説明

尿毒症改善薬、および尿毒症改善用食品

【課題】尿毒症改善薬および尿毒症改善用食品を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表される架橋セルロース誘導体の金属塩を有効成分とすることを特徴とする尿毒症改善薬。R−O−A(I){式(I)中、Rは架橋セルロース残基を表し、Aは陽イオン交換能を有する官能基aを表す。}陽イオン交換能を有する官能基としてはスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等であり、具体的な化合物としては硫酸化セルロースカルシウム塩等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は尿毒症改善薬および尿毒症改善用食品に関する。
【背景技術】
【0002】
腎機能の低下は、尿毒症を引き起こし、腎不全の進行による尿毒症の顕在化は、生命に危険を及ぼすものである。
【0003】
現在、腎不全治療の主流となっている血液透析は、時間的拘束が大きく、血液透析を受ける患者に対し、大きな時間的制約、肉体的・精神的および経済的負担が強いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の目的は、尿毒症改善薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ナトリウム吸収阻害剤、カリウム吸収阻害剤およびリン吸収阻害剤として、過剰摂取等されたナトリウム、カリウムまたはリンの消化管内での吸収を阻害することにより、ナトリウム、カリウムまたはリンの糞中への排泄を促進させる作用に優れる、消化管障害の軽い、架橋セルロース誘導体の金属塩を開発してきた(特願2006−349270号明細書)。
【0006】
その後の本発明者らの研究により、架橋セルロース誘導体の金属塩が腎摘出ラットに対し、優れた延命効果を有することを見出した。これは、消化管から分泌、または腸管内で産生される尿毒症の原因物質を、架橋セルロース誘導体の金属塩がトラップしているものと推測される。
【0007】
本発明者らは上記知見に基づき、本発明を完成したものである。すなわち本発明は、以下の尿毒症改善薬および食品を提供するものである。
【0008】
[1] 下記一般式(I)で表される架橋セルロース誘導体の金属塩を有効成分とすることを特徴とする尿毒症改善薬。
【0009】
R−O−A (I)
{式(I)中、Rは架橋セルロース残基を表し、Aは陽イオン交換能を有する官能基aを表す。}
[2] 前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.2以上であることを特徴とする前記[1]記載の尿毒症改善薬。
【0010】
[3] 前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.4以上であることを特徴とする前記[1]記載の尿毒症改善薬。
【0011】
[4] 前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.5以上であることを特徴とする前記[1]記載の尿毒症改善薬。
【0012】
[5] 官能基aが、下記一般式(II)〜(V)で表される基から選択されることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【0013】
【化1】

【0014】
{式(II)〜(V)中、alkは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、lは0〜5の整数を表し、mは0または1を表し、nは0〜2の整数を表す。}
[6] 官能基aが、下記一般式(II−1)、(II−2)、(III−1)〜(III−5)、(IV−1)、(V−1)および(V−2)から選択されることを特徴とする前記[5]記載の尿毒症改善薬。
【0015】
【化2】

【0016】
[7] 複数種の官能基aの組み合わせが、下記(c−1)〜(c−3)のいずれかであることを特徴とする前記[6]記載の尿毒症改善薬。
【0017】
【化3】

【0018】
[8] 前記架橋セルロース誘導体が結晶性セルロースを用いて製造されたことを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【0019】
[9] 前記架橋セルロース誘導体が架橋剤としてエピクロロヒドリンを用いて製造されたことを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【0020】
[11] 前記[1]〜[9]のいずれかに記載のセルロース誘導体の金属塩を含有することを特徴とする尿毒症改善用食品。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
架橋セルロース誘導体は、架橋工程と置換基導入工程とを含む製造方法によって製造することができる。架橋工程後に置換基導入工程を行うことが置換基の安定性の点から好ましい。すなわち、セルロースを架橋剤によって架橋して架橋セルロースを得る架橋工程、および該架橋セルロースの架橋に用いられなかった残りの水酸基の一部又は全部における水素原子を陽イオン交換能を有する官能基aで置換する置換基導入工程により得ることが好ましい。
【0022】
セルロースとしては、公知の種々のセルロースを用いることができ、その分子量も特に限定されないが、重合度が均質化されて一定幅である、結晶性セルロース(日本薬局方掲載)が好ましい。
【0023】
架橋工程は、セルロースに対して、架橋剤を反応させることによって行うことができる。架橋剤としては、グリオキザール、ジアルデヒドでんぷん、ポリアクロレインなどのアルデヒド類、N−メチロールメラミン、トリメチロールメラミンなどのメチロール化合物、ジビニルスルホンなどの活性ビニル化合物、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン、1,4−ビスグリシドキシブタン、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレン、1,−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサンなどのエポキシ化合物、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アスパラギン酸、グルタル酸、トリカルバリル酸、ブタンテトラカルボン酸、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸−マレイン酸共重合物などのポリカルボン酸、ジイソシアネート化合物、オキシラニルメタノール、N−エチルビス(2−クロロエチル)アミン、メチルビニルジアセトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、4,5−ジヒドロキシエチレン尿素、ジビニルスルホン、が挙げられ、好ましくは、ハロヒドリン類、グリシジルエーテル類、エポキシアルカン類などのエポキシ化合物であり、特に好ましくは、エピクロロヒドリンである。
【0024】
これらの架橋剤は、2種以上を用いることもできる。
【0025】
上記架橋剤の使用量は、セルロース100重量部に対して、0.1〜500重量部、好ましくは、100〜300重量部である。さらに好ましくは、150〜200重量部である。これらの範囲内にあれば、十分な架橋が得られ、さらに未反応物が残らないため、有用である。
【0026】
上記架橋剤による架橋反応を円滑に進める目的で、該架橋剤の種類に応じ適宜架橋反応触媒を用いることが出来る。該架橋反応触媒としては、例えば架橋剤がポリカルボン酸である場合は、リン酸、次亜リン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸化合物、硫酸、塩酸などの無機酸、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、チタン化合物などが挙げられ、また、架橋剤としてエポキシ化合物を使用する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性化合物、1級アミン、2級アミン、3級アミンなどのアミン類、4級アンモニウム塩、イミダゾール化合物、アルコール類や水などが挙げられる。
【0027】
上記架橋反応触媒の使用量は、上記架橋剤100重量部に対して、1〜200重量部で、好ましくは、80〜150重量部である。
【0028】
上記セルロースを上記架橋剤により架橋させる方法としては特に制限されないが、例えば特開昭63−54160号公報に記載されている方法などが挙げられる。具体的には、セルロースに架橋剤水溶液を含浸後、脱水し、高温で乾燥させる乾式架橋による方法、上記セルロースを架橋剤水溶液中で架橋させる水溶液架橋法、など多くの方法があるが、好ましくは、二層系で架橋剤とセルロースを架橋反応触媒水溶液中で激しく攪拌して架橋させる二層系架橋法がより好ましい。
【0029】
架橋セルロースの架橋は、何れの位置であってもよく、また、一つのセルロース中での架橋であっても、セルロースどうしの架橋であってもよい。
【0030】
架橋セルロース誘導体の金属塩の架橋度は、0.01以上であることが好ましい。
【0031】
架橋度は以下の様に算出することができる。
【0032】
ここでは、反応に用いるセルロースを分子量39000(平均重合度240)、架橋剤としてエピクロロヒドリンを用いる場合を例として説明する。
【0033】
エピクロロヒドリンにより、セルロースの糖鎖に対し、下記構造式のように架橋構造部分が増加する。この増加する部分の分子量は56である。
【0034】
【化4】

【0035】
架橋前のセルロースの仕込量と架橋後の架橋セルロースの重量が、含水分(分析値)を差し引いた値で、4%増加していた場合、セルロースの分子量が39000であることから、
39000×0.04=1560、
増加する分子構造部分の分子量が56であることから、
1560÷56≒28
という計算から、架橋構造部分は、約28モルと算出される。即ち、架橋/セルロースの比は、28/1となる。
【0036】
これを糖の水酸基1個あたりに換算すると、
セルロース1モルにはグルコースが240個(平均重合度)あり、グルコース単位当たり水酸基が3個あることから、セルロース1モル当たりの水酸基数は、
240×3=720
であり、架橋構造部分との比は、上記のとおり49/1であるから、
49/720=0.068
と算出される。即ち、水酸基1個当たり0.068個であり、この0.068を上記の例の架橋セルロースの「架橋度」として定義することが出来る。
【0037】
尚、セルロースのモル数は、グルコース単位1モル=162gを用いて換算した。すなわち、セルロース1モルにおけるグルコース単位は、平均分子量39000であることから、
162÷39000≒4.15mmol
と換算される。
【0038】
架橋度は、0.01以上であることが好ましい。0.01以上0.30以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.030以上0.20以下である。
【0039】
架橋度を制御するには、セルロースに対する官能基を活性化させるための塩基或いは酸の投与量と架橋剤の投与量の比で行うことができる。また、固液反応であることから、用いる溶剤の種類によって、また、溶剤が二種以上の場合はその比率によっても制御することが可能である。架橋度を好ましい範囲に制御するには、セルロースに対する官能基を活性化させるための塩基或いは酸の投与量と架橋剤の投与量の比で主に行うことが好ましい。
【0040】
例えば架橋剤がエピクロロヒドリンの場合、水酸基が官能基であることから、塩基として水酸化ナトリウムを用いるが、エピクロロヒドリンと水酸化ナトリウムの比を一定とした場合、セルロースに対してエピクロロヒドリンの量比を増加するに従って架橋度は高くなる。ただし、水酸化ナトリウムをエピクロロヒドリンに対して大過剰とした場合は、セルロースの分解反応も平行して進行する恐れがあり、必ずしも架橋度の向上には繋がらない。
【0041】
また、用いる溶剤に極性溶媒、例えばメタノールやイソプロピルアルコールのようなものを大量に用いた場合にはセルロースの分解(低分子化)が進み、架橋度は上がるものの回収率の低下が起こる可能性がある。
【0042】
エピクロロヒドリンと水酸化ナトリウムの量比(モル換算)は、エピクロロヒドリン/水酸化ナトリウムが、1/2〜1/4が好ましく、更に好ましくは1/2.3〜1/3.2である。さらにセルロースとの量比で表すと、セルロース/水酸化ナトリウム/エピクロロヒドリンが、1/6/3〜1/20/5、さらに好ましくは1/7/3〜1/16/5である。
【0043】
そして用いる溶媒は、n−へプタン/メタノール/水や、n−ヘプタン/イソプロピルアルコール/水などの三相系や、n−ヘプタン/水系などの二相系で、非極性溶媒と極性溶媒(水のみ、またはアルコール系)があるが、n−ヘプタン/水がさらに好ましい。
【0044】
さらには、架橋剤を分割して、すなわち、小分けにして投与回数を増やすことにより、架橋反応に使われずに加水分解する架橋剤の量を抑制し、より架橋度を上げることができる。また、例えば、攪拌速度を上げる、攪拌羽の形状を変える、バッフルを追加する、反応スケールを小さくするなどして、攪拌効率を上げることにより、より架橋度を上げることができる。
【0045】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、セルロースに架橋と官能基が導入された金属塩である。該架橋セルロース誘導体の金属塩は、下記一般式(I)で表される。
【0046】
R−O−A (I)
【0047】
{式(I)中、Rは架橋セルロース残基を表し、Aは陽イオン交換能を有する官能基aを表す。}
【0048】
上記陽イオン交換能を有する官能基aとしては、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基等を有する基が挙げられ、好ましくは下記一般式(II)〜(V)で表される基が挙げられる。
【0049】
【化5】

【0050】
{式(II)〜(V)中、alkは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、lは0〜5の整数を表し、mは0または1を表し、nは0〜2の整数を表す。}
【0051】
架橋セルロース誘導体は、陽イオン交換能を有する官能基aで置換されたセルロースエーテルであり、セルロース誘導体に置換される陽イオン交換能を有する官能基aは一種でもよいし、二種以上でもよい。
【0052】
好ましい官能基aとして、下記のものを挙げることができる。
【0053】
【化6】

【0054】
また、架橋セルロース誘導体は、二種以上の陽イオン交換能を有する官能基aを有していてもよく、例えば下記(c−1)〜(c−3)に示す組み合わせからなる異種の陽イオン交換能を有する官能基によって構成されている架橋セルロース誘導体が好ましい。
【0055】
【化7】

【0056】
また、上記式(IV)または(V)で表されるホスホン酸基またはリン酸基を有する基は、該官能基中に水酸基が少なくとも1つ存在していればよく、該ホスホン酸基またはリン酸基中の水酸基は、必要に応じてアルコキシ基、ホスホン酸基、チオール基等により置換されていてもよい。具体的には、下記に示すような基も陽イオン交換能を有する官能基aに含まれる。
【0057】
【化8】

【0058】
官能基導入工程は架橋工程後に行うことが好ましい。
【0059】
例えば、官能基aが一般式(III)の骨格の場合、セルロースの水酸基に、硫酸基を導入する硫酸化剤としては、濃硫酸、発煙硫酸、無水硫酸、無水硫酸/DMF錯体、無水硫酸/ピリジン錯体、無水硫酸/トリエチルアミン錯体、クロロスルホン酸などが挙げられるが、好ましくは、無水硫酸/DMF錯体を用いる。
【0060】
硫酸化された架橋セルロースは、未反応架橋剤およびその誘導体を溶媒とともに除去した後、例えば予め添加してある塩化カルシウムにより、直接金属塩となるか、或いはメタノール、又はイソプロパノールなどのアルコールと無機塩を加えて後激しく攪拌することによって金属塩を得ることが出来る。また、一旦カルシウム塩を製造した後に無機塩による置換反応にて金属塩を得ることもできる。
【0061】
金属塩を形成する金属としては、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、鉄等の金属を用いることができる。中でも、イオン交換効率の点、血中や体内に放出されても許容される点から、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄が好ましく、カルシウムが最も好ましい。
【0062】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、消化管への障害を抑えることが可能であり、これは架橋によるものと考えられる。
【0063】
一般式(I)で表される架橋セルロース誘導体の金属塩の置換度は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは、1.4以上、さらに好ましくは1.5以上である。
【0064】
置換度は元素分析値を元に以下の様に算出することができる。
【0065】
ここで、官能基aが一般式(III)の骨格の場合の置換度の算出について説明する。一例として、一般式(III)におけるmが0である場合のカルシウム塩”−SO3Ca1/2”の場合を例として算出方法を説明する。まず架橋していないセルロースに対する置換度は、セルロースの一単位であるグルコース骨格の分子量を162として算出する。セルロースにおいて、一級水酸基一カ所が−SO3Ca1/2に置き換わった場合、すなわち置換度1の場合には、分子量は、
{(無水硫酸分一個)+(Ca1/2)−(水素)}(99)
が増加した261となり、Sの元素分析値を計算すると、
32/261=約12%
となる。置換度2の場合には、分子量は、360に増加し、Sの元素分析値は、
64/360=約17.8%
になる。すなわち、Sの元素分析値をYとし、置換度をnとすると、
Y=32n÷(162+99n)
であるから、
n=162Y÷(32−99Y)
となる。この式を用いて、Sの元素分析値(Y)から置換度(n)が算出できる。たとえば、Sの元素分析値が18%の場合、置換度に換算すれば、約2.1となる。架橋セルロースの場合には、架橋の度合いを加味して算出する。例えば、架橋の構造がエピクロロヒドリンから得られる2−ヒドロキシ−1,3−エーテル骨格の場合、グルコース骨格と架橋構造部分の分子量と、架橋の割合を加味して算出することができる。
【0066】
例えば、架橋度が後述する定義による0.1であったとすると、架橋構造部分(C34O)の分子量は、56であるから、グルコース骨格1個あたりでは(0.1×720×56÷240=)16.8となる。即ち、架橋セルロースの一単位あたりの分子量は、(162+16.8=)179.6となる。これを上述のセルロースの場合の式に当てはめると、置換度(n)は、n=179.6Y÷(32−99Y)と、Sの元素分析値(Y)から算出することが出来る。
【0067】
次に官能基aが一般式(II)の骨格の場合の置換度の算出について説明する。一例として、一般式(II)におけるlを0、nを0とした場合のカルシウム塩”−CH2−COOCa1/2”の場合、セルロースの一単位であるグルコース骨格の水酸基一カ所が置換されたとすると、一単位の分子量は、162+78=240となる。Caの元素分析値をY、置換度をnとすると、
Y=20÷(162+78n)
となり、置換度nは、Naの元素分析値Yが求められれば、
n=162Y÷(20−80Y)
で算出できる。
【0068】
官能基aが一般式(IV)で代表されるような骨格で、alkをCH2とした場合は、Pの元素分析値(Y)から置換度を算出出来る。即ち、−CH2O−P(O)(OCa1/22の場合、セルロースの一単位であるグルコース骨格の水酸基一カ所が置換されたとすると、一単位の分子量は、162+148=310となる。
【0069】
Y=31÷(162+148n)
となり、置換度nは、Pの元素分析値Yが求められれば、
n=162Y÷(31−148Y)
で算出出来る。
【0070】
官能基aが一般式(V)で代表される様な骨格の場合は、前述した(II)の骨格の場合のようにアルキレン基の分子量分を加算して官能基aが(IV)の場合と同様に算出すればよい。
【0071】
官能基が二種以上ある場合は、それぞれの官能基部分の分子量を計算し、前述の計算方法と同様に元素分析値からその置換度を求めればよい。
【0072】
置換度を前記範囲とするには、架橋工程において架橋度を制御することが好ましい。しかしながら、従来の硫酸化方法では、架橋度を制御したのみでは、好ましい置換度を獲得することは容易ではない。以下、官能基aが一般式(III)の骨格の場合を例として説明する。
【0073】
硫酸基の置換度を向上させるには、硫酸化剤の架橋セルロースに対する量比を上げてやれば良い。しかしながら、最も強力な硫酸化剤である無水硫酸/DMF錯体は、DMF中への無水硫酸の溶解度が20%弱であることから、反応系中における硫酸化剤の濃度には自ずと限度が生じる。その結果、置換度を向上させるには限度が生じ、特に架橋度の高い架橋セルロースに対して置換度を上げることは困難であった。
【0074】
この点については、DMF溶媒中に架橋セルロースを分散させた反応系中に無水硫酸を直接添加していくことにより、無水硫酸のDMF中濃度は一定でも、架橋セルロースに対する濃度を約2倍以上にすることができ、これにより、無水硫酸/セルロースの比が2/1程度でも、従来の3/1の場合と同程度以上の置換度(1.5以上)のものを容易に得ることが出来ることを見出した。即ち、架橋度の高い架橋セルロースに高い置換度を求めるために、架橋セルロースに対しDMF量を減らして無水硫酸を高濃度状態で反応させることで達成することができる。
【0075】
得られた架橋セルロース誘導体の金属塩はそのまま使用してもよいが、必要に応じて、アルコール沈殿、イオン交換樹脂クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィーなどにより、更に精製して用いてもよい。
【0076】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、人体に経口投与可能な尿毒症改善薬として有用である。特に、血液透析治療を受けている腎不全患者の次の透析までの期間を延長することができ、患者の負担を大きく改善できる。
【0077】
実施例の<評価試験>に後述するように、架橋セルロース誘導体の金属塩は腎全摘出ラットの生存時間を延長する効果がある。この優れた延命効果は、消化管から分泌、または腸管内で産生される尿毒症の原因物質を、架橋セルロース誘導体の金属塩がトラップしていることによるものと推測される。
【0078】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、尿毒症改善薬及び種々の食品等に含有させることができる。
【0079】
架橋セルロース誘導体の金属塩を含有する尿毒症改善薬は、上記の方法で得られた金属塩を通常の方法により各種の形態に加工することで製造できる。例えば固体状物、液状物、乳化状物、ペースト状物、ゼリー状物等である。
【0080】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、食品に有効に適用できる。これらの金属塩を含有する食品には、そのまま直ちに喫食できるもの、調理等を行って喫食するもの、食品製造用のプレミックスされた材料などのいずれもが含まれる。固体状のものとしては、粉末状、顆粒状、固形状のいずれのものでもよく、例えばビスケット、クッキー、ケーキ、スナック、せんべいなどの各種菓子類、パン、粉末飲料(粉末コーヒー、ココアなど)が含まれる。また液状物、乳化状物、ペースト状物、ゼリー状物の例としては、ジュース、炭酸飲料、乳酸菌飲料などの各種飲料が含まれる。
【0081】
尿毒症改善薬の剤形としては、錠剤、散剤、顆粒、細粒、液剤等が挙げられ、これらの製剤は、架橋セルロース誘導体の金属塩を薬学的に許容される担体とともに常法に従って製剤化することにより製造できる。
【0082】
架橋セルロース誘導体の金属塩は、腎不全の程度により適切な摂取量が異なるが、1日約0.5g〜50g程度摂取することが好ましい。
【実施例】
【0083】
以下実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
[参考製造例:硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:CaCS-005(Lot.IK031215)]
{第一段階:硫酸化工程}
40℃で真空乾燥した結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 20.0gを500mLセパラブルフラスコに入れ、DMF 100mLにて4日間攪拌下含浸を行なった。
【0085】
この懸濁液を5℃まで冷却した。次に攪拌したまま、セパラブルフラスコに接続した滴下ロートから、20%無水硫酸−DMF錯体溶液 371.8g(SO3:0.929mol)を、系内温度を5℃に維持しながら徐々に滴下した。滴下終了後、恒温槽にて16〜17℃に調整し、6時間攪拌した。
【0086】
次に、イソプロパノール 500mLをこの反応液に加えた。反応液中からの析出物をろ別した。ろ過物を水 500mLにて溶解し、飽和塩化カルシウム水溶液 137.0gを加え、カルシウム化を行ない、粗生成物を析出させ、ろ別し目的物を得た。さらにイソプロパノール(500mL×2回)で洗浄した。濾過操作にてイソプロパノールを除去後、真空乾燥器にて乾燥させ、27.5gの硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;16.0%、Ca;12.4%であった。置換度は、1.6であった。
【0087】
{第二段階:UF膜限外ろ過工程}
第一段階で得られた硫酸化セルロースカルシウム塩 25.05gを冷却下イオン交換水 2000mLにて溶解した。
【0088】
次にUF膜(旭化成製:ペンシル型モジュールACP-0013,公称分画分子量:13,000)を用いて、流速1.88〜1.92L/minで限外ろ過を行なった。原液が200mLになるまで循環濃縮した。200mL分を凍結乾燥にかけ最終的に17.68gの白色粉末を得た。
【0089】
元素分析を行なったところ、S;18.3%、Ca;12.4%であった。置換度は、2.1であった。
【0090】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:CaCS-006(Lot.IK031224)]
{第一段階;架橋工程}
結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 5.0g(30.8mmol(グルコース換算))を500mL三口フラスコに入れ、冷却管、滴下ロートを接続した。別途、水酸化ナトリウム(96%品) 8.6g(206mmol)を水 50mLに溶解した。この調製した水酸化ナトリウム水溶液を滴下ロートに移し、結晶性セルロースに加えた。室温で10分間攪拌し、懸濁状態を維持した。
【0091】
次に反応系にn-ヘプタン 50mLとメタノール 50mLを加え、50℃に昇温した。そこへ滴下ロートを用いて、エピクロロヒドリン 8.5g(92mmol)をメタノール 50mLに溶解したものを懸濁液に速やかに滴下した。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して3時間攪拌した。
【0092】
室温まで冷却後、攪拌したまま濃塩酸を徐々に加え、水層のpHが、7.0付近にした。一旦、減圧濾過し、濾過物を水で洗浄し、さらにメタノールで洗浄する。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、6.1gの架橋セルロースを得た。架橋度は、0.174であった。
【0093】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース 4g(0.0247mol(グルコース換算))を500mLセパラブルフラスコに入れ、DMF 20mLにて攪拌下3日間含浸した。その後この懸濁液を5℃まで冷却した。次に攪拌したまま、セパラブルフラスコに接続した滴下ロートから、20%無水硫酸−DMF錯体溶液 74.12g(SO3:0.185mol)を徐々に滴下した。このとき、反応温度は5℃を維持した。滴下終了後、恒温槽にて16〜17℃に調整し、24時間攪拌した。
【0094】
次にイソプロパノール、100mLをこの反応液に添加した。反応液中からの析出物をろ過分別する。ろ過物を水、250mL加え、攪拌した。さらに、飽和塩化カルシウム水溶液、27.45gを添加し2時間攪拌した。不溶物をろ別し、さらにイソプロパノール(100mL×2回)で洗浄した。濾過操作にてイソプロパノールを除去後、真空乾燥器にて充分乾燥させ、8.09gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;17.6%であった。置換度は、2.0であった。
【0095】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:CaCS-007(Lot.IK040113)]
{第一段階;架橋工程}
結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 16.0g(99mmol(グルコース換算))を500mL三口フラスコに入れ、冷却管、滴下ロートを接続した。次に反応系にn-ヘプタン 300mLとイソプロパノール 10mLを加えた。30分攪拌後、別途、水酸化ナトリウム(96%品) 32.0g(768mmol)を水 100mLに溶解した。この調製した水酸化ナトリウム溶液の半量を滴下ロートに移し懸濁液に加え、室温で1時間攪拌した。
【0096】
滴下ロートを用いて、エピクロロヒドリン 26.0g(281mmol)を懸濁液に速やかに滴下後、50℃に昇温した。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して3時間攪拌した。次に残りの水酸化ナトリウム溶液を滴下し、1.5時間攪拌した。これにエピクロロヒドリン 26.0g(281mmol)を加え、さらに2時間攪拌した。
【0097】
室温まで冷却後、不溶物をろ別し、濾過物を水、2N塩酸、水で順次洗浄し、洗液のpHが中性付近になるまで洗浄した。さらにメタノールで洗浄した。真空乾燥機にて乾燥させ、18.1gの架橋セルロースを得た。架橋度は、0.198であった。
【0098】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース 10g(0.0617mol(グルコース換算))を500mLセパラブルフラスコに入れ、DMF 50mLにて攪拌下3日間含浸した。その後この懸濁液を5℃まで冷却した。次に攪拌したまま、セパラブルフラスコに接続した滴下ロートから、18%無水硫酸−DMF錯体溶液 206.04g(SO3:0.463mol)を徐々に滴下した。このとき、反応温度は5℃を維持した。滴下終了後、恒温槽にて16〜17℃に調整し、24時間攪拌した。
【0099】
次にイソプロパノール 250mLをこの反応液に添加した。反応液中からの析出物をろ過分別する。ろ過物を水 625mL加え、攪拌した。さらに、飽和塩化カルシウム水溶液 68.60gを添加し2時間攪拌した。不溶物をろ別し、さらにイソプロパノール(100mL×2回)で洗浄した。濾過操作にてイソプロパノールを除去後、真空乾燥器にて充分乾燥させ、13.7gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;7.40%,Ca;5.38%であった。置換度は、0.85であった。
【0100】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:Lot.IK-40223]
{第一段階;架橋工程}
結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 80.0gを3L三口フラスコに入れ、MeOH 800mLとn-ヘキサン 800mLに懸濁した。冷却管、攪拌羽根(攪拌モーター付)、滴下ロートを接続し、攪拌した。別途、水酸化ナトリウム(96%品) 140.0g(3.36mol)を水 1600mLに溶解しておく。この調製した水酸化ナトリウム水溶液を滴下ロートに移し、懸濁液に加えた。室温で30分間攪拌し、懸濁状態を維持した。
【0101】
次に反応系を50℃に昇温し、そこへ滴下ロートを用いて、エピクロロヒドリン 138.8g(1.5mol)をメタノール 200mLに溶解したものを懸濁液に滴下した。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して3時間攪拌した。
【0102】
室温まで冷却後、洗液がpH=7.0付近になるまで、水、2N塩酸、水で順次洗浄した。
【0103】
減圧濾過し、濾過物をメタノールで洗浄した。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて乾燥させ、84.4gの架橋セルロースを得た。架橋度は、0.053であった。
【0104】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース 40g(0.247mol)を500mLセパラブルフラスコに入れ、DMF 200mLにて攪拌下3日間含浸した。その後この懸濁液を5℃まで冷却する。次に攪拌したまま、セパラブルフラスコに接続した滴下ロートから、18%無水硫酸−DMF錯体溶液 900g(SO3:2.025mol)を徐々に滴下する。このとき、反応温度は5℃を維持する。滴下終了後、恒温槽にて16〜17℃に調整し、一昼夜攪拌する。
【0105】
次にイソプロパノール 1000mLをこの反応液に添加する。反応液中からの析出物をろ過分別する。ろ過物を水 1000mLにて溶解し、飽和塩化カルシウム水溶液 274.5gを添加しカルシウム化を行ない、粗生成物を析出させ、ろ過分別し目的物を得る。さらにイソプロパノール(1000mL×2回)で洗浄した。濾過操作にてイソプロパノールを除去後、真空乾燥器にて充分乾燥させ、76.8gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;16.8%、Ca;12.8%であった。置換度は、1.9であった。
【0106】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:Lot.SS-1054]
{第一段階;架橋工程}
結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 80.0gを3L三口フラスコに入れ、冷却管、攪拌羽根(攪拌モーター付)、滴下ロートを接続する。そこへメタノール 800mLおよびn-ヘキサン 800mLを加え攪拌し、懸濁液とする。別途、水酸化ナトリウム(96%品) 144.0g(3.457mol)を氷冷下で水 800mLに溶解する。この調製した水酸化ナトリウム水溶液を滴下ロートに移し、懸濁液に加える。室温で60分間攪拌し、懸濁状態を維持する。
【0107】
次に反応系を50℃に昇温し、そこへ滴下ロートを用いて、エピクロロヒドリン 159.9g(1.728mol)をメタノール 200mLに溶解したものを懸濁液に速やかに滴下する。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して6時間攪拌する。
【0108】
室温まで冷却し、さらに20時間攪拌を続けた後、5Lビーカーに移し4時間静置する。上澄み液をデカンテーションによって除去し、残渣を水で懸濁後、減圧濾過する。濾過物を水で再度懸濁後、攪拌したまま濃塩酸を徐々に加え、pHが、7.0付近にする。一旦、減圧濾過し、濾過物を水で洗浄し、さらにメタノールで洗浄する。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、80.8gの架橋セルロースを得た。架橋度は、0.01未満であった。
【0109】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース 30gを2L三口フラスコに入れ、DMF 150mLを加えて室温で21時間攪拌した。この懸濁液を5℃まで冷却する。次に攪拌したまま、三口フラスコに接続した滴下ロートから、無水硫酸DMF錯体DMF溶液(18.5%品) 721.0g(0.871mol)を徐々に滴下する。このとき、反応温度は5±5℃を維持する。滴下終了後、室温まで昇温し、24時間攪拌する。
【0110】
次に、イソプロパノール 1000mLを洗浄液に用いて加圧濾過する。濾過物を水 750mLに溶解後、別に調製した塩化カルシウム水溶液(31.1%) 198.0g(0.555mol)を加えた。そこへ攪拌しながらイソプロパノール 1000mLを加え結晶を析出させた後、60分間静置した。上澄み液をデカンテーションによって除去し、残渣をイソプロパノールで懸濁後、減圧濾過する。さらにイソプロパノールで洗浄した。濾過操作にてイソプロパノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、79.8gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;17.8%、Ca; 12.4%であった。置換度は、2.0であった。
【0111】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:Lot.Type-007]
{第一段階;架橋工程}
結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 80.0gを3L三口フラスコに入れ、冷却管、攪拌羽根(攪拌モーター付)、滴下ロートを接続する。別途、水酸化ナトリウム(96%品) 329.2g(7.901mol)を水 800mLに溶解する。この調製した水酸化ナトリウム水溶液を滴下ロートに移し、結晶性セルロースに加える。室温で30分間攪拌し、懸濁状態を維持する。
【0112】
次に反応系を50℃に昇温し、そこへ滴下ロートを用いて、エピクロロヒドリン 228.4g(2.469mol)をn-ヘプタン 1,600mLに溶解したものを懸濁液に速やかに滴下する。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して3時間攪拌する。
【0113】
室温まで冷却後、攪拌したまま濃塩酸を徐々に加え、水層のpHが、7.0付近にする。一旦、減圧濾過し、濾過物を水で洗浄し、さらにメタノールで洗浄する。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、94.9gの架橋セルロースを得た。本化合物のX線回折を行って得られた結晶性が無くなったことを示すチャートから、架橋が進んだことが確認された。架橋度は、0.180であった。
【0114】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース、25gを塩化カルシウム、34.3g(0.309mol)とともに500mL三口フラスコに入れ、DMF、300mLを加えて室温で24時間攪拌した。この懸濁液を5℃まで冷却する。次に攪拌したまま、三口フラスコに接続した滴下ロートから、無水硫酸、28.9mL(0.694mol)を徐々に滴下する。このとき、反応温度は20±5℃を維持する。滴下終了後、室温まで昇温し、24時間攪拌する。
【0115】
次にイソプロパノール 1000mLを洗浄液に用いて減圧濾過する。濾過物を水(1000mL×3回)で洗浄する。さらにメタノール(500mL×2回)で洗浄した。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、48.0gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;16.7%、Ca; 9.7%であった。置換度は、1.9であった。
【0116】
[製造例:架橋硫酸化セルロースカルシウム塩の製造:Lot.Type-007-B]
{第一段階;架橋工程}
冷却管、攪拌機、温度計及び滴下槽を備えた100L-GL反応器に水 18.02kg及びn-ヘプタン 13.71kgを加えた後、5℃まで冷却する。水酸化ナトリウム(96%品) 8.20kg(0.1968kmol)を溶解し、20℃まで昇温する。別途、結晶性セルロース(旭化成製、商品名:セオラスPH-101) 1.998kgをn-ヘプタン 6.80kgで懸濁する。この懸濁液を調製した水酸化ナトリウム水溶液中に加え、さらにn-ヘプタン 6.80kg及び水 2.0kgを加えた後、室温で30分間攪拌し、懸濁状態を維持する。
【0117】
次に反応系を55℃に昇温し、そこへ滴下槽を用いて、エピクロロヒドリン 5.70kg(61.73mol)を速やかに滴下する。二層が良く混合するようにしながら、50〜60℃を保持して3時間攪拌する。
【0118】
室温まで冷却後、攪拌したまま濃塩酸を徐々に加え、水層のpHを7.0付近にする。一旦、加圧濾過し、濾過物を水で洗浄し、さらにメタノールで洗浄する。濾過操作にてメタノールを除去後、真空乾燥機にて充分乾燥させ、1.991kgの架橋セルロースを得た。本化合物のX線回折を行って得られた結晶性が無くなったことを示すチャートから、架橋が進んだことが確認された。架橋度は、0.180であった。
【0119】
{第二段階;硫酸化工程}
第一段階で得られた架橋セルロース 219.7gを5Lセパラブルフラスコに入れ、窒素気流下でDMF 3520mLを加えて懸濁液とした。さらに5℃まで冷却した後、塩化カルシウム 301.5g(2.72mol)を加える。室温まで昇温し、窒素気流下で23時間攪拌した。この懸濁液を5℃まで冷却する。次に攪拌したまま、セパラブルフラスコに接続した滴下ロートから、無水硫酸 254.6mL(6.11mol)を徐々に滴下する。このとき、反応温度は-20〜0℃を維持する。滴下終了後、室温まで昇温し、24時間攪拌する。
【0120】
次に反応系内にイソプロパノール 1400mLを加え10分攪拌した後、加圧濾過する。イソプロパノール 3000mLで洗浄し、濾過物を水 3000mLに加え、攪拌し懸濁液とする。この懸濁液に水酸化カルシウムを徐々に加え、水層のpHを7.0付近にする。加圧濾過し、さらに水(1600mL×4回)で洗浄して、濾過物 1994.4gを得た。この濾過物 1894.4gを変性エタノール(日本アルコール販売製、商品名:ソルミックスAP-7)(1894.4g×2回)さらに水(1894.4g×2回)で洗浄した後、真空乾燥機にて充分乾燥した。ミルによる粉砕及びふるい(目開き:250μm)を行い、再び真空乾燥機による乾燥により463.2gの架橋硫酸化セルロースカルシウム塩を得た。元素分析を行ったところ、S;13.8%、Ca;9.8%であった。置換度は、1.5であった。
【0121】
<評価試験>
{架橋化硫酸セルロースカルシウム塩が腎全摘出ラットの生存時間に及ぼす影響:Lot.Type007-B}
〔方法〕
動物は日本チャールスリバー(株)より購入した8週齢SD系雄性ラットを用いた。試験1日目にラットの背側肋骨下部の左右の皮膚と筋層を切開し、それぞれの腎臓について腎周辺部の被膜と副腎を剥離して体外へ引き出し腎動静脈と尿管を結紮、摘出した後に、切開部を縫合した。これらの手術はエーテル麻酔下に実施した。腎摘出ラット作成日の14時及び20時、その翌日(試験2日目)の8時、14時及び20時に試験物質を蒸留水に懸濁し、毎回10mL/kgの液量により、0.1、0.3及び1.0g/kgを経口ゾンデにより投与した。対照群には蒸留水を10mL/kg投与した。給餌・給水は試験3日目の午前8時まで自由に与えたが、以降は絶水、絶食下に飼育した。試験第1日目の午後12時を起算(0時間)とし試験2、3、4及び5日目には4時間ごとに96時間目の時点まで生存を観察した。
【0122】
〔結果〕
図1に各群の生存曲線を示した。図1において、Waterは対照群に蒸留水、0.1、0.3及び1.0g/kgは各群に一回あたり投与された架橋化硫酸セルロースカルシウム塩の用量をそれぞれ示し、各時点で生存していた動物の匹数を示した。
【0123】
対照群では76時間目に全例が死亡したが、このとき0.1g/kg群で1例、0.3g/kg群で11例、1g/kg群では14例がそれぞれ生存していた。84時間目には0.1g/kg群の全例の死亡が確認された。一方、0.3及び1.0g/kg群では、96時間目にそれぞれ3例及び10例が生存しており、明らかな生存時間の延長が確認された。
【0124】
<安全性試験1>
{架橋型硫酸化セルロースカルシウム塩の正常ラットの消化管に及ぼす影響1}
〔方法〕
動物は日本チャールスリバー(株)より購入した7-9週齢CBA系雄性マウスを用いて、体重を指標に群分けした。各群のマウスには市販の粉末飼料(オリエンタル酵母工(株)、粉末CRF1)の10%をセルロース(粉末、ナカライテスク(株))または試験物質(SS1054、IK-40223、Type007)でそれぞれ置換した試験食を1週間自由摂取させた。試験食摂取終了の後、それぞれのマウスより糞便を一つ以上採取し、スライドを用いた化学法による便潜血検査(便潜血スライドシオノギII、シオノギ製薬)を実施し、色調の変化の程度に応じて0(変化なし)〜5(濃)まで点数化した。
【0125】
〔結果〕
セルロース群は全例、便性状は正常であり、便潜血反応スコアは0.5±0.0(n=8、平均値±標準偏差)であった。SS-1054群は、8例中6例に肛門周囲に血液の付着が見られるほど消化管症状が悪化し、試験開始4日目以後、摂餌量の明らかな低下を認めるほど全身症状が重篤化した。IK-40223群は7日間の試験期間中に摂餌量の低下は見られず、便潜血反応スコアも1.5±0.8(8)であった。Type007群ではいずれのマウスの便も正常であり、便潜血反応スコアも0.5±0.3(10)であった。
【0126】
<安全性試験2>
{架橋型硫酸化セルロースカルシウム塩の正常ラットの消化管に及ぼす影響2}
〔方法〕
動物は日本チャールスリバー(株)より購入した9週齢CBA系雄性マウスを用いて、体重を指標に群分けした。各群のマウスには市販の粉末飼料(オリエンタル酵母工(株)、粉末CRF1)の10%をセルロース(粉末、ナカライテスク(株))または試験物質(CaCS005、CaCS006、CaCS007)でそれぞれ置換した試験食を6日間自由摂取させた。試験食摂取終了の後、それぞれのマウスより糞便を一つ以上採取し、スライドを用いた化学法による便潜血検査(便潜血スライドシオノギII、シオノギ製薬)を実施し、色調の変化の程度に応じて0(変化なし)〜5(濃)まで点数化した。
【0127】
〔結果〕
セルロース群は全例、便性状は正常であり、試験終了時の便潜血反応スコアは0.3±0.3(n=5、平均値±標準偏差)であった。CaCS005群は試験開始二日目より便潜血反応(スコア1.8±0.5(n=4))がみられた。以降、CaCS005群の動物では摂餌量の低下が著明であり、粘血便がみられるほど重篤化する動物もみられ、全例で貧血により手足が白色化した。試験終了時における便潜血反応スコアは3.3±1.3(n=4)であった。CaCS006群およびCaCS007群の試験期間中における便性状はほぼ正常に推移し、試験終了時におけるスコアはCaCS006群で0.5±0.0(n=3,ただし試験開始5日目)、CaCS007群で0.2±0.3(n=3)と明らかに消化管への障害性は軽減されていた。貧血は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】<評価試験>における、架橋硫酸化セルロースカルシウム塩投与下の腎臓全摘出ラットの生存時間を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される架橋セルロース誘導体の金属塩を有効成分とすることを特徴とする尿毒症改善薬。
R−O−A (I)
{式(I)中、Rは架橋セルロース残基を表し、Aは陽イオン交換能を有する官能基aを表す。}
【請求項2】
前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.2以上であることを特徴とする請求項1記載の尿毒症改善薬。
【請求項3】
前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.4以上であることを特徴とする請求項1記載の尿毒症改善薬。
【請求項4】
前記架橋セルロース誘導体のグルコース単位の水酸基の官能基aによる置換度が、1.5以上であることを特徴とする請求項1記載の尿毒症改善薬。
【請求項5】
官能基aが、下記一般式(II)〜(V)で表される基から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【化1】

{式(II)〜(V)中、alkは炭素数1〜6のアルキレン基を表し、lは0〜5の整数を表し、mは0または1を表し、nは0〜2の整数を表す。}
【請求項6】
官能基aが、下記一般式(II−1)、(II−2)、(III−1)〜(III−5)、(IV−1)、(V−1)および(V−2)から選択されることを特徴とする請求項5記載の尿毒症改善薬。
【化2】

【請求項7】
複数種の官能基aの組み合わせが、下記(c−1)〜(c−3)のいずれかであることを特徴とする請求項6記載の尿毒症改善薬。
【化3】

【請求項8】
前記架橋セルロース誘導体が結晶性セルロースを用いて製造されたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【請求項9】
前記架橋セルロース誘導体が架橋剤としてエピクロロヒドリンを用いて製造されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の尿毒症改善薬。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の架橋セルロース誘導体の金属塩を含有することを特徴とする尿毒症改善用食品。

【図1】
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【公開番号】特開2009−114261(P2009−114261A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286318(P2007−286318)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】