説明

小型モータのブラシ

【課題】 小型モータの寿命はモータに電気を送るために使用する整流子とブラシの特性によって大きく影響を受けることが判明している。本発明はブラシの材料となる金属組織及び表面改質手段に着目したものである。
【解決手段】 従来のブラシ加工方法は、材料を有効に使うために、圧延方向と直角な方向に加工されるが、本発明ではブラシの金属組織を長手方向に揃えるため、原材料をワイヤとし、ワイヤを圧延することで、所望の金属組織を得るとともに、長手方向に圧延された材料の表面をパラジウムめっきすることで、従来にない長寿命のモータを開発することに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型モータにおけるブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
小型モータのブラシに関しては多く開発が行なわれた。たとえば、素材に関する研究では洋白、ベリリウム銅、リン青銅などのバネ特性を持つ金属基材にAg−C焼結体、Ag−Pd圧延クラッドしたもの、Ag−Pd−Cの組成を持つクラッド材やPd−C合金層と、Agの層からなるもの等がある。(特許文献1、2)
【0003】
また、合金元素を改良したものとしては、摺動時の耐磨耗性を改善するために、Ag60〜70wt%、Pd1〜15wt%、Cu14.5〜38.9wt%よりなる合金材料に、Ti,Zrの少なくとも1種を0.01〜0.5wt%添加したことを特徴とし、さらには、Ag60〜70wt%、Pd1〜15wt%、Cu14.5〜38.9wt%よりなる合金材料に、Ti,Zrの少なくとも1種を0.01〜0.5wt%添加し、さらにGa,Geの少なくとも1種を0.1〜2.0wt%添加したものもある。
【0004】
粉体焼結物を加工して板体、線材またはテープ状の線材としたものでは、粉体はAg粉末にNi粉末を添加したものもある。(特許文献3)
【0005】
ブラシの表面性状に着眼したものでは、電機摺動面の面粗度を60nm以下に制御し、アブレッシブ磨耗を制御するもの。(特許文献4)
【0006】
また、ブラシの材料特性に着眼して、ロール目方向とコイル材条方向と一致させないことを特徴とし、素材のコイル材の圧延ロール目がブラシの曲げ線と直角となるため、曲げ部に割れが発生しない強度のあるブラシが出来るなどの特許も出ている。(特許文献5)
【0007】
表面性状の改質という観点からは、ブラシ材料をめっきで改質することも行なわれている。(特願2004-80253)
【0008】
【特許文献1】特願平4-65316
【特許文献2】特願平4-101254
【特許文献3】特願2002-354066
【特許文献4】特願平10-236581
【特許文献5】特願平10-92706
【特許文献6】特願2004-80253
【特許文献7】特願平10-369099
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
小型モータのブラシに関しては、色々な改善が試みられてきたが、ほとんどが試行錯誤の試みであり、問題の本質を捉え切れていない。本発明では、小型モータの寿命の本質を捉え、それを改善することで著しい改善を図ることができた。
【0010】
小型モータのブラシと整流子では、モータの寿命を左右しているのは、ブラシと整流子間で起こる溶着がモータの寿命を左右していることを掴んだ。すなわち、溶着はブラシと整流子の間で起こるスパーク現象に起因するが、スパークの発生を抑えるためにはブラシと整流子間で電気の流れが安定しておこるために必要である接触圧力を維持することが重要である。
【0011】
ちなみに、ブラシと整流子間の接触圧力が低いと接触抵抗が高くなり、電気の流れが悪くなってスパークを起こしやすくなる。反面、接触圧力を高くするとブラシと整流子間の抵抗はさがり、スパークの発生を抑えることが出来るが、アブレージョン磨耗が発生する。
【0012】
従って、ブラシと整流子間の接触圧力にはスパークを発生しない程度に接触圧力を下げておくことが有効である。
【0013】
小型モータの組み立てにおいては、当初、スパークを起こさない程度にブラシと整流子間の接触圧力をセットする。しかし、長時間使用していくとブラシと整流子間の接触圧力がブラシの接触圧力の変化により下がり、スパークを発生するようになる。また、一旦スパークを発生するとブラシと整流子間にスパーク熱で溶けた金属が凝着する現象を生じるため、スパークをますます起こしやすくなり、ついにはモータの回転が止まり、モータとしての寿命が来る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
整流子とブラシの間の接触圧力を安定するために、ブラシの金属組織に着目し、ブラシの長手方向と金属組織の流れを一致させ、接触圧力の経時変化を起こりにくくし、表面をめっきで改質し、アブレージョン磨耗を起こりにくくした。
【0015】
すなわち、ワイヤを圧延して製造したブラシは金属組織が長手方向に揃っている。
そのため、本発明のブラシは長時間整流子に押し付けて整流子を回転させても、押付け力に変化がなく、初期の設定接触圧力を維持することが可能となった。
【0016】
また、アブレージョン磨耗を改善するために、表面をパラジウムめっきで改質している。
【発明の効果】
【0017】
従来の板材を加工したブラシは長手方向を約90度傾いた方向に金属組織が流れており、長時間小型モータを運転しているとブラシの整流子に対する押付け圧力がわずかではあるが減少していくため、スパーク現象が発生する。また、一旦スパークが発生するとスパーク熱で表面にダメージが残るため、加速度的に表面の劣化、すなわち、凸凹が生じてしまう。
【0018】
本発明におけるブラシは長手方向に金属組織が流れているため、長時間整流子に押し付けて整流子を回転させても、整流子を押付ける力が弱まることがなく一定しており、スパーク現象が起こらないため、小型モータの超寿命運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
小型モータの構造を図1に示す。本発明は整流子2に接触するブラシ1に関するものである。
ブラシの製造工程は表1に示す6工程からなっている。
【0020】
【表1】

【0021】
図2はブラシの溶接を示す。パラジウムめっきした圧延ワイヤはフープ状のターミナルへ抵抗溶接で接合される。
【0022】
ターミナルと圧延したワイヤの溶接が完了した後、図3aに示すようにブラシ単体への切り離しが行なわれ、図3bのようなブラシ形状に加工される。
【0023】
加工されたブラシを図1に示す小型モータに組込み、図4に示すような装置で耐久性試験が行なわれる。試験に用いたモータは直径4mmのDCコアレスモータで、連続運転時間を試験した。試験条件は連続3V、200mmA、毎分10,000回で運転する。
【実施例1】
【0024】
ワイヤの原線として、直径0.60mmφを用意し、リダクション3.5%〜8.0%で、伸線して直径76μmの洋白のワイヤとする。このワイヤを圧延機によりリダクション15%で厚さ40μmまで圧延して、厚さ40μm、幅85μmの帯状フープを製造する。
【0025】
ワイヤの伸線時にリダクションを8.0%以上にすると断線が発生し、3.5%以下では工業的に工数がかかりすぎるのと、最終伸線径にいくために工数が係り、ワイヤ表面の加工硬化が大きくなるため断線する場合が生じる。
【0026】
また、ワイヤを圧延する場合、リダクションを12〜18%の範囲で行なう。リダクションが小さいと所定寸法を得るのに、工数がかかりすぎるが、リダクションが18%を過ぎると圧延面にクラックが発生する。
【0027】
圧延されたワイヤ表面を改質するためにめっきを施した。めっき工程は圧延されたワイヤをアルカリ脱脂で表面の汚れを取った後、水洗して、電解脱脂を行ない、水洗する。その後、10%H2SO4で表面を軽くエッチングして、水洗後、ワイヤ表面にニッケルめっきを0.5μmつける。
【0028】
ニッケルめっき条件はメタル濃度80〜95g/l、水素イオン濃度3〜4、ボーメ度40〜55Be、液温40〜55℃、電流密度2〜3A/dm2の条件で行なった。ニッケルめっき厚さは0.3μm以下では基材のバリヤの役割が不完全であるが、5.0μm以上になるとニッケルの硬さが多く過ぎて、表面にクラックが発生してくるので、0.3μmから5.0μmが適正である。
【0029】
ニッケル下地の上には、水洗工程を経てパラジウムめっきを0.5μmを施した。パラジウムめっき条件はメタル濃度7〜13g/l、水素イオン濃度6〜7.5、ボーメ度8〜12Be、液温40〜60℃、電流密度1〜1.5A/dm2の条件で行なった。パラジウムめっきもニッケルめっき同様に0.2μm以下の厚さでは耐磨耗性のよい結晶が生成しないが、1.5μm以上になると硬度が上がりすぎて表面にクラックが発生してくる。
【0030】
めっきされた圧延ワイヤは図2に示すようにフープ状のターミナルへ抵抗溶接で接合された後、図3aに示すようにブラシ単体への切り離しが行なわれ、図3bのようなブラシ形状に加工される。
【0031】
加工されたブラシを図1に示す小型モータに組込み、図4に示すような装置で耐久性試験が行なわれた。試験に用いたモータは直径4mmのDCコアレスモータで、連続運転時間を試験した。試験条件は連続3V、200mmAで毎分10,000回で運転する。
【0032】
試験の結果、連続400時間以上の運転が可能であった。この結果は表2に示すような従来用いられてきた6元合金の連続250時間を大幅に上回るものである。また、6元合金のフープ材を従来法である圧延方向と直角にブラシの長さ方向とした材料の表面にニッケルめっきを0.5μmつけ、パラジウムめっきを0.5μmを施したものは、6元合金材より寿命は290時間とめっきによる表面改質によって寿命は延びているが、本発明はブラシの整流子に対する接触圧力の安定と表面改質効果により著しく性能が改善されていることが確認できた。
【0033】
【表2】

【実施例2】
【0034】
ワイヤの組成として、リン青銅のワイヤ原線0.5mmφを準備し、リダクション8.0%伸線して、0.05mmφのワイヤを準備する。
【0035】
圧延されたワイヤは表面を改質するため、実施例1と同様な工程で、ワイヤ表面にニッケルめっきを0.3μmつける。その後、水洗工程を経てパラジウムめっきを0.6μmを施す。
【0036】
めっきされた圧延ワイヤは図2に示すようにフープ状のターミナルへ抵抗溶接で接合された後、図3aに示すようにブラシ単体への切り離しが行なわれ、図3bのようなブラシ形状に加工される。
【0037】
加工されたブラシを図1に示す小型モータに組込み、図4に示すような装置で耐久性試験が行なわれた。試験に用いたモータは直径4mmのDCコアレスモータで、連続運転時間を試験した。試験条件は連続3V、200mmA、毎分10,000回で運転する。
【0038】
試験の結果、連続380時間以上の運転が可能であった。
【実施例3】
【0039】
ワイヤの組成として、ベリリューム銅のワイヤ原線0.6mmφを準備し、リダクション3.5%伸線して、0.20mmφのワイヤとし、圧延後60μmの厚さにする。
【0040】
圧延されたワイヤは表面を改質するため、実施例1と同様な工程で、ワイヤ表面にニッケルめっきを1.0μmつける。その後、水洗工程を経てパラジウムめっきを0.4μmを施す。
【0041】
めっきされた圧延ワイヤは図2に示すようにフープ状のターミナルへ抵抗溶接で接合された後、図3aに示すようにブラシ単体への切り離しが行なわれ、図3bのようなブラシ形状に加工される。
【0042】
加工されたブラシを図1に示す小型モータに組込み、図4に示すような装置で耐久性試験が行なわれた。試験に用いたモータは直径4mmのDCコアレスモータで、連続運転時間を試験した。試験条件は連続3V、200mmA、毎分10,000回で運転する。
【0043】
試験の結果、連続410時間以上の運転が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】モータの構造
【図2】ターミナルと圧延したワイヤの溶接
【図3】ブラシ形状
【図4】耐久性試験装置
【符号の説明】
【0045】
1 ブラシ
2 整流子
3 メタルベアリング
4 コイル
5 マグネット
6 シャフト
7 めっきされた圧延ワイヤ
8 ターミナルフープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延したワイヤにめっきした材料をブラシにすることを特徴とした小型モータの整流装置
【請求項2】
ワイヤの材質を洋白、ベリリウム銅、リン青銅などの銅合金とし、ワイヤを圧延後、ワイヤ表面に0.2μm〜1.50μm厚さのPdをめっきしたものをブラシとすることを特徴とした小型モータの整流装置
【請求項3】
ワイヤの材質を洋白、ベリリウム銅、リン青銅などの銅合金とし、50μm〜200μm直径のワイヤを、厚さ25μm〜60μmに圧延して下地めっきとしてニッケルを0.3μm〜5.0μm付け、最表面に0.2μm〜1.50μm厚さのPdをめっきしたものをブラシとしたことを特徴とした小型モータの整流装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−17629(P2008−17629A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186508(P2006−186508)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(391003015)株式会社野毛電気工業 (20)
【出願人】(505022127)鈴木接点工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】