説明

小規模建物の基礎の構造

【課題】全面地盤改良することなく、あるいは深い支持層まで達する長い支持杭を打設することなく、小規模建物を支持できる基礎を提供する。
【解決手段】地中に設置した直径5cm前後の細径パイプ群と、地中に設置した直径10cm前後の大径パイプ群によって構成する。細径パイプ群は深度7m前後まで地中に設置する。大径パイプ群は深度11m前後まで地中に設置する。細径パイプ群によって、地盤を補強して小規模建物を支持する改良ブロックを形成する。大径パイプ群によって、前記の改良ブロックの沈下を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小規模建物の基礎の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に軟弱な粘性土の地盤上に戸建住宅のような小規模な建物を構築する場合に、建物の支持力不足による沈下と、建物荷重による粘性土の圧密沈下が生じ、その結果、建物が傾斜するといった問題が生じる。
そのような問題を解決するには、薬液注入を行って地盤を全面的に改良するか、あるいは支持層まで達する支持杭を打設して支持層で建物を支えて沈下、傾斜を阻止する方法が採用されている。
しかしそれらの方法は特に個人の住宅のような小規模な建物に利用する場合には、装置も大型となり価格的にも採用することは困難である。
そこで小規模な建物を対象とした地盤を補強する方法としてRES−P工法と称する簡易な工法が知られている。
この工法は図5に示すように建物Aの布基礎またはべた基礎直下の地盤に、直径4.86cm、厚さ2.4mmの細径パイプ1を、40cm〜85cmの間隔で回転圧入して改良ブロック2を形成し、地盤と細径パイプ1群の複合効果によって地盤の支持力の増加と基礎の沈下低減を図ることを特徴としている。
【特許文献1】特許第2939157号公報。
【特許文献2】特許第2939158号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記したRES−P工法は低コストでかつ簡単に施工できることから、基礎の長期接地圧が50kN/m2以下の小規模建物用の基礎地盤の補強対策として広く採用されている。
しかしまた、次のような問題点が存在した。
<1> 細径パイプ群の細長比の制約、すなわちパイプの直径と長さの比が150までという制約から、パイプの長さは7mという上限が設けられている。
<2> その結果、細径パイプ群の先端より深い位置に圧密沈下の恐れのある軟弱な粘性土層が存在する場合には採用することができない。
<3> そのような条件の地盤では、高額な長尺の支持杭を打設し、あるいは圧入する工法を採用せざるを得ない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決するために、本発明の小規模建物の基礎の構造は、地中に設置した直径5cm前後の細径パイプ群と、地中に設置した直径10cm前後の大径パイプ群によって構成し、細径パイプ群は深度7m前後まで地中に設置し、大径パイプ群は深度11〜15m前後まで地中に設置し、細径パイプ群によって、地盤を補強して小規模建物を支持する改良ブロックを形成し、大径パイプ群によって、前記の改良ブロックの沈下を抑制するように構成した小規模建物の基礎の構造を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の小規模建物の基礎の構造は以上説明したようになるから、全面地盤改良することなく、あるいは深い支持層まで達する長い支持杭を打設することなく、小規模建物を支持できる基礎を提供することができる。
また、細径パイプ群を地中に設置した場合にその先端以深に圧密沈下の恐れのある軟弱な粘性土層が存在する場合でも、低コストで確実に小規模建物を支持できる基礎を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0007】
<1>前提条件。
前記したように本発明の基礎は、戸建住宅のような小規模な建物を軟弱な粘性土地盤の上に構築する場合の基礎として発明したものである。
具体的には図2に示すように、建物Aの基礎のスラブの下は、N値が0〜3の軟弱な地層が軟弱層Bとして10m程度堆積しており、その下にはN値が10〜20の中間層Cが深度20m付近まで堆積し、N値が15以上の強固な支持層Dは深さ30m付近に存在している場合を想定している。
このような構成の地盤が日本には多く存在するからである。
【0008】
<2>使用するパイプ。
本発明の基礎の構造では、細径パイプ1と、それよりも直径の大きい大径パイプ3を使用する。
【0009】
<3>細径パイプ1。
本発明の構造では、多数本の細径パイプ1を使用する。
細径パイプ1とは、直径が5cm前後のパイプである。
実際には直径が48.6mmのものが市販されていて入手しやすく、使用に適している。
そのパイプは肉厚が2.4mmで長さが7mである。
【0010】
<4>大径パイプ3。
本発明の構造では大径パイプ3も使用する。
この大径パイプ3とは直径が10cm前後のパイプである。
実際には直径が89.1mmのものが市販されていて入手しやすく、使用に適している。
その大径パイプ3は長さが11〜15mのものを使用する。
【0011】
<5>改良ブロック2の形成。
前記した細径パイプ1を、図3に示すように40〜85cmの間隔で碁盤の目状に鉛直に地中に向けて設置する。
設置のためにパイプを回転、圧入する装置、あるいは打撃する装置は公知のものを使用することができる。
細径パイプ1群の先端は、地表面下7m程度に位置するように配置する。
この7mという数値は細径パイプ1の細長比の制約から得られたものであり、それよりも長いと座屈の可能性があるからである。
多数本の細径パイプ1群を地中に設置する結果、各細径パイプ1の周面と地盤との摩擦力、および各細径パイプ1の先端の抵抗力の総和によって改良ブロック2として機能し、小規模な建物Aおよびその基礎の荷重を支持することができるようになる。
【0012】
<6>大径パイプ3群の設置。
細径パイプ1群の地中への配置によって改良ブロック2を形成したので、支持力を得ることはできる。
しかしそのままでは改良ブロック2の上に建物Aを構築した場合に、軟弱層B、中間層Cの沈下によって改良ブロック2自体が沈下して、建物Aに有害となる沈下が発生する可能性がある。
そこで次に、細径パイプ1群とは別に、前記した直径10cm程度の大径パイプ3を地中に設置する。
この大径パイプ3群は、細径パイプ1の間隔よりも広い間隔、例えば2m〜3mの間隔で地中に配置する。
またこの大径パイプ3群は将来構築する建物Aの基礎の立ち上がり位置に沿って配置するとにより確実に建物を支持することができるが、後述するように大径パイプ3群の下端は支持層Dまで到達させてはいないから、従来のような支持杭として建物Aを支持することを期待しているものではない。
この大径パイプ3も、前記の細径パイプ1を設置した同一の装置を使用して地中へ回転、圧入し、あるいは打撃して打ち込むことができる。
この大径パイプ3群はその先端を深度11〜15m前後の位置まで、すなわち細径パイプ1群よりも深い位置まで設置する。
大径パイプ3の先端の深度を11〜15m前後とした根拠は、大径パイプの細長比150を根拠にきめたものである。
ただしこの大径パイプ3群の先端は支持層まで到達していない。
その先端は前記した中間層Cの途中まで到達させておけばよい。
したがって大径パイプ3はパイプの周面と地盤との摩擦抵抗、およびパイプの先端の抵抗によって改良ブロック2の沈下を抑制することになる。
【0013】
<7>大径パイプの設置深さ。
前記したように、大径パイプ3の先端は支持層Dには到達していない。
それならばどの程度の深度まで設置すればよいか。
本発明ではそれを11〜15m前後と設定した。
その根拠は図4に示すとおりである。
すなわち、小規模な建物Aの重量を受けた場合に沈下を考慮する範囲は細径パイプ1の下端からの長さの1/3を含めて6m程度である。
この6mの範囲に大径パイプ3を位置させればよい。
その結果、大径パイプ3の先端は細径パイプ1の先端から約4m程度の位置に位置させればよいことになり、合計で11m前後という数値を得ることができる。
【0014】
<8>大径パイプ3群の荷重負担の根拠。
上記のような支持層に達していない大径パイプ3群の本数は、小規模建物の荷重の1/3前後の荷重を負担する程度に算定する。
その根拠は次のとおりである。
1) 建物荷重wを大径パイプの極限支持力で支持させる。
極限支持力×1/3=長期支持力 (一般には建物荷重を長期支持力で支持する)
2) 建物荷重を細径パイプ群に1/2だけ分担させ、大径パイプ群に1/2だけ分担させる。
3) 建物荷重の1/2を大径パイプの極限支持力の1/2で支持する。
4) 以上のような考え方で、大径パイプ群の本数を、小規模建物の荷重の1/3前後の荷重を負担させることとして算定した。
【0015】
<9>計算の例。
以上の前提から例えば建物面積24m2の場合に必要とする大径パイプ3の本数を計算すると次のようになる。
建物重量30×24=720KN。
大径パイプ3の許容支持力を40KT/1本。
720÷3÷40=6本。
こうして必要とする大径パイプ3の本数を決定することができる。
【0016】
<10>建物の構築。
以上の工程によって構築した基礎の上に、建物の基礎スラブを構築し、基礎スラブの上に建物を構築する。
建物は、基礎のスラブ、細径パイプ1群による改良ブロック、そして大径パイプ3群による沈下の抑制によって安定した状態で支持されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の小規模建物の基礎の構造の実施例の説明図。
【図2】その断面図。
【図3】その平面図。
【図4】大径パイプの深度を決めた根拠の説明図。
【図5】従来の工法の説明図。
【符号の説明】
【0018】
1:細径パイプ
2:改良ブロック
3:大径パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設置した直径5cm前後の細径パイプ群と、
地中に設置した直径10cm前後の大径パイプ群によって構成し、
細径パイプ群は深度7m前後まで地中に設置し、
大径パイプ群は深度11〜15m前後まで地中に設置し、
細径パイプ群によって、地盤を補強して小規模建物を支持する改良ブロックを形成し、
大径パイプ群によって、前記の改良ブロックの沈下を抑制するように構成した、
小規模建物の基礎の構造。

【請求項2】
大径パイプ群は、
小規模建物の荷重の1/3前後の荷重を負担させ、
かつ摩擦杭として構成した、
請求項1記載の、小規模建物の基礎の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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