説明

少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するアルブミンベースコロイド組成物、その製造方法および使用方法

少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するアルブミンベースコロイド組成物を含んでなる組成物、それを製造する方法、ならびに毛細血管漏出症候群およびショックなどの血液減少症状の処置をはじめとするその使用方法が開示される。この組成物はまた、発色団などの指示試薬で修飾されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
関連出願の参照
本願は、2002年3月26日出願の米国特許出願第10/106,793号の一部継続出願(CIP)である、2004年11月9日出願の米国特許出願第10/985,798号に基づく利益を主張するものである。
【0002】
説明
本願では、種々の刊行物が括弧内の番号として引用される。これらの刊行物の完全な出典は本明細書の末尾、特許請求の範囲の前に示されている。これらの刊行物の開示は、本発明の属する技術の現状をより詳しく説明するために、引用することによりそのまま本明細書の一部とされる。
【0003】
技術分野
本発明は、ショック、敗血症、出血および外科手術などの多様な血液減少症状の治療のための、ポリエチレンオキシド(ポリエチレングリコール(PEG)など)で修飾されたアルブミンであるPEG−Albなどのアルブミンベースコロイド組成物の使用に関する。好ましい実施態様では、該組成物は少なくとも1つの保護されたチオール領域を有する。もう1つの実施態様では、該アルブミンは指示試薬で修飾されている。
【0004】
発明の背景
全身性炎症性応答症候群(systemic inflammtory response syndrome, SIRS)の様々な兆候に共通している血液減少症の回復を目的とし、可能性のある療法の開発に多大な資源が費やされている。米国では敗血症だけでも年間750,000症例にのぼり、200,000人の死者を出している(1)。この高い死亡率は、毛細血管漏出(capillary leak, CL)に続発する臓器の浮腫に関連する多臓器不全(multi organ dysfunction, MODS)によるものである。顕著なCLを有する患者は一般に、昇圧薬および他の支援物質に加え、オスモライト(例えば、アルブミン、デンプンまたはデキストラン)を含む蘇生液を投与することにより管理される。
【0005】
多臓器不全(MODS)、敗血症、外傷、火傷、出血性ショック、心肺バイパス術後、膵炎および全身性毛細血管症候群などの種々の症状に存在する毛細血管漏出は、多数の入院患者に病気や死をもたらす。毛細血管漏出(CL)は、敗血症および全身性炎症性応答症候群(SIRS)に続発するMODSの中心的な構成要素である。それは間質性浮腫をもたらす毛細血管透過性の増大と、やがては臓器不全および壊死に至る組織潅流の低下を特徴とする。毛細血管漏出症候群(capillary leak syndrome, CLS)の漏出の側面は、もともとは毛細血管内に保持されていた水分および血清の高分子量成分の双方の間質空間への放出に現れる。
【0006】
血液減少状態はしばしば生体器官の潅流不足を招き、臓器不全を引き起こし、やがて病気や死に至らせる(2)。血液減少症は出血性ショックの場合のように急に起こることもあるし、あるいは基礎にある疾病のために段階的に起こる場合もあり、どちらのタイプでも全身性の炎症プロセスが伴う。出血性ショックでは、血液減少症は血管内容量の急激かつ突発的な喪失により起こる。蘇生の際、再潅流組織に炎症プロセスが誘発され(虚血再潅流傷害)、内皮細胞(EC)傷害と毛細血管漏出(CL)が起こり、二次的な血液減少状態となる。敗血症および他の疾病では、その疾病により全身性炎症が誘発され、同様の機序でECの傷害、CL、そしてやがて血液減少性ショックが起こる。
【0007】
依然として血漿増量剤による蘇生が血液減少症の治療の頼みの綱であるが、結果は複雑である。コロイド(例えば、アルブミンおよびデンプン)およびクリスタロイドの双方を含む増量剤の有効性と安全性は、包括的研究と論争の対象であり続けている(3,4)。血漿増量剤としてのアルブミンの予想できない有効性は、基礎にあるEC傷害の重篤度に連関していると考えられる(5)。具体的には、内皮の健全性が損なわれれば、アルブミンは容易に管外遊出でき、漏出アルブミンは、それを逆転させるのとは対照的に、CLに有利なコロイド浸透圧勾配へと悪化させてしまうおそれがある。
【0008】
CL症候群を誘発する生体機構はあまり理解されていないが、炎症性サイトカインの関与を示すいくつかの証拠がある。ヒトアルブミン溶液に置き換えても、アルブミンの管外空間への損失を止められるわけではないので、わずかな効果しかない。アルブミンは、血漿のコロイド浸透圧ならびに血中のナトリウムイオンの保持を担うため、重要である。
【0009】
通常の条件下において、アルブミンは、総血液コロイド浸透圧の約80%に寄与し(6)、低い生理学的速度で管外遊出するような大きさが理想的である(7)。CL患者では、循環血液量を増やし、血管内浸透圧特性を増大させるため、5%〜20%のアルブミン溶液が投与されることが多い。このCLを遅延させる方法には、アルブミンはショック中もその通常の遅い管外遊出速度を維持しているのではないかという弱い推定がある。しなしながら、臨床データは、このアルブミンの有効性がいくらよく見ても矛盾していることを示している(8,9)。アルブミンによる蘇生は危篤患者の死亡率を高めているおそれがあることを示唆しているものさえある(10)。
【0010】
PEG化は広く用いられている(11,12)。インターフェロンβ−1aをポリエチレングリコールで修飾するとその半減期が長くなり、より高い抗ウイルス活性が得られる(13)。血液代替物としてのPEG化ヘモグロビン(PEG−Hb)の使用に関する研究がいくつかある(14,15,16)。ラットにおいて、血管容積の80%までを占める多量のPEG−Hbは、PEG−Hbが血行力学と酸素送達を維持するのに効果的であることが示されている(17)。これらの研究は、PEG−Hbが極めて高い用量であっても安全であることを示唆している。
【0011】
有効性の程度は様々であるが、他のコロイドも毛細血管漏出症状の治療に使用されている。種々の不均質な(M平均分子量:125,000〜450,000Da)デンプンコロイドがアルブミン代替物として提案または使用されている(18)。これらの化合物はそれほど高価なものではなく、ヒトアルブミンプール品よりも入手が容易であるが、デンプンコロイドの使用は、それらの使用を厳しく制限する安全上の問題のため、低用量に限られてきた。さらに、不均質なデンプンコロイド内の高M(>1,000,000Da)部分は血液流動特性を変化させ、凝固障害を起こしかねない(19)。大動脈閉塞再潅流傷害モデルでは、比較的不均質なペンタスターチ(M=110,000)は、肺傷害を軽減することが示されている(20)。
【0012】
最近の研究では、敗血症前処理ラットモデルで、ヘタスターチ(HES)を与えると、MAPおよび心拍数(HR)が有利な変化をしなかった(21)。これに対し、重合ヘモグロビンで前処理したマウスでは、MAP(上昇)およびHR(低下)に有利な変化が見られた。これは、同じ分子濃度で、HESのコロイド浸透圧(27mm/Hg)は重合ヘモグロビンのコロイド浸透圧(21mm/Hg)よりも高いという事実にもかかわらず生じた。しかしながら、通常の血漿増量剤としての後者の使用には議論があり、特に腎臓に関連する潜在的副作用が伴う。
【0013】
最後に、アルブミンが細胞グルタチオンおよび核因子κBの活性化の調節を媒介することにより内皮の抗アポトーシス作用を有することを示唆するいくつかの研究がある(22,23,24)。これは、特に、内皮細胞アポトーシスに対する種々の全身性炎症性応答の兆候にCLを関連づけている最近の報告(25)に鑑みれば、敗血症により誘発されるCLにおいて重要な役割を果たしている可能性がある。
【0014】
現在利用可能なアルブミンは分子量が69,000であり、半減期が極めて短く(4〜6時間)、重篤な敗血症、膵炎、火傷および外傷などの毛細血管漏出症状において、管外空間に容易に漏出してしまう。この漏出により浮腫および/またはコンパートメント症候群の悪化を招き得る。ペンタスターチおよびヘキサスターチは小児患者には使用できず、出血を起こし得るので、その利用価値は限定されている。さらに、患者に15cc/kgしか使用できない。また、ペンタスターチおよびヘキサスターチは使用後に難治性のそう痒(かゆみ)を生じることが示されており、その作用は何年も続く。事実、代替物または増量剤としてのアルブミンの使用は、毛細血管の外へ体液を排出することにより浮腫を増大させることから、逆効果であるとする研究もある。
【0015】
よって、上記の欠点を持たない、血液減少症状を効果的に予防および/または治療するための組成物および方法の必要性は大きい。
【0016】
特に、出血性ショック(HS)は外傷後の主たる死因であることに着目すべきである(1a〜3a)。初期管理としては、止血の他、組織潅流を回復させるための輸液療法を施す必要がある。初期の輸液療法の選択はその結果に多大な影響を及ぼし得る。出血性ショックおよび蘇生の後、核因子−κB(NF−κB)が活性化され、内皮細胞(EC)、マクロファージ、好中球および他の細胞を活性化する、TNF−αなどのサイトカイン、ケモカインおよび細胞接着分子の過剰産生を特徴とする炎症性応答が誘発される(4a)。これらの活性化細胞(5a,6a)は、血管の傷害と毛細血管漏出(CL)を招く反応性酸素種(reaction oxygen species, ROS)などの酸化産物を生じる(7a〜10a)。再潅流後に生成した酸化体およびフリーラジカルは、特にECのアポトーシスの強力な誘導物質(11a)である。これらの細胞の減少は内皮細胞間ギャップの拡大を悪化させ、毛細血管漏出を悪化させ(12a)、アルブミンの損失をもたらす。このような低レベルのアルブミンを伴う酸化ストレスの環境では、内皮の健全性は損なわれる(32a,34a,35a)。酸化産物、サイトカインおよびCLにより悪化する血管枯渇は、内因性および外因性の昇圧に対する血管の無反応性に関与する(10a,13a,14)。これらの事象は図11に要約されている。
【0017】
注目されるもう1つの分野においては、最近の研究で、出血性ショックの蘇生に使用される輸液のタイプが生理応答、免疫応答および全身の炎症状態に影響を及ぼすことが示されている。
【0018】
クリスタロイド−乳酸リンゲル液(LR)および人工(合成)コロイドは好中球を活性化し、細胞接着分子をアップレギュレートするが、これらの作用はアルブミンまたは新鮮な全血では見られない(10a,11a)。さらに、LRまたは人工コロイドで蘇生された動物では、特に肺および脾臓で著しいアポトーシスを生じた(15a,16a)。止血を行わずに積極的な大容量蘇生を行うと、初期に形成された軟らかい血栓が破れることで、また、凝固因子が薄められることで出血が悪化することがある(17a)。逆に、高張生理食塩水(7.5%,HTS)単独または合成コロイドとの組合せを用いた小容量蘇生は、特に頭部外傷の場合、および腹部または四肢のコンパートメント症候群を発症するリスクの高い患者の場合に、大容量蘇生よりも優れている。しかしながら、単独または合成コロイドと組み合わせて用いられる小容量HTSでは、高塩素血症性アシドーシス(18a)およびコロイド成分に関連するアナフィラキシー様反応(19a)をはじめとする有害作用が報告されている。乳酸ピルビン酸エチルおよびケトン系輸液などの前臨床試験下の他の輸液は、LRに比べて、低い細胞傷害性と出血動物で良好な生存率を示す(20a,21a)。
【0019】
コロイド−アルブミンをはじめとするコロイド血漿増量剤の有効性と安全性には議論がある(22a,23a)。デンプン(24a)をはじめとする人工コロイドが、毛細血管漏出症状の治療において、有効性は様々であるが、アルブミンの代わりに用いられている。ヒトアルブミンよりも安価で、入手が容易ではあるが、その高M(>1,000,000)成分が血液誘導特性に影響を及ぼし、凝固障害を招く(23a)ことから、低用量に限定される。アルブミンとは対照的に、合成コロイドは炎症プロセスおよびアポトーシスプロセスを活性化する(25a)。アルブミンは、再潅流傷害の重要な工程である好中球接着分子CD−18の発現を高めないが、人工コロイドは高める(26a)。アルブミンは血液コロイド浸透圧の80%を占め(27a)、低い生理学的速度で管外遊出する(28a)。CL患者では、血液量を増し、コロイド浸透圧勾配を維持するために、5%または25%アルブミン溶液が投与される。アルブミン処置の有効性には変動があり(29a)、アルブミン蘇生が実際には死亡率を高めている可能性があることを示す研究もいくつかある(30a)。しかしながら、通常の生理食塩水または4%アルブミンを投与された7000名を超える外傷患者を含む、ニュージーランドおよびオーストラリアでの最近の無作為化二重盲検管理臨床試験では、28日目でこの2群の間に死亡率の差は示されなかった(31a)(Dr S. Finferによりthe 33 rd Congress of Society of Critical Care Medicine, Feb 2004, Orlando, Floridaに示された研究)。
【0020】
抗アポトーシス薬および抗炎症薬としてのアルブミン−このアルブミン蘇生の臨床的有効性の矛盾した研究にもかかわらず、アルブミンが、内皮表面層の親水性の孔を埋めることで血管内皮の健全性を維持し(32a〜34a)、それらの安定性に寄与している(35a)ことを示す、いくつかの系統の証拠がある。ラット皮膚におけるヒト組織外植片を用いた研究(36a,37a)では、アルブミンが内皮細胞のアポトーシスを阻害することが示されている。アルブミンはチオール基(Cys−34)の供給源として働き、この作用は敗血症患者で実証されており、200mlの20%アルブミンを投与した後、総チオール濃度を50%まで高める(38a)。in vitroにおける作用機序的研究では、細胞グルタチオンおよびNF−κB脱活性化を調節することにより、アルブミンがその内皮抗アポトーシス作用を発揮することが示されている。生理学的濃度のアルブミンは、NF−κBの活性化を阻害することによりTNFαの誘導を阻害する(39a)。HSの齧歯類モデルでは、25%アルブミン蘇生がNF−κBの輸送およびサイトカインにより誘導される好中球化学遊走物質メッセンジャーRNA濃度を低下させた(40a)。
【0021】
しかしながら、アルブミンが出血性ショックに有効でないことにも着目すべきである。これまでの研究において、非修飾アルブミンが血漿増量剤として有効でないこと(27a,29a,30a)は、基礎にある内皮細胞傷害の重篤度に関連しているかもしれない。内皮の健全性が損なわれ、その結果、アルブミンが容易に管外遊出してしまえば、漏出するアルブミンが毛細血管漏出に有利なコロイド浸透圧勾配へと悪化させ得る(41a)。
【発明の概要】
【0022】
本発明の一つの態様は、アルブミンベースコロイド組成物を含んでなる組成物に関する。一つの態様では、アルブミンベースコロイド組成物は、その流体力学的半径が、そのコロイド浸透圧特性とナトリウムイオン、脂肪酸、薬剤およびビリルビンなどのリガンドと結合するその能力を保持しつつ、毛細血管からの漏出を妨げるに十分大きくなるように修飾される。いくつかのタンパク質が、生物活性の損失や著しい毒性を伴うことなく、リシンのε−アミノ基を介して結合されたポリエチレングリコールで修飾されているが、これまでにアルブミンタンパク質上の複数の位置でPEG化産物(ポリエチレンオキシドを含む)で修飾されたヒトアルブミンはなかった。本発明は、血液減少状態の危険性のある、または血液減少状態にある患者に投与した際に、アルブミンベースコロイド組成物がその血液減少症状を逆転させるような程度まで組成物の流体力学的半径を拡大するPEG化産物の使用を意図する。
【0023】
本発明のアルブミンベースコロイド組成物は、重篤な敗血症、ショック、膵炎、火傷および外傷などのショック状態における増量に特に有用であり、それによりそれらの症状における生存率が高まる。
【0024】
このアルブミンベースコロイド組成物はまた、腹膜透析における限外濾過を駆動するか、またはこれを引き起こす高浸透圧剤としても有用である。さらに他の使用としては、例えば、頭部外傷、過粘稠度状態、パーセンテシス(parcenthesis)後の肝硬変患者、白血球搬出(eukopheresis)、栄養性アルブミン欠乏症、ネフローゼ症候群、肝不全、重篤な低アルブミン血症患者および重篤な火傷患者における使用が挙げられる。
【0025】
一つの態様では、本発明は、好ましい水和度を有するアルブミンベースコロイド組成物の組成物を含んでなる。本発明はさらに、アルブミンをポリエチレンオキシドで修飾することによりアルブミンベースコロイド組成物を製造するための2つの方法に関し、1つはN−ヒドロキシスクシンアミドエステルの使用によるものであり、もう1つは塩化シアヌル誘導体の使用によるものである。本発明のアルブミンベースコロイド組成物は安全であり、延長された有用な半減期を有する。このアルブミンベースコロイド組成物は、その免疫原性を軽減する組換えアルブミンを用いて合成することができる。
【0026】
このアルブミンベースコロイド組成物は、その大きさのために管外遊出(extravascate)傾向が弱められ、それにより毛細血管漏出症候群および臨床的には浮腫やコンパートメント症候群などの血液減少症状の悪化を回避する。
【0027】
別の態様では、アルブミンベースコロイド、例えば、ポリエチレングリコールが共有結合したアルブミン(PEG−Alb)の容積拡大特性は、より大きな水和度およびより大きな流体力学的半径を有する大きなアルブミンベースコロイド組成物である。このアルブミンベースコロイド組成物は、通常のアルブミンよりも管外空間に入りにくい。さらに、このアルブミンベースコロイド組成物は、オスモライトとしての、また、抗酸化剤としての、そしてヘムやビリルビンなどの溶解度の低い代謝産物の輸送体としての役割をはじめ、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している(なお、後の2つの特徴は他のクリスタロイドおよびコロイドには付随しないものである)。
【0028】
一つの態様では、本発明は、好ましい水和度を有する大きなアルブミンベースコロイドを含んでなる組成物に関する。この組成物はアルブミンベースコロイドであり、一つの実施態様では、その分子の、患者の毛細血管からの漏出を妨げるに十分な流体力学的半径を有するポリエチレングリコール修飾アルブミンを含んでなる。ある特定の実施態様では、このアルブミンベースコロイド組成物は少なくとも約80〜約250KDまたはそれを超える分子量を有する。この組成物は、ヒトアルブミン、ウシ血清アルブミン、ラクトアルブミンまたはオボアルブミンを含み得る。
【0029】
このアルブミンベースコロイド組成物は、ナトリウムイオン、脂肪酸、ビリルビンおよび治療薬などのリガンドと結合する能力を有する。
【0030】
別の態様では、本発明は、治療量の大きなアルブミンベースコロイド組成物をこのような症状を発症する危険性のある患者に投与することを含む、血液減少症状のin vivoでの予防または治療法に関する。
【0031】
別の態様では、本発明は、アルブミンベースコロイドを含んでなる治療量の組成物を哺乳動物に投与することを含む、傷害された、または傷害のリスクのある哺乳動物組織の予防方法に関する。この組成物は哺乳動物の毛細血管から漏出することができず、組織を傷害から保護するに十分な量で存在する。この方法は、傷害のリスクが血液減少症、敗血症、ショック、火傷、外傷、外科手術、毛細血管漏出素因、過粘稠度ストレス、低アルブミン血症、および/または無酸素症によるものである場合に特に有用である。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、アルブミンをポリエチレンオキシドで修飾することを含む、アルブミンベースコロイド組成物の製造方法に関する。アルブミンはN−ヒドロキシスクシンアミドエステルを用いることで修飾されるか、あるいはまた、塩化シアヌル誘導体を用いることで修飾される。ある特定の実施態様では、この方法は、アルブミンをリン酸カリウムに溶かしてアルブミン溶液を作製すること、メトキシポリエチレングリコールを塩化シアヌルで活性化し、水に溶かしてメトキシポリエチレングリコール溶液を作製すること、このメトキシポリエチレングリコール溶液をアルブミン溶液に加えて混合物を作製すること、この混合物を室温付近で好適な時間攪拌すること、約4℃で適当な時間、この混合物をリン酸緩衝生理食塩水溶液に対して透析すること、およびポリエチレングリコール修飾アルブミンを回収することを含む。ある特定の実施態様では、アルブミン溶液の容量に対するメチオキシグリコール(methyoxy glycol)溶液の容量の比率は約1〜約3の範囲である。
【0033】
盲腸結紮穿刺(CLP)ラットモデルおよび内毒素血症(endoxtoxemic)ラットモデルでは、複数の部位でメトキシポリエチレンとコンジュゲートした場合に(PEG−Alb)、非修飾アルブミンまたはクリスタロイドのいずれに比べても優れた(2〜3時間)アルブミンの輸液蘇生特性が見られる。大きなPEG−Alb(アルブミンの大きさの約16倍)およびその高まったコロイド浸透圧特性により、敗血症−毛細血管漏出(CL)症状下で管外遊出が少なくなる。その結果、PEG−Albで処置されたマウスは、血圧回復の向上とCLに誘発される血液濃縮の低下を示した。さらに、内毒素血症ラットにおいて、PEG−Albによる肺組織傷害の減少の証拠もあった。タンパク質のPEG化は、おそらくは生理学的ターンオーバー(例えば、タンパク質分解から保護する)および抗原性を軽減することにより、それらの血管内保持時間(半減期)を延長する。本発明は、1)アルブミンおよびPEG−Albの血管内保持時間の同時(すなわち、同じ被験体で)評価を可能とし、2)生体器官の傷害の指標としての管外(または漏出)アルブミンおよびPEG−Albの可視化を提供する方法を記載および検証する。本方法は、分光光度的に異なる発色団によりタグ付けされたアルブミンおよびPEG−Albおよびそれらの濃度を経時的に繰り返し評価する二重発色団技術に基づく。このアルブミンは指示試薬で修飾されている。
【0034】
より具体的には、本発明の方法は、色素とコンジュゲートしたアルブミンおよびPEG−Albの作製に関する。ヒトアルブミン(50mg/ml)を50mMリン酸カリウム(pH7.5)、150mM NaClおよび0.5mMジチオトレイトール中で1時間インキュベートした。このジチオトレイトール処理したアルブミンを4mMの5−ヨードアセトアミドフルオレセインまたは1.5mMのテキサスレッドマレイミド(Molecular Probes)とともに2時間インキュベートした。この色素修飾アルブミンを5倍希釈し、遠心分離濃縮器(カットオフ10,000Mr,Millipore)で3倍に再構成して組み込まれていない色素の大部分を除去し、その後、リン酸緩衝生理食塩水(4回交換)に対して48時間透析した。
【発明の具体的説明】
【0035】
本発明の一つの態様によれば、デンプンとは異なり、アルブミンベースコロイド組成物は、オスモライトとしての、また、抗酸化剤(26)としての、そしてヘムやビリルビンなどの溶解度の低い代謝産物の輸送体(27)としての役割をはじめ、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している(なお、後の2つの特徴は他のクリスタロイドおよびコロイドには付随しないものである)。PEG−Albに対して行ったタンパク質の脱フォールディング研究は、アルブミンの機能が非常に良く保存されていることを示した。
【0036】
本発明によれば、アルブミンベースコロイド組成物のこのコロイド浸透圧特性は、血液減少の処置の際の血漿増量に関して、非修飾アルブミンの場合よりも優れている。アルブミンベースコロイド組成物は、危篤患者において末端器官の傷害のおそれを軽減し、これにより罹患率および死亡率を引き下げる。本発明はまた、ARDSを予防または緩和し、血圧を維持するよう、敗血症患者を前処置する方法に関する。分子量が大きく(好ましくは、約80KD以上)、コロイド浸透圧機能が増強された本発明のアルブミンベースコロイド組成物は、内毒素誘発ショックの生理学的および組織学的兆候の改善に関して生理食塩水またはアルブミンよりも極めて優れている。
【0037】
このアルブミンベースコロイド組成物は、毛細血管漏出が起こっている敗血状態であっても、患者の血管内コンパートメントに維持される。リポ多糖類(LPS)誘導型のラット敗血症モデルでは、ヘマトクリット(HCT)予備試験では違いはなかったが、敗血症誘導後は生理食塩水およびアルブミン処理群のヘマトクリットは上昇し、PEG−Alb群のヘマトクリットは低下した。図1は、第1群と第2群の前後のヘマトクリットでは正の変化を示し、第3群(PEG−Alb群)の前後のヘマトクリットには負の変化がある。このデータはまた、アルブミンが血液濃縮ならびに間質性空間への体液損失という点で違いがない傾向にあることを示す。
【0038】
また、敗血症においては血圧の維持も重要である。敗血症により誘発される低血圧の予防のためのPEG−Alb、生理食塩水およびアルブミン処理の有効性を図2に示す。LPS(リポ多糖類)後2時間および3時間目において、MAP(平均動脈圧)はアルブミン処理群および生理食塩水処理群の双方で基準値に比べて低下した。他方、PEG−Albラットの平均応答はどちらの時点でも変化はなかった。LPS後のMAPの変化は、処理群内であっても顕著な変動性を示した。しかしながらやはり、MAPの維持におけるPEG−Albの高い有効性は統計学的に有意であった(二元配置反復測定ANOVA;P=0.023)。
【0039】
組織病理学的所見は、PEG−Alb処理群がアルブミン群よりも肺胞傷害が少ないことを示す(図3A〜D)。図4に示されるように、肺傷害(急性呼吸窮迫症候群(ARDS))は、PEGA処理ラットでは、アルブミン処理ラットおよび生理食塩水処理ラットのいずれと比べても有意に少なかった(一元配置ANOVA;P−.002)。陽性対照およびアルブミン処理ラットに比べて、PEG−Albラットにおける肺組織の浸潤および硝子質化が最少であることを考えれば、LPSにより誘発された血液減少においてPEG−Alb処理はアルブミンより良好である。
【0040】
図5(左)は、PEG−AlbのSDS−アクリルアミドゲル電気泳動を示す。
【0041】
レーン1および4は上から下に、1)ミオシン(MW205KD);2)ホスホリラーゼ(97KD);および3)ウシ血清アルブミン(66KD)の標準マーカーを含む。レーン2は、PEG化後のヒト血清アルブミンを含み、その分子量は200KDを超える。レーン3はPEG化前のヒト血清アルブミンを含む。
【0042】
図5(右)は、Superdex S200でのPEG−Albのゲル濾過を示す−PEGAサイズ標準を10nM KPO、150nM NaClで平衡化したSuperdexに適用した。示された標準は、チログロブリン(Thyr)、免疫グロブリン(IgG)、アルブミン(alb)、オボアルブミン(OVAL)およびミオグロビン(My)である。Peg−アルブミンは2週間で溶出した。ピークIはボイド容量で、ピークIIはチログロブリンの後に溶出した。
【0043】
本発明によれば、LPSによる敗血症の誘導前にPEG−Albでラットを前処理すると、生理食塩水または非修飾アルブミンによる動物の前処理に比べ、LPSにより誘発されるショックの兆候が少なくなる。齧歯類はLPSに対して比較的耐性があるので、高用量のLPSを与え、MODSを有する重篤なヒト敗血症をシミュレートするには低血圧の持続が必要である。PEG−Albは血圧をより急速に回復し、ヘマトクリットを低下させ(CLを特徴とする血液濃縮とは反対に血液希釈を示唆する)、肺傷害を有意に軽減する。PEG−Alb分子の有効サイズはより大きいので、細胞傷害の存在下でも、また、内皮の健全性が失われても管外遊出しにくい。
【0044】
内毒素の投与後に起こるショックは二相の血圧応答を特徴とする。第一相では、LPSの注射後10〜15分で血圧降下が起こる。これは総てのLPS注射動物に顕著であったが、このことはPEG−Albが内毒素それ自体を中和することにより働くものではないことを示唆する。低血圧の第二相は、主として、血漿量を実質的に低下させる誘導性硝酸オキシド(iNOS)の作用により生じる(28)。この第二相において、PEG−Albは、アルブミンまたは生理食塩水に比べて優れた作用を持つ。iNOS mRNAまたはペプチドは測定されなかったが、ここで用いたこれらの条件下、すなわち、20mg/KgのLPSの静脈内投与下で、iNOSが誘導された可能性が極めて高い。いずれの前処理モデルにも本質的な制限が存在するが、このデータは、LPSの前にPEG−Albを投与すればラットをARDSの発症から保護することを示す。
【0045】
ヘマトクリット、平均動脈圧および組織学は総て、PEG−AlbがLPSにより誘導された血液減少の有益な治療となることを示す。PEG−Alb処理により達成される血液希釈およびMAPの不変性は血漿増量(または少なくとも維持)の指標となり、アルブミンおよび生理食塩水では反対の作用が見られた。PEG−Albによる血管内容量の維持は毛細血管漏出の減少と一致している。組織病理学的所見(図3A〜D)は、PEG−Alb処理ラットの肺組織では間質浸潤性および硝子質化が最少であることを示す。免疫蛍光研究は、PEG−Albが毛細血管漏出の際にアルブミンよりも高い程度で、血管空間に保持される傾向があることを示す(図3)。
【0046】
このPEG−Albのコロイド特性の向上は親水性の上昇によるものであるが、これは、ゲル濾過カラム上での挙動に表れるその極めて大きな流体力学的半径およびその理想的でない浸透圧特性から推測されるより大きな分子慣性半径(R)および排除体積(Λ)により示される。これはまた、サイズ排除クロマトグラフィーを用いても証明され、PEG−Alb/アルブミンの溶出比は、コロイド浸透圧法によるPEG−Alb/アルブミンの排除体積と一致した(図5)。1以上のPEG基との共有結合により修飾した後のタンパク質のRおよびΛの同様の上昇は、Winslowおよび共同研究者らにより、ウシヘモグロビンの場合について既に報告されている(29)。
【0047】
PEG−Albのコロイド浸透圧特性は、CLに関連した血液減少の治療の際の血漿増量に関して非修飾アルブミンよりも優れている。PEG−Albは、危篤患者において末端器官に傷害のおそれの軽減、従って罹患率および死亡率の軽減に有用である。本発明はARDSを予防または緩和するため、また、血圧を維持するために患者を前処理するのに有用である。分子量がより大きく、コロイド浸透圧特性が増強されたPEG−Albは、内毒素誘発ショックの生理学的および組織学的兆候の改善に関して、生理食塩水またはアルブミンよりも極めて優れている。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は本発明をさらに説明するために示されるものである。本発明の範囲は次の実施例だけからなるとみなされるべきでない。
【0049】
実施例I:敗血症におけるポリエチレングリコール修飾アルブミン(PEG−Alb)の使用
材料および方法: PEG−Albの調製。2gのヒトアルブミン(Sigma, St. Louis, MO)を45mlの50MMリン酸カリウム(一塩基性と二塩基性の混合物)pH7.4に溶かした。500mgのメトキシポリエチレングリコール(Sigma, St. Louis, MO)を塩化シアヌルで活性化し、4mlの水に溶かした。1.4mlのメトキシポリエチレングリコール溶液を45mlのヒトアルブミン溶液に加え、この混合物を室温で2時間攪拌した。この混合物を透析チューブ(分子量カットオフ−12500)に移し、3000mlのリン酸緩衝生理食塩水に対し、4℃で72時間透析した。ポリエチレングリコール修飾アルブミン(PEGA)を回収した後、使用するまで−20℃で冷凍した。
【0050】
動物: 体重400〜480gの成体雄Sprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories, Portage, MI)を用いた。動物はAmerican Association for Accreditation of Laboratory Animal Care, International (AAALACI)認可施設で飼育した。標準ラット餌と水を自由に与えた。プロトコールは総てInstitutional Animal Care and Use CommitteeおよびABC (Hazard) Committeeにより認可されたものである。
【0051】
方法
動物を一晩絶食させた。ただし、水は自由に与えた。ナトリウムペントバルビタール(50mg/kg)を用いて動物を腹腔内麻酔し、試験過程で必要に応じて追加量を与えた。動脈カテーテル(Intramedic PE-50, Clay Adams)を頚動脈に留置し、継続的に血圧をモニタリングするための変換器/増幅器(TestPoint, Capital Equipment Corporation, Billerica, Mass.)にホックで留めた。G24カテーテルを用い、反対側の内頚静脈に静脈内ラインを留置した。基準ヘマトクリットとして頸動脈ラインから血液サンプルを採取し、アルブミンおよび置換輸液(0.9%生理食塩水1ml)を静脈内ラインから注入した。第1群には生理食塩水5mlを注入した。第2群にはアルブミン0.6g/kg体重(BW)を与え、第3群にはPEGA0.6g/kg BWを与えた。30分後、第3群には内毒素(LPS)(Sigma Chemicals, St. Louis, MO)を、用量を変えて与えた。ラットは受けた蘇生輸液に基づいて3群に分けた:第1群(n=9)には生理食塩水中非修飾アルブミンを0.6g/kgで施し、アルブミンの注射濃度は40mg/mlであり、注射容量は1.5ml/100g体重(BW)であった。第2群(n=12)には、アルブミンの代わりに、第1群と同じ用量、タンパク質濃度および注射容量でPEG−Albを施した。第3群(n=6)には1.5ml/100g BWの生理食塩水を施した。内毒素注入した後3時間、血圧のモニタリングを行い、その後ラットを安楽死させた。
【0052】
ヘマトクリットおよびアルブミンに対する試験後血液サンプルを採取した。右の肺をホルマリンに漬け、ヘマトキシリン−エオシン染色のために病理状態を固定した。
【0053】
潜在的血漿増量剤としてPEG修飾アルブミン(PEG−Alb)を検討した。複数の部位でアルブミンを修飾すると、非修飾アルブミンよりも有効分子容積が大きくなり、より大きな浸透圧を示した。PEG−Alb、アルブミンの溶液および生理食塩水を、ラット内毒素誘発ショックモデルで試験した。ポリエチレングリコール修飾ヒトアルブミン(PEG−Alb)で前処理すると、平均動脈圧が維持され(p=0.023)、血液希釈溶液によって証明されるように容量が保持され(p=0.001)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の組織学的兆候が弱まった(p=0.002)。ラットを蛍光標識PEG−Albおよびローダミン標識アルブミンの単独および組合せで前処理した後、LPSで処理した。肺切片の蛍光顕微鏡観察では、蛍光標識PEG−Albは血管内に保持されていたが、ローダミン標識アルブミンは保持されていなかったことが示された。生理食塩水または非修飾ヒトアルブミンの使用に比べ、PEG−Albは、血液減少状態において使用することができる有用な代替の血漿増量剤である。
【0054】
実施例II: 内毒素誘発ショックにおいて血管容積を回復させ、急性肺傷害を軽減するためのPEG−Albの使用
アルブミンおよびPEGA(PEG−Alb)の調製
50mM KP(pH7.5)に50〜60mg/mlで溶解させたヒトアルブミン(タイプV, Sigma Chemical Co.)に、22℃にて10分間隔で4回、穏やかに攪拌しながらメトキシポリエチレングリコール塩化シアヌル(平均M5000)を加えた(添加する度にアルブミン1mgにつき0.2mg)。試薬を最後に添加した後40分、反応物を攪拌した。修飾は速やかで、室温で15分までに完了し、修飾程度は主として試薬の添加量に依存した。動物に注入する前に、アルブミンおよびPEG−Albはいずれも、高分子量カットオフ透析チューブ(50kDa分子量カットオフ)を用い、リン酸緩衝生理食塩水に対して48時間、バッファーを3回交換して透析した。
【0055】
FITC−アルブミンおよびFITC−PEG−Alb
ヒトアルブミン(50mg/ml)を50mM KP(pH7.5)、150mM NaClおよび0.5mMジチオトレイトール中で1時間インキュベートした。ジチオトレイトール処理アルブミンを4mM 5−ヨードアセトアミドフルオレセインまたは1.5mMテトラメチルローダミン−5−ヨードアセトアミドとともに2時間インキュベートした。フルオレセイン修飾アルブミンを、リン酸緩衝生理食塩水を4回交換して48時間透析し、遊離フルオレセインを除去した。ローダミン標識アルブミンをSephadex 50によるクロマトグラフィーに付した後、リン酸緩衝生理食塩水に対して徹底的に透析した。
【0056】
フルオレセイン標識アルブミンのいくらかをメトキシポリエチレングリコール塩化シアヌルで修飾し、Sephacryl S200でのゲル濾過により精製した。200,000を超える見掛けの分子量で溶出するSephacryl S200からの画分をプールし、PM10膜を備えたAmicon限外濾過セルを用いて濃縮した。ゲル電気泳動によるフルオレセインおよびローダミン標識アルブミンの分析では、蛍光がタンパク質と会合しており、遊離フルオレセインまたはローダミンの位置には蛍光が検出されないことが明らかになった。
【0057】
生理学的研究
試験プロトコールはオハイオ医学大学のthe Institutional Animal Care and Use Committee (IACUC)およびthe Academic Chemical Hazardous Committee (ACHC)に認可されたものであった。体重400〜480gの成体雄Sprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories, Portage, MI)を用いた。動物はAmerican Association for Accreditation of Laboratory Animal Care, International (AAALACI)認可施設で飼育した。標準ラット餌と水を自由に与えた。試験前に動物を一晩絶食させたが、水は自由に与えた。
【0058】
総てのラットをナトリウムペントバルビタール(50mg/kg体重)を用いて腹腔内麻酔した後、1時間間隔で維持用量を静脈添加した。右頚動脈に留置し、血圧変換器と増幅器(BLPRおよびTBM4,World Precision Instruments, Sarasota, FL)に接続したカテーテル(Intramedic PE-50, Clay Adams)から継続的に平均動脈圧(MAP)を測定し、コンピューター(TestPoint, Capital Equipment, Billerica, Mass)に採集した。
注入用静脈ラインを左頚静脈に挿入した(G24 Protectiv*Plus, Johnson and Johnson/ Ethicon, Arlington, Texas)。
【0059】
ラットを、投与した蘇生輸液に基づいて3群に分けた:第1群(n=9)には生理食塩水中の非修飾アルブミンを0.6g/kg用量で投与し、アルブミン注射濃度は40mg/mlであり、注射容量は1.5ml/100g体重(BW)であった。第2群(n=12)には、アルブミンの代わりに、PEG−Albを第1群と同じ用量、タンパク質濃度および注射容量で投与した。第3群(n=6)には、1.5ml/100g BWの生理食塩水を投与した。基準ヘマトクリット(Hct)の測定のために1mlの基準血液サンプルを頸動脈ラインから採取し、同量の0.9%生理食塩水に置換した。輸液注入開始時にMAPのモニタリングを始めた。30分後、生理食塩水に溶かした20mg/kg BWの内毒素(大腸菌(E. Coli)リポ多糖類[LPS],血清型055:B45, Sigma Chemicals, St. Louis MO)を投与し、その後3時間ラットをモニタリングした。次ぎに、敗血後のHctを評価するために血液サンプルを採取した後、ラットを150mg/kg/BWのペントバルビタールIPで安楽死させ、全採血した。最後に、片方の腎臓と両肺を摘出し、後の組織検査のために10%ホルマリン中で速やかに固定した。
【0060】
組織学的研究
肺および腎臓組織をホルマリン溶液から取り出し、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を含む標準的な処理を施した。コード化したこれらの標本を盲検病理学者が光学顕微鏡で調べ、次の5ポイントシステムを用いて炎症の組織学的特徴にスコアを付けた:0=有意な組織病理学的変化無し;1=最少の間質の炎症性浸潤;2=軽度の硝子質化を伴った軽度の間質の炎症性浸潤;3=中度の硝子質化を伴った中度の間質の炎症性浸潤;4=重度の硝子質化を伴った重度の間質の炎症性浸潤。一貫性を確保するために、同じ病理学者が2回の別の機会にサンプルを調べ、平均したスコアを用いた。
【0061】
分子/生物物理学的研究
SDSゲル電気泳動。非修飾アルブミンおよびPEGAのサンプルを、SDS(1%,W/V)およびβメルカプトエタノール(5%,V/V)を加え、沸騰水浴中で1分間加熱することにより、電気泳動用に調製した。サンプルを、7.5%または10%アクリルアミドゲルで電気泳動に付した(30)。
【0062】
サイズ排除クロマトグラフィー
アルブミンおよびPEGAをベッド容量24mlのSuperose 6カラム(Pharmacia)でのサイズ排除クロマトグラフィーにより分析した。サンプルまたは標品混合物(0.5ml)をカラムに適用し、10mMリン酸カリウム(pH7.5)および150mM NaClを用い、0.5ml/分で溶出した。280nmにおける吸光度を継続的にモニタリングした。
【0063】
SELDI−TOFタンパク質分析
表面増強レーザー脱離法/イオン化−タイム・オブ・フライト(SELDI−TOF)質量分析を用い、PEG−アルブミンおよびアルブミンサンプルを同定した。サンプル1ml(1〜5mg/ml)を付着させ、脂肪コーティングしたアルミニウムProteinChipアレイ(H4 ProteinChip, Ciphergen Biosystems, Palo Alto, CA)の2mmスポット上で直接風乾させた。1/2μlのエネルギー吸収マトリックス(EAM,50%アセトニトリルおよび0.5%トリフルオロ酢酸水溶液中、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸の飽和溶液)を2回サンプルに適用し、風乾させた。
【0064】
このProteinChipアレイをProteinChipリーダーに移し、真空チャンバー内でこのサンプルにレーザー(N2 320nm−UV)を当てた。レーザーショット2回の後、そのマトリックスに吸着したタンパク質をイオン化し、アレイ表面から脱離させた。イオン化されたタンパク質を検出し、TOF分析を用いて分子量を求めた。ProteinChipシステム(PBSII series, Ciphergen)にて、Ciphergen Peaks(バージョン2.1b)ソフトウエアを用い、陽イオンモードでTOF質量スペクトルを採取した。65回のレーザーショットのリアルタイムシグナル平均を求め、各スペクトルを作成した。
【0065】
コロイド浸透圧(COP)
PEGA−Albおよびアルブミンの双方をCOP測定のため同様に調製した。要するに、サンプルを10mMリン酸カリウム(pH7.5)、150mM NaClに50mg/mlとなるように溶かし、30℃にて1時間ジチオトレイトール(0.5mMジチオトレイトール)で処理した後、30℃1時間ヨードアセトアミド(5mMヨードアセトアミド)とともにインキュベートした。次ぎに、このアセトアミド化アルブミン(50mg/mlを5ml)を、10mMリン酸カリウム(pH7.5)および150mM NaClで平衡化し、アルブミン二量体および浸透圧の測定を妨げる他の低分子量および高分子量夾雑物を減らしたSephacryl S300(2.8cm×40cm)でクロマトグラフィーに付した。最後に、アルブミンおよびPEGAの双方を、0.9%NaClを数回交換して透析した。
【0066】
各コロイドのCOPの測定は、Wescor Medel 4420コロイド浸透圧計(Logan, UT)を用い、広範囲の濃度で測定を繰り返した。この機器は0.9%生理食塩水をブランクとし、20.2mOsmアルブミン標準溶液で較正した。非修飾アルブミンの濃度は280nmにおける吸光度から求め(ε280nm,1%=5.31)(31)、乾重の測定により確認した。PEG−Albの濃度は乾重から推定した。
【0067】
濃度[c]に関して、COP[π]は、1)π−c関係の理想的な成分から表される重量分子量[Mr](32)と、2)2つのパラメーターBとおよびαを介した他の総てのビリアル係数の理想的でない関与を評価するための方程式の非線形最小2乗適合によって分析した。
【0068】
この方程式の形は、ビリアル係数の数値の演繹的仮定を避ける従来使用されている方程式[π=RT(c/Mr+Bc+Cc...)]を微修正したさらに柔軟な形であり、R=63.364mmHg M−1、cは濃度(g/dl)であり、Tは温度(295°K)である。
【0069】
統計分析
これら3つの処理群の、LPS前後のヘマトクリット間の差をANOVAで比較した。ここでは、ANOVA二元配置反復測定を用い、LPS前およびLPS後の種々の時点での平均動脈圧(MAP)を比較した。各群間の個々の差をTukey多重比較検定を用いて評価した。p<0.05を用い、統計学的有意性を示した。
【0070】
生理学的研究
LPS後の血管容積の収縮/拡大−誘発された敗血症をMAPおよびHctの変化から推定した。これらの測定は双方とも、PEG−Alb、アルブミンまたは生理食塩水で前処理したラットでは有意に変動した。最初に、LPSボーラス注入後15〜25分内に3群総てがMAPにおいて同様の〜40%低下を示した(生理食塩水:135±11から81±30mmHgへ低下;アルブミン:134±14から85±20mmHgへ低下;PEG−Alb:125±12から79±19mmHgへ低下)(図2)。その後のMAPの回復は、生理食塩水(99±29mmHg)およびアルブミン(108±14mmHg)処理に比べ、PEG−Alb処理ラットでは有意に良好であった[MAP[LPS後3時間]=120±10mmHg;p=0.023)。MAPの回復は生理食塩水処理ラットに対してアルブミンではやや大きかったが、この差は有意ではなかった。
【0071】
LPS前のヘマトクリットは総ての試験群で同等であった[44±2(生理食塩水)、42±3(アルブミン)および45±2(PEG−Alb)]。LPS後3時間において、ヘマトクリット(後)は、アルブミン(Hct比(後/前)=1.09±0.11)および生理食塩水(Hct比=1.19±0.09)処理ラットの双方の基準(前)レベルよりも上昇したが、これは血管内液体容量の相対的低下または血液濃縮を示す(図1−A)。これに対し、PEG−Alb処理ラットはLPS投与後の血液希釈を示した(Hct比=0.93±0.07)。これらの傾向は各群内で再現性が高く、処理群間の差は統計学的に有意性が高かった(一元配置ANOVA;p=0.001)。最も重要なことでは、これらのHCTの変化は、MAP比とHct比のクラスタリングにより証明されるように、一般にMAP回復の程度と層間していた(33)。ここで、PEG−Albラットは一般にHct比<1(すなわち、血液希釈)およびMAP比1付近(すなわち、LPS後3時間においてほぼ完全な回復)を示した。あるいは、生理食塩水およびアルブミン処理ラットでは、後/前MAP比は相対的に低く(不完全なMAP回復)、Hct比は一般に>1(血液濃縮)であった(図1B)。
【0072】
組織学的研究
PEG−Alb処理ラットおよび対照(非敗血症)ラットから採取した肺組織切片の顕微鏡検査では、有意な組織病理学的変化が無かった(図3A〜D)。その代わりに、ほとんどの生理食塩水処理ラットおよびアルブミン処理ラットでは、硝子質化および間質のリンパ性浸潤を含む、重度の急性肺傷害(ALI)に一致する実質的な炎症性の組織病理学的変化が明らかであった(図3)。全体として、平均ALIスコア(0=傷害無し;1=最少;2=軽度;3=中度の;4=重度)は、生理食塩水群(2.0±1.0;範囲0〜3)およびアルブミン群(2.4±0.9;範囲1〜4)の双方に比べ、PEG−Alb処理ラット(0.76±0.47;範囲0〜1)では有意に低かった(一元配置ANOVA;P=0.002)。4つの群の総てで、腎臓の顕微鏡切片は有意な組織病理学的変化を示さなかった。
【0073】
フルオレセイン標識PEG−Alb(緑)とローダミン標識アルブミン(赤)の混合物を注入した正常ラット(図8A)および敗血症ラット(図8B)例からの結果は、これら2つの発色団の明瞭に異なる分布パターンを示した。特に、正常ラットの肺胞毛細血管領域は、敗血症ラットにおける発色団の拡散分布に比べ、黄色(すなわち、赤と緑)の局在を特徴とし、特に赤いローダミンはその管外遊出を示唆する。また、単一のコロイド種、すなわち、フルオレセイン標識PEG−Alb(図8C)およびフルオレセイン標識アルブミン(図8D)のいずれかを注射したラットからも一貫した知見が明らかである。ここでも、アルブミン処理敗血症ラットは拡散した蛍光を示したが、PEG−Alb処理ラットはそうではなかった。
【0074】
PEG−Albの生物物理学的特性
分子サイズ−アルブミンおよびPEG−AlbのSDSゲル電気泳動の結果を図5A(右)に対比させる。予想としては、アルブミンはかなり均質のタンパク質として、その既知の分子量で泳動する。これに対し、PEG−Albはより大きな見掛けの分子量で泳動し、PEG−Alb材料はゲル内に容易に入らない。特筆すべきは、理想的でないタンパク質の場合、電気泳動移動度は、それらの分子量というより主としてそれらの拡大特性を反映したものである。修飾タンパク質の実質的不均質性は、複数のリシル残基でのPEG修飾によるものである。PEG−Albをゲル濾過でも調べた。SDSゲル電気泳動でのその挙動と一致して、この修飾タンパク質は実質的に不均質であり、500,000〜数百万の範囲の見掛けのMとしてカラムから溶出する(図5B(左))。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)カラムでのその挙動も、実際の分子量ではなく、結合されたPEGの拡大特性の現れである。図7のアルブミンおよびPEG−Alb双方の吸光度−V/Vデータを用い、本発明者らは対応する平均V/Vがそれぞれ2.112および1.588であると算出した。これらのサンプルにおけるアルブミンおよびPEG−Albの有効分子量(またはサイズ)はそれぞれ約77,670Daおよび994,300Daであり、あるいは相対的サイズ比は約12.8であると判定された。アルブミン推定値は既知のアルブミンサイズ(67,000Da)よりも大きく、その単量体と二量体の間であり、これは、主要な単量体ピークと小さな二量体ピークという2つのアルブミン吸光度ピークの存在と一致している。
【0075】
PEG修飾の程度を種々の技術で調べるため、アルブミンおよびPEGAをSELDI−TOF質量分析で分析した。両スペクトルとも、a)単量体と多量体の存在、より適切には、b)一価種(z=1)ならびに多価種(z2)の検出の結果としての複数ピークを示した。これらの作用によれば、主要な一価アルブミン単量体スペクトルピークは分子量66,880±2,800Daを中心としていた(図6A)。これに対し、対応するPEG−Albピークはもっと不均質であり、77.4から100kDaを超えるまでに離れた範囲の多数の分子量種を示した。これらの多様なPEG−Alb成分は、リシル残基の修飾によりアルブミン1分子当たりに結合しているPEG基の数を反映したものである。実際に、これらのPEG−Alb種の質量の隔たりは、試薬のサイズ(平均5000M)と一致していた。SELDI−TOFから推定されるPEG−Alb単量体の平均分子量は94.000Da±8.000Daであった。これはアルブミン1つ当たりに平均5〜6個のPEG基の付着に相当していた。
【0076】
コロイド浸透圧(π) アルブミンに比べ、オスモライトとしてのPEG−Albの特性を評価するため、本発明者らはそれらの浸透圧(π)を広範な濃度(g/dL)で調べた。アルブミンおよびPEG−Albの双方は、たとえ異なっていても、タンパク質濃度に関して浸透圧の非線形的依存性を示し(図7)、それらの束一的特性、Donnan作用、およびそれらの分子排除体積(Λ)による作用を反映する。アルブミンに関するこれらのπ−濃度データを当てはめると、数平均分子量は63,300、ビリアル係数Bは15.6という値、α=2.0となった。これらの係数から、コンピューター計算したアルブミンの分子慣性半径(Rg)およびΛはそれぞれ3.9nmおよび2,070nmであった。これらの推定値は総て、これまでに発表されている値とよく一致している(34)。PEG−Albのπ−濃度データは、アルブミンに比べて、より大きな非理想性またはひずみの増大を示した。PEG−Albの対応する数平均分子量は128,000Da、B=62、α=2.40、Rg=10.0およびΛ=33,378nmであった。これはPEG修飾後のΛの16倍増に相当した。PEG化によるタンパク質の拡大特性におけるこの相対的変化は、同じタンパク質に対するSEC測定から推定された13倍増に匹敵する。
【0077】
分子量を評価するためのこれら2つの方法(SELDIおよびコロイド浸透圧測定)から、アルブミンでは同等の推定値が得られたが、PEG−Albの場合ではそうではなかった。後者の場合では、πに基づく推定値は128,000Daと予測されていたものよりも大きかった。浸透圧の導出から、その溶液中のあらゆる種の数平均分量が得られるので、この方法による分子量の過剰見積もりが多量体の存在に一致する。特定の理論に縛られるものではないが、SELDIデータは実際にPEG−Alb多量体の存在を示唆するので(図6)、これはこれらの明らかな差の可能性のある説明となると考えられる。
【0078】
生理食塩水およびアルブミンに比べ、LPS誘発性の敗血性ショックの前にPEG−Albでラットを前処理すると、1)血圧のより完全な回復が得られ、2)ヘマトクリットは変化しないか、またはやや低下し(通常CLを特徴とする血液濃縮とは反対の血液希釈を示唆する)、3)肺傷害が有意に軽減された。
【0079】
齧歯類にはかなりの耐性があるので、MODSを伴う重度のヒト敗血症をシミュレートする方法として有意かつ持続的な低血圧を確保するために、比較的高用量のLPSを試験に用いた(35)。LPSに続発する低血圧は二相の応答を特徴とする。第一相では、LPSボーラス注入の15〜25分以内に動脈圧に急激な低下が起こる。この相は処理群間で違いはなく、アルブミンおよびPEG−Albは、生理食塩水に比べて、内毒素の初期作用を変化させなかったことを示す。第二相の血圧降下は、主として、CLを経て血漿容量を実質的に減らす誘導性硝酸オキシド(iNOS)の作用により起こる(36)。iNOS mRNAまたはペプチドは測定しなかったが、iNOSは高LPS用量(20mg/Kg)の投与により誘導された可能性が高い(37)。
【0080】
アルブミンまたは生理食塩水に比べ、PEG−Albの優れた作用は、内毒素ショックのこの第二の血圧降下相に現れた。この証拠としては、より完全な血圧回復と相対的な血液希釈がある。また、肺の組織病理学からPEG−Alb処理ラットの肺組織における最少の間質浸潤および硝子質化が明らかであり、一方、免疫蛍光研究は、CLの存在下での明らかなアルブミンの管外遊出に比べ、PEG−Albは相当血管内に保持されることを示した。これらのことは総て、毛細血管漏出の低さおよび血漿増量特性の高さと一致する。
【0081】
これらのin vitro測定は、アルブミンに比べ、PEG−Alb分子の実質的により大きな有効サイズおよびより大きなコロイド浸透圧は、細胞傷害および内皮の健全性の欠如の存在下で管外遊出しにくくなることを示している。実際に、SECおよびコロイド浸透圧測定は、PEG化後の分子構造の拡大/容積の拡大に13〜16倍増を示した。PEG−Albのコロイド特性の向上は親水性の増大をもたらし、これはより大きな流体力学/慣性半径(R)および容積の拡大(Λ)に現れる。イヌ内毒素ショックモデルでは、毛細血管透過性の重篤度が、電気泳動による種々のタンパク質の分子量の測定から推定された(38)。より大きな分子量はMW900,000Daに相当し、最小はアルブミン(60,000Da)である。アルブミンは慣性半径3.4nmに相当し、最大タンパク質であるアポプフェリチン二量体は12.1nmであり、大きなギャップは中程度のギャップ(60,000〜500,000Da)に比べ、内皮にあまり典型的でなく(39)、中度〜重度の漏出では、10nmの大きさのPEG−Albが血管空間に保持されなければならないことが分かる。
【0082】
実施例III: ヒトアルブミンのマレイミド−PEG誘導体の合成および精製が完成された
10mMリン酸カリウム(pH7.5)、150mM NaClおよび0.5mMジチオトレイトール中、ヒトアルブミン(Sigma Chemical Co., タイプV)50mg/mlを30℃で1時間インキュベートした。マレイミド−メトキシポリエチレングリコール20,000Mr(Shearwater Inc., カタログ番号2D2MOP01)またはマレイミド−メトキシポリエチレングリコール40,000Mr(Shearwater Inc., カタログ番号2D2MOP01)を1mMまで加え、反応物を30℃で1時間インキュベートした。PEG修飾アルブミンをQ−Sepharose(Pharmacia)でのイオン交換クロマトグラフィーにより精製した。
【0083】
図9は、PEG−20,000(マレイミド)修飾アルブミンの精製を示す−マレイミドPEG20,000で修飾したヒトアルブミン(タンパク質7mg)を、50mM Tris−Cl(pH7.5、25℃)で平衡化したQ−Sepharose(1.5cm×5cm)に適用した。このカラムを27ml/時で溶出し、1.5ml画分を採取した。クロマトグラフィーは室温(22℃)で行った。画分7からは、カラムを0〜0.5MのNaCl勾配(総量100ml)で溶出した。非修飾アルブミンは画分35〜43の間に溶出する。図の挿入は、28から始まる1つおきの画分のSDSゲル電気泳動(10%アクリルアミドゲル)の結果を示す。挿入部のゲルにおいてAと表示されたレーンは、マーカーとしての非修飾アルブミンの泳動を示し、分子量マーカーの位置はゲルの右に示されている。
【0084】
図10は、PEG−40,000(マレイミド)修飾アルブミンの精製を示す−マレイミドPEG40,000で修飾したヒトアルブミン(タンパク質60mg)を、50mM Tris−Cl(pH7.5、25℃)で平衡化したQ−Sepharose(1.5cm×15cm)に適用した。クロマトグラフィーは室温(22℃)で行った。このカラムを27ml/時で溶出し、4ml画分を採取した。画分15からは、カラムを0〜0.3MのNaClの直線勾配(総量250ml)で溶出した。非修飾アルブミンは画分45〜55の間に溶出する。図の挿入は、31から始まる連続画分のSDSゲル電気泳動(10%アクリルアミドゲル)の結果を示す。挿入部のゲルにおいてAと表示されたレーンは、マーカーとしての非修飾アルブミンの泳動を示し、分子量マーカーの位置はゲルの右に示されている。
【0085】
実施例IV: より大きな、機能的に保存されたアルブミン(PEG−AlbCys−34)の投与は肺血性ショックの転帰を改善する
別の態様では、本発明は、アルブミンより16倍大きな(42a)、本明細書において本発明者らが開発したポリエチレングリコール修飾アルブミン(PEG−Alb)に関する。代表的なPEG−Albを図11に示す。PEG化は親水性の増大の他、血漿中のタンパク質の半減期を延長し(43a)、タンパク質の免疫原性を低下させる(44a〜46a)。タンパク質にPEGを結合させると、免疫系(細胞性または体液性)のタンパク質を非自己として認識する能力が低下する。PEG化により誘導されるこのステルス効果は、ポリマーの結合による排除体積効果およびPEGとアルブミンの間の適合性に二次的なものであり、これによりPEG−Albは天然アルブミンに似たものとなる(47a)。
【0086】
合成コロイドとは異なり、PEG−Albは、オスモライトとしての、また抗酸化剤としての(38a)、そしてヘムやビリルビンなどの溶解度の低い代謝産物の輸送体としての役割をはじめ、アルブミンの重要な生理学的機能を保持している(なお、後の2つの特徴は他のクリスタロイドおよびコロイドには付随しないものである)。様々なPEG修飾タンパク質を含む研究では、有意な毒性がないことが証明されている(48a)。開発されている第一世代(PEG−Alb)は、重度敗血症の盲腸結紮穿刺(CLP)モデルおよびリポ多糖類(LPS)モデルにおいて、アルブミンまたは生理食塩水よりも有効であった。PEG−Albで処理した動物は、コロイドのより良い血管内保持、良好な血行力学、および肺傷害の軽減を示した。PEG−Albの流体力学的半径の増大は、その管外遊出を減らし、血圧および器官潅流を維持しつつ末端器官の傷害を軽減した。さらに、コロイド浸透圧(COP)および高粘度などのPEG−Albの生物物理学的特徴は、それ以下では末梢組織の潅流が不十分となるヘモグロビン(Hb)レベルとして定義される「輸血トリガー」点を低下させる(49a)。
【0087】
出血性ショックにおいては、毛細血管漏出(虚血/再潅流)の際のアルブミンの管外遊出が重要である。特に、血管内空間からのアルブミンの損失は2つの主要な系で有害である。1つは、アルブミンのコロイド浸透圧の力が失われ、組織浮腫が多臓器不全の発症に寄与するようになる。もう1つは、アルブミンにより提供される抗酸化作用が著しく低下し、酸化剤ストレスが血管傷害を起こし続けるようになり、さらなるアルブミンの毛細血管漏出および管外遊出を永続させる。特定の理論に縛られるわけではないが、本明細書において本発明者らは、より大きな(より大きな流体力学的半径)、機能的に保存された(その抗酸化剤機能に関してチオールとして保存されているCys−34)アルブミン(PEG−AlbCys−34)は実験的出血性ショックの転帰を改善すると考えている。
【0088】
一つの態様では、本発明は、出血性ショックの処置用の蘇生輸液としてのPEG−AlbCys−34に関する。有効流体力学的半径の大きいPEG−AlbCys−34は、虚血−再潅流傷害(I/R)およびショック状態を伴う毛細血管漏出において非修飾アルブミンで見られるように、血管内空間から漏出しない。血管内にPEG−AlbCys−34が保持されるとPEG−AlbCys−34は非修飾アルブミンおよび他の蘇生薬よりも、アルブミンのリガンド結合機能、抗酸化剤機能、抗炎症性機能および抗アポトーシス機能を保持しつつ、より有効となる。
【0089】
別の態様では、本発明は軍用に特に有用である。第一に、PEG−Albは、LPSおよびCLPショックモデルにおいて蘇生後のより良好な血圧回復によって証明されるように、血管容積を維持する。このデータはまた、PEG−Albが出血性ショックにおいても効果的である。第二に、その生物物理学的特徴(高COP、高粘度)のため、PEG−Albは輸血トリガーを7g/dl未満のレベルにまで引き下げることができる。これは、末梢組織への酸素の送達が、輸血前に長時間、低ヘモグロビンレベルで維持されることを意味する。第三に、PEG−Albは凍結乾燥および再水和可能であり、これにより悪条件下でも保存および再構成が可能である。
【0090】
生理学的研究
PEG−Albは3種類の異なるモデルで調べ、2つは敗血性ショックを模倣したものであり(CLPおよびLPS)、1つは出血性ショック(HS)を模倣するものである。これらの研究は、PEG−AlbCys−34がPEG−Alb、デンプンおよびHTSよりも有効な蘇生薬であることを示す。
【0091】
動物モデル
CLPモデル−メトキシポリエチレングリコールを用いて複数部位で修飾したアルブミンを評価した。この材料はMAPの維持においてアルブミンまたは生理食塩水よりも有効である。PEG−Albはまた、血清コロイド浸透圧の維持にもより有効であった。mPEG5000とアルブミンの混合物は、血圧の維持おいてアルブミン単独または生理食塩水よりも有効とは言えず、このことは、PEG−Albの有効性には、PEGがタンパク質と共有結合されていることが必要である。図15に示されるように、遊離のPEGが容易に排泄されることを示す研究(50a)と一致して、遊離PEG5000の血液レベルは静脈投与後、尿に受け渡されるにつれ急速に低下する。16AおよびBで蛍光顕微鏡観察により示されるように、それぞれフルオレセインおよびテキサスレッドで標識したPEG−Albおよび非修飾アルブミンをCLPラットに投与した場合、フルオレセイン標識は肺血管系に保持されたが、テキサスレッドは肺の管外空間で検出された。対照動物では、フルオレセイン標識PEG−Albおよびテキサスレッド標識アルブミンは双方とも、血管内空間にのみ見られた。これらの結果は、そのサイズが大きいことにより毛細血管漏出の際に血管にPEG−Albが保持されることと一致する。
【0092】
内毒素モデル−ラットLPSショックモデルにおけるPEG−Albも調べた。CLPモデルにおける結果と一致して、PEG−Albは非修飾アルブミンまたは生理食塩水に比べ、MAPの維持に有効であった。さらに、LPS処理前のPEG−Albの投与は生理食塩水またはアルブミン処理に比べ、肺傷害を有意に軽減した。硝子質化および間質のリンパ性浸潤を含む、重度の急性肺傷害(ALI)に一致する炎症性の組織病理学的変化が、生理食塩水またはアルブミンで処理したほとんどのラットで検出されたが、PEG−Albで前処理されたラットではこれらの変化あまり明らかでない。肺傷害のスコアを示すため、代表的なH&E切片を図17に示す。急性肺傷害スコアは、生理食塩水(1.8±0.4)およびアルブミン(2±0.63)処理動物に比べ、PEG−Alb(1.1±1、p<0.01)では有意に低かった。腎臓には有意な組織病理学的変化は検出されなかった。この結果は、血圧維持におけるその作用の他、内皮の健全性を維持することを示すが、PEG−Albの処理がLPSショック誘発後に開始された場合には、この作用は見られなかった。保護の不在下で、LPS後モデルにおける肺傷害作用は、チオール基(Cys−34)をPEG化で保護する重要性を強調した。
【0093】
出血性ショックモデル(HS)−ラット容積管理HSモデルにおける、PEG−Albと非修飾アルブミンおよび生理食塩水の有効性を比較した。血液(2.6ml/100g b.w.)を10分かけて抜き取って出血をシミュレートし、90分後に生理食塩水、アルブミンまたはPEG−Albで蘇生を開始した。図18に示されるように、PEG−Albはアルブミンまたは生理食塩水よりも血圧の維持に有効であった。各群は出血後15〜25分でMAPに同様の低下を示し、90分後で同様の回復を示した。PEG−Alb処理動物は、生理食塩水またはアルブミン処理動物に比べ、処理の開始から40分、50分および60分でMAPに有意な増加を示した。PEG−Albでは、MAPはゆっくり低下し、処理後により高いMAP応答プラトーに達した(p<0.01)。Htcは出血後低下し(表I)、蘇生後にさらに低下し、これはPEG−Alb蘇生で最も大きく、アルブミンよりもPEG−Albの血管内保持が大きいことと一致していた(P<0.02)。生理食塩水およびアルブミン処理群のCOPはPEG−Alb群よりも有意に低かった(図18a表I)。これらの結果は敗血性ショックモデルと一致し、PEG−Albの有効性はショックのモデルに依存しないことを示す。
【0094】
実施例1V−1 PEG−AlbCys−34と他の蘇生薬との生理学的比較:
出血性ショックの試験モデル
cys 34がチオールとして保持されているアルブミン(PEG−AlbCys−34)を含むPEG−Albを、十分特徴付けられているラットHSモデルで他の蘇生薬と比較した(51a〜53a)。肺傷害、組織潅流(過剰塩基、乳酸)、動脈血液ガス(ABG)、平均動脈圧(MAP)、心拍数(HR)および腎機能指数(クレアチニン)に関するものを含む、ショックの種々の側面の重篤度を反映するいくつかの生理学的パラメーターを調べた。この情報を用い、PEG−Albと、非修飾アルブミン、デンプンおよび高張生理食塩水などの確立された薬剤を比較した。また、PEG−Albの性能を最適化するため、PEG−Albを種々の程度のPEG修飾、種々のPEGサイズ、および種々のタンパク質−PEG結合と比較した。この試験モデルは、実際の生活に見られる状況を模倣する。フェーズ1(入院前)は初期外傷および野外で蘇生を施すことができる場所に個体を運ぶのに必要な時間に相当する。これは実際には、救急車で到着するEMTにより施される蘇生または戦地の医者により提供された蘇生に相当する。フェーズII(入院)は、個体が病院に搬送された後に提供される処置に相当し、ここでは輸血を行うことができる。フェーズIII(観察フェーズ)は、処置後の病院またはリハビリセンターでの時間に相当する。次のプロトコールを用いる。
【0095】
フェーズI(入院前)−容積管理出血によりHSを開始する(20分にわたり2.6ml/100g b.w.(H20))。放出された血液は再注入のために保持する。20分の時点で、80分まで、輸液蘇生を行うか血液を抜き取るかしてMAPを40〜45mm/Hgの間に管理する。80分の時点で、各処理群にラットを無作為化する。野外で施される蘇生をシミュレートするため、30分間にわたり110分まで注入処置を行う。
【0096】
フェーズII(病院フェーズ)−110分の時点で、輸血をシミュレートするために、放出された血液を10分間にわたり注入する。これまでの研究では、このモデルを用い、フェーズIIの初期に重度の低血糖と代謝性アシドーシスで死に至るラットがあり、H270分まで、MAPを>70〜80mm/Hgに、グルコースを>150mg/dlに回復させるため重炭酸塩溶液とグルコースを注入する(53a)。
【0097】
フェーズIII(観察フェーズ)−カテーテルを取り去り、麻酔を中断し、ラットをケージに戻して食物と水を与え、72時間まで観察する。生存個体を24時間おきにラット総合能力スコア(54、55) 1=正常、2=中度障害、3=重度障害、4=昏睡、5=脂肪)を用いて評価する。死に至るラットには72時間前に壊死が起こる。生存個体を安楽死させる。フェーズIおよびIIでは、ラットをペントバルビタール(50mg/Kg i.p)で麻酔し、興奮に対して必要に応じて追加量(12.5mg/Kg)を与える。切開部はブポバカイン(マーカイン0.025%)で処理する。プロトコールを図19に模式的に示す。動脈血(0.3cc)を抜き取り、PO、PCO、pH、O飽和、乳酸塩、グルコース、ヘマトクリット、過剰塩基および電解質をモニタリングする(Stat Profile Ultra Gas and Electrolyte Analyzer, NOVA Biomedical, Waltham, MA)。0分、20分、45分、90分、150分および270分の時点で採血し、RLで置換する。基準時および安楽死の血液のクレアチニン、PT、PTT(合成コロイドによっては凝固障害が伴う)、アルブミンレベル、粘度(円錐・平板型粘度計)およびコロイド浸透圧(モデル4420コロイド浸透圧計Wescor Inc., Logan, UT)を分析した。著しい低血圧から起こる心停止を避けるため、採血は最小限とする。
【0098】
結果: データは、第一世代PEG−Alb(PEG−Alb)が生理食塩水またはアルブミンよりも有効であることを示す。
【0099】
比較を他の標準的な蘇生薬に拡げる。チオールが保護されたPEG−Alb(PEG−AlbCys−34)を調べる。25%アルブミンは出血性ショックに有効であるが、5%アルブミンは有効でないことが分かっており(40a、56a)、蘇生薬の容量自体が重要である(同じ量であるがより高濃度の形態で与えられる)ことに着目することが重要である。濃縮形態が優れている理由は抗酸化作用を発揮するには閾値濃度のアルブミンが必要であるということで説明できる。あるいは、25%アルブミンの使用に伴う高浸透圧が抗炎症作用に寄与する可能性もある(40a)。5%および25%のアルブミンおよびPEG−Albをアルブミン含量に基づいて比較する。ヘタスターチ6%(Hexstend(登録商標))も蘇生に使用し、PEG−Albと比較する。高張生理食塩水(7.5%)はPEG−Albと比較する第三の蘇生薬である。
【0100】
毛細血管漏出研究
特定の理論に縛られるものではないが、本発明者らは、PEG−Albは毛細血管漏出の際に血管内に保持され、従って血液のコロイド浸透圧を維持すると考えている。本発明者らは、アルブミンよりも16倍大きいPEG−AlbはCLPおよびLPSモデルに伴う毛細血管漏出状態にあって、管外遊出が少ないことを示した(42a)。本発明者らは、出血性ショックモデルの場合にもそうであると決定付けた。本発明者らが開発した方法を用い、標識アルブミンおよびPEG−Alb(テキサスレッド、TR)およびPEG−Alb(フルオレセイン、F)をラットに注入し、注入後の異なる時点で分析のために尾の静脈から少量の血液を採取する。標識アルブミンの調製については、本明細書の、PEG−Albの生物物理学的同定を取り扱う節に記載されている。アルブミンが管外空間に失われ、PEG−Albが保持されるとすれば、アルブミンの喪失とPEG−Albの優先的保持に一致して、フルオレセインとテキサスレッドの比(F/TR)が大きくなる。テキサスレッドとフルオレセインの励起スペクトルおよび発光スペクトルは有意に異なり、この2種類の色素の混合物は血清サンプル中で定量的に調べることができる。また、アルブミンとPEG−Albの分布も、蛍光顕微鏡により肺の凍結組織切片で定量的に調べ、敗血性ショックのモデルで見られるように、PEG−Albが血管内に保持されるかどうかを判定することができる(図16AおよびB)。
【0101】
この蛍光団がタンパク質の分布を変えないことを確認するためには、標識(フルオレセインアルブミンおよびテキサスレッドPEG−Alb)を切り替える。気管支肺胞洗浄液(BAL)の蛍光アルブミンおよびPEG−Albを調べ、もしTRアルブミンが優先的に漏出していれば、BALのF/TR比が低下すると予測される。この方法を用い、一方が他方よりも有効に保持されるかどうかを判定するため、本発明者らが作製したPEG修飾アルブミンを比較する。
【0102】
他の態様では、肺の透過性を調べ、血管を透過しないエバンブルー色素(EBD)を用いる別のアプローチが有用である(57a)。ラットに内頚静脈カテーテルを通じて1%EBD溶液を20分間注入した後、安楽死させる。色素を完全に循環させた後(5分)、血液を抜き取り、血漿のEBD濃度を測定する。ラットを安楽死させ、肺、肝臓を摘出する。摘出した肺に対し、5ミリリットルの生理食塩水を3回注入してBALを行う。左の肺葉を、湿重/乾重測定用にとっておくため、生理食塩水が流れ込まないように結紮する。生理食塩水を注入しなかった肺を採取して重量測定し、乾燥のために真空炉に入れ、その後、管外液体漏出に代わるものとして湿重/乾重を測定する。合わせたBAL液を遠心分離して細胞を除去し、上清をEBDに関して分析した。BAL液のEBD濃度は、血漿中に存在するもののパーセンテージとして表す。すなわち、BAL/血漿EBDを、肺組織の湿重/乾重とともに処理群の間で比較する。
【0103】
血行力学
敗血性ショックモデルで生理食塩水およびアルブミンと比べたPEG−Albの特徴は、その血圧を維持し、血液濃縮を防ぐ能力である。出血性ショックモデルにおける重要な問題は、標準的な蘇生薬に比べてPEG−AlbCys−34がいかによく働くかということである。ラットをナトリウムペントバルビタールで麻酔した後、必要に応じて鎮静を維持する。右頚動脈に動脈カテーテル(Intramedic PE-50, Clay Adams)を挿入し、血圧変換器に接続し、増幅させ、継続的にモニタリングする(サンプリング速度100Hz;MP100, BioPac Systems Inc, Santa Barbara, CA)し、コンピューターに採集する。液体注入のため、左頚静脈に静脈ライン(G24 Protective*Plus, Johnson and Johnson/Ethicon, Arlington, Texas)を挿入する。種々の液体蘇生薬を投与した動物のMAPおよびHRをモニタリングする。入院前フェーズでは、総てのラットに同レベルの虚血を最低60分与え、その後、各処理群に無作為化する。クリスタロイド群にはコロイド群の容量の3倍、HTS群の容量の8倍を与える。CLは出血性ショック後20分といった早いうちに起こり得るということに基づけば、PEG−Albは、初期段階(入院前)で始めるとMAPに優れた能力を示す(58a)。入院フェーズでは、PEG−AlbCys−34群の能力は、次の理由から、他の処理群より優れている。1)処理後(再潅流)、毛細血管漏出はいっそう重篤になり、ここでPEG−Albは血管空間により良く保持される;2)クリスタロイドおよび合成コロイドとは対照的に、PEG−AlbCys−34は酸化産物を減らすことで、内因的血圧に対する血管の感受性を高める(10a)。
【0104】
潅流研究:
出血性ショック中の生体器官の潅流不足が臓器不全の主因である。PEG−Albと他の蘇生薬を比較するため、薬剤血流低下の指標となるいくつかの生理学的パラメーターを調べる。
【0105】
a.乳酸−乳酸レベルは出血性ショックにおいて続発する臓器不全と相関がある(59a)。エピネフリンレベルの上昇(ショックに続発する)により、Na−K ATPアーゼの活性を刺激することでATPが低下し(60a)、その結果、ミトコンドリアの機能不全と嫌気性解糖のために乳酸塩の生産が高まる。PEG−Alb処理群における潅流の向上は、次の要因に続発するものであると予測される。1)全身の血圧の維持が良好であること、および2)PEG−Albの生物物理学的特徴により高まった微細循環レベルで潅流が良好なこと(COPおよび粘度の上昇)。これは、一酸化窒素の増加を刺激する能才血管レベルでの剪断応力を高め、その結果、血管拡張と潅流の向上がもたらされる(49a)。
【0106】
b.過剰塩基(BE)Fencl−Stewart(61a,62a)法 不足塩基量は、生理学的正常値のPaO、PaCOおよび温度で、全血1リットルを通常のpHまで滴定するのに必要な塩基量と定義される(63a)。BEは、標準重炭酸塩において平均値22.9からの偏差に因数1.2を掛けることにより得られる(64a)。BEの算出では、通常の水分含量、電解質およびアルブミンを仮定する。血漿アルブミン濃度の有意な変化が予測されるので、これは適切である。アルブミンが1g/dlだけ低下すると、BEは3.7mEq/Lだけ低下する(61a)。小児科ICU患者のコホートにおいてナトリウム、塩化物およびアルブミンに関して補正したBEは、BE算出値、陰イオンギャップおよび乳酸塩よりも死亡率と良好な相関を示した(62a)。−5mEq/L以上の値はいずれも有意である。測定されていない陰イオンに関する過剰塩基補正値(Beua)は、次のように定義される:
Beua=BE−(Befw+Becl+Bealb)。
【0107】
この式の用語は以下のとおり:
BEua−測定されていない陰イオンに関して補正したBE;
BEfw−自由水作用により生じる過剰塩基=0.3Na−140;
BEcl−塩化物の変化により生じる過剰塩基=102−Clcor(ここで、Clcor=CL140/N);
BEalb−アルブミンの変化により生じる過剰塩基=3.4(4.5−アルブミン)。
【0108】
c.粘度−出血性ショックの処置の際、大容量のクリスタロイドおよびコロイドを用いる蘇生を行うと、ヘマトクリットおよび血液粘度が低下する。組織学的に、血液喪失の補正におけるコロイドおよびクリスタロイドの使用は、輸血トリガーと呼ばれるレベル(50%のHb喪失またはHb7g/dl)までは安全であるとみなした(65a)。ヘマトクリットが基準値の50%を下回るまでに低下する場合は、毛細血管レベルで剪断応力が低下し、その結果、血管収縮が起こり、組織への酸素送達が低下する。Tsaiのグループおよび他者による研究(49a、65a、66a)では、粘度上昇は輸血または組織へ酸素を送るための他の薬剤の前に、組織への酸素送達を維持する助けとなることが示されている。PEG−Albは、他の重合タンパク質がそうであるように(67a)、粘度を増すはずである。CLPラットにPEG−Albを3g/dlで与えた場合、血清粘度(円錐・平板型粘度計で測定)は3cPであり、その血液希釈度で酸素送達を維持するのに必要であるとみなれるレベルであった(66a)。図20に示されるように、粘度はPEG−Alb濃度に直線的に依存するが、コロイド浸透圧は非線形濃度依存性である。
【0109】
実施例IV−2−酸化ストレスおよび全身性炎症性応答の抑制におけるPEG−AlbCys−34の有効性に関する分析
in vivo研究は、「酸化ストレスが強く、天然アルブミンが漏出する虚血/再潅流傷害の際にPEG−AlbCys−34を血管空間に維持する」と、血管空間の抗酸化能が高まり、アポトーシスが低下し、炎症が制御される。
【0110】
炎症研究
NF−κBは出血性ショックの後に活性化され、TNF−αなどのサイトカインの過剰発現および産生に至る(68a)。虚血中(69a)または蘇生中(70a)のNF−κBの活性化は、炎症性応答の誘発および悪化した炎症性応答の持続において重要な段階である考えられる。重要なこととしては、アルブミンが投与される容量は炎症に重要な役割を果たしているのが明らかである。25%アルブミンは、肺の好中球隔離を低下させ、ショック/蘇生後の肺傷害を防いだが、5%またはR/Lではそうではなかった(40a)。これは、2種類の濃度を用いてアルブミン調製物を試験するための基礎である。
【0111】
a.組織学−急性肺傷害(ALI)および広汎性肺胞傷害(DAD)は出血性ショック後によくある合併症であり、重度の炎症性応答を伴う場合が多い(71a)。ホルマリン固定した肺組織に標準的なヘマトキシリンおよびエオシン染色処理を行う。コード化した標本を盲検病理学者が光学顕微鏡で調べ、次の5点系を用いて急性炎症性肺傷害にスコアを付ける:0=有意な組織病理学的変化無し;1=最少の間質の炎症性浸潤;2=軽度の硝子質化を伴った軽度の間質の炎症性浸潤;3=中度の硝子質化を伴った中度の間質の炎症性浸潤;4=重度の硝子質化を伴った重度の間質の炎症性浸潤。一貫性を確保するために、サンプルは2回調べ、スコアを平均する。
【0112】
b.肺のミエロペルオキシダーゼ−好中球と種々の細胞、特に内皮細胞との間の相互作用は蘇生後の臓器傷害に決定的な役割を果たしている。好中球隔離の指標として、炎症の重篤度に関連している、肺抽出物中のミエロペルオキシダーゼ活性を測定する(72a)。
【0113】
c.サイトカイン−再潅流後、局部的な炎症反応には、好中球動員の他、TNF−αなどのサイトカインが関与している(73a,74a)。同じHSラットモデルにおいて、肝臓のTNF−αおよびTNF−α mRNAの血漿レベルは出血が終わった後20分で有意に増加していた(4a)。高濃度のアルブミンはTNF−αおよびIL−6などの炎症性サイトカインの生産を低下させたことが示されている(39a,75a)。フェーズIIおよびIII中の肺組織および肝臓組織でTNF−αおよびIL−6を測定する。基準時とフェーズI、IIおよびIIIが終わった後に血清において、製造業者のプロトコールに従い(Pharmingen, San Diego, A)、標準的なサイトカインアッセイを行う。
【0114】
d.NF−κB活性化−虚血期または蘇生後に起こるNF−κBの活性化は、出血性ショックおよび蘇生における機能不全的炎症応答と結びついている。電気泳動移動度シフトアッセイにより測定された肝臓NF−κB結合活性は出血が終わった後10分の核抽出物において増加していた。ウエスタンブロット研究では、細胞質抽出物中の阻害タンパク質IκBαのレベルが出血が終わった後5分で低下することを示している(4a)。炎症性サイトカインはNF−κB結合部位を含み(76a)、それらの部位へのNF−κBの結合が増えると、サイトカイン発現が増強され、炎症および組織傷害が増える。これは、NF−κBのダウンレギュレーションが炎症を軽減すると予測されることを意味する。細胞培養系では、アルブミンが、TNFαに誘導されるNF−κBの移動を防ぐのに十分に細胞内グルタチオンを増加させたことが示されている(77a)。フェーズIIおよびIIIの後、肺および肝臓でNF−κBを測定する。NF−κBの低下は正の蘇生作用の指標として用いられる。電気泳動移動度シフトアッセイを用いてNF−κBを測定し、ウエスタンブロット解析を用いてIκBαを測定する(4)。
【0115】
実施例IV−3−アポトーシスおよび酸化
虚血−再潅流の結果、内皮の健全性が損なわれる(78a,79a)。肺動脈内皮細胞(EC)虚血症のヒト血漿に曝したところ、10分後にそれらは丸くなり、ギャップを形成し、その後、突起ができる(80a,81a)。毛細血管漏出症候群患者由来の血清に曝した後にミトコンドリアEC培養物でも同じ形態変化が見られる(12a)。ECのアポトーシスを形態学的基準、血漿ホスファチジルセリン曝露(アネキシン染色)およびDNAのフラグメンテーションにより明らかにした。内皮細胞におけるBax/Bcl2に増加を免疫組織化学により検出した。これらの作用の機構を細胞内反応性酸素種(ROS)を測定することで探索し、その結果から、酸化性の傷害がECのアポトーシス機構に役割を果たしていることが示唆された(12a)。酸化ストレスはアポトーシスの周知のインデューサーである(11a)。さらに、外傷および出血後にアポトーシスの増強が起こる(15a,78a,79a,82a)。カスパーゼ阻害剤によるアポトーシスの阻害は、I/Rにより誘発される炎症を弱めた(36a,83a,84a)。虚血−再潅流に曝された組織では、抗酸化剤がこの傷害からの損傷を最小限にした。アルブミンは血漿における主要な細胞外抗酸化剤である。アルブミンは酵素γグルタミルシステインジペプチドを通じてこの機能を発揮し、そこでアルブミンはグルタチオンの合成に重要な役割を果たす(38a)。グルタチオンは哺乳動物細胞に存在する主要な低分子量可溶性チオールであり(85a)、その枯渇はアポトーシスの誘導に役割を果たす(86,87)。アルブミンがいかにしてその抗酸化活性を発揮するかを見る別の研究では(40)、1つの遊離チオール(cys34)を修飾すると、抗酸化活性に45%の低下を伴った(88a)。アルブミンは、そのグルタチオン(GSH)増加能により酸化から保護される。逆に、GSHが低下すると、a)カスパーゼ3およびポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)のフラグメンテーションが活性化し(89a)、b)Bcl−2/Bax比が低下する。後者の比は細胞生存、特に酸化傷害に対する防御の強力な指標である(90a,91a)。結果として、アルブミンは、その抗酸化剤としての機能を通じて、アポトーシスからの保護作用に有意に寄与する。内皮に比べ、アルブミンは微小血管透過性を低下させ(33a,92a,93a)、内皮細胞のアポトーシスを防ぐのに不可欠な役割を果たした(36a,84a)。
【0116】
実施例IV−4 肺組織および肝臓組織におけるI/R後の細胞傷害に対するPEG−AlbcCys−34の作用
a.TUNELアッセイ−この方法では、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼを用い、DNA鎖の破断をフルオレセインコンジュゲートヌクレオチドで標識する(94a)。アポトーシス検出キット(Boehringer, Indianapolis, IN)を用いる。組織サンプルは盲検病理学者が調べる。B.アポトーシスマーカーのウエスタンブロット解析−組織サンプルを急速冷凍し、ウエスタンブロット解析のための抽出まで−80℃で保存する。アポトーシスは、その存在または修飾がアポトーシスに伴ういくつかのタンパク質を調べることにより検出される。ウエスタンブロット解析を用い、アポトーシス誘導タンパク質のRhe発現および抗アポトーシスタンパク質bcl−2を調べる。ポリADP−リボースポリメラーゼ(PARP)の切断産物に関する組織抽出物を分析する。PARPはカスパーゼ3および7の基質であり、認知されているアポトーシスマーカーである。全長PARP(115Kda)は、85〜90Kdaと23〜24Kdaの断片に切断され、その結果、その酵素活性が不活性化される(11,95)。
【0117】
b.baxおよびカスパーゼ−3に対する免疫組織化学染色−組織をパラフィンに包埋し、免疫染色用に厚さ5ミクロンの切片に切断する。HS動物および対照動物から切片を作製する。活性型カスパーゼ−3に特異的なポリクローナルウサギ抗体を用いる。薄層組織切片中のカスパーゼ3の分布を、蛍光二次抗体を用いた免疫染色により判定する。内皮に同時局在させるため、CD34染色および因子VIII染色を用いる。陰性対照切片にも、一次抗体を除き、同じ処理を行う。対照動物および処理動物からの免疫染色スライドをコード化し、盲検のリーダーが40倍で読み取る。各スライドについて独立した2回の読み取り値を得、陽性細胞/mm組織のパーセンテージとして表す。
【0118】
c.グルタチオンの測定−HSに伴う酸化ストレスは、還元型/酸化型グルタチオンGSH/GSSG比に反映される。よって、肺における還元型および酸化型グルタチオンを、Hissin and Hilfが記載さいている手順(96)に従って測定する。冷凍組織をTCAで抽出し、中和し、抽出物中のGSHおよびGSSG含量をo−フタルジアルデヒド(OPT)との反応により測定し、生じた蛍光を、標品として確実なGSHおよびGSSGを用いてモニタリングする。PEG−Albを含む他の群に比べ、PEG−AlbCys−34で処理した後のGSH/GSSGは上昇する。これはPARPの低さおよびbax/bcl−2の低下により明らかなように、低いアポトーシス活性と相関している。
【0119】
d.マロンジアルデヒドの測定−組織抽出物中のマロンジアルデヒド(MDA)もHSに伴う酸化ストレスのマーカーとして用いられる。屠殺後に摘出した肺および肝臓のマロンジアルデヒド(MDA)(97a)および総抗酸化能(TAOC)(98a,99a)を測定する。MDAはHPLC法を用いてアッセイする(94a)。脂質の過酸化の初期マーカーであるMDAはTAOCとともに上昇するが、GSH/GSSG比は低下すると予測される。
【0120】
実施例IV−5 PEG−Albの作製および生物物理学的特徴付け
PEG−アルブミンのin vivo有効性の実施例と並行して、ショック治療におけるそのin vivo有効性と相関する特性を特定するため、修飾アルブミンに対する物理的研究を行う。
【0121】
合成方法、産物サイズの分布、タンパク質の二次構造およびコンフォメーションに対する修飾の効果、アルブミンのコロイド浸透圧特性に対するPEG修飾の効果、および生理学的に関連のあるリガンドの結合に対する効果を評価する。実施例IV−5aではPEG−Albの作製および特性に関する予備研究を、実施例IV−5bでは提案される研究を記載する。
【0122】
実施例IV−5a PEG−Albに関する生物物理学的予備研究
1.PEG−Albの作製およびサイズ分析
修飾の様式および程度ならびにアルブミンに結合しているmPEG(メトキシポリエチレングリコール)のサイズはその生物物理学的特性およびin vivo特性を変化させ得るので、本発明者らはPEGとアルブミンを連結する種々の方法を検討し、サイズ、安定性および浸透圧特性に関して改変されたタンパク質を同定した。本発明者らはN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(mPEG5000)、塩化シアヌル(mPEG5000)、およびチオール選択性マレイミド誘導体(mPEG20000およびmPEG40000)を検討した。
【0123】
塩化シアヌル(mPEG5000)誘導体を動物で試験した。これらの修飾様式は単純、迅速であり、ほとんどのアルブミンが修飾される。過剰量の試薬と非修飾アルブミンをゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーにより除去する。NHSエステルおよび塩化シアヌル(双方ともリシルε−アミノ基に選択的)およびマレイミド(システイニルチオールに選択的)は市販されており、穏和な条件下で容易に反応する。図21は塩化シアヌルmPEG5000で修飾されたアルブミンの分析結果を示す。複数の残基を修飾する試薬に対して予測されるように、CNCI−mPEG5000修飾アルブミンは、SDSゲル電気泳動(Mr,app>250,000)またはSuperose 6でのゲル濾過(Mr,app>450,000)で調べた際に不均質である。SDSゲルで見られた種の分子量はPEGの拡大特性により、標品として用いたタンパク質と同じ質量のSDSと結びついていない可能性があるという事実のために明らかでない。アルブミンは、修飾の際の試薬/タンパク質比を高めることで、この試薬でより広範囲に修飾することができる。生成物の不均質性はゲル濾過によるサイズ選択で軽減することができる。図22は、分取Sephacryl S300カラムで分画した材料(I、IIおよびIIIと表示)のSuperose 6による分析的ゲル濾過の結果を、非修飾アルブミンおよび非分画材料(Uと表示)とともに示す。
【0124】
ヒトアルブミンの単一のチオール(100−102)はめずらしく低いpKa(およそ5.5)を有するので、タンパク質のジスルフィド構造を混乱させずにチオール選択性試薬で修飾することができる。本発明の一つの態様に従い、本発明者らは、種々のサイズのmPEGと結合させた(20,000Mr誘導体および分枝型40,000Mr誘導体)。アルブミンをジチオトレイトールとともにインキュベートし、cys34を介してアルブミンと結合している低分子量産物をSephadex G50クロマトグラフィーにより取り出した後、マレイミドmPEG40000で修飾した。図23は、Q−SepharoseでのmPEG40000修飾アルブミンの精製の結果を示す。CNCI−mPEG5000修飾アルブミンとは異なり、この材料は均質であり、単一のシステイニル残基の修飾に一致する。本発明者らは同じアプローチを用いてmPEG20000アルブミンを作製し、それもまた均質なタンパク質として挙動する。SDSゲル電気泳動での挙動に一致して、mPEG20000アルブミンおよびmPEG40000アルブミンは、図24に示されるように、Superose 6でのゲル濾過により調べた場合、単一の対称ピークとして溶出する。これらの修飾タンパク質は、単一修飾種として推定される分子量(mPEG20000アルブミンでは87,000、mPEG40000アルブミンでは107,000)を考えれば、予測されるものよりも著しく大きいサイズで溶出する。この挙動はこれらのPEGの拡大構造と一致する。PEG40000アルブミンのSELDI質量分析では、108,000Mrを中心とする単一のブロードピークが得られたが、これはそれが単一の修飾であることを示している。これらの修飾アルブミンのゲル濾過での挙動は、それらがPEGの拡大構造による拡大構造を持っていることを示す。
【0125】
2.PEG−Albの熱力学的安定性およびコンフォメーション
これらのoPEG−Albの分析の争点は、その修飾がアルブミンの天然構造、さらに可能性としては、リガンド結合特性および安定性を変化させるかどうかということである。本発明者らは、尿素により誘導される脱フォールディングを分析することより、PEG−Albの安定性を調べた。これは、タンパク質の熱力学的安定性を研究する標準的な方法であり、脱フォールディングの自由エネルギーが得られ、そのタンパク質が脱フォールディング中間体と考えられるかどうかを明らかにすることができる(103a−105a)。このタンパク質を変性剤の濃度を増しながらインキュベートし、天然状態および脱フォールディング状態に特徴的な分光光度シグナルを調べる。本発明者らは、トリプトファン(trp214)の蛍光発光波長(強度平均発光波長<λ>)におけるシフトをシグナルとして用いたが、これはタンパク質を脱フォールディングする際に顕著な赤色シフトが存在するためである(106a)。非修飾アルブミン(パネルA)、mPEG20000修飾アルブミン(パネルB)およびmPEG40000修飾アルブミン(パネルC)を含むこのような研究の結果の例を図25に示す。他者らの研究では、非修飾ヒトアルブミンは少なくとも1つの中間体種を伴う複雑な脱フォールディング経路を示すことが示されており(106a,107a)、本発明者らの結果が確認される。mPEG20000およびmPEG40000修飾アルブミンの脱フォールディングは、非修飾アルブミンとの類似性が著しく(図15パネルA)、このPEG修飾アルブミンは非修飾アルブミンによりもやや安定性を欠いているだけである。mPEG20000修飾アルブミンは、中程度の尿素濃度で若干の青色シフトを示し、これは部分的に脱フォールディングした中間体種におけるトリプトファンの状態が変化している可能性があることを示唆する。mPEG20000修飾アルブミンとmPEG40000修飾アルブミンは双方とも、この脱フォールディングの中間点は、非修飾アルブミンの場合と同じ濃度に存在する(7M)。本発明者らは、種々のサイズ分画多重修飾mPEG5000アルブミンに対して同様の脱フォールディング研究を行ったところ、それらの結果は単一修飾のアルブミンで得られたものと同様である。全体として、PEG修飾はそれほど安定性を欠いていない。
【0126】
本発明者らはまた、PEG−Albの1つ(PEG40−Alb)と非修飾アルブミンを示差走査熱量測定法(DSC)により比較した。このアプローチにより熱力学的安定性に関する情報が得られ、これを用いてコンフォメーションおよび安定性に対するリガンドの効果を検出することができる。図26は、PEG−Alb40(PEG40)および非修飾アルブミン(Alb)を用いたDSC実験の結果を示す。これらのDSCスキャンは、1つには、熱により誘導される脱フォールディングに対してタンパク質を安定化させる傾向がある脂肪酸の結合のために複雑である。重要な特徴は、PEG40−Albが非修飾アルブミンと同じ特徴を示すことである。PEG40−Albで見られる最初の遷移の遷移温度は、アルブミンに比べてPEG40−Albからのほうがより多くの脂肪酸が除去されることを表している(108a〜111a)。これらの結果は、PEG40修飾タンパク質が非修飾アルブミンの天然構造を保持していることを示す。
【0127】
これらの安定性の研究を拡張するため、本発明者らは、種々の薬剤による単一のトリプトファニル(typtophanyl)残基の蛍光から消光を調べた。トリプトファン蛍光は、タンパク質コンフォメーションの微細な変化が発光強度や発光スペクトルの形に変化を及ぼし得るので、天然構造の指標として使用することができる(112a,113a)。mPEG5000によるアルブミンの修飾は、紫外線の吸光度に寄与し(240nm〜280nmの間)、PEG20000およびPEG40000修飾アルブミンの吸収スペクトルおよび蛍光発光スペクトルは実際には非修飾アルブミンと区別できなかった。mPEG5000、PEG20000およびPEG40000誘導体の蛍光発光スペクトルは非修飾アルブミンと同等であり、単一トリプトファニル残基という状態が有意に変化していなかったことを示す。
【0128】
本発明者らは、その蛍光がヨウ化物またはアクリルアミドによりどれだけ容易に消光し得るかを判定することにより、トリプトファンの溶媒接近性を調べた。図27Aは、修飾程度の異なるPEG−Albを選択するためにサイズ分画したmPEG5000アルブミンに対するアクリルアミド消光研究を示す。なお、画分の表示は図22でゲル濾過により分析したサンプルに相当する。最も修飾の少ない画分(IIIと表示)は非修飾アルブミンと同等であった。画分IとIIはアクリルアミドによる消光により高い感受性を示し、主として、このプロットの曲線の上の方に表される静的消光成分に現れている。この結果は、ある程度の疎水性があるアクリルアミドがPEG−Albの表面と結合することを示唆する。本発明者らはまた、図27Bに示されるように、電荷を有する極性消光剤であるKIによる消光を調べた。アルブミンのトリプトファンは埋め込まれており、特にヨウ化物による消光には感受性がなく、PEGによる修飾のレベルを高めても、画分IおよびIIで見られたようなその消光感受性はやや低下し、このことはPEG修飾が、トリプトファンを溶媒や極性溶質からさらに遮蔽することを示唆している。これに対し、PEG20000−AlbおよびPEG40000−Albはアクリルアミド消光では小さな変化しかしめさず(図27Cに示される)、ヨウ化物消光では変化はなかった(示されていない)。これらの実験は、アルブミンの複数の部位をPEG5000で修飾すると、そのタンパク質は溶媒や極性溶質からさらに遮蔽されるが、PEG20000またはPEG40000による修飾はそうではないことを示す。
【0129】
3.PEG20−AlbおよびPEG40−Albの浸透圧特性
修飾アルブミンの浸透圧特性はin vivo機能に不可欠であることから、本発明者らは、図28に示されるように、mPEG20000、mPEG40000、多重修飾mPEG5000アルブミンおよび非修飾アルブミンの濃度に対するコロイド浸透圧の依存性(114a,115a)を調べた。1モル当たりで、mPEG20000−Alb、mPEG40000−AlbおよびmPEG5000−Albは非修飾アルブミンよりも高濃度でより高い浸透圧を示したが、低濃度では浸透圧はアルブミンの場合と同等であり、アルブミンの血清濃度はおよそ0.6mMである。高濃度のmPEG−Albで見られる理想的でない挙動は、これらの種の大きな排除容量と水和程度を反映している。本発明者らはまたサイズ分画mPEG5000修飾アルブミンも調べ、修飾の顕著な画分は修飾の低い画分よりも大きな浸透圧を示す。これらの研究は、血管内への保持を助け、組織の間質性空間への液体の管外遊出を軽減するコロイド浸透圧勾配を維持する特性である大きな排除容量を有する分子と一致する。
【0130】
4.蛍光標識を有するアルブミン
本発明者らは、cys34を介して結合したフルオレセインまたはテキサスレッドを有する非修飾アルブミンおよびmPEG−Albを作製した。これらの蛍光アルブミン誘導体を用い、毛細血管漏出を伴う動物の循環中にいかに効率的にアルブミンが保持されるか調べる。なお、これらのアルブミンの傾向は、体液中の蛍光測定または組織切片の蛍光顕微鏡観察によりモニタリングすることができる。これら2つの蛍光団は十分離れた励起・発光スペクトルを有するので、2種類の(例えば、テキサスレッドを有する非修飾アルブミンとフルオレセインを有するPEG−アルブミン)アルブミンの混合物を含むサンプルを同じ動物で調べることができる。cys34を介してPEGを結合させる場合、本発明者らは、リシルε−アミノ基を介してアミン反応型のフルオレセインまたはテキサスレッドを結合させる。2種類の異なる蛍光団を有するアルブミンをもってすれば、フルオレセインを有するPEGアルブミンが、テキサスレッドを有する非修飾アルブミンに比べ、いかに効率的に循環中に保持されるかを判定することができる。これらの蛍光アルブミンは、ショックモデルにおいて非修飾アルブミンとPEG−アルブミンの保持をモニタリングするため、またはin vivo半減期をモニタリングするために分析的に限って使用される。本発明者らは、血清希釈液において、他の蛍光物質のバックグラウンドを十分超えるフルオレセイン−アルブミンの蛍光を容易に検出した。必要に応じ、血清サンプル中の他の発色団から生じる内部フィルター効果(112a,113a)に関して強度測定値を補正するが、蛍光アルブミンを用いた本発明者らの研究では、必要とされる血清の大希釈(1:1000〜1:2000)による支障は無視できるものであることを示す。
【0131】
実施例IV−5b 生物物理学的研究
1.PEG−アルブミンの作製
本発明者らは、PEGとアルブミンを結合させるためのいくつかの試薬およびmPEG5000−Albをin vivoで調べた。アルブミンと結合したPEGのサイズ、その位置および共有結合の性質は安定性、生体半減期およびリガンド結合が有意に異なる生成物を生じるので、種々の結合様式およびmPEGの種類(46a,116a〜120a)を検討する。複数のリシル残基を修飾する傾向があるアミン選択性試薬では、有効性のサイズ依存性を調べるためにより規定されたサイズ分布を有する材料を作製するための特定の方法を用いる。サイズ分布の制御は、1つには、本発明者らがマレイミドPEGで行ったように、最初の反応の修飾程度を制限すること、生成物をイオン交換クロマトグラフィーまたはゲル濾過クロマトグラフィーにより精製すること、および特定の残基の選択的修飾により達成される。
【0132】
結合様式−これまで用いられている、試薬とアルブミンを結合させる様式は、所望のin vivo作用を有する生成物を作出してきたが、安定性また関連リガンドの結合に違いがある生成物を作製するのに他の結合様式も有用であるということが本発明の意図する範囲内にある。異なる反応基(主としてアミンおよびチオール反応性)を有する種々の大きさのPEGが入手でき(Shearwater Corp., Huntsville Alabama)、この供給者は生体材料のPEG化に特異的な試薬を開発している。他に、mPEG試薬の品質および生物学的至適化への注意が重要であることを強調する者もいる(119a)。また、本発明は、条件(例えば、pH、イオン強度、温度)を変更する、また、天然構造を維持する付加的工程の使用も意図し、例えば、アルブミンのジスルフィド結合および構造を、タンパク質のチオール−ジスルフィド交換のために高pHで妨げることができる。
【0133】
1.アミン選択性試薬−修飾に利用できる最も豊富な求核試薬種は表面リシル残基であり、これは置換度の高い生成物を得るために容易に修飾される。mPEG−スクシンイミジル−スクシネートは、血清エステラーゼの基質となり得るエステル結合を有する生成物を生成するが、同じリシル残基を修飾するが、より安定な結合を有し、in vivo半減期の長い、mPEG−スクシンイミジル−プロピオネート(図29の1)およびmPEG−スクシンイミジル−ブタノエート(図29の2)などの他の試薬も有用である。PEG−アルデヒド誘導体(例えば、図29の3)は、生じたシッフ塩基のNaCNBHによる還元を介してリシル残基と結合させることができ(116a,119a);このPEG試薬はリシル残基に対して選択性が高く、修飾されたリシル残基は陽電荷を保持し、このことはアルブミンの陰イオン結合特性の保持という点では問題であり、それはリンカーも導入できない。PEGは塩化トレシルの活性化を用いて直接タンパク質に結合させることができ(121a)、アルブミンとともに使用されている(122a)。リンカーを用いない方法(119a)には、未知の毒物学的特性を有する部分を持ち込まないという利点がある。PEGにはそれ自体免疫原性がないが(123a)、それとタンパク質とを結合させる要素には免疫原性があり得る。修飾の程度は、フルオレスカミンを用いて反応性アミンの消失を調べること(3a)、SDSゲル電気泳動により定性すること、分析的ゲル濾過によりサイズ分布を調べること、また、PEG修飾タンパク質に使用可能なPEGの比色定量アッセイを用いて評価される(124a)。
【0134】
2.チオール選択性試薬−チオールを介した修飾は、ヒト血清アルブミンがただ1つのチオール(cys34)を有することから、ヒト血清アルブミンに有用なアプローチである(100a,101a,125a)。ヒト血清アルブミンは、遊離チオールとしてのcys34を有するタンパク質と、グルタチオンで修飾されたチオールを有する、または2つのアルブミンのジスルフィド二量体としての実質的画分との混合物である。穏和な条件下で、Cys34ジスルフィドは還元可能であるので、総てのcys34が接近可能性の小さいジスルフィドを減らすことなく、遊離チオールとして利用可能である。Cys34は、N−エチルマレイミドおよびヨードアセトアミドをはじめとするチオール選択性試薬と反応性がある(100a,101a,125a)。一つの実施態様では、PEGがタンパク質上の単一の部位に結合されるように、アルブミンをmPEG−マレイミド誘導体で修飾する(図16の4)。単一のユニークな部位における修飾は天然構造を混乱させる、またはアルブミンのリガンド結合特性を変化させる可能性が低い。従前の結果の節にしめされているように、本発明者らはこのような2つの形態のmPEG−Albを作製した。チオール修飾の潜在的欠点は、生成物の抗酸化特性が変更されることがあるという点である。
【0135】
種々のサイズおよび幾何学のPEG誘導体
種々のサイズのPEGおよび分枝構造を有するPEGで修飾されたアルブミンを調べる。使用可能なサイズとしては、3,400M、5,000M、20,000Mおよび40,000Mがある。タンパク質との結合に関して種々の化学特性を有する分枝型(図29の3)およびフォーク型(図29の5)のPEGが存在する(46a,117a)。PEGが大きいほど、同じ有効サイズを達成するのに少ない部位の修飾ですむ。サイズ分布が大きければ、組み込まれるPEGは1つだけなので、cys34を介した結合に特に重要である。試薬サイズに関して考慮することは、小さいPEG−ペプチド(例えば、PEG≦1200)(119)の方が腎臓から容易に排泄され、多重修飾アルブミンの分析が適正となるということである。PEG鎖長を長くすると、循環中のその物質の半減期が長くなる(117a,126a)。
【0136】
Cys34の保存−アポトーシスおよび他の生物学的特性の阻害におけるアルブミンの活性はチオール(おそらくcys34)に依存する。チオールとしてcys34を保持するmPEG−Albを作製する。アルブミンをやや過剰量のジチオトレイトールで処理した後、cys34を5,5’−ジチオビス−2−ニトロ安息香酸で修飾する。低分子量産物をゲル濾過により取り出し、そのタンパク質をアミン選択性PEG試薬で修飾する。このタンパク質をジチオトレイトールで処理してチオニトロ安息香酸(412nmでスペクトルをモニタリング)を遊離させることで、遊離チオールを再生する。mPEGアルブミンを精製して非修飾タンパク質、過剰な試薬および反応副産物を除去する。このアプローチを用いて製造されたmPEG−アルブミンは、試薬がリシル残基を修飾するので、複数の部位で修飾される。しかしながら、意図される範囲内には、この方法がより大きなPEG試薬(例えば、PEG20000およびPEG40000)の使用を含み得ることもあり、修飾される残基の数は試薬濃度や反応条件を変更することで最小とすることができる。
【0137】
PEG−アルブミンのサイズ選択および分析−生成物のサイズ分布は、PEG−アルブミンが毛細血管漏出中に血管内に保持されるように十分大きくなければならいということ、および広範囲に修飾されすぎた生成物はリガンド結合特性の低下または毒性などの望ましくない属性を有することがあるということの双方から重要である。サイズ分布の制御は、1つには、反応程度を制限すること、またはcys34の修飾の場合には、単一の残基の修飾に制限することにより達成される。修飾産物はゲル濾過またはイオン交換クロマトグラフィーにより精製し、比較的狭いサイズ分布のPEG−アルブミンを選択する。調製物のサイズ分布は、所定の分枝寸法およびMのタンパク質を標準として用いるゲル濾過により、また、質量分析により測定する。PEGは拡大構造を有し、タンパク質が結合するようにはSDSと結合しない可能性があるので、ゲル電気泳動(127a,128a)またはゲル濾過により、修飾アルブミンの分子量を実際に決定することはできない。より適当なパラメーターは相当半径またはストークス半径である。数平均分子量および有効分子体積はコロイド浸透圧の濃度依存から得ることができる(114a,115a)。これらの測定値の厳密な物理的意味を解釈しなければならないが、それらはin vivo有効性と相関させることができる種々の調製物およびパラメーターを比較する基礎を提供する。これらの分析はショックモデルで血管内へのPEG−アルブミンの保持に必要な修飾程度を定義し、種々の修飾程度のメリットを決定付ける。
【0138】
2.タンパク質構造および安定性に対するアルブミンのPEG修飾の効果
アルブミンの構造および安定性はその生理学的機能に重要である。分光光度技術を用いてコンフォメーションおよび二次構造を調べ、アルブミンのPEG修飾がそのタンパク質の構造および安定性を変化させる程度を判定する。非修飾アルブミンおよびPEG修飾アルブミンについて、近紫外線および遠紫外線における円二色性(CD)スペクトルを得る。近紫外線スペクトル(250〜320nm)の分析により、チロシル残基およびトリプトファニル残基の微小環境を混乱させた程度に関する情報が得られる(129a,130a)。遠紫外線CDスペクトル(180〜250nm)からは、二次構造が混乱された程度に関する情報が得られる(129a,130a)。ヒト血清アルブミンはα−ヘリックスが優勢であり(67%)(100a〜102a)、両スペクトルとも、このタイプの二次構造を反映している。トリプトファニル残基の状態は内在のトリプトファン蛍光のヨウ化物およびアクリルアミド消光により調べ(112a,113a)、このような実験の例を結果の節に示す。トリプトファン蛍光およびその消光剤感受性はタンパク質コンフォメーションの高感度プローブである。本発明者らは非修飾アルブミンとPEG修飾アルブミンをヨウ化物消光により調べたところ、両タンパク質とも、その単一のトリプトファンはこの消光剤に比較的接近しにくく、PEG修飾がその環境を変化させないということと一致していた。さらに、これら2つの天然タンパク質のトリプトファンの発光スペクトルは本質的に同じである。これらの例により、タンパク質のコンフォメーションおよび二次構造に最小限の変化だけでPEG−アルブミンを生じる修飾条件が特定される。
【0139】
アルブミンの安定性に対するPEG修飾の効果は、漸増濃度のカオトロピック溶質(グアニジン塩酸または尿素)の存在下、天然構造に特徴的な分光光度シグナル(内在トリプトファン蛍光およびCD)を調べることにより評価する。このような実験データを分析すると、タンパク質の熱力学的安定性を反映する、変性剤の不在下での脱フォールディングの自由エネルギー(ΔG°H2O)が得られる(103a,105a)。図30は、非修飾血清アルブミン(パネルA)およびmPEG5000修飾アルブミン(パネルB)の脱フォールディング研究の結果を示す。アルブミンの脱フォールディングは、CDシグナルとトリプトファン蛍光シグナルの一致の欠如により示されるように、明らかに複雑な多段階プロセスであり、アルブミンがマルチドメインタンパク質であることと一致している(100a〜102a,131a,132a)。CDによりモニタリングされる脱フォールディングは、非修飾アルブミンおよび多重mPEG5000修飾アルブミンで同等であり(図30パネルB)、修飾が安定性を変化させないことを示している。
【0140】
別の態様では、本発明は、安定性を変化させずに所望の生物活性を有する産物を生じる修飾条件を特定する方法を提供する。PEG−Albの安定性は示差走査熱量測定法(DSC)でも調べられる(133a〜135a)。このアプローチでは、タンパク質溶液をゆっくり加熱し、脱フォールディングを伴う過剰な熱量を測定する。このアプローチはアルブミンの安定性に対する脂肪酸およびトリプトファンの効果を研究するのに有用である(108a〜111a)。リガンドフリータンパク質と連結種の両者を比較するため、脂肪酸、トリプトファンおよび他の疎水性リガンドを炭素処理により除去し(108a)、脂肪酸、ヘム、N−アセチルトリプトファンを含む種々のリガンドを付加する効果を調べる。この分析から、タンパク質の安定性(脱フォールディングのエンタルピーを含む)および脱フォールディングプロセスに含まれる状態の数についての情報が得られ、これを用いてリガンド結合部位の健全性を評価することができる。
【0141】
1.PEG−アルブミンのコロイド浸透圧特性の分析−PEG−アルブミンのコロイド浸透圧の濃度依存性を調べると、この特性がどのようにin vivo有効性に関連するかが分かる。非修飾アルブミン、PEG−Albおよび匹敵する濃度の対応する非コンジュゲートmPEGを調べる。最も単純な場合では、PEG−アルブミンの浸透圧活性は、匹敵する濃度の非修飾アルブミンと遊離PEGの浸透圧活性の和である。しかしながら、溶媒および溶質とタンパク質との相互作用は必ずしも単純ではなく、解は単純計算の和とはなり得ない。本発明は、全体として天然構造を保持する、浸透圧活性の高いPEG−アルブミン調製物を提供する。
【0142】
2.PEG−アルブミンのリガンド結合特性の分析−アルブミンは、ナトリウムイオン、ビリルビン、マグネシウムイオン、脂肪酸および多くの薬剤を含む、いくつかの重要なリガンドと結合する。リガンドは、アルブミンの3つの主要ドメイン上の複数の異なる部位で結合する(131a,132a)。本発明者らは、PEGによるアルブミンの修飾が重要なリガンドの結合を変化させるかどうかを調べた。ビリルビン(137a)、脂肪酸(138a)、ヘム(139a)および種々の薬剤(125a)を含む種々の部位に結合する代表的リガンドを調べる。これらのリガンドの結合は分光光度アッセイにより測定することができるが(131a)、最も情報が多く、熱力学的に正確なアプローチは滴定熱量測定(ITC)である(140a〜142a)。リガンド溶液をタンパク質溶液中へ滴定し、結合の際に放出または吸収された熱を測定する。このアプローチには発色団は必要なく、いずれのリガンドおよびアクセプターにも適用できる。ITC試験により、会合定数、結合エンタルピー、結合エントロピーおよび化学量論が得られる。有意な制限だけが、強固な結合および弱いリガンドおよび溶解度の限定されたリガンドの分析に関連する。修飾がリガンド結合を変化させる程度は、リガンドの結合等温線を調べ、結合定数と結合部位数を求めることにより決定する。本発明はまた、非修飾アルブミンに比べ、修飾アルブミンにおける3つの結合部位の機能的健全性を評価するのに有用なリガンドの例も提供する。
【0143】
実施例IV−5c PEG−アルブミンのin vivo半減期の決定および毒物学的評価
1.PEG−アルブミンの半減期の決定−PEG−アルブミンの半減期はその有効性および潜在的副作用の双方の懸念点である。一般にタンパク質のPEG修飾(116a,119a)およびアルブミンは特異的に半減期を長くし、抗原性を小さくし、それらのタンパク質分解感受性を引き下げる。PEG修飾はインターフェロンαの半減期(6時間から75時間)およびC型肝炎の治療におけるその治療有効性に顕著な作用を有し(143a,144a)、ウシアルブミンでは、ウサギにおける半減期の変化はわずかである(143a)。アルブミンによる後者の結果は、PEG修飾なしであっても比較的長命なタンパク質(ヒトで20日)であるので、予期されないことではない。フルオレセインまたはテキサスレッドで修飾したPEGアルブミンおよび通常のアルブミンはそのまま投与されるが、これらの蛍光団は循環からのクリアランスをモニタリングするためのシグナルを提供する。1つは非修飾アルブミンに対するもので、もう1つはPEG修飾アルブミンに対するものである2つの発色団を用いれば、この2種類のアルブミンを同じ動物でモニタリングすることができ、これにより循環中における優先的保持の程度が評価できる。本発明者らは、これらの双方の色素−アルブミンコンジュゲートを作製した。これらの色素−アルブミンコンジュゲートを本質的にトレーサーとして動物に投与し、分析のため1〜2週間にわたって尾の静脈から少量の血液サンプル(〜100〜200μl)を採取する。もし続いてクリアランスが起これば、ヒトアルブミンに特異的な市販のモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析によりタンパク質を定性的に調べる。なお、このアプローチは蛍光団をタンパク質に付加することがもたらし得るいずれの作用も回避する。PEG−albは非修飾アルブミンに比べ、SDSゲル上で劇的に異なる移動を示し、モノクローナル抗体がヒトアルブミンとラットアルブミンを識別する。ヒトアルブミンに特異的な抗体を用い、クリアランスが酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて定量的にモニタリングされる。なお、抗体の使用には、PEG修飾後もなおアルブミンと結合することの確認が必要である。
【0144】
2.PEG−アルブミンの毒物学的特性の分析−PEG修飾アルブミンが毛細血管漏出症候群の治療に有効であるためには、インターフェロンなどの治療的に用いられている他のPEG修飾タンパク質に比べ、比較的高用量で投与しなければならない。明らかな違いとしては、インターフェロン数マイクログラムに対し、PEG修飾アルブミンは1グラム以上を与えなければならないということである。PEGアルブミンはこれらの用量で顕著な毒性がないことが重要である。比較的大用量の高分子量PEG(4000〜6000M)は、いくつかの動物(ラット、ウサギおよびイヌ)でほとんど毒性を示さない(45a,143a,145a〜147a)が、低分子量PEG(例えば400M)は毒性を示すことを示唆する証拠がいくつかある(45a,148a,149a)。イヌの血液容量の大部分(30〜50%)は、2週間顕著な毒性なくPEG化ヘモグロビンで置換することができる(149a)。大量を投与したいくつかの研究では、食作用(phagacytosis)を示す肝臓および腎臓の細胞への封入が見られた。ほとんどの毒性研究では、相対的に長命なタンパク質と結合したPEGではなく遊離PEGが調べられた。PEG4000を90mg/Kgまでの1日静脈用量で1年間イヌに投与しても毒性作用は惹起されず(150a)、顕著な解剖学的、顕微鏡的または生化学的以上は見られなかった。もし今日提案されていたとしたら、IRB委員会がおそらく認可していないであろう実験において、明らかな病気の作用のない6人のヒト志願者にPEG6000を静脈投与したところ(146a)、94〜99%のPEG6000が12時間以内に尿中に排泄された。ラットでは1000〜10,000Mの範囲のPEGは毒性がある(147a)(LD50 10〜20g/kg)が、ヒトおよびイヌを含む研究で与えられたものよりおよそ50〜100倍高い用量に過ぎず、これらの研究から推定される75Kgのヒトに対する同等用量は0.75〜1.5Kgと考えられる。本発明者らが行った研究では明らかな毒性は見られなかったが、本発明者らの研究は総て4時間以内で明白な短期作用を調べたものであったので、PEG−アルブミンの異化作用およびPEG−ペプチドの遊離から生じる毒性は観察しなかった。
【0145】
毒物学的評価
最も有望なPEG−アルブミンコンジュゲートを、予測される治療用量で始め、かなり高い用量になるまでの範囲の用量で投与することにより毒性を評価する。動物を4週間までモニタリングする。単回用量と多回用量の双方を試験する。動物の屠殺前に採集するデータには、体重、食物摂取量、水摂取量、糞便の産生量および尿の産生量が含まれる。また、挙動変化の徴候に関しても動物を観察する。定期的に少量の血液を抜き取り、肝毒性に特徴的なマーカーに関して血清で酵素アッセイを行う。試験の終了時に、動物を屠殺し、組織および器官の顕微鏡的損傷証拠を調べる。肝臓、腎臓、肺、脳、心臓および骨格筋をはじめ、いくつかの組織の毒性証拠を顕微鏡で調べる。ビヒクルを与えた対照動物も同様に調べる。
【0146】
以下の実施例Vでは、指示試薬は色素または色素の組合せであり得る。この2種類の色素は赤、緑または同色でもよい。これらの発光波長および励起波長は大きく有意に異なっていなければならない。好ましい方法は二重発色団技術である。しかしながら、複数発色団であってもよい。
【0147】
好ましい色素は赤いマレイミド色素であるテキサスレッドである。インドシアニングリーンは優れた蛍光物質である。これはテキサスレッドとフルオレセイン(Fluorescine)の混合物でテキサスレッドの代わりに用いることができる。インドシアニングリーンの発光は近赤外領域(〜840nm)にあり、クルオロセインからの明瞭な発光を伴う優れたトレーサーである。
【0148】
この技術の好ましい使用は、多臓器不全に代わる血管漏出を測定および定量のためのマーカーとして使用するアッセイである。その意味するところは、臓器不全を発症する危険性のある患者を推定することである。これによりこのアッセイをこのような患者に特定の治療法を調整するために使用できる。また、これはタンパク質の半減期を研究するための新規な技術でもある。
【0149】
一つの実施態様では、本発明は、多臓器不全が起こる前、または初期にその発症を予測する技術である。この方法は、2以上のタンパク質、例えばアルブミンとPEG−アルブミンを投与することに基づく。これらのタンパク質は分子量が有意に異なり、発光波長および励起波長が異なる発色団でタグ付けされている。推定は、それらの発色団の濃度を経時的に評価することにより行う。本発明者らは、アルブミンの他、例えば、既知の分子量を有する別のタンパク質も使用できる。例えば、免疫グロブリンG分子量150.000またはフォン・ビルブランド因子MW300.000などの他のタンパク質がある。
【0150】
実施例V 色素をコンジュゲートしたアルブミンおよびPEG−アルブミンの作製
色素コンジュゲートアルブミンPEG−Albの作製方法は次の通りであった。ヒトアルブミン(50mg/ml)を50mMリン酸カリウム(pH7.5)、150mM NaClおよび0.5mMジチオトレイトール中で1時間インキュベートした。このジチオトレイトール処理アルブミンを4mM 5−ヨードアセトアミドフルオレセインまたは1.5mMテキサスレッドマレイミド(Molecular Probes)とともに2時間インキュベートした。これらの色素修飾アルブミンを5倍希釈し、遠心分離濃縮器(カットオフ10,000Mr、Millipore)で3回再濃縮して組み込まれなかった色素の大部分を除去した後、リン酸緩衝生理食塩水を4回交換して48時間透析した。
【0151】
このフルオレセイン標識アルブミンをメトキシポリエチレングリコール塩化シアヌルで修飾し、Sephacryl S200でのゲル濾過により精製した。Sephacryl S200から200,00を超える見掛けの分子量で溶出する画分をプールし、PM10メンブラン(Millipore)を用いた限外濾過により濃縮した後、0.9%生理食塩水を数回交換して透析した。フルオレセイン標識アルブミンとテキサスレッド標識アルブミンをゲル電気泳動により分析したところ、蛍光がタンパク質と会合していることが明らかになった。遊離色素の位置では蛍光は検出されなかった。定常状態の蛍光の測定はQM4SE蛍光計(Photon Technology International, Monmouth Junction, NJ)で行った。
【0152】
次ぎに、非修飾アルブミンおよびcys34を介して結合したフルオレセインまたはテキサスレッドを有するmPEG−Albを作製した。これらの蛍光アルブミン誘導体を、毛細血管漏出を伴う動物の循環中にアルブミンがいかに有効に保持されるか調べるために用いた。これらのアルブミンの移動は、体液における蛍光測定または組織切片の蛍光顕微鏡観察によりモニタリングすることができる。体液における蛍光測定または組織切片の蛍光顕微鏡観察の2種類。この2つの蛍光団は十分離れた励起・発光スペクトルを持つので、2つのアルブミン(例えば、テキサスレッドを有する非修飾アルブミンとフルオレセインを有するPEG−アルブミン)の混合物を含むサンプルを同じ動物で調べることができる。cys34を介してPEGを結合させる場合、アミン反応型のフルオレセインまたはテキサスレッドはリシルε−アミノ基を介して結合させた。2種類の異なる蛍光団を有するアルブミンをもってすれば、フルオレセインを有するPEGアルブミンが、2つの異なる蛍光団を有する非修飾アルブミンに比べ、いかに効率的に循環中に保持されるかを判定することができ、フルオレセインを有するPEGアルブミンが、テキサスレッドを有する非修飾アルブミンに比べ、いかに効率的に循環中に保持されるかを判定することができる。これらの蛍光アルブミンは、ショックモデルにおいて非修飾アルブミンとPEG−アルブミンの保持をモニタリングするため、またはin vivo半減期をモニタリングするために分析的に限って使用した。血清希釈液において、他の蛍光物質のバックグラウンドを十分超えるフルオレセイン−アルブミンの蛍光が容易に検出された。必要に応じ、血清サンプル中の他の発色団から生じる内部フィルター効果に関して強度測定値を補正した。しかし、蛍光アルブミンを用いた研究では、必要とされる血清の大希釈(1:1000〜1:2000)による支障は無視できるものであることを示す。
【0153】
動物/測定プロトコール
正常な健康ラット(n=4)およびCLPラット(n=11)で測定を行った。CLPでは、ラット6匹に(PEG−ALB−FL+アルブミン−TR)を注入し、5匹に逆の発色団を注入した。オハイオ医学大学のThe Institutional Animal Care and Use Committeeおよびthe Academic Chemical Hazards Committeeが試験プロトコールを認可した。動物はAmerican Association for Accreditation of Laboratory Animal Care; International (AAALACI)認可施設で飼育した。体重400〜480gの成体雄Sprague−Dawleyラット(Charles River Laboratories, Portage, Ml)を用いた。これらのラットには標準ラット餌と水を自由に与えた。試験前、動物を一晩絶食させたが、水は自由に与えた。本発明者らは盲腸結紮穿刺(CLP)誘発敗血症ラットと擬似術モデルを用い、PEG−Albの蛍光団とアルブミンの蛍光団を注入した。ラットをナトリウムペントバルビタール(50mg/kg BW、i.p.)で麻酔した後、必要に応じてペントバルビタールを追加した。正中腹部切開から開腹を行った。回盲弁直下で、腸の連続性が維持されるように3−0絹結紮糸にて盲腸を結紮した。この盲腸を16ゲージの針で2箇所穿刺し、排便されるまで軽く押した。内臓を腹部に戻し、筋肉は一層のプロリン縫合糸、皮膚は3−0絹縫合糸で切開部を閉じた。擬似術ラットにも同じプロトコールを施し、盲腸は内臓を腹部に戻す前に穿刺を行わずに操作した。蘇生のため、体重100グラム当たり3mlの無菌0.9%塩化ナトリウム溶液を背部に皮下投与した。術後、ラットには食物は与えなかったが、水は自由に摂らせた。
【0154】
術後20時間で動物を麻酔し、内頚静脈にカニューレを送管した。注入後40分の時点(発色団を混合させ、各コンパートメントに分布させる)、そしてこれを0時点として、その後、30分、1時間、3時間、5時間、8時間の時点で各100〜150μlの血液サンプルを採取した。8時間後、内頚静脈ラインを外した後2時間ラットを回復させた。今度は、尾の静脈から22時間、28時間、45時間、52時間、70時間、96時間、102時間、148時間、160時間、171時間またはラットが死に至るまでさらに血液サンプルを採取した。
【0155】
組織学/蛍光顕微鏡
ホルマリン固定した肺および腎臓組織に、ヘマトキシリンおよびエオシン染色を含む標準的な処理を施した。免疫蛍光研究のため、肺切片をNikon Eclipse E800蛍光顕微鏡で調べ、Image Pro Plus Version 4.0(Media Cybernetics, L.P.)を用いて対物20倍および40倍で写真を記録した。
【0156】
統計学的方法
特に断りのない限り、値は平均値±SDで表す。処理群内で、各時点で繰り返して分析したデータ(各時点での蛍光濃度)を、多重比較用の補正を用いる事後両側t検定を用い、反復測定分散分析により評価した。匹敵する時点の処理群間の差は分散分析により評価した。統計学的有意性をp<0.05およびp<0.01水準でリプレート(reprete)する。
【0157】
結果
色素−アルブミンコンジュゲートを動物に本質的にトレーサーとして投与し、少量の血液サンプル(〜100〜200マイクロリットル)を頚静脈から(最初の8時間)、その後は尾の静脈から採取した。これらのアルブミンの移動を、血中の蛍光測定および肺組織切片を調べる蛍光顕微鏡観察によりモニタリングした。本発明者らが開発した方法を用い、蛍光標識したアルブミンおよび(テキサスレッド、TR)およびPEG−Alb(フルオレセイン、F)をラットに注入し、注入後の各時点で分析のため尾の静脈から少量の血液を採取する。アルブミンが管外空間へ失われ、PEG−Albが保持されていれば、アルブミンの喪失とPEG−Albの優先的保持に一致してフルオレセイン/テキサスレッド(F/TR)比が経時的に高まる。テキサスレッドとフルオレセインの励起・発光スペクトルは、この2種類の色素の混合物が血清サンプル中で定量的に調べることができるように十分異なっている。これらの標識を切り替えれば(フルオレセインアルブミンおよびテキサスレッドPEG−Alb)、そのタンパク質のクリアランスがそれらの蛍光団の特性ではないということを確認する、厳密に補足する結果が得られる。このクリアランスは、物質の別のコンパートメントへの再分布に一致するファーストフェーズとクリアランスを反映するスローフェーズを示す。PEG−アルブミンはアルブミンに比べて〜3時間以内に急速にクリアランスされる。アルブミンとPEG−Albの分布はまた、本発明者らが敗血性ショックで観察したように、PEG−Albが血管内に保持されるかどうかを判定するための蛍光顕微鏡観察により、肺の冷凍組織切片でも質的に調べられた。
【0158】
通常のアルブミンは漏出するのにPEG−Albは血管内に保持されることを証明するため、フルオレセイン標識PEG−Albとテキサスレッド標識アルブミンの混合物を投与した。肺切片の蛍光顕微鏡観察により、擬似術を施したラットではテキサスレッドシグナルとフルオレセインシグナルが同時局在するのに対し、CLPラットでは、テキサスレッド蛍光(PEG−Alb)は血管構造内のみに検出されることが証明された。これらの色素の同時局在は双方が保持されていたことを示し、一方、その色素の一方が間質空間に存在することはその標識種の漏出を示す。
【0159】
図31Aおよび31Bは、注入時点(0時点)での濃度に対する実際のアルブミンおよびPEG−Alb蛍光データ(対数スケール)を示す。このグラフはCLPラットでは11個体総て(図31A)、また正常ラット4個体(図31B)で平均した場合の時間の関数として示されている。直線はこれらの濃度データを二重外挿モデルに当てはめたものである。
【0160】
図32Aおよび32Bはまた、注入時点(0時点)での濃度に対する指数で示したアルブミンおよびPEG−Alb蛍光データ(対数スケール)を示す。このグラフは各CLPラットに対して時間の関数として示されている。図32AはPEG−Alb FLとアルブミン−TRを有するラット6個体に関するグラフである。図32BはPEG−Alb−TRとアルブミン−FLを有するラット5個体に関するグラフである。相当する分析データは表1に示す。
【0161】
【表1】

【0162】
【表2】

【0163】
フルオレセイン標識PEG−Albおよびテキサスレッド標識アルブミンは双方とも、対照動物では血管内空間でのみ見られた。これらの結果は毛細血管漏出中、PEG−Albが血管内に保持されることと一致している。
【0164】
図33は注入時点(0時点)での濃度に対する指数で示したPEG−Alb/アルブミン蛍光データを個々の正常ラットおよびCLPラットに関して時間の関数として示している。血管透過性の増大はSIRSの初期の特徴である。これは多臓器不全症候群(MODS)の明確な発症の数日前に起こる。敗血症、外傷などの全身性炎症応答症状(SIRS)の際には、アルブミン漏出速度が実質的に増す。MODSを発症する運命にある患者を迅速に特定できれば、疾病のプロセスを制限するため、極めて早期に治療戦略を適用することが可能となる。アルブミン(テキサスレッド)が管外空間に失われかつ/またはPEG−Alb(Ftcで標識)が保持されれば、Ftc/TR比は経時的に高まると予測される。全身性炎症性応答(SIRS)症状における毛細血管透過性の増大に代わるものとしてのPEG−Alb/アルブミン比の段階的上昇が前記の図33で示されている。本発明者らは、アルブミンとより大きなポリエチレングリコール修飾アルブミン(PEG−Alb)を分光光度的に異なる発色団[それぞれ、フルオレセイン(FTC)とテキサスレッド(TR)]でタグ付けすることに基づくCLの早期検出のための二重発色団技術について記載する。11個体の敗血症(盲腸結紮穿刺;CLP)マウスと4個体の正常ラットに微量の両タンパク質を注入し、それらの濃度を注入後144時間まで蛍光分光法により繰り返し評価した。血管内PEG−Albは、正常ラットおよびCLPラットの双方のアルブミンに比べて低い速度で低下した(比>1、増加);図33。このPEG−Alb/アルブミン比の上昇は、注入1日後および2日後では、CLPラットおよび正常ラットとも同等であった。敗血症ラットでCLが起こったと思われる2日後では、CLPラットでこの比が上昇し続けたのに対し、正常ラットでは変化しなかった。敗血症/正常発色団比の分離が見られた時点は顕著なCLの開始を示し、これらの2つの曲線の差がおそらく重篤度を表す(図)。これらの知見はCLの検出のための新規な技術の基礎となる。
【0165】
正常ラットとCLPラットの双方におけるPEG−Alb/アルブミンのv蛍光濃度は、トレーサー注入後40時間またはCLP後60時間までの曲線の最初の部分では有意な差はなかった。曲線の上向きの傾きは、PEG−Albのより高い保持またはアルブミンの喪失を示唆する。正常ラットにおいて、著しいアルブミンの喪失は予期されず、PEG−Albのクリアランスの低下が、正常ラットおよびCLPラットにおいて、CLPの比較的早いこの段階でのこの比の上昇の一因である。CLPラットでは、CLPの発生48時間後に重篤な毛細血管漏出が起こると予測された。この段階で、CLPラットにおけるPEG−Alb/アルブミン比は60時間後まで段階的に高まり、PEG−Albのクリアランスの低さに加え、(毛細血管漏出とともに)一貫したアルブミン喪失を示唆する。CLP曲線下の面積および正常ラット曲線の上の面積は、毛細血管漏出または臓器不全指数の指標となる。毛細血管漏出の定量は、MODSの発症する運命にある患者を推定するのに重要である。これに関して、この指数を用いることで、明らかなMODSの発症前の早期に敗血症に対して費用のかかる処置を(例えば、活性化タンパク質CまたはXigris(登録商標))を用いるかどうかの指針となる。重篤な敗血症において活性化タンパク質Cを用いるかどうかの指針となるのはAPACHE IIスコア測定値であり、25より大きければ、絶対死亡率を6%減らせることが示されている。APACHE IIスコアは患者集団における疾病の重篤度の指標となるが、これらは個々の患者の転帰を推定するにはあまり有用でないかもしれない。
【0166】
本発明は、分子量が異なり、各々異なる離れた発光波長および励起波長を有する異なる蛍光団でタグ付けされた複数のタンパク質または分子を用いる。これらを多臓器不全を発症するリスクのある患者に投与する。この方法では、(血液濃縮および毛細血管漏出などの同じ病態生理学プロセス下で)連続的に複数回それらの濃度を追跡する。
【0167】
本発明を好ましい実施態様を強調して記載してきたが、当業者には、これらの好ましい実施態様が変更可能であるのは明らかである。本発明は本明細書に明示されたもの以外にも実施可能であると考えられる。よって、本発明はあらゆる変形形態を含み、付属の特許請求の範囲の精神および範囲を請求する。
【0168】
参照文献
【表3】




【0169】
追加の参照文献
【表4】
















【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1A】生理食塩水、アルブミンおよびPEGA群のヘマトクリット(%)の変化を示すグラフ。
【図1B】平均動脈圧とヘマトクリットとの相関を示す。
【図2】内毒素(ET)の注射直後、ET注射2時間後およびET注射3時間後の血圧(すなわち、平均動脈圧MAP)(ノーマライズしたPart)の変化を示すグラフ。
【図3A】種々の処理群で見られた典型的な組織病理学的変化を示す。
【図3B】種々の処理群で見られた典型的な組織病理学的変化を示す。
【図3C】種々の処理群で見られた典型的な組織病理学的変化を示す。
【図3D】種々の処理群で見られた典型的な組織病理学的変化を示す。
【図4】各処理群の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)スコアを示す。
【図5】(右)PEG−Albの推定MWが250,000ダルトン以上であることを示すSDSアクリルアミドゲル電気泳動。アルブミン、PEG−Albおよび標準タンパク質のサンプルを示すPEG−Albの分析的ゲル濾過は、Superose6上でクロマトグラフィーに付した。挿入は文字とともに垂直の矢印で示し、標準タンパク質の溶出位置を示す:α,α2マクログロブリン(720,000);チログロブリン(660,000M);F,アポフェリチン(440,000);A,アルブミン二量体(133,000);G,IgG(160,000);O,オボアルブミン(45,000);M,ミオグロビン(17,000)を示す。図5(左) 結果をMに対するV/Vで示す。番号の付いた上向きの矢印は矢印で示される溶出位置にほぼ相当する。
【図6】PEG−AlbおよびアルブミンのSELDI質量分析を示す。図6Aは、16ピコモルのヒトアルブミンの分析を示す。図6Bは、15ピコモルのPEG−Albの分析を示す。
【図7】PEG−Albおよびアルブミン溶液の浸透圧を示す。アルブミン溶液の浸透圧は下記のように測定し、濃度に対する浸透圧(mmHg)としてプロットした。この直線は3次多項式への当てはめに相当する。
【図8A】以下のことを示す蛍光画像を示す:AおよびB,正常動物、敗血症無し、肺胞毛細血管膜内にFl標識されたPEG−Albが局在しているが、BはRh標識アルブミンとFl標識PEG−Albの重複により黄色(緑+赤)に見える。一方、敗血症を有する動物(C、D、E)では、Rh標識アルブミンが散剤し、肺胞毛細血管膜でPEG−Albの濃度パターンが存在した。
【図8B】以下のことを示す蛍光画像を示す:AおよびB,正常動物、敗血症無し、肺胞毛細血管膜内にFl標識されたPEG−Albが局在しているが、BはRh標識アルブミンとFl標識PEG−Albの重複により黄色(緑+赤)に見える。一方、敗血症を有する動物(C、D、E)では、Rh標識アルブミンが散剤し、肺胞毛細血管膜でPEG−Albの濃度パターンが存在した。
【図8C】以下のことを示す蛍光画像を示す:AおよびB,正常動物、敗血症無し、肺胞毛細血管膜内にFl標識されたPEG−Albが局在しているが、BはRh標識アルブミンとFl標識PEG−Albの重複により黄色(緑+赤)に見える。一方、敗血症を有する動物(C、D、E)では、Rh標識アルブミンが散剤し、肺胞毛細血管膜でPEG−Albの濃度パターンが存在した。
【図8D】以下のことを示す蛍光画像を示す:AおよびB,正常動物、敗血症無し、肺胞毛細血管膜内にFl標識されたPEG−Albが局在しているが、BはRh標識アルブミンとFl標識PEG−Albの重複により黄色(緑+赤)に見える。一方、敗血症を有する動物(C、D、E)では、Rh標識アルブミンが散剤し、肺胞毛細血管膜でPEG−Albの濃度パターンが存在した。
【図8E】以下のことを示す蛍光画像を示す:AおよびB,正常動物、敗血症無し、肺胞毛細血管膜内にFl標識されたPEG−Albが局在しているが、BはRh標識アルブミンとFl標識PEG−Albの重複により黄色(緑+赤)に見える。一方、敗血症を有する動物(C、D、E)では、Rh標識アルブミンが散剤し、肺胞毛細血管膜でPEG−Albの濃度パターンが存在した。
【図9】PEG−20,000(マレイミド)修飾アルブミンの精製を示す−マレイミドPEG20,000で修飾したヒトアルブミン(タンパク質7mg)を、50mM Tris−Cl(pH7.5、25℃)で平衡化したQ−Sepharose(1.5cm×5cm)に適用した。
【図10】PEG−40,000(マレイミド)で修飾したアルブミンの精製を示す−マレイミドPEG40,000で修飾したヒトアルブミン(タンパク質60mg)を、50mM Tris−Cl(pH7.5、25℃)で平衡化したQ−Sepharose(1.5cm×5cm)に適用した。
【図11】虚血/再潅流傷害がアポトーシスおよび毛細血管漏出をもたらすかどうかの概略図。
【図12】PEG−Albを示す。このアルブミン構造は、リシル残基が緑、Cys34が赤、PEGが模式的に示されている。
【図13】酸化および炎症カスケードに対するPEG−Albの提起される作用を示す。
【図14】CLPラットにおける平均動脈血圧(MAP)に対するアルブミン(○)、PEG−Alb(●)、生理食塩水(□)およびPEG+アルブミン(黒四角)の作用を示す。
【図15】血清および尿におけるPEGの外観および排除を経時的に示す。
【図16】対照ラット(図16A)およびCLPラット(図16B)由来の肺組織の蛍光顕微鏡写真を示す。動物にはフルオレセイン標識PEG−Albおよびテキサスレッド標識アルブミンを投与した。
【図17】LPS処理ラットの代表的な肺の組織切片(2OX H&E);図17a,軽度(0〜1);図17b,中度(1〜2);図17c,重度(3〜4)。
【図18】処理後のHSラットの血圧を示す。上の曲線の●はPEG−Alb、中央の曲線の○はアルブミン、下の曲線の□は生理食塩水。
【図18A】出血性ショックラットにおけるヘマトクリット(Htc)およびコロイド浸透圧(COP)を示す表Iであり、データは平均値±SDである。=p<0.05;**=p<0.01であり、どの群の比較も、両側t検定で処理前の値と対応する処理の終了時を比べた。a)同じ群内での処理前と処理後;b)生理食塩水とアルブミン;c)生理食塩水とPEG−Alb;d)アルブミンとPEG−Alb;(NS)有意でない。
【図19】出血性ショックモデル(病期IおよびII)を示す。下の数字は出血後の分数に相当する。
【図20】コロイド浸透圧(●)および粘度(○)がPEG−Alb濃度に依存していることを示す。
【図21】Superose 6 HPLCのよるmPEG5000修飾アルブミン(PEGA,実線)およびアルブミン(HAS,破線)の分析を示す。矢印で示す位置に溶出する標準は、α,α−2−マクログロブリン;T,チログロブリン;F,フェリチン;G,IgG;O,オボアルブミン;およびM,ミオグロビンである。
【図22】Superose 6 HPLCによるmPEG5000修飾アルブミン(PEGA)サイズ分画品(I、IIおよびIIIで示す)および分画していない材料(Uで示す)の分析を示す。サイズ標準は図11と同じである。
【図23】mPEG−40,000修飾アルブミンの精製を示す−マレイミドmPEG40000で修飾したHSAをQ−Sepharoに適用し、0〜0.3MのNaCl勾配で溶出した。挿入:31からはじまる連続画分に対するSDSゲル電気泳動の結果。ゲルのレーンAは非修飾アルブミンである。
【図24】Superose 6 HPLCによるmPEG40000(40)およびmPEG20000(20)修飾アルブミンとアルブミンの分析を示す。標準は図11と同じである。
【図25】アルブミン(図25A)、mPEG20000アルブミン(図25B)およびmPEG40000アルブミン(図25C)の尿素脱フォールディングを示す。サンプル(10mM KP(pH7.4)中0.05mg/mlアルブミン、150mM NaCl)を示された[尿素]で12時間インキュベートした後、発光スペクトルを採取した。励起295nmで310〜370nmでの発光を測定し、結果を強度平均発光波長(<λ>IE)としてプロットした。実線は三次元非フォールディングモデルへの当てはめに相当する。
【図26】PEG40−Alb(PEGA40)および非修飾アルブミン(HSA)のDSCスキャンを示す。
【図27A】PEG修飾アルブミンの消光研究を示す。A:アルブミンおよびサイズ分画mPEG5000アルブミンのアクリルアミド消光。実線は静的消光のStem−Volmer方程式に当てはめたものである。
【図27B】PEG修飾アルブミンの消光研究を示す。B:アルブミンおよびサイズ分画mPEG5000アルブミンのKI消光。実線は静的消光のStem−Volmer方程式に当てはめたものである。
【図27C】PEG修飾アルブミンの消光研究を示す。C:アルブミン、mPEG20000アルブミンおよびPEG40000アルブミンのアクリルアミド消光。実線は静的消光のStem−Volmer方程式に当てはめたものである。
【図28】PEG修飾アルブミンの浸透圧−非修飾アルブミン、mPEG20000マレイミド修飾アルブミン(PEGA20)またはmPEG40000マレイミド修飾アルブミン(PEGA40)、および非分画mPEG5000修飾アルブミン(PEGA5)の溶液の浸透圧を示された濃度で22℃にて測定した。直線は3次多項式に当てはめたものである。
【図29】反応性mPEG試薬の構造を示す。
【図30A】非修飾ヒトアルブミンおよびmPEG5000修飾アルブミンの脱フォールディングを示す。図30A:CDによりモニタリングした非修飾ヒトアルブミンの脱フォールディング。スケールの違いはタンパク質濃度の違いを表す。
【図30B】非修飾ヒトアルブミンおよびmPEG5000修飾アルブミンの脱フォールディングを示す。図30B:CDによりモニタリングしたmPEG5000修飾ヒトアルブミンの脱フォールディング。スケールの違いはタンパク質濃度の違いを表す。
【図31】
【図31A】注射時間における濃度に対する指数で示した蛍光データ(対数スケール)を示す。
【図31B】注射時間における濃度に対する指数で示した蛍光データ(対数スケール)を示す。
【図32A】注射時間における濃度に対する指数で示した蛍光データ(対数スケール)を示す。
【図32B】注射時間における濃度に対する指数で示した蛍光データ(対数スケール)を示す。
【図33】個々の正常ラットおよびCLPラットについて、注射時間(時間=0)における濃度に対する指数で示したPEG−Alb/アルブミン蛍光データを時間の関数として示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの保護されたチオール領域を有するアルブミンベースコロイド組成物を含んでなる組成物であって、そのアルブミンが指示試薬で修飾されている、組成物。
【請求項2】
指示試薬が色素とコンジュゲートした試薬である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
アルブミンが、色素とコンジュゲートしたアルブミンまたは色素とコンジュゲートしたPEG−アルブミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
指示試薬が色素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
指示試薬が、発光波長および励起波長を有する第一の色素ならびに発光波長および励起波長を有する第二の色素であり、第二の色素の発光波長および励起波長が第一の色素の発光波長および励起波長から大きくかつ有意に離れている、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
第一の色素がある色を有し、第二の色素が第一の色素と同じ色である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
第一の色素が緑色であり、第二の色素が赤色である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
色素が緑色である、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
色素が赤いマレイミド色素またはインドシアニングリーンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
指示試薬がフルオレセインである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
インドシアニングリーンがフルオレセインと併用される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
フルオレセインが5−ヨードアセトアミドフルオレセインである、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
アルブミンベースコロイド組成物が、ジチオトレイトール処理したアルブミン組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
アルブミンベースコロイド組成物が、組成物が患者の毛細血管から漏出しないように十分に大きな分子排除体積および流体力学的半径を有するアルブミンベースコロイドの少なくとも1つのPEG化産物であり、アルブミンがある分子排除体積を有し、PEG化産物の分子排除体積がアルブミンの分子排除体積より16倍大きい、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
アルブミンベースコロイド組成物が、組成物が患者の毛細血管から漏出しないように十分に大きな分子排除体積および流体力学的半径を有するアルブミンベースコロイドの少なくとも1つのPEG化産物であり、アルブミンがある流体力学的半径を有し、PEG化産物の流体力学的半径がアルブミンの流体力学的半径より13倍大きい、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
PEG−AlbCys−34を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
PEG−AlbCys−34を含んでなる、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物を製造する方法であって、
アルブミンまたはPEG−アルブミンを、アルブミンタンパク質のジスルフィド構造を混乱させずに少なくとも1種のチオール選択性試薬で修飾すること、
前記チオ修飾タンパク質を指示試薬で修飾すること、および
アルブミンまたはPEG−アルブミンを精製して、非修飾タンパク質、過剰な試薬および反応副産物を除去すること
を含んでなる、方法。
【請求項19】
アルブミンまたはPEG−アルブミンをチオ試薬で修飾する工程が、過剰量のジチオトレイトールで処理することによって行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法を多重発色団技術に基づいて行うための工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記方法を二重発色団技術に基づいて行うための工程を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
アルブミンおよびPEG−アルブミンを分光光度的に異なる発色団でタグ付けする工程、および
経時的にその発色団の濃度を繰り返し評価する工程
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
多臓器不全の発症が起こる前またはその不全の初期に、多臓器不全の発症を予測する工程を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
多臓器不全の発症が起こる前またはその不全の初期に、多臓器不全の発症を予測する方法であって、
既知分子量の第一のタンパク質を準備すること、
有意に異なる分子量の第二のタンパク質を準備すること、
第一および第二のタンパク質を、離れた発光波長および励起波長を有する発色団でタグ付けすること、および
経時的にその発色団の濃度を繰り返し評価すること
を含んでなる、方法。
【請求項25】
指示試薬が色素である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記色素が、大きくかつ有意に異なる発光波長および励起波長を有する色素の組合せである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
色素が赤いマレイミド色素またはインドシアニンである、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
指示試薬がフルオレセインである、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
インドシアニングリーンがフルオレセインと併用される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
フルオレセインが5−ヨードアセトアミドフルオレセインである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
多臓器不全症候群を発症するリスクのある患者を正確に特定する方法であって、
分子量が異なり、各々明瞭に異なる離れた発光波長および励起波長を有する異なる蛍光団でタグ付けされた複数のタンパク質または分子を使用すること、
それら複数のタンパク質または分子を、多臓器不全を発症するリスクのある患者に投与すること、および
同じ病態生理学的プロセス下で、連続的に複数回、その異なる蛍光団の濃度を追跡すること
を含んでなる、方法。
【請求項32】
前記病態生理学的プロセスが血液濃縮および毛細血管漏出である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
治療量の請求項1に記載の組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、少なくとも血液減少症状からの哺乳動物組織の傷害を予防する方法であって、
その組成物が哺乳動物の毛細血管から漏出できず、該組織を傷害から保護するのに十分な量で存在する、方法。
【請求項34】
治療量の請求項1に記載の組成物を哺乳動物に投与することを含んでなる、少なくとも血液減少症状からの哺乳動物組織の傷害を予防する方法であって、
その組成物が哺乳動物の毛細血管から漏出できず、該組織を傷害から保護するのに十分な量で存在する、方法。
【請求項35】
前記傷害が、敗血症、ショック、火傷、外傷、外科手術、毛細血管漏出素因、過粘稠度状態、低アルブミン血症、白血球搬出、栄養性アルブミン欠乏症、腎炎症候群、肝不全、および/または無酸素症によるものである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物を、多臓器不全に代わる血管漏出を測定および定量するためのマーカーとして使用する工程、および
臓器不全を発症するリスクのある患者を予測する工程
を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
血液減少症状または多臓器不全のリスクのある患者において、毛細血管漏出により引き起こされるこのような症状または不全を治療または予防する方法であって、
a)このような症状または不全のリスクのある患者に対して、その患者に毛細血管漏出の増加があるかどうかを判定する診断試験を行うこと、
そして、その患者に毛細血管漏出の増加があれば、
b)患者に治療上有効な量の血漿増量剤を投与すること
を含んでなる、方法。
【請求項38】
診断試験の実施が、
a)患者の血流に、第一の検出可能な標識にコンジュゲートされた血液タンパク質分子を含んでなる第一のマーカー組成物を投与すること、
b)患者の血流に、工程(a)と同じであるが、第一の検出可能な標識から識別して検出することができる第二の検出可能な標識にコンジュゲートされ、非修飾血液タンパク質分子の分子排除体積よりも実質的に大きな分子排除体積を有するように修飾されている血液タンパク質分子を含んでなる第二のマーカー組成物を投与すること、および
c)第一および第二のマーカー組成物を投与した後の2以上の時点で患者から採取した血液サンプル中の第一のマーカー組成物の量と第二のマーカー組成物の量の相対的低下速度を測定すること
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
第二のマーカー組成物の低下速度に比べ、第一のマーカー組成物の量の低下速度が速ければ、その患者に毛細血管漏出の増加があることを示す、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記血液タンパク質分子がアルブミンまたはヘモグロビンである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
血液タンパク質分子の分子排除体積が、血液タンパク質分子と1以上のポリエチレングリコール分子との共有結合により実質的に大きくされている、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
第一のマーカー組成物と第二のマーカー組成物が同時に患者に投与される、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
第一のマーカー組成物と第二のマーカー組成物が患者に投与するための単一の製剤中に処方される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
第一の検出可能な標識と第二の検出可能な標識がともに蛍光マーカーである、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
前記血漿増量剤がPEG化アルブミンまたはPEG化ヘモグロビンである、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記アルブミンが、ヒトアルブミン、ウシアルブミン、ラクトアルブミンおよびオボアルブミンからなる群から選択されるものである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記患者が、敗血症、ショック、火傷、外傷、外科手術、毛細血管漏出素因、過粘稠度状態、低アルブミン血症、白血球搬出、栄養性アルブミン欠乏症、腎炎症候群、肝不全または無酸素症の結果としてのこのような症状または不全のリスクを有する、請求項37に記載の方法。
【請求項48】
第一のマーカー組成物および第二のマーカー組成物の双方の血液タンパク質分子がアルブミンであり、第二のマーカー組成物のアルブミンが、該アルブミンと1以上のポリエチレングリコール分子との共有結合により修飾されている、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
診断試験の実施が、
a)患者の血流に、第一の検出可能な標識にコンジュゲートされた血液タンパク質分子を含んでなる第一のマーカー組成物を投与すること、
b)患者の血流に、工程(a)と同じであるが、第一の検出可能な標識から識別して検出することができる第二の検出可能な標識にコンジュゲートされ、非修飾血液タンパク質分子の分子排除体積よりも実質的に大きな分子排除体積を有するように修飾されている血液タンパク質分子を含んでなる第二のマーカー組成物を投与すること、および
c)第一および第二のマーカー組成物を投与した後の2以上の時点で、第一のマーカー組成物の量と第二のマーカー組成物の量の比率を測定すること
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項50】
第一の検出可能な標識の量と第二の検出可能な標識の量との比率が、第一および第二のマーカー組成物を投与した後の3以上の時点で測定され、
経時的な比率の変化の曲線が作成され、曲線下面積が測定される、
請求項49に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18】
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【図18A】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図28】
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【図29】
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【図30A】
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【図30B】
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【図31】
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【図31A】
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【図31B】
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【図32A】
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【図32B】
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【図33】
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【公表番号】特表2009−513643(P2009−513643A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537869(P2008−537869)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/041432
【国際公開番号】WO2007/050581
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508103506)メディカル、ユニバーシティー、オブ、オハイオ、アット、トレド (1)
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL UNIVERSITY OF OHIO AT TOLEDO
【Fターム(参考)】