説明

導電性組成物と導電性塗膜の形成方法および導電性塗膜並びに導電回路、基板

【課題】 耐マイグレーション性、導電回路の信頼性に優れた導電性組成物と導電性塗膜の形成方法および導電性塗膜並びに導電回路、基板を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の導電性組成物は、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質とを含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐マイグレーション性、導電回路の信頼性に優れた導電性組成物、この導電性組成物を用いた導電性塗膜の形成方法、この導電性塗膜の形成方法により得られた導電性塗膜、この導電性塗膜により形成された導電回路、この導電回路を備えた基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド集積回路においては、耐熱性樹脂を用いたプリント基板、銅張積層板を用いたプリント配線板等が使用されている。これらのプリント基板等に配線等の導電膜を形成する場合、銀微粒子とポリエステル樹脂等のバインダー成分とを混練したポリマー型の導電ペーストが用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
この導電ペーストを、ポリエステル樹脂等のプラスチック基板上やポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のフィルム上にスクリーン印刷し、その後、常温で乾燥するか、あるいは150℃程度に加熱することにより、導電性の塗膜を形成したプリント配線板やフレキシブル配線板等を作製することができる。
【0003】
このようにして得られた導電性塗膜の体積抵抗率は、製膜条件にもよるが、10〜10Ω・cmの範囲であり、金属銀の体積抵抗率1.6×10Ω・cmに比べて10〜100倍の値となっている。
これらプリント配線板やフレキシブル配線板等は、基板上に金属箔を貼り付け、この金属箔をエッチングによりパターニングするタイプの配線板に比べて、工程が単純、製造コストが低いという特徴がある。
【特許文献1】特開2000−260224号公報
【特許文献2】特開平05−114333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のポリマー型の導電ペーストでは、導電体に銀微粒子を用いているために、塗膜が高温高湿の雰囲気に晒されたりした場合、雰囲気中の水分を吸収して塗膜中の銀微粒子がマイグレーションを起こし易くなるために、塗膜の導電性が低下し、その結果、塗膜の信頼性が低下するという問題点があった。
そこで、銀微粒子のマイグレーションを防止する対策として、この銀微粒子を含む膜の表面をベンゾトリアゾール(BTA)またはその誘導体で表面処理することが提案されているが、この方法においても、耐マイグレーション性を得ることができない。
その理由は、BTAまたはその誘導体が銀微粒子の表面に吸着して単分子膜を形成した場合、銀微粒子表面の単分子膜にはピンホール等があるために、銀微粒子を完全に覆うことができず、銀微粒子の表面が水分に接触するのを完全に防止することができないからである。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、耐マイグレーション性、導電回路の信頼性に優れた導電性組成物と導電性塗膜の形成方法および導電性塗膜並びに導電回路、基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は次の様な導電性組成物と導電性塗膜の形成方法および導電性塗膜並びに導電回路、基板を提供した。
すなわち、本発明の請求項1に係る導電性組成物は、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質とを含有してなることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2に係る導電性組成物は、請求項1に係る導電性組成物において、前記水溶性物質の含有量は、前記金属微粒子100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3に係る導電性組成物は、請求項1または2に係る導電性組成物において、前記水溶性物質は、二座以上の多座配位子を含む水溶性化合物であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4に係る導電性組成物は、請求項1、2または3に係る導電性組成物において、前記水溶性化合物は、キレート化剤であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5に係る導電性組成物は、請求項1ないし4のいずれか1項に係る導電性組成物において、前記金属微粒子は、銀微粒子であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項6に係る導電性塗膜の形成方法は、請求項1ないし5のいずれか1項記載の導電性組成物を基材上に塗布し、次いで、この膜を乾燥させて導電性塗膜とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項7に係る導電性塗膜の形成方法は、金属微粒子を含有する金属含有組成物を基材上に塗布し、その後乾燥または加熱し、次いで、この塗膜上に、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質またはそれを含む溶液を塗布または散布し、その後乾燥または加熱することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項8に係る導電性塗膜は、請求項6または7記載の導電性塗膜の形成方法により得られたことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項9に係る導電回路は、請求項8記載の導電性塗膜により形成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項10に係る基板は、請求項9記載の導電回路を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1に係る導電性組成物によれば、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質とを含有したので、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質が金属微粒子から溶出する金属イオンを捕捉し、この金属イオンとの錯体を形成し、この錯体が金属イオンが水分に接触するのを防止することができる。したがって、この錯体の形成により金属イオンのマイグレーションを防止することができる。
【0017】
さらに、この導電性組成物を用いて基材上に導電回路を形成すれば、この導電回路は耐マイグレーション性に優れたものとなり、信頼性に優れたものとなる。
特に、この導電性組成物をコネクタ嵌合部等の導体が露出している部分の絶縁膜によるマイグレーション防止ができない様な部分に利用すると、信頼性の高い配線板を作製することができる。
【0018】
本発明の請求項7に係る導電性塗膜の形成方法によれば、金属微粒子を含有する金属含有組成物を基材上に塗布し、その後乾燥または加熱し、次いで、この塗膜上に、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質またはそれを含む溶液を塗布または散布し、その後乾燥または加熱するので、耐マイグレーション性に優れ、さらには信頼性に優れた導電性塗膜を容易に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の導電性組成物と導電性塗膜の形成方法および導電性塗膜並びに導電回路、基板の各実施形態について説明する。なお、これらの実施の形態は、本発明の趣旨をより理解し易いように具体的に説明したものであり、本発明は、この実施の形態に限定されない。
【0020】
「第1の実施形態」
本実施形態の導電性組成物は、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質と、バインダー樹脂と、溶媒とを含有してなるペースト状の導電性組成物である。
【0021】
金属微粒子としては、面積抵抗(表面抵抗)が低いことから銀(Ag)微粒子が好ましい。このAg微粒子は、マイグレーションを生じ易いものであるが、二座以上の多座配位子を含む水溶性化合物と共存させることにより、耐マイグレーション性を大幅に向上させることができる。
このAg微粒子の形状としては、燐片状、板状、球状のいずれでもよく、その粒径は50μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下である。
Ag微粒子の粒径が50μmを超えると、厚みの均一な塗膜を形成することが難しくなるからである。
【0022】
金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質としては、金属微粒子から生じる金属イオンと安定な錯体を形成することができるものであればよく、二座以上の多座配位子を含む水溶性化合物が好ましい。
この二座以上の多座配位子を含む水溶性化合物としては、例えば、1個の分子またはイオンを有する2個以上の配位子を金属イオンを挟むように配位させることのできるキレート化剤が好適に用いられる。このキレート化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール(BTA)、ベンゾトリアゾールカルボン酸ナトリウム(BTAカルボン酸Na)等のベンゾトリアゾール(BTA)系誘導体が好適に用いられる。
【0023】
バインダー樹脂としては、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等、あるいは、これらのモノマーが用いられる。
溶媒としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、セカンダリーブチルアルコール(SBA)等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、イソホロン、テルピネオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート、トルエン等が好適に用いられる。
【0024】
この導電性組成物は、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
分散剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の他に、市販の分散剤として、例えば、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190(以上、ビックケミー社製)、フローレンTG−720W、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンDOPA−17、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−158(以上、共栄社化学社製)、チラバゾールW−01、チラバゾールW−02(以上、太陽化学社製)、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(以上、アビシア社製)、アジスパーPB711、アジスパーPB811、アジスパーPA111、アジスパーPW911(以上、味の素社製)等の高分子系分散剤を用いることができる。
このような分散剤の添加量は、金属微粒子100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜1重量部である。
【0025】
この導電性組成物では、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質の含有量は、金属微粒子100重量部に対して0.1〜20重量部が好ましく、さらに好ましくは0.1〜10重量部である。
その理由は、水溶性物質の含有量が0.1重量部未満の場合、水溶性物質の添加効果が極めて小さく、耐マイグレーション性の向上が認められないからであり、一方、含有量が20重量部を超えると、水溶性物質の量が多すぎるために得られる塗膜の膜質が低下し、良好な導電性塗膜が得られないからである。
【0026】
また、この導電性組成物における固形分濃度は50〜90重量%が好ましく、50〜70重量%がより好ましい。
その理由は、導電性組成物中の固形分濃度が50重量%未満では、塗工むら(接着剤層厚さのばらつき)が発生し易くなり、一方、90重量%を超えると、粘度が上昇し、また、固形分と有機溶剤との相溶性低下によって塗布性が劣化するからである。
【0027】
この導電性組成物は、構成材料である金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質と、バインダー樹脂と、溶媒とを所定の配合比となるように秤量し、次いで、これらをポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミルなどを用いて攪拌・混合することにより調製される。
【0028】
次に、この導電性組成物を用いて導電性塗膜を形成する方法について説明する。
まず、この導電性組成物をスクリーン印刷法等によりフレキシブルプリント基板の表面の所定位置に所定のパターンにて塗布し、その後、室温(25℃)にて乾燥させる。この導電性組成物は、その成分によっては、室温(25℃)以上の温度、例えば、25〜80℃の範囲内の温度にて加熱、硬化させることとしてもよい。
【0029】
この乾燥過程、あるいは加熱・硬化過程においては、内部に含まれる水溶性物質が膜の表面に移動し、表面に結晶となって現れる。これが「ブルーム」と称される現象である。同時に、この結晶となって現れた水溶性物質が金属微粒子から溶出する金属イオンを捕捉し、この金属イオンとの錯体を形成する。
これにより、導電性組成物が硬化する過程で、金属イオンが水分に接触するのを防止し、金属イオンのマイグレーションを防止する。
これにより、フレキシブルプリント基板上に、耐マイグレーション性に優れた導電性塗膜を形成することができる。
【0030】
図1は、本実施形態のフレキシブルプリント基板のコネクタ嵌合部を示す概略断面図であり、本発明の導電性塗膜を備えたフレキシブルプリント基板の例である。
図1において、1はフレキシブルプリント基板であり、可撓性を有するベースフィルム2と、このベースフィルム2の表面(一方の面)2aに形成された所定のパターンの導電性塗膜からなる導電回路3とから概略構成されている。
【0031】
ここでは、ベースフィルム2としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂等からなる厚み38μm〜188μm程度のフィルムが好適に用いられる。
また、導電回路3の厚みは5μm〜15μmとなっている。
【0032】
次に、このフレキシブルプリント基板1の製造方法について説明する。
まず、スクリーン印刷法により、上記の導電性組成物をベースフィルム2の表面2aに塗布し、乾燥させることにより、ベースフィルム2上に5μm〜15μm程度の厚みを有する所定のパターンの導電回路3を形成する。この導電性組成物の組成によっては、加熱、硬化させる必要がある。
【0033】
このフレキシブルプリント基板1によれば、導電回路3を、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質と、バインダー樹脂と、溶媒とを含有してなるペースト状の導電性組成物を用いて形成したので、ベースフィルム2上に耐マイグレーション性に優れた導電回路3を形成することができる。したがって、信頼性に優れたフレキシブルプリント基板1を提供することができる。
【0034】
「第2の実施形態」
本発明の第2の実施形態の導電性塗膜の形成方法について説明する。
まず、銀微粒子等の金属微粒子と、バインダー樹脂と、溶媒とを含有してなるペースト状の金属含有組成物を用意する。この金属含有組成物は、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質を含んでいない点が第1の実施形態の導電性組成物と異なる。
次いで、この金属含有組成物をスクリーン印刷法等によりフレキシブルプリント基板の表面の所定位置に所定のパターンにて塗布し、その後、この金属含有組成物を加熱して硬化させる。
【0035】
次いで、この金属含有組成物上に、第1の実施形態にて用いた金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質、または該水溶性物質を含む溶液を塗布または散布し、その後、室温(25℃)にて乾燥させる。
この乾燥過程においては、金属含有組成物上に塗布または散布された金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質が結晶となって現れ(ブルームの発現)、同時に、この結晶化した水溶性物質が金属含有組成物中の金属微粒子から溶出する金属イオンを捕捉し、この金属イオンとの錯体を形成する。
【0036】
これにより、金属含有組成物が硬化する過程で、金属イオンが水分に接触するのを防止し、金属イオンのマイグレーションを防止する。
以上により、耐マイグレーション性に優れた導電性塗膜が容易に形成される。
【0037】
本実施形態の導電性塗膜の形成方法によれば、金属微粒子を含有する金属含有組成物をフレキシブルプリント基板の表面の所定位置に塗布・加熱し、次いで、この塗膜上に、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質、または該水溶性物質を含む溶液を塗布または散布し、その後乾燥するので、耐マイグレーション性に優れた導電性塗膜を容易に形成することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、銀微粒子を含む導電銀ペースト(FA−353:藤倉化成社製)を、スクリーン印刷法により75μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラーs10:東レ社製)の表面に塗布し、次いで、この導電銀ペーストを150℃にて30分間加熱し、図2に示す様な10μmの厚みの銀電極(導電回路)11を形成した。この銀電極11は、PETフィルム12上に、2つの櫛形電極13、14のそれぞれの電極子13a、14a同士が互いに隣接する様に対向して形成された構造である。
【0040】
次いで、この櫛形電極13、14上にキレート剤としてベンゾトリアゾール(BTA)溶液3mlを散布し、実施例1の試料とした。
このBTA溶液は、BTAの粉末0.1gを純水9.9mlに溶解することにより作製した。
【0041】
(実施例2)
実施例1で作製した銀電極11の櫛形電極13、14上にキレート剤としてベンゾトリアゾールカルボン酸ナトリウム(BTAカルボン酸Na)溶液3mlを散布し、実施例2の試料とした。
このBTAカルボン酸Na溶液は、BTAカルボン酸Naの粉末0.1gを純水9.9mlに溶解することにより作製した。
【0042】
(比較例1)
実施例1で作製した銀電極11をそのまま用いて比較例1の試料とした。
【0043】
(耐マイグレーションの評価)
実施例1、2および比較例1それぞれの試料に対して耐マイグレーションの評価を行った。
耐マイグレーションの評価は、実施例1、2および比較例1それぞれの試料の銀電極11の櫛形電極13、14上に直径約3mmの純水の水滴を一滴滴下し、櫛形電極13、14間の抵抗値の経時変化を測定するウオータードロップ(WD:Water Drop)法により行った。
【0044】
図3は、耐マイグレーションの評価に用いられた試験回路を示す回路図であり、図において、21は直流定電圧電源、22は100Ωの抵抗、23は実施例1、2および比較例1それぞれの試料、24は直流電圧計、25は直流電流計である。
ここでは、直流電圧計24にスキャナ付きデジタルマルチメータ(KETHLEY2700型:KETHLEY社製)を、直流電流計25にスキャナ付きデジタルマルチメータ(KETHLEY2700型:KETHLEY社製)を、それぞれ用い、直列に接続された抵抗22および試料23に掛かる電圧を5Vとした。また、銀電極11の櫛形電極13を陽極側、櫛形電極14を陰極側とした。
この試験結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
この試験結果によれば、実施例1、2では、キレート剤が滴下した純水に即座に溶解し、陽極側の櫛形電極13から溶出したAgイオンを即座にキレート化し、マイグレーションを防止していることが分かった。
一方、比較例1では、陽極側の櫛形電極13から溶出したAgイオンがキレート化されないために、3秒以下という極めて短時間でマイグレーションが生じていることが分かった。
【0047】
さらに、櫛形電極13、14上にBTA溶液やBTAカルボン酸Na溶液を散布する替わりに、銀電極11そのものをBTA溶液やBTAカルボン酸Na溶液に浸漬する方法によっても、実施例1、2と全く同様の効果があることが確認された。
【0048】
(実施例3)
まず、銀微粒子を含む導電銀ペースト(FA−353:藤倉化成社製)にBTAカルボン酸Naを、銀微粒子100重量部に対して3重量部となるように添加し、その後3本ロールを用いて混練し、実施例3のキレート剤添加導電銀ペーストを作製した。
【0049】
次いで、このキレート剤添加導電銀ペーストを、スクリーン印刷法により75μmの厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラーs10:東レ社製)の表面に塗布し、次いで、このキレート剤添加導電銀ペーストを150℃にて30分間加熱し、図2に示す様な10μmの厚みの銀電極(導電回路)11を形成し、実施例3の試料とした。
【0050】
(実施例4)
まず、銀微粒子を含む導電銀ペースト(FA−353:藤倉化成社製)にBTAカルボン酸Naを、銀微粒子100重量部に対して5重量部となるように添加し、その後3本ロールを用いて混練し、実施例4のキレート剤添加導電銀ペーストを作製した。
【0051】
次いで、このキレート剤添加導電銀ペーストを、実施例3と全く同様に、PETフィルムの表面に塗布、加熱し、図2に示す様な10μmの厚みの銀電極(導電回路)11を形成し、実施例4の試料とした。
【0052】
(実施例5)
まず、銀微粒子を含む導電銀ペースト(FA−353:藤倉化成社製)にBTAカルボン酸Naを、銀微粒子100重量部に対して10重量部となるように添加し、その後3本ロールを用いて混練し、実施例5のキレート剤添加導電銀ペーストを作製した。
【0053】
次いで、このキレート剤添加導電銀ペーストを、実施例3と全く同様に、PETフィルムの表面に塗布、加熱し、図2に示す様な10μmの厚みの銀電極(導電回路)11を形成し、実施例5の試料とした。
【0054】
(比較例2)
実施例1で作製した銀電極11をそのまま用いて比較例2の試料とした。
【0055】
(比較例3)
まず、銀微粒子を含む導電銀ペースト(FA−353:藤倉化成社製)にBTAカルボン酸Naを、銀微粒子100重量部に対して2重量部となるように添加し、その後3本ロールを用いて混練し、比較例3のキレート剤添加導電銀ペーストを作製した。
【0056】
次いで、このキレート剤添加導電銀ペーストを、実施例3と全く同様に、PETフィルムの表面に塗布、加熱し、図2に示す様な10μmの厚みの銀電極(導電回路)11を形成し、比較例3の試料とした。
【0057】
(耐マイグレーションの評価)
実施例3〜5および比較例2、3それぞれの試料に対して、実施例1、2および比較例1と全く同様にして耐マイグレーションの評価を行った。
この試験結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
この試験結果によれば、実施例3〜5では、キレート剤添加導電銀ペースト中のキレート剤が滴下した純水に即座に溶解し、陽極側の櫛形電極13から溶出したAgイオンを即座にキレート化し、マイグレーションを防止していることが分かった。
一方、比較例2、3では、陽極側の櫛形電極13から溶出したAgイオンがキレート化されないか、キレート化されても僅かな量のために、大半のAgイオンがキレート剤に取り込まれず、3秒以下という極めて短時間でマイグレーションが生じていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の導電性組成物は、金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質とを含有したものであるから、耐マイグレーション性を必要とするプリント配線板はもちろんのこと、片面フレキシブル基板、両面フレキシブル基板、多層構造フレキシブルプリント基板、多層リジッド−フレキシブル基板、フレキシブルテープ配線等に対しても適用可能であり、その効果は非常に大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態のフレキシブルプリント基板を示す概略断面図である。
【図2】2つの櫛形電極を対向配置した銀電極を示す平面図である。
【図3】耐マイグレーションの評価に用いられた試験回路を示す回路図である。
【符号の説明】
【0062】
1…フレキシブルプリント基板、2…ベースフィルム、2a…表面、3…導電回路、11…銀電極、12…PETフィルム、13、14…櫛形電極、13a、14a…電極子、21…直流定電圧電源、22…抵抗、23…試料、24…直流電圧計、25…直流電流計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子と、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質とを含有してなることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
前記水溶性物質の含有量は、前記金属微粒子100重量部に対して0.1〜20重量部であることを特徴とする請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記水溶性物質は、二座以上の多座配位子を含む水溶性化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記水溶性化合物は、キレート化剤であることを特徴とする請求項3記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記金属微粒子は、銀微粒子であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の導電性組成物を基材上に塗布し、次いで、この膜を乾燥させて導電性塗膜とすることを特徴とする導電性塗膜の形成方法。
【請求項7】
金属微粒子を含有する金属含有組成物を基材上に塗布し、その後乾燥または加熱し、次いで、この塗膜上に、金属イオンと安定な錯体を形成する水溶性物質またはそれを含む溶液を塗布または散布し、その後乾燥または加熱することを特徴とする導電性塗膜の形成方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の導電性塗膜の形成方法により得られたことを特徴とする導電性塗膜。
【請求項9】
請求項8記載の導電性塗膜により形成されたことを特徴とする導電回路。
【請求項10】
請求項9記載の導電回路を備えたことを特徴とする基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−260885(P2006−260885A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74899(P2005−74899)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】