説明

導電性積層体およびその製造方法

【課題】物理的強度が良好で耐溶剤性に優れるとともに、導電材料やエレクトロクロミック材料として好適な導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する基材表面に、下記一般式(1):


[R、R及びRは、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、R、R及びRは、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、Aは、2価の複素芳香環基及びアリーレン基から選択される少なくとも1種であり、nは1以上の整数であり、Bは炭素数1〜20のアルキル基、及びSi(OR)(OR)(OR10)で示される基から選択される1種であり、R、R及びR10は、炭素数1〜20のアルキル基である。]で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物からなる層が共有結合を介して形成されてなる導電性積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に有機化合物が積層された導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITOや酸化亜鉛などの金属酸化物を用いた電極やシリコン結晶のような無機材料を用いた半導体に対し、近年有機導電体や有機半導体の研究開発が精力的に行われている。このような有機導電体や有機半導体は、製造が容易であるとともに、印刷技術を適用させることが可能であるなど加工性が高く、デバイスの大型化にも対応できることから低コスト化が期待できるとされている。さらに、多様な機能を有する有機化合物の設計や合成が可能であるとされている。また、有機導電体や有機半導体材料としては、π電子共役系分子が専ら用いられており、ドープ状態における導電率や中性状態におけるキャリア移動度が飛躍的に向上することが知られている。
【0003】
一方、基板上に薄膜を形成する方法として、蒸着などの真空プロセスを用いる方法や、材料が水または有機溶媒に可溶である場合は、塗布や印刷によるウェットプロセスを用いる方法が知られている。しかしながら、基板上への有機薄膜の吸着が物理吸着であり、基板への膜の吸着強度が低いため容易に剥がれてしまい、強度に問題があった。また、ウェットプロセスはデバイスの大型化に適しているが、デバイス中に有機層を重ね塗りする必要がある場合には、層間の材料が溶解する問題もあった。
【0004】
かかる問題を改善する方法として、例えば、非特許文献1には、オリゴエチレンオキシ基で修飾したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を、ガラス表面の水酸基との水素結合を介してガラスに固定化する方法が記載されており、非特許文献2には、ガラス表面をアミノ基で修飾し、スルホン酸基を有するポリチオフェン誘導体をイオン結合によりガラスに固定化する方法が記載されている。また、非特許文献3や特許文献1には、1位をトリアルコキシシリルアルキル基若しくはトリハロゲノシリルアルキル基で修飾したピロール誘導体、又は3位をトリアルコキシシリルアルキル基若しくはトリハロゲノシリルアルキル基で修飾したチオフェン誘導体をガラス表面の水酸基と縮合させて固定化した後、ピロール又はチオフェンを重合させる方法が記載されている。また、特許文献2には、脱離反応性の異なる置換基を有するシリル基を両末端に有するオリゴアリーレン誘導体又はオリゴチオフェン誘導体を、片方のシリル基のみをガラス表面上に固定化して単分子層を作製後、未反応のシリル基を吸着反応サイトとして該単分子層を積層する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、非特許文献1や非特許文献2に記載された方法では、ガラスなどの基材と有機化合物とが弱い非共有結合により固定化されているため、上記物理的強度等の問題を完全には解決できておらず改善が望まれていた。また、非特許文献3や特許文献1に記載された方法では、ガラスなどの基材と有機化合物とが共有結合により固定化されているが、基材と接する単分子層だけが固定化されているため、有機薄膜全体の物理的強度の改善が望まれていた。さらに、ウェットプロセスにより有機層を重ね塗りする際の、層間の材料が溶解する問題については根本的に解決できておらず改善が望まれていた。また、特許文献2に記載された方法では、単分子層を形成するオリゴアリーレン誘導体やオリゴチオフェン誘導体の合成が煩雑であるとともに、単分子層を一層ずつ形成させる多層膜の製造プロセスに膨大な時間を要するため改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−223814号公報
【特許文献2】特開2006−13478号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gianni Zotti et al., Mono- and Multilayers of Oligoethylene Oxide-Modified Poly(3,4-ethylenedioxythiophene) on ITO and Glass Surfaces, Chem. Mater. 2003, Vol.15, No.11, p.2222-2228
【非特許文献2】Gianni Zotti et al., Multiple Adsorption of Polythiophene Layers on ITO/Glass Electrodes and Their Optical, Electrochemical, and Conductive Properties, Chem. Mater. 2001, Vol.13, No.1, p.43-52
【非特許文献3】Chun-Guey Wu et al., Chemical deposition of ordered conducting polypyrrole films on modified inorganic substrates, J. Mater. Chem. 1997, Vol.7, No.8, p.1409-1413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、物理的強度が良好で耐溶剤性に優れるとともに、導電材料やエレクトロクロミック材料として好適な導電性積層体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に、下記一般式(1):
【化1】

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、Aは、置換基を有してもよい2価の複素芳香環基及びアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1以上の整数であり、Bは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、及びSi(OR)(OR)(OR10)で示される基からなる群から選択される1種であり、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物からなる層が共有結合を介して形成されてなる導電性積層体を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、Aが置換基を有してもよいチエニレン基であることが好適であり、基材の表面層と縮合化合物からなる層との間の共有結合がシロキサン結合であることが好適である。また、基材の表面層が水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する下地層であることも好適な実施態様である。
【0011】
また、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に、下記一般式(1):
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n及びBは、前記と同義である。]
で示される化合物からなる層を形成した後に、該化合物からなる層に対して縮合剤を用いて縮合反応させることにより、縮合化合物からなる層を形成する導電性積層体の製造方法が好適な実施態様である。
【0012】
また、縮合剤を用いて下記一般式(1):
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n及びBは、前記と同義である。]
で示される化合物を縮合反応させ、得られた縮合化合物からなる層を水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に形成する導電性積層体の製造方法も好適な実施態様である。
【0013】
また、このとき、本発明の導電性積層体をドーピング処理して得られる導電材料が好適な実施態様であり、また、本発明の導電性積層体を電気化学的に酸化還元処理して得られるエレクトロクロミック材料も好適な実施態様である。
【0014】
また、上記課題は、下記一般式(2):
【化4】

[式中、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であって、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)の少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、mは3以上の整数である。]
で示される化合物を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、物理的強度が良好であるとともに耐溶剤性にも優れた導電性積層体及びその製造方法を提供することができる。こうして得られた導電性積層体は、ドーピング処理等により導電性が良好となり、優れたエレクトロクロミズムを示すため、導電材料やエレクトロクロミック材料として適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた導電性積層体のサイクリックボルタモグラムである。
【図2】実施例1で得られた導電性積層体の紫外可視吸収スペクトルである。
【図3】実施例2で得られた導電性積層体のサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する基材表面に、下記一般式(1)で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物からなる層が共有結合を介して形成されてなる導電性積層体を提供することができる。以下詳細について述べる。
【0018】
【化5】

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、Aは、置換基を有してもよい2価の複素芳香環基及びアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1以上の整数であり、Bは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、及びSi(OR)(OR)(OR10)で示される基からなる群から選択される1種であり、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
【0019】
上記一般式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基である。
【0020】
置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基は、直鎖や分岐鎖のアルキル基であってもよいし、環状のシクロアルキル基であってもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖や分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等のシクロアルキル基が挙げられる。ここで、縮合反応を容易に進行させるとともに、脱離するアルコールの除去効率の観点からR、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。また、溶解性を向上させる観点からR、R、R及びRの少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数4〜20のアルキル基であることが好ましい。
【0021】
置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルコキシ基は、直鎖や分岐鎖のアルコキシ基であってもよいし、環状のシクロアルコキシ基であってもよい。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等の直鎖や分岐鎖のアルコキシ基;シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプタニルオキシ基、シクロオクタニルオキシ基、シクロノナニルオキシ基、シクロデカニルオキシ基、シクロウンデカニルオキシ基、シクロドデカニルオキシ基等のシクロアルコキシ基が挙げられる。ここで、溶解性を向上させる観点からR、R、R及びRの少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数4〜20のアルコキシ基であることが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)において、Aは、置換基を有してもよい2価の複素芳香環基及びアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1以上の整数である。置換基を有してもよい2価の複素芳香環基としては、例えば、チエニレン基、フリレン基、ピロリレン基、イミダゾリレン基、チアゾリレン基、カルバゾリレン基、ピリジレン基、キノリレン基、ベンズオキサゾリレン基、ベンズイミダゾリレン基、ベンズチアゾリレン基、アゼピニレン基、キノキサリレン基等が挙げられる。また、置換基を有してもよいアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基、フルオレニレン基、ナフタセニリレン基、ピレニレン基、ペリレニレン基等が挙げられる。中でもチエニレン基、フェニレン基、ナフチレン基からなる群から選択される少なくとも1種がAとして好適に用いられ、チエニレン基がより好適に用いられる。ここで、上述の2価の複素芳香環基及びアリーレン基は置換基を有してもよく、かかる置換基としては、上記説明した炭素数1〜20のアルキル基が好適に用いられる。また、一般式(1)で示される化合物においてnが2以上の整数の場合、上記説明した任意のAが複数結合した一般式(1)で示される化合物が得られることとなる。
【0023】
また、上記一般式(1)において、Bは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、及びSi(OR)(OR)(OR10)で示される基からなる群から選択される1種であり、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基である。置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、上記R、R及びRのところで説明したものと同様のものを用いることができる。ここで、Bが水素原子又は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基からなる群から選択される1種である場合は、一般式(1)で示される化合物の片端におけるトリアルコキシシリル基同士が縮合反応して縮合化合物が得られることとなる。一方、BがSi(OR)(OR)(OR10)で示される基である場合、一般式(1)で示される化合物の両端におけるトリアルコキシシリル基同士がそれぞれ縮合反応して縮合化合物が得られることとなる。また、縮合反応を容易に進行させるとともに、脱離するアルコールの除去効率の観点からR、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0024】
ここで、一般式(1)で示される化合物の好適な実施態様は、下記一般式(2)で示される化合物である。下記一般式(2)で示される化合物は新規化合物である。
【0025】
【化6】

[式中、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であって、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)の少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、mは3以上の整数である。]
【0026】
上記一般式(2)で示される化合物において、R、R、R、R、R及びR10は、上記一般式(1)で示される化合物のところで説明したものと同様のものを用いることができる。また、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であって、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)の少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、少なくとも2つが置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であることが好ましい。溶解性を向上させる観点からR(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)の少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数4〜20のアルキル基又は炭素数4〜20のアルコキシ基であることが好ましい。また、上記一般式(2)においてmは3以上の整数であり、導電性の観点からmは6以上の整数であることが好ましい。
【0027】
本発明において、一般式(1)で示される化合物を得る方法としては、下記化学反応式(I)で示される工程1のように、一般式(3)で示される化合物から合成する方法が好ましい。
【0028】
【化7】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n及びBは、前記と同義である。]
【0029】
上記化学反応式(I)で示される工程1は、一般式(3)で示される化合物と有機リチウム化合物とを反応させてチオフェン環のα位をリチオ化し、次いで、ハロゲノトリアルコキシシランと反応させる方法である。なお、一般式(3)で示される化合物は、Synthetic Metals、60巻、239頁(1993年)、J.Org.Chem.,63巻、24号、8632頁(1998年)、Bull.Chem.Soc.J.,979頁(2001年)等に記載の方法によって合成することができる。ここで、有機リチウム化合物の使用量に応じて、一般式(3)で示される化合物の両端又は片端に導入されるトリアルコキシシリル基の制御が可能となる。上記工程1の好適な反応例としては、下記化学反応式(Ia)及び化学反応式(Ib)で示される反応が挙げられる。
【0030】
【化8】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A及びnは、前記と同義であり、R11は、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、Xは、ハロゲン原子である。]
【0031】
【化9】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n、R11及びXは、前記と同義である。]
【0032】
上記化学反応式(Ia)は、一般式(3)で示される化合物1モルと、2モル以上のR11Liで示される有機リチウム化合物とを反応させて2つのチオフェン環のα位をリチオ化し、次いでハロゲノトリアルコキシシランと反応させる方法である。一方、上記化学反応式(Ib)は、一般式(3)で示される化合物1モルと、2モル未満のR11Liで示される有機リチウム化合物とを反応させて1つのチオフェン環のα位をリチオ化し、次いでハロゲノトリアルコキシシランと反応させる方法である。
【0033】
ここで、R11は、置換基を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基等が挙げられる。置換基を有してもよいアルキル基としては、上記R、R及びRのところで説明したものと同様のものを用いることができる。置換基を有してもよいアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。また、置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0034】
11Liで示される有機リチウム化合物の好適な具体例としては、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物;ビニルリチウムなどのアルケニルリチウム化合物;フェニルリチウムなどのアリールリチウム化合物、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミドなどのリチウムアミド化合物などが挙げられる。これらの中でもアルキルリチウム化合物を用いることが好ましい。
【0035】
上記工程1で用いられる有機リチウム化合物の使用量については特に限定されないが、上記化学反応式(Ia)のように一般式(3)で示される化合物の両端にトリアルコキシシリル基を導入する場合は、一般式(3)で示される化合物1モルに対する有機リチウム化合物の使用量が2〜5モルであることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量が2モル未満の場合、2つ目のチオフェン環のα位がリチオ化されないおそれがあり、2.1モル以上であることがより好ましい。一方、有機リチウム化合物の使用量が5モルを超える場合、チオフェン環のβ位のリチオ化を併発するおそれがあり、4モル以下であることがより好ましい。また、上記化学反応式(Ib)のように一般式(3)で示される化合物の片端にのみトリアルコキシシリル基を導入する場合は、一般式(3)で示される化合物1モルに対する有機リチウム化合物の使用量が0.5〜2モル未満であることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量が0.5モル未満の場合、未反応の原料が過剰に残存することにより精製が煩雑になるおそれがあり、1モル以上であることがより好ましい。一方、有機リチウム化合物の使用量が2モル以上の場合、2つ目のチオフェン環のα位もリチオ化されてしまう割合が多くなり、一般式(3)で示される化合物の片端にのみトリアルコキシシリル基が導入された目的物の精製作業が煩雑になるおそれがあり、1.9モル以下であることがより好ましい。
【0036】
上記工程1において、一般式(3)で示される化合物と有機リチウム化合物とを反応させる際の反応温度については特に限定されず、−100〜20℃の範囲であることが好ましい。反応温度が−100℃未満の場合、反応速度が極めて遅くなるおそれがあり、−80℃以上であることがより好ましい。一方、反応温度が20℃を超える場合、リチウム化合物の分解を促進するおそれがあるとともに、THF等の溶媒を用いた場合に溶媒の分解を促進するおそれがあり、10℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1分〜20時間であることが好ましく、10分〜5時間であることがより好ましい。
【0037】
また、上記工程1で用いられるハロゲノトリアルコキシシランについては特に限定されず、ハロゲノトリアルコキシシランにおけるアルコキシ基の種類に応じて、リチオ化されたチオフェン環のα位に導入されるトリアルコキシシリル基が異なることとなる。ハロゲノトリアルコキシシランとしては、一般式(4):XSi(OR)(OR)(OR)[式中、R、R、R及びXは、前記と同義である。]で示される化合物や、一般式(5):XSi(OR)(OR)(OR10)[式中、R、R、R10及びXは、前記と同義である。]で示される化合物が好適に用いられる。一般式(4)及び一般式(5)で示される化合物中のR、R、R、R、R及びR10としては、上記一般式(1)で示される化合物のところで説明したものと同様のものが好適に用いられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。また、Xはハロゲン原子であり、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、中でも塩素、臭素、ヨウ素が好適に用いられる。
【0038】
上記工程1で用いられるハロゲノトリアルコキシシランの使用量については特に限定されず、上記化学反応式(Ia)のように一般式(3)で示される化合物の両端にトリアルコキシシリル基を導入する場合は、一般式(3)で示される化合物1モルに対するハロゲノトリアルコキシシランの使用量が2〜100モルであることが好ましい。ハロゲノトリアルコキシシランの使用量が2モル未満の場合、チオフェン環の両方のα位にトリアルコキシシリル基の導入が困難となるおそれがあり、5モル以上であることがより好ましい。一方、ハロゲノトリアルコキシシランの使用量が100モルを超える場合、過剰のハロゲノトリアルコキシシランの除去操作が煩雑になるおそれがあり、50モル以下であることがより好ましい。
【0039】
また、上記化学反応式(Ib)のように一般式(3)で示される化合物の片端にのみトリアルコキシシリル基を導入する場合は、一般式(3)で示される化合物1モルに対するハロゲノトリアルコキシシランの使用量が1〜50モルであることが好ましい。ハロゲノトリアルコキシシランの使用量が1モル未満の場合、未反応の原料が多く残存するおそれがあり、3モル以上であることがより好ましい。一方、ハロゲノトリアルコキシシランの使用量が50モルを超える場合、過剰のハロゲノトリアルコキシシランの除去操作が煩雑になるおそれがあり、30モル以下であることがより好ましい。
【0040】
また、上記工程1において、ハロゲノトリアルコキシシランを用いて反応させる際の反応温度については特に限定されず、−50〜50℃の範囲であることが好ましい。反応温度が−50℃未満の場合、反応速度が極めて遅くなるおそれがあり、0℃以上であることがより好ましい。一方、反応温度が50℃を超える場合、生成物の分解を促進するおそれがあり、30℃以下であることがより好ましい。反応時間は、1分〜20時間であることが好ましく、10分〜5時間であることがより好ましい。
【0041】
上記工程1におけるリチオ化反応、及びハロゲノトリアルコキシシランを用いた反応は、溶媒の存在下で行われることが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサンなどの飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、キシレン、エチルトルエンなどの芳香族炭化水素;ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系炭化水素;ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、テトラヒドロフランに代表されるエーテル溶媒が好適に用いられる。溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。かかる溶媒の使用量は、一般式(3)で示される化合物1質量部に対して、1〜1000質量部であることが好ましく、5〜500質量部であることがより好ましい。
【0042】
以上、一般式(1)で示される化合物等について説明した。続いて、この化合物等を用いて本発明の導電性積層体を製造する方法について以下詳細に説明する。
【0043】
本発明の導電性積層体は、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に、一般式(1)で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物からなる層が共有結合を介して形成されてなるものである。本発明で用いられる基材としては、少なくとも基材表面層に水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する物質からなるものであれば特に限定されない。このことにより、一般式(1)で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物と基材表面とが共有結合を介して結合されることとなる。このとき、基材表面と縮合化合物からなる層との間の共有結合がシロキサン結合であることが好ましい。基材表面が水酸基等の官能基を有しない場合には、例えば基材表面層に親水化処理を施すことによって、水酸基等を基材表面層に付与することができる。基材表面層の親水化処理は、過酸化水素水−硫酸混合溶液への浸漬や、紫外光の照射等により行うことができる。
【0044】
また、本発明では基材表面層が水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する下地層であることが好ましい。基材表面が水酸基等の官能基を有しない場合であっても、このような下地層が基材上に形成されることにより、一般式(1)で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物と共有結合を介して結合させることができる。
【0045】
上述のように本発明では、基材表面や基材上に形成された下地層が、水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有するものであれば特に限定されず、中でも水酸基を有することが好ましい。基材や下地層の具体例としては、例えば、水酸基を有するものとして、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、スズドープインジウム酸化物(ITO)、ガラス、石英ガラスなどの無機酸化物;シリコン、ゲルマニウムなどの元素半導体やGaAs、InGaAs、ZnSeなどの化合物半導体等の半導体;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの絶縁性の高分子;銀、銅、アルミニウム、チタン、タンタル、タングステン等の金属等;アミノ基またはチオール基を有するものとして、上記の具体例で例示した物質にアミノ基またはチオール基を導入した物質等;から任意のものを採用することができる。中でも、ガラス等に代表される無機酸化物が基材として好適に用いられる。また、スズドープインジウム酸化物、酸化亜鉛、酸化チタンが下地層として好適に用いられる。なお、上記で具体例を挙げた無機酸化物、半導体および金属は、大気中に露出する最表面層に水酸基を有している状態のものをいう。
【0046】
本発明の導電性積層体は、上記基材表面に一般式(1)で示される化合物からなる層を形成した後に、該化合物からなる層に対して縮合剤を用いて縮合反応させて、縮合化合物からなる層を形成する方法(以下、「薄膜形成方法A」と略記することがある。)によって好適に製造される。このとき、薄膜形成方法Aでは、一般式(1)で示される化合物からなる層が塗布等により基材表面に形成され、その後乾燥工程を得る方法がより好適に採用される。また、本発明の導電性積層体は、縮合剤を用いて一般式(1)で示される化合物を縮合反応させ、得られた縮合化合物からなる層を上記基材表面に形成する方法(以下、「薄膜形成方法B」と略記することがある。)によっても好適に製造される。このとき、薄膜形成方法Bでは、縮合化合物からなる層が塗布等により基材表面に形成され、その後乾燥工程を得る方法がより好適に採用される。
【0047】
薄膜形成方法A及び薄膜形成方法Bにおいて用いられる縮合剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p−トルエンスルホン酸などのプロトン酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化物;テトラメチルアンモニウムフルオリド、テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリドなどのアンモニウムフルオリドなどが挙げられる。中でも、塩酸等に代表されるプロトン酸やテトラブチルアンモニウムフルオリド等に代表されるアンモニウムフルオリドが好適に用いられ、テトラブチルアンモニウムフルオリド等に代表されるアンモニウムフルオリドがより好適に用いられる。
【0048】
薄膜形成方法A及び薄膜形成方法Bにおいて用いられる縮合剤の使用量は特に限定されず、一般式(1)で示される化合物1モルに対して、0.01〜0.5モルであることが好ましい。縮合剤の使用量が0.01モル未満の場合、縮合反応が極めて遅くなるおそれがあり、0.05モル以上であることがより好ましい。一方、縮合剤の使用量が0.5モルを超える場合、縮合剤が積層体の性能を低下させるおそれがあり、0.2モル以下であることがより好ましい。
【0049】
薄膜形成方法Aの場合、モノマーを溶解させず、触媒が溶解する溶媒(たとえば水)が好ましく、薄膜形成方法Bの場合、モノマーも触媒も溶解する溶媒(たとえばTHFやアルコール)が好ましい。また、薄膜形成方法Aにおいて使用される溶媒としては、化合物(1)、(2)に対する溶解度が小さく、縮合剤の溶解度が大きい溶媒であれば特に限定されず、上記工程1の説明のところで用いた溶媒と同様のものを用いることができ、中でも、水またはメタノール、エタノールに代表されるアルコール溶媒が好適に用いられる。また、薄膜形成方法Bにおいて使用される溶媒としては、化合物(1)、(2)および縮合剤を溶解するものであれば特に限定されず、上記工程1の説明のところで用いた溶媒と同様のものを用いることができ、中でも、テトラヒドロフランに代表されるエーテル溶媒またはメタノール、エタノールに代表されるアルコール溶媒が好適に用いられる。溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。かかる溶媒の使用量は、一般式(1)で示される化合物1質量部に対して、0.01〜1000質量部であることが好ましく、0.05〜500質量部であることがより好ましい。
【0050】
薄膜形成方法A及び薄膜形成方法Bにおいて、縮合反応させる際の反応温度については特に限定されず、0〜100℃の範囲であることが好ましい。反応温度が0℃未満の場合、反応速度が極めて遅くなるおそれがあり、20℃以上であることがより好ましい。一方、反応温度が100℃を超える場合、縮合化合物の分解を促進するおそれがあり、50℃以下であることがより好ましい。反応時間は、0.1〜100時間であることが好ましく、1〜80時間であることがより好ましい。
【0051】
薄膜形成方法A及び薄膜形成方法Bにおける乾燥工程としては、大気圧下又は減圧下で、必要に応じて加熱することにより好適に行われる。減圧下で行う際の圧力条件としては、1Pa〜大気圧の範囲であることが好ましい。また、加熱する際の温度条件としては、30〜300℃の範囲であることが好ましく、薄膜の安定性の観点から30〜200℃の範囲であることがより好ましい。
【0052】
こうして得られる本発明の導電性積層体は、基材表面又は基材上に形成された下地層と一般式(1)で示される化合物が縮合されて得られる縮合化合物からなる層とが共有結合を介して結合されているため、物理的強度が良好である。更に、本発明の導電性積層体は、一般式(1)で示される化合物が縮合されて得られる縮合化合物からなる層により薄膜が形成されているため、耐溶剤性にも優れている。ここで、本発明の導電性積層体における縮合化合物からなる層の厚さとしては特に限定されず、1〜1000nmであることが好ましく、1〜300nmであることがより好ましい。
【0053】
本発明の導電性積層体は、通常中性状態として得られるが、例えば、技術情報協会出版「最新 導電性材料 技術大全集[上巻]」、130−144頁、2007年出版等に記載の方法によりドーピング処理を行い、導電性を高めることができる。したがって、本発明の導電性積層体をドーピング処理して得られる導電材料が好適な実施態様である。
【0054】
ドーピング処理の具体例としては、例えば、導電性積層体を大気圧や減圧下においてドーパントの蒸気に暴露する方法、ドーパントを含む溶液中で導電性積層体を電気化学的に酸化する方法、ドーパントを含む溶液に導電性積層体を接触させる方法などが挙げられる。また、用いられるドーパントとしては、例えば、I、Cl、Br、ICl、ICl、IBr及びIFなどのハロゲン;PF、AsF、SbF、BF、BCl、SbCl、BBr及びSOなどのルイス酸;硝酸、硫酸、過塩素酸、フッ化水素、塩化水素などのプロトン酸;トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの有機酸の陰イオン;FeCl、FeOCl、Fe(ClO、Fe(4−CHSO、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、NbCl、TaCl、MoF、MoCl、WF、WCl、UF及びLnCl(Ln=ランタノイド)などの遷移金属化合物;Cl、Br、I、I、HSO、SO2−、NO、ClO、BF、PF、AsF、SbF、FeCl、Fe(CN)3−などの陰イオンが挙げられる。
【0055】
また、本発明の導電性積層体を電気化学的に酸化還元処理した後述の実施例1から分かるように、脱ドーピング時に黄色であったものから電圧印加によってドーピング時に青色に変化するエレクトロクロミック特性を有することが本発明者らにより確認されている。したがって、本発明の導電性積層体を電気化学的に酸化還元処理して得られるエレクトロクロミック材料が好適な実施態様である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0057】
実施例1
[式(1a―1)で示される化合物(BSTO8T)の合成]
(合成例1)
式(3a)で示される化合物(以下「TO8T」と略記することがある。)50mg(45μmol)を入れたナス型フラスコをアルゴン置換したのち、THFを2.5mL加えて、TO8Tを完全に溶解させた。この溶液を0℃に保った後、n−ブチルリチウム(2.77M)を60μL(166μmol)加え、0℃で30分攪拌した。得られた溶液を、トリエトキシクロロシラン0.35g(1.77mmol)のTHF(2.5mL)溶液に、0℃でゆっくりと滴下した。0℃で30分、室温で3時間攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(充填剤:シリカゲル(関東化学、シリカゲル60N)、展開溶媒:ジクロロメタン、カラム径:1.5cm、カラム長:10cm)により精製し、式(1a−1)で示される化合物(以下、「BSTO8T」と略記することがある。)54.8mg(収率:85%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0058】
【化10】

【0059】
式(1a−1)で示される化合物(BSTO8T)のNMRデータは以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz、CDCl、TMS) δ:0.88(t,6H,J=7.7Hz),0.90(t,6H,J=7.7Hz),1.26(t,18H,J=6.8Hz),1.2−1.5(bs,40H),1.67(tt,4H,J=7.7Hz),1.68(tt,4H,J=7.7Hz),2.79(t,4H,J=7.7Hz),2.81(t,4H,J=7.7Hz),3.89(q,12H,J=6.8Hz),7.06(s,2H),7.09(d,2H,J=3.9Hz),7.11(d,2H,J=3.9Hz),7.18(d,4H,J=3.9Hz),7.26(s,2H).
【0060】
[BSTO8Tを縮合反応させて得られる縮合化合物(PBSTO8T)からなる層が形成された導電性積層体の製造及びその特性評価]
合成例1で得られたBSTO8Tを6mg(4.2μmol)含むTHF(0.5mL)溶液に塩酸(10mmol/L)を30μL(0.3μmol)加えて室温、アルゴン雰囲気中で攪拌し、BSTO8Tの縮合化合物(以下、「PBSTO8T」と略記することがある。)のテトラヒドロフラン溶液を得た。攪拌開始から1時間、12時間、24時間及び48時間後に、それぞれ溶液の一部をスライドガラス基板及びITO膜付ガラス基板(表面抵抗値:10Ω/□)上にスピンコート(1500rpm,20秒)し、真空下で100℃、30分アニーリング処理を行って導電性積層体を得た。本発明の導電性積層体における縮合化合物からなる層の厚さは80nmであった。得られた導電性積層体において、PBSTO8T薄膜が耐溶剤性を有してガラス基板上に固定化されているかを確認する目的で、それぞれの導電性積層体をアセトン(20mL)に浸漬し、1分間超音波洗浄を行ったところ、いずれのPBSTO8T薄膜が剥離する様子は観測されなかった。また、引っかき硬度試験(JIS K5600−5−4:1999)を行ったところ、5Hまで膜に変形が認められなかった。尚、このスライドガラス基板及びITO膜付ガラス基板は、赤外反射スペクトルのATR測定により、3000〜3500cm−1付近に吸収が見られたことから、それぞれの基材の表面層にOH基を有していることを確認した。
【0061】
比較例1
合成例1で得られたBSTO8Tを6mg(4.2μmol)含むTHF(0.5mL)溶液を、スライドガラス基板及びITO膜付ガラス基板(表面抵抗値:10Ω/□)上にスピンコート(1500rpm,20秒)し、真空下で100℃、30分アニーリング処理を行ってBSTO8Tの導電性積層体を得た。得られた導電性積層体の厚さは60nmであった。得られた導電性積層体において、BSTO8T薄膜が耐溶剤性を有してガラス基板上に固定化されているかを確認する目的で、この導電性積層体をアセトン(20mL)に浸漬し、1分間超音波洗浄を行ったところ、BSTO8T薄膜が消失した。
【0062】
実施例1と比較例1との対比から、本発明により得られる導電性積層体におけるPBSTO8T薄膜が、スライドガラス基板及びITO膜付ガラス基板上に強固に固定されていると言える。
【0063】
ITO膜付ガラス基板上にPBSTO8T薄膜が形成された上記導電性積層体を陽極、白金線を陰極、銀/過塩素酸銀(0.1Mアセトニトリル溶液)を参照極として配置した電解槽に、0.1M過塩素酸テトラエチルアンモニウム/アセトニトリル溶液30mLを加え、窒素置換を行った。この電解槽の各電極に、北斗電工(株)製ポテンショスタット/ガルバノスタットHAB−151を接続し、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。次いで、印加電圧を0.0Vおよび0.6Vとして、それぞれの電圧で紫外可視吸収スペクトルを測定したところ、ドープ状態(0.6V印加時)では長波長側に新たな吸収ピークが現れ、肉眼でも黄色から青色への変化が確認された。CV測定及び紫外可視吸収スペクトル測定の結果を図1及び図2に示す。この結果から、本発明の導電性積層体を電気化学的に酸化還元処理することにより、優れたエレクトロクロミック特性を示すことが分かった。
【0064】
また、スライドガラス基板上にPBSTO8Tの薄膜が作製された上記導電性積層体を、ガラス基板ごと塩化鉄(III)の10mMクロロホルム溶液に室温で1時間含浸させた。このPBSTO8Tの薄膜をクロロホルムで洗浄後、乾燥させて導電率を四端子法で測定したところ、3.0×10−1S/cmであった。この結果から、本発明の導電性積層体をドーピング処理することにより、優れた導電性を示すことが分かった。
【0065】
実施例2
[式(1a−2)で示される化合物(BSDO6T)の合成]
(合成例2)
合成例1において、式(3a)で示される化合物(TO8T)を50mg(45μmol)用いる代わりに、式(3b)で示される化合物(以下「DO6T」と略記することがある。)を32.4mg(45μmol)用いた以外は、合成例1と同様にして反応及び後処理を行い、式(1a−2)で示される化合物(以下、「BSDO6T」と略記することがある。)36.6mg(収率:78%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0066】
【化11】

【0067】
式(1a−2)で示される化合物(BSDO6T)のNMRデータは以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ:0.88(t,6H,J=6.8Hz),1.27(t,18H,J=6.8Hz),1.2−1.5(bs,20H),1.68(tt,4H,J=6.8Hz),2.77(t,4H,J=6.8Hz),3.91(q,12H,J=6.8Hz),7.05(d,2H,J=3.9Hz),7.07(s,2H),7.14(d,2H,J=3.9Hz),7.25(d,2H,J=3.9Hz),7.35(d,2H,J=3.9Hz).
【0068】
[BSDO6Tからなる層を形成した後に縮合反応させ、得られる縮合化合物(PBSDO6T)からなる層が形成された導電性積層体の製造及びその特性評価]
合成例2で得られたBSDO6Tを6mgテトラヒドロフラン0.5mLに溶かし、洗浄したITO膜付ガラス基板(表面抵抗値:10Ω/□)上にスピンコート(1500rpm、20秒)した。得られたBSDO6Tの薄膜がコートされたITO膜付ガラス基板を、縮合剤である0.1Mテトラn−ブチルアンモニウムフルオリド水溶液に48時間浸漬させることにより、BSDO6Tの縮合化合物(以下、「PBSDO6T」と略記することがある。)からなる層を形成し、真空下、100℃、30分アニーリング処理を行って導電性積層体を得た。本発明の導電性積層体における縮合化合物からなる層の厚さは60nmであった。得られた導電性積層体において、PBSTO6T薄膜が耐溶剤性を有してガラス基板上に固定化されているかを確認する目的で、上記導電性積層体をアセトン(20mL)に浸漬し、1分間超音波洗浄を行ったところ、PBSDO6T薄膜が剥離する様子は観測されなかった。
【0069】
ITO膜付ガラス板上にPBSDO6T薄膜が形成された導電性積層体を用いて、実施例1と同様にしてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。得られた結果を図3に示す。
【0070】
実施例3
[式(1b−1)で示される化合物(MSDO6T)の合成]
(合成例3)
合成例1において、式(3a)で示される化合物(TO8T)を50mg(45μmol)用いる代わりに、式(3b)で示される化合物(DO6T)を32.4mg(45μmol)用い、n−ブチルリチウム(2.77M)の使用量を30μLに変更し、トリエトキシクロロシランの使用量を0.18gに変更した以外は、実施例1と同様にして反応及び後処理を行い、式(1b−1)で示される化合物(以下、「MSDO6T」と略記することがある。)33.7mg(収率:85%)を得た。化学反応式を以下に示す。
【0071】
【化12】

【0072】
式(1b−1)で示される化合物(MSDO6T)のNMRデータは以下のとおりであった。
H−NMR(400MHz,CDCl) δ:0.88(t,6H,J=6.8Hz),1.27(t,9H,J=6.8Hz),1.2−1.5(bs,20H),1.68(tt,4H,J=6.8Hz),2.77(t,4H,J=6.8Hz),3.91(q,6H,J=6.8Hz),7.02(s,1H),7.01−7.06(m,2H),7.07(s,1H),7.14(d,2H,J=3.9Hz),7.17(d,1H,J=3.9Hz),7.22(d,2H,J=3.9Hz),7.25(d,1H,J=3.9Hz),7.35(d,1H,J=3.9Hz).
【0073】
[MSDO6Tからなる層を形成した後に縮合反応させ、得られる縮合化合物(PMSDO6T)からなる層が形成された導電性積層体の製造]
実施例2において、式(1a−2)で示される化合物(BSDO6T)20mgを用いる代わりに、合成例3で得られた式(1b−1)で示される化合物(MSDO6T)20mgを用いた以外は、実施例2と同様にして導電性積層体を得た。本発明の導電性積層体における縮合化合物からなる層の厚さは70nmであった。得られた導電性積層体において、PMSDO6T薄膜が耐溶剤性を有してガラス基板上に固定化されているかを確認する目的で、上記導電性積層体をアセトン(20mL)に浸漬し、1分間超音波洗浄を行ったところ、PMSDO6T薄膜が剥離する様子は観測されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に、下記一般式(1):
【化1】

[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、Aは、置換基を有してもよい2価の複素芳香環基及びアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1以上の整数であり、Bは水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基、及びSi(OR)(OR)(OR10)で示される基からなる群から選択される1種であり、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物を縮合反応させて得られる縮合化合物からなる層が共有結合を介して形成されてなる導電性積層体。
【請求項2】
Aが置換基を有してもよいチエニレン基である請求項1記載の導電性積層体。
【請求項3】
基材の表面層と縮合化合物からなる層との間の共有結合がシロキサン結合である請求項1又は2記載の導電性積層体。
【請求項4】
基材の表面層が水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有する下地層である請求項1〜3のいずれか記載の導電性積層体。
【請求項5】
水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に、下記一般式(1):
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n及びBは、前記と同義である。]
で示される化合物からなる層を形成した後に、該化合物からなる層に対して縮合剤を用いて縮合反応させることにより、縮合化合物からなる層を形成する請求項1〜4のいずれか記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項6】
縮合剤を用いて下記一般式(1):
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、R、R、A、n及びBは、前記と同義である。]
で示される化合物を縮合反応させ、得られた縮合化合物からなる層を水酸基、アミノ基及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種の基を少なくとも表面層に有する基材の表面に形成する請求項1〜4のいずれか記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか記載の導電性積層体をドーピング処理して得られる導電材料。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか記載の導電性積層体を電気化学的に酸化還元処理して得られるエレクトロクロミック材料。
【請求項9】
下記一般式(2):
【化4】

[式中、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)は、それぞれ独立して水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であって、R(1)〜R(m)及びR’(1)〜R’(m)の少なくとも1つが置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、mは3以上の整数である。]
で示される化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−266727(P2010−266727A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118488(P2009−118488)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月15日 2008年日本化学会西日本大会実行委員会発行の「2008年日本化学会西日本大会 講演要旨集」 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会 講演予稿集II」
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】