説明

導電性粉体の製造方法

【課題】樹脂粉と導電粉とを用いる導電性粉体の製造方法であって、得られる導電性粉体で成形体を製造した場合に、外観不良が生じ難く、密度や強度が高く導電性も優れる成形体を得ることが可能な、製造方法を提供すること。
【解決手段】粒径が200μm以下の樹脂粉と、平均粒径が5〜300μmの導電粉とを、前記樹脂粉が軟化する温度の気体中で浮遊及び衝突させ、前記導電粉を前記樹脂粉の少なくとも表面に付着させて造粒を行う、導電性粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粉と炭素微粒子とから炭素複合粒子を製造する方法として、樹脂等からなる粉体粒子とナノ構造体の炭素粒子とを混合状態で圧縮力と剪断力を付与させて、粉体粒子の表面に炭素粒子を固定または被覆、あるいは炭素粒子の表面に粉体粒子を固定または被覆させて複合化する製造方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−14201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素微粒子と樹脂粉から得られる複合粒子は、加熱及び加圧して成形体を製造するために用いられることがあるが、複合粒子の形状や種類によっては、外観不良が生じたり、力学特性が不十分になることがあった。また、成形体を導電材料として用いる場合に、抵抗が高く期待する導電性が得られない場合があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、樹脂粉と導電粉とを用いる導電性粉体の製造方法であって、得られる導電性粉体で成形体を製造した場合に、外観不良が生じ難く、密度や強度が高く導電性も優れる成形体を得ることが可能な、製造方法を提供することにある。本発明の目的はまた、この製造方法により得ることのできる導電性粉体及びこの導電性粉末から得ることのできる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、粒径が200μm以下の樹脂粉と、平均粒径が5〜300μmの導電粉とを、上記樹脂粉が軟化する温度の気体中で浮遊及び衝突させ、上記導電粉を上記樹脂粉の少なくとも表面に付着させて造粒を行う、導電性粉体の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の製造方法により得られる導電性粉体から成形体を製造すると、上記特許文献1に記載のような従来の製造方法で得られる粉体で製造した成形体に比べ、外観不良が低減され、密度が高く、曲げ強度などの力学特性に優れ、抵抗が低く抑えられ導電性が高い成形体を得ることができる。
【0008】
また、本発明の製造方法では、樹脂粉と導電粉を気体中で浮遊させ、樹脂粉が軟化した状態(典型的には、表面が粘着性になった状態)で衝突させることから、これらの粉体に圧縮や剪断といった大きなエネルギーを付与する必要がない。このために、低コストで効率的に導電性粉体を製造できる。また、樹脂粉と導電粉が所定の平均粒径を有しているため、気体中で浮遊が容易であり、また浮遊した状態で相互に衝突して造粒がされることから、導電粉が圧力や剪断力で破砕されることがない。したがって、導電粉の形状変化や性状変化が防止され、安定した性状且つ粒径分布の狭い導電性粉体を製造できる。同様の製造方法でも、造粒を樹脂粉が軟化する温度未満で行った場合は、樹脂粉の粒径から予想される粒径とは異なる導電性粉体が得られる傾向にある。なお、樹脂粉が軟化する温度とは、樹脂表面に粘着性(タック)が生じる温度、又は外力を加えなくとも樹脂粉に変形を生じ得る温度を意味する。
【0009】
本発明の製造方法においては、攪拌手段を内部に備え上記気体で満たされた容器中で、上記の造粒を行うことができる。容器中に上記樹脂粉及び導電粉を入れ、樹脂粉の表面が軟化する温度の気体中で浮遊及び衝突させることにより、両粉体を短時間に確実に衝突させることができることから、製造効率が向上する。また、容器中の温度制御が容易であることから、樹脂粉の表面の軟化状態が均一になり、全体としてより均一な導電性粉体を得ることができる。この結果、導電性粉体から得られる成形体に外観不良が生じ難く、成形体の密度が高く、強度や導電性についてもさらに優れるようになる。
【0010】
樹脂粉と導電粉を浮遊及び衝突させるための媒体である上記気体は、樹脂粉の軟化点又は融点以上にすることが好ましい。樹脂粉と導電粉は衝突により熱が発生する場合があるため、必ずしも気体を樹脂が軟化又は溶融する温度にする必要なないが、軟化点又は融点以上にすることにより、確実な造粒が可能になる。なお、樹脂粉は少なくともその表面が軟化していればよく、樹脂粉全体が溶融している必要はない。むしろ樹脂粉の表面だけが軟化している状態で浮遊させ、導電粉と衝突させる方が、衝突による形状変化をより少なくできるため好ましい。形状変化の少なさは、成形後の優れた外観につながり、また緊密に圧粉できるため密度を高くすることができ、それにより強度や導電性の更なる向上に繋がる。
【0011】
樹脂粉の表面が軟化するための温度としては、40℃以上が好ましい。この温度が40℃以上の場合、樹脂粉自体が室温で粘着性や可塑性を有していないことが多いため、結果として得られる導電性粉体の安定性が向上する。したがって、製造後、室温で長期間保管した後でも、導電性粉体同士が凝集して形状にばらつきが生じることが防止され、その結果、保管や流通の後でも、上記性能に優れた成形体を得ることができる。
【0012】
耐熱性や電気特性に優れることから、樹脂粉としてはフェノール樹脂粉を用いることが好ましく、気体中の浮遊が容易でありまた導電性に優れることから、導電粉としては黒鉛粉が好ましい。このような成形体を採用することで、外観に優れ、密度が高く強度や導電性に特に優れた成形体を得ることができる。
【0013】
本発明はまた、以上説明した製造方法により得ることのできる導電性粉体を提供する。この導電性粉体は、上述のように安定した性能を有している。また、この導電性粉体は、樹脂粉の少なくとも表面に導電粉が付着した導電性粉体であり、樹脂粉の表面に導電粉が付着することにより、優れた導電性粉体が得られるだけではなく、導電性粉体同士の凝集が増加することによる粒度分布の広がり及び流動性の悪化、並びに成形性の低下を防ぐことができる。
【0014】
本発明はさらに、上記導電性粉体から得ることのできる成形体を提供する。この成形体は、導電性粉体を加熱及び加圧して得ることが可能で、外観不良が低減され、密度、強度及び導電性においても優れている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造途中における炭素粒子等の導電粉の性状変化が少なく、圧縮や剪断といった大きなエネルギーを付与しなくても効率的に粒径分布の狭い複合粉体を得ることができる、導電性粉体の製造方法が提供される。本発明の製造方法で得られる成形体を製造すると、外観不良が低減され、密度や強度が高く、導電性においても優れた成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(d)は、導電性粉体の製造方法に用いることのできる造粒機を概略的に示す断面図である。
【図2】導電性粉体の製造方法に用いることのできる造粒機を概略的に示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、実施形態に係る導電性粉体の製造方法を表わす概念図である。
【図4】実施例で得られた導電性粉体の走査顕微鏡写真である。
【図5】比較例で得られた導電性粉体の走査顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0018】
図1(a)〜(d)は、導電性粉体の製造方法に用いることのできる、攪拌手段を内部に備えた容器(造粒機)を概略的に示す断面図である。
【0019】
図1(a)に示す造粒機101は、蓋2と容器本体4とから構成される筐体5の内面底部に、攪拌手段である攪拌羽根6を備える造粒機であり、攪拌羽根6が回転することにより、筐体5の内部に導入された樹脂粉及び導電粉が、同じく筐体5内部に導入された気体の対流により浮遊し衝突する。なお、図示はしていないが、筐体5内部を加温するためのヒータ(例えば、温水又は加熱オイル循環機構)を、蓋2及び/又は容器本体4の内面若しくは外面に設置してもよい。なお、ヒータは、蓋2及び/又は容器本体4の内部に挿入されたものであってもよい。造粒機101は、蓋2と容器本体4とを密着させ気密性が保持できるようになっている。また、造粒機101内部に対してガスを流入又は流出させるようにして、加圧又は減圧が可能な構造としてもよい。
【0020】
図1(b)に示す造粒機102は、攪拌羽根6を筐体5の内面側部にも攪拌羽根6を備える他は、造粒機101と同様の構成を有しており、図1(c)に示す造粒機103は、造粒機102の内面側部の攪拌羽根6の対向面にさらに攪拌羽根6を備える他は、造粒機102と同様の構成を有している。造粒機102及び103においては、内面底部の攪拌羽6と内面側部の攪拌羽根6は、そのサイズを異なるようにすることができる。また、攪拌羽根6それぞれで、回転速度や羽根形状が異なっていてもよい。造粒機102及び103においても、攪拌羽根6の回転により、樹脂粉及び導電粉が気体の対流により浮遊し衝突する。なお、これらの造粒機にヒータを設け得る点、気密性が保持され、加圧・減圧を可能とし得る点については、造粒機101と同様である。
【0021】
図1(d)に示す造粒機104は、蓋2と容器本体4とから構成される筐体5の対向する内面側部間に、連結攪拌羽根7を設けた造粒機である。造粒機104においては、連結攪拌羽根7は、同一の軸に複数の攪拌子が設けられて構成され、この軸の両端が内面側部に回動可能に取り付けられている。連結攪拌羽根7のそれぞれの攪拌子のサイズは同一でも異なっていてもよい。造粒機104においても、連結攪拌羽根7の回転により、樹脂粉及び導電粉が気体の対流により浮遊し衝突する。なお、これらの造粒機にヒータを設け得る点、気密性が保持され、加圧・減圧を可能とし得る点については、造粒機101と同様である。
【0022】
図2は、造粒機2の変形態様を示すものである。図2に示す造粒機105は、蓋2と容器本体4とから構成される筐体5の内面底部及び内面側部に、攪拌羽根6を備える造粒機であり、攪拌羽根6と容器本体4との間の容器本体4の内面上にエア吐出口8を供えている。造粒機105においても、攪拌羽根6の回転により、樹脂粉及び導電粉が気体の対流により浮遊し衝突するが、エア吐出口8から吐出されるエアにより、攪拌羽根6と容器本体4との間に入り込んで浮遊が困難となった樹脂粉又は金属粉を、再び浮遊させることが可能になり、より均一性の高い導電性粉体を得ることができる。エア吐出口8は、攪拌羽根6の双方又は一方の近傍に設置することが好ましく、一方のみ設置する場合は、内面底部の攪拌羽根6付近に設置することが好ましい。これにより、重力により落下してくる樹脂粉や金属粉を効果的に再浮遊させることができる。
【0023】
次に、造粒機102を用いて本発明の導電粉体の製造方法を実施する実施形態について説明する。
【0024】
図3は、実施形態に係る導電性粉体の製造方法を表わす概念図であり、(a)は製造の初期、(b)は製造の中期、(c)は製造の後期を表す断面図である。
【0025】
まず、造粒機102の蓋2の開閉により、内面底部及び側部に攪拌羽根6を備える容器本体4中に、樹脂粉10及び導電粉12を導入する。この際、樹脂粉10及び導電粉12を浮遊させる気体9も導入する。但し、気体9として空気を適用する場合は、特に気体9を導入する必要はない。次に、ヒータ(図示せず)により、造粒機102内部の気体9を加熱し、樹脂粉10の表面が軟化する温度にする。なお、樹脂粉10及び導電粉12は同時に入れる必要はなく、別々に容器本体4中に導入してもよい。また、加熱を、樹脂粉10及び導電粉12が導入される前に開始していても、導入後に加熱を開始してもよい。加熱する温度は、樹脂粉10の樹脂のタイプや粒径等に従って決定する。
【0026】
上記のようにして、造粒機102内部に、樹脂粉10、導電粉12及び気体9を導入した状態で、攪拌羽根6を回転させ、樹脂粉10及び導電粉12を気体9中に浮遊させる(図2(a))、この場合において、樹脂粉10の表面が軟化する温度(例えば軟化点又は融点以上)に気体9を設定する。この状態で攪拌を続行させることで、樹脂粉10及び導電粉12を衝突させる。樹脂粉10は軟化温度に加熱されているため、表面に粘着性が生じ、浮遊する導電粉12と衝突することで、その表面に導電粉12が徐々に付着してくる(図3(b))。さらに攪拌が進むと、樹脂粉10と導電粉12が一体化して造粒され導電性粉体14が生じる(図3(c))。
【0027】
このように、樹脂粉10の温度が軟化する温度(例えば軟化点又は融点)に達する時に発現する粘着性を利用し、樹脂粉10の表面に導電粉12を均一に付着させることが可能なことから、安定した粒体流動及びシャープな粒度分布を有する導電性粉体14を製造することができる。また、圧縮力や高い剪断力を適用する必要がなく、また有機溶剤を使用しないため、得られる導電性粒子14は、分級工程及び溶剤除去工程の必要がなく、使用する材料の性状変化が抑えられている。また、このような導電性粒子14が、環境及び安全性並びにコストにも優れた方法で製造することができる。この結果、導電性粉体から得られる成形体に外観不良が生じ難く、成形体の密度が高く、強度や導電性についても優れるようになる。
【0028】
樹脂粉10の粒径は、造粒時間、均一造粒、成形体の外観、及び成形体の物性に大きく影響する重要な因子であり、粒径が200μm以下のものを用いる。樹脂粉10は、粒径が150μm以下のものを用いることが好ましい。また、樹脂粉10は、粒径が200μm以下であるが、63μmを超え106μm以下の粒子が50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましい。樹脂粉10の粒径を200μm以下とするためには、200μm以下のものは通過し、200μmを超えるものは通過しないような篩で、樹脂粉を分級する方法が採用できる。なお、樹脂粉10の粒径の最小値は特に設定しないが、例えば1μmとすることができる。
【0029】
樹脂粉10の粒径が200μmを越すと、樹脂粉10の浮遊に時間がかかったり困難になる場合があり、また樹脂粉10の溶融に時間がかかり、得られる導電性粉体14の粒径が大きくなる。この結果、導電粉を用いて成形体を製造する場合の、成形性や、密度均一性が悪化し、物性も低下してしまう。
【0030】
導電性の優れた導電性粉体を得るため、溶融した樹脂粉10の表面に導電粉12が充分付着する必要がある。したがって、樹脂粉10の粒径は、導電粉12の粒径よりも大きいことが好ましい。例えば、分級等で、樹脂粉10の最大粒径を、導電粉12の最大粒径よりも大きくすることが好ましい。
【0031】
樹脂粉の構成成分として液状樹脂を用いると、成形体の製造に硬化が必要となり、硬化に伴う収縮やひずみの問題が生じたり、得られる成形体(硬化物)が硬くて脆くなる場合があるため、樹脂粉10は室温(25℃)で固形のものが好ましい。樹脂粉10は、最初から粉状で提供されるものであっても、塊(固形樹脂)として提供されるものを粉砕したものであってもよい。固形樹脂を使用する場合、例えば粉砕機を用いて粉砕して分級し、所望の粒径にして使用される。固形樹脂を粉砕する際、粉砕機内で樹脂粉が粉砕熱により溶融してゲル化することを防ぐため、粉砕部を冷却してもよい。
【0032】
本発明で使用する樹脂粉10の融点又は軟化点については、最終性状が成形粉を目的とするため、取り扱い性や作業性の観点から、融点又は軟化点が40℃以上の樹脂が好ましい。融点又は軟化点は、より好ましくは40℃〜150℃であり、さらには50℃〜120℃である。なお、樹脂粉10の融点は、例えばJISK7121−1987に従って測定でき、樹脂粉10の軟化点は、樹脂の種類に従って、荷重たわみ温度測定、ビカット軟化温度(例えば、JIS K7206−1991)、ボール&リング法等で測定できる。
【0033】
融点又は軟化点が40℃未満の樹脂粉10を使用した場合、夏季や温度の高い環境で樹脂粉10の溶融が進行して導電性粉体14同士の凝集が増加し、導電性粉体14の粒度分布の幅が広くなり、更に流動性が悪化して、成形性が低下する場合がある。
【0034】
融点又は軟化点が150℃を超える樹脂粉10を使用した場合、造粒に使用する造粒機を加熱する媒体として、例えば水及び油が使用できず、特殊な加熱法が必要となり、高価な設備が必要となる場合がある。
【0035】
樹脂粉10を構成する樹脂としては、一般的な熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、これらの樹脂の混合樹脂が使用できる。熱硬化性樹脂としては、固形フェノール樹脂や固形エポキシ樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、耐熱性が優れていて、例えば常時100℃付近で使用される部材や放熱板等、高温にさらされる部材に適用する場合に適している。熱硬化性樹脂としては、電気特性及び耐熱性に優れるフェノール樹脂(特に、固形レゾール型フェノール樹脂)が好ましい。樹脂粉10を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂や固形アクリル樹脂等が挙げられる。
【0036】
導電粉12としては、使用樹脂粉10の粒径及び混合性を考慮して、平均粒径が5〜300μmのものを用いる。導電粉12の平均粒径は、より好ましくは5〜200μmであり、さらに好ましくは10〜100μm、特には、20〜50μmである。なお、導電粉12の平均粒径は、例えば、目開きの異なる複数の篩を用いて、その目開きを通過する割を測定する等して、累積重量百分率を求め、積算値50%の粒径であるd50として求めあることができる。このような方法が採用できない場合は、平均粒径は、液体に導電粉を分散させて、透過度分布から求めることができる。
【0037】
導電粉12の粒径が5μm未満の場合、導電粉12同士の凝集が大きくなり、樹脂粉10との均一な混合が難しくなり、また粒径が300μmを超す場合、本発明のポイントとなる溶融した樹脂粉10の表面への導電粉12の付着が安定せず、得られる導電性粉体14の粒度分布の幅も広くなる。導電性の優れた導電性粉体14を得るため、溶融した樹脂粉10の表面に導電粉12が付着する必要がある。したがって、導電粉12の粒径は、樹脂粉10の粒径よりも小さいことが好ましい。例えば、分級等で、導電粉12の最大粒径を、樹脂粉10の最大粒径よりも小さくすることが好ましい。
【0038】
導電粉12を構成する導電材料としては、例えば金属や黒鉛粉が挙げられるが、コスト及び樹脂粉10との混合性を考慮すると、黒鉛粉が好ましい。黒鉛粉としては、例えば天然黒鉛粉、膨張黒鉛シート粉砕粉を含む天然黒鉛粉を酸処理洗浄後過熱して得られる膨張黒鉛粉、人造黒鉛粉等が挙げられる。
【0039】
樹脂粉10と導電粉12の配合比率は、樹脂粉10の粒径や種類、導電粉12の粒径や種類によって適宜決定できる。成形体の成形性や導電性を考慮すると、樹脂粉10と導電粉12の合計を100重量部とした場合、好ましくは樹脂粉10が5〜50重量部、導電粉12が95〜50重量部、より好ましくは樹脂粉10が10〜40重量部、導電粉12が90〜60重量部である。
【0040】
使用する樹脂粉10が5重量部未満で、導電粉12が95重量部を超す場合、未造粒の導電粉12が残り、導電性粉体が安定しない場合がある。また、樹脂粉10が、導電粉12を繋ぎ止めるバインダーの役割を充分に果たせなくなり、得られる成形体の強度が弱いものとなる場合がある。
【0041】
造粒機中に導入する気体9としては、空気が挙げられるが、不活性ガスを用いてもよい。気体9の加熱温度は、用いる樹脂粉10の種類に従って決定する。例えば、樹脂粉10としてレゾール型フェノール樹脂粉を用いるときは、気体9の温度を60〜100℃(好ましくは、70〜90℃)にすることが好ましい。
【0042】
なお、上記の製造方法で得られた導電性粉体14は、例えば高い導電性等、使用する条件により、不活性ガス中にて、使用樹脂10の分解温度以上で焼成し、樹脂粉10を炭化して使用することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
(実施例)
「1」使用樹脂粉の調製
融点70℃の固形レゾール型フェノール樹脂(商品名ショウノールBRM―470S、昭和電工株式会社)を、拳状の大きさに砕き、更に粉砕機を用いて粉砕刃回転数5000rpmで、室温にて粉砕し、樹脂粉砕物を得た。得られた上記樹脂粉砕物を、篩目150μmの振動篩機にかけ、150μmの通過粉を得て、下記の導電性粉体の製造工程で樹脂粉として使用した。通過粉の粒径(大きさ)は、32μm以下が2質量%、32μm超え63μm以下の範囲が12質量%、63μmを超え106μm以下の範囲が65質量%、106μmを超え150μm以下の範囲が21質量%であった。
【0045】
「2」使用導電粉の調製
人造黒鉛粉(商品名AT―No.5、オリエンタル株式会社)を、篩目100μmの振動篩機にかけ、平均粒径が35μmの通過粉を得て、下記の導電性粉体の製造工程で導電粉として使用した。
【0046】
「3」樹脂粉と導電粉の造粒
図5に示す構成を有する造粒機で造粒を行なった。すなわち、熱媒体循環加熱タイプのヒータ有し、槽内底部に大型低速回転混合羽根、及び槽壁面部に小型高速回転混合羽根を備えた造粒機を用いた。この造粒機の容器本体の壁面温度が80℃になるように、温水を造粒槽4の加熱媒体として用いて調整した。なお、壁面温度を80℃にしたため、造粒機内部の空気は樹脂粉の軟化する温度以上であった。
【0047】
加熱した槽内に、前記「1」で調整した樹脂粉と、前記「2」で調整した導電粉とを、樹脂粉と導電粉の重量比率が1:4となるように配合して軽く混合した粉体を、造粒機内に投入した。樹脂粉及び導電粉が投入された造粒機で、底部に備えた回転混合羽根の回転数を150rpm、壁面に備えた回転混合羽根の回転数を800rpmとして、エア吐出口から空気を吐出させた状態で造粒を20分行った。上記の方法で得られた導電性粉体は、造粒終了直後の温度が75℃であり、非常に流動性の良いものであった。
【0048】
「4」導電性粉体の成形及び熱処理
上記「3」で製造した導電性粉体を使用し、以下の記載のように成形体を作製した。使用する成形の金型は、離型剤処理された平板作成用の金型であり、雌型の寸法は110mm×165mm×8mmで2.5mmの凹を有し、雄型は1.5mm凸を有していた。まず、雌型に25gの導電性粉体を均一に充填し、ガラス棒を用いて余分な導電性粉体を落とし、金型に均一に充填し、更に上記導電性粉体で充填した金型を、振動機に乗せ軽く振動を与えた。体積減少した造粒粉分を、更に前記方法により金型に再充填した。再充填の量は僅かであった。
【0049】
上記導電性粉体で充填した雌型に雄型を乗せ、170℃に加熱した70トンの自動圧縮プレス(型式:MB―070、丸七鉄工所)の熱版上に1分間置き、35MPaの圧力で4分間圧縮成形を行った(5秒間のガス抜き1回)。
【0050】
成形終了後、脱型を行い、成形体を、箱型乾燥機を用いて180℃で1時間熱処理を行い、厚みが0.95mmの成形体が得られた。上記の方法で5枚の成形体を作成し、目視で判定した結果、いずれも欠損のない成形体が得られた。
【0051】
(比較例)
「1」使用樹脂粉の調製
「実施例1」の「1」に記載と同様な樹脂粉を、同様に調製して使用した。
【0052】
「2」使用導電粉の調製
「実施例1」の「2」に記載と同様な導電粉を、同様に調製して使用した。
【0053】
「3」樹脂粉と導電粉の造粒
造粒機の加熱媒体である温水の温度を、壁面温度が50℃になるように調整した以外、樹脂粉と導電粉の造粒を、「実施例1」の「3」に記載と同様な配合及び操作にて行った。
なお、壁面温度を50℃にしたため、造粒機内部の空気は樹脂粉の軟化する温度未満であった。上記方法で得られた導電性粉体は、造粒終了直後の温度が43℃であり、非常に細かく、流動性が悪いものであった。
【0054】
「4」導電性粉体の成形
「1」で製造した導電性粉体を使用した以外は、「実施例1」の「4」に記載と同様に行った。雌型に充填した導電性粉体を、ガラス棒を用いて均一充填する際、ガラス棒が滑りにくく、充填物表面も荒れた状態となった。また、導電性粉体で充填した雌型を振動させた場合の体積減少量が、「実施例1」の「4」に記載と比べかなり多かった。
【0055】
成形体を、「実施例1」の「4」と同様な条件を用いて5枚作製したが、何れも成形体の一部に白く見える部分、すなわち低密度部が確認された。したがって、上記で作成された導電性粉体は、成形材料として不適当であった。
【0056】
「実施例」及び「比較例」にて作製した導電性粉体及び成形体の特性を、以下の方法で測定した。得られた導電性粉体及び成形体の特性を、表1に示す。また、図4に「実施例1」、図5に「比較例1」で作製した導電性粉体14の電子顕微鏡写真を示す。
【0057】
タップ密度:10ccガラス製メスシリンダーに、作成した導電性粉体5gを投入し、シリンダーの底部に上下の衝撃を100回加え、導電性粉体上部の目盛より、導電性粉体の体積を求め、導電性粉体の重量をその体積で除した。
【0058】
粒度分布:振動篩機を使用し、篩を、下から32μm、63μm、150μm、250μmの順で重ね、作成した導電製粉体50gを250μmの篩の上に乗せ、10分間振動させて求めた。
【0059】
成形体外観:作成した導電性粉体を用いて成形体を作成して熱処理し、成形体の外観を目視で判定した。
成形体密度:成形体の重量を成形体の体積で除し求めた。
曲げ強度:JIS K6911に準じた。
導電性:JIS C2525に準じた。
【表1】

【符号の説明】
【0060】
2…蓋、4…容器本体、5…筐体、6…攪拌羽根、7…連結攪拌羽根、8…エア吐出口、9・・・気体、10…樹脂粉、12…導電粉、14…導電性粉体、101,102,103,104,105…造粒機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が200μm以下の樹脂粉と、平均粒径が5〜300μmの導電粉とを、前記樹脂粉が軟化する温度の気体中で浮遊及び衝突させ、前記導電粉を前記樹脂粉の少なくとも表面に付着させて造粒を行う、導電性粉体の製造方法。
【請求項2】
攪拌手段を内部に備え前記気体で満たされた容器中で、前記造粒を行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記温度は、前記樹脂粉の軟化点又は融点以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記温度は40℃以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂粉はフェノール樹脂粉である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記導電粉は黒鉛粉である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法で得ることのできる導電性粉体。
【請求項8】
請求項7記載の導電性粉体を加熱及び圧粉して得ることのできる成形体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256574(P2012−256574A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130173(P2011−130173)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】