば、上記化合物を構成する元素を含有する化合物を混合、焼成することによって得られる。
【0014】
具体的には、例えば、原料としてLa、BaCO、CuO、Prを用い、これらを目的とする生成物の組成比になるように混合、焼成することによって得ることができる。
【0015】
焼成条件等は原料の種類等に応じて選択されるものであり、限定されるものではないが、例えば、800℃〜1000℃程度の温度域で焼成することにより得られる。焼成工程は、仮焼工程、本焼き工程に分けて行うことも可能である。また、生成物が酸化物であることから、大気雰囲気または酸素リッチな環境下で焼成することができる。
【0016】
ここで、Prの添加量としては、La4-XPrBaCu13で表わされる式中、0.05≦X≦0.6を満たすように原料に添加すると、無添加の場合と比較して電気抵抗率、抵抗温度係数共に、Pr無添加の場合の3分の2程度以下となるため好ましい。特に、0.05≦X≦0.3になるようにPrを添加すると、電気抵抗率、抵抗温度係数共に、Pr無添加の場合の半分程度以下となるため、より好ましい。
【0017】
そして、抵抗体等の電子部品を用途とする導電性材料として用いるため、500Kにおける電気抵抗率が、1.2mΩcm以下であることが好ましく、1.0mΩcm以下であることがより好ましい。
【0018】
また、抵抗体等の電子部品で使用するためには、実使用温度域における温度変化による抵抗値の変化が小さいことが好ましい。このため、200K〜500Kの温度域における抵抗温度係数が2.5×10−3mΩcm/K以下であることが好ましく、2.0×10−3mΩcm/K以下であることがより好ましい。
【0019】
なお、抵抗温度係数αは、500K、200Kにおける電気抵抗率の差を温度差である300で割ったものである。
【0020】
すなわち、500K、200Kにおける電気抵抗率をそれぞれ、ρ(500K)、ρ(200K)とした場合、α={ρ(500K)−ρ(200K)}/(500−200)の式により算出されたものである。
【0021】
本実施の形態で説明したLa4-XPrBaCu13は電気抵抗率が低く、TCR特性に優れることから、導電性材料として各種電子部品等の用途で好ましく用いることができる。具体的には、上記導電性材料を含有する抵抗体ペースト、または、上記導電性材料を含有する抵抗体(厚膜抵抗体)として好ましく使用することができる。
【0022】
また、スパッタ法や、CVD法等公知の薄膜製造手段により、上記導電性材料を含有する薄膜を製造することもでき、薄膜も電子部品等の用途で好ましく使用することができる。
[第2の実施形態]
本実施の形態では、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をCoで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料について説明する。すなわちこれは、LaBaCu5-YCo13(0.05≦Y≦0.35)で表される導電性材料であって、母体材料(基本組成)であるLaBaCu13よりも電気抵抗率が低減された導電性材料である。なお、第1の実施形態で説明したように、実際の化合物では微量の酸素が欠陥したり、過剰に存在する場合があるが、上記式中にはこのような場合も包含するものである。
【0023】
LaBaCu5−YCo13の製造方法については、第1の実施形態で説明した様に、特に限定されるものではなく、例えば、係る化合物を構成する元素を含有する化合物を混合、焼成することによって得られる。具体例を挙げると原料としてLa、BaCO、CuO、CoOを用い、これらを目的とする生成物の組成比になるように混合、焼成することによって得ることができる。焼成条件等についても、第1の実施形態で説明したように限定されるものではなく、原料の種類等により適宜選択することができる。
【0024】
ここで、Coの添加量としては、LaBaCu5−YCo13で表わされる式中、0.05≦Y≦0.35を満たすように添加すると、500Kにおける電気抵抗率、抵抗温度係数共に、Co無添加の場合よりも小さくなるため好ましい。特に、0.05≦Y≦0.25になるようにCoを添加すると、実際の使用温度である、200K〜500Kの間、電気抵抗率が無添加の場合よりも低くなるためより好ましい。
【0025】
そして、抵抗体、電子部品等を用途とする導電性材料として用いるため、500Kにおける電気抵抗率は、1.2mΩcm以下であることが好ましく、1.0mΩcm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、抵抗体、電子部品等で使用するためには、実使用温度域における温度変化による電気抵抗率の変化が小さいことが好ましい。このため、200K〜500Kにおける抵抗温度係数が2.0×10−3mΩcm/K以下であることが好ましく、1.5×10−3mΩcm/K以下であることがより好ましい。
【0027】
本実施の形態で説明したLaBaCu5−YCo13は電気抵抗率が低く、TCR特性に優れることから、導電性材料として各種電子部品等の用途で用いることができる。具体的には、上記導電性材料を含有する抵抗体ペースト、上記導電性材料を含有する抵抗体(厚膜抵抗体)として好ましく使用することができる。また、スパッタ法やCVD法などにより、上記導電性材料を含有する薄膜を製造することもでき、薄膜も電子部品等の用途で好ましく使用することができる。
[第3の実施形態]
本実施の形態では、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料を含有する薄膜について説明する。
【0028】
第1の実施形態、第2の実施形態で説明してきた、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料は、電気抵抗率が低く、TCR特性に優れることから、各種電子部品等の用途で好ましく使用することができる。電子部品等の用途で用いる際の一つの形態として、これらの導電性材料を含む薄膜とする方法が挙げられる。
【0029】
LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料を薄膜化する方法としては特に限定されるものではなく、スパッタ法、CVD法等、各種製膜(成膜)方法を採用することができる。
【0030】
スパッタ法を例に薄膜を製造する方法について説明すると、スパッタのターゲットとして、例えば母物質であるLaBaCu13のターゲットと、添加成分である酸化プラセオジムまたは酸化コバルトのターゲットとを用いて製膜することができる。具体的には、例えば、母物質である、LaBaCu13のターゲット上に、添加成分のターゲットを配置したものをターゲットとして用い、Ar放電スパッタによって薄膜を形成することができる。
【0031】
用いる基板としては特に限定されるものではなく、例えば、石英基板、SrTiO単結晶基板、表面にSiOをコーティングしたSi基板等各種基板を用いることができる。中でも、得られる薄膜と格子整合に優れることから石英基板、SrTiO単結晶基板が好ましく用いられる。
【0032】
製膜工程後、得られた薄膜について熱処理を行うことが好ましい。これは、蒸着直後は薄膜内の結晶性が悪く、狙った組成が得られていない場合があるため、熱処理により目的とした組成とするためである。熱処理条件については特に限定されるものではなく、得られた薄膜の組成等により適宜選択されるものであるが、目的生成物の分解温度以下で、例えば500〜800℃程度の温度範囲で行うことができる。より具体的には、例えば、600℃で4時間熱処理を行う条件、600℃で4時間の熱処理の後、さらに800℃で4時間熱処理を行う条件などが挙げられる。
【0033】
以上のような方法により得られたLaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料を含有する薄膜は、電気抵抗率が低く、TCR特性にも優れるため、各種電子部品等の用途において、好ましく使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施例では、La4-XPrBaCu13で表わされる導電性材料の調製およびその評価を行ったので以下に説明する。
【0035】
出発原料として、La、BaCO、CuOおよびPrを用いた。これらの出発原料を、目的とする組成比になるように秤量、混合し、空気中で900℃、24時間、仮焼きを行った。仮焼後、得られた生成物を粉砕混合し、さらにこれをペレットに成型後、空気中で1000℃、48時間、本焼きを行った。本実施例では、試料の組成がLa4-XPrBaCu13で表わされる式中、X=0.1、0.2、0.4、0.6となるように、原料を秤量、混合して上記条件により作製した。
【0036】
また、比較のために、La、BaCO、CuOを出発原料として、同様の条件で本発明の母体材料(母物質)であるLaBaCu13の合成も行った。
【0037】
まず、参照試料として作製したLaBaCu13のX線回折パターンを図1に示す。なお、図1には、LaBaCu13について、その構造から計算(シミュレーション)したX線回折パターンもあわせて示す。
【0038】
これによると、測定したX線回折パターンは計算によるものとほぼ一致しており、上記条件により目的の生成物であるLaBaCu13が得られることが分かる。
【0039】
次に図2に、La3.6Pr0.4BaCu13の、つまり、上記式でX=0.4の試料についてX線回折パターンを示す。これによると、図1に示したLaBaCu13とほぼ同じ位置に回折線を有しており、他のピークはほとんど見られなかったことから、ペロブスカイト型結晶構造の単一相であることが分かる。従って、この試料は、Laサイトの一部がPrによって置換されているものといえる。得られたX線回折パターンから格子定数を求めたところ、置換していない材料(LaBaCu13)と比較して、a軸、c軸方向共に減少していた。また、その結果、体積Vも減少していた。
【0040】
得られた試料について電気特性の評価を行ったので、その結果を図3に示す。測定は四端子法により行い、0Kから600K程度まで評価を行った。また、比較のため、X=0の材料、すなわち、Pr添加を行っていない母物質であるLaBaCu13の結果もあわせて示す。
【0041】
さらに、Prの添加効果を確認するため、図4〜図6に、図3のデータから作成したPr添加量変化に伴う各パラメータの変化を示す。図4はPrの添加量、すなわち、La4-XPrBaCu13で表わされる式中のXをX軸にとり、Pr添加量変化に伴う200Kにおける電気抵抗率変化を示している。図5には、同様にX軸にPr添加量をとり、Pr添加量変化に伴う500Kにおける電気抵抗率の変化を示している。そして、図6には、同様にX軸にPrの添加量をとり、抵抗温度係数の変化について示している。
【0042】
図3〜5に示すように、Pr添加を行うことにより、La4-XPrBaCu13で表わされる本酸化物の電気抵抗率(比抵抗)は極低温から室温までの温度領域において、X=0である母物質よりも3割程度減少していることが分かる。
【0043】
例えば、500Kにおける電気抵抗率は、Prを添加していない母物質の場合、1.6mΩcm程度であるのに対して、今回検討を行った試料はいずれも、1.2mΩcm以下となっており大幅に減少している。さらに、添加量によっては、1.0mΩcm以下となっている試料も確認できた。
【0044】
次に、図6に示すように今回検討した試料はいずれも、Pr添加によって抵抗温度係数が2.5×10−3mΩcm/K以下となっており、X=0である母物質よりも3割程度低下していた。また、添加量によっては、2.0×10−3mΩcm/K以下となっている場合もあり、大幅な低下が確認された。このことから、Pr添加が抵抗温度係数の低下、すなわちTCR特性の改善に効果を有することも認められる。
【0045】
以上のように、PrによりLaBaCu13の一部を置換することによって、電気抵抗率が低減し、TCR特性が向上することを確認することができた。
[実施例2]
本実施例では、LaBaCu5−YCo13で表わされる導電性材料の調製およびその評価を行ったので以下に説明する。
【0046】
出発原料として、La、BaCO、CuOおよびCoOを用いた。これらの出発原料を、目的とする組成比になるように秤量、混合し、空気中で900℃、24時間、仮焼きを行った。仮焼後、得られた生成物を粉砕混合し、さらにこれをペレットに成型後、空気中で1000℃、48時間、本焼きを行った。本実施例では、試料の組成がLaBaCu5−YCo13で表わされる式中、Y=0.05、0.1、0.15、0.25、0.35となるように、原料を秤量、混合して上記条件により作製した。
【0047】
また、実施例1の場合と同様に、比較のために、La、BaCO、CuOを出発原料として、同様の条件で本発明の母体材料(母物質)であるLaBaCu13の合成も行った。
【0048】
図7に、LaBaCu4.75Co0.2513の、つまり、上記式でY=0.25の試料についてX線回折パターンを示す。これによると、図1に示したLaBaCu13とほぼ同じ位置に回折線を有しており、他のピークはほとんど見られなかったことから、ペロブスカイト型結晶構造の単一相であることが分かる。従って、この試料は、Cuサイトの一部がCoによって置換されているものと推測される。得られたX線回折パターンから格子定数を求めたところ、置換していない材料(LaBaCu13)と比較して、a軸方向は減少し、c軸方向に関しては増加していた。また、その結果、体積Vには変化が見られなかった。
【0049】
得られた試料について電気特性の評価を行ったので、その結果を図8に示す。実施例1の場合と同様に、四端子法により測定、評価を行った。また、比較のため、Y=0の材料、すなわち、Pr添加を行っていない母物質であるLaBaCu13の結果もあわせて示す。
【0050】
また、Coの添加効果を確認するため、図9に横軸にCoの添加量、すなわち、LaBaCu5−YCo13で表わされる式中のYをX軸にとり、各組成における200Kにおける電気抵抗率を示す。また、同様にCoの添加量をX軸にとり、図10には各組成における500Kにおける電気抵抗率を、図11には図8の結果から算出した抵抗温度係数についてそれぞれ示す。
【0051】
図8〜11に示すように、Co添加を行うことにより、電気抵抗率(比抵抗)は極低温では一部、Coを添加していない母物質よりも増加しているケースがあるものの、いずれの試料においても、温度域によっては母物質よりも電気抵抗率が低下していた。
【0052】
例えば、500Kにおける電気抵抗率は、Coを添加していない母物質は1.6mΩcm程度であるのに対して、今回検討を行った試料は概ね1.2mΩcm以下となっており大幅に低下が確認できた。さらに、添加量によっては、1.0mΩcm以下となっている試料も確認できた。
【0053】
次に、図11に示すように今回検討した試料はいずれも、Pr添加によって抵抗温度係数が2.0×10−3mΩcm/K以下、さらには1.5×10−3mΩcm/K以下となっており、大幅な低下が確認された。このことから、Co添加が抵抗温度係数、すなわち電気抵抗率の温度依存性を減らす効果を有することも認められる。
【0054】
以上のように、CoによりLaBaCu13の一部を置換することによって、電気抵抗率が低減し、TCR特性が向上することを確認することができた。
[実施例3]
本実施例では、LaBaCu5−YCo13で表わされる導電性材料を含有する薄膜の調製およびその評価を行ったので、以下に説明する。
【0055】
本実施例においては、スパッタ法によって目的とする組成の薄膜を調製した。
【0056】
ターゲットとしては、基本組成がLaBaCu13であるペロブスカイト酸化物からなる直径が100mmのスパッタターゲット上に、直径11mmの酸化コバルト(Co)のペレットを置換量に応じた数だけ載せたものを用いた。例えば、酸化コバルトのペレットを1個用いてスパッタを行うと、計算上CoはCuサイトの2.5%置換することとなり、LaBaCu4.875Co0.12513が得られる。本実施例では、ペレットの数を1個の場合(LaBaCu4.875Co0.12513)と2個の場合(LaBaCu4.75Co0.2513)について行った。なお、酸化コバルトのペレットは4つに切断して、それらが略等間隔になるようにLaBaCu13からなるスパッタターゲット上に配置してスパッタ処理に供した。
【0057】
スパッタ処理の際の条件としては、基板温度は350℃として、Arガス放電によりスパッタを行い、膜厚が500nm程度になるように製膜(成膜)した。
【0058】
そして、スパッタ蒸着後、大気中600℃で4時間の熱処理を行い、その後さらに大気中800℃で4時間熱処理を行うことにより目的とする薄膜試料を得た。
【0059】
まず、基板の違いによる薄膜の電気伝導度(導電率)への影響を調べるため、参照例として、Co添加を行っていない試料、すなわち、LaBaCu13の薄膜を石英基板及びSrTiO単結晶基板上にそれぞれ製膜し、これを評価した。基板温度、熱処理条件等の条件は、上記したものと同じ条件で行った。得られた試料について、電気伝導率(導電率)の温度依存性を四探針法で評価した。結果を図12に示す。
【0060】
図12によると、石英基板を用いた場合、室温付近の低温領域で電気伝導率が低く、SrTiO単結晶基板を用いた場合に比べて、温度による電気伝導率の変化が大きいことが分かる。これは、得られた薄膜の配向性が悪かったためだと推認される。
【0061】
これに対して、SrTiO単結晶基板を用いた場合、結晶の配向性がよく、温度による電気伝導率の変化が少なかった。
【0062】
以上の結果から、本実施例では基板としてSrTiO単結晶基板を用いることとした。
【0063】
図13に、SrTiO単結晶基板を用いて、上述した条件により製膜、熱処理されたLaBaCu5−YCo13(Y=0.125またはY=0.25)の試料について四探針法により電気伝導率およびゼーベック係数の温度依存性を評価した結果を示す。なお、図13中には、比較のために同様の条件で成膜したLaBaCu13の試料、すなわち、Coによる置換を行っていない試料の電気伝導率の温度依存性についてもあわせて示す。
【0064】
これによれば、Co置換することによって、電気伝導率が大幅に改善していることがわかる。また、温度変化による電気伝導率の変化も小さく、測定した温度域においては安定した性能を有することが分かる。
【0065】
以上のように、LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部を置換した導電性材料は、実施例1、2に示したバルク試料の場合と同様に、薄膜試料についても、電気伝導率特性、TCR特性に優れていることがわかる。このため、電子部品等の用途において好ましく使用することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0066】
【特許文献1】特開平10−335109号公報
【非特許文献】
【0067】
【非特許文献1】Mat.Res.Bull.20(1985)667−671
【非特許文献2】J.Mater.Chem.8(1998)2695−2700

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をPrで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料であって、
La4-XPrBaCu13(0.05≦X≦0.60)で表されることを特徴とする導電性材料。
【請求項2】
500Kにおける電気抵抗率が1.2mΩcm以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性材料。
【請求項3】
200K〜500Kにおける抵抗温度係数が、2.5×10−3mΩcm/K以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性材料。
【請求項4】
LaBaCu13で表わされるペロブスカイト酸化物の一部をCoで置換することにより電気抵抗率を低減した導電性材料であって、
LaBaCu5-YCo13(0.05≦Y≦0.35)で表されることを特徴とする導電性材料。
【請求項5】
500Kにおける電気抵抗率が1.2mΩcm以下であることを特徴とする請求項4に記載の導電性材料。
【請求項6】
200K〜500Kにおける抵抗温度係数が、2.0×10-3mΩ/K以下である請求項4または5に記載の導電性材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の導電性材料を含有することを特徴とする抵抗体ペースト。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の導電性材料を含有することを特徴とする抵抗体。
【請求項9】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の導電性材料を含有することを特徴とする薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−51063(P2013−51063A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187264(P2011−187264)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】