説明

少なくとも1つのエンジンローラベアリングの損傷を検出する方法

本発明は、エンジン構成部品の機械的振動の現振動信号(Vc)を、シャフト速度Nの変化の一連の測定期間Pにわたって獲得するステップと、期間P中に信号(Vc)を捕捉するステップと、信号を速度Nの変化に対して同期化させるステップと、速度Nに従って構成された周波数スペクトル線を得るために信号を周波数へと変換するステップと、エンジンの現振動シグナチャ(Sc)を得るためにスペクトル線の平均振幅を計算するステップと、シグナチャ(Sc)と正常基準振動シグナチャ(Ss)との偏差比(Δ)を計算するステップと、偏差比(Δ)を所定のデータベースの欠陥指標と比較するステップと、ローラベアリングの潜在的な損傷を判定するように、ローラエンジンベアリングの理論上の損傷を列挙するステップとを含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの摩耗を監察すること、具体的にはエンジンの少なくとも1つの回転シャフトを回転可能に支持するローラベアリングの摩耗を監察することに関する。
【背景技術】
【0002】
航空ターボ機械内のローラベアリングはターボ機械の高圧体と低圧体のシャフトを支持する。シャフトをターボ機械の固定されたケーシングに対して支持する従来型のローラベアリングと、第1シャフトを第2シャフトに対して支持する、「シャフト間ベアリング」として知られているローラベアリングとに分類がなされる。
【0003】
ローラベアリングの破損は、ベアリングによって支持されたシャフトの回転を停止させる能力がある。このことによってエンジンの全面的停止がもたらされる可能性があり、したがってターボ機械が取り付けられる航空機の乗客の生命を危険にさらす可能性が潜在的にある。ベアリングの破損に加えて、その破片がターボ機械の様々な要素同士の間に進入し、ターボ機械全体が交換されなければならない。ベアリングの摩耗を検出する間に、損傷を受けたベアリングがその破損前に交換されることが可能である。これはターボ機械の耐用年数を増大させる。
【0004】
ローラベアリングの摩耗を検出するために、簡単な方法が知られている。即ち、統計学的方法(平方平均の平方根を計算することなどから成る、RMS法と呼ばれる統計学的モーメント法)によって信号の振動の強さを計算するように、ガスタービン機械の振動信号が測定される。次いで、信号の振動の強さが、経験的に決定された検出閾値と比較される。信号の強さが検出閾値を超える場合に、ローラベアリングの摩耗が検出される。このような方法は、例えば発電用タービンなど、騒音の少ないまたはない環境で使用されるターボ機械にしか適していない。
【0005】
航空ターボエンジンは、騒音の大きな環境(燃焼騒音、空気力学的流れによって引き起こされる騒音、高圧シャフトと低圧シャフトの回転速度による多数の高調波、不平衡質量に関する騒音など)で使用される。その結果、前述のような方法は適していない。
【0006】
航空ターボ機械については、現在、エンジンローラベアリングの損傷の全てをまとめた欠陥データベースが自由に使用できる。このようなデータベースはエンジンベアリングのローラ全ての欠陥を含むことが好ましい。
【0007】
一例として、欠陥データベースは、シャフト間ローラベアリングの欠陥内部リングと欠陥外部リングに特徴的な周波数を備える。事実、ローラベアリングの外部リングの表面に欠陥がある場合、この欠陥は、転動要素が欠陥に遭遇するたびに衝撃を生じることになる。このように、各欠陥は、理論的周波数または複数の理論的周波数を特徴とすることが可能であり、それらは欠陥指標としてまとめられ、自体が欠陥データベースにまとめられている。
【0008】
ローラベアリングの損傷から生じる周波数は、ベアリングによって支持されたシャフト(複数可)の回転速度に比例し、周波数は、振動によってターボ機械の構成部品全域に伝播する。航空分野に適した検出方法は、ターボ機械の構成部品に対してその高い作動速度で振動レベルの調査を行うことから成る。そうするために、このような方法は、全運航サイクルを通して、ターボ機械の構成部品からの振動を検出することが可能な1つまたは複数の振動センサから到来する振動信号を獲得しなければならない。したがってローラベアリングの損傷の検出は、同じ要因が識別される健全なローラベアリングの規定閾値よりも高い振動レベルを識別することから実現される。例えば、欧州特許出願公開第1111364号明細書を参照されたい。これは、このような方法の実施形態について述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1111364号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2913769号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
損傷を受けたローラベアリングによる試行は、損傷検出はそのような方法と整合しないことを示している。事実、振動センサの測定値は、ターボ機械の高い作動速度では、自然の振動環境によって汚染される。自然の振動環境は、損傷に特徴的な振動レベルをほとんど見えなくする。
【0011】
さらに、SNECMAの仏国特許出願公開第2913769号明細書は、振動信号がエンジンの低速度での再復可能な活動中に測定される検出方法を開示している。このような方法は、1つのローラベアリングについてのみ欠陥が検出されることを可能にする。さらに、従来技術の方法は全て、所定の安定速度(高速度または低速度)で単一ローラベアリングのタイプについて欠陥を検出することに限定されている。しかしながら、一部の欠陥は高速または低速でしか発生しない。
【0012】
本出願人は、ベアリング一式の欠陥が検出されることを可能にする汎用方法において、リアルタイムで診断を行えるように迅速に実施される検出方法を提案することを志望する。さらに、本出願人は、少なくとも1つのローラベアリングに欠陥がある場合、信頼できる再生可能な方式で判定することが可能となるように、検出の精度を高めることを試みた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、エンジンの少なくとも1つの回転シャフトを回転可能に支持する少なくとも1つのローラベアリングの損傷のための検出方法であって、
a)シャフトの速度が低速と高速の間で変化する測定期間を規定するステップと、
b)全測定期間Pにわたって、エンジンの構成部品の機械的振動の現振動信号を獲得するステップと、
c)測定期間中に現振動信号をサンプリングするステップと、
d)サンプリングされた振動信号を、測定期間にわたってシャフトの速度の変化に対して同期化するステップと、
e)シャフトの回転速度に従って構成された周波数のスペクトル線を得るように、サンプリングおよび同期化された振動信号を周波数信号に変換するステップと、
f)エンジンの現振動シグナチャを得るようにスペクトル線の平均振幅を計算するステップと、
g)エンジンの現振動シグナチャと正常基準振動シグナチャとの間の偏差比を計算するステップと、
h)ローラベアリングの潜在的損傷を判定するように、エンジンローラベアリングの理論上の損傷を列挙する所定のデータベースの欠陥指標と偏差比を比較するステップと、
から成ることを特徴とする検出方法に関する。
【0014】
本発明は、本明細書で、シャフト速度が低速度と低速度の間で変化する測定期間に対して提示されるが、本発明は、明らかに、より低い速度とより高い速度の間にも適用される。重要なことは、エンジン速度が2つの所定速度値の間で変化可能であるということである。より高い速度は高速であり、より低い速度は低速であることが好ましい。
【0015】
本発明によって、損傷によっては特定の速度でしか発生しない状況で、広範囲のシャフトの速度について多数の損傷が測定されることが可能である。言い換えると、本発明の方法は、どのようなタイプの損傷も検出されることを可能にし、しかもエンジンベアリング一式について可能にする。可変速度での測定と、振動信号の同期化と、正常基準振動シグナチャとの比較との組み合わせによって、精確な検出が可能である。
【0016】
正常基準振動シグナチャは、エンジンの正常基準振動シグナチャであることが好ましい。
【0017】
このように、測定中の偏差比はローラベアリングの損傷に関連付けられる不具合に特徴的なものである。これは正常振動シグナチャが関連深いことによる。閾値によって設定された偏差速度との比較では、閾値の分散をエンジンの関数として考慮に入れる必要はない。これは、比較の基準、即ち正常基準シグナチャが、損傷検出が実施されるエンジンに対して形成されていることによる。検出はそのエンジン用にオーダーメイドされたものであり、このことは検出の精確さの証拠となる。
【0018】
エンジンの正常振動シグナチャは、エンジンの耐用年数の所定期間にわたって、好ましくは前記エンジンの耐用年数の始まりの部分において、測定されるエンジンの現振動シグナチャの平均を計算することによって形成される。
【0019】
実際、エンジンの最初の飛行時にエンジンのより良い(最も正常な)挙動が得られる可能性が極めて高い。したがってこのような飛行は基準としての役目を果たすことが可能である。
【0020】
エンジンの正常振動シグナチャは、前記エンジンの系統群に対して規定された標準系統群シグナチャとの比較で予め検証されていることがなお好ましい。
【0021】
このような予備検証は有利に、欠陥のあるシグナチャの使用が偏差比計算のための基準としては回避されることを可能にする。
【0022】
標準系統群シグナチャには同じ系統群のエンジンの正常基準シグナチャで形成されることがなおさらに好ましい。このことは有利に、大部分が正常なエンジンである同じ系統群のエンジン同士の間で分散が均されることを可能にする。
【0023】
同じ系統群の複数のエンジンに対して一式の正常基準シグナチャが形成されることが好ましい、
正常基準シグナチャごとに、前記正常基準シグナチャと一式のうちの他の正常基準シグナチャとの間の統計学的偏差を測定することによって系統群不一致率が計算される、
一式の正常基準シグナチャから、所定の不一致率よりも大きな不一致率を有するものが除去され、
残りの基準振動シグナチャから標準系統群シグナチャが形成される。
【0024】
上述のステップによって、「厄介者」が一式の基準シグナチャから除去されて、正常である可能性が高い基準シグナチャだけを保持するようにする。
【0025】
正常基準シグナチャごとに、前記正常基準シグナチャと一式のうちの他の正常基準シグナチャから形成された一時的な系統群シグナチャとの間の統計学的偏差を測定することによって、系統群不一致率が計算されることが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい実装によって、本方法は、エンジンの構造モードの関数としてのスペクトル騒音を除去することから成るステップにおいて、騒音の除去はスペクトル線の平均振幅を計算する前に実施されるステップをさらに備える。
【0027】
このような「騒音無し」のステップは有利に、関係のある現振動基準が障害なく得られることを可能にする。
【0028】
測定期間にわたってシャフトの速度の変化に対してサンプリングされた振動信号が、一定の周波数でサンプリングされた信号を再度サンプリングすることによって、シャフト速度に比例した周波数でサンプリングされた信号へと同期化されることが好ましい。
【0029】
順序体内のシャフトの角度経路曲線を計算し、同期化された現振動信号を得るように現振動信号を前記角度経路曲線上に投影することによって、振動信号が測定期間にわたってシャフトの速度の変化に対してサンプリングされることがなお好ましい。
【0030】
本発明の一態様によると、正常基準振動シグナチャは前記エンジンの系統群に対して規定された標準系統群シグナチャである。エンジンに特有の基準シグナチャと比較すると、系統群シグナチャの方が容易に得られることが可能であり、容易に実施される。
【0031】
実際、単一の系統群基準シグナチャが同じ系統群の多数のエンジンに対して使用されることが可能であるのに対し、エンジンの基準シグナチャ、即ち個別の基準シグナチャは1つのエンジンに対してしか使用されることが可能でない。時間経過と共に複数のエンジンの摩耗を追跡するためには、前記エンジンの個別のシグナチャをまとめたデータベースを管理する必要がある。系統群基準シグナチャはこの欠点が緩和されることを可能にする。
【0032】
標準系統群は、同じ系統群のエンジンの正常基準シグナチャから形成されることが好ましい。同様に、前述の標準系統群シグナチャを形成する全てのステップが、エンジンの現シグナチャを系統群基準シグナチャと比較することに適用される。
【0033】
添付図面の助けを借りれば本発明がより充分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】テストエンジン用の本発明による方法の様々なステップの略図である。
【図2】エンジン構成部品の振動信号の測定期間を規定するステップを示す図であり、曲線2aは時間経過に伴うシャフトの速度の測定値を示し、曲線2bは時間経過に伴うシャフトの加速度の測定値を示し、曲線2cは、曲線2aと2bに対して規定された時間t1とt2の間で加速度計によって測定された、テストエンジンの現振動信号Vcを示す。
【図3】振動信号の同期化の例を示す図であり、曲線3aは、測定期間Pにわたるシャフトの加速度を示し、曲線3bは、シャフトの回転数の関数としてのシャフトの角度経路時間を示し、曲線3cは、同期化された現振動信号Vsyncを得るための、現振動信号Vcの曲線3bへの投影を示す。
【図4】エンジンの現シグナチャScを形成するステップを示す図であり、曲線4aは、テストエンジンの同期化された現振動信号Vsyncを示し、スキーマ4bは、テストエンジンの同期化された現振動信号Vsyncの順序スペクトログラムを示し、スキーマ4cは、期間Pにわたるシャフトの回転速度の加速度を示し、スキーマ4dは、騒音除去後のスキーマ4bの順序スペクトログラムを示し、曲線4eは、騒音のないスペクトログラム4dから計算された現シグナチャScを示す。
【図5】偏差比を計算するステップを示す図であり、曲線5aは、テストエンジンの現振動シグナチャScを示し、曲線5bは、テストエンジンの正常振動シグナチャSsを示し、表5cは、エンジンローラベアリングの欠陥データベースの抜粋を示し、曲線5dは、曲線5bのテストエンジンの正常振動シグナチャSsと曲線5aのその現シグナチャScとの間の偏差比を示し、曲線5eは、曲線5dの計算された偏差比と表5cにリスト表示された欠陥との間の認識率を示す。
【図6】前記エンジンの現シグナチャから同じ系統群のエンジンの基準シグナチャを形成するステップを示す図である。
【図7】複数のエンジン基準シグナチャSrefから標準系統群シグナチャSfamを形成するステップを示す図である。
【図8】テストエンジンのシグナチャを検証するステップを示す図である。
【図9】エンジンローラベアリングの欠陥を判定するように、テストエンジンの現シグナチャScをエンジンの正常シグナチャSsと比較するテストを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1を参照されたい。これは本発明による方法のステップの構成を示す。
【0036】
一般的に本発明は、少なくとも1つの回転シャフトと少なくとも1つのローラベアリングとを有する任意のタイプのエンジンに適用される。そのようなエンジンには、例えば飛行機のガスタービンエンジン(所謂ターボ機械)またはヘリコプタのエンジン、陸上のガスタービン、ギアケース、アクスルエンジンなどがある。
【0037】
本発明が基づいている原理は、ローラベアリングの損傷から生じる周波数が、ベアリングによって支持された回転シャフトの回転速度に比例するというものである。ここで仮定されているのは、このような周波数は、とりわけ基本的な周波数で、自体が振動しているエンジンの構成部品から加速度センサに伝達されるということである。本発明は、複数のローラベアリングの欠陥を含む全体的な振動信号を測定することを目的としている。このような欠陥を強調するために、信号は、シャフトの速度の変化中、即ちシャフトの回転速度の変化中に測定される。
【0038】
(S1)測定期間Pの規定
本発明による方法の第1ステップ(S1)は、シャフト速度Nが変化する測定期間Pを規定することから成る。一例として、シャフトの速度Nは低速作動と高速作動の間で変化する。速度Nは大きく変化することから、測定される振動信号は極めて様々なタイプを有し、ローラベアリングの同一の損傷が、エンジン速度の関数として様々な振動寄与を有することになる。
【0039】
測定期間Pのこのような決定は、同一タイプのものの変化を得ることが可能となるように、そのようにそれらを比較および識別することが可能となるように、エンジンの安定速度、即ち一定速度での作業を好む当業者の現在の慣習に対抗するものである。本出願人は、エンジンが変化可能な速度で作動するときに発生する多数の損傷を検出することが可能となるように、測定される振動の非均一性に特権を付与することによって全く別の道を選択した。
【0040】
さらに、本出願人は低速作動だけでなく、高速作動をも考慮することを選択した。これに対し、従来技術の方法は狭い速度範囲のみに焦点を合わせている。従来技術による方法は、速度ごとに個別の測定を実施することを必要とし、これによって、低速と高速の結果が比較されたときに解釈の誤りと損傷の不正確な検出とが生じた。
【0041】
このような測定期間Pを選択することによって、本出願人はこのように、安定作動での分析が必要であるとする先入観、ならびに所与速度での分析が必要であるとする先入観を克服した。
【0042】
このように、測定期間Pは時間経過に伴うシャフトの回転速度(複数可)の関数として規定決定される。以下に、低圧体の回転シャフトをターボ機械の高圧体の回転シャフトに対して回転可能に支持する、シャフト間ベアリング用のローラベアリングにおいて、高圧シャフトに連結された外部リングと低圧シャフトに連結された内部リングとを備えるシャフト間ベアリング用のローラベアリングの損傷を検出する場合について考察がなされる。ターボ機械の場合には、本発明は、単一の回転シャフトをエンジンの固定要素に対して回転可能に支持するボールまたはローラベアリングの損傷の検出にも適用されることが可能である。
【0043】
本明細書の残りの部分では、N1とN2はそれぞれ、ベアリングによって支持されたターボ機械の低圧シャフトと高圧シャフトの回転速度を意味する。測定期間Pの決定は、最初に、様々な構成部品の回転速度を、例えばエンジン内に配置されたタコメータの探子から計算することから成る。
【0044】
回転速度によって、適切であり、ある飛行から別の飛行に再現可能である作動範囲に対して測定期間が選択されることが可能になる。これは、飛行ごとに比較可能な測定が実施されることを可能にする。作動範囲が適切であるか否かを検知することが可能となるように、回転速度の時間導関数が図2bのように計算される。
【0045】
測定期間Pは、本方法の後続のステップ、例えばフーリエ変換を実施することが可能となるように、最小限度の継続時間を有することがなお好ましい。さらに、後続の処理ステップの実施時にスペースを保管することを制限するように最大期間も想到される。
【0046】
このような実施形態では、測定期間Pは以下のものを課することによって決定される:
各シャフトの回転速度(N1、N2)に対する低速に対応する最小閾値と高速に対応する最大閾値。このような例では、最小閾値はシャフトの最大速度の20%に等しく、最大閾値は、機械にとって許容可能な最大速度に対応する、
各シャフトの回転速度(N1、N2)の導関数に対する最小閾値と最大閾値。この例では、最小閾値は許容可能な最大分速の10%に等しく、最大閾値は、例えば最大分速の200%に等しい、
前述の条件が満たされる最小期間(ここでは10秒)と最大分析期間(ここでは100秒)。
【0047】
本発明のこのような実装では、図2を参照すると、アイドリング(低速)から全速(高速)へとエンジンのシャフトが加速する間に現振動信号Vcが測定される。
【0048】
決定された閾値および継続時間を用いた従来的論理が前述されたが、ファジー論理も好都合であり得ることが明らかである。ファジー論理は、全ての条件が厳密に満たされていなくても許容可能な測定期間Pが規定されることを可能にする。これは固定閾値の制限的な特徴を軽減し、損傷の検出を実施するための潜在的な測定期間Pの数を増大させる。
【0049】
(S2)振動信号の獲得
次のステップ(S2)は、全測定期間Pにわたってエンジン構成部品の現振動信号Vcを獲得することから成る。このような振動信号は、エンジンの固定された構成部品上に予め配置された振動センサ(例えば加速度計または歪み計)から到来する。
【0050】
(S3)振動信号のサンプリング
次いでステップS3中、現振動信号Vcが、測定期間Pにわたってシャフトの回転速度Nの関数としてサンプリングされる。このような実施形態では、現振動信号Vcはおよそ数キロヘルツの周波数でサンプリングされる。
【0051】
(S4)現振動信号の同期化
次いで現振動信号Vcが、ベアリングの損傷診断のために適切に処理される。そうするために、第1のステップは、現振動信号Vcをシャフトの回転速度Nの変化の関数として再サンプリングすることから成る。ローラベアリングによって支持されたシャフトの速度Nのそれらの変化は、ローラベアリングの相対回転速度の展開に対応する。言い換えれば、振動信号Vcはローラベアリングの相対速度変化に対して同期化される。
【0052】
ローラベアリングの場合には、その外部リングは、エンジンの固定された要素に連結されて固定され、その内部リングがシャフトを支持する。ローラベアリングの相対速度は、ローラベアリングによって支持されたシャフトの回転速度に対応する。共回転シャフト間ベアリングの場合、相対速度は2つのシャフトの回転速度の分散である。二重反転シャフト間ベアリングでは、相対速度は2つのシャフトの回転速度の合計である。
【0053】
振動信号Vcの同期化の原理をより充分に理解するために、図3cに表わされるように、同期化ステップが単純な形状の現振動信号Vcに適用される。
【0054】
図3cを参照すると、現振動信号Vcが測定期間Pで測定されている。測定期間中、ローラベアリングの相対速度、即ち速度Nは時間経過と共に上昇し、ローラベアリングが連結されたシャフトの速度Nは、図3aに表わされるように上昇し、現振動信号Vcは、図3cに表わされるように、時間経過と共にますます高い周波数を有するようになる。
【0055】
このように、現振動信号Vcの変化の振幅を時間経過と共に一定の解像度で測定することが望まれる場合、現振動信号Vcは、測定期間Pの始まりの部分で容易に分析されることが可能である。これは正弦波同士が離隔されていることによる。これに対して正弦波同士が互いに接近している場合には、測定期間Pの終わりの部分では解像度は充分ではなくなり、分析のための解像度は充分ではなくなる。そのようなことから、現振動信号Vcは測定期間Pの終わりの部分では圧縮されていると言われている。
【0056】
この現象は従来技術では存在しなかった。これは、測定がエンジン速度の変化のない安定した速度で実施されたことによる。本出願人の可変速度で検出を実施するという選択は、従来技術の方法に対抗するものである。実際、可変速度で測定期間を選択するということは、当業者が、静止信号にのみ適した従来の処理方法を諦めることを意味する。
【0057】
この欠点を解消するために、現振動信号Vcがローラベアリングの相対速度に対して、エンジンの回転速度に対して同期化される。図3の曲線3bを参照すると、ローラベアリングの回転を実施するのに必要な時間が決定されている。曲線3bは角度経路曲線によって指定される。ローラベアリングの1回転が外部リングの固定基準内の内部リングの1回転に対応する。曲線3bは、ローラベアリングの相対速度を表わす曲線3aの関数を時間に対して統合することによって容易に得られることが可能である。このような同期化は、現信号が測定期間Pにわたって分配されることを可能にする滑り変調という形態で存在する。
【0058】
図3cを参照すると、同期化された現振動信号Syncを得るために、現振動信号Vcを角度経路曲線3b上に投影するだけで充分となっている。その正弦波は規則的に離隔されており、これによって現振動信号Vcの様々な周波数にもはや相関性がないことを示す。投影するために、角度経路曲線3b上の規則的に離隔された点をサンプリングすることによって新たな信号のサンプリングが実施される。
【0059】
図3は、現振動信号Vcの同期化の一例を示す。これは、同業者にとってなんら困難なく、回転速度Nの線形展開が小さい、より複雑な振動信号に置き換えられることが可能である。
【0060】
部分的に低速、部分的に高速で測定された現振動信号Vcを、ローラベアリングの相対速度の関数として同期化することは、以下に詳述されるように、後続の処理ステップがより簡単になることを可能にする。
【0061】
より簡単に述べると、回転速度Nの関数としての同期化作業によって、一定の周波数でサンプリングされた信号が、速度に比例した周波数でサンプリングされた信号に変換される。
【0062】
(S5)スペクトログラムの編集
次のステップ(S5)は、シャフトの回転速度Nに従って順序付けられた周波数のスペクトル線を得るために、サンプリングおよび同期化された振動信号Vsyncを周波数信号に変換することから成り、これは、Nに従って順序付けされたスペクトログラムの編集に対応する。このようなタイプの順序スペクトログラムは当業者から知られている。
【0063】
現振動信号Vcの同期化によって、安定速度で現振動信号Vcが得られた従来技術のようなスペクトログラムが得られることに留意されたい。
【0064】
ステップ(S4)で詳述された振動信号の予備的同期化は、図4の曲線4bに表わされるような水平線を備えるスペクトログラムが形成されることを可能にする。信号は、曲線4cに表わされたシャフトの回転速度と同期化されており、各スペクトル線は同期化された振動信号の回転周波数に対応する。数学的な意味においては、同期化された振動信号Vsyncの回転周波数は順序数学的基盤で分割される。
【0065】
このように、スペクトログラムは水平線を備え、その振幅は測定期間Pにわたって変化する。1つの線の振幅は、図4の曲線4bに表わされるように、グレイレベルによって表わされる。
【0066】
図4bのスペクトログラムは、英語の「パワースペクトル密度」に相応する「PSD」という呼称で当業者から知られているパワースペクトル密度のスペクトルである。このようなスペクトログラムの主な計算パラメータは、高速フーリエ変換(FFT)の点の数と、FFT用スライディングウィンドウのカバリングとである。このようなパラメータは当業者から知られている。
【0067】
他のタイプのスペクトログラムも得られることが可能であることが明らかであり、重要なことは、水平なスペクトル線、即ち一定順序のスペクトル線を得るように、それらがシャフトの速度Nに従って順序付けされるということである。
【0068】
ローラベアリングの損傷を検出することに関係するスペクトル線のみを備えるスペクトログラムを得るように、順序スペクトログラムに騒音除去ステップが実施されることが好ましい。
【0069】
順序スペクトログラムが編集された後、それは本質的に3つのタイプの情報を備える:
回転速度に関係する活動(例えば飛行機エンジンの場合には、不平衡質量、ギアリング、翼流路、ローラベアリングなど)に特徴的な細い水平線。これらの水平線は関連情報に対応する、
他の機械的に独立したロータの回転速度に関係付けられた活動に特徴的な斜線。このような構成部品は、回転速度が低速作動と高速作動の間で変化するときに特に重要である。線の傾斜度は、振動信号をシャフトの回転速度に対して同期化することに関係付けられている、
エンジンの構造モードに対応するエネルギーフラット。構造モードとは、例えば、ターボ機械のケーシングのその懸架装置上の構造物の自然共鳴に相当する。
【0070】
最後の2つのタイプの情報は、除去されるべき騒音に相当する。このステップは、エネルギーフラット(第3のタイプの情報)を除去することを目的とする。実際、騒音除去アリゴリズムは:
所定サイズのスライディングウィンドウでスペクトログラムの各垂直線上を(周波数に沿って)走査するステップと、
スライディングウィンドウ内に存在する振幅の平均値また百分率を、スライディングウィンドウごとに計算することによって構造モードを識別するステップと、
スペクトログラムの垂直線で構造モードを減算することによって振幅のピークの値を決定するステップと、
騒音のない順序スペクトログラムの新たな線を形成するように比率(振幅のピーク/構造モードの値)を計算するステップと、
次の垂直線に移動するステップとを備える。
【0071】
図4のスペクトログラム4dに関して、騒音がエネルギーフラットに関係しない新順序スペクトログラムが得られる。順序スペクトログラム4dは騒音無しと言われる。
【0072】
(S6)現振動シグナチャの形成
次いでスペクトル線の振幅の時間平均が計算される(ステップS6)。このようなステップは:
予め騒音が除去されていることが好ましい順序スペクトログラムの各水平線上を走査することと、
時間軸に沿って振幅の平均を計算することとから成る。
【0073】
図4の曲線4eは、回転速度のオーダの関数としてのスペクトル線の振幅の平均を表わす。このような振幅の平均は、エンジンの現振動シグナチャScに対応する。これは、順序体内のエンジンの周波数に特徴的な全ての振幅を備える。
【0074】
本発明で実施されるような時間平均は、他のローラベアリングに関係付けられる速度の騒音をスペクトログラム上に斜めに広げた同期化の予備ステップ(S4)を考慮に入れると、極めて有利である。速度の騒音が斜めであるので、水平方向による振幅の平均の計算は、速度の騒音が均されることを可能にする。したがってこれは現振動信号Scの弱い、一定の振幅を有する。このように、順序付けられていないものは全て平均の効果で縮小され、これによって順序付けられた現象の出現、例えばシャフト間ローラベアリングの欠陥が強調されることが可能になる。
【0075】
(S7)損傷の判定
予め計算されたエンジンの現振動シグナチャScと、順序体内の正常エンジンの周波数に特徴的な全ての振幅を備える予め確立されたエンジンの正常振動シグナチャSsとの間で偏差比が計算される。エンジンの正常振動シグナチャSsの形成が次に詳述される。
【0076】
エンジンの正常振動シグナチャSsの形成
エンジンの正常振動シグナチャ(複数可)は、各正常エンジンに特有のシグナチャである。エンジンの前記正常振動シグナチャは、振動センサ(または音響センサ)ごとに、作動モード(作動範囲)ごとに、また場(周波数場、速度の順序体など)ごとに複数の基準パラメータを備える。
【0077】
正常振動信号Ssの基準パラメータは以下の要素で構成される。即ち、平均値と標準偏差、あるいは中央値と四分位間偏差である。このような値は、前記エンジンの最初の飛行での獲得および分析から、即ちエンジンの最初の現シグナチャから評価される。実際、エンジンは、その最初の飛行では欠陥がないと考えられる。エンジンSsの正常シグナチャは、前記エンジンの検出方法の実施のための基準として使用される。
【0078】
エンジンの正常振動シグナチャSsは、正常なエンジンで測定されたローラベアリングの損傷を検出するための全ての関連するパラメータの測定に対応する。正常振動シグナチャSsは偏差比を決定するための基準として使用されることから、このような正常振動信号Ssが、損傷を受けたエンジンではなく正常なエンジンに効果的に対応することが重要である。このことがあてはまる場合、正常なローラベアリングが損傷を受けたと考えられることになり、その逆も考えられる。実際、エンジンの正常振動シグナチャSdの予備検証のステップが実施される。
【0079】
エンジンの正常振動シグナチャSsの検証
エンジンの正常振動シグナチャSsを検証するために、標準系統群シグナチャSfamが形成される。これはエンジンの一系統群の正常な挙動の基準である。このような系統群シグナチャSfamは、エンジンの正常振動シグナチャ(即ちエンジンごとに特有のシグナチャ)Ssの形成時に、そのような正常振動シグナチャSsが正常なエンジンを表現していることを検証することを可能にする。
【0080】
図7を参照すると、エンジンの一系統群の系統群シグナチャSfamは、同一系統群の複数のエンジンの個別の振動シグナチャ、所謂エンジンの基準シグナチャSrefから計算されている。系統群シグナチャSfamは、その系統群のエンジンの基準シグナチャSrefの平均(複数の平均値の平均と分散の平均と)を作成することによって評価される。
【0081】
図6に表わされるように、エンジンの基準シグナチャSrefはそれぞれ、前記エンジンの個別の現シグナチャの平均(複数の平均値の平均と分散の平均と)を作成することによって評価される。基準エンジンの個別の現シグナチャを形成する方法は、前記基準エンジンの最初の飛行時に実施された前述のステップS1からS6に対応する。
【0082】
図7を参照すると、基準シグナチャSrefから系統群シグナチャSfamを形成するために、基準シグナチャSrefの全てがエンジンの正常な挙動を表現していることが保証される。これは例えば、パーセント方法で極端な基準シグナチャSrefを除去することによって、あるいは「リーブワンアウトクロスバリデーション(あるものを除外する交差検証)」という英語の呼称で当業者から知られている、「あるもの以外全て」というタイプの方法を適用することによって行われ、その場合、エンジンの基準シグナチャSrefごとに、基準シグナチャSrefの不一致率が、他のエンジンの他の全ての基準シグナチャSrefから形成された一時的な系統群シグナチャYに対して計算される。
【0083】
次いで、基準シグナチャSrefの系統群不一致率が所定の不一致閾値よりも大きくないことが確認される。言い換えれば、エンジンの基準シグナチャが一時的系統群シグナチャからあまり懸け離れていない(統計学的偏差の観点で)ことが確認される。基準シグナチャSrefの不一致閾値を超過する場合は、後者は無効と考えられる。
【0084】
このような方法は全ての基準シグナチャSrefに統合され、一式の基準シグナチャSrefから、無効のものは除去される。エンジンの系統群の系統群シグナチャSfamを得るために、残りの個別の基準シグナチャの平均化される。
【0085】
系統群シグナチャSfamが得られた状態で、新しいエンジンごとに、エンジンの最初の飛行時に、複数の現振動シグナチャから正常振動シグナチャ(Ss)が形成される。実際、エンジンローラベアリングが正常であることが可能なのはその最初の飛行時である。このエンジンの正常振動シグナチャSsを検証するためには、統計学的偏差の観点で、このエンジンの正常振動シグナチャSsが系統群シグナチャSfamからあまり懸け離れていないことを確認するだけで充分である。前記正常シグナチャについて、系統群シグナチャSfamに対する新しい不一致率が計算されることが好ましい。
【0086】
エンジンの正常振動シグナチャSsと系統群シグナチャSfamとの比較が大きな偏差を示す場合、分析されたエンジンの挙動は非定形的と考えられる。より詳しい分析が、この異常の原因が識別されることを可能にするはずである。いかなる場合でも、検証されないエンジンの正常振動信号シグナチャSsは拒否される。正常シグナチャSsがエンジンについて検証される場合、それはエンジン損傷の方法のための基準として使用される。
【0087】
偏差比Δの計算
図5を参照すると、予め計算されたエンジンの現振動シグナチャSc(曲線5a)と、予め検証されたエンジンの正常振動シグナチャSs(曲線5b)との間で偏差比Δ(曲線5d)が計算されている。
【0088】
エンジンローラベアリングごとに損傷の状態変化を追跡するように、偏差比Δが定期的に(例えば一回の飛行に一度)計算されることが好ましい。
【0089】
現振動シグナチャScの正常振動シグナチャSsとの比較は、様々な方式で行われることが可能である。
【0090】
正常振動シグナチャSsが数回の飛行、典型的には10回未満の飛行についてしか作成されない場合、順序体の各点における分散は正確ではない。したがって以下のようなアルファ偏差比Δαを計算することが賢明である。nは、大きな偏差が起こらない標準偏差の数に対応し、Scは現振動シグナチャの値に対応し、Ssは正常振動シグナチャの値に対応する:
Δα=最大値(0,Sc−(Ss=n×分散1/2))
【0091】
代替え方法として、正常振動シグナチャSsが充分に「リッチな」場合、典型的には10回を超える飛行から成る場合、順序体の各点について、「zスコア」という呼称で当業者から知られている以下のベータ偏差比Δβを計算することにある。
Δβ=(Sc−Ss)/分散)1/2
【0092】
言い換えると、比較に加えて、偏差比Δ(アルファまたはベータ)が、現振動シグナチャScと正常振動シグナチャSsとの間で得られ、それによって損傷のオーダ、偏差比の計算によって減じられまたは均されたエンジンの固有の作動に関係付けられたオーダの振幅を特徴付けることが可能になる。言い換えれば、偏差比Δは現振動シグナチャScに検出される乱れを表わす。
【0093】
本発明による偏差比Δは、それが、損傷検出がなされるエンジンの正常シグナチャSsを考慮していることからとりわけ妥当である。さらに正常シグナチャSsは、前記エンジンにオーダーメイドされたものであるので、計算された偏差比は、従来技術のように閾値のみから得られた偏差よりも妥当である。
【0094】
代替え方法として、エンジンの正常シグナチャSsを計算せずに、予め計算されたエンジンの現振動シグナチャScが、先に述べられた系統群シグナチャSfamに直接比較される。系統群シグナチャSfamは、多数のエンジンに有利に使用されることが可能であり、それによって前記エンジン一式に対する摩耗検出が加速される。エンジンの正常シグナチャSsが正常シグナチャSsのデータベースで探索されることはない。
【0095】
(S8)損傷の識別
エンジンローラベアリングの理論上の損傷を列挙する、欠陥指標の1つのデータベースが提供される。このデータベースは順序体に表わされる。
【0096】
その結果、このローラベアリングの(一つ一つの構成部品についての)周波数の特徴から、一つ一つのローラ、一つ一つの回転構成部品について、積み重ねられた欠陥指標を掃引することによって、ローラベアリングの損傷の存在を定量化し、そのようなローラベアリングを識別することが可能になる。
【0097】
実際、ローラベアリングの損傷に特徴的な周波数は、ローラベアリングの幾何学形状と、転動要素の数と、シャフトの回転速度とに依存した関数である。損傷を受けたローラベアリングに特徴的な周波数の倍数は、整数倍であることが可能である。このように、ローラベアリングの損傷は、周波数コーム(fcar,f2car,f3car,f4car, ...,Fncar)によって表わされることが可能である。これは欠陥指標によってデータベースに記憶される(表5cに部分的に表わされている)。
【0098】
計算された偏差比Δは欠陥ベースの各指標と比較される。コームの増分ごとに、コームの振幅の合計をコームの歯の数で除することによってコームの平均値が計算される。次いでコームごとの、即ち毎コーム最大値を計算することが、ここで問題となっている現飛行時のローラベアリングの損傷を識別することを可能にする。
【0099】
従来通り、図5eで表わされるように、コームの各振幅ピークと、関連付けられる予め計算された偏差比Δの振幅との間で率Rが計算される。ローラベアリングが損傷を受けているか否かを判定するように、この率Rが少なくとも1つの所定の損傷閾値と比較される。
【0100】
その結果、様々な正常エンジンと試行時の様々な獲得物とによって推定された平均値から、正常ローラベアリングの振幅レベルが規定される。損傷閾値に関する限り、それらは、損傷を受けたローラベアリングによる試行から、または損傷閾値が規定されるローラベアリングと類似の、損傷を受けたローラベアリングによる経験とから規定される。
【0101】
本発明の有利な傾向によって、振幅ピークと正常ローラベアリングに規定された振幅レベルとの間の率Rは、最初に低い損傷閾値と比較される。当然ながら、ローラベアリングの損傷度をより細かく規定するように、2つよりも大きな数の損傷閾値と率Rを比較することも想到されることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの少なくとも1つの回転シャフトを回転可能に支持する少なくとも1つのローラベアリングの損傷のための検出方法であって、
a)シャフトの速度Nが低速と高速の間で変化する測定期間Pを規定するステップ(S1)と、
b)全測定期間Pにわたって、エンジンの構成部品の機械的振動の現振動信号(Vc)を獲得するステップ(S2)と,
c)測定期間P中に現振動信号(Vc)をサンプリングするステップ(S3)と、
d)サンプリングされた振動信号を、測定期間Pにわたってシャフトの速度Nの変化に対して同期化させるステップ(S4)と、
e)シャフトの回転速度Nに従って構成された周波数のスペクトル線を得るように、サンプリングおよび同期化された振動信号(Vsync)を周波数信号に変換するステップ(S5)と、
f)エンジンの現振動シグナチャ(Sc)を得るようにスペクトル線の平均振幅を計算するステップ(S6)と、
g)エンジンの現振動シグナチャ(Sc)と正常基準振動シグナチャとの間の偏差比(Δ)を計算するステップ(S7)と、
h)ローラベアリングの潜在的損傷を判定するように、エンジンローラベアリングの理論上の損傷を列挙する所定のデータベースの欠陥指標と偏差比(Δ)を比較するステップ(S8)と、
から成ることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
正常基準振動シグナチャは前記エンジンの正常基準振動シグナチャ(Ss)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エンジンの正常基準振動シグナチャ(Ss)は、エンジンの耐用年数の始まりの部分を含む所定期間にわたって測定されたエンジンの現振動シグナチャの平均値を計算することによって形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エンジンの正常基準振動シグナチャ(Ss)は、前記エンジンの系統群に対して規定された標準系統群シグナチャ(Sfam)との比較によって予め検証されている、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
標準系統群シグナチャ(Sfam)は同じ系統群のエンジンの正常基準シグナチャ(Sref)から形成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
一式の正常基準シグナチャ(Sref)が同じ系統群の複数のエンジンに対して形成され、
系統群不一致率が正常基準シグナチャ(Sref)ごとに、前記正常基準シグナチャ(Sref)と一式のうちの他の正常基準シグナチャ(Sref)との間の統計学的偏差を測定することによって計算され、
一式の正常基準シグナチャ(Sref)から、規定の不一致率よりも高い不一致率を有するものが除かれ、
標準系統群シグナチャ(Sfam)は残りの基準振動シグナチャ(Sref)から形成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
系統群不一致率は、正常基準シグナチャ(Sref)ごとに、前記正常基準シグナチャ(Sref)と一式のうちの他の正常基準シグナチャ(Sref)から形成された一時的な系統群シグナチャとの間の統計学的偏差を測定することによって計算される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
スペクトログラム騒音をエンジンの構造モードの関数として除去する(S5)ことから成るステップをさらに備え、騒音除去は、スペクトル線の振幅の平均値を計算する(S6)前に実施される、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
測定期間Pにわたってシャフトの速度Nの変化に対してサンプリングされた振動信号が、一定の周波数でサンプリングされた信号を再度サンプリングすることによって、シャフトの速度Nに比例した周波数でサンプリングされた信号へと同期化される、請求項1および8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
順序体内のシャフトの角度経路曲線を計算し、同期化された現振動信号(Vsync)を得るように現振動信号(Vc)を前記角度経路曲線上に投影することによって、振動信号が測定期間Pにわたってシャフトの速度Nの変化に対してサンプリングされる、請求項1および9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
正常基準振動シグナチャは、前記エンジンの系統群に対して規定された標準系統群シグナチャ(Sfam)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
標準系統群シグナチャ(Sfam)は同じ系統群のエンジンの正常基準シグナチャ(Sref)から形成される、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−510303(P2013−510303A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537387(P2012−537387)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066737
【国際公開番号】WO2011/054867
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】