説明

導電繊維およびその用途

【課題】引張強度および伸度などの機械的強度に優れ、かつ接触抵抗の小さい導電繊維を提供する。
【解決手段】カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成した繊維を、例えば、濃度0.5〜10.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液に、40〜60℃の温度下、0.5〜6.0時間浸漬して、好ましくは繊維重量の減量率が4.0〜10.0重量%になるようにエッチング処理することによって繊維表面の接触抵抗を低減したことを特徴とする導電繊維であり、好ましくは例えば、非エッチング処理繊維の接触抵抗に対するエッチング処理繊維の接触抵抗の比が1/102以下である導電繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維表面の接触抵抗を低減した導電繊維に関する。好ましくは、引張強度および伸度などの機械的強度に優れ、かつ接触抵抗の小さい導電繊維とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真複写機、電子写真プリンター等には現像用ブラシや感光ドラムクリーナー用ブラシなど各種のブラシが用いられており、これらのブラシはトナー等の帯電残留を防止するために導電性繊維によって形成されており、より導電性に優れたものが求められている。従来、導電性繊維として、導電性微粒子を配合して比抵抗を低減した樹脂によって形成した繊維が知られているが、環境変化に対する耐久性が低く、また繊維表面に存在する導電性微粒子によって微少な凹凸が形成される、このような繊維で形成したブラシを電子写真用機器の使用すると画像の鮮明度が低下する場合がある(特許文献1)。
【0003】
また、導電性カーボンブラックを含有する熱可塑性合成重合体からなる芯部と導電性カーボンブラックを含有しない非導電性の鞘部からなり、鞘部はフィラメントの断面積の小さいものが知られている(特許文献2)。この導電性繊維は、鞘部に導電性カーボンブラックを含有しないため、繊維表面の微小な凹凸が少ないが、製造工程が煩雑であり、また導電性も低いと云う問題があった。
【0004】
さらに、カーボンブラック等の導電性微粒子を含有した熱可塑性樹脂を分割して繊維表面に露出した導電繊維が知られている(特許文献3)。また、カーボンブラック等を含有した樹脂組成物にマグネシウム化合物を添加し、あるいは樹脂組成の粘度等を調整することによって樹脂組成物の紡糸性の改善を試みた導電性フィラメントが知られている(特許文献4、特許文献5)。
【0005】
しかし、樹脂にカーボンブラック等を配合してなる樹脂組成物によって形成した従来の導電性繊維は、導電性を高めるためにカーボンブラックの配合量を多くすると樹脂物性が損なわれる問題があり、高強度であって導電性に優れた繊維を得るのが難しい。カーボンブラックに代えてカーボンナノチューブを用いた導電性繊維も、従来のカーボンナノチューブは樹脂中の分散性が劣るので、この配合量を増やすと引張強度や伸度などの樹脂物性が低下し、紡糸不能になる。一方、親油性の高いカーボンナノチューブを用いることによって引張強度および破断伸度を高めた導電繊維が提案されている(特許文献6)。
【特許文献1】特開平09−49116号公報
【特許文献2】特開昭52−31450号公報
【特許文献3】特開2003−105634号公報
【特許文献4】特開2004−183180号公報
【特許文献5】特開2004−131899号公報
【特許文献6】特開2006−152491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂中にカーボンナノファイバーを分散させた導電性樹脂組成物によって形成した導電繊維は、高強度であって導電性に優れた繊維であるが、繊維表面の表皮構造のために接触抵抗が高く、放電性能が低い問題点があった。本発明は強度が高く、かつ接触抵抗の小さい導電繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決した導電繊維とその用途に関する。
(1)カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成され、エッチング処理によって繊維表面の接触抵抗を低減したことを特徴とする導電繊維。
(2)エッチング処理による繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%であり、非エッチング処理繊維の接触抵抗に対するエッチング処理繊維の接触抵抗の比が(1/102以下)である上記(1)に記載する導電繊維。
(3)カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成した繊維を濃度0.5〜10.0重量%のアルカリ水溶液に、0〜110℃の温度下、0.1〜48.0時間浸漬して、繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%になるようにエッチング処理した上記(1)または上記(2)に記載する導電繊維。
(4)上記(1)〜上記(3)の何れかに記載する導電繊維によって形成された導電ブラシ、導電ベルト、導電シート、または帯電防止衣料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電繊維は、エッチング処理によって繊維表面の表皮構造が除去されているので、接触抵抗が小さい。好ましくは、繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%になるようにエッチング処理することによって、非エッチング処理繊維の接触抵抗に対するエッチング処理繊維の接触抵抗の比を(1/102以下)に低減した導電繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の導電繊維は、カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成され、エッチング処理によって繊維表面の接触抵抗を低減したことを特徴とする導電繊維である。本発明の導電繊維は糸を含めて繊維と云う。
【0010】
本発明に用いるカーボンナノファイバーは、例えば直径が数十ナノメータ以下、長さが数百ミクロンメータ以下であるナノサイズの極微細炭素繊維であり、内部が中空構造のカーボンナノチューブに限らず、内部が充填された構造のものを含む。
【0011】
本発明の導電繊維に用いるカーボンナノファイバーは、DBP吸油量150ml/100g以上のものが好ましい。DBP吸油量が150ml/100gよりも少ないカーボンナノファイバーは樹脂中の分散性が劣り、凝集しやすいので樹脂組成物の導電性が不均一になり、さらに、樹脂組成物の加工性が低下するので引張強度や伸度に優れた導電繊維を得るのが難しい。また、体積抵抗値1.0Ωcm以下のものが好ましい。体積抵抗値が1.0Ωcmより大きいカーボンナノファイバーは導電性が不十分である。
【0012】
上記カーボンナノファイバーは、触媒を用いた気相成長法において、触媒および原料混合ガス組成などを調整することによって製造することができる。具体的には、例えば、触媒粒子としてFe、Ni、Co、Mn、Cuの酸化物から選ばれた1種または2種以上と、Mg、Ca、Al、Siの酸化物から選ばれた1種または2種以上の混合酸化物粉末を用い、400℃〜800℃の温度で、一酸化炭素または二酸化炭素と水素の混合ガスを上記触媒粒子に接触させて、カーボンナノファイバーを製造する気相成長法において、触媒としてCo酸化物とMg酸化物の混合酸化物あるいは、Mg酸化物にCo酸化物が被覆された複合酸化物を用い、原料混合ガスを一酸化炭素および/または二酸化炭素と水素とし、その混合比をCO/H2=50/50〜99/1に調整し、好ましくは、さらに反応後に連続して反応温度と同一温度下で水素ガスで10分間以上処理することによって、体積抵抗値が低くDBP吸油量が高いカーボンナノファイバーを製造することができる。
【0013】
上記カーボンナノファイバーは、直径5〜100nm、アスペクト比10以上、BET比表面積400m2/g以下であるものが好ましい。直径がこれより小さいと均一に分散するのが難しく、直径がこれよりも大きいと繊維長さに対してフィラーが大きすぎるため繊維強度が向上し難い。一方、アスペクト比がこれよりも小さいと、繊維相互の接触が不十分になり、導電性を高めるうえで好ましくない。また、BET比表面積がこれより大きいと樹脂との接触面積が過大になり、樹脂の物性が損なわれ、樹脂自体が本来有する強度や混練時ないし成形時の粘度が高くなり、流動性が失われるので好ましくない。
【0014】
上記カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂は一般的に溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的にはポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等を用いることができる。上記熱可塑性樹脂のうち、ポリエステルは、いわゆる炭化水素基が主鎖にエステル結合を介して連結された高分子量体であって、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0015】
カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物は固有粘度(IV値)が0.50〜0.90であることが好ましい。この値は、使用する熱可塑性樹脂の分子量を表す量であり、この値が0.5より少ないと、分子量が小さいために溶融紡糸の際に樹脂粘度が低すぎて、糸切れが発生し、連続的に糸を製造できない。一方、上記値が0.9より大きいと分子量が大き過ぎ、樹脂が硬いために紡糸の際に押出機のノズルから樹脂が十分に流れ出さず、糸を製造できない。
【0016】
カーボンナノファイバーを含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度(MFR)が、温度280℃および荷重2160gの条件下で10g/min以上で、かつ熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂であることが好ましい。MFR値は加工時温度での流動性を示す値であり、10g/minよりも小さいと、流動性が小さいので、溶融紡糸の際に充分に樹脂が流れ出てこない。
【0017】
本発明の導電繊維を形成する樹脂組成物のカーボンナノファイバーの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2000m2以下であって、樹脂組成物中の含有量が2〜10重量%であるものが好ましい。この含有量が2重量%未満では比抵抗が低い。また、この含有量が10重量%を上回ると溶融紡糸性が低下し、紡糸中に糸切れが多発するようになる。
【0018】
カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物を溶融紡糸し、延伸して糸状の導電繊維を製造する。この導電繊維をエッチング処理して繊維表面の表皮構造を除去する。エッチング処理は、例えば、濃度0.5〜10.0重量%のアルカリ水溶液に、0〜110℃の温度下、0.1〜48.0時間浸漬して行うと良い。
【0019】
エッチング処理は、繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%になるように行うのが好ましい。減量率はエッチング前の繊維重量(Go)に対するエッチング後の繊維重量(Gs)の比(Gs/Go)である。実施例に示すように、エッチングによる減量率が1〜2%程度ではエッチング前の繊維(非処理繊維と云う)の接触抵抗に対して、エッチング後の繊維(処理繊維)の接触抵抗は1/102程度低下するが、減量率が3.0重量%以上では処理繊維の接触抵抗が1/104程度に大幅に低下する。一方、減量率に比例して繊維強度が低下するので、減量率は20%を超えないことが好ましい。エッチングによる減量率は概ね処理時間に比例するので、上記減量率の範囲になるようにエッチングの処理時間を調整すると良い。
【0020】
以上のように繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%になるようにエッチング処理を行うことによって、エッチング処理しない繊維の接触抵抗(Ro)に対するエッチング処理繊維の接触抵抗(Rs)の比(Rs/Ro)を1/102以下に低減することができる。一方、繊維の体積抵抗は変わらないため、エッチング処理前後の端子間抵抗に変化は無いが、接触抵抗が大きく改善されているので、ブラシ等の加工製品における導電性能が格段に向上する。
【0021】
本発明の導電繊維は導電ブラシ、導電ベルト、導電シート、または帯電防止衣料などの導電製品の材料として好適である。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、紡糸方法および評価方法は以下のとおりである。
〔紡糸方法〕巻取り速度400m/minで溶融紡糸し、さらに連続して延伸倍率4倍に延伸し、48ファイラメントの糸を製造した。
〔体積抵抗〕超絶縁抵抗計(東亜電波工業社製品:SM-8210)を用い、長さ10cmの繊維の両端に銅製端子を付け、そこに10〜1000Vの電圧を印可し、温度20℃、湿度30%RHの条件下で、電気抵抗値R(Ω)を測定し、平均繊維径及び本数から体積を求め換算した。
〔接触抵抗値〕超絶縁抵抗計(東亜電波工業社製品:SM-8210)を用い、試重0.5gを計量して円筒形セルに入れ、荷重を加えた状態で、10〜1000Vの電圧を印可し、温度20℃、湿度30%RHの条件下で、電気抵抗値R(Ω)を測定し、これを接触抵抗の指標とした。
〔引張強度〕引っ張り試験機を用いて、最大荷重とそのときの伸びを測定した。引張強度については、別途、繊維太さ(繊維径)を測定し、単位太さあたりに換算した。
【0023】
〔実施例1〜2〕
表1に示すカーボンナノファイバー(CNF)をPET樹脂に均一に練り込み、導電性樹脂組成物を製造した。これを溶融紡糸し、さらに延伸して、表1に示す導電糸を得た。この導電糸を表2に示す濃度の水酸化ナトリウム水溶液(50℃)に浸漬することによってエッチング処理し、接触抵抗を測定した。エッチング時間と減量率、および接触抵抗を表2、表3に示した。
【0024】
〔比較例1〕
実施例1と同様の導電性樹脂組成物を溶融紡糸し、さらに延伸して導電糸を得た。この導電糸について、エッチング処理を行わず接触抵抗を測定した。この結果を表3に示した。
【0025】
表2に示すように、本発明のエッチングの減量率が5.41%の導電糸(実施例2)の接触抵抗は9.5×106Ωであるが、エッチング処理を行わない導電糸の接触抵抗は1.0×1014Ωであり、非処理繊維(比較例1)の接触抵抗(Ro)に対して本発明による上記処理繊維の接触抵抗(Rs)の比(Rs/Ro)は約1/107以下に低減されている。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成され、エッチング処理によって繊維表面の接触抵抗を低減したことを特徴とする導電繊維。
【請求項2】
エッチング処理による繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%であり、非エッチング処理繊維の接触抵抗に対するエッチング処理繊維の接触抵抗の比が(1/102以下)である請求項1に記載する導電繊維。
【請求項3】
カーボンナノファイバーを分散させた導電性熱可塑性樹脂組成物によって形成した繊維を濃度0.5〜10.0重量%のアルカリ水溶液に、0〜110℃の温度下、0.1〜48.0時間浸漬して、繊維重量の減量率が2.0〜20.0重量%になるようにエッチング処理した請求項1または請求項2に記載する導電繊維。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載する導電繊維によって形成された導電ブラシ、導電ベルト、導電シート、または帯電防止衣料。

【公開番号】特開2008−138304(P2008−138304A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323890(P2006−323890)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】