説明

導電路

【課題】本発明は、インピーダンスが低減された導電路を提供する。
【解決手段】車両11に搭載されたモータ14とインバータ13との間に配索される交流用の導電路10であって、モータ14及びインバータ13とそれぞれ電気的に接続される複数の接続部16と、複数の接続部16同士を電気的に接続する本体部17と、を備え、本体部17は、断面形状が矩形状をなすと共に断面形状における長辺同士が対向する姿勢で積層された複数のバスバー18と、バスバー18の外周を包囲して配される絶縁性の合成樹脂材からなると共に複数のバスバー同士の間隔を保持するモールド部19と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に配索される交流用の導電路に関する。
【背景技術】
【0002】
交流用の導電路においては、いわゆる表皮効果により、導電路の表面付近に電流が集中して導電路のインピーダンスが増大する。これにより、電力損失が増大し、導電路の発熱、エネルギー効率の低下などの問題が生じることが知られている。
【0003】
そこで、従来、導電路の表面積を増大させることによりインピーダンスを減少させることが試みられている。例えば特許文献1に記載の導電路においては、線状導体の外周面にその長手方向に延びる複数の溝が前記線状導体の周方向に間隔を空けて設けられている。これにより導電路の表面積が増大するので、導電路のインピーダンスが減少することが期待された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−15218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、交流用の導電路においてインピーダンスを増大させる要因としては、上記の表皮効果の他に、近接効果が挙げられる。この近接効果は、接近して配置された複数の導電路に高周波電流を流すと、各導電路内の電流分布が他の導電路からの電磁誘導作用により偏る現象をいう。
【0006】
特に、車両に配索される導電路においては、配索スペースが限定されるので、複数の導電路を近接させた状態で配索することが要請される場合がある。このため、表皮効果のみを考慮するだけでは、導電路のインピーダンスを十分に低減させることは困難だった。
【0007】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、インピーダンスが低減された導電路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両に搭載された複数の機器間に配索される交流用の導電路であって、前記複数の機器と電気的に接続される複数の接続部と、前記複数の接続部同士を電気的に接続する本体部と、を備え、前記本体部は、断面形状が矩形状をなすと共に前記断面形状における長辺同士が対向する姿勢で互いに間隔を空けて積層された複数のバスバーと、前記バスバーの外周を包囲して配される絶縁性の合成樹脂材からなる絶縁部と、前記複数のバスバー同士の間隔を保持する保持部と、を備える。
【0009】
導電路のインピーダンスは基本的には導体系の電流分布によって決まる。この電流分布は、表皮効果、及び近接効果で規定される。これら表皮効果、及び近接効果は、導電路の設計上、導体の形状、及び配置として具体化される。
【0010】
しかしながら、表皮効果、近接効果の様相は、電流位相が絡むと非常に複雑であって、電磁気学に基づいた定性的考察から単純に類推するのは困難である。
【0011】
そこで発明者らは、CAE解析を行うことにより、導電路の形状、および配置と、インピーダンスとの相関関係に関する知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明によれば、断面形状が矩形状をなす複数のバスバーが、断面形状における長辺同士が対向する姿勢で互いに間隔を空けて積層されている。これにより、導電路のインピーダンスを低減させることができる。
【0013】
また、車両においては、走行中の振動が導電路に伝達され、この振動により積層されたバスバー同士が接触し、バスバー同士が短絡することが懸念される。そこで本発明に係る導電路においては、バスバーの外周を包囲して絶縁性の合成樹脂材からなる絶縁部を配する構成とした。これにより、車両から振動が導電路に伝達された場合でも、バスバー同士が短絡することを抑制できる。
【0014】
また、車両の振動が導電路に伝達されると、積層されたバスバー同士の間隔が変化してしまうことが懸念される。すると、間隔の変化に起因して、導電路のインピーダンスも変化してしまうことが懸念される。そこで本発明においては、複数のバスバー同士の間隔を、保持部により保持する構成とした。これにより、車両の振動が導電路に伝達された場合でも、バスバー同士の間隔を保持することができるので、導電路のインピーダンスが変化してしまうことを抑制できる。
【0015】
本発明の実施態様としては以下の態様が好ましい。
前記絶縁部は、前記バスバーの外周と密着して配されていることが好ましい。
【0016】
バスバーに通電すると、バスバーからジュール熱が発生する。車両においては、導電路の配索スペースに制限があるため、バスバーで発生した熱が十分に放散されず、バスバーの温度が上昇することが懸念される。すると、バスバーを保持、固定する絶縁材料の熱劣化を促進したり、バスバーに接続されたはんだ付け部にクラックが生じる等の不具合が発生することが懸念される。ジュール熱の発生を抑制するためにバスバーを大型化することも考えられるが、重量増を招くため上記の手法は採用し得ない。
【0017】
上記の点に鑑み、絶縁部はバスバーの外周と密着して配される構成とした、これにより、バスバーで発生したジュール熱は、バスバーの外周と密着して配された絶縁部に速やかに伝達される。これにより、バスバーの温度が上昇することを抑制できる。
【0018】
前記絶縁部は前記保持部を兼ねることが好ましい。
【0019】
上記の態様によれば、絶縁部と保持部とを別体の部材で構成する場合に比べて部品点数を削減できる。
【0020】
前記絶縁部及び前記保持部は、前記複数のバスバーの外周に絶縁性の合成樹脂材を一体にモールド成形してなるモールド部からなることが好ましい。
【0021】
上記の態様によれば、モールド成形という簡易な手法により、バスバーの外周に絶縁部及び保持部を形成できる。
【0022】
前記絶縁部及び前記保持部は、絶縁性の合成樹脂材からなると共に前記バスバーの延びる方向に沿って延びて形成された複数の板部材からなり、前記各バスバーは、前記各バスバーの断面形状における長辺側から一対の前記板部材によって挟持されるようになっており、一対の前記板部材のうち少なくとも一方には、前記バスバーの延びる方向に沿って延びて形成されると共に前記バスバーを収容する溝部が形成されることが好ましい。
【0023】
上記の態様によれば、バスバーを挟持した板部材を積層するという簡易な手法により、断面形状における長辺が対向する姿勢で複数のバスバーを積層して配することができる。
【0024】
前記絶縁部は前記バスバーの外周に被覆してなる熱収縮チューブであることが好ましい。
【0025】
上記の態様によれば、バスバーの外周に熱収縮チューブを被覆し、その後、熱収縮チューブを加熱して収縮させることにより、バスバーの外周に容易に絶縁部を配することができる。
【0026】
前記本体部には、前記複数のバスバーを一括して包囲するシールド部材が配設されていることが好ましい。
【0027】
バスバーに交流を通電すると、バスバーからノイズが発生することが懸念される。このノイズは、車両に搭載された電子部品等に対して影響を及ぼすことが懸念される。そこで、本態様では、複数のバスバーをシールド部材により一括して包囲する構成とした。これにより、通電時にバスバーから発生するノイズが、シールド部材の外部に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0028】
前記絶縁部の外周と前記シールド部材とは密着していることが好ましい。
【0029】
上記の態様によれば、通電時にバスバーで発生した熱は、バスバーの外周に配された絶縁部に伝達される。絶縁部に伝達された熱は、この絶縁部の外周と密着して配されたシールド部材に伝達される。これにより、絶縁部とシールド部材との間に空気層が形成された場合に比べて、導電路の熱伝導性を向上させることができる。この結果、バスバーの温度が上昇することを更に抑制できる。
【0030】
前記シールド部材の少なくとも一部は前記車両の車体と接触していることが好ましい。
【0031】
上記の態様によれば、シールド部材に伝達された熱を車体に伝達することができるので、導電路の放熱性が向上し、バスバーの温度が上昇することを更に抑制できる。
【0032】
前記シールド部材は金属製のパイプであることが好ましい。
【0033】
車両においては、走行中に砂利等が床下に跳ね上がる場合がある。すると、例えば車両の床下に導電路が配索された場合に、跳ね上げられた砂利等の異物が導電路に衝突することにより、導電路が損傷することが懸念される。上記の点に鑑み、シールド部材を金属製のパイプとすることにより、異物が導電路に衝突することを抑制し、導電路を保護することができる。
【0034】
前記シールド部材は編組線であることが好ましい。
【0035】
上記の態様によれば、編組線は可撓性を有するので、導電路の配索経路について設計の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、導電路のインピーダンスを低減させ、導電路の発熱抑制、エネルギー効率の向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明に実施形態1に係る導電路が車両に搭載された状態を示す模式図である。
【図2】図2は、導電路を示す断面図である。
【図3】図3は、導電路が車体に取り付けられた状態を示す要部拡大断面図である。
【図4】図4は、導電路の接続部を示す要部拡大断面図である。
【図5】図5は、バスバーを並列配置した状態を示す断面図である。
【図6】図6は、バスバーを積層配置した状態を示す断面図である。
【図7】図7は、FEM解析の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施形態2に係る導電路が車体に取り付けられた状態を示す要部拡大断面図である。
【図9】図9は、実施形態3に係る導電路が車体に取り付けられた状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図1ないし図7を参照しつつ説明する。図1に示すように、本実施形態に係る導電路10は、ハイブリッド車や電気自動車等の車両11に配索される交流用の導電路10である。車両11の車体25には、電源12と、電源12に接続されるインバータ13(特許請求の範囲に記載の機器に相当)と、インバータ13に接続されるモータ14(特許請求の範囲に記載の機器に相当)と、エンジン15と、を備える。本実施形態に係る導電路10は、インバータ13と、モータ14との間に配されて、インバータ13とモータ14とを電気的に接続する。
【0039】
導電路10は、インバータ13及びモータ14と電気的にそれぞれ接続される2つの接続部16と、2つの接続部16同士を電気的に接続する本体部17と、を備える。
【0040】
図2に示すように、本体部17は、断面形状が矩形状をなす複数(本実施形態においては3つ)のバスバー18と、バスバー18の外周を包囲して配されるモールド部19(特許請求の範囲に記載の絶縁部、及び保持部に相当)と、を備える。
【0041】
バスバー18は金属板材を所定の形状にプレス加工してなる。バスバー18を構成する金属としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、任意の金属を用いることができる。また、バスバー18の表面には、スズ、ニッケル等のメッキ層を形成してもよい。
【0042】
3つのバスバー18の断面形状は略同一に形成されている。3つのバスバー18は、断面形状における長辺20が対向する姿勢で互いに間隔を空けて積層されている。本実施形態においては、図2における上下両辺が長辺20とされる。積層されたバスバー18の間隔は略同じに設定されている。
【0043】
モールド部19は、3つのバスバー18を、図示しない金型にセットした後、合成樹脂材により一体にモールド成形して形成される。モールド部19を構成する合成樹脂材としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、PBT等の熱可塑性樹脂等、必要に応じて任意の合成樹脂材を用いることができる。
【0044】
モールド部19は、バスバー18の外周を包囲している。これにより、積層されたバスバー18同士は、電気的に絶縁されるようになっている。本実施形態においては、モールド部19の断面形状は、角が丸められた略四角形状をなしている。なお、モールド部19の断面形状は、円形状、長円形状、楕円形状等、必要に応じて任意の形状を採用しうる。
【0045】
また、モールド部19は、バスバー18の外周に密着して形成されている。また、積層されたバスバー18同士の間にモールド部19が形成されることにより、積層されたバスバー18同士の間隔は、所定の間隔に保持されるようになっている。
【0046】
図3に示すように、3つのバスバー18は、モールド部19に包囲された状態で金属製のパイプ21内に挿通されている。これにより、3つのバスバー18はパイプ21により一括して包囲されている。パイプ21を構成する金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス等、任意の金属を用いることができる。
【0047】
本実施形態においては、パイプ21の断面形状は、モールド部19の断面形状と対応して、略四角形状をなしている。パイプ21の内径は、モールド部19を内部に挿通可能な大きさに設定されている。本実施形態においては、パイプ21の内面は、モールド部19の外周に密着している。
【0048】
図3に示すように、パイプ21の外側面にはクランプ22が配設されており、このクランプ22と車両11の車体25との間に挟持されることにより、導電路10が車体25に取り付けられる。
【0049】
クランプ22は板状をなしており、パイプ21の外形状に倣った形状に形成されている。クランプ22にはボルト23Aが挿通可能なボルト挿通孔24Aが形成されている。ボルト挿通孔24Aにボルト23Aが挿通されて車体25に螺合されることにより、クランプ22は車体25に取り付けられる。
【0050】
図3に示すように、パイプ21のうち車体25側に位置する外側面は、少なくともクランプ22により挟持された部分において、車体25と接触している。
【0051】
図4に示すように、インバータ13又はモータ14は、それぞれ、金属製のケース26内に収容されている。ケース26には内外を貫通する貫通孔27が形成されている。ケース26の内側(図4における右側)には、合成樹脂製のコネクタハウジング28が取り付けられている。コネクタハウジング28は雌端子金具29を収容するキャビティ30が形成されている。キャビティ30内には複数(本実施形態では3つ)の雌端子金具29が図4における上下方向に並んで配されている。
【0052】
図4に示すように、導電路10の接続部16は、ケース26の外面に取り付けられる金属製のシールドシェル31を備える。シールドシェル31は金属板材をプレス加工してなる。シールドシェル31は概ね筒状をなしている。シールドシェル31のうちケース26に取り付けられる側の端部は、拡径されている。シールドシェル31は、ケース26の外面にボルト23Bによりねじ止めされている。これによりシールドシェル31とケース26とが電気的に接続される。
【0053】
シールドシェル31のうち本体部17側(図4における左側)の端縁には、パイプ21が外嵌されている。更にパイプ21の外周面には、カシメリング32が外嵌されており、このカシメリング32により、パイプ21と、シールドシェル31とが一体に組み付けられると共に、電気的に接続される。
【0054】
モールド部19の端部から導出された3つのバスバー18は、ケース26側(図4における右側)に延出されている。積層されたバスバー18のうち、図4における上下両端部に位置する2つのバスバー18は、シールドシェル31のうち拡径された領域内において、バスバー18の肉厚方向(図4における上下方向)について互いに離間するように、クランク状に曲げ加工されている。
【0055】
3つのバスバー18の端部は、ケース26の貫通孔27からケース26内に導入された後、更にコネクタハウジング28のキャビティ30内に導入されて、雌端子金具29と電気的に接続されている。
【0056】
続いて、本実施形態の作用、効果について説明する。交流が通電される導電路10のインピーダンスは、基本的には導体系の電流分布によって決まる。この電流分布は、表皮効果、及び近接効果で規定される。これら表皮効果、及び近接効果は、導電路10の設計上、導体の形状、及び配置として具体化される。
【0057】
しかしながら、表皮効果、近接効果の様相は、電流位相が絡むと非常に複雑であって、電磁気学に基づいた定性的考察から単純に類推するのは困難である。
【0058】
そこで発明者らは、CAE解析を行うことにより、導電路10の形状、および配置と、インピーダンスとの相関関係に関する知見を得た。以下に、上記の解析結果につき詳細に説明する。
【0059】
断面形状が矩形状をなす3つのバスバー18につき、バスバー18同士の間隔に対するインピーダンスの変化を、有限要素法による磁場解析手法を用いて計算した。
【0060】
バスバー18の形状は直線状に延びる形状とした。また、3つのバスバー18の配置は、図5に示すように、バスバー18の板面について平行な方向に並べる配置(以下、並列配置という)と、図6に示すように、バスバー18の板厚方向について積層する配置(以下、積層配置という)と、の2種類の配置について検討した。なお、隣り合うバスバー18同士の間隔gについては、等しいものとした。バスバー18を構成する金属はアルミニウムとした。
【0061】
図5及び図6に示すように、本解析においては、各バスバー18の寸法は以下の数値に設定した。バスバー18の厚さ寸法(図5及び図6における上下方向の寸法)は2mmとした。バスバー18の幅寸法(図5及び図6における左右方向の幅寸法)は10mmとした。バスバー18の長さ寸法(図5及び図6において紙面を貫通する方向の長さ寸法)は、1mとした。
【0062】
上記のバスバー18につき、隣り合うバスバー18間の間隔gを、1mm、5mm、9mmとすると共に、バスバー18に通電する交流の周波数を1kHz、10kHzとした場合のインピーダンスを計算した。計算結果を、図7に示す。
【0063】
図7に示すグラフにおいては、横軸をバスバー18同士の間隔g(ギャップ)とし、縦軸をバスバー18のインピーダンスとした。
【0064】
バスバー18に通電する交流の周波数を1kHzとした場合、◇で示される積層配置されたバスバー18のインピーダンスは、△で示される並列配置されたバスバー18のインピーダンスよりも低くなることが分かった。また、バスバー18同士の間隔を小さくするに従って、積層配置されたバスバー18のインピーダンス、及び並列配置されたバスバー18のインピーダンスは、共に、減少することが分かった。
【0065】
また、バスバー18に通電する交流の周波数を10kHzとした場合、□で示される積層配置されたバスバー18のインピーダンスは、×で示される並列配置されたバスバー18のインピーダンスよりも低くなることが分かった。また、バスバー18同士の間隔を小さくするに従って、積層配置されたバスバー18のインピーダンス、及び並列配置されたバスバー18のインピーダンスは、共に、減少することが分かった。
【0066】
また、バスバー18同士の間隔に対する、バスバー18のインピーダンスが低下する割合は、周波数が10kHzの交流をバスバー18に通電した場合の方が、周波数1kHzの交流をバスバー18に通電した場合よりも大きかった。これは、バスバー18に通電される交流の周波数が高い方が、バスバー18のインピーダンスについて、バスバー18同士の間隔の影響が大きいことを示す。
【0067】
上記したように、本実施形態によれば、断面形状が矩形状をなす複数のバスバー18が、断面形状における長辺20同士が対向する姿勢で積層されている。これにより、導電路10のインピーダンスを低減させることができる。
【0068】
また、車両11においては、走行中の振動が導電路10に伝達され、この振動により積層されたバスバー18同士が接触し、バスバー18同士が短絡することが懸念される。そこで本実施形態に係る導電路10においては、バスバー18の外周を包囲して絶縁性の合成樹脂材からなるモールド部19を配する構成とした。これにより、車両11から振動が導電路10に伝達された場合でも、バスバー18同士が短絡することを抑制できる。
【0069】
また、車両11の振動が導電路10に伝達されると、積層されたバスバー18同士の間隔が変化してしまうことが懸念される。すると、間隔の変化に起因して、導電路10のインピーダンスも変化してしまうことが懸念される。そこで本実施形態においては、複数のバスバー18同士の間隔を、モールド部19により保持する構成とした。これにより、車両11の振動が導電路10に伝達された場合でも、バスバー18同士の間隔を保持することができるので、導電路10のインピーダンスが変化してしまうことを抑制できる。
【0070】
また、バスバー18に通電すると、バスバー18からジュール熱が発生する。車両11においては、導電路10の配索スペースに制限があるため、バスバー18で発生した熱が十分に放散されず、バスバー18の温度が上昇することが懸念される。すると、バスバー18に接続されたはんだ付け部にクラックが生じる等の不具合が発生することが懸念される。ジュール熱の発生を抑制するためにバスバー18を大型化することも考えられるが、重量増を招くため上記の手法は採用し得ない。
【0071】
上記の点に鑑み、本実施形態では、モールド部19はバスバー18の外周と密着して配される構成とした、これにより、バスバー18で発生したジュール熱は、バスバー18の外周と密着して配されたモールド部19に速やかに伝達される。これにより、バスバー18の温度が上昇することを抑制できる。
【0072】
また、本実施形態では、モールド部19は、隣り合うバスバー18同士の間を電気的に絶縁すると共に、隣り合うバスバー18同士の間隔を保持するようになっている。これにより、絶縁部と保持部とをそれぞれ別体の部材で構成する場合に比べて部品点数を削減できる。
【0073】
また、本実施形態では、モールド部19は、複数のバスバー18の外周に絶縁性の合成樹脂材を一体にモールド成形してなる。これにより、モールド成形という簡易な手法により、バスバー18の外周に絶縁部及び保持部を形成できる。
【0074】
また、バスバー18に交流を通電すると、バスバー18からノイズが発生することが懸念される。このノイズは、車両11に搭載された電子部品等に対して影響を及ぼすことが懸念される。そこで本実施形態においては、複数のバスバー18をパイプ21により一括して包囲する構成とした。これにより、通電時にバスバー18から発生するノイズが、パイプ21の外部に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0075】
また、本実施形態においては、モールド部19の外周とパイプ21とは密着している。これにより、通電時にバスバー18で発生した熱は、バスバー18の外周に配されたモールド部19に伝達される。モールド部19に伝達された熱は、このモールド部19の外周と密着して配されたパイプ21に伝達される。これにより、モールド部19とパイプ21との間に空気層が形成された場合に比べて、導電路10の熱伝導性を向上させることができる。この結果、バスバー18の温度が上昇することを更に抑制できる。
【0076】
更に、本実施形態においては、パイプ21の少なくとも一部は車両11の車体25と接触している。これにより、バスバー18からモールド部19を経てパイプ21に伝達された熱を車体25に伝達することができるので、導電路10の放熱性が向上する。この結果、バスバー18の温度が上昇することを更に抑制できる。
【0077】
また、車両11においては、走行中に砂利等が床下に跳ね上がる場合がある。すると、例えば車両11の床下に導電路10が配索された場合に、跳ね上げられた砂利等の異物が導電路10と衝突することにより、導電路10が損傷することが懸念される。上記の点に鑑み、本実施形態においては、シールド部材を金属製のパイプ21とした。これにより、導電路10が異物と衝突すること抑制し、導電路10を保護することができる。
【0078】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を、図8を参照しつつ説明する。本実施形態においては、各バスバー18は、その断面形状における長辺20側から、一対の板部材40(特許請求の範囲に記載の絶縁部、及び保持部に相当)に挟持されている。板部材40は絶縁性の合成樹脂材により形成されている。板部材40はバスバー18の延びる方向に沿って延びて形成されている。本実施形態では、4つの板部材40が図8における上下方向に並んで配されている。
【0079】
図8に示すように、バスバー18を挟持する一対の板部材40のうち、少なくも一方には、バスバー18を収容する溝41が、図8における上方に陥没して形成されている。本実施形態においては、図8において上から3つの板部材40には、溝41が形成されている。この溝41内にバスバー18が収容された状態で、一対の板部材40に挟持されることにより、バスバー18の外周は板部材40と密着するようになっている。
【0080】
また、板部材40の外周面と、パイプ21の内周面とは密着するようになっている。
【0081】
複数の板部材40同士は、例えば、接着剤を塗布することにより互いに接着する構成としてもよいし、また、隣り合う板部材40の間に接着シートを挟んだ状態で加熱、加圧することにより接着してもよい。また、バスバー18を挟持した状態で複数の板部材40同士を重ね合わせ、熱溶着する構成としてもよい。また、ボルト23により螺合してもよい。このように板部材40同士を一体に組み付ける手段としては、必要に応じて任意の手段を採用しうる。
【0082】
また、複数の板部材40同士は、互いに積層された状態でパイプ21内に挿通された状態で、板部材40の外周面と、パイプ21の内周面とが当接することにより、板部材40同士が相対的に位置ずれしないようにする構成としてもよい。これにより、板部材40同士を一体に組み付ける工程を省略できる。
【0083】
上記以外の構成については、実施形態1と略同様なので、同一部材については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0084】
本実施形態によれば、バスバー18を挟持した板部材40を積層するという簡易な手法により、断面形状における長辺20が対向する姿勢で、複数のバスバー18を積層して配することができる。
【0085】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を、図9を参照しつつ説明する。本実施形態においては、各バスバー18の外周には、熱収縮チューブ50(特許請求の範囲に記載の絶縁部に相当)が被覆されている。熱収縮チューブ50は、バスバー18の外周に外嵌された後に、加熱されることにより収縮し、バスバー18の外周面と密着するようになっている。
【0086】
各バスバー18は、熱収縮チューブ50に被覆された状態で、バスバー18の断面形状における長辺20が対向する姿勢で積層されている。
【0087】
熱収縮チューブ50により被覆されたバスバー18は、可撓性を有する筒状をなす編組線51によって、一括して包囲されている。
【0088】
バスバー18は、上記のように積層された姿勢で、車両11の車体25と、挟持板52(特許請求の範囲に記載の保持部に相当)との間に挟持されている。挟持板52には、ボルト挿通孔24Bが形成されている。このボルト挿通孔24B内に挿通されたボルト23C(特許請求の範囲に記載の保持部に相当)が車体25に螺合されることにより、導電路10は、車体25に固定される。このように、挟持板52と車体25との間に積層されたバスバー18を挟み付け、挟持板52をボルト23Cにより車体25に固定することにより、各バスバー18の間隔を所定の間隔に保持することができるようになっている。
【0089】
編組線51は、少なくとも挟持板52によって挟持された領域において、車体25と接触している。
【0090】
本実施形態によれば、バスバー18の外周に熱収縮チューブ50を被覆し、その後、熱収縮チューブ50を加熱して収縮させることにより、バスバー18の外周に容易に絶縁部を配することができる。
【0091】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)本実施形態に係る導電路10においては、3つのバスバー18に三相交流を通電する構成としたが、これに限らず、2つのバスバー18に単相交流を通電する構成としてもよい。また、三相以上の多相交流を通電する構成としてもよい。
(2)本実施形態においては、インバータ13とモータ14との間を接続する構成としたが、これに限られず、必要に応じて任意の機器間を接続する構成としてもよい。また、本体部17に分岐路を形成することにより、3つ以上の機器間を接続する構成としてもよい。
(3)本実施形態においては、接続部16はシールドシェル31で包囲されると共に本体部17の外周はパイプ21又は編組線51(シールド部材)で包囲される構成としたが、例えば、導電路10と機器とが共に金属製のケース26内に収容される構成とした場合には、シールドシェル31及びシールド部材を省略することができる。
(4)本実施形態においては、複数のバスバー18はシールド部材によって一括して包囲される構成としたが、これに限られず、各バスバー18を個別にシールド部材で包囲する構成としてもよい。
(5)本実施形態においては、シールド部材として、金属製のパイプ21、又は編組線51を用いたが、これに限られず、金属箔、金属テープ等を絶縁部の外周に巻き付けたり、金属箔からなる袋状のシールド部材の内部にバスバー18を挿通させる等、必要に応じて、任意のシールド部材を、任意の手法により用いることができる。
(6)本実施形態においては、バスバー18の外周と絶縁部とは密着する構成としたが、これに限られず、バスバー18の外周と絶縁部とが離間して配される構成としてもよい。
(7)本実施形態においては、導電路10は、シールド部材の少なくとも一部が車両11の車体25に接触して取り付けられる構成としたが、これに限られず、シールド部材と車体25とが離間した状態で、車体25に導電路10を取り付ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…導電路
11…車両
13…インバータ(機器)
14…モータ(機器)
16…接続部
17…本体部
18…バスバー
19…モールド部(絶縁部、保持部)
21…パイプ(シールド部材)
25…車体
40…板部材(絶縁部、保持部)
41…溝
50…熱収縮チューブ
51…編組線(シールド部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された複数の機器間に配索される交流用の導電路であって、
前記複数の機器と電気的に接続される複数の接続部と、前記複数の接続部同士を電気的に接続する本体部と、を備え、
前記本体部は、断面形状が矩形状をなすと共に前記断面形状における長辺同士が対向する姿勢で互いに間隔を空けて積層された複数のバスバーと、前記バスバーの外周を包囲して配される絶縁性の合成樹脂材からなる絶縁部と、前記複数のバスバー同士の間隔を保持する保持部と、を備えた導電路。
【請求項2】
前記絶縁部は、前記バスバーの外周と密着して配されている請求項1に記載の導電路。
【請求項3】
前記絶縁部は前記保持部を兼ねる請求項1または請求項2に記載の導電路。
【請求項4】
前記絶縁部及び前記保持部は、前記複数のバスバーの外周に絶縁性の合成樹脂材を一体にモールド成形してなるモールド部からなる請求項3に記載の導電路。
【請求項5】
前記絶縁部及び前記保持部は、絶縁性の合成樹脂材からなると共に前記バスバーの延びる方向に沿って延びて形成された複数の板部材からなり、
前記各バスバーは、前記各バスバーの断面形状における長辺側から一対の前記板部材によって挟持されるようになっており、
一対の前記板部材のうち少なくとも一方には、前記バスバーの延びる方向に沿って延びて形成されると共に前記バスバーを収容する溝部が形成された請求項3に記載の導電路。
【請求項6】
前記絶縁部は前記バスバーの外周に被覆してなる熱収縮チューブである請求項1または請求項2に記載の導電路。
【請求項7】
前記本体部には、前記複数のバスバーを一括して包囲するシールド部材が配設されている請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の導電路。
【請求項8】
前記絶縁部の外周と前記シールド部材とは密着している請求項7に記載の導電路。
【請求項9】
前記シールド部材の少なくとも一部は前記車両の車体と接触している請求項7または請求項8に記載の導電路。
【請求項10】
前記シールド部材は金属製のパイプである請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の導電路。
【請求項11】
前記シールド部材は編組線である請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の導電路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146237(P2011−146237A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5830(P2010−5830)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「電気自動車の大電流伝送路における高周波効果の考察(2)」と題された刊行物は、2009年(平成21年)9月17日に、社団法人電気学会が発行したものである。
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】