説明

少なくとも1つの燃料電池を備えた燃料電池システム

燃料電池システム(1)は、カソード領域(3)とアノード領域(4)とを有する少なくとも1つの燃料電池を含んでいる。この燃料電池システム(1)は交換装置(12)をさらに有しており、この交換装置内を、一方でカソード領域(3)へ流れる供給エアフローが通過し、他方ではカソード領域(3)から来る排出ガスフローが通過する。この交換装置(12)の中では、熱が供給エアフローから排出エアフローに伝達され、同時に水蒸気が排出エアフローから供給エアフローに伝達される。本発明に基づき、この交換装置(12)の供給エア側に、触媒作用のある材料(13)が少なくとも部分的に取り付けられている。さらに、交換装置(12)の供給側には、アノード領域(4)からの排出ガスが供給される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に詳しく定義されている種類の、少なくとも1つの燃料電池を備える燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
業界標準の燃料電池システムは、特許文献1によって説明されている。特許文献1の燃料電池システムは、「冷却」と「加湿」の両方の機能を組み合わせた交換装置を含んでいる。特許文献1で機能ユニットと呼ばれているこの交換装置は、燃料電池の排出エアから燃料電池の供給エアへの物質の流れを可能にし、同様に、一方では、圧縮装置によって加熱された供給エアから比較的冷たい排出エアへの熱交換が行われる。
【0003】
もう1つの従来技術は、特許文献2に示されている。この特許文献も、燃料電池システムを示しているが、上述の特許文献の機能ユニット又は交換装置と比較可能に形成されている装置を備えてはいない。しかし、特許文献2は、アノードガスの再循環回路において、アノード回路の領域から時々排出しなければならない水素含有排出ガスの取扱いに関している。このために、燃料電池のカソード領域への供給エア領域に水素含有ガスを運び込むことが提案され、それによって、この水素含有ガスは、特に、いずれにせよカソード領域にある触媒の領域で、供給エアの酸素と反応する。
【0004】
燃料電池のアノード領域から水素含有排出ガスを供給することは、反応時に上昇する温度に関して、燃料電池のカソード領域への供給エアの調整に不利に作用する。さらに、セル自体に取り付けられている触媒領域において反応が起きるため、燃料電池の急速な劣化が生じる。従って、この構造には、上述の欠点を増大させないために、その使用において、特に、水素含有排出ガスの変換可能な量に関しても、極めて限定されるという難点がある。そのため、適用には決定的な欠点が伴うため、これらの欠点を最小化するために水素含有排出ガスが量的に制限されることから、アノード再循環回路を備える構造での使用に限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007003144A1明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10115336A1明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、水素含有排出ガスの変換を可能にし、燃料電池システム内で有効に使用できるようにして、上述の欠点を回避し、燃料電池システムを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づき、この課題は、請求項1の特徴部分の特徴によって解決される。
【0008】
触媒作用のある材料を交換装置の供給エア側に配置することにより、アノード領域からの排出ガスが交換装置内で変換される。これには、交換装置の中に特殊な触媒を取り付けることができ、それによってカソード領域での水素と酸素の反応が起きないという利点がある。従って、燃料電池の劣化をまねく不利な影響を回避することができる。さらに、燃料電池のカソード領域への供給エアの調整が、交換装置内で行われる。従って、アノード領域から交換装置への排出ガスの供給は、交換装置から燃料電池のカソード領域へ流れる供給エアに何も影響しないか、もしくは修正不能な影響を与えない。触媒作用のある材料の領域において供給エアからの酸素の一部と反応する、アノード領域からの排出ガスに含まれる水素は、供給エアの温度を上昇させるが、しかし、供給エアがカソード領域に流れる前に交換装置の領域で冷却されるため、このことが、供給エアの調整に不利な影響を与えることはない。むしろ、供給エアを冷却する排出エアフローが、この熱によって、さらに加熱される。このことは、例えば、排出エアフローからの熱をその他の用途に利用する場合、又は液状の水分が排出エアフローと一緒に燃料電池システムから漏れ出るのを防止しなければならない場合に、決定的な利点となり得る。
【0009】
さらに、交換装置内にある触媒作用のある材料の領域における水素含有排出ガスの変換の際に、ある程度の量の水又は水蒸気が発生する。この水又は水蒸気は、交換装置を介して排出エアフローによって供給エアフローに伝達される水蒸気と一緒に、燃料電池又はこの種の燃料電池に通常使用されているポリマー電解質膜(PE膜)の加湿に働く。このPE膜は、カソード領域とアノード領域とを分離し、周知の方法で燃料電池の機能を担っている。
【0010】
本発明に基づく燃料電池システムの特に有利な実施形態では、アノード領域からの排出ガスの供給が、制御及び/又は調整された状態で行われるように準備されている。特に、アノード排出ガスの再循環回路を備える燃料電池システムを使用する場合、アノード領域から交換装置の供給エア側への排出ガスの供給を、時間に応じて、及び/又は量に応じて、ある程度の制限の中で制御又は調整することができる。これによって、例えば、発生する熱を冷却するのに十分な排出ガス流量がないという不利な時点では、交換装置への排出ガスの供給を遅らせることができる。従って、不利な作動状態を回避することができ、燃料電池システムの作動方法の改善を実現することができる。
【0011】
本発明に基づく燃料電池システムの特に有利なもう1つの実施形態では、さらに、交換装置の供給エア側に、燃料、特に水素が供給可能であるように準備されている。オプションの燃料の供給、特に、いずれにせよ燃料電池システム内にある水素の供給により、燃料電池システムのさらなる柔軟性が達成可能となる。このような、交換装置の供給エア側の領域、従って触媒作用のある材料の領域へのさらなる燃料の供給は、より多量の湿気が必要な場合にはいつでも行うことができる。なぜなら、供給された燃料が酸素と反応して水蒸気が発生するからである。その他に、このようなオプションの燃料供給は、より大きな熱量が排出エアフローに必要な場合、例えば、廃熱を利用する場合、又は排出エアフロー中に含まれる液状の水分を多量に気化させる場合(この液状の水分は、液体ではない状態でシステムの外に出さなければならない)にも行うことができる。
【0012】
本発明に基づく燃料電池システムの特に適切かつ有利な発展形態では、さらに、交換装置の下流に配置されているコンプレッサによって、供給エアを供給するように準備されており、このコンプレッサは、交換装置の下流で排出エアが通過するタービンによって、少なくとも補助的に駆動可能である。内燃機関において一般的なターボチャージャの形で、コンプレッサを少なくとも補助的に駆動するタービンを備えるこの構造により、排出エアフローの廃熱を、残りの圧力エネルギーと共に利用することが可能となる。燃料電池システムの本発明に基づく構造により、追加の熱が排出エアフローに入力され、この熱は、タービンで機械的エネルギーに転換させることができるため、全体として、この燃料電池システムは、寄生のエネルギー消費が少なく、それによってより高い効率が得られる。
【0013】
従って、本発明に基づく燃料電池システムの、説明されている全ての変更例は、単純で、コンパクトであり、従って低価格の構造を可能にし、寿命及び達成可能な効率にとって最適な形態となっている。従って、本発明に基づく燃料電池システムは、移動手段における使用、ここでは、移動手段の駆動及び/又は電気的な補助負荷のための電力の生成に特によく適している。この場合、本発明の意味における移動手段とは、陸上、水上、空における各種類の移動手段を意味しており、特に、レールを使わない車両に対するこの種の燃料電池システムの利用が特に注目されるが、本発明に基づく燃料電池の使用は、このことに制限されることはないであろう。
【0014】
本発明に基づく燃料電池システムのその他の有利な実施形態は、残りの従属請求項に示されており、以下に図を用いて詳しく説明される実施例によって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に基づく燃料電池システムの第1の可能な実施形態である。
【図2】本発明に基づく燃料電池システムのもう1つの代替の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の図における描写は、それ自体が非常に複雑な燃料電池システムから、本発明の理解に不可欠な構成部品のみを抜き出し、かなり簡略化して図に示したものである。この場合、以下に示された図では考慮されていないが、例えば、冷却回路などのその他の構成要素をこの燃料電池システムに設けることも当然あり得るだろう。
【0017】
図1には、燃料電池2を備える燃料電池システム1が示されている。燃料電池2は、この場合、通常の方法で構成された燃料電池2として、個別セルのスタックからなるべきである。燃料電池2には、カソード領域3とアノード領域4とが形成されており、これらの領域はここで示されている実施例において、PE膜5によって互いに分離されていなければならない。図1に示されている実施例では、カソード領域3に、コンプレッサ6から供給エアフローが供給される。この場合、コンプレッサ6は、燃料電池システムで通常用いられるような、例えばスクリュコンプレッサ又はフローコンプレッサとして実施することができる。しかしながら、基本的に、供給されるエアフローを圧縮するための他の方法、例えば、往復機器などによる方法も考えられる。カソード領域3に送られる供給エアフローは、燃料電池2の中でアノード領域4に送られる水素と反応して水になり、電力が発生する。燃料電池2のこの周知の原理は、本発明にとっては下位の役割でしかないため、詳しい説明は省略する。
【0018】
ここに示されている実施例では、水素貯蔵装置7、例えば圧縮ガスタンク及び/又は水素化物タンクから水素がアノード領域4に送られる。原則的に、例えば、燃料電池システム2の領域において、炭化水素含有基本材料から生成される水素含有ガスを燃料電池2に供給することも考えられる。
【0019】
図1の実施例において、水素貯蔵装置7の水素は、ここでは概略的にのみ示されている計量投与装置8を介してアノード領域4に送られる。通常、常に比較的大量の水素を含んでいる、アノード領域4から流出する排出ガスは、再循環ライン9及び再循環フィード装置10を介してアノード領域4に戻される。この再循環領域には、水素貯蔵装置7からくる新鮮な水素が送られるため、アノード領域4では、常に十分な量の水素を使用することができる。再循環ライン9と再循環フィード装置10とを備える燃料電池2のアノード領域4の構造は公知であり、一般的である。再循環フィード装置10として、例えば、ガス噴射ポンプを使用することができ、これは、水素貯蔵装置7からくる新鮮な水素によって駆動される。代替の方法では、再循環フィード装置10として再循環ブロワも考えられる。もちろん、これらの異なるフィード装置を組み合わせることも可能であり、これらの組合せも、同様に、本明細書に基づく再循環フィード装置10の定義に該当していなければならない。その他に、アノード排出ガスの再循環の使用では、再循環ライン9の領域に、例えば窒素などの不活性ガスが徐々に集まり、この不活性ガスが、PE膜5を通ってカソード領域3からアノード領域4に達することが知られている。アノード領域4において、さらに十分な濃度の水素を使用可能にするためには、アノード領域4の排出ガスを、再循環ライン9において時々排出することが必要である。このために、図1による実施例においては、ドレンバルブ11が設けられており、アノード領域4の排出ガスは、このドレンバルブを介して、時々排出することができる。このプロセスは、しばしば「パージ」とも呼ばれる。排出ガスは、この場合、不活性ガスの他に、該当する量の残留水素も含んでいる。
【0020】
コンプレッサ6からカソード領域3に流れる供給エアは、図1による燃料電池システム1の構造において、供給エアの状態調整を行う交換装置12を通過する。通常、コンプレッサ6後の供給エアは、比較的高い温度を有している。燃料電池2と、ここでは特に燃料電池2のPE膜5とは、高温かつ乾燥したガスに対して非常に敏感に反応するため、供給エアは、交換装置12の中で相応に冷却され、加湿される。冷却と加湿には、この場合、カソード領域3からくる排出エアフローを用いる。この排出エアフローは、同様に、交換装置12を通過する。この交換装置12は、基本的に、供給エアと排出エアの両方の流れが互いに分離される構造になっている。このことは、例えば、一方の流れが中空繊維を通り、他方の流れは、この中空繊維の周囲を流れることによって行うことができる。その他に、この交換装置12を、プレート反応器のような種類の構造にすることも考えられ、その場合、両方の流れは、例えば膜などの平坦なプレートによって互いに分離されている。
【0021】
交換装置12を、例えば自動車の排気ガス触媒コンバータなどで一般的に用いられているハニカムボディの形にすることは、特に有利であることが示されている。このようなハニカムボディの実施形態によって、供給エアフローと排出エアフローとは、ハニカムボディの隣接する異なったチャンネルを流れることができるようになる。この場合、基本的に、両方の流れを例えば併流チャンネル又は交差チャンネルなどによって通過させる方法がそれぞれ考えられる。しかし、2つの流れを向流によって、又は向流割合の高いフローチャンネルによって、交換装置12を通過させるのが特に適していることが判明した。交換装置12では、熱い供給エアフローからカソード領域3の冷たい排出エアフローへの熱交換が行われる。向流チャンネルによって、最も冷たい排出エアフローは、すでに最も強く冷却された供給エアフローの領域と熱伝導的に接触し、一方、すでに比較的強く加熱された排出エアフローは、まだ非常に熱い供給エアフローを、交換装置12に流れ込む際に冷却することが可能となる。このことによって、供給エアフローの非常に有利な冷却が達成される。さらに、例えば、温度耐性膜、多孔質セラミック、ゼオライトなどの交換装置の材料により、燃料電池2で発生する生産水と一緒に流れるカソード領域3の多湿な排出エアフローから出る水蒸気を、カソード領域3へ向かう非常に乾燥した供給エアフロー領域に通すことができ、これによって、供給エアフローが相応に加湿されるため、燃料電池2の領域のPE膜5の機能と寿命に有利に作用する。ここまでは、冒頭ですでに名前を挙げた特許文献1からも知られている交換装置12の構造及び機能である。
【0022】
ここに示す実施例では、交換装置12が、従来の技術による構造に加え、さらに、触媒作用のある材料を有している。この触媒作用のある材料は、図の中で13という符号が付けられている領域にあるが、水素と供給エア内の酸素との反応に用いられる。水素は、この場合、燃料電池2のアノード領域4周辺の再循環ライン9から来ている。この水素は、すでに言及したように、ドレンバルブ11から時々排出される。この水素含有排出ガスはパージガスとも呼ばれ、交換装置12の供給エア側に達する。この排出ガス又は排出ガス中に含まれる水素は、触媒作用のある材料13の領域において、供給エア中の酸素の一部と反応する。このとき、熱と、水蒸気の形で水とが発生する。この場合、水蒸気は、供給エアフローの加湿と、それに伴って燃料電池2のカソード領域3の加湿を補助することから、特に有利である。発生する熱は、供給エアの領域では好ましくない。しかしながら、交換装置12の構造により、この熱を、燃料電池2のカソード領域3からの排出エアフローに直接伝達することができ、排出エアフローの温度は、触媒作用のある材料およびアノード領域4からの排出ガスの供給がなく、交換装置12に対して上昇する。しかし、このことは、排出エアが周辺に排出される場合に欠点にはならない。というのも、ここでは、排出エア内に常に含まれる水分を水蒸気の形で周辺に排出し、それによって、排出エアと一緒に液状の水分が流出するのを防ぐために、むしろ比較的熱い排出エアが好ましいからである。
【0023】
触媒作用のある材料13は、交換装置12の供給エア側に、例えば触媒作用のある小片の層の形で取り付けることができる。しかし、特に有利であるのは、交換装置12の供給エア側の領域に触媒作用のある材料13がコーティングされている場合である。この場合、基本的に、交換装置12の供給エア側の面全体を、触媒作用のある材料13でコーティングすることが考えられる。この場合、触媒作用のある材料13のコーティングによって、水蒸気が排出エアから供給エアへ伝達されるのを妨げないことにだけ注意する必要がある。しかしながら、このことは、触媒作用のある材料13のコーティングを多孔性にすることなどによって達成することができる。しかし、代替の方法として、触媒作用のある材料13を、上流にある交換装置12の供給エア側の領域、すなわち、供給エアがコンプレッサ6から交換装置12に流れ込む領域にだけ配置することも可能である。領域とは、この場合、交換装置12の供給エア側のある程度の断片、例えば、交換装置12の交換面の約1/8〜1/4の領域を意味する。このような構造の場合、触媒作用のある材料13の領域においては、両方の流れの間における物質交換を防ぐことができると考えられるであろう。該当する量の水蒸気を、排出ガスから供給エアに伝達するには、交換装置の残りの領域で十分であろう。触媒作用のある材料13の領域は、アノード領域4の排出ガス内にある水素の触媒反応、及びそのとき発生する熱を、交換装置12から流出する排出エアフローに伝達することだけに用いられるだろう。
【0024】
さらに、交換装置12の供給エア側に、もう1つの燃料が供給されるように準備することもできる。いずれにせよ燃料電池システム1の中に水素がある場合、この燃料は水素とすることができるであろう。しかし、燃料電池システム1で使用可能な場合は、炭化水素などを供給することも考えられる。ここに示されている燃料電池システム1の実施例においては、追加の水素供給が、水素貯蔵装置7の領域から計量投与装置14及び対応するライン要素15を介して行われる。オプションの水素は、アノード領域4からの排出ガスのように、交換装置12前の供給エアの供給ラインに運ばれることができ、このことは、図1によって原則的に示されている。代替の方法として、排出ガス及び/又は水素を交換装置12に、ここでは特に触媒作用のある材料13の領域に直接運び込むことも当然考えられる。追加の水素は、触媒作用のある材料13の領域において、追加の水蒸気を発生させるのに利用することができる。この追加の水蒸気は、供給エアフローの加湿を改善し、それによって、燃料電池2のPE膜5の乾燥を予防するために、特定の作動状態において使用することができる。代替の方法として、オプションの水素追加供給によって、交換装置12内で発生する熱を相応に制御することも可能であり、それによって、例えば、特定の状況において、そこに存在する廃熱を適切に利用するため、及び/又は液状の水分が排出エアフローと一緒に流出するのを回避するために、排出エアを適切に加熱することが可能である。
【0025】
図1による燃料電池システム1の構造は、さらに、ここには図示されていない制御又は調整可能なバイパスを、交換装置12の周辺に設けることができるであろう。このバイパスは、この場合、供給エア側にも、排出エア側にも配置することができると考えられる。このバイパスにより、流れの一部を交換装置12の周辺に送り、供給エア又はその他にまだ必要な交換装置12後の排出エアの必要に応じて、この流れをもとの流れに混ぜ合わせることができると思われる。このことにより、加湿度を極めて適切に設定することができるか、もしくは加湿が必要でない状況においては加湿を回避することができるだろう。しかし、このようなバイパスは、加湿器における従来技術からすでに知られているので、ここでさらに述べる必要はない。
【0026】
図2には、燃料電池システム1の代替の実施形態が示されている。この場合、同一構成部品には同じ符号が付けられており、図1の同様の構成部品と同等の機能を有している。したがって、以下には、図2による燃料電池システム1について、これまでの説明とは異なる点のみに言及する。図2による燃料電池システム1は、実質的に、図1の燃料電池システム1に対して2つの異なる点を有している。第1の違いは、アノード領域4からの排出ガスが循環するのではなく、この排出ガスを、交換装置12の供給エア側に直接送り込むことである。すなわち、燃料電池2は、図2の実施例において、アノード循環回路によって作動するのではなく、水素のみが流れるアノードによって作動し、ある程度の水素の余剰は、アノード領域4からの排出ガスとして再び排出される。この構造は、同様に従来技術から周知であり、通常、アノード領域を様々な活性部分領域に分割することと組み合わされており、水素の流れる方向に連続して並ぶ部分領域は、徐々に少なくなっている活性表面を有しているため、使用されない活性表面を維持することなく、残っている水素の流れをほぼ変換させることができる。このような段階づけられたアノード領域4を使用して、水素貯蔵装置7の純粋な水素が燃料電池2に供給される場合、わずか3〜5%の非常に少ない余剰水素で走行が可能となる。この余剰水素は、排出ガスとしてアノード領域4から排出され、供給エア側の交換装置12、ここでは触媒作用のある材料13の領域に達する。次に、図1による実施例においてすでに説明したように、水素の変換が、すでにそこで示された全てのオプションを用いて同様に行われる。
【0027】
図2の燃料電池システム1の第2の違いは、交換装置12後の排出エアが、タービン16を通り、その際に、排出エア中に含まれる圧力エネルギー及び特にこの中に含まれる廃熱の大部分をタービン16に与えることである。タービン16は、この場合、直接又は間接的にコンプレッサ6と連結されているため、タービン16で発生したエネルギーを、コンプレッサ6の駆動に利用することができる。ほとんどの作動状態では、タービン16によって供給されるエネルギーは、コンプレッサ6を駆動するには十分ではないため、このコンプレッサはさらに電気機械17と連結されている。この電気機械17によって、コンプレッサ6の駆動エネルギーを補助的に供給することができる。特定の作動状態において、タービン16の出力に余剰が生じた場合、タービン16は、コンプレッサ6を駆動するだけではなく、この場合はジェネレータとしての電気機械17も駆動する。電気機械17によって作られた電力は、燃料電池システム1の中でその他の用途に使用するか、もしくは貯蔵することができる。いわゆるエレクトリックターボチャージャのこの構造も、燃料電池システムにおける従来技術から周知である。
【0028】
特に有利であるのは、タービン16によって、排出エアの廃熱が利用可能であることである。アノード領域4からの排出ガスと供給エア内の酸素との触媒反応における加熱は、これまで非常に問題視されていたが、この構造によって、排出エアに伝達される熱がタービン16で利用され、機械的エネルギーに転換可能となるため、有効に使用することができる。
【0029】
従って、図2による燃料電池システム1のこの構造により、触媒材料13の領域において発生する廃熱の積極的な利用による有効な使用が可能となる。従って、残留水素の量は、従来技術のように、熱又は劣化の理由から、もしくはシステム技術的な理由から制限されることはない。燃料電池2の中で、できる限り多くの水素を変換することは有利であるが、図2による燃料電池システム1のこの構造により、交換装置12の触媒作用のある材料13の領域において、必要に応じてさらに多くの量の残留水素を変換することも可能となる。このことにより、アノードの再循環を省略することができる。すでに上述した、計量投与装置14とライン要素15によるオプションの燃料追加により、タービン16の適切な作動は、触媒作用のある材料13の領域で発生する廃熱を用いて行うことができる。特定の作動状況においては、加湿の理由からばかりでなく、タービン16に必要な、排出エアフローの廃熱の理由からも、交換装置12の触媒作用のある材料13の領域に追加の水素を運び込むことは、極めて重要であり得る。この種の状況としては、増加した電力が燃料電池2によって急激に送り出され、その電力が、結果的にコンプレッサ6の出力増加につながるという例があるだろう。この場合、排出ガスフロー内の廃熱量が増加することにより、この状況の中で少なくとも補助的にコンプレッサ6の出力要求を満たすのに用いられるタービン16に、より大きな出力を供給することができるだろう。同時に、燃料電池によって出力ピークが要求された場合、供給エアを加湿するために相応の量の湿った排出エアがなくても、交換装置の領域で追加の水蒸気が発生し、この水蒸気により加湿が改善される。
【0030】
最後に、図2の実施形態による燃料電池システム1もまた、一般的に知られている、通常のその他のコンポーネントを装備することが可能であることに留意されたい。例えば、この場合には、交換装置12の周辺に取り付けるバイパスを挙げることができ、このバイパスは上述した構造と同じ方法で使用することができるであろう。その他に、排出エアフローの中の、交換装置12とタービン16との間の領域に水分離器を設けることにより、タービン16の領域に水滴が浸入し、場合によりコンポーネントの損傷に至るのを防止することができる。その他に、当然ながら、説明した燃料電池システムの部品を単純に交換することによって、両方の実施形態を互いに組み合わせることも可能である。例えば、タービン16を備える構造を、再循環ライン9の構造と組み合わせることが考えられるだろう。同様に、図2によって示されている燃料電池システム1において、タービン16を省略することも考えられるであろう。
【符号の説明】
【0031】
1 燃料電池システム
2 燃料電池
3 カソード領域
4 アノード領域
5 PE膜
6 コンプレッサ
7 水素貯蔵装置
8 計量投与装置
9 再循環ライン
10 再循環フィード装置
11 ドレンバルブ
12 交換装置
13 触媒作用のある材料
14 計量投与装置
15 ライン要素
16 タービン
17 電気機械

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード領域とアノード領域とを有する少なくとも1つの燃料電池と、
一方では前記カソード領域へ流れる供給エアフローが通過し、他方では前記カソード領域から流れる排出エアフローが通過し、熱が前記供給エアフローから前記排出エアフローに移行し、同時に水蒸気が前記排出エアフローから前記供給エアフローに移行する交換装置と、を備える燃料電池システムであって、
前記交換装置(12)が、供給エア側に少なくとも部分的に触媒作用のある材料(13)を有しており、前記交換装置(12)の供給エア側に、前記アノード領域(4)からの排出ガスが供給可能であることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記アノード領域(4)からの前記排出ガスが、制御及び/又は調整された状態で供給可能であることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記交換装置(12)の供給エア側に、燃料、特に水素が供給可能であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記触媒作用のある材料(13)が、層の形で前記交換装置(12)の前記供給エア側に取り付けられていることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記交換装置(12)が、少なくとも部分的にハニカム構造を有していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記交換装置(12)が、実質的に向流の形で流れを通しており、前記触媒作用のある材料(13)は、好ましくは、前記供給エアと前記排出エアとが前記交換装置(12)内へ流れ込み、前記排出エアが前記交換装置(12)から流れ出す領域に配置されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記アノード領域(4)を、水素又は水素含有ガスが流れ、前記アノード領域(4)の出口が、前記交換装置(12)の前記供給エア側の入口に接続されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記アノード領域(4)が、連続して並べられた複数の部分からなり、該部分のそれぞれの活性表面が、前記アノード領域(4)において、前記水素又は前記水素含有ガスの流れる方向に従って、1つ手前にある前記部分の活性表面よりも小さいことを特徴とする、請求項7に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記アノード領域(4)を水素が流れ、前記アノード領域(4)の出口が、再循環ライン(9)とフィード装置(10)とによって前記アノード領域(4)の入口に接続されており、前記再循環ライン(9)は、切替え可能なバルブ装置(11)によって、前記交換装置(12)の前記供給エア側の入口に接続されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記交換装置(12)の上流に配置されているコンプレッサ(6)によって前記供給エアが供給され、前記コンプレッサ(6)は、前記交換装置(12)の下流で前記排出エアが通過するタービン(16)によって、少なくとも補助的に駆動可能であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記コンプレッサ(6)が電気機械(17)によって駆動可能であり、前記タービン(16)で余剰出力がある場合、前記タービン(16)が、電力を生成するジェネレータとしての前記電気機械(17)を駆動することを特徴とする、請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
移動手段において、該移動手段の駆動及び/又は電気的な補助負荷のための電力を生成するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−518259(P2012−518259A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550446(P2011−550446)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000474
【国際公開番号】WO2010/094391
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】