説明

導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品

導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品が提供される。前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の80〜99重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、有機ナノ粘土の0.1〜10重量部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[技術分野]
本発明は、導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品に関するものである。より具体的に、本発明は、より優れた導電性を有する導電性熱可塑性樹脂の提供を可能にする導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[背景技術]
熱可塑性樹脂とは、加熱すると軟化して可塑性を表し、冷却すると固化するプラスチックをいう。このような熱可塑性樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂またはビニル樹脂などの汎用プラスチックと、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などのエンジニアリングプラスチックとに大別される。
【0003】
前記熱可塑性樹脂は、加工性及び成形性に優れており、各種の生活用品、OA機器、電気・電子製品などに広範囲に適用されている。また、このような熱可塑性樹脂が使用される製品の種類及び特性によれば、優れた加工性及び成形性のみならず、特殊な性質を付加した高付加価値の材料として熱可塑性樹脂を使用しようとする試みが継続的に行われている。特に、熱可塑性樹脂に導電性を付与し、このような導電性熱可塑性樹脂を、自動車、各種の電気装置、電子組立体及び電気ケーブルに電磁波遮蔽性を持たせるために利用する試みが大いに行われている。
【0004】
このような導電性熱可塑性樹脂は、通常、熱可塑性樹脂にカーボンブラック、炭素繊維、金属粉末、金属コーティング無機粉末または金属繊維などの導電性添加剤を混合した導電性熱可塑性樹脂組成物を使用して製造される。ところが、前記導電性添加剤の相当量が添加されない限り、前記導電性熱可塑性樹脂の導電性を所望の程度に充分に確保することが難しい。
【0005】
一方、前記導電性添加剤としてカーボンナノチューブを使用し、前記導電性熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与する試みがあった。
【0006】
しかしながら、熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを混合し、この複合樹脂混合物を射出成形機により射出して導電性熱可塑性樹脂を得ようとすると、前記射出中に発生するせん断応力によってカーボンナノチューブの凝集(aggregates)と予期せぬ配向(unexpectedly oriented)が生じる。結果として、前記導電性熱可塑性樹脂に含まれるカーボンナノチューブは分散性が悪く、そのため、前記熱可塑性樹脂では所望の程度の充分な導電性を有することが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[技術的な解決方法]
本発明の目的は、より向上した導電性を表す導電性熱可塑性樹脂の提供を可能にする導電性熱可塑性樹脂組成物及びプラスチック成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、熱可塑性樹脂の80〜99重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、有機ナノ粘土の0.1〜10重量部とを含む導電性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂は、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリピリジン樹脂、ポリトリアゾール樹脂、ポリピロリジン樹脂、ポリジベンゾフラン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリホスファゼン樹脂、液晶重合体樹脂及びそれらの共重合体または混合物からなる群より選択される。
【0010】
また、前記熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂を含み、前記ポリカーボネート樹脂は、下記化学式(1)で表されるジフェノール化合物と、ホスゲン(phosgene)、ギ酸ハロゲン(halogen formate)または炭酸ジエステル(diester carbonate)とを反応させて得られる、芳香族ポリカーボネート樹脂でありうる。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン(alkyliden)、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し、Xはハロゲンを表し、nは0、1または2を表す。
【0013】
そして、前記熱可塑性樹脂は、10,000〜200,000g/molの重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂を含むことができる。
【0014】
また、前記導電性熱可塑性樹脂において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブでありうる。
【0015】
そして、前記カーボンナノチューブは、1〜50nmの直径及び0.01〜10μmの長さを有しうる。
【0016】
また、前記カーボンナノチューブは、100〜1000のアスペクト比を有することができる。
【0017】
そして、前記導電性熱可塑性樹脂において、前記有機ナノ粘土は、9〜14Åの層間距離を有する有機修飾された層状ケイ酸塩でありうる。
【0018】
また、前記層状ケイ酸塩は、モンモリロナイト、ヘクトライト、ベントナイト、サポナイト、マガディアイト、合成マイカ及びそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0019】
そして、前記有機ナノ粘土は、C12〜C36のアルキル基または芳香族基が置換した有機リン酸塩またはアンモニウム塩で有機修飾された層状ケイ酸塩でありうる。
【0020】
また、本発明の他の形態によれば、前記導電性熱可塑性樹脂組成物により製造されるプラスチック成形品が提供される。
【0021】
また、本発明の他の形態によれば、熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂に分散されているカーボンナノチューブ及び有機ナノ粘土と、を含むプラスチック成形品が提供される。
【0022】
本発明の他の形態及び実施形態の詳細は、以下の詳細な説明に含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[最良の形態]
以下、本発明について、当業者が自明に実施可能な程度に、後述する実施例を参照して詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明に対する例示として提示されるもので、本発明の範囲や思想が制限されるものではない。
【0024】
本発明の一実施例によれば、熱可塑性樹脂の80〜99重量部と、カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、有機ナノ粘土の0.1〜10重量部とを含む導電性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0025】
前述したように、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブに加えて、有機ナノ粘土を含む。したがって、前記樹脂組成物の射出中に、前記有機ナノ粘土は、前記カーボンナノチューブの予期せぬ配向性(unexpectedly oriented)を抑制するとともに、前記カーボンナノチューブを前記熱可塑性樹脂に均一に分散させることができる。したがって、前記カーボンナノチューブを添加剤として少量用いた場合においても、射出後の前記熱可塑性樹脂に、導電性を充分に付与することができる。また、前記カーボンナノチューブの含量を減らすことで、カーボンナノチューブの過量添加による熱可塑性樹脂の機械的特性の低下を抑制することができる。
【0026】
以下、導電性熱可塑性樹脂組成物の構成成分のそれぞれについて具体的に説明する。
【0027】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂80〜99重量部を含む。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、押出または射出成形が可能であれば、とくに制限なく使用することができ、熱可塑性の汎用及びエンジニアリングプラスチックを制限なしに使用することができる。
【0029】
例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリピリジン樹脂、ポリトリアゾール樹脂、ポリピロリジン樹脂、ポリジベンゾフラン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリホスファゼン樹脂及び液晶重合体樹脂を挙げることができる。また、これらの熱可塑性樹脂の共重合または混合物も用いることができる。
【0030】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物の物理的特性または適用される製品の種類などを考慮すると、前記熱可塑性樹脂としては、これに制限されないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−ビニルアセテートの共重合体樹脂、エチレン−メチルメタクリレートの共重合体樹脂から選択されるポリオレフィン樹脂;スチレン樹脂;ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂、及びポリカーボネート樹脂から選択される熱可塑性エンジニアリングプラスチックを好ましく使用することができる。
【0031】
前記熱可塑性樹脂として好ましいポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂の詳細について以下に説明する。
【0032】
まず、前記熱可塑性樹脂として、ポリアミド樹脂を使用することができる。
【0033】
ポリアミド樹脂としては、当業者に知られた一般的なポリアミド樹脂が用いられうる。ポリアミド樹脂としては、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリ(11−アミノウンデカン酸)(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジポアミド(ナイロン6,6)、ポリヘキサエチレンアゼラミド(ナイロン6,9)、ポリヘキサエチレンセバカミド(ナイロン6,10)またはポリヘキサエチレンドデカンジアミド (ナイロン6,12)から選択されるナイロン樹脂がより好ましい。また、ポリアミド樹脂は、例えば、ナイロン6/6,10、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,12などのような、前記ナイロン樹脂の共重合体が用いられうる。また、ポリアミド樹脂は、前記ナイロン樹脂の混合物であってもよい
また、前記ポリアミド樹脂としては、相対粘度が2.4〜3.5で、重量平均分子量が約20,000〜100,000g/molであるものを使用することができる。そして、前記ポリアミド樹脂は、公知のあらゆる製造方法によって製造することができ、商業的にも入手可能である。商業的に入手可能な前記ポリアミド樹脂の例としては、特に限定されることはないが、Kolon社のKN−120製品またはRhodia社の1021製品などを挙げることができる。
【0034】
次に、前記熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂を使用することもできる。
【0035】
ポリエステル樹脂としては、重合体鎖にエステル結合を含み、加熱によって溶融されるものである。前記ポリエステル樹脂の例としては、ジカルボン酸及びジヒドロキシ化合物の縮重合反応によって得られたものを挙げることができる。ただし、ポリエステル樹脂の製造方法は、これに制限されることなく、当業者に公知のいかなる製造方法で製造されたポリエステル樹脂も使用することもできる。また、前記ポリエステル樹脂としては、ホモポリエステル樹脂またはコポリエステル樹脂を制限なしに使用することができる。
【0036】
そして次に、前記熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
【0037】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、下記化学式(1)で表されるジフェノール化合物と、ホスゲン、ギ酸ハロゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことができる。
【0038】
【化2】

【0039】
式中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し、Xはハロゲンを表し、nは0、1または2を表す。
【0040】
このとき、化学式(1)で表されるジフェノール化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン及び1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンなどを使用することができる。これらのうち、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン及び1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサンを、前記ジフェノール化合物として好ましく使用することができる。また、より好ましくは、ビスフェノール−A(Bisphenol−A:BPA)とも呼ばれる2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンを使用することができる。
【0041】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、10,000〜200,000g/mol、好ましくは、15,000〜80,000g/molの重量平均分子量を有することができる。
【0042】
そして、前記ポリカーボネート樹脂としては、線状ポリカーボネート樹脂だけでなく、分岐状ポリカーボネート樹脂またはポリエステルカーボネート共重合体樹脂などを制限なしに使用することができる。このとき、前記分岐状ポリカーボネート樹脂は、前記ジフェノール化合物の全量に対して0.05〜2モル%の3価またはそれ以上の多官能化合物、例えば、3価またはそれ以上のフェノール基を含む化合物を添加して製造することができる。また、前記ポリエステルカーボネート共重合体樹脂は、エステル前駆体、例えば、ジカルボン酸の存在下でポリカーボネートを重合することで製造することができる。このようなポリエステルカーボネート共重合体樹脂は、単独で使用したり、他のポリカーボネート樹脂と混合して使用することができる。
【0043】
前記ポリカーボネート樹脂としては、ホモポリカーボネート樹脂またはコポリカーボネート樹脂、またはこれらの組合せを制限なしに使用することができる。
【0044】
上述したように、熱可塑性樹脂としては、これに制限はされないが、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂が好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂の構成及び製造方法は、すでに当業者に公知である。
【0045】
一方、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブは、その構造の特異性に基づき、優れた機械的強度、高い初期ヤング率(Young's modulus)及び高アスペクト比などの特性を表す物質である。また、前記カーボンナノチューブは、銅または金より高い導電性と熱伝導性を保有する(Yakobson,B.I.,et al.,American Scientist,85,(1997),324−337;Dresselhaus,M.S.,et al.,Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes,(1996)、San Diego,Academic Press,902−905)。またカーボンナノチューブは、鋼鉄の約100倍の引張強度と1/6の重量を有するものと知られている(Andrews R.,et al.,Macromol.Mater.Eng.,287,(2002),395−403:Kashiwagi T.,et al.,Macromol.Rapid Commun.,4,(2002),761−765)。したがって、カーボンナノチューブの特性に基づき、熱可塑性樹脂組成物に含まれるカーボンナノチューブは、たとえ少量であっても、前記導電性熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与することができる。
【0046】
カーボンナノチューブは、炭素原子が所定の配置に配列し、中空のチューブ構造を有している。
【0047】
前記カーボンナノチューブは、これを構成する壁の個数によって、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブなどに分類される。前記導電性熱可塑性樹脂組成物としては、あらゆるカーボンナノチューブを制限なしに含むことができる。
【0048】
前記カーボンナノチューブは、原子スケールの円周を有するとともに、数ナノメートル(nm)〜数十ナノメートル(nm)の直径を有する。例えば、単層カーボンナノチューブは、0.4〜10nmの直径を有することができ、好ましくは、0.7〜5nmの直径を有する。
【0049】
また、本発明におけるカーボンナノチューブは、1〜50nm、好ましくは1〜20nmの直径を有し、0.01〜10μm、好ましくは1〜10μmの長さを有する。この直径及び長さに基づき、前記カーボンナノチューブは、100以上、好ましくは100〜1000のアスペクト比(L/D)を有する。
【0050】
カーボンナノチューブがナノスケールの直径を有することで、その円周方向の電子の運動が制限を受けるようになり、これによって、いわゆる低次元量子現象(low−dimensional quantum phenomenon)が起きる。このような量子現象は、カーボンナノチューブの巻かれた形態(rolled type)に依存し大きく変動する。このような理由から、前記カーボンナノチューブは、金属または半導体と比較して優れた導電性を有する。したがって、このようなカーボンナノチューブが前記導電性熱可塑性樹脂組成物に含まれたカーボンナノチューブは、熱可塑性樹脂に優れた導電性を付与することができる。
【0051】
カーボンナノチューブは、アーク放電法(Arc−discharge)、熱分解法(pyrolysis)、レーザーアブレーション法(laser ablation)、プラズマ化学気相蒸着法(PECVD)、熱化学気相蒸着法、電気分解法または火炎合成法(flame synthesis)などで作製することができる。ただし、カーボンナノチューブの作製方法はこれに制限されない。任意の方法で作製されたカーボンナノチューブが前記導電性熱可塑性樹脂組成物に制限なしに用いられる。
【0052】
熱可塑性樹脂組成物としてのカーボンナノチューブは、0.1〜10重量部、好ましくは、1〜5重量部の範囲で用いられる。カーボンナノチューブを前記含有量にすることで、熱可塑性樹脂の機械的特性と熱伝導性のバランスを適したものにすることができる。カーボンナノチューブの含量が0.1重量部未満であると、前記導電性樹脂組成物によって得られる熱可塑性樹脂の導電性が充分でない。カーボンナノチューブの含量が10重量部を超えると、熱可塑性樹脂の機械的特性が低下するおそれがある。
【0053】
また、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂及びカーボンナノチューブに加えて、有機ナノ粘土を含む。有機ナノ粘土は、有機修飾層状ケイ酸塩を意味する。
【0054】
導電性熱可塑性樹脂組成物に含まれる有機ナノ粘土は、射出加工中にカーボンナノチューブの凝集と予期せぬ配向性(unexpectedly orientation)を抑制するとともに、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂に均一に分散させることができる。したがって、有機ナノ粘土とカーボンナノチューブとの相互作用によって熱可塑性樹脂の熱伝導度が大きく改善する。結果として、前記カーボンナノチューブを少量含ませるだけで、前記熱可塑性樹脂の導電性を充分に付与することができる。
【0055】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、一般的なナノ粘土を含むものでなく、有機ナノ粘土、すなわち、有機修飾層状ケイ酸塩を含む。ナノスケールの層状ケイ酸塩は、基本的に親水性を有するので、疎水性の高分子体、例えば、熱可塑性樹脂と混和しないため、分散性が低下する。したがって、ナノスケールの層状ケイ酸塩を有機修飾して疎水性を付与することで、高分子鎖へのケイ酸塩の挿入(intercalation)能力をより向上させ、熱可塑性樹脂での分散性を向上させることができる。よって、有機修飾層状ケイ酸塩は均一に分散され、所望の程度の熱可塑性樹脂の物理的特性を得ることができる。
【0056】
前記有機ナノ粘土は、一般的には、9〜14Åの層間距離を有するナノスケールの層状ケイ酸塩を有機修飾することで得られる。このとき、前記層状ケイ酸塩は、50μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは10μm以下の平均粒径を有することができる。このような条件を満足し、前記有機ナノ粘土への使用に適した層状ケイ酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、ベントナイト、サポナイト、マガディアイトまたは合成マイカ、及びこれらの混合物から選択されたものを使用することもできる。
【0057】
また、前記有機ナノ粘土は、C12〜C36のアルキル基または芳香族基が置換した有機リン酸塩またはアンモニウム塩で前記層状ケイ酸塩を有機修飾することで得られる。さらに、前記層状ケイ酸塩のうち、モンモリロナイトを前記C12〜C36のアルキル基または芳香族基が置換された有機リン酸塩またはアンモニウム塩で有機修飾することで得られた有機ナノ粘土を最も好ましく使用することができる。この場合、モンモリロナイトは親水性から疎水性へと変化することで、熱可塑性樹脂への均一な分散と、前記樹脂の最適化された物理的特性が発現する。
【0058】
導電性熱可塑性樹脂組成物に用いられる有機ナノ粘土の含量は、0.1〜10重量部である。前記含量にすることで、前記樹脂の機械的特性などを低下させず、樹脂の導電性を効果的に向上させることができる。
【0059】
前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、必要によって、衝撃補強材、例えば、コアシェルグラフト共重合体、シリコン重合体またはオレフィン重合体、及びこれらの混合物から選択されたゴム系衝撃補強材をさらに含むことができる。このような衝撃補強材が前記樹脂組成物にさらに含まれることで、導電性熱可塑性樹脂にゴム粒子が分散され、前記導電性熱可塑性樹脂の物理的特性、例えば、耐衝撃性が向上する。このような衝撃補強材の具体的な構成及び調製方法は、当業者に公知である。
【0060】
また、前記導電性熱可塑性樹脂組成物は、上述した構成成分の他に、目的とする用途に合う添加剤をさらに含むことができる。例えば、ビニル共重合体、潤滑剤、離型剤、可塑剤、核剤、安定剤、補強材及び無機物添加剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0061】
一導電性熱可塑性樹脂組成物は、導電性熱可塑性樹脂組成物を調製するための各構成成分を混合し、押出機内で溶融・押出する従来公知の方法を用いて得られる。プラスチック成形品は、導電性熱可塑性樹脂により得られる。
【0062】
本発明の他の実施形態によれば、導電性熱可塑性樹脂組成物によって製造されたプラスチック成形品が提供される。このようなプラスチック成形品は、例えば、熱可塑性樹脂基材と、前記熱可塑性樹脂基材に分散されているカーボンナノチューブ及び有機ナノ粘土とを含んで構成される。
【0063】
前記プラスチック成形品は、前記樹脂基材に分散されたカーボンナノチューブと、 このカーボンナノチューブの予期せぬ配向性(unexpectedly oriented)を抑制して分散性を向上させる有機ナノ粘土との相互作用によって、より優れた導電性を発現する。特に、射出成形後にも優れた導電性を維持することができる。
【0064】
そのため、前記カーボンナノチューブの少量添加のみでも、熱可塑性樹脂に充分に高い導電性を付与することができる。さらに、カーボンナノチューブの過量添加による熱可塑性樹脂の基本的な機械的特性などの低下も、カーボンナノチューブが少量の添加でよいため抑制される。
【0065】
したがって、前記プラスチック成形品は、電子製品のハウジング、自動車、電気装置、電子組立体または電気ケーブルに導電性を与える多様な用途に広く利用される。
【実施例】
【0066】
[発明の形態]
以下、本発明の実施例を通して、本発明がより理解されうる。ただし、これらの実施例は、本発明の範囲を制限するものではない。
【0067】
後述する実施例及び比較例で使用する(A)熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂及びポリアミド樹脂)、(B)カーボンナノチューブ、(C)有機ナノ粘土の詳細は、次の通りである。
【0068】
(A)熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)
熱可塑性樹脂から選択されるポリカーボネート樹脂として、重量平均分子量(Mw)が25,000g/molであるビスフェノール−A型ポリカーボネートを使用した。
【0069】
(A')熱可塑性樹脂(ポリアミド樹脂)
熱可塑性樹脂から選択されるポリアミド樹脂として、Kolon社のKN120製品を使用した。
【0070】
(B)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブとして、直径:10〜50nm、長さ:1〜25μmの多層カーボンナノチューブである(株)CNT社のC−tube 100製品を使用した。
【0071】
(C)有機ナノ粘土
有機ナノ粘土として、Southern Clay社のCloisite 30Bを使用した。
【0072】
実施例1〜5及び比較例1〜4
実施例及び比較例で使用された各成分の組成は、下記の表1に示した通りである。表1の組成によって各成分を混合して導電性熱可塑性樹脂組成物を製造した。組成物をL/D=36、Φ=45mmである二軸押出機を使用して押出した後、押出物をペレットに製造した。そして、このペレットを10oz射出機で270℃の射出温度で射出し、導電性測定のための試片を製造した。
【0073】
まず、試片に対して、表面抵抗測定機を使用して導電性(表面抵抗)を測定した(導電性評価)。
【0074】
また、ASTM(米国の標準試験方法) D638によって、各試片の引張強度を測定した。このとき、20mm/minの条件で測定し、記録をkgf/cm単位で表示した(機械的強度評価)。
【0075】
導電性及び引張強度の測定結果を、下記の表1に表示した。
【0076】
【表1】

【0077】
上記の表1からわかるように、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂及びポリアミド樹脂)に加えて、カーボンナノチューブ及び有機ナノ粘土を含む実施例1〜5の試片は、カーボンナノチューブまたは有機ナノ粘土のうちいずれか一つのみを含む比較例1〜4の試片に比べて、高い導電性を示した。特に、有機ナノ粘土を1重量部含んだ実施例1及び2の試片は、有機ナノ粘土を含まない比較例1及び2の試片に比べて導電性が大きく向上した。また、実施例5及び比較例4からわかるように、ポリアミド樹脂のような他の種類の熱可塑性樹脂を使用した場合にも、上述したケースと同様に、導電性の向上効果が表れた。そして、比較例1と実施例2及び4からわかるように、カーボンナノチューブの添加量を一定にすると、有機ナノ粘土の添加量が増加するほど、試片の導電性が向上した。
【0078】
そして、実施例1〜5の試片は、例えば、引張強度などの機械的特性が優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の80〜99重量部と、
カーボンナノチューブの0.1〜10重量部と、
有機ナノ粘土の0.1〜10重量部と、を含む導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリオキサジアゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリピリジン樹脂、ポリトリアゾール樹脂、ポリピロリジン樹脂、ポリジベンゾフラン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリホスファゼン樹脂、液晶重合体樹脂、及びこれらの共重合体または混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂はポリカーボネート樹脂を含み、前記ポリカーボネート樹脂は、下記化学式1で表されるジフェノール化合物と、ホスゲン、ギ酸ハロゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

式中、Aは、単結合、C−Cのアルキレン、C−Cのアルキリデン、C−Cのシクロアルキリデン、−S−または−SO−を表し、Xはハロゲンを表し、nは0、1または2を表す。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、10,000〜200,000g/molの重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂を含む、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、直径1〜50nm及び長さ0.01〜10μmを有する、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、アスペクト比100〜1000を有する、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記有機ナノ粘土は、9〜14Åの層間距離を有する有機修飾層状ケイ酸塩を含む、請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記層状ケイ酸塩は、モンモリロナイト、ヘクトライト、ベントナイト、サポナイト、マガディアイト、合成マイカ、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項8に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記有機ナノ粘土は、C12〜C36のアルキル基または芳香族基が置換した有機リン酸塩またはアンモニウム塩で有機修飾された層状ケイ酸塩を含む、請求項8に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物によって製造されるプラスチック成形品。
【請求項12】
熱可塑性樹脂基材と、
前記熱可塑性樹脂基材に分散されているカーボンナノチューブ及び有機ナノ粘土とを含むプラスチック成形品。


【公表番号】特表2010−514883(P2010−514883A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543909(P2009−543909)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005857
【国際公開番号】WO2008/078850
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】