説明

導電性樹脂組成物

【課題】 成形品からの鉄イオンの溶出量が少なく、燃料電池セパレータ等に好適に用いられる導電性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂100重量部に対し黒鉛を200〜600重量部添加した組成物であって、黒鉛の平均粒径が150〜500μmであり、且つ該組成物を成形した成形品からの鉄イオンの溶出量が100ppb以下である導電性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品からの鉄イオンの溶出量が少なく、燃料電池セパレータ等に好適に用いられる導電性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで熱可塑性樹脂はその絶縁性を特徴とし、多くの絶縁性を要求される分野で採用されてきている。しかし、近年、金属代替部品や導電性を必要とされる分野で、その簡便な成形性を利用し、絶縁性である熱可塑性樹脂に導電性のフィラーを添加し導電性を付与した樹脂組成物が用いられるようになってきている。
【0003】
一方、燃料電池セパレータのように、金属の溶出により電解質膜の性能低下が懸念される分野では金属の使用ができず、金属イオンの溶出量が少ない材料が求められている。
【0004】
このような導電材料の要求に対し、これまでポリフェニレンサルファイド樹脂や液晶性ポリマーに対し黒鉛を添加し、導電性を付与する方法が提案されているが、この方法では導電性は向上するものの、金属の溶出に関しては検討されておらず、上記の様な金属の低溶出性が必要とされる分野では必ずしも充分なものではなかった(特許文献1〜2)。
【特許文献1】特開2003−100313号公報
【特許文献2】特開2000−17179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、成形品からの金属イオン(鉄イオン)の溶出量が少なく、燃料電池セパレータ等に好適に用いられる導電性に優れた樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂に特定粒径で特定純度の黒鉛を添加することにより、導電性に優れ、鉄イオンの溶出量が極めて少ない成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、熱可塑性樹脂100重量部に対し黒鉛を200〜600重量部添加した組成物であって、黒鉛の平均粒径が150〜500μmであり、且つ該組成物を成形した成形品からの鉄イオンの溶出量が100ppb以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いる熱可塑性樹脂は、本発明の目的である導電性と鉄イオンの溶出性に関して悪化させないものであれば如何なる熱可塑性樹脂でも使用することが可能であるが、成形性、高フィラー充填性、耐熱性、耐薬品性、低溶出性の点からポリアリーレンサルファイド(以下PASと略す場合がある)樹脂、液晶性ポリマー(以下LCPと略す場合がある)が好ましい。
【0009】
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す場合がある)樹脂に代表されるPAS樹脂とは、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で主として構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。この場合、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰返し単位を用いたポリマー、すなわちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。
【0010】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするものが特に好ましく用いられる。また、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、流動性(成形性)、機械的特性等の物性上の点から適当である。
【0011】
また、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できるが、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させさせるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造又は架橋構造を形成させたポリマーも使用できるし、比較的低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素又は酸化剤の存在下、高温で加熱して酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマー、あるいはこれらの混合物も使用可能である。
【0012】
また、本発明で用いるPAS樹脂は、前記直鎖状PAS樹脂(310℃・ズリ速度1200sec-1における粘度が10〜300Pa・s)を主体とし、その一部(1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%)が、比較的高粘度(300〜3000Pa・s、好ましくは500〜2000Pa・s)の分岐又は架橋PAS樹脂との混合系でも構わない。また、本発明に用いるPAS樹脂は、重合後、酸洗浄、熱水洗浄、有機溶剤洗浄(或いはこれらの組合せ)等を行って副生不純物等を除去精製したものが好ましい。
【0013】
次に液晶性ポリマーとは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0014】
前記のような液晶性ポリマーとしては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0015】
本発明に適用できる液晶性ポリマーとしての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0016】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0017】
本発明に適用できる前記液晶性ポリマーを構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
本発明が適用される特に好ましい液晶性ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸を主構成単位成分とする芳香族ポリエステルである。
【0020】
次に本発明で用いる黒鉛とは、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛等のいかなる種類の黒鉛でも使用可能であるが、本発明の目的を達成するためには、黒鉛中の鉄成分含有量が500ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましい。この点から、人造黒鉛、膨張黒鉛が好ましく、押出性の観点から特に好ましくは人造黒鉛である。
【0021】
また、本発明においては黒鉛の平均粒径も重要であり、平均粒径が小さ過ぎると黒鉛表面への鉄成分の露出が多くなり、鉄イオンの溶出量が増えるため好ましくない。また、逆に平均粒径が大きくなると鉄イオンの溶出量は減るが、機械物性の低下、射出成形時のゲート詰まり等の成形上の問題が発生するため好ましくない。そのため、本発明に用いる黒鉛の平均粒径150〜500μmであることが必要であり、好ましくは200〜300μmである。
【0022】
また、黒鉛の添加量も重要であり、少な過ぎると鉄イオンの溶出量は減るが導電性が著しく低下するという問題が発生し、逆に多すぎると押出性の悪化、成形性の低下、機械物性の低下が起こる。そのため、黒鉛の添加量としては、熱可塑性樹脂100重量部に対し、200〜600重量部、好ましくは250〜450重量部、更に好ましくは300〜400重量部である。
【0023】
本発明における成形品からの鉄イオンの溶出量とは、上記組成物を成形した80×10×4mmのISO標準試験片を1N硫酸60mlに浸漬し、80℃で24時間加熱し、常温で18時間放置した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法にて定量を行った値である。
【0024】
また、黒鉛中の鉄成分含有量とは、黒鉛粉末2gを空気存在下にて850℃で4時間加熱し灰化し、灰分として残った赤褐色の粉末(酸化鉄(III))の重量を測り、鉄に換算した重量から鉄成分含有量を求めた値である。
【0025】
また、本発明に用いる導電性樹脂組成物は、本発明の目的範囲内で、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能改良のため、無機又は有機充填剤を配合したものでもよく、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填剤が用いられる。
【0026】
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アスベスト繊維、硼素繊維等の無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維、カーボン繊維である。尚、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質も使用することができる。粉粒状充填剤としては、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉等が挙げられる。また、板状充填剤としては、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0027】
また、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、即ち、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を要求性能に応じ適宜添加した組成物も本発明で使用することができる。
【0028】
このようにして得られた本発明の導電性樹脂組成物を用い、射出成形や押出成形、ブロー成形で得られた成形品は、高い耐熱性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性、優れた導電性、低鉄イオン溶出性を示す。この利点を活かして、燃料電池セパレータ等といった導電性が必要であり、且つ金属イオンの低溶出性が必要な部品に好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例をもって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の物性測定の方法は以下の通りである。
[黒鉛中の鉄成分含有量]
黒鉛粉末2gを空気存在下にて850℃で4時間加熱し灰化し、灰分として残った赤褐色の粉末(酸化鉄(III))の重量を測り、鉄に換算した重量から鉄成分含有量を求めた。
[成形品からの鉄イオン溶出量]
80×10×4mmのISO標準試験片を1N硫酸60mlに浸漬し、80℃で24時間加熱し、常温で18時間放置した後、誘導結合プラズマ発光分光分析法にて測定した。
[体積抵抗値]
φ30mm×2t平板試験片を用い、金メッキした電極にて試験片を挟み、1MPaの荷重をかけ、電極間の抵抗値を四端子法にて測定し、体積抵抗率を計算し、試験片5枚の平均値を体積抵抗値とした。
実施例1〜6、比較例1〜7
液晶性ポリマー(LCP;ポリプラスチックス(株)製ベクトラD950)又はポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS;呉羽化学工業(株)製フォートロンW202A)に、表1に示す鉄成分含有量及び平均粒径の黒鉛を、表2に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて混練しペレットを得た。このペレットを用い、射出成形機にて上記ISO標準試験片及び平板試験片を成形し、上記方法にて物性測定を行った。結果を表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部に対し黒鉛を200〜600重量部添加した組成物であって、黒鉛の平均粒径が150〜500μmであり、且つ該組成物を成形した成形品からの鉄イオンの溶出量が100ppb以下であることを特徴とする導電性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂がポリアリーレンサルファイド樹脂及び/又は液晶性ポリマーである請求項1記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
黒鉛の鉄成分含有量が500ppm以下である請求項1又は2記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
成形品からの鉄イオンの溶出量が50ppb以下である請求項1〜3の何れか1項記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の導電性樹脂組成物からなる燃料電池セパレータ。

【公開番号】特開2006−307017(P2006−307017A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131562(P2005−131562)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】