説明

尿試料中の検体の濃度を正規化するための方法

尿試料中の少なくとも1つの検体の濃度を正規化するための方法であって、
以下の工程:
a)少なくとも1つの検体の濃度を測定する工程;
b)少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度を測定する工程;
c)前記少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度に対して、前記少なくとも1つの検体の濃度を正規化する工程、
を含む、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿試料中の検体の濃度を正規化するための(for normalizing)方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿試料は、長年にわたり医学的臨床検査のために使用されている。尿試料は、医学的側面において興味深い様々な物質、例えば、薬剤または違法薬物の分解産物、ホルモン、病原体、たんぱく質等を含む。
【0003】
従来、尿試料の評価のためには、多くの場合、総たんぱく質含有量(のみ)が考えられていたのに対し、特に、尿中のたんぱく質の組成も関連する医学的情報を含むことが、ますます多く認識されている。
【0004】
WO 01/84140およびWO 2004/068130は、液体試料中、例えば尿試料中のたんぱく質およびペプチドパターンを測定するための方法および装置を記載している。
【0005】
WO 2005/024409は、体液の試料中に含まれるポリペプチドおよび病状を認識するためのマーカーの定量的評価のための装置および方法を記載している。例えば、異なる病気が異なるポリペプチドマーカーの発生にどのように関連するかが示されている。異なるポリペプチドが、健康な患者と比べて特定の病気において多少頻繁に発生することが観察されている。
【0006】
特にWO 2006/106129は、2つの状態、例えば健康な状態と病気の状態を、試料中のマーカーの発生によらずその振幅(amplitude)、即ち濃度によって区別する振幅マーカーを記載している。WO 2006/106129では、異なる試料の異なるたんぱく質濃度を補正するために、質量分析計による試料の検査後に、総振幅を100万カウントに対して正規化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 01/84140
【特許文献2】WO 2004/068130
【特許文献3】WO 2005/024409
【特許文献4】WO 2006/106129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、試料中の異なる濃度の検体を比較し、それにより参照試料と測定試料との間のより良好な比較可能性(comparability)を達成するために、より具体的な正規化手順が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、この目的は、尿試料中の少なくとも1つの検体の濃度を正規化するための方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つの検体の濃度を測定する工程;
b)少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度を測定する工程;
c)前記少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度に対して、前記少なくとも1つの検体の濃度を正規化する工程、
を含む、前記方法、
によって達成することができる。
【0010】
本発明による方法は、幅広い用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例2における回帰の質を示す。
【図2】実施例3における回帰の質を示す。
【図3−1】表1に示すコラーゲン断片の配列を示す。
【図3−2】表1に示すコラーゲン断片の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、検体、コラーゲンまたはコラーゲン断片の含有量が測定される。測定のためには、例えば、UV/Vis検出器、蛍光検出器、屈折率検出器、ダイオードアレイ検出器、質量分析計、ゲルスキャナー、たんぱく質の染色、例えば、クマシーブリリアントブルー(Coomassie brilliant blue)、銀染色法、Cy2、Cy3、Cy5など、または誘導体化、例えば、ITRAC (isotope tags for relative and absolute qualification) およびICAT(isotope coded affinity tagging)、ならびにその後の誘導体化されたペプチドの検出、を使用することができる。
【0013】
本発明によれば、コラーゲンまたはコラーゲン断片が、試料の正規化のために使用される。少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片が、試料中で同定される。この目的のために、特に、マススペクトル、UV/Visスペクトル、蛍光スペクトルまたは特定のリガンド、例えば特定の抗体、に対するアフィニティによって任意に完結される移動および保持時間による同定が適当である。
【0014】
検体の濃度は、その後、前記少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度に対して正規化され得る。即ち、検体の濃度は、参照コラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度に対して測定される。
【0015】
しかし、好ましくは、1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片ではなく、いくつかの、例えば、2つもしくは3つもしくは4つもしくは5つまたは10、20、30、40もしくは50のコラーゲンまたはコラーゲン断片が、正規化のために使用される。
【0016】
好ましい態様において、検体は、いずれのヒドロキシピリジニウムコラーゲン架橋も含まず、特に、ヒドロキシリシルピリジノリン(Pyd)およびデオキシピリジノリン(Dpd)を含まない。好ましくは、他のいずれの検体の濃度の正規化のためにも、これら化合物を使用しない。
【0017】
好ましく使用されるコラーゲン断片を、以下の表に記載する。
【0018】
【表1】


【0019】
配列を、図3に示す。
【0020】
本発明は、特に、上記コラーゲン断片による、尿試料の検体濃度を正規化するためのコラーゲン断片の使用にも関する。
【0021】
その含有量が正規化される好ましい検体には、特に、たんぱく質、ペプチド、脂質、代謝産物、塩、および他のイオン性化合物、炭水化物が含まれる。
【0022】
ペプチド濃度を正規化するための方法の使用が、特に好ましい。
【0023】
一態様では、試料は、まず副次標本(subsamples)にさらに分離される(subdivided)。
【0024】
これを達成するために、異なる方法、例えば:
−アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過、のような、FPLCまたはHPLCを任意に使用するクロマトグラフィー法;
−SELDI法、ClinProt法のような、特定の材料への吸着;
−ゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動のような、電気泳動法、
を使用することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を、以下の実施例により更に説明する。
【0026】
実施例1
尿試料を、HPLCを用いてダウンストリーム(downstream)ダイオードアレイ検出器(DAD)により検査した。生データを表に示す。ピークは、DADにおける保持時間およびスペクトルによって同定した。これら4つのコラーゲン断片について予め測定していた標準(standard)と測定(measurement)とを比較し、それぞれについて換算因子を算出した。これら因子の平均(この場合は0.80761277)を、他のすべてのシグナルに対する正規化因子(normalizing factor)として使用した。正規化されたシグナルを、最後の欄に記載する。
【0027】
【表2】


【0028】
実施例2
尿試料を、ソンボーンカードら(Thongboonkerd et al.)、Kidney Int 62: 1461-1469 (2002)に記載されているような2D電気泳動によって、3〜10のpH範囲にわたって、長さ22cmのポリアクリルアミドゲルを用いて分離した。ゲルをクマシー染色によって染色し、免疫学的方法(ウエスタンブロット)を用いて並行して調製したゲルにおいてコラーゲンを検出した。これら5つのたんぱく質について予め測定した標準を使用し、線形回帰(linear regression)を実施した。この較正式により、更に値を換算した。式は、Y = 103.82x − 127449であった。R2値は0.957であった。
【0029】
【表3】



【0030】
回帰の質を、図1に示す。
【0031】
実施例3
尿試料を、質量分析計を組み合わせたキャピラリー電気泳動によって検査した。それにより27個のコラーゲン断片を同定することができ、それをその後予め測定していた標準と比較した。この後、直線は必ずゼロの値を通るという条件による線形回帰を用いて正規化を行った。対応する測定データおよび較正を、以下の表に示す。
【0032】
【表4】








































【0033】
回帰の質を、図2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料中の少なくとも1つの検体の濃度を正規化するための方法であって、
以下の工程:
a)少なくとも1つの検体の濃度を測定する工程;
b)少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度を測定する工程;
c)前記少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度に対して、前記少なくとも1つの検体の濃度を正規化する工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
検体の濃度を測定する前に、尿試料をいくつかの副次標本にさらに分離することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離は、
−アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過、のような、FPLCまたはHPLCを任意に使用するクロマトグラフィー法;
−SELDI法、ClinProt法のような、特定の材料への吸着;
−ゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動のような、電気泳動法、
により達成されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記副次標本中の検体および/またはコラーゲンもしくはコラーゲン断片の含有量の測定は、UV/Vis検出器、蛍光検出器、屈折率検出器、ダイオードアレイ検出器、質量分析計、ゲルスキャナー、染色または誘導体化、およびその後の適当な手段による検出、により達成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコラーゲンまたはコラーゲン断片は、その移動または保持時間および任意に更に、マススペクトル、UV/Visスペクトル、蛍光スペクトル、特定のリガンド、例えば、抗体、に対するアフィニティ、のような適当なパラメータによって同定されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコラーゲン断片は、配列番号1〜42のペプチドから選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも2つまたは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも5、10、20、30、40または50のコラーゲンまたはコラーゲン断片の濃度が測定され、かつ正規化のために使用されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記正規化は、線形回帰により達成されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
尿試料中の検体濃度の正規化のためのコラーゲンまたはコラーゲン断片の使用。
【請求項10】
前記コラーゲン断片は、配列番号1〜42のペプチドから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
少なくとも2つまたは少なくとも3つ、好ましくは少なくとも5、10、20、30、40または50のコラーゲンまたはコラーゲン断片が、正規化のために使用されることを特徴とする、請求項9または10に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【公表番号】特表2010−520472(P2010−520472A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552211(P2009−552211)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052730
【国際公開番号】WO2008/107476
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(506074808)モザイクヴェス ディアグノシュティクス アンド テラポイティクス アクチェン ゲゼルシャフト (6)
【Fターム(参考)】