説明

導電性粒子及びその導電性粒子で構成された導電性粉体とその製造方法並びに該導電性粉体を用いて得られる導電性インク

【課題】明色でありながら隠蔽性を備え、導電性インクや導電性塗料として用いる際に分散時間を長く取ったり繰り返し分散操作を実施した場合でも得られる塗膜の表面抵抗の劣化が小さなフィラーである導電性粉体を提供する。
【解決手段】コア材と導電層とを構成する素材を共通のTiOとし、導電層を形成するTiO層にはNbをドープすることにより導電性を与えると同時にNb拡散層を形成してコア材と導電層との剥離現象を抑制した導電性粒子とし、この導電性粒子で導電性粉体を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、導電性粒子及びその導電性粒子で構成された導電性粉体とその製造方法並びに該導電性粉体を用いて得られる導電性インクに関する。特に導電性粒子のコア材に酸化チタンを用い、導電性インク等を製造する際の分散時間を長く取っても、得られる導電膜の抵抗の変動を小さくできる導電性粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムや塗装の分野で隠蔽性を要求される用途に於いて、明色で対応する場合には酸化チタンなどがフィラー材として用いられ、導電性を具備させる場合にはカーボンブラックなどがフィラー材として用いられ、広く普及している。特に導電性インクや導電性塗料は必要な部分にのみ導電膜を形成できることなどから使い勝手が良く、今後の用途拡大が期待されている。
【0003】
ところが、導電性を付与する目的でカーボンブラックを用いた場合には塗膜が黒色となってしまい、その使用範囲が制限されてしまうのである。しかし、明色が得られる隠蔽用素材の代表である酸化チタンをフィラーとして用いると導電性の面で不満なものとなってしまう。そこで、上記不具合を改善する技術として特許文献1には、雲母、シリカ、酸化チタン、アルミナなどを素材とする血小板状又は針状の基質上に、ニオブおよび/又はタンタルでドープ処理された酸化錫又は二酸化チタンを導電層として有する導電性顔料が開示されている。一方、本件発明者等は既に二酸化チタンをコア材として酸化スズをコートした導電性粒子を出願済みである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−147729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した、既に出願済みの発明であるところの、コア材の表面に酸化スズを用いた導電層を設けることにより明色を維持したまま隠蔽性と導電性を有する導電性粒子を用いて得られる塗膜は1.0×10Ω/□台の表面抵抗を示す。ところが、該導電性粒子を塗料等に使用する際に均一な混合状態を得ようとして強攪拌したり、繰り返しの攪拌を含め長時間攪拌すると、その後に得られる導電膜では本来得られるべき抵抗値が上昇してしまい、所期の効果が得られないという問題があった。よって抵抗値の変動を抑制した導電性塗料や導電性インクに用いうる導電性粉体への要求が存在していたのである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本件出願人等は、今一度導電性粒子について鋭意研究し、前述の抵抗値の上昇はコア材と導電層との剥離現象に起因していることを突き止めたのである。すなわち、導電層がコア材から剥離しにくく、更に導電層が一様な厚みで形成されていることにより、導電性塗料から得られた導電膜が安定した導電性を確保できる導電性粒子を完成したのである。
【0007】
更に、本件発明に係る導電性粒子は、導電層の組成を調整することにより得られる導電膜の抵抗値を調整でき、そして形状が粒状であることに起因して分散性に優れ、凝集の少ない平滑な導電膜を得やすいという特徴をも併せ持つものである。
【0008】
以下、本件発明に係る導電性粒子及びその導電性粒子で構成された導電性粉体とその製造方法並びに該導電性粉体を用いて得られた導電性インクについて述べる。
【0009】
本件発明に係る導電性粒子: 本件発明に係る導電性粒子は、コア材粒子表面に導電層を有する粒状の導電性粒子であって、前記コア材粒子がTiOであり、その粒子表面にNbをドープしたTiO導電層を備えることを特徴としている。
【0010】
本件発明に係る導電性粒子において、前記導電層の厚さが2nm〜15nmであることが好ましい。
【0011】
そして、前記導電層のNb含有率が導電性粒子全体のTiO量を100wt%としたとき、0.05wt%〜5wt%であることが好ましい。
【0012】
本件発明に係る導電性粉体: 本件発明に係る導電性粉体は、前記導電性粒子で構成された導電性粉体であって、前記導電性粒子の一次粒子径が0.05μm〜1.0μmであることを特徴としている。
【0013】
前記導電性粉体は、メディアン径D50が体積基準で3μm以下であることも好ましい。
【0014】
前記導電性粉体は、比表面積が1m/g〜22m/gであることも好ましい。
【0015】
前記導電性粉体は、コア材粒子の比表面積と得られた導電性粒子の比表面積の比〔(導電性粒子の比表面積)/(コア材粒子の比表面積)〕が1.0〜2.0であることもより好ましい。
【0016】
本件発明に係る導電性粉体の製造方法: 本件発明に係る導電性粉体の製造方法は、以下の工程A〜Eを備えることを特徴としている。
A:TiO粉末を水に分散させ、TiO懸濁液を得る工程。
B:前記TiO懸濁液にチタン塩とニオブ塩とを添加し、溶解することで反応用液を得る工程。
C:前記反応用液を、中性〜アルカリ性領域に調製し、NbドープTiO前駆体コートTiO粒子を含む懸濁液を得る工程。
D:前記懸濁液を固液分離し、分取したNbドープTiO前駆体コートTiO粉を乾燥し、NbドープTiO前駆体コートTiO粉を得る工程。
E:乾燥により疑似固化したNbドープTiO前駆体コートTiO粉を解砕した後に焼成して導電性粉体を得る工程。
【0017】
前記工程Aで用いるTiO粉末の粒子径が0.05μm〜1.0μmであり、懸濁液中のTiO濃度が20g/L〜500g/Lであることも好ましい。
【0018】
前記工程Bにおけるチタン塩は水溶性Ti塩である硫酸チタニル、塩化チタン、硫酸チタン、フッ化チタンから選択された1種又は2種以上であり、Ti濃度が1wt%〜30wt%であることも好ましい。
【0019】
前記工程Bにおけるニオブ塩は塩化ニオブ、フッ化ニオブ、ヨウ化ニオブから選択された1種又は2種以上であり、Nb濃度が0.02mol/L〜0.5mol/Lであることも好ましい。
【0020】
前記工程Cにおける調整後のpHが7〜11の中性〜アルカリ性領域であって、NaOH、KOH、NaCO、アンモニアから選択された1種又は2種以上をpH調整に用いることも好ましい。
【0021】
前記工程Eにおける焼成雰囲気が大気雰囲気であることも好ましい。
【0022】
本件発明に係る導電性インク: 本件発明に係る導電性インクは前記導電性粉体を顔料として用いたものである。
【0023】
本件発明に係る導電膜: 本件発明に係る導電膜は前記導電性インクを用いて得られたものである。
【発明の効果】
【0024】
本件発明に係る導電性粒子は、コア材と導電層に共通した素材としてTiOを用いたものであり、これによりコア材と導電層の境界が不明瞭になり、よってコア材と導電層の剥離が防止できたものとなるのである。更に、導電層が一様な厚みで形成されていることにより、この導電性粒子を用いた導電性塗料から得られる導電膜は安定した導電性を呈する。また、Nbドープ量の調整により表面抵抗値も狙いの範囲内に作り込みが可能となる。また、導電性粒子が粒状であることにより塗料中での分散性に優れ、凝集が少ないことから平滑な導電膜が得られる。このようにして得られた導電性粉体をフィラーとして用いた塗膜やプラスチックは外観は明色のままで導電性を有し、導電性はその用途に応じた最適範囲に設定されたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本件発明に係る導電性粒子の形態: 本件発明に係る導電性粒子は、コア材粒子表面に導電層を有する粒状の導電性粒子であって、前記コア材粒子がTiOであり、その粒子表面にNbをドープしたTiO導電層を備えるものである。
【0026】
本件特許出願では、NbをTiOに対するドープ材として用いて良好な導電性を得ているが、導電層内に存在するNbの形態は明らかではない。そして、Nbと周期律表上近い元素であるTaの酸化物もNbの酸化物と同様に良好な導電性を示すことが知られている。したがって、Nbの代替としてTaを用いても同等の効果が得られるものと考えられる。
【0027】
そして、本件発明ではコア材として粒状のTiOを用いるため得られる導電性粒子も粒状となり、導電層をNbをドープしたTiOで構成しているため当該導電層とコア材粒子との界面が不明瞭になることも特徴の1つと言える。導電層とコア材との界面が不明瞭となるのは、コア材と導電層との素材に共通のTiOを用いているからである。前述のように、NbドープTiO前駆体コートTiO粒子を大気中で焼成して導電性粒子を得るのであるが、焼成によってTiO前駆体がTiOに変化し焼結状態となってコア材と導電層との密着は強固になり、界面は不明瞭になるのである。そして、この焼成時に導電層を形成するTiOへのNbのドープが進行し、このNbがコア材であるTiO側に拡散することにより、導電層からコア材層にかけてNbの濃度勾配ができると考えられる。
【0028】
本件発明に係る導電性粒子において、前記導電層の厚さが2nm〜15nmであることが好ましく、前記導電層のNb含有率が導電性粒子内のTiO量を100wt%としたとき、0.05wt%〜5wt%であることが好ましい。ここで言っている導電層の厚さであるが、本件発明に係る導電性粒子はコア材と導電層との界面が不明瞭であるため、導電性粒子の質量とその形成に用いたコア材用TiOの質量及びドープされたNb量を計算基礎とし、比表面積を用いて算出している。
【0029】
上記導電層の厚さ及び組成は最終的に形成される導電膜に要求される電気特性によって調整すれば済むものではあるが、一般的な要求範囲が表面抵抗値で1.0×10Ω/□台〜3.0×1010Ω/□台であることから、上記範囲を好ましいとしているのである。そして、製造のしやすさなどを考慮に入れた導電層のより好ましい厚さは3nm〜10nmであり、Nb含有率のより好ましい含有率は導電性粒子全体のTiO量を100wt%としたとき、0.1wt%〜3.0wt%である。
【0030】
本件発明に係る導電性粉体の形態: 本件発明に係る導電性粉体は、前記導電性粒子で構成された導電性粉体であって、前記導電性粒子の一次粒子径が0.05μm〜1.0μmである。本件発明に係る導電性粉体の用途が導電性インクをはじめとする有機絶縁体、例えば塗料やプラスチックフィルムなどに導電性を付与することを目的としているものであれば、均一分散性と導電性とを両立できる形態であることが要求されるのである。そして、粉体の形状をこの要求特性から考察すると、導電性に対しては特許文献1に開示されているような鱗片状のフレークが好ましいとされている。しかしながらフレークは均一分散性に欠けるため、強攪拌や長時間攪拌による強分散処理を適用すると導電層の剥離やフレーク自身の破壊が起こり、結果として所期の特性を得る為の工程設計が困難になってしまうのである。
【0031】
また、分散性を向上させるためには粒子の形状は粒状であり、具体的には球状、疑似球状など等方的形状を呈したものが好ましいとされている。これに対し、形状が非粒状の鱗片状や針状の粒子を分散させたインクや塗料では含有量を同一とした場合には粘度が上昇してしまい、塗膜の均一性が得られにくくなってしまうのである。この観点から、導電性粒子の形状は粒状であり、その一次粒子径は0.05μmよりも大きいことが好ましい。そして、導電性粒子の一次粒子径が1.0μmを超えると、如何に形状が粒状であっても導電膜の表面平滑性が劣ってしまうと同時に粒子間の隙間が大きくなり、良好な隠蔽性を得る為には充填率を大きくしても塗膜厚さを考慮しなければならなくなってしまう。また、より好ましい導電性粒子の一次粒子径は0.1μm〜0.5μmである。
【0032】
そして、前記導電性粉体は、メディアン径D50が体積基準で3μm以下であることが好ましい。前述のように粒子径がインクや塗料の粘度に与える影響は無視することはできない。即ち粒子径範囲のみではなく、粒子径の分布にも配慮が必要なのである。そして、この観点によれば特に塗膜厚みの管理要求の強い導電性インク用途に対してより好ましいメディアン径D50は体積基準で0.2μm〜1.5μmである。
【0033】
前記導電性粉体は、比表面積が1m/g〜22m/gであることが好ましい。コア材として用いるTiOは元来比表面積が大きな素材であり、よって後述する本件発明における製造方法で導電層を形成するに当たっては液相反応を採用している。即ち、得られる導電性粒子の特性はコア材として用いるTiO粒子の粒度や表面状態の影響を大きく受けてしまうのである。従って、本件発明に係る導電性粒子及び導電性粉体が安定した特性を発揮するためには比表面積が1m/g〜22m/gであることが好ましいのである。そして比表面積のより好ましい範囲は5m/g〜17m/gであり、更に好ましい範囲は7m/g〜15m/gである。
【0034】
前記導電性粉体は、コア材粒子の比表面積と得られた導電性粒子の比表面積の比〔(導電性粒子の比表面積)/(コア材粒子の比表面積)〕が1.0〜2.0であることが更に好ましい。前述のように、本件発明における製造方法で導電層を形成するに当たっては液相反応を採用している。従って、ミクロ的に表面を観察すると凹凸形状を有するものとなるが、導電性を発揮するためにはなるべく平滑な表面状態を保つ必要がある。従って、コア材粒子の比表面積と得られた導電性粒子の比表面積の比〔(導電性粒子の比表面積)/(コア材粒子の比表面積)〕が1〜2であれば安定した導電性を確保することができるのである。
【0035】
本件発明に係る導電性粉体の製造形態: 本件発明に係る導電性粉体の製造方法は、以下の工程A〜工程Eを備える。
【0036】
工程AはTiO粉末を水に分散させ、TiO懸濁液を得る工程であり、コア材の凝集を解除し、均一に分散させることを目的としている。そして、ここで用いるTiO粉末の粒子径は0.05μm〜1.0μmであり、懸濁液中のTiO濃度が20g/L〜500g/Lであることが好ましい。形成される導電層の質量はコア材の質量と比較して小さくは無いが、導電層が比表面積の大きなコア材の外層に形成されることを考えると粒径の増加として厳密に考える必要性は小さく、ここで調製したコア材の粒子径はほぼそのまま導電性粒子の粒子径になると考えて良い。従って、コア材の粒子径は目的とする導電性粒子の粒子径にほぼ一致させることができる。そして、粒子径の範囲は前述の導電性粉体を用いて得られるインクなどの粘度、塗膜の隠蔽性を考慮して定めるのである。また、懸濁液中のTiO濃度(スラリー濃度)は主に生産性と導電性粒子の特性を考慮して決定されるのである。例えばスラリー濃度が高すぎると粒子同士が凝集しやすくなって分散性が悪化し、スラリー濃度が低すぎるとコア材と導電層との密着性が低下する傾向が生じる。この観点からスラリー濃度の上限は500g/Lとすることが好ましく、より好ましい上限濃度は300g/Lである。そして下限である20g/Lは工業的生産性を維持できるスラリー濃度でもある。
【0037】
工程Bは工程Aで得られたTiO懸濁液にチタン塩とニオブ塩とを添加し、溶解することで反応用液を準備する工程であり、コア材表面に形成される導電膜の膜厚及びNbドープ量を設定する工程である。具体的に使用するチタン塩は水溶性Ti塩である硫酸チタニル、塩化チタン、硫酸チタン、フッ化チタンなどから選択された1種又は2種以上でありTi濃度を1wt%〜30wt%とすれば良い。このチタン塩の添加量はスラリー濃度に対して設定されるものとなるためwt%で管理するのが好ましいのである。ここで用いるチタン塩は水溶性であればどのようなものでも良く、硫酸チタニル、塩化チタン、硫酸チタン、フッ化チタンなどを用いることができる。そして、Ti濃度はコア材表面に形成される導電層厚みが最適になる濃度に設定するのである。即ち、厚い導電層を形成する場合には高濃度に、薄い導電層を形成する場合には低濃度にすれば良い。
【0038】
そしてニオブ塩は塩化ニオブ、フッ化ニオブ、ヨウ化ニオブなどから選択された1種又は2種以上でありNb濃度を0.02mol/L〜0.5mol/Lとすれば良い。ここで用いるニオブ塩はチタン塩同様水溶性であればどのようなものでも良く、塩化ニオブ、フッ化ニオブ、ヨウ化ニオブなどを用いることができる。そして、Nb濃度はコア材表面に形成される導電層へのドープ量が最適になる濃度に設定するのである。即ち、ドープ量を多くする場合には高濃度に、ドープ量を少なくする場合には低濃度にすれば良い。
【0039】
工程Cは工程Bで準備した反応用液を中性〜アルカリ性領域に調整してNbがドープされたTiO前駆体(主に水酸化物)を析出させ、NbドープTiO前駆体コートTiO粒子を含む懸濁液を得る工程であり、コア材のTiO表面に均一なNbドープTiO前駆体の析出膜を形成する工程である。具体的には調製後のpHを7〜11の中性〜アルカリ性領域とするために、NaOH、KOH、NaCO又はアンモニアなどの強アルカリから選択された1種又は2種以上をpH調整に用いれば良い。この工程は懸濁液の形態における反応となるため、攪拌操作を加えた方が良い。
【0040】
この工程Cではアルカリの添加を完結させるまでに要する時間に留意し、具体的には10分〜90分とするのが好ましい。後述する実施例では70分をかけている。例えば、端的な例として工程Bと工程Cとを同時進行させた状況、即ちコア材を分散させた懸濁液にチタン塩、ニオブ塩及びアルカリを同時に添加してしまうと反応液中におけるチタン塩やニオブ塩とアルカリの接触状態にムラが生じ、均一なTiO前駆体の形成が困難となる。
【0041】
そして、コア材を分散させた懸濁液に先にアルカリを添加した後、チタン塩、ニオブ塩を添加するとコア材表面に形成される導電層であるTiO前駆体がポーラスな状態で形成されて脆いものとなり、導電性粉末を導電性塗料に用いた場合、導電性に劣ったものとなる。
【0042】
工程Dは工程Cで得られた懸濁液を固液分離し、分取したNbドープTiO前駆体コートTiO粉を乾燥し、NbドープTiO前駆体コートTiO粉を得る工程で、常法の洗浄、濾過、乾燥を行えばよい。
【0043】
工程Eは工程Dで得られた、NbドープTiO前駆体コートTiO粉ケーキを解砕した後に大気雰囲気で焼成して導電性粉体を得る工程であり、工程Bで形成されたNbドープTiO前駆体層を酸化物とする工程である。この工程においてNbはTiOへドープされ、所期の特性を発揮することになる。粉体の解砕にはフォースミル等、常法の解砕設備を使用できる。そして焼成に際しての雰囲気であるが、本件発明では大気雰囲気としている。これはTiO前駆体層の主成分が水酸化チタンであり、加熱による脱水反応が進行すれば十分な効果が発揮されると考えているからである。
【0044】
本件発明に係る導電性インクの形態: 本件発明に係る導電性インクは前記導電性粉体を顔料として用いたものであり、粘度も用途に応じて最適に調製されたものである。ここで得られる導電性インクは粒状の導電性粉体を用いることから、鱗片状又は針状の導電性粉体を用いた場合と比べ、インクとしての導電性粒子固形分が高いものとなる。従って、形成しようとする導電膜厚さ同じであっても使用するインク量は少なく、有機溶剤などによる環境への影響も低減されたものなのである。そして、本件発明に係る導電性粉体の用途は導電性インクに限定されるものではなく、前述の導電性塗料やプラスチックの導電性付与の目的にも用いることが出来る。
【0045】
以下に実施例及び比較例を示すが、本件発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。実施例及び比較例で調製した導電性粉体や導電性インクの調製方法に関しては以下に述べる実施例及び比較例にて個別に説明するが、表1に導電性インクの分散時間と導電膜の表面抵抗データの結果を示す。図1はそれをグラフ化したものである。表1では、本件発明に基づき形成した導電性粉体を用いて形成した導電膜を実施例1として掲載し、そして比較用には酸化スズを用いて導電層を形成した導電性粉体を用いて形成した導電膜を比較例1として掲載した。
【0046】
【表1】

【実施例】
【0047】
<実施例1>
【0048】
[導電性粉体の調製]
1.使用薬品の調整
チタン塩溶液:硫酸チタニルを使用してTi分として5wt%に調整
ニオブ塩溶液:100mlの濃塩酸に五塩化ニオブ3gを溶解して調整
pH調整用溶液:水酸化ナトリウム25wt%の水溶液
【0049】
2.導電層の形成
純水1.5Lに一次粒子径0.15μmのTiO粉100gを加え、TiO粉が分散した懸濁液を得た。この懸濁液にチタン塩溶液400gと、ニオブ塩溶液20mlを加え反応用液とした。このようにして得られた反応用液を60℃まで昇温し、pH調整用溶液350mLを70分間かけて添加した。ここで得られた懸濁液を更に30分間攪拌して維持後リパルプ法にて洗浄し、最終的にヌッチェを用い吸引濾過して固形物を分取して乾燥し、疑似固化した粉体を得た。
【0050】
3. 導電性粉体の形成
次に、乾燥して疑似固化した粉体をフォースミルを用いて解砕し、これを700℃の大気雰囲気中で1時間焼成し、TiO粉にNbドープしたTiO導電層を形成した導電性粉体を得た。
【0051】
4. 導電性粉体の評価
粒子径:0.15μm(倍率60,000倍のSEM観察像から任意に選択した50点の粒子径の平均)
50:0.6μm(200mLのサンプル容器に試料約0.1gを秤り取り、0.2g/Lのヘキサメタリン酸ソーダ10mLを混合後純水90mLを添加し、超音波分散機(日本精機(株)製US−300T)を用いて10分間分散し、サンプル懸濁液を調製した。当該サンプル懸濁液を(株)堀場製作所製LA−920を用い、レーザー回折散乱法にて求められる累積体積が50%になった時点における粒子径)
比表面積:コア材は10.0m/g、導電性粉末は11.6m/g(BET法で測定)
L値:96.9(色差測定器(コニカミノルタ(株)製CM−3500d)で色調を測定)
【0052】
次に、導電層の厚さは以下の手順で計算により求めた。
a)得られた導電性粉末の質量と用いたコア材の質量からコート部分の質量を求める。
b)コート質量を酸化チタンの密度で割り、更に上記で得られているコア材の表面積で割ることによりコート厚さ(導電層厚さ:nm)を求める。
c)導電性粉末に含まれるNbの分析値からNbドープ量(%)を求める。
この結果、導電層厚さは8nm程度であって導電性粒子全体のTiO量100wt%に対しての導体層の質量厚さは25wt%であり、Nbドープ量は導電性粒子全体のTiO量を100wt%としたときは0.2wt%、導電層のTiO量を100wt%としたときは0.8wt%であった。
【0053】
[導電性インクの調製]
1. 容量50ccの容器中で導電性粉末7.41gとアクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製ダイヤナールLR−167)6.41g、そして溶剤としてトルエン−ブタノール混合液を使用し、導電膜形成後の導電粒子含有率が70%となるよう混合した。
【0054】
2. 次に、前記混合物中へガラスビーズを加え、ペイントシェーカーを用いて、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間の分散処理を行い導電性インク1〜導電性インク5を得た。
【0055】
[塗膜の形成]
上記導電性インク1〜導電性インク5を使用しPETフィルム上にバーコーター(#10)を用いて塗膜を形成した。
【0056】
[評価結果]
前記塗膜を80℃に設定した熱風循環型オーブンで30分間乾燥後、三菱化学(株)製ハイレスタIPを使用して表面抵抗の評価を行った。結果は表1に示したとおりである。分散時間を5時間とした導電性インク5を用いて形成した導電膜の表面抵抗値は分散時間1時間の導電性インク1を用いて形成した導電膜の表面抵抗値の33倍に過ぎず、分散時間の長時間化の影響は小さく良好であった。
<比較例1>
【0057】
[導電性粉体の調製]
1.導電層の形成
純水5Lに実施例1で用いたと同様のTiO粉900gを加え、TiO粉が分散した懸濁液を得た。この懸濁液にスズ酸ナトリウム三水塩930gを加え、全体の液量が8Lになるよう純水を加えた。このようにして得られた反応用液を70℃まで昇温して60分間維持後、20%硫酸1.6Lを90分間かけて添加した。ここで得られた懸濁液を更に30分間攪拌して維持後リパルプ法にて洗浄し、最終的にヌッチェを用い吸引濾過して固形物を分取して乾燥し、TiOにSnOをコートした粉体を得た。
【0058】
2. 導電性粉体の形成
次に、乾燥して疑似固化した粉体をフォースミルを用いて解砕し、これを700℃の還元雰囲気(2%H−N)中で1時間焼成した。
【0059】
3. 導電性粉体の評価
以下の項目については実施例1と同様の評価方法を用いた。
粒子径:0.15μm
50:0.8μm
比表面積:コア材は10.0m/g、導電性粉末は25.1m/g
L値:85.3
【0060】
次に、導電層の厚さは以下の計算により求めた。
a)得られた導電性粉末の質量とコア材に用いたTiO量から導電層の質量厚さをを求める。
b)コート質量を酸化スズの密度で割り、更に上記で得られているコア材の表面積で割ることによりコート厚さ(導電層厚さ:nm)を求める。
c)導電性粉末中のSn品位をSnO質量に換算し、SnOコート部分の質量厚さ(%)を求める。
この結果、導電層厚さは8nm程度であって、導体層の質量厚さはSnO換算で導電性粒子全体のTiO量100wt%に対して35wt%であった。
【0061】
[導電性インクの調製]
実施例1と同様の操作にて分散処理を行い導電性インク1’〜導電性インク5’を得た。
【0062】
[塗膜の形成]
実施例1と同様に行った。
【0063】
[評価結果]
実施例1と同様にして表面抵抗の評価を行った。結果は図1、表1に示したとおりである。分散時間を5時間としたインク5’を用いて形成した導電膜の表面抵抗値は分散時間1時間のインク1’を用いて形成した導電膜の表面抵抗値の120、000倍に上昇し、実施例で得られたインク5を用いて形成した導電膜と比較しても約5倍であった。
【0064】
[実施例と比較例との対比]
表1を参照しつつ、実施例及び比較例にて得られた各データを参照して、実施例と比較例との対比を行う。
【0065】
表1から理解できるように、本件発明に係る実施例1の導電性粒子で構成された導電性粉体を用いて得られた導電性インクは、比較例1に対して分散時間の影響が小さく、導電性が安定しているという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本件発明に係る導電性粒子の集合体である導電性粉体をフィラーとして用いた導電性インク、導電性塗料又は導電性を付与したプラスチックは明色でありながら隠蔽性を備え、安定した導電性を備えるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】導電性インクの分散時間を変えて得られた導電膜の表面抵抗を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア材粒子表面に導電層を有する粒状の導電性粒子であって、
前記コア材粒子がTiOであり、その粒子表面にNbをドープしたTiO導電層を備えることを特徴とする粒状の導電性粒子。
【請求項2】
前記導電層の厚さが2nm〜15nmである請求項1に記載の導電性粒子。
【請求項3】
前記導電層のNb含有率は、導電性粒子全体のTiO量を100wt%としたとき、0.05wt%〜5wt%である請求項1又は請求項2に記載の導電性粒子。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の導電性粒子で構成された導電性粉体であって、
前記導電性粒子の一次粒子径が0.05μm〜1.0μmであることを特徴とする導電性粉体。
【請求項5】
メディアン径D50が体積基準で3μm以下である請求項4に記載の導電性粉体。
【請求項6】
比表面積が1m/g〜22m/gである請求項4又は請求項5に記載の導電性粉体。
【請求項7】
コア材粒子の比表面積と得られた導電性粒子の比表面積の比〔(導電性粒子の比表面積)/(コア材粒子の比表面積)〕が1.0〜2.0である請求項4〜請求項6のいずれかに記載の導電性粉体。
【請求項8】
導電性粉体の製造方法であって、
以下の工程A〜Eを備えることを特徴とする請求項4〜請求項7のいずれかに記載の導電性粉体の製造方法。
A:TiO粉末を水に分散させ、TiO懸濁液を得る工程。
B:前記TiO懸濁液にチタン塩とニオブ塩とを添加し、溶解することで反応用液を得る工程。
C:前記反応用液を、中性〜アルカリ性領域に調製してNbドープTiO前駆体コートTiO粒子を含む懸濁液を得る工程。
D:前記懸濁液を固液分離し、分取したNbドープTiO前駆体コートTiO粉を乾燥し、NbドープTiO前駆体コートTiO粉を得る工程。
E:乾燥により疑似固化したNbドープTiO前駆体コートTiO粉を解砕した後に焼成して導電性粉体を得る工程。
【請求項9】
前記工程Aで用いるTiO粉末の粒子径が0.05μm〜1.0μmであり、懸濁液中のTiO濃度が20g/L〜500g/Lである請求項8に記載の導電性粉体の製造方法。
【請求項10】
前記工程Bにおけるチタン塩は水溶性Ti塩である硫酸チタニル、塩化チタン、硫酸チタン、フッ化チタンから選択された1種又は2種以上でありTi濃度が1wt%〜30wt%である請求項8又は請求項9に記載の導電性粉体の製造方法。
【請求項11】
前記工程Bにおけるニオブ塩は塩化ニオブ、フッ化ニオブ、ヨウ化ニオブから選択された1種又は2種以上でありNb濃度が0.02mol/L〜0.5mol/Lである請求項8〜請求項10のいずれかに記載の導電性粉体の製造方法。
【請求項12】
前記工程Cにおける調製後のpHが7〜11の中性〜アルカリ領域であって、NaOH、KOH、NaCO、アンモニアから選択された1種又は2種以上をpH調整に用いる請求項8〜請求項11のいずれかに記載の導電性粉体の製造方法。
【請求項13】
前記工程Eにおける焼成雰囲気が大気雰囲気である請求項8〜請求項12のいずれかに記載の導電性粉体の製造方法。
【請求項14】
請求項4〜請求項7のいずれかに記載の導電性粉体を顔料として用いて得られる導電性インク。
【請求項15】
請求項14に記載の導電性インクを用いて得られる導電膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−4332(P2008−4332A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171181(P2006−171181)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】