説明

少なくとも1つの電子求引性基を有する芳香族カルボン酸誘導体の芳香族求核置換による目的の化学化合物の調製方法

本発明は、芳香族求核置換による芳香族カルボン酸誘導体の調製方法に関し、上記方法は、1つのカルボキシル官能基のみを有する芳香族カルボン酸誘導体またはその塩のうちの1つを反応させることを含み、前記カルボン酸誘導体は、カルボキシル官能基の直角に脱離基を有し、上記脱離基は、フッ素または塩素原子またはアルコキシ基、キラルまたは非キラルであり、後者の場合、メトキシ基が好ましく、前記カルボン酸誘導体は、MNu試薬(式中、Mは金属であり、Nuは任意にキラル求核剤である)により、上記脱離基以外の少なくとも1つの電子求引性基、好ましくはフッ素原子で置換されており、前記芳香族求核置換反応は、触媒を用いず、最初の化合物の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに行い、前記方法は、上記反応では、反応中に非常に少量のケトン誘導体が生成されるという点で選択的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学合成の分野に関し、特に、本発明は、触媒の非存在下で、出発化合物の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに、脱離基以外の少なくとも1つの電子求引性基を有する芳香族カルボン酸誘導体に対して芳香族求核置換を行うことができる新しい方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
芳香族求核置換は、その目的がよく知られ、かつ工業で広く使用されている反応である。しかし、芳香族求核置換は、広く報告されている欠点、特に、触媒を使用する必要性およびその後の化学的官能化のための炭素結合点として必要なカルボキシル官能基(COH)を保護/脱保護するという必要性を有する。
【0003】
触媒は反応の終了時に捕捉および除去しなければならないため、その使用は制限されている。触媒は、汚染残留物であり、また、反応生成物中に微量の重金属を残しやすい(例えば、Konigsberger et al, Organic Process Research & Development 2003,
7, 733-742またはPink et al. Organic Process Research &
Development 2008, 12, 589-595を参照)。
【0004】
カルボキシル官能基(COH)の保護/脱保護の必要性は、求核置換を制限する必要性としてみなされている。COH官能基は有機金属化合物と反応して一般に望ましくないケトン誘導体を生成することが一般に認められている(Jorgenson, M. J. Org. React.
1970, 18, 1. Ahn, T.; Cohen, T. Tetrahedron Lett. 1994, 35, 203)。従って、求核置換反応の開始時におけるカルボキシル官能基の保護は必須の工程であると思われる。使用される保護基は一般に立体的に嵩高であり、求核置換を促進すると考えられている。
【0005】
従って、触媒および保護/脱保護のこのような必要性を克服できるようになることは、化学および医薬品業界における絶えず続く技術的課題である。
【0006】
フランス特許出願第1051226号では、当該出願人は、工業規模で高収率な芳香族求核置換方法と、最適化された数の工程を開示している。上記方法では、カルボン酸誘導体またはその塩に対して芳香族求核置換反応を行うが、前記誘導体は脱離基以外の電子求引性基によって置換されていない。
【0007】
本出願人は、自らの研究を遂行している際に、驚くべきことに、出発化合物として、脱離基以外の電子求引性基によって置換されたカルボン酸誘導体、特にジフルオロ安息香酸の使用により、保護されていないにも関わらず、カルボン酸に対するあらゆる求核攻撃を回避できることが分かった。その結果、実験条件が精選され、かつ目的のイプソ置換生成物が主に得られる場合には、ケトンの生成は非常に僅かになる。特に、カルボキシル官能基のオルト位に第1のフッ素原子が存在し、かつ芳香族環の4位または6位に第2のフッ素原子を存在させることにより、カルボン酸を求核攻撃に対して不活性にする。従って、本発明により、副生成物の生成を最小にすることができる。
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明は、芳香族求核置換による芳香族カルボン酸誘導体の選択的調製方法に関し、本方法は、
1つのみのカルボキシル官能基を有する芳香族カルボン酸誘導体またはその塩、好ましくは、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩もしくは亜鉛塩、好ましくは安息香酸誘導体またはその塩であって、
− 前記カルボン酸誘導体は、カルボキシル官能基のオルト位に脱離基を有し、上記脱離基は、フッ素もしくは塩素原子またはキラルもしくは非キラルアルコキシ基であり、後者の場合、メトキシ基が好ましく、
− 前記カルボン酸誘導体は、少なくとも1つの電子求引性基、好ましくはフッ素原子によって、脱離基で占められていない環の位置で置換されている、
芳香族カルボン酸誘導体またはその塩を、
MNu(式中、Mは金属であり、Nuはキラルもしくは非キラル求核剤である)反応物と反応させるが、
但し、
− 脱離基がフッ素原子であり、パラ位に臭素原子が存在し、かつ残りの位置が水素原子によって置換されている場合、NuMはiBuMgClまたはNuMgBr(式中、Nuはエチル、イソブチルまたはシクロペンテニル基である)ではなく、
− 脱離基がフッ素原子であり、他方のオルト位にハロゲンが存在し、パラ位ならびに脱離基に隣接するメタ位にフッ素原子が存在し、かつ他方のメタ位が水素原子で置換されている場合、NuMは、NuがC1〜6アルキルであるアルキル化剤ではなく、
− 出発化合物が2,3,4,6−テトラフルオロ安息香酸である場合、NuMはMeMgBrではなく、
前記芳香族求核置換反応を、触媒を用いず、出発化合物の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに行い、
本方法は、上記反応では、反応中にケトン誘導体の生成が非常に僅かであるという点で選択的であることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、当該反応の出発製品である芳香族カルボン酸誘導体は、一般式(II)の安息香酸誘導体:
【化1】

(式中、
− R1はCOHであり、
− R2は、フッ素もしくは塩素原子またはキラルもしくは非キラルアルコキシ基、好ましくはOCHであり、
− R3は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、R3は、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいはR3は、R4と共に環を形成してもよく、
− R4は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいはR4は、R3またはR5と共に環を形成していてもよく、
− R5は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいはR5は、R4またはR6と共に環を形成していてもよく、
− R6は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいはR6は、R5と共に環を形成していてもよいが、
但し、R3、R4、R5およびR6のうちの少なくとも1つは電子求引性基である)であり、
これを、
一般式NuM(式中、Nuは求核剤であり、Mは金属、好ましくは、Li、Mg、Zn、Cuまたは有機マグネシウム誘導体MgX(式中、Xは、ハロゲン原子またはアルコキシ基、好ましくはOCHである)である)の化合物(III)と反応させ、
前記芳香族求核置換反応を、触媒を用いず、化合物(II)の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに行って、
少なくともR2がNuで置換されている一般式(II)に対応する一般式(I)の化合物を選択的に得るが、
但し、
− 脱離基がフッ素原子であり、パラ位が臭素原子で置換されており、かつ残りの位置が水素原子によって置換されている場合、NuMは、iBuMgClまたはNuMgBr(式中、Nuはエチル、イソブチルまたはシクロペンテニル基である)ではなく、
− 脱離基がフッ素原子であり、他方のオルト位にハロゲンが存在し、パラ位ならびに脱離基に隣接するメタ位にフッ素原子が存在し、かつ他方のメタ位は水素原子で占められている場合、NuMは、NuがC1〜6アルキルであるアルキル化剤ではなく、
− 出発製品が2,3,4,6−テトラフルオロ安息香酸である場合、NuMはMeMgBrではない。
【0010】
好ましい実施形態によれば、R4またはR6のうちの少なくとも一方は電子求引性基であり、他方は上に定義したとおりであり、本実施形態において、
− 第1の他の実施形態では、R6が電子求引性基である場合ならびにR4およびR5が環を形成していない場合、R3およびR4は一緒に、特に官能基で任意に置換された、芳香族環もしくは非芳香族環または複素環を形成していてもよく、
− 第2の他の実施形態では、R6が電子求引性基である場合ならびにR3およびR4が一緒に環を形成していない場合、R4およびR5は一緒に、特に官能基で任意に置換された、芳香族環もしくは非芳香族環または複素環を形成していてもよく、
− 第3の他の実施形態では、R4が電子求引性基である場合、R5およびR6は一緒に、特に官能基で任意に置換された、芳香族環もしくは非芳香族環または複素環を形成していてもよい。
【0011】
一実施形態によれば、R3が、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基である場合、NuMによる脱離基R2の置換により、分子内反応が生じる。
【0012】
一実施形態によれば、R4、R5またはR6は、その隣接位置のうちの1つが脱離基として機能することができる置換基で占められ、それにより分子内反応が生じる場合、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
手順
有利には、当該反応を−78℃〜溶媒還流温度で行う。当該反応を、極性非プロトン性溶媒、好ましくは無水THF(テトラヒドロフラン)もしくはジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、またはペンタン、ヘキサン、ヘプタンもしくはオクタンなどの炭化水素中で行うことが好ましい。
【0014】
有利には、NuM化合物を−78℃〜溶媒還流温度で滴下することが好ましい。
【0015】
当該溶液を撹拌した後、水で加水分解することが好ましい。有利には、加水分解を低温で行う。塩酸水溶液(2N)でpHを1に調整し、この溶液を適当な溶媒、例えば酢酸エチルで抽出する。次いで、有機相を乾燥および真空濃縮する。粗生成物を再結晶化するかクロマトグラフィにかける。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1当量のNuMを、1当量の出発芳香族カルボン酸誘導体に対して使用する。有利には、この当量に加えて、置換される出発分子の脱離基1つにつき1当量のNuMを添加する。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、芳香族カルボン酸誘導体の酸官能基に対応する金属塩を形成するために、1当量の出発芳香族カルボン酸誘導体に対して、少なくとも1当量の金属塩基、好ましくはブチルリチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムまたは水素化リチウムを使用し、置換される出発分子の脱離基1つにつき少なくとも1当量のNuMを添加する。
【0018】
非常に僅かな量(<10%)のケトンが生成されるため、当該反応は選択的である。本発明に係る反応方法で期待される収率は、45〜100%、好ましくは45〜90%、より好ましくは60〜90%である。
【0019】
具体例
不斉炭素の存在
好ましい実施形態によれば、前記芳香族カルボン酸誘導体、好ましくは一般式(II)の前記安息香酸誘導体および/または求核剤に不斉炭素が存在し、得られる一般式(I)の化合物は非対称である。非常に有利には、芳香族カルボン酸誘導体、好ましくは一般式(II)の前記安息香酸誘導体は、少なくとも1つキラルな脱離基を有する。
【0020】
キラル配位子の使用
具体的な実施形態では、キラル配位子を反応混合物に添加する。この配位子は、本発明の反応生成物(I)にキラリティを与えることを目的としている。
【0021】
本発明によれば、前記キラル配位子を、キラルジアミン、キラルジエーテル、キラルアミノエーテル、多点結合キラルアミノエーテルおよびビスオキサゾリン配位子から選択してもよい。使用することができるキラル配位子の例を表1に示す。
【表1】

【0022】
R2がフッ素または塩素原子である具体例
第1の実施形態によれば、R2がフッ素または塩素原子である場合、Nuは置換または非置換アミンではなく、特に、Nuはアニリン誘導体ではない。
【0023】
第2の実施形態によれば、R2がフッ素または塩素原子である場合、Nuは置換または非置換アミンではない。
【0024】
第3の実施形態によれば、R2はフッ素または塩素原子であり、一般式NuMの化合物の求核剤はアニリン誘導体である。本実施形態では、第1の態様によれば、化合物NuMは、以下に記載する合成経路に従って得られるが、但し、NuMは、求核剤と、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、マグネシウムエトキシドおよびLiHMDSから選択される金属塩基との反応生成物ではない。本実施形態では、第2の態様によれば、化合物NuMは、求核剤とブチルリチウムとの反応によって得られる。
【0025】
ジフルオロ安息香酸の具体例
本発明の方法の具体的な実施形態によれば、一般式(II)の化合物は、
− R1はCOHであり、
− R2およびR6はそれぞれ独立してフッ素原子であり、かつ
− R3、R4、R5はそれぞれ独立して水素原子である。
【0026】
このような具体的な化合物と求核剤NuMとの反応により、一置換または二置換された生成物のみが得られる。対応するケトンは生成されず、カルボキシル官能基は求核攻撃を受けない。
【0027】
従って、以下の一置換された生成物または一置換および二置換された生成物の混合物が得られる:
【化2】

【0028】
本発明に係る方法の別の具体的な実施形態によれば、一般式(II)の化合物は、
− R1はCOHであり、
− R2およびR4はそれぞれ独立してフッ素原子であり、かつ
− R3、R5、R6はそれぞれ独立して水素原子である。
【0029】
このような具体的な化合物と求核剤NuMとの反応により、一置換された生成物のみが生成される。対応するケトンは生成されず、カルボキシル官能基は求核攻撃を受けない。
【0030】
一置換された生成物または一置換および二置換された生成物の混合物が得られる。
【化3】

【0031】
NuM化合物(III)の入手
第1の実施形態によれば、化合物NuMを直接合成によって得てもよい(Carey & Sundberg,
Advanced Organic Chemistry, Part A Chapter 7, "Carbanions and Other
Nucleophilic Carbon Species", pp. 405-448)。
【0032】
第2の実施形態によれば、化合物NuMを、リチウム塩およびアニオンラジカルから得てもよい(T. Cohen et al. JACS
1980, 102, 1201; JACS 1984, 106, 3245; Acc. Chem. Res, 1989, 22, 52)。
【0033】
第3の実施形態によれば、化合物NuMを、金属−ハロゲン交換によって得てもよい(Parham, W. E.; Bradcher, C.
K. Acc. Chem. Res. 1982, 15, 300-305)。
【0034】
第4の実施形態によれば、化合物NuMを、配向性メタル化によって得てもよい(V. Snieckus, Chem. Rev, 1990,
90, 879; JOC 1989, 54, 4372)。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、化合物NuMは、求核剤とn−BuLiとの反応によって得られる。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によれば、化合物NuMは、求核剤と塩基、特に金属塩基または有機金属塩基との反応によって得られる。第1の実施形態によれば、当該塩基はLiNHではない。第2の実施形態によれば、金属塩基は、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、マグネシウムエトキシドおよびLiHMDSからなる群から選択されない。第3の実施形態によれば、当該塩基はブチルリチウムであり、本実施形態では、有利には、化合物NuMは、求核剤とn−BuLiとの反応によって得られる。第4の実施形態によれば、当該塩基はキラルであり、NuMにキラリティを生じさせる。
【0037】
好ましくは、Nuは、表2、表3および表4に示すNuから選択される求核剤である。
【表2】


【表3】

【0038】
本発明の第1の好ましい実施形態によれば、表2および表3では、Mは、LiまたはMgである。
【0039】
好ましい実施形態によれば、Mは、Li、Mg、Cu、ZnまたはMgX(式中、Xはハロゲンまたはアルコキシである)であり、Nuは、N(C1〜6アルキル)、NH(C1〜6アルキル)、NEt2、N(CHCHNMe、NMeBn、NBn2、NMePh、NHt−BuまたはNPhである。
【0040】
有利には、表2および表3では、MがMgXであり、Xがハロゲンである場合、ハロゲンは、F、Br、Clから選択される。有利には、MがMgXであり、Xがアルコキシである場合、アルコキシはOCHまたはOCである。本発明の好ましい実施形態によれば、MはMgBrまたはMgOCHである。
【0041】
本発明に係る好ましいキラルNuM化合物を以下の表4に例示する。
【表4】


【0042】
本発明の具体的な実施形態によれば、表2〜表4のうちの1つに示す芳香族環の置換されていない位置はそれぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのC1〜12アルキル基で置換されているか置換されていないアミンで置換されていてもよい。
【0043】
好ましくは、Mは、Li、MgBrであり、好ましくは、Nuは、n−Bu、s−Bu、t−Bu、メチル、フェニル、2−MeC、2−MeOC、4−MeC、4−MeOCまたはナフタレンである。
【0044】
好ましいNuM化合物は、n−Buli、s−Buli、t−Buli、MeLi、PhLi、PhMgBr、2−MeCLi、2−MeOCLi、4−MeCLi、4−MeOCLi、1−Liナフタレン、2−Liナフタレンである。
【0045】
定義
本発明の意味では、「アリール」という用語は、フェニル基、ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、インダニル基およびビナフチル基を挙げることができる1つまたは複数の芳香族環(2つの環が存在する場合は、ビアリールと呼ぶ)を有する5〜20個、好ましくは6〜12個の炭素原子からなる単環系または多環系を意味する。アリールという用語は、酸素、窒素または硫黄原子から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含むあらゆる芳香族環も意味する。アリール基は、ヒドロキシル基、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を含む直鎖状または分岐鎖状アルキル基(特に、メチル、エチル、プロピル、ブチル)、アルコキシ基、またはハロゲン原子(特に臭素、塩素およびヨウ素)の中から互いに独立して選択された1〜3つの置換基で置換されていてもよい。
【0046】
「触媒」という用語は、反応の速度を上昇させるために前記反応に関与するが、反応中または反応の終了時に再生または除去されるあらゆる製品を指す。
【0047】
「カルボキシル官能基(COH)を保護する」とは、前記官能基に、求核剤に関するカルボキシル官能基の反応性を消失させる基を付加することを意味し、この基は、オキサゾリンであってもよく、オキサゾリン官能基以外の数多くの化学基:2,6−ジtert−ブチル−4−メトキシフェニルエステル(Hattori, T.; Satoh, T.; Miyano, S. Synthesis 1996, 514. Koshiishi,
E.; Hattori, T.; Ichihara, N.; Miyano, S. J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1 2002,
377)、アミド(Kim, D.; Wang, L.; Hale, J. J.; Lynch, C. L.;
Budhu, R. J.; MacCoss, M.; Mills, S. G.; Malkowitz, L.; Gould, S. L.; DeMartino,
J. A.; Springer, M. S.; Hazuda, D.; Miller, M.; Kessler, J.; Hrin, R. C.;
Carver, G.; Carella, A.; Henry, K.; Lineberger, J.; Schleif, W. A.; Emini, E.
A. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2005, 15(8), 2129)、アルキルアミド(Guo,
Z.; Schultz, A. G. Tetrahedron Lett. 2001, 42(9), 1603)、ジアルキルアミド(Hoarau, C.; Couture, A.; Deniau, E.; Grandclaudon, P. Synthesis
2000)、1−イミダゾリル (Figge, A.; Altenbach, H. J.; Brauer, D.
J.; Tielmann, P. Tetrahedron: Asymmetry 2002, 13(2), 137)、2−オキサゾリル(Cram, D. J.; Bryant, J. A.; Doxsee, K. M. Chem. Lett. 1987, 19)、2−チアゾリルなどが、COH官能基を保護するために使用される。
【0048】
「脱離基」とは、求核剤との置換反応中にそれを芳香族炭素原子に結合させるシグマ結合の2つの電子を生成する基を意味し、本発明によれば、脱離基はキラルまたは非キラルであってもよく、本発明の好ましい実施形態によれば、脱離基はキラルであり、本発明によれば、脱離基は電子求引性または非電子求引性であってもよい。
【0049】
「アルキル」とは、1〜12個の炭素原子、好ましくは1〜6個の炭素原子を有するあらゆる直鎖状または分岐鎖状飽和炭化水素鎖、より好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチルおよびtert−ブチルを意味する。
【0050】
「アルコキシ」とは、あらゆるO−アルキルまたはO−アリール基を意味する。
【0051】
「アルケニル」とは、炭素原子数2〜12、好ましくは炭素原子数2〜6の少なくとも1つの二重結合を有するあらゆる直鎖状または分岐鎖状炭化水素鎖を意味する。
【0052】
「アルキニル」とは、炭素原子数2〜12、好ましくは炭素原子数2〜6の少なくとも1つの三重結合を有するあらゆる直鎖状または分岐鎖状炭化水素鎖を意味する。
【0053】
「アミン」とは、1つまたは複数の水素原子を有機ラジカルで置換することによってアンモニアNHから誘導されるあらゆる化合物を意味する。本発明によれば、好ましいアミンはアニリン誘導体である。
【0054】
「官能基」とは、それを含有する分子に特異的な反応性を与える原子の集合体を含む下位分子構造、例えば、オキシ、カルボニル、カルボキシおよびスルホニル基などを意味する。
【0055】
「求核剤」とは、その特性が、非共有電子対を有する帯電したか帯電していない少なくとも1つの原子を含むことである非環式または環式化合物を意味する。本発明の好ましい実施形態によれば、「求核剤」とは、その特性が、非共有電子対を有する帯電した、好ましくは負に帯電した少なくとも1つの原子を含むことである非環式または環式化合物を意味する。
【0056】
「キラルであってもよい求核剤」とは、少なくとも1つの不斉炭素を有する求核剤を意味する。
【0057】
「電子求引性基」とは、特に芳香族基の置換基、例えば、特に、NO、CN、ハロゲン、COR、CONR、CH=NR、(C=S)OR、(C=O)SR、CSR、SOR、SONR、SOR、P(O)(OR)、P(O)(R)、またはB(OR)型(式中、Rは、アルキル、アリールまたは水素原子である)の基である場合に、電子を引きつける能力を有する官能基を意味する。アミンおよびアルコキシ基は電子求引性基ではない。
【0058】
「複素環」とは、アルキルで任意に置換された、O、S、Nから選択された1〜2個のヘテロ原子を含む5員または6員の環を有する環を意味する。
【0059】
「MNu」とは、Mが金属であり、かつNuが独立した求核剤または一般式(II)の安息香酸誘導体の芳香族環の置換基である反応物を意味し、前記置換基は、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる。Nuが(II)の芳香族環の置換基である場合、芳香族求核置換反応は、置換基上に形成されたMNu官能基とカルボン酸官能基に対してオルト位にある脱離基との間で分子内で生じる。
【0060】
本発明は、非限定的に本発明に係る方法を例示する以下の実施例を見れば、より理解することができる。
【実施例】
【0061】
全ての反応を、無水溶媒を用いて不活性雰囲気下で行う(Gordon, J. A.; Ford, R. A. The Chemist's Companion, Wiley J. and
Sons, New York, 1972)。無水THF GTS100ステーション(Glass Technology社)によってTHFを蒸留する。アルキルリチウム誘導体を、N−ベンジルベンズアミドで定期的に滴定する(Burchat, A. F.;
Chong, J. M.; Nielsen, N. J. Organomet. Chem. 1997, 542, 281)。
【0062】
S−ブチルリチウム(1.4Mのシクロヘキサン溶液)、n−ブチルリチウム(1.6Mのヘキサン溶液)、t−ブチルリチウム(1.7Mのペンタン溶液)およびフェニルリチウム(1.8Mのジブチルエーテル溶液)は、Acros Chemicals and Aldrich
Chemical Company社から販売されている。
【0063】
プロトンH(400MHzまたは200MHz)および炭素13C(50MHzまたは100.6MHz)の核磁気共鳴スペクトルを、Bruker AC 400またはDPX 200装置で記録した。化学シフトδは100万分の1(ppm)で表す。
【0064】
CDClを溶媒として使用する場合は、テトラメチルシラン(TMS)を内部基準として使用する。アセトン−dおよびDMSO−dの場合は、溶媒の信号に対して化学シフトを得る。結合定数はヘルツ(Hz)で表す。NMRスペクトルを記述するために以下の省略形を使用する:s(一重線)、d(二重線)、dd(二重の二重線)、t(三重線)、q(四重線)、m(多重線)、sept(七重線)。
【0065】
高分解能分光計(GCT First High-Resolution
Micromass)を用いて化学衝撃モードまたは電界イオン化モードで質量スペクトルを記録した。正確な質量測定のために得られる精度は4桁である。
【0066】
ジフ=シュル=イヴェットにあるICSNの微量分析センターで元素分析を行った。Nicolet(登録商標)Avatar(登録商標)370DTGS分光計で赤外線スペクトルを記録した。Buchi Melting Point B-540装置で融点を測定した。
【0067】
実施例1:2−n−ブチル−6−フルオロ安息香酸の調製
【化4】


n−BuLi(6.9mL、11mmol、1.6Mのヘキサン溶液)を、2,6−ジフルオロ安息香酸(791mg、5mmol)の無水THF(30mL)溶液に−78℃で添加する。反応混合物をこの温度で2時間撹拌した後、ヨードメタン(1.25mL、12mmol)を添加する。この溶液を、室温で水(20mL)で加水分解し、2つの相を分離する。水相を酢酸エチル(3×40mL)で洗浄する。次いで、水相をpH1に酸性化し、酢酸エチル(3×40mL)で抽出する。一緒にした有機相をMgSOで乾燥し、真空濃縮する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィ(シクロヘキサン:酢酸エチル=95:5)で精製して、2−ブチル−6−フルオロ安息香酸(425mg、2.17mmol、43%)を黄色の油として得る。加水分解前にヨードメタンを添加しても反応の結果は変わらない。1H NMR(400 MHz, CDCl3)
δ: 11.04(s 大きい, 1H), 7.35(td, JHF = 5.7 Hz, J = 8.0 Hz, 1H, H5), 7.05(d, J = 7.6 Hz,
1H, H4), 6.97(dd, J = 8.2 Hz, JHF = 9.6 Hz, 1H, H6), 2.81(t, J = 7.8 Hz, 2H),
1.62(m, 2H) 1.38(m, 2H), 0.93(t, J = 7.3 Hz, 3H)。13C NMR(100 MHz, CDCl3) δ: 171.6,
160.3(d, J = 253 Hz), 144.2(d, J = 1.3 Hz), 131.9(d, J = 9.2 Hz), 120.0(d, J = 14.3
Hz), 125.5(d, J = 3.2 Hz), 113.4(d, J = 21.8 Hz), 33.5, 33.2, 22.5, 13.8。IR(ATR, cm-1): 2960, 2873, 2662, 2873, 1704, 1615, 1576,
1467, 1405, 1293, 1125, 805, 775。HRMS [M+NH4]+
C11H17NO2F:の理論値:214.1243、測定値:214.1246。
【0068】
実施例2:2,6−ジ−sec−ブチル安息香酸の調製
【化5】

実施例1の手順に従って、2,6-ジフルオロ安息香酸(791mg、5mmol)およびs−BuLi(10.7mL、15.0mmol、1.4Mのシクロヘキサン溶液)から上記化合物を調製する。反応混合物を0℃で4時間撹拌する。結晶化(シクロヘキサン/酢酸エチル)による精製によって、2,6−ジ−sec-ブチル安息香酸(650mg、2.77mmol、55%)を白色の固体(融点125〜126℃)として得た。加水分解前にヨードメタンを添加しても反応の結果は変わらない。1H NMR(400 MHz, CDCl3)
δ: 7.36(t,
J = 7.8 Hz, 1H), 7.13(d, J = 7.8 Hz, 2H), 2.73(sext, J = 7.0 Hz, 2H), 1.75-1.55(m,
4H), 1.27(dd, J = 1.6 Hz, J = 6.8 Hz, 6H), 0.85(t, J = 7.4 Hz, 6H)。13C NMR(100 MHz, CDCl3) δ: 176.2, 143.2, 133.4, 129.5, 122.8, 38.7, 30.9, 22.0, 12.1。IR(ATR, cm-1): 2955, 2925, 2864, 1705, 1594, 1585, 1456,
1390, 1379, 1260, 1134, 1003, 908, 803, 764, 699, 609。HRMS
[M+NH4]+ C15H26NO2の理論値:252.1964、測定値:252.1963。
【0069】
実施例3:3−フルオロビフェニル−2−カルボン酸の調製
【化6】

一般的な手順に従って、2,6−ジフルオロ安息香酸(474mg、3mmol)およびPhLi(4.55mL、6.6mmol、1.45Mのジ−n−ブチルエーテル溶液)から上記化合物を調製する。反応混合物を−30℃で2時間撹拌する。本化合物を回収し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(シクロヘキサン:酢酸エチル=95:5〜90:10)で精製して、3−フルオロビフェニル−2−カルボン酸(185mg、0.856mmol、29%)を黄色の固体(融点122.5〜125℃)として得る。1H NMR(200 MHz, CDCl3) δ: 7.53-7.40(m, 6H),
7.22-7.09(m, 2H)。13C
NMR(50 MHz, CDCl3) δ: 171.1, 159.8(d, J = 252.6
Hz), 142.8(d, J = 2.4 Hz), 139.0(d, J = 2.3 Hz), 131.7(d, J = 9.1 Hz), 128.5(2*C),
128.2(2*C), 128.1, 125.7(d, J = 3.2 Hz), 120.3(d, J = 15.7 Hz),
114.7(d, J = 21.6 Hz)。IR(ATR, cm-1): 2860,
2654, 1690, 1612, 1567, 1460, 1401, 1293, 1267, 1238, 1127, 1097, 897, 803,
771, 702, 549。HRMS [M]+ C13H9FO2の理論値:216.0587、実測値:216.0587。
【0070】
実施例4:3−フルオロ−4−メトキシ−ビフェニル−2−カルボン酸の調製
【化7】

n−BuLi(7.9mL、11mmol、1.39Mのヘキサン溶液)を、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン(2.057g、1.40mL、11mmol)の無水THF(20mL)溶液に−78℃で滴下する。反応混合物をこの温度で1時間撹拌した後、−50℃まで温め、2,6−ジフルオロ安息香酸(791mg、5mmol)の無水THF溶液を添加する。反応混合物を−30℃まで温め、この温度で2時間撹拌する。この溶液を、室温で水(25mL)で加水分解し、2つの相を分離する。水相を酢酸エチル(3×40mL)で洗浄する。次いで、水相をpH1に酸性化し、酢酸エチル(3×40mL)で抽出する。一緒にした有機相をMgSOで乾燥し、真空濃縮する。残留物をシリカゲルクロマトグラフィ(シクロヘキサン:酢酸エチル=95:5〜8:2)で精製する。3−フルオロ−4−メトキシビフェニル−2−カルボン酸を無色の油として単離する(803mg、3.26mmol、65%)。1H NMR(200 MHz, CDCl3) δ:
7.50-7.30(m, 3H), 7.20-7.06(m, 2H), 6.97-6.90(m, 2H), 3.84(s, 3H)。13C NMR(50 MHz, CDCl3) δ: 171.1, 159.8(d, J = 252.1 Hz), 159.6, 142.4(d, J = 2.5 Hz),
131.6(d, J = 9.2 Hz), 131.4(d, J = 2.4 Hz), 129.4(2*C), 125.7(d, J =
3.1 Hz), 120.3(d, J = 15.7 Hz), 114.2(d, J = 21.5 Hz), 114.0(2*C),
55.2。IR(ATR, cm-1): 1703, 1698, 1610, 1514,
1462, 1455, 1288, 1236, 1178, 1094, 1029, 896, 806, 781, 692, 587。HRMS [M+H]+ C14H12FO3の理論値:247.0770、実測値:247.0780。
【0071】
実施例5:2,6−ビス−(ジエチルアミノ)安息香酸の調製
【化8】

2,6−ジフルオロ安息香酸(474mg、3mmol)の無水THF(10mL)溶液を、リチウムジエチルアミド溶液(15mmol、30mLのTHFで一般的な手順に従って調製)に−30℃で滴下する。反応混合物を−30℃で1時間撹拌した後、0℃で3時間撹拌する。反応混合物を室温で蒸留水(20mL)で加水分解し、2つの相を分離する。水相(AQ−1)を酢酸エチル(3×20mL)で抽出し、一緒にした有機相(ORGA1)をMgSOで乾燥する。ORGA1相は、2,6−ビス(ジエチルアミノ)安息香酸から誘導されたカルボン酸を主に含む。それを精製するために1NのNaOH水溶液10mLを添加し、反応混合物を減圧濃縮する。(10%HCl溶液によって)pHを7に調整した後、AcOEtで抽出し、純粋な2,6−ビス(ジエチルアミノ)安息香酸を白色の固体として単離する(180mg、0.69mmol)。次いで、水相AQ−1をHCl溶液(10%)でpHを7に調整し、ジクロロメタン(3×20mL)で抽出する。一緒にした有機相(ORGA2)をMgSOで乾燥する。ORGA2相は、純粋な2,6−ビス(ジエチルアミノ)安息香酸(240mg、0.92mmol)を含む。(全体収率:420mg、53%)。
【0072】
同じ手順に従うが、出発物質として2,6−ジメトキシ安息香酸(546mg、3mmol)を用いて、2,6−ビス(ジエチルアミノ)安息香酸を53%の収率(420mg)で単離する。融点=112〜114℃。1H NMR(CDCl3; 200 MHz) δ: 7.38(t;
J = 8.0 Hz, 1H), 6.90(d; J = 8.0 Hz; 2H), 3.21(q; J = 7.2 Hz; 8H), 1.11(t; J =
7.2 Hz; 12H)。NMR 13C(CDCl3;
100MHz): 167.1; 150.7; 131.3; 119.6; 115.6; 48.7; 11.9。IR(ATR,
cm-1): 3430; 2671; 2612; 2072; 1582; 1459; 1368; 1262。HRMS m/z C15H25N2O2([M]+)の理論値: 265.1871、実測値:265.1909。
【0073】
実施例6:2−(N−メチル−N−フェニル)−6−フルオロ安息香酸の調製
【化9】

2,6−ジフルオロ安息香酸(474mg、3mmol)の無水THF(10mL)溶液を、リチウム(N−メチル−N−フェニル)アミド溶液(15mmol、30mLのTHFで一般的な手順に従って調製)に室温で滴下する。この溶液を1時間室温で撹拌した後、60℃で一晩撹拌する。反応混合物を室温で蒸留水(20mL)で加水分解し、2つの相を分離する。水相(AQ−1)を酢酸エチル(3×20mL)で抽出した後、HCl溶液(10%)でpHを7に調整し、ジクロロメタン(3×20mL)で抽出する。一緒にした有機相(ORGA2)をMgSOで乾燥する。ORGA2相は、純粋な2−(N−メチル−N−フェニル)−6−フルオロ安息香酸(190mg、0.92mmol)を含む。(10%HClで)pHを1に酸性化した後、残った水相をジクロロメタンで抽出する。得られた有機相(ORGA3)をMgSOで乾燥する。この有機相は、プロトン化した2−フルオロ−6−(N−メチル−N−フェニル)安息香酸を含む。それを精製するために1NのNaOH水溶液10mLを添加し、反応混合物を減圧濃縮する。pHを7に(10%HClで)酸性化し、AcOEtで抽出した後、純粋な2−(N−メチル−N−フェニル)−6−フルオロ安息香酸を濃いベージュ色の固体(340mg)として単離する。(全体収率:530mg、72%)。融点=120〜122℃。1H NMR(CDCl3; 200 MHz): 7.46(d;
JH,H = 8 Hz; JH,F = 6 Hz; 1H), 7.24(dd; J = 8.8 Hz; J =
7.2 Hz; 2H); 7.06(dd; JH,H = 8.8 Hz; JH,F = 9.6 Hz; 1H);
6.98(d; J = 8 Hz; 1H); 6.94(t; J = 7.2 Hz; 1H); 6.82(d; J = 8.8 Hz; 2H);
3.25(s; 3H)。NMR 13C(CDCl3; 100MHz): 166.0; 160.5(J = 260
Hz); 149.0; 148.3; 133.6(d, J = 10 Hz); 129.5; 123.7; 122.8; 121.4; 117.5;
114.1(d, J = 22 Hz); 41.4。NMR 19F(CDCl3,
376MHz) = -111.0。IR(ATR, cm-1): 3063; 1705;
1613; 1495; 1350; 1161; 1209; 995; 825; 756; 694; 608。
【0074】
実施例7:2,6−ジ−s−ブチル安息香酸の調製
【化10】

s−ブチルリチウム(1.25Mのシクロヘキサン溶液、12mL、15mmol)を、2,6−ジフルオロ安息香酸(474mg、3mmol)の無水THF(20mL)溶液に0℃で添加する。0℃で4時間撹拌した後、反応混合物を蒸留水(20mL)で加水分解し、水相を酢酸エチル(3×20mL)で抽出する。一緒にした有機相をMgSOで乾燥し、濾過および減圧濃縮する。再結晶化(シクロヘキサン/酢酸エチル)後、2,6−ジ−s−ブチル安息香酸を白色の固体として単離する(650mg、56%)。融点=125〜126℃。1H NMR(CDCl3; 200 MHz): 7.35(t; J = 7.8 Hz; 1H), 7.25(d; J
= 7.8 Hz; 2H), 2.72(m; 1H), 1.68(m; 2H), 1.26(d; J = 7.0 Hz; 3H), 0.85(t; J =
7.4 Hz; 3H)。13C
NMR(CDCl3; 100 MHz): 176.5; 143.5; 133.0; 129.0; 122.5; 39.4; 31.5;
22.5; 12.0。IR(ATR, cm-1): 2954; 2925; 2863;
1704; 1594; 1584; 1456; 1390; 1379; 1260; 1234; 1134。
【0075】
実施例8:2−n−ブチル−6−フルオロ安息香酸の調製
【化11】

n−ブチルリチウム(1.55Mのシクロヘキサン溶液、7.1mL、11mmol)を、2,6−ジフルオロ安息香酸(790mg、5mmol)の無水THF(30mL)溶液に0℃で添加する。0℃で2時間撹拌した後、反応混合物を蒸留水(30mL)で加水分解する。水相を酢酸エチル(3×30mL)で抽出し、HCl(10%)を添加してpHを1に酸性化した後、酢酸エチルで抽出する。一緒にした有機相をMgSOで乾燥し、濾過および減圧濃縮する。再結晶化(シクロヘキサン/酢酸エチル)後、2−フルオロ−6−n−ブチル安息香酸を淡黄色の固体として単離する(560mg、57%)。1H NMR(CDCl3; 200
MHz): 7.34(dd; JH,H = 8.2 Hz; JH,F = 5.6 Hz; 1H), 7.04(d;
J = 8.2 Hz; 1H), 6.96(dd; JH,H = 8.2 Hz; JH,F = 9.6 Hz; 1H),
2.81(t; J = 7.6 Hz; 2H), 1.68(m; 2H), 1.39(m; 2H), 0.91(t; J = 7.6 Hz; 3H)。13C NMR(CDCl3; 100 MHz): 172.1, 160.0(d; J = 250 Hz),
144.3; 132.0(d; J = 10 Hz); 131.2; 125.5(d; J = 14 Hz); 120.0(d; J = 21 Hz);
113.6; 33.6; 22.5; 13.8。IR(ATR, cm-1): 2960;
2873; 2662; 1704; 1615; 1576; 1466; 1405; 1293; 1125; 805; 774.8。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族求核置換による芳香族カルボン酸誘導体の調製方法であって、
1つのみのカルボキシル官能基を有する芳香族カルボン酸誘導体またはその塩、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム塩もしくは亜鉛塩、好ましくは安息香酸誘導体またはその塩であって、
− 前記カルボン酸誘導体は、カルボキシル官能基のオルト位に脱離基を有し、前記脱離基は、好ましくはフッ素または塩素原子またはキラルもしくは非キラルアルコキシ基であり、後者の場合、メトキシ基が好ましく、
− 前記カルボン酸誘導体は、前記脱離基以外の少なくとも1つの電子求引性基、好ましくはフッ素原子で置換されている、
芳香族カルボン酸誘導体またはその塩を、
MNu(式中、Mは金属であり、Nuはキラルもしくは非キラル求核剤である)反応物と反応させるが、
但し、
− 前記脱離基がフッ素原子であり、臭素原子がパラ位にあり、かつ残りの位置が水素原子によって置換されている場合、NuMはiBuMgClまたはNuMgBr(式中、Nuはエチルもしくはイソブチルまたはシクロペンテニル基である)ではなく、
− 前記脱離基がフッ素原子であり、他方のオルト位にハロゲンが存在し、パラ位ならびに前記脱離基に隣接するメタ位にフッ素原子が存在し、かつ他方のメタ位に水素原子が存在する場合、NuMはNuがC1〜6アルキルであるアルキル化剤ではなく、
− 前記出発化合物が2,3,4,6−テトラフルオロ安息香酸である場合、NuMはMeMgBrではなく、
前記芳香族求核置換反応を、触媒を用いず、前記出発化合物の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに行い、
本方法は、前記反応では、前記反応中にケトン誘導体の生成が非常に僅かであるという点で選択的であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反応の出発化合物である前記カルボン酸誘導体は、一般式(II)の安息香酸誘導体:
【化1】

(II)
(式中、
R1はCOHであり、
R2は、フッ素または塩素原子またはキラルもしくは非キラルアルコキシ基、好ましくはOCHであり、
R3は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、R3は塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいは、R3はR4と共に環を形成してもよく、
R4は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいは、R4は、R3もしくはR5と共に環を形成していてもよく、
R5は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、あるいは、R5は、R4もしくはR6と共に環を形成してもよく、
R6は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール、あるいは1つまたは2つのアルキル基もしくは電子求引性基で置換されているか置換されていないアミンであるか、塩基および金属の存在下で反応してMNuを形成することができる置換基であるか、R6は、R5と共に環を形成してもよいが、
但し、R3、R4、R5およびR6のうちの少なくとも1つは電子求引性基である)であり、
これを、
一般式NuM(式中、Nuは求核剤であり、Mは金属、好ましくはLi、Mg、Zn、Cuまたは有機マグネシウム誘導体MgX(式中、Xはハロゲン原子またはアルコキシ基、好ましくはOCHである)である)の化合物(III)と反応させ、
前記芳香族求核置換反応を、触媒を用いず、前記化合物(II)の酸官能基の保護/脱保護の工程を含めずに行って、
少なくともR2がNuで置換されている一般式(II)に対応する一般式(I)の化合物を選択的に得るが、
但し、
− 前記脱離基がフッ素原子であり、臭素原子がパラ位にあり、かつ残りの位置が水素原子によって置換されている場合、NuMはiBuMgClまたはNuMgBr(式中、Nuはエチルもしくはイソブチルまたはシクロペンテニル基である)ではなく、
− 前記脱離基がフッ素原子であり、他方のオルト位にハロゲンが存在し、パラ位ならびに前記脱離基に隣接するメタ位にフッ素原子が存在し、かつ他方のメタ位に水素原子が存在する場合、NuMはNuがC1〜6アルキルであるアルキル化剤ではなく、
− 前記出発化合物が2,3,4,6−テトラフルオロ安息香酸である場合、NuMはMeMgBではないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
NuMは、MがLi、Mg、Cu、ZnまたはMgX(式中、Xはハロゲンまたはアルコキシである)であり、Nuが以下に記載するとおりであるNuMである、請求項1または2に記載の方法。
【表1】


【請求項4】
NuMは、MがLi、Mg、Cu、ZnまたはMgX(式中、Xはハロゲンまたはアルコキシである)であり、NuがN(C1〜6アルキル)、NH(C1〜6アルキル)、NEt、N(CHCHNMe、NMeBn、NBn2、NMePh、NHt−Bu、NPhである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
NuMは、MがLi、Mg、Cu、ZnまたはMgX(式中、Xはハロゲンまたはアルコキシである)であり、Nuが以下に記載するとおりであるNuMである、請求項1または4のいずれか1項に記載の方法。
【表2】

【請求項6】
NuMは、MがLiまたはMgであり、Nuが以下に記載するとおりであるNuMである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【表3】


【請求項7】
不斉炭素が前記芳香族カルボン酸誘導体の脱離基および/または前記求核剤に存在し、得られる一般式(I)の化合物が非対称である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1当量の出発カルボン酸誘導体に対して、少なくとも1当量のNuMを使用する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族カルボン酸誘導体の酸官能基に対応する金属塩を形成するために、1当量の出発芳香族カルボン酸誘導体に対して、少なくとも1当量の金属塩基、好ましくはブチルリチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムまたは水素化リチウムを使用し、置換される出発分子の脱離基1つにつき、少なくとも1当量のNuMを添加する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−519715(P2013−519715A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553380(P2012−553380)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050349
【国際公開番号】WO2011/101604
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512211752)センター ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィック (2)
【出願人】(512211198)ユニバーシティ ドゥ メイン (2)
【Fターム(参考)】