説明

導電性沈殿物を抜き出すための炉内構造物を有するガラス溶融炉及びこれを用いた高レベル放射性廃液のガラス固化処理方法

【課題】ガラス溶融炉の炉底部に導電性沈殿物が堆積するのを防止して、導電性沈殿物に起因する種々の問題点を解消する。
【解決手段】溶融槽4内に、略円錐状または角錐状でその先端及び底面に開口部を有する中空の炉内構造物8を、その先端を下向きにして流下ノズル12の上方に配置することにより、流下ノズル12の上方位置に、溶融ガラスの流路として、炉内構造物8の内部及び先端開口部8bを通って流下ノズル12に至る第1流路と、炉内構造物8の外周面と炉底傾斜面6との間隙を通って流下ノズル12に至る第2流路とをそれぞれ形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃液等の廃棄物をガラス固化する際に用いるガラス溶融炉に係るもので、特に、二酸化ルテニウム(RuO2 )、金属ロジウム(Rh)及び金属パラジウム(Pd)を主成分とする導電性沈殿物を溶融ガラスとともに抜き出すための炉内構造物を有するガラス溶融炉及びこれを用いた高レベル放射性廃液のガラス固化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高レベル放射性廃液等の廃棄物の処理方法として、廃棄物をガラス原料とともにガラス溶融炉の溶融槽に投入して混合・溶融し、その溶融物をステンレス製の容器に注入して固化処理する方法が知られている。このガラス固化処理に用いるガラス溶融炉としては、その溶融槽の壁の材料に、金属を用いるガラス溶融炉と、耐火レンガを用いるガラス溶融炉が挙げられる。また、ガラスの加熱方法を加味すると、表1の方式に大別でき、各々長所、短所を持ったものとなっている。概して、金属溶融槽は大型化には不向きであり、商業規模で利用する場合には耐火レンガ溶融槽が向いている。また、耐火レンガ溶融槽は、金属溶融槽と比較して寿命が長いという利点を有している。しかしながら、耐火レンガ溶融槽の寿命を担保するためには、直接通電に影響を及ぼす導電性沈殿物を抜き出す工夫が必要とされる。
【0003】
【表1】

【0004】
高レベル放射性廃液中には白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム)が含まれているが、これらは比重の大きい導電性沈殿物として沈降することが知られている(例えば、特許文献1参照)。耐火レンガ溶融槽においては、溶融ガラスに直接電流を流すことにより生じるジュール熱を利用して加熱しているため、それら導電性沈殿物が溶融槽から抜き出されずに炉底部に堆積してゆくと、やがて電極にまで到達して電気的な短絡を招いてしまう虞がある。
【0005】
図9および図10は、従来のガラス溶融炉の底部電極付近を示すもので、図中符号2は炉本体、6は炉底傾斜面、7は底部電極、11は流下孔、13はくず受け、Zは耐火レンガ片、Yは導電性沈殿物である。これら図面に示すように、溶融ガラスの流れは、溶融炉の中心軸付近で最も流速が大きく、炉底傾斜面6に近づくにつれて流速が小さくなる。したがって、炉底傾斜面6の導電性沈殿物Yを上記溶融ガラスの流れ方向に押し出す力F(導電性沈殿物Yに働く力)も、溶融炉の中心軸付近と比べて小さくなる。
【0006】
溶融ガラスは導電性沈殿物を多く含有することにより粘性が高くなって流動性が低下するため、炉底部に導電性沈殿物が堆積すると、溶融炉から溶融ガラスを流し出し難くなる。さらに堆積が進むと、流下ノズルの流下孔11が閉塞し、溶融ガラスの流下(流し出し)に支障をきたす懸念もある。また、日本型LFCMの場合、流下ノズルの閉塞に至らなくても、導電性沈殿物の堆積が炉底部からその周囲に拡がることにより、溶融ガラスに電流を流すための主たる電極間(主電極間)及び溶融ガラスを流下する際に炉底部の溶融ガラスに電流を流すために補助的に用いる電極間(補助電極間)に電気的な短絡経路が形成され、溶融ガラスの加熱に支障をきたしガラス溶融炉の安全な運転が妨げられるほか、該主電極が局所的に浸食されるためガラス溶融炉の寿命(耐用年数)が短くなる。
【0007】
このため、導電性沈殿物の堆積については、(1)導電性沈殿物を溶融ガラス中の溶解させて堆積することを防止する方法、(2)導電性沈殿物を溶融ガラス中に分散させて堆積することを防止する方法、または堆積した導電性沈殿物を再び溶融ガラス中に分散させる方法、(3)炉底部を冷却することにより溶融ガラスの粘性を高くして導電性沈殿物の堆積を抑制する方法、(4)炉底部の傾斜面が滑らかに流下ノズル開口部に連続するような構造としたり、炉底稜線部の目地を無くして滑らかにすることにより導電性沈殿物を流し出し易くする方法、(5)上記(3)の方法とは対照的に炉底部を特に加熱することにより溶融ガラスの粘性を低くして流動性を高くすることにより堆積した導電性沈殿物を流し出す方法、(6)電極の形状を変えることにより堆積した導電性沈殿物が電気的な短絡経路を形成することを抑制する方法、(7)導電性沈殿物の堆積を検出する方法、(8)堆積した導電性沈殿物により閉塞した流路を回復させる方法など、種々の対策が検討されている。
しかしながら、いずれの対策によっても十分な効果を期待することは難しく、導電性沈殿物の影響を大幅に改善することは困難な状況であった。
【特許文献1】特開2003−286031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ガラス溶融炉において、その炉底部に導電性沈殿物が直接堆積するのを防止しつつ、導電性沈殿物を効果的に抜き出すことにより、長期に亘って、ガラス溶融炉内の電極間に電気的な短絡が生じることを防止して、ガラス溶融炉の運転を安定化させるとともに、電極の局所的な腐食を防止してガラス溶融炉の寿命(耐用年数)の長期化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガラス溶融炉は、下端に流下ノズルが設けられ、この流下ノズルに向けて内径が漸次狭まるよう傾斜する炉底部を有する溶融槽と、該溶融槽内の被溶融物に接触し得る状態で配置された少なくとも一対の電極とを備え、該電極間に電圧を印加して上記溶融槽内の被溶融物に電流を流すことにより、上記被溶融物を発熱・溶融させて溶融ガラスとするガラス溶融炉において、上記溶融槽内に、略円錐状または角錐状(円錐と角錐を組み合わせた複合形状も含む。)でその先端及び底面に開口部を有する中空の炉内構造物を、その先端を下向きにして上記流下ノズルの上方に配置することにより、上記流下ノズルの上方位置に、上記溶融ガラスの流路として、上記炉内構造物の内部及び先端開口部を通って上記流下ノズルに至る第1流路と、上記炉内構造物の外周面と上記炉底部の傾斜面との間隙を通って上記流下ノズルに至る第2流路とをそれぞれ形成し、上記溶融ガラスに含まれる導電性沈殿物を上記炉内構造物内の上記第1流路に集める構成としたことを特徴とするものである。
【0010】
上記ガラス溶融炉においては、上記第2流路に溶融ガラスが流れる際にベルヌーイの定理により上記炉内構造物の先端開口部において圧力低下が生じるのを利用して、上記炉内構造物内の導電性沈殿物を上記炉内構造物の先端開口部から吸い出すことが可能である。
【0011】
上記ガラス溶融炉において、上記炉内構造物は、その側壁の外側から内側に60度以上の傾斜角度で斜め下方に向かって貫通する複数の貫通孔を有し、それら貫通孔の側壁外側の開口が主電極の下端位置よりも上方に配置されている。また、上記炉内構造物の内部には、その先端の開口部よりも大きい固形物による当該開口部の閉塞を防止するための紡錘状の閉塞防止用くず受けが配設されている。さらに、上記炉内構造物の上方には、当該炉内構造物の外周面と上記炉底部の傾斜面との間隙に固形物または導電性沈殿物が落下して流入するのを阻止するための庇状構造物が配設されている。
【0012】
また、本発明に係る高レベル放射性廃液のガラス固化処理方法は、上記ガラス溶融炉の溶融槽内に高レベル放射性廃液とガラス原料とを投入して両者を混合・溶融し、その溶融物を上記流下ノズルから所定の容器に注入して固化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶融槽の内部に、略円錐状または角錐状でその先端及び底面に開口部を有する中空の炉内構造物を、その先端を下向きにして流下ノズルの上方に配置するようにしたので、溶融ガラスに含まれる導電性沈殿物を炉内構造物内に集めることができ、導電性沈殿物が炉底部に直接堆積するのを防止することができる。
したがって、ガラス溶融炉内の電極間(主電極間、或いは主電極と補助電極間)に電気的な短絡が生じるのを防止して、ガラス溶融炉の運転を安定化させることができるとともに、各電極(主電極及び補助電極)の局所的な腐食を防止してガラス溶融炉の寿命(耐用年数)の長期化を図ることができる。
【0014】
また、溶融槽の内部に炉内構造物を配置することにより、流下ノズルの上方位置に、溶融ガラスの流路として、炉内構造物の内部及び先端開口部を通って流下ノズルに至る第1流路と、炉内構造物の外周面と炉底部の傾斜面との間隙を通って流下ノズルに至る第2流路とをそれぞれ形成し、この第2流路に溶融ガラスが流れる際にベルヌーイの定理により炉内構造物の先端開口部において圧力低下が生じるのを利用して、炉内構造物内(第1流路内)の導電性沈殿物等を炉内構造物の先端開口部から吸い出すようにしたので、炉内構造物に集めた導電性沈殿物等をガラス溶融炉から効果的に抜き出すことができる。
【0015】
したがって、炉内構造物内の導電性沈殿物が溢れて炉底部に堆積する等の事態を回避することができ、上述した作用効果を長期に亘って維持することができる。また、ガラス溶融炉から導電性沈殿物を効果的に抜き出すことができるため、導電性沈殿物の主成分となる白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム)を従来よりも多く含有させてガラス固化処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るガラス溶融炉は、下端の流下ノズルに向けて内径が漸次狭まるように炉底部が構成された溶融槽を有し、この溶融槽内に、略円錐状または角錐状(円錐と角錐を組み合わせた複合形状も含む。)でその先端及び底面に開口部を有する中空の炉内構造物を、その先端を下向きにして流下ノズルの上方に配置する構成を採用している。これにより、溶融槽の内部には、流下ノズルの近傍位置に、溶融ガラスの流路として、炉内構造物の内部及び先端開口部を通って流下ノズルに至る第1流路と、炉内構造物の外周面と上記炉底部の傾斜面との間隙を通って流下ノズルに至る第2流路とが形成される。
また、本発明に係るガラス溶融炉は、水平方向に対向する状態で溶融槽の壁部に配置された一対の主電極を有し、当該主電極間に電圧を印加することにより、溶融槽内の溶融ガラスに直接電流を流して加熱する構成を採用している。
【0017】
上記構成からなるガラス溶融炉において、被溶融物であるガラス原料と高レベル放射性廃液は、ガラス溶融炉の上部から溶融槽内に投入された後、溶融槽内の溶融ガラスの表面付近で溶融して溶融ガラスとなる。
この際に発生する導電性沈殿物は、時間の経過と共に炉底部へ向けて沈降してゆき、その多くが炉内構造物の内部(第1流路)に流入して流下ノズルの中心軸付近に集められる。その結果、炉内構造物内の溶融ガラスは、導電性沈殿物を多く含有することとなるため、粘性が高くなり流動性が低下する。
一方、炉内構造物の外周面と炉底部の傾斜面との隙間(第2流路)の溶融ガラスは、導電性沈殿物をほとんど含有しないため、粘性が低く流動性が高い状態のままとなる。
【0018】
この状態で炉底部の流下ノズルから溶融ガラスを流下する(流し出す)と、溶融ガラスは主として炉内構造物の外側を取り囲む第2流路を通って流れ出すため、炉内構造物の先端開口部においてベルヌーイの定理による圧力低下が生じる。
この圧力低下により、炉内構造物内の導電性沈殿物及び該導電性沈殿物を多く含有する粘性の高い溶融ガラスが炉内構造物から吸い出される。溶融ガラスの流れの状態を示すレイノルズ数は小さいため、溶融ガラスと導電性沈殿物は層流の状態を保って流れ、そのため炉内構造物から吸い出された導電性沈殿物等は、導電性沈殿物をほとんど含有しない粘性の低い溶融ガラスに取り巻かれた状態で流下ノズルを通ってガラス溶融炉から流れ出す。
【0019】
このように、上記構成からなるガラス溶融炉によれば、ベルヌーイの定理により炉内構造物の先端開口部において圧力低下が発生するのを利用して、炉内構造物内の導電性沈殿物等を炉内構造物の先端開口部から吸い出すようにしたので、溶融槽内から溶融ガラスと共に導電性沈殿物を効果的に抜き出すことができ、溶融槽内に導電性沈殿物が堆積し蓄積してゆくのを防止することができる。
【0020】
なお、本発明のガラス溶融炉に用いる炉内構造物は、ガラスの溶融温度でも形状を維持できる強度と溶融ガラスの侵食に対する耐性とを有する材料(例えば、溶融槽の構成材料として適した耐火レンガ又は電極の製造に適した耐熱合金)で製造するか、若しくは前記耐熱合金で製造した芯の外側を前記耐火レンガで被覆することにより製造することが望ましい。耐熱合金で製造した芯の外側を耐火レンガで被覆する方法としては、板状及び円筒状等の形状に加工した耐火レンガを、耐熱合金製の芯の外側において組み合わせ、ガラス溶融炉の溶融槽の製造に適した耐熱性無機接着剤等にて接合する方法、耐火レンガとして用いることができる電鋳レンガを製造するための材料を溶融させた状態で槽に保持し、耐熱合金製の芯を該槽に浸漬させることにより被覆する方法、鋳型の中に耐熱合金製の芯を保持した状態で、該鋳型と該耐熱合金製の芯との隙間に、耐火レンガとして用いることができる電鋳レンガを製造するための材料を溶融させた状態で流し込む方法などが挙げられる。
【実施例】
【0021】
本発明を適用したガラス溶融炉の実施例を図1及び図2により説明する。図1は本発明に係るガラス溶融炉の一実施例を示す縦断面図、図2は図1のガラス溶融炉内の炉内構造物及びくず受けを示す斜視図である。
本実施例においては、溶融槽4の壁が耐火レンガ2により構成されるとともに、この溶融槽4の対向する壁面に一対の主電極5が配設されて、全体が金属ケーシング3で覆われた構成となっている。また、溶融槽4の底部は、その周縁部から中心部に向けて下方に傾斜する四角錘状の傾斜面となっていて、その下端の底部中心には、溶融ガラスXを流し出すための流下ノズル12と一体となった底部電極7が配設され、この底部電極7の周囲には高周波加熱コイル10が巻装されている。
そして、この底部電極7の上方には、導電性沈殿物Yを捕集するための炉内構造物8が、複数の支柱8d(例えば4本の支柱8d)により溶融槽4内に懸架された状態で配置されている。
【0022】
炉内構造物8は、略円錐状若しくは角錐状でその先端及び底面に開口部を有する中空構造物であり、その先端を下向きにして、流下ノズル12に臨む状態で、且つ溶融槽4の炉底傾斜面6との間に間隙(第1流路)を形成する状態で配置されている。本実施例では、図2に示すように、炉内構造物8は、先端側の約半分が円錐状をなし、底面側の約半分が溶融槽4の炉底傾斜面6に沿うように四角錘状をなしている。また、図1に示すように、先端の開口部(貫通孔)8bが、流下ノズル12の内径とほぼ同寸法に設定され、各々の軸線がほぼ一致するように配置されている。また、炉内構造物8の外周面と溶融槽4の炉底傾斜面6との間隙は、流下ノズル12に近づくにつれて漸次狭くなるように構成されている。
【0023】
また、炉内構造物8は、その側壁(四角錘状をなす底面側の側壁)の外側から内側に60度以上の傾斜角度で斜め下方に向かって貫通する多数の貫通孔8eを有し、それら貫通孔8eの側壁外側の開口が主電極5の下端位置よりも上方に配置されている。このため、(1)炉内構造物8の外側の溶融ガラスXのみならず、内側の溶融ガラスXにも電流を流すことができるとともに、(2)炉内構造物8の外側に導電性沈殿物Yが漏出するのを抑制することができ、さらに、(3)炉内構造物8の内側と外側において溶融ガラスXの液面にアンバランスが生じるのを回避することができ、そのアンバランスが原因で炉内構造物8及びその支柱8dに過大な応力が加わるのを防止することができる。
【0024】
また、炉内構造物8の内部には、ガラス溶融炉1天井部より欠け落ちた耐火レンガ片Z等の大きい固体の不純物によって炉内構造物8の先端の小さい開口部8bが閉塞するのを防止するための閉塞防止用くず受け13が配設されている。本実施例では、くず受け13は、略紡錘形の本体部と、これを支承する複数(例えば3本)の支柱13aとにより構成されており、当該くず受け13を炉内構造物8の内部に配置したときに、くず受け13の本体部と炉内構造物8との間に小さな流路(上記大きな固体の不純物は通り抜けることができないが導電性沈殿物Y等は通り抜けることができる大きさの流路)が複数形成されるようになっている。
【0025】
さらに、炉内構造物8及び主電極5の上方位置には、図1に示すように、当該炉内構造物8の外周面と溶融槽4の炉底傾斜面6との間隙に固形物や導電性沈殿物Yが落下して流入するのを阻止するための庇状構造物9が配設されている。この庇状構造物9は、溶融槽4の各側壁面から庇状に突き出し、その先端部が、炉内構造物8の上側の開口部8a(炉内構造物8の底面側の大きい開口部)にまで達して、炉内構造物8の外周面と溶融槽4の炉底傾斜面6との間に形成される間隙全体を上方から完全に覆うようになっている。また、庇状構造物9の上面は、先端に向けて下り傾斜する傾斜面となっていて、上方から落下してきた固形物や導電性沈殿物Yを炉内構造物8の上側開口部8aへと誘導するようになっている。
【0026】
図3は、ガラス溶融時及び溶融ガラスXの流下開始直後のガラス溶融炉内の状況を模式的に示した断面図である。
溶融槽4内の溶融ガラスXは、前述したように、一対の主電極5間を流れる電流によりジュール加熱される。また、本実施例では貫通孔8eを通じて電流が流れるため、炉内構造物8の内部においても、主電極5の高さにある溶融ガラスXはジュール加熱により均一に溶融される。溶融ガラスX中で生成した導電性沈殿物Y及びこれを多く含む高粘性の溶融ガラスX(以下、両者を合わせて「導電性沈殿物等」という。)は、図中の実線矢印で示すように、ガラス溶融炉1底部へ向けて沈降し、直接炉内構造物8に流入するか、又は主電極5上部にせり出した庇状構造物9に導かれて炉内構造物8に流入する。こうして炉内構造物8に集められた導電性沈殿物等は、炉内構造物8の側壁の内面に沿って沈降するが、貫通孔8eの部分においても、貫通孔8eが側壁の外側から内側に向けて少なくとも下方へ角度60°以上の傾斜を有するように設けられているため、炉内構造物8の外部へ漏洩することはなく先端の小さな開口部8bに向けてそのまま沈下してゆく。なお、これまでの経験から導電性沈殿物Yを多く含む溶融ガラスXは粘性が高いことが分かっている。
【0027】
一方、炉内構造物8と炉底傾斜面6との隙間(炉内構造物8の外側)の溶融ガラスXは、導電性沈殿物Yをほとんど含有しないため粘性が低く流動性が高い状態のまま保たれる。この状態で炉底部の流下ノズル12から溶融ガラスXを流下すると、流下開始直後は、導電性沈殿物Yをほとんど含まない溶融ガラスXが、主として炉内構造物8の外側を取り囲む経路(第2流路)を通って流れ出すこととなる。この際に、図中の点線矢印で示すように、庇状構造物9と炉内構造物8との隙間や貫通孔8eを通って溶融ガラスXが流れ出すため、炉内構造物8の内側と外側において溶融ガラスXの液面にアンバランスが生じることはない。
【0028】
また、流下により溶融ガラスXの液面が低下した際にも、図4に示すように、液面が貫通孔8eよりも低い位置に達するまでは、貫通孔8eを通って溶融ガラスXが流れ出すため、同様に、炉内構造物8の内側と外側において溶融ガラスXの液面にアンバランスが生じることはない。したがって、炉内構造物8の内部に大量の溶融ガラスXが保持されたまま外側のガラスが無くなる事態を避けることができ、炉内構造物8及びその支柱8dに過大な応力が加わるのを防止することができる。
なお、炉内構造物8の内部の導電性沈殿物等が抜き出される作用については後述するが、導電性沈殿物等が抜き出された後は、炉内構造物8の外側を取り囲む経路(第2流路)だけでなく炉内構造物8の先端の小さな開口部8bを通る経路(第1流路)からも溶融ガラスXが流れ出すこととなる。
【0029】
次に、炉内構造物8内の導電性沈殿物等が抜き出される作用について、図5及び図6に基づいて説明する。
溶融ガラスXの流下を開始すると、溶融槽4内には、図5及び図6の点線矢印で示すように、炉内構造物8と炉底傾斜面6との隙間を通って流下ノズル12に向かう溶融ガラスXの流れが形成される。この溶融ガラスXの流れは、ノズル効果により底部電極7に近づくにつれて流速が大きくなる。このときベルヌーイの定理によって示される圧力低下が生じるが、特に、底部電極7直上に位置する炉内構造物8の先端の小さい開口部8b付近の圧力低下は著しくなる。この圧力低下により、図5及び図6に示すように、炉内構造物8内の導電性沈殿物等には炉内構造物8から吸い出そうとする力F1が働く。同時に、導電性沈殿物Yの上面には、溶融ガラスXのヘッド圧により炉内構造物8から押し出そうとする力F2が働く。その結果、炉内構造物8内の導電性沈殿物等は、それらの力の相互作用により下方向の強い力が加わって、炉内構造物8から強制的に抜き出されることとなる。
なお、圧力低下により導電性沈殿物等に働く力F1は、溶融ガラスXの流速に比例して大きくなるので、本発明のガラス溶融炉1においては、流下開始からできるだけ速やかに最大の流下速度に達するように運転することが、導電性沈殿物等の抜き出しの観点からは好ましい。
【0030】
その後、炉内構造物8から抜き出された導電性沈殿物等は、そのまま下方の流下ノズル12に流入し、溶融ガラスXとともにガラス溶融炉1から排出される。溶融ガラスXの粘性を考慮すると、流れの状態を示すレイノルズ数は小さいため溶融ガラスX及び導電性沈殿物等は層流の状態を保って流れ、そのため、炉内構造物8から抜き出された導電性沈殿物等は、溶融ガラスXに取り巻かれた状態で流下ノズル12を通ってガラス溶融炉1から流れ出す。
【0031】
また、上記のように溶融ガラスXを流下する過程で、例えば図6に示すように、ガラス溶融炉1天井部等から耐火レンガ片Zが欠け落ちてきた場合には、くず受け13が受け止めるために、炉内構造物8の内側の経路の大部分は耐火レンガ片Zによる閉塞を回避できることになる。
【0032】
以上のように、本実施例によれば、流下ノズル12の上方に炉内構造物8を設けて当該炉内構造物8内に導電性沈殿物Yを集めるようにしたので、導電性沈殿物Yが炉底部に直接堆積するのを防止することができる。また、ベルヌーイの定理により炉内構造物8の先端開口部8bにおいて圧力低下が発生するのを利用して、炉内構造物8内の導電性沈殿物等を炉内構造物8の先端開口部8bから吸い出すようにしたので、炉内構造物8に集めた導電性沈殿物等をガラス溶融炉1から効果的に抜き出すことができる。したがって、長期に亘ってガラス溶融炉1の運転を安定化させることができるとともに、各電極の局所的な腐食等を防止してガラス溶融炉1の耐用年数の長期化を図ることができる。
【0033】
なお、本実施例においては、複数の支柱8dにより炉内構造物8を溶融槽4内に吊下げる構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図7に示すように、炉内構造物の下部に複数の脚部8cを設けて、それら脚部8cにより炉内構造物を支承する構成(すなわち、炉底部に炉内構造物を載置する構成)としたり、或いは、図8に示すように、支柱8dと脚部8cの組合せにより上下両方向から炉内構造物を支持する構成とすることも可能である。また、本実施例においては、炉内構造物として、先端側の約半分が円錐状をなし、底面側の約半分が四角錘状をなす炉内構造物8を例示したが、本発明はこれに限られるものではなく、炉内構造物の形状は、円錐状(図7)や多角錐状(図8)など、溶融槽4の炉底部の形状等に応じて適宜に変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るガラス溶融炉の一実施例を示す縦断面図である。
【図2】図1のガラス溶融炉内の炉内構造物及びくず受けを示す斜視図である。
【図3】図1のガラス溶融炉の炉底部を示す縦断面図で、ガラス溶融時及び溶融ガラスの流下開始直後の状態を模式的に示している。
【図4】図1のガラス溶融炉の炉底部を示す縦断面図で、溶融ガラスの流下により溶融ガラスの液面が低下したときの状態を模式的に示している。
【図5】炉内構造物の先端部周辺を拡大した縦断面図で、溶融ガラスの流下開始直後の状態を模式的に示している。
【図6】炉内構造物の先端部周辺を拡大した縦断面図で、溶融ガラスの流下時の状態を模式的に示している。
【図7】炉内構造物の他の実施例を示す斜視図である。
【図8】炉内構造物の他の実施例を示す斜視図である。
【図9】従来のガラス溶融炉の炉底部を拡大した縦断面図である。
【図10】従来のガラス溶融炉の炉底部を拡大した縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ガラス溶融炉
2 炉本体(耐火レンガ)
3 金属ケーシング
4 溶融槽
5 主電極
6 炉底傾斜面
7 底部電極
8 炉内構造物
8a,8b 開口部
8c 支柱
8d 脚部
8e 貫通孔
9 庇状構造物
10 高周波加熱コイル
11 流下孔
12 流下ノズル
13 くず受け
X 溶融ガラス
Y 導電性沈殿物
Z 耐火レンガ片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端に流下ノズルが設けられ、この流下ノズルに向けて内径が漸次狭まるよう傾斜する炉底部を有する溶融槽と、該溶融槽内の被溶融物に接触し得る状態で配置された少なくとも一対の電極とを備え、該電極間に電圧を印加して上記溶融槽内の被溶融物に電流を流すことにより、上記被溶融物を発熱・溶融させて溶融ガラスとするガラス溶融炉において、
上記溶融槽内に、略円錐状または角錐状でその先端及び底面に開口部を有する中空の炉内構造物を、その先端を下向きにして上記流下ノズルの上方に配置することにより、上記流下ノズルの上方位置に、上記溶融ガラスの流路として、上記炉内構造物の内部及び先端開口部を通って上記流下ノズルに至る第1流路と、上記炉内構造物の外周面と上記炉底部の傾斜面との間隙を通って上記流下ノズルに至る第2流路とをそれぞれ形成し、上記溶融ガラスに含まれる導電性沈殿物を上記炉内構造物内の上記第1流路に集める構成としたことを特徴とするガラス溶融炉。
【請求項2】
上記第2流路に溶融ガラスが流れる際にベルヌーイの定理により上記炉内構造物の先端開口部において圧力低下が生じるのを利用して、上記炉内構造物内の導電性沈殿物を上記炉内構造物の先端開口部から吸い出す構成としたことを特徴とする請求項1に記載のガラス溶融炉。
【請求項3】
上記一対の電極には、水平方向に対向する状態で上記溶融槽の壁部に配置された一対の主電極を含み、
上記炉内構造物は、その側壁の外側から内側に60度以上の傾斜角度で斜め下方に向かって貫通する複数の貫通孔を有し、それら貫通孔の側壁外側の開口が上記主電極の下端位置よりも上方に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス溶融炉。
【請求項4】
上記炉内構造物の内部には、その先端の開口部よりも大きい固形物による当該開口部の閉塞を防止するための紡錘状の閉塞防止用くず受けが配設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のガラス溶融炉。
【請求項5】
上記炉内構造物の上方には、当該炉内構造物の外周面と上記炉底部の傾斜面との間隙に固形物または導電性沈殿物が落下して流入するのを阻止するための庇状構造物が配設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のガラス溶融炉。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のガラス溶融炉を用いたガラス固化処理方法であって、上記溶融槽内に高レベル放射性廃液とガラス原料とを投入して両者を混合・溶融し、その溶融物を上記流下ノズルから所定の容器に注入して固化させることを特徴とする高レベル放射性廃液のガラス固化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−302525(P2007−302525A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133814(P2006−133814)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】