説明

導電材料製構造物の損傷推定方法

【課題】検査の実施に困難を伴う部位を対象に、非破壊でかつ簡便に推定できる、導電材料製構造物の損傷推定方法を提案する。
【解決手段】対象とする検査対象部位を挟んで、一対の測定端子と、当該部位以外の領域に、一対の参照電位差測定端子を配設し、直列に電流を供給しながら、測定端子間および参照測定端子間の電位差をそれぞれ測定する。参照測定端子間の単位長さ当たりの電位差を基準にして、測定端子間の単位長さ当たりの電位差から、当該部位の電位差変化率を算出する。電位差変化率に基づいて当該部位の肉厚減少量を推定する。なお、当該部位が直管部と曲り部とからなる場合には、当該部位以外の、同じ形状を有する直管部と曲り部に、参照電位差測定区間をそれぞれ設定して、当該直管部と曲り部とでそれぞれ参照電位差を測定する。得られた当該部位の電位差変化率から、当該部位の損傷の程度を推定する。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電材料製構造物に生じる減肉等の損傷を推定する方法に係り、とく電位差法を利用して、非破壊的に精度よく推定できる、導電材料製構造物の損傷推定方法に関する。なお、本発明は、石油精製プラントの配管等の構造物のうち、例えば、構造物自体が盛土、堤等に埋設されていたり、被覆材が施されていたりして、それらを解体し、撤去しなければ検査の実施に困難が伴う箇所に生じる損傷を対象とする。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントでは、鋼材等の金属材料製の装置および配管等(以下、配管等ともいう)が強い腐食環境や侵食環境に晒される場合が多く、そのため、配管等の構造物を構成する金属材料には、きず、割れや亀裂、さらに腐食等による肉厚減少などの損傷が生じる場合がある。これら金属材料に生じた損傷は、配管等の構造物の破壊原因となることが多いため、配管等の安全確保という観点から早期に検知する必要がある。
【0003】
配管等の損傷の検知方法として、従来から超音波探傷法、X線透過法等の非破壊検査方法が提案されている。しかし、これらの検知方法には、曲がりや溶接部等が存在すると測定できないという、測定個所の制限があり、さらに損傷の度合いおよびその変化量を精度高く得ることが難しいことや、あるいは測定が複雑でかつ解析が難しいため、測定・解析の実施にあたっては有資格者の協力を必要とすることなどの問題があった。
【0004】
また、比較的精度高く、亀裂等の欠陥の大きさ、形状に関する情報が得られる非破壊検査方法として、電位差法がある。亀裂等の欠陥を含む被測定材に電流を流した際に、欠陥は寸法に応じた電気抵抗を有し、欠陥を挟む両側でこれに対応した電位差が生じる。電位差法は、被測定物に電流を流し、この欠陥を挟む位置での電位差を測定し、その結果から予め求めた校正曲線を利用して、被測定物に含まれる欠陥の形状、寸法に関する情報を得ようとするものである。
【0005】
例えば、特許文献1には、電位差法を利用した、きずの非破壊検査方法が提案されている。特許文献1に記載された技術では、被測定物表面に複数の電位差測定用端子をマトリックス状に所定の間隔で離隔して配置し、該被測定物に電流を供給しながら、各電位差測定用端子間に生じる電位差または電位差変化率分布を求め、予め関連づけられた電位差分布または電位差変化率分布ときずの寸法形状との関係を参照して、被測定物に含まれるきずの位置、寸法形状さらにはきずの進展状況を検知できるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、電位差法を利用した、導電材料製構造物の損傷検出方法が記載されている。特許文献2に記載された技術では、被測定物である、導電材料製構造物表面に複数の電位差測定用端子を該導電材料製構造物の長手方向に直線状に少なくとも一列、所定の間隔で離隔して配置し、各端子間に生じる電位差を測定し、測定領域における電位差分布を求め、損傷発生の有無を評価する第一の工程を行う。第一の工程で損傷ありと評価され、さらに詳細な測定が必要と判定された場合には、当該領域でさらに狭い測定間隔で、直線状に複数の電位差測定用端子を配置し、各端子間に生じる電位差を測定し、測定領域における電位差分布を求め、損傷発生の有無をさらに精度よく、測定する第二の工程を行う。この第二の工程で損傷ありと評価された場合には、さらに第三の工程として当該領域で、複数の電位差測定用端子をさらに狭い間隔で格子状に配置し、損傷の種類、その度合を評価する。さらに必要に応じて、複数の電位差測定用端子をさらに狭い間隔で格子状に配置し、各端子間に生じる電位差を測定し、測定領域における電位差分布を求め、損傷の度合をさらに精度高く測定する第四の工程を追加してもよいとしている。特許文献2に記載された技術によれば、実構造物における損傷の粗いスクリーニング検査として利用できるとともに、必要に応じて損傷の種類およびその度合を高い精度で検出できるとしている。
【0007】
また、特許文献3には、導電材料製構造物の損傷検出方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、導電材料製構造物の被測定領域を囲んで、複数の電位差測定用端子を所定の間隔で隔離して配置し、複数の電位差測定用端子を挟んで一対の電極端子を配し、該一対の電極端子を介し導電材料製構造物の特定方向に電流を供給しながら、導電材料製構造物の被測定領域を囲んで相対する各電位差測定用端子間に生じる電位差を測定し、ついで、前記一対の電極端子とは別に複数の電位差測定用端子を挟んで他の一対の電極端子を介し、前記特定方向とは異なる方向に電流を供給しながら、導電材料製構造物の被測定領域を囲んで相対する各電位差測定用端子間に生じる電位差を測定し、被測定領域における損傷状態を評価する。これにより、電位差測定端子を直接設置できないような被測定領域においても、損傷発生領域を特定することができるとしている。また、特許文献3に記載された技術では、電位差測定端子間隔を狭くすることにより、さらに精度よく、損傷発生領域を特定することができるとしている。
【0008】
また、最近、ガイド波を利用して、配管等の損傷検査を行う試みがなされている。例えば、非特許文献1には、ガイド波を用いた配管腐食検査技術についての解説がある。この技術は、配管の外表面に設置したセンサから、長距離伝播性の超音波(ガイド波)を印加して欠陥の検査を行うものである。配管の表面から印加された超音波(ガイド波)は、配管の軸方向に伝播して、その経路上に存在する断面形状の変化を反射源として、欠陥の存在を検知する。この技術によれば、配管の設置位置に関係なく、計測位置から数十メートルの検査を可能にできるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−208039号公報
【特許文献2】特開2008−83038号公報
【特許文献3】特開2009−74923号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】卯西裕之ら:NKK技報、No.177(2002.6)、p.38〜42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に記載された技術では、損傷発生箇所近傍に電位差測定端子を設定できる被測定物については、プラントが稼動中でも、非破壊で、比較的精度よく損傷を特定することができるといえる。しかし、例えば、図1に示すような盛土、壁、堤等で覆われた配管等では、複数の電位差測定端子を損傷発生箇所の近傍に直接設定できないため、特許文献1〜3に記載された技術をそのまま適用することはできないという問題がある。
【0012】
図1に示すような盛土、堤等で覆われた配管等に生じる損傷は、従来では、盛土、堤等を解体して超音波探傷、X線検査等により直接損傷の程度を調査していた。しかし、このような盛土、堤等を解体することを前提とした調査では、多大の費用が発生するという問題がある。
また、非特許文献1に記載されたガイド波を利用した検査技術では、盛土、堤、保温材等を解体することなく、配管等の検査を行うことができるという利点はあるが、計測区間が長くなると超音波が減衰し所定の検査精度が確保できにくくなるとともに、配管等の外部に添付された防食テープ等の影響により、所望の検査精度を得ることができないという問題があった。
【0013】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題を解決し、導電材料製構造物に生じる損傷のうち、検査に多大の費用を要し検査の実施に困難が伴う箇所に生じる減肉等の損傷を、非破壊でかつ簡便に推定できる、導電材料製構造物の損傷推定方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、まず、非破壊でしかも簡便に測定が可能な、電位差法を適用して測定することにし、配管等の構造物において、検査の実施に困難が伴う箇所においても、盛土、堤、保温材等を解体することなく、損傷の程度を精度高く測定する方法について、鋭意研究した。その結果、損傷を測定したい領域(電位差測定領域)と同一の構造物(配管)内で同一の構造を有する領域を、参照電位差測定領域として設定することが有効であることに想到した。そして、参照電位差測定領域内に複数の参照電位差測定端子を設定し、電位差測定領域に設定した電位差測定端子とが直列になるように、電位差測定領域と参照電位差測定領域とを挟むように電極対を設定し電流を流して、それぞれの領域で電位差を測定し、単位長さ当たりの電位差で比較すれば、電位差測定領域における損傷を精度高く測定できることを見出した。
【0015】
というのは、電位差測定領域と同一構造を有する参照電位差測定領域では、損傷が生じていないか、あるいは生じていても特別な作業を必要とすることなく損傷の程度を容易に測定可能であり、そのような領域に設定された参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差を基準電位差として、該基準電位差に対する電位差測定領域の電位差測定端子間の電位差変化率を算出すれば、当該測定領域での損傷の有無、およびその程度が容易に推定できることになる。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)導電材料製構造物における損傷を直接検査することが難しい検査対象部位の損傷の程度を、電位差法を用いて推定する損傷推定方法であって、前記検査対象部位を電位差測定区間とし、該電位差測定区間を挟んで両側で一対となるように、少なくとも一対の電位差測定端子を配設し、さらに、前記導電材料製構造物の前記検査対象部位以外の領域に、参照電位測定区間を設け、該参照電位測定区間の端部両側で一対となるように少なくとも一対の参照電位差測定端子を配設し、さらに前記導電材料製構造物に前記電位差測定区間および前記参照電位差測定区間を挟むように一対の電極を設置し、該一対の電極を介して前記電位差測定区間および前記参照電位差測定区間に直列に電流を供給しながら、前記少なくとも一対の電位差測定端子間および前記少なくとも一対の参照電位差測定端子間の電位差をそれぞれ測定し、得られた前記一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差を基準にして、得られた前記一対の電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差から、次(1)式
ΔV(%)={(V3i/V2i)−1}×100‥‥(1)
(ここで、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)、V3i:一対の電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差、V2i:一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差)
で定義される、検査対象部位の電位差変化率ΔVを算出し、該電位差変化率ΔVに基づいて前記検査対象部位の損傷の程度を推定することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
【0017】
(2)(1)において、前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が直管部からなる管形状を有し、該検査対象部位と同じ管形状を有する部位が前記検査対象部位の近傍の前記配管に存在する場合には、該同じ管形状を有する部位を、参照電位差測定区間として設定することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
(3)(1)において、前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が直管部とさらに曲がり部とからなる管形状を有し、該検査対象部位と同じ管形状でさらに同じ長さを有する部位が前記検査対象部位の近傍の前記配管に存在する場合には、該同じ管形状で同じ長さを有する部位を、参照電位差測定区間として設定することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
【0018】
(4)(1)において、前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が、直管部とn個の曲り部とからなり、該検査対象部位と同じ管形状を有する部位が前記電位差測定区間の近傍の前記配管に存在する場合には、前記参照電位差測定区間を前記直管部と同一管形状の直管部と、さらに前記曲り部と同一管形状を有する少なくとも1個の曲り部とに、それぞれ設定し、前記検査対象部位の電位差変化率ΔVを、前記(1)式に代えて、次(2)式
ΔV(%)=(V/(V2E×n+V2S×L)−1)×100 ‥‥(2)
(ここで、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)、V:電位差測定区間(検査対象部位)の一対の電位差測定端子間の電位差、V2S:直管部参照電位差測定区間における一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差、V2E:曲り部参照電位差測定区間における一対の参照電位差測定端子間の電位差、n:電位差測定区間内の曲り部の個数、L:電位差測定区間内の直管部長さ)
を用いて算出することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
【0019】
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)と、超音波探傷法により求めた前記参照測定区間の平均肉厚ts(mm)を基準として、次(3)式
tm(mm)=(ts)×(1−ΔV/(100+ΔV))‥‥(3)
(ここで、tm:検査対象部位の推定平均肉厚(mm)、ts:参照測定区間の基準平均肉厚(mm)、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%))
を用いて、前記検査対象部位の推定平均肉厚tmを算出することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
【0020】
(6)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)が予め設定した閾値を超えた場合には、さらに該検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)と、予め求めたマスターカーブとから、最小肉厚を推定することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、測定に多大の費用を要し測定の実施に困難が伴う箇所(検査対象部位)に生じる、減肉等の損傷を非破壊でかつ簡便に推定でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、なだらかな減肉に限らず、局所的な損傷の程度も推定できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が対象とする検査対象部位の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明で使用する、電位差測定装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図3】直管部からなる検査対象部位における電位差測定用端子対と参照電位差測定用端子対の設置状況の一例を模式的に示す説明図である。
【図4】推定最小肉厚と電位差変化率との関係(マスターカーブ)を示すグラフである。
【図5】直管部と1個の曲り部とを有する検査対象部位における電位差測定用端子対の設置状況の一例を模式的に示す説明図である。
【図6】直管部と2個の曲り部とを有する検査対象部位における電位差測定用端子対の設置状況一例を模式的に示す説明図である。
【図7】実施例で測定した検査対象部位を、測定端子位置とともに、模式的に示す説明図である。
【図8】本発明における、損傷推定の手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
例えば石油精製プラントでは、貯槽等からの危険物等の流出を防止するために、貯槽等の周りに、盛土、壁、堤等による防油堤が配設されており、導電材料製構造物である配管がそれらを貫通している箇所がある。またさらに、石油精製プラントに限らず、導電材料製構造物である配管が地中等に埋設されている場合もある。
このような箇所においても、損傷が問題となる場合があり、損傷の程度を定期的にあるいは必要に応じて、検査する必要がある。このような箇所で損傷程度を直接検査するためには、例えば、防油堤では、仮防油堤を設置し、盛土等を解体する必要があり、費用が多大となるという問題があり、損傷の程度を直接検査することが、難しくなっている。また、地中等に埋設された配管の検査では埋設部の堀削工事を必要とし、多大の費用を必要とする。
【0024】
本発明は、このような難検査部位の損傷の程度を、電位差法を用いて非破壊で簡便に推定できる、導電材料製構造物の損傷推定方法である。
本発明では、検査対象部位を被測定領域Wとして電位差測定区間とし、その両側で一対となるように、少なくとも一対の電位差測定用端子を配設し、電位差法を利用して、該測定用端子対の電位差を測定する。電位差を測定するために使用する装置は、とくに限定する必要はないが、図2に示すような、電源1と、電源1から被測定領域Wに電流を印加するための少なくとも一対の電極11,11と、複数の電位差測定用端子2と、電位差測定手段3と、演算手段4と、データ保存手段5と、を有する装置とすることが好ましい。
【0025】
導電材料製構造物として石油精製プラントにおける配管を例として説明する。なお、本発明は、これに限定されないことは言うまでもない。
図3に示す構造物は、直管部のみから形成される管形状を有する配管である。図3に模式的に示すように、配管の、堤で覆われた部位が検査対象部位である。
図3では、電位差測定用端子を配管の円周方向の各位置に4箇所、計8箇所設置し、電位差測定区間で4対の電位差測定用端子対、2a−2b,2c−2d,2e−2f,2g−2hが形成できるような設置としている。
【0026】
本発明では、電位差測定区間以外の領域に、参照電位測定区間を設け、その区間の端部両側で一対となるように、参照電位差測定端子を少なくとも一対配設する。参照電位差測定端子の設置位置は、電位差測定端子の設置位置と同様の位置、例えば図3に示すように、配管の同じ円周方向位置とする。参照電位差測定用端子は、構造物の材質、構造物の形状、構造物の温度変化など、損傷以外の抵抗変化(電位差の変化)を消去するために設けられる。図3では、参照電位差測定用端子を、電位差測定用端子と対応する配管の同じ円周方向位置である円周方向に4箇所、計8箇所設置し、参照電位差測定区間で4対の参照電位差測定用端子対、2b−i,2d−j,2f−k,2h−lが形成できるような設置としている。
【0027】
なお、電位差測定用端子、参照電位差測定端子は、導電材料製測定物の表面に、ばね等で押圧し表面に十分に接触させて、配設する方式の端子とすることが好ましいが、圧接、溶接、圧着、接着等の接合手段で、接合し、配設してもよい。なお、接合は、接触抵抗が変化しない方法であればよく、とくに限定されない。
本発明では、上記した電位差測定区間および参照電位差測定区間を挟むように、すなわち図3では配管の長手方向に電位差測定区間と参照電位差測定区間とが、電気的に直列となるように、一対の電極11、11を設置する。1対の電極11,11には、電流供給用電源が配線され、電源1から電流が供給可能とされる。印加する電流は、直流または直流パルス電流とすることが好ましい。なお、印加する電流の大きさは、被測定領域で電位差が測定可能であれば、その値は特に限定されない。
【0028】
本発明では、電極対の間に、電流を供給しながら、少なくとも一対の電位差測定端子間および参照電位差測定区間で対応する円周方向位置に設置された少なくとも一対の参照電位差測定端子間に発生する電位差をそれぞれ測定する。得られた一対の電位差測定端子間の電位差、および一対の参照電位差測定端子間の電位差から、単位長さ当たりの電位差をそれぞれ求め、参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差を基準にして、電位差測定端子間の電位差変化率を算出する。
【0029】
なお、電位差測定端子間の電位差変化率(電場指紋係数)ΔV、すなわち、検査対象部位の電位差変化率は、次(1)式
ΔV(%)={(V3i/V2i)−1}×100‥‥(1)
ここで、V3i:一対の電位差測定端子間(検査対象部位)の単位長さ当たりの電位差、
2i:一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差
で定義される値である。
【0030】
本発明では、この検査対象部位の電位差変化率ΔVに基づいて、検査対象部位の損傷の程度を推定する。なお、検査対象部位の電位差変化率ΔVは、当該区間の損傷の程度に比例することを本発明者らはすでに確認している。例えば、損傷が肉厚減少であれば、電位差変化率ΔVが大きくなれば、肉厚減少量が大きくなる。また損傷が局所的な孔食であれば、電位差変化率ΔVが大きくなれば、孔食深さが深くなる。
【0031】
損傷が肉厚減少である場合には、検査対象部位ではない参照電位測定区間での肉厚を、超音波探傷等により基準肉厚として測定することにより、参照電位測定区間での平均肉厚ts(mm)を基準として、検査対象部位の電位差変化率ΔVから、次(3)式
tm(mm)=(ts)×(1−ΔV/(100+ΔV))‥‥(3)
(ここで、tm:検査対象部位の推定平均肉厚(mm)、ts:参照測定区間の基準平均肉厚(mm)、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%))
を用いて、検査対象部位の推定平均肉厚tm(mm)を算出することができる。なお、参照電位差測定区間の基準平均肉厚は、参照電位差測定端子において超音波探傷法で別途測定した値を用いるものとする。
【0032】
また、導電材料製構造物が配管である場合には、円周方向各位置でそれぞれ、電位差変化率V(%)を測定し、その最大値を求める。電位差変化率が肉厚減少量に比例することから、最大値が生じる円周方向位置に最大の肉厚減少が生じていることになる。したがって、安全性の観点からは、構造物が配管である場合には、最大電位差変化率が生じる位置の肉厚減少量(最小肉厚)を用いて、損傷の程度を推定することが好ましい。
【0033】
なお、検査対象となる構造物によっては、製作時の誤差等の影響から、電位差変化率は5%程度の変動が認められる。得られた電位差測定区間の電位差変化率が、この製作時の誤差等による電位差変化率より大きい場合には、当該区間に腐食(肉厚減少)が生じているものと推定できる。このようなことから、肉厚減少の発生検知のため、製作時の誤差等を含めて、閾値を設けておくことが好ましい。一つの閾値の例として、電位差変化率:5%を用いることもできる。また、規格やミルシートの公差をもとに計算によって求めた値を閾値として用いてもよい。その閾値を超えない程度の電位差変化率であれば、当該区間の腐食は軽微であると判断でき、閾値を超える場合には、腐食が生じており損傷ありとして、さらに、マスターカーブを利用して、損傷の程度を確認しておくことが必要となる。また、さらには、当該損傷の進展を監視することも可能となる。
【0034】
なお、マスターカーブは、同種の環境下に曝された構造物に実際に生じた損傷(肉厚減少)について、損傷(肉厚減少)の程度と当該損傷における電位差変化率とを、多数、測定し、得られたデータをもとに、例えば、図4におけるように、電位差変化率ΔVと推定最小肉厚(最大肉厚減少量)との相関関係として、予め、決定しておくことが好ましい。
【0035】
このようなマスターカーブとして予め求めた、電位差変化率ΔVと推定最小肉厚(最大肉厚減少量)との相関関係に基づいて、得られた電位差変化率ΔVから、当該検査対象区間の推定最小肉厚を推定し、損傷(腐食)の程度を判定(確認)することができる。
なお、検査対象部位が、直管部とさらに曲がり部とからなる管形状を有する配管である場合には、曲り部が測定される電位差に対し直管部と異なる影響を及ぼすことを考慮する必要がある。
【0036】
例えば、図5に示すように、配管内の検査対象部位の近傍に、検査対象部位と同じ管形状でさらに同じ長さを有する部位が存在する場合には、該同じ管形状で同じ長さを有する部位を参照電位差測定区間として設定することが好ましい。電位差測定区間である検査対象部位と同じ管形状でさらに同じ長さを有する部位を参照電位差測定区間と設定することにより、直管部のみの管形状である場合と同様に、上記した(1)式が利用でき、参照電位差測定端子間の電位差を基準として、得られた電位差測定端子間の電位差から、当該電位差測定区間の電位差変化率を算出することができる。この場合、参照電位差測定端子間と電位差測定端子間との長さが同じであることから、(1)式の利用にあたっては、電位差をとくに単位長さあたりに換算する必要もない。
【0037】
また、図6に示すように、検査対象部位が、直管部とn個の曲り部とからなり、検査対象部位と長さを含め全く同じ管形状を有する部位が検査対象部位近傍の配管にないが、同じ管形状の曲り部が近傍の配管に存在する場合には、参照電位差測定区間を、難検査部位の直管部と同一管形状の直管部に、また難検査部位の曲り部と同一管形状を有する少なくとも1個の曲り部に、それぞれ設定することが好ましい。この場合にも(1)式と同様に、検査対象部位の電位差変化率を、参照電位差測定区間の電位差を基準として、次(2)式
ΔV(%)=((V/(V2E×n+V2S×L)−1)×100 ‥‥(2)
(ここで、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)、V:電位差測定区間(検査対象部位)の電位差、V2S:参照電位差測定区間の直管部単位長さ当たりの直管部参照電位差、V2E:参照電位差測定区間の曲り部1個当たりの参照電位差、n:電位差測定区間内の曲り部の個数、L:電位差測定区間内の直管部長さ)
を用いて算出することが好ましい。(2)式を利用することにより、直管部と複数の曲り部を含有する電位差測定区間の損傷の程度を、直管部および曲り部の損傷を含めて、簡便に推定することができるようになる。
【0038】
構造物が配管で、測定対象とする検査対象部位が、種々の管形状を有する場合に、損傷の度合を電位差法を用いて推定する手順を、フローとしてまとめて図8に示す。
まず、検査対象を選定する。検査対象が、直管形状のみの配管であれば、図3に示すような測定端子の設定とする。検査対象が、直管以外に曲り部(構成部品)を含む場合には、近傍に同じ形状、同じ長さの部位が存在する場合には、図5に示すような測定端子の設定とする。検査対象が、それ以外の場合には、図6に示すような測定端子の設定とする、すなわち参照電位差測定区間を直管部と曲がり部にそれぞれ設定する。測定端子の設定を完了したら、電極対に電流を流し、各測定端子間の電位差を測定し、当該電位差測定区間の電位差変化率を求める。電位差変化率が所定の閾値以下であれば、当該電位差測定区間の腐食の程度は軽微と判定し、閾値を超えて大きい場合には、予め決定しておいたマスターカーブを用いて推定最小肉厚等をもとめ、その値から腐食(損傷)の程度を判定することが好ましい。
【0039】
以下、実施例に基づいて、さらに本発明について説明する。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
石油精製プラントの配管(炭素鋼鋼管製)で、図3に示すような、防油堤を貫通する貫通部(検査対象部位)の損傷状態を電位差法を用いて測定した。貫通部(検査対象部位)の両側で一対となるように、複数の電位差測定用端子を設置し電位差測定区間とした。複数の電位差測定用端子の設置位置は、配管の円周方向に4位置(0°、90°、180°、270°)とした。なお、参照電位差測定区間を、貫通部(検査対象部位)に隣接して設置した。参照電位差測定区間では、区間の端部両側で一対となるように、複数の参照電位差測定用端子を設置した。なお、複数の参照電位差測定用端子の設置位置は、電位差測定用端子と同様に、配管の円周方向に4位置(0°、90°、180°、270°)とした。
【0041】
なお、一対の電極11、11を、電位差測定区間および参照電位差測定区間を挟むように、設置した。そして、一対の電極を介して、直流パルス電流を供給しながら、配管の円周方向各位置での電位差測定対の電位差および参照電位差測定対の電位差を測定した。
得られた電位差を用いて、上記した(1)式により、難検査部位の電位差変化率ΔV(%)を算出した。ついで、得られたΔVを用いて、上記した(3)式から難検査部位の推定平均肉厚tmを算出した。なお、各参照電位差測定端子の位置で、超音波探傷法によりその位置での肉厚を測定し、基準平均肉厚tsを求めた。円周方向の同じ位置の参照電位差測定端子の間で異なる値が測定された場合には、その間で直線的に肉厚が変化しているとして、平均値を用いた。
【0042】
得られた結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
円周方向270°位置が、3.6%と最も大きな電位差変化率を示している。また、最小推定平均肉厚は、円周方向90°位置で、6.0mm(減肉量:0.4mm)であった。この程度の減肉量であれば、対象とする検査対象部位では腐食なしと判定した。
(実施例2)
石油精製プラントの配管(炭素鋼鋼管製)で、図6に示すような、2個の曲り部と、直管部とから構成されている貫通部(検査対象部位)を、電位差測定区間として、実施例1と同様に、電位差を測定した。なお、参照電位差測定区間を、貫通部以外の曲り部、および直管部に設定した。各区間での測定用端子の配設は、実施例1と同様に、円周方向に4箇所とした。そして、実施例1と同様に、電位差測定区間および参照電位差測定区間を挟むように、一対の電極11,11を配設し、直流パルス電流を供給して、各電位差測定用端子対、および各参照電位差測定用端子対に生じる電位差を測定した。
【0045】
得られた電位差を用いて、上記した(2)式を用いて、貫通部(検査対象部位)の電位差変化率ΔVを算出した。得られた電位差変化率ΔVと、超音波探傷法により測定した参照電位差測定用端子間の平均肉厚tsから(3)式を用いて、貫通部(検査対象部位)の推定平均肉厚tmを求めた。
得られた結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
円周方向180°位置が、−1.0%と最も大きな電位差変化率を示している。また、最小推定(平均)肉厚は、円周方向180°位置で、3.8mm(減肉量:0.4mm)であった。この程度の減肉量であれば、対象とする検査対象部位では腐食なしと判定した。
(実施例3)
石油精製プラントの配管(炭素鋼鋼管製)で、図7に示すような、貫通部の出口側に鞘管が接続された直管形状の、貫通部(検査対象部位)について、電位差法を用いて損傷状態を測定した。鞘管が存在するために、参照電位差測定区間は、貫通部から離れた位置に隣接させずに設置し、測定用端子は、参照電位差測定区間の端部両側に設けた。各区間での測定用端子の配設は、実施例1と同様に、円周方向に4箇所とした。そして、実施例1と同様に、電位差測定区間および参照電位差測定区間を挟むように、一対の電極11,11を配設し、直流パルス電流を供給して、各電位差測定用端子対、および各参照電位差測定用端子対に生じる電位差を測定した。
【0048】
得られた電位差を用いて、実施例1と同様に、上記した(1)式により、貫通部(検査対象部位)の電位差変化率ΔV(%)を算出した。ついで、得られたΔVを用いて、上記した(3)式から検査対象部位の推定平均肉厚tmを算出した。なお、各参照電位差測定端子の位置で、超音波探傷装置によりその位置での肉厚を測定し、基準平均肉厚tsとした。なお、円周方向の同位置の参照電位差測定端子の間で異なる値が測定された場合には、その間で直線的に肉厚が変化しているとして、平均値を用いた。
【0049】
得られた結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
円周方向270°位置が、最も大きな電位差変化率を示し、5.4%であり、また、円周方向90°位置で、推定平均肉厚が5.9mm(減肉量:0.5mm)であり、小規模の腐食が生じていると判定した。なお、腐食の程度は、得られた最大電位差変化率と図4に示すマスターカーブとから、推定最小肉厚が、元厚の約70%程度になる腐食が生じていると推定した。しかし、当該配管の必要肉厚が元厚の60%であるため、緊急の対策は必要ないと判断した。
【符号の説明】
【0052】
1 電源
11、12 電極
2 電位差測定用端子
3 電位差測定手段
4 演算手段
5 データ保存手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料製構造物における損傷を直接検査することが困難な検査対象部位の損傷の程度を、電位差法を用いて推定する損傷推定方法であって、
前記検査対象部位を電位差測定区間とし、該電位差測定区間を挟んで両側で一対となるように、少なくとも一対の電位差測定端子を配設し、
さらに、前記導電材料製構造物の前記検査対象部位以外の領域に、参照電位測定区間を設け、該参照電位測定区間の端部両側で一対となるように少なくとも一対の参照電位差測定端子を配設し、
さらに前記導電材料製構造物に前記電位差測定区間および前記参照電位差測定区間を挟むように一対の電極を設置し、該一対の電極を介して前記電位差測定区間および前記参照電位差測定区間に直列に電流を供給しながら、前記少なくとも一対の電位差測定端子間および前記少なくとも一対の参照電位差測定端子間の電位差をそれぞれ測定し、
得られた前記一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差V2iを基準にして、得られた前記一対の電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差V3iから、下記(1)式で定義される、検査対象部位の電位差変化率ΔVを算出し、該電位差変化率ΔVに基づいて前記検査対象部位の損傷の程度を推定することを特徴とする導電材料製構造物の損傷推定方法。

ΔV(%)={(V3i/V2i)−1}×100‥‥(1)
ここで、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)、
3i:一対の電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差、
2i:一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差
【請求項2】
前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が直管部からなる管形状を有し、該検査対象部位と同じ管形状を有する部位が前記検査対象部位の近傍の前記配管に存在する場合には、該同じ管形状を有する部位を、参照電位差測定区間として設定することを特徴とする請求項1に記載の導電材料製構造物の損傷推定方法。
【請求項3】
前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が直管部とさらに曲がり部とからなる管形状を有し、該検査対象部位と同じ管形状でさらに同じ長さを有する部位が前記検査対象部位の近傍の前記配管に存在する場合には、該同じ管形状で同じ長さを有する部位を、参照電位差測定区間として設定することを特徴とする請求項1に記載の導電材料製構造物の損傷推定方法。
【請求項4】
前記導電材料製構造物が配管で、前記検査対象部位が、直管部とn個の曲り部とからなり、該検査対象部位と同じ管形状を有する部位が前記電位差測定区間の近傍の前記配管に存在する場合には、前記参照電位差測定区間を前記直管部と同一管形状の直管部と、さらに前記曲り部と同一管形状を有する少なくとも1個の曲り部とに、それぞれ設定し、前記検査対象部位の電位差変化率ΔVを、前記(1)式に代えて、下記(2)式を用いて算出することを特徴とする請求項1に記載の導電材料製構造物の損傷推定方法。

ΔV(%)=(V/(V2E×n+V2S×L)−1)×100 ‥‥(2)
ここで、ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)、
:電位差測定区間(検査対象部位)の一対の電位差測定端子間の電位差、
2S:直管部参照電位差測定区間における一対の参照電位差測定端子間の単位長さ当たりの電位差、
2E:曲り部参照電位差測定区間における一対の参照電位差測定端子間の電位差、
n:電位差測定区間内の曲り部の個数、
L:電位差測定区間内の直管部長さ
【請求項5】
前記検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)と、超音波探傷法により求めた前記参照測定区間の平均肉厚ts(mm)を基準として、下記(3)式を用いて、前記検査対象部位の推定平均肉厚tm(mm)を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導電材料製構造物の損傷推定方法。

tm(mm)=(ts)×(1−ΔV/(100+ΔV))‥‥(3)
ここで、tm:検査対象部位の推定平均肉厚(mm)、
ts:参照測定区間の基準平均肉厚(mm)、
ΔV:検査対象部位の電位差変化率(%)
【請求項6】
前記検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)が予め設定した閾値を超えた場合には、さらに該検査対象部位の電位差変化率ΔV(%)と、予め求めたマスターカーブとから、最小肉厚を推定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導電材料製構造物の損傷推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44601(P2013−44601A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181686(P2011−181686)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(503469810)株式会社アトラス (8)
【Fターム(参考)】