説明

局所施肥機

【課題】栽培樹木近傍の土壌に局所的に溝を形成し、各溝に肥料を投入するようにした局所施肥機を提供する。
【解決手段】接地走行手段7を有する車台1には駆動手段9と、溝切りディスク11と、肥料投入手段13とを備えさせ、該接地走行手段は、該駆動手段により回転駆動され、該溝切りディスクは、車台の側部において該車台の進行方向と直角の水平軸15に支持させた状態で配設され、該溝切りディスクは、該駆動手段により昇降・回転して栽培樹木近傍の土壌に局所的に上下方向の略弧状溝を形成し、該肥料投入手段は、該溝切りディスクが形成した略弧状溝中に肥料を投入するようにしたことを特徴とする局所施肥機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶園又は果樹園において使用される局所施肥機に関するものであり、特に、栽培樹木近傍の土壌に局所的に溝を形成し、各溝に肥料を投入するようにした局所施肥機に係るものである。
【0002】
本発明において「栽培樹木」とは、茶樹又は果樹をいうものとする。
【0003】
また、本発明による局所施肥機には、歩行作業型の独立した局所施肥機のみならず、トラクター、乗用型茶園管理機等にそのアタッチメントとして取り付けられる局所施肥機も含まれるものとする。
【背景技術】
【0004】
特開2001−61318号公報は中耕施肥装置を開示している。該中耕施肥装置は、果樹園等の土壌を中耕して土壌中に肥料を施用するようにしたものである。すなわち、該中耕施肥装置は、固くなった畝間の土壌を細かく砕くことにより、除草すると共に土壌の通気性、透水性等を確保するために土壌を掘削するという中耕作業を行いつつ、掘削した土壌中に肥料を施用するようにしたものである。したがって、該中耕施肥装置における掘削回転軸は連続的に回転する。
【0005】
また、該中耕施肥装置においては、掘削した土壌中に肥料を施用するための肥料放出管は、基部が該掘削回転軸に取り付けられている。すなわち、肥料放出管は掘削部内に組み込まれており、更には該肥料放出管の先端が地中に潜るように動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−61318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記中耕施肥装置においては、掘削回転軸を連続的に回転させて中耕作業を行うようにしているため、土壌が広範囲に掘削される。したがって、栽培樹木の根が広範囲にわたって切断され、損傷されるおそれがある。
【0008】
また、上記中耕施肥装置においては、肥料放出管は掘削部内に組み込まれており、更には該肥料放出管の先端が地中に潜るように動作するため、該肥料放出管内には土あるいは土の湿気が付着し易く、その結果、肥料の円滑な放出が妨げられ、肥料が詰まる等の肥料投入不良が生ずるおそれがある。
【0009】
一方、茶園等においては、高品質の茶葉等を得ようとして、しばしば広範囲に又は多量の窒素肥料が施用されるため、茶等の栽培が大きな環境負荷の発生源となっている。このような環境負荷を軽減するために、施肥位置を局所に限定し、栽培樹木の吸収根を施肥位置に誘引・集中させ、効率よく養分を吸収させることが望まれる。
【0010】
上記従来の中耕施肥装置における上述の問題を解決すると共に、施肥による上述の如き環境負荷を軽減するという要求に鑑み、本発明は、栽培樹木近傍の土壌に局所的に溝を形成し、各溝に肥料を投入するようにした局所施肥機を提供しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は下記の局所施肥機を提供するものである。
【0012】
(1)接地走行手段を有する車台には駆動手段と、溝切りディスクと、肥料投入手段とを備えさせ、
該接地走行手段は、該駆動手段により回転駆動され、
該溝切りディスクは、車台の側部において該車台の進行方向と直角の水平軸に支持させた状態で配設され、
該溝切りディスクは、該駆動手段により昇降・回転して栽培樹木近傍の土壌に局所的に上下方向の略弧状溝を形成し、
該肥料投入手段は、該溝切りディスクが形成した略弧状溝中に肥料を投入するようにしたことを特徴とする局所施肥機(請求項1)。
【0013】
(2)前記溝切りディスクと前記肥料投入手段とをそれぞれ車台における左右各側部に備えさせる(請求項2)。
【0014】
(3)前記肥料投入手段は、前記溝切りディスクとは別系統である(請求項3)。
【発明の効果】
【0015】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、溝切りディスクは、土壌を広範囲に掘削するものではなく、駆動手段により昇降・回転して栽培樹木近傍の土壌に局所的に上下方向の略弧状溝を形成するようにしたため、栽培樹木の根が切断され、損傷されるおそれは小さい。
【0016】
また、溝切りディスクが形成した略弧状溝中に肥料投入手段が肥料を投入するようにしたため、施肥位置は極めて限定され、栽培樹木の吸収根を当該施肥位置に誘引・集中させ、効率よく養分を吸収させることができる。したがって、肥料による環境負荷が著しく軽減される。
【0017】
[請求項2の発明]
請求項2の発明によれば、溝切りディスクと肥料投入手段とをそれぞれ車台における左右各側部に備えさせたため、畝間の両側部における栽培樹木近傍の土壌に好ましく略弧状溝を形成し、施肥することができる。すなわち、例えば茶園においては、畝間の両側部における雨落ち部(図12における符号D参照)に好ましく略弧状溝を形成し、施肥することができる。
【0018】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、肥料投入手段は溝切りディスクとは別系統であり、換言すれば、肥料投入手段は溝切りディスクには組み込まれていないため、該肥料投入手段内に土あるいは土の湿気が付着することがなく、肥料の詰まり等の不都合を生ずるおそれがない。すなわち、該肥料投入手段は肥料を略弧状溝中に円滑に投入することができる。また、肥料投入手段と溝切りディスクとが別系統であるため、局所施肥機全体の構造が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明による局所施肥機の一例を概略的に示す側面図である。
【図2】図2は、同上正面図である。
【図3】図3は、溝切りディスクを回転させるための手段の一例を概略的に示す側面図である。
【図4】図4は、溝切りディスクを昇降させる手段の一例において、該溝切りディスクが上昇した状態を示す側面図である。
【図5】図5は、溝切りディスクを昇降させる上記手段において、該溝切りディスクが下降した状態を示す側面図である。
【図6】図6は、溝切りディスクの昇降させる手段を示す説明図である。
【図7】図7は、溝切りディスクを昇降させる手段と肥料投入手段における肥料計量ドラムとを概略的に示す側面図である。
【図8】図8は、クラッチ手段の一例を概略的に示す側面図である。
【図9】図9は、肥料投入手段を概略的に示す正面図である。
【図10】図10は、肥料投入手段における肥料計量ドラムの一例を示す断面図である。
【図11】図11は、同上の別の断面図である。
【図12】図12は、本発明による局所施肥機の使用状態の一例を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
符号1に示すものは、局所施肥機の車台である。符号3は車台1のハンドル、符号5は操作レバーである。
【0021】
車台1は、接地走行手段7を有する。該接地走行手段7としては、例えば車輪、無限軌道等が用いられる。符号7’に示すものは前輪である。
【0022】
車台1には、駆動手段9と、溝切りディスク11と、肥料投入手段13とを備えさせる。
【0023】
駆動手段9としては、歩行作業型の局所施肥機の場合には、一例としてガソリンエンジン等のエンジンが用いられるが、エンジンを発生源とする油圧を用い、或いは、溝切りディスク11の昇降用に電動シリンダを用いることもできる。一方、本発明による局所施肥機をトラクター、乗用型茶園管理機等にそのアタッチメントとして取り付ける場合には、局所施肥機の駆動手段9には、トラクター、乗用型茶園管理機等のPTO出力からの動力が含まれる。
【0024】
接地走行手段7は、駆動手段9により回転駆動される。
【0025】
溝切りディスク11は、車台1の側部において該車台1の進行方向と直角の水平軸15に支持させた状態で配設される。該溝切りディスク11は、駆動手段9により昇降・回転して栽培樹木A近傍の土壌に局所的に上下方向の略弧状溝Bを形成する。溝切りディスク11は、一例として約20cmの深さの略弧状溝Bを形成する。
【0026】
溝切りディスク11は、一例として、略卍状をなす。
【0027】
肥料投入手段13は、溝切りディスク11が形成した略弧状溝B中に肥料を投入する。各略弧状溝B内には、一例として肥効調節型肥料約90gが埋め込まれる。
【0028】
溝切りディスク11と肥料投入手段13とをそれぞれ車台における左右各側部に備えさせることが望ましい。
【0029】
肥料投入手段13は、溝切りディスク11とは別系統である。換言すれば、肥料投入手段13は、溝切りディスク11に組み込まれたものではない。
【0030】
以下、駆動手段9と接地走行手段7と溝切りディスク11と肥料投入手段13との関係の一例について説明する。
【0031】
接地走行手段7は、駆動手段9により回転駆動される。すなわち、一例として、図3に示すように、駆動手段9はトランスミッション16を備え、該トランスミッション16のトランスミッション出力輪17は巻掛け伝動手段19と介在輪21と巻掛け伝動手段23とを介して接地走行手段7の駆動輪25に連結される。
【0032】
溝切りディスク11は、駆動手段9により回転駆動される。すなわち、一例として、図3に示すように、溝切りディスク11は前記水平軸15に水平軸スプロケット27を備え、該水平軸15より上方に支持杆29を延設し、該支持杆29の上端に上端スプロケット31を取り付け、該水平軸スプロケット27と該上端スプロケット31との間に伝動チェーン33を取り付ける。一方、駆動手段9により回転する前記介在輪21の近傍には第一伝動スプロケット35と第二伝動スプロケット37と第三伝動スプロケット39とを配設し、これらの介在輪21と第一伝動スプロケット35と第二伝動スプロケット37と第三伝動スプロケット39とをそれぞれ伝動チェーン41、43、45により連結し、該第三伝動スプロケット39を前記水平軸スプロケット27と上端スプロケット31との間の伝動チェーン33に咬合させる。
【0033】
すなわち、駆動手段9により回転する前記介在輪21の回転は、第一伝動スプロケット35と第二伝動スプロケット37と第三伝動スプロケット39に順次伝えられる。該第三伝動スプロケット39の回転は、水平軸スプロケット27と上端スプロケット31との間の伝動チェーン33に伝えられ、溝切りディスク11が回転する。
【0034】
溝切りディスク11は、駆動手段9により昇降する。すなわち、一例として、図4〜図6に示すように、前記溝切りディスク11の水平軸15より上方に延設された支持杆29を水平方向の昇降部材47に固定し、該昇降部材47には水平方向の長孔49を備えさせ、該昇降部材47の両側部には該昇降部材47の昇降を案内する上下方向の案内部材51を配設する。
【0035】
更に、図7に示すように、駆動手段9により回転する伝動輪53の近傍には該伝動輪53により回転する溝切りディスク昇降輪55を配設し、該溝切りディスク昇降輪55には該溝切りディスク昇降輪55と共に回転するアーム57を取り付け、該アーム57の先端57aを昇降部材47における水平方向の長孔49に遊嵌する。すなわち、アーム57が回転すると、該アーム57の先端57aは昇降部材47における水平方向の長孔49内を水平方向に移動しつつ、該昇降部材47を案内部材51に沿って上下方向に動かす。図4〜図6参照。
【0036】
更に、駆動手段9と肥料投入手段13との関係の一例について説明する。
肥料投入手段13は、車台1の上部に肥料バケット71を配設し、該肥料バケット71の下方には該肥料バケット71に連通する肥料計量ドラム73を取り付け、該肥料計量ドラム73の下方には肥料落下筒75を取り付けてなるものである(図9、図12参照)。肥料計量ドラム73は、円柱状体に切り欠き部73aを形成してなり、肥料バケット71から該切り欠き部73a内に落下した肥料が該肥料計量ドラム73の回転に伴って下方に位置したときに、切り欠き部73a内の肥料が肥料落下筒75内に落下するようにしたものである。切り欠き部73a内には一定量の肥料が落下するため、該切り欠き部73aからは一定量の肥料が肥料落下筒75内に落下する。図9〜図11参照。該肥料計量ドラム73は、該切り欠き部73aの容積を変更することにより、該肥料落下筒75内に落下する肥料の量を変更することが可能である。
【0037】
肥料投入手段13による肥料投入のタイミングについては、肥料投入手段13は、溝切りディスク11により形成された略弧状溝B内における最深部附近に肥料を投入するようになすことが望ましいのであるが、必ずしもこのタイミングに限定されるものではない。
【0038】
肥料計量ドラム73は、一例として、図7に示すように、駆動手段9により回転する前記伝動輪53に巻掛け伝動手段77を介して連結されており、該伝動輪53と共に回転する。図7における符号79に示すものは、中間輪である。
【0039】
図8において符号80に示すものはクラッチ手段である。クラッチ手段80は、凹部81aを備えた円板81と、該凹部81aに嵌脱する制御杆83とを備えている。制御杆83は先端に該凹部81aに嵌脱するコロ83aを備えている。制御杆83は案内手段85により進退自在に案内されている。制御杆83は、連結杆87を介して操作レバー5に連結されており、該制御杆83は、操作レバー5を操作することにより進退する。制御杆83のコロ83aが円板81の凹部81aに嵌ったときには、該円板81は回転を停止し、溝切りディスク昇降輪55と肥料計量ドラム73とが回転を停止する。なお、制御杆83のコロ83aが円板81の凹部81aから脱出したときには、溝切りディスク昇降輪55と肥料計量ドラム73とが回転可能となる。図7、図8参照。
【0040】
以上、主として歩行作業型の局所施肥機について説明してきたが、本発明による局所施肥機をトラクター、乗用型茶園管理機等にそのアタッチメントとして取り付ける場合には、駆動手段として、前述の如く、トラクター、乗用型茶園管理機等のPTO出力からの動力を使用し、更には、センサー等を用いた電子制御により上記と同様の動作を行なわせることも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 車台
3 ハンドル
5 操作レバー
7 接地走行手段
7’ 前輪
9 駆動手段
11 溝切りディスク
13 肥料投入手段
15 水平軸
16 トランスミッション
17 トランスミッション出力輪
19 巻掛け伝動手段
21 介在輪
23 巻掛け伝動手段
25 駆動輪
27 水平軸スプロケット
29 支持杆
31 上端スプロケット
33 伝動チェーン
35 第一伝動スプロケット
37 第二伝動スプロケット
39 第三伝動スプロケット
41 伝動チェーン
43 伝動チェーン
45 伝動チェーン
47 昇降部材
49 長孔
51 案内部材
53 伝動輪
55 溝切りディスク昇降輪
57 アーム
57a 先端
71 肥料バケット
73 肥料計量ドラム
73a 切り欠き部
75 肥料落下筒
77 巻掛け伝動手段
79 中間輪
80 クラッチ手段
81 円板
81a 凹部
83 制御杆
83a コロ
85 案内手段
87 連結杆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地走行手段を有する車台には駆動手段と、溝切りディスクと、肥料投入手段とを備えさせ、
該接地走行手段は、該駆動手段により回転駆動され、
該溝切りディスクは、車台の側部において該車台の進行方向と直角の水平軸に支持させた状態で配設され、
該溝切りディスクは、該駆動手段により昇降・回転して栽培樹木近傍の土壌に局所的に上下方向の略弧状溝を形成し、
該肥料投入手段は、該溝切りディスクが形成した略弧状溝中に肥料を投入するようにしたことを特徴とする局所施肥機。
【請求項2】
前記溝切りディスクと前記肥料投入手段とをそれぞれ車台における左右各側部に備えさせたことを特徴とする請求項1に記載の局所施肥機。
【請求項3】
前記肥料投入手段は、前記溝切りディスクとは別系統であることを特徴とする請求項1又は2に記載の局所施肥機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−187013(P2012−187013A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51150(P2011−51150)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(000250270)落合刃物工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】