局所血管送達による、高血圧症を治療するためのグアネチジンの使用
交感神経は、腎動脈を取り巻く外膜を貫通して走り、全身性高血圧症の調節において重要である。これらの神経の過活動は、成人人口の30〜40%で広まっている疾患である腎性高血圧症を引き起こす可能性がある。高血圧症は神経調節薬(例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII阻害薬、又はアルドステロン受容体遮断薬)により治療可能であるが、厳密な投薬計画に従う必要があり、また多くの場合、主要な心血管イベントのリスクを低減する目標血圧閾値に到達しない。外膜内に神経毒薬又は神経遮断薬を局所的に送達することにより、腎動脈を取り巻く交感神経の活性を低減させる、侵襲性が最低限に抑えられた解決策が本発明で提示される。上記薬剤の長期的な溶出も、患者に対する療法を最適化するために実現可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.本発明の分野
本発明は、一般的に、疾患を治療するための医療デバイス、システム、及び方法に関連する。より具体的には、本発明は、腎臓に繋がる動脈及び/又は静脈の外膜内で生じる過活動性交感神経活動を抑制する薬剤を送達することにより高血圧症を治療する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症又は血圧上昇症は、世界の成人人口の推定30〜40%に影響を及ぼしている。腎性又は腎血管性の高血圧症は、腎動脈の狭窄に起因する腎臓の灌流低下によって引き起こされる可能性がある。腎臓は、塩及び水を保持するように身体にシグナルを送るホルモンを放出することにより反応し、血圧の上昇を引き起こす。腎動脈は、動脈の傷害又はアテローム性動脈硬化症によって狭くなり得る。レニン−アンジオテンシン−アルドステロン経路を制御して、又は過剰の体液を身体から除去して、血圧を低減する有効な投薬計画がありながら、高血圧症の患者のおよそ20〜30%は本疾患の抵抗型に罹患している。
【0003】
抵抗性高血圧症は、一般的な臨床的問題であり、患者が、全身的投薬治療単独では血圧上昇症を制御できないときに引き起こされる。抵抗性高血圧症は、高齢及び肥満した人々において特に問題である。これらの人口はいずれも増加している。これらの患者で症状が明らかでなくても、上記患者が自身の血圧を制御することができない場合には、心血管系のリスクは大幅に増大する。
【0004】
高血圧症は、活動過多の腎臓交感神経によっても引き起こされる。腎臓交感神経の遠心性神経及び求心性神経は、一般的に、大動脈から腎臓に繋がる動脈の外側を長手方向に走っている。これらの神経は、全身性の高血圧症の開始と維持において非常に重要である。これらの神経を切断することにより、血圧が低減可能であることが明らかにされた。代表的な実験では、高インスリン血症により誘発された高血圧症のラットで、腎臓交感神経を除神経すると、対照と比較して正常血圧レベルまで血圧が低下することが明らかにされた[非特許文献1]。
【0005】
経皮的又は内視鏡的介入手技が、米国及び世界中のその他の国々において非常に一般的である。血管内カテーテルシステムが、バルーン血管形成、ステント留置、アテローム切除術、血栓除去、光力学療法、及び薬物送達等の手技で用いられる。これらの手技全ては、観血療法を行う必要もなく身体の深凹部にアクセスできるようにする、カテーテルとして公知の細長い管を、動脈、静脈、又は身体のその他の内腔内に配置することと関連する。
【0006】
腎動脈の閉塞が、投薬では制御することができない高血圧症を引き起こしている場合には、可能性のある別の療法として、腎動脈のバルーン血管形成術が挙げられる。稀な場合には、外科的バイパス移植術が治療上の選択肢として検討され得る。腎血管形成術は血圧低下に有効であり得るものの、血管形成術では、弾性反跳、解離、及び新生内膜過形成に起因して生じる再狭窄が問題となっている。腎臓ステントは成果を改善し得るものの、また新生内膜過形成に起因する動脈の再狭窄又は再狭小化も引き起こし得る。
【0007】
過去には、外科的方法を用いて腎臓の除神経が実施されたが、より最近では、高周波アブレーションを用いて腎動脈内から神経を加熱及び破壊する、カテーテルに基づく療法について研究されている。RF−アブレーションカテーテル法のヒト試験も実施されてきたが、当該試験のカテーテル治療群に登録された患者の血圧低下が報告されている[非特許文献2]。
【0008】
カテーテルに基づく高周波(RF)除神経を利用すると、治療効果が得られるように見えるが、RF手技により管腔壁及び神経に引き起こされた恒久的損傷から、どのような長期的な影響がもたらされるかは不明である。高周波エネルギーは、管腔壁内で熱を発生させることにより管腔を除神経する。RFプローブは動脈の内膜と接触し、そしてRFエネルギーは組織を経由して伝達される。
【0009】
抗−高血圧症治療には、いくつかの観点において解決の難しい問題があり得る。1番目は、高血圧症は、大部分が無症候性の疾患である。患者は、無症状という認識から投薬計画の順守を怠るおそれがある。2番目に、薬物療法を厳密に順守している患者の場合であっても、当該患者の目標血圧に達しない場合があり、介入以外ほとんど又は全く手段が存在しない。3番目に、介入が実施された場合(通常、腎血管形成術及び/又はステント留置の方式)でも、血管形成術は、線維症及び標的動脈のリモデリングの原因となる傷害カスケードの活性化を引き起こすので、長期効果には再狭窄、慢性腎臓疾患の進行、及び最終的には腎不全が含まれる可能性がある。4番目に、バイパスを形成する、又は腎動脈を除神経する外科的な技法は、過激であり、またいくつかの外科的な合併症を引き起こす可能性がある。そして5番目に、動脈のRF除神経が狭窄プラークの更なる増悪を引き起こすか、この手技がステントが留置された動脈と適合性を有するか、大部分の患者で認められる肥厚したプラークにRFプローブが接触した場合に、肥厚したプラーク又は線維性脈管内膜を介したエネルギーの伝達は、その下の神経に作用するのに十分であり、当該手技が機能するか、又は神経に限らず、動脈壁内の平滑筋の機能も有効に廃絶した場合には、それが脈管の血管の反応性血管過形成、及び壊死性プラークを引き起こす可能性があり、もしそれが破裂した場合には、急性腎阻血又は慢性腎臓疾患を引き起こすのではないか、不明である。したがって、システム及びプロトコールが、RFエネルギー又は外科的な切断により交感神経の除神経が実現するように設計されても、その適用性は高血圧性疾患の範囲に限定され、又は基礎疾患に固有ではない新しい血管合併症を生み出す可能性がある。
【0010】
ボツリヌス毒素、β−ブンガロトキシン(及びその他のヘビ毒)、破傷風毒素、及びα−ラトロトキシン等の神経毒薬が、神経を遮断し、筋肉活動を抑制し、又は筋肉を麻痺させるために、多くの外科的技法で用いられ、又はその用途で提案されてきた。ツボクラリン、アルクロニウム、ピペクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、ベクロニウム(及び、南米の部族が用いた麻痺させるダーツ及び矢に起源を有する、その他のクラーレ様薬物)等の神経筋遮断薬も、運動終板におけるコリン作動性受容体に対して競合することにより麻痺を誘発するのに用いられてきた。クラーレ様薬剤は、毒素と比較して作用時間が短い。例えば、ボツリヌス毒素(A型〜G型からなる、7つの異なる血清学的に区別される型の1つであり得る)は、斜視、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣を治療し、中程度から重度の眉間皺線を改善し(美容上)、及び脇の下の過剰の発汗を治療するために用いられており、またFDA承認を受けている。ボツリヌス毒素に関する上記使用のそれぞれは、数ヶ月から1年を超える範囲で治療効果を示した。
【0011】
ボツリヌス毒素の致死量は、マウスの実験より求められた結果から約1ng/kgである。ボツリヌス毒素の現在入手可能な形態であるMyobloc(商標)及びBotox(登録商標)は、70〜130U/ng及び約20U/ngの比活性をそれぞれ有する。1ユニット(1U)とは、腹腔内投与後、72時間経過して、試験対象マウスの50%に死をもたらすことが判明している毒素量である。Myoblocは、2500、5000、又は10000Uのバイアル形態で入手可能で、頸部ジストニアを治療するために合計2500〜5000Uの用量で処方される。Botoxは、1バイアル当たり100Uの形態で入手可能で、頸部ジストニアでは200〜300Uの用量で、脇の下の多汗では50〜75Uの用量で、又は眼瞼痙攣では12Uの塗布量で6回注射として処方される。活性なボツリヌス毒素は、重鎖及び軽鎖からなり、総質量は150kDaであり、したがって、活性物質1ng当たり、約40億個の活性毒素分子が含まれる。
【0012】
現在の抗高血圧薬は、一般的に、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン軸を妨害する、又は利尿薬として作用することにより血圧を調節する。血圧降下薬の初期の世代は、腎臓の神経系に直接障害を与える作用機徐を有した。グアネチジン、グアナクリン、及びブレチリウムトシレート等の薬剤は、交感神経末端からのノルエピネフリン(ノルアドレナリンとしても公知)の放出を阻止することにより高血圧症を調節する。グアネチジンを用いれば、興奮性の小胞放出を妨害することにより、及びシナプス小胞内のノルエピネフリンと置き換わることにより、交感神経切断が実現する。交感神経の障害は、これまでにラット及びハムスターで明らかにされたが、ヒトでは認められず、その理由は、おそらくは、グアネチジンは一般的に全身的に送達され、そしてヒトで交感神経の除神経を誘発するには、高い局所濃度が必要とされるが、こうした濃度では、極めて有害な全身性の副作用のリスクに曝されるためであろう。齧歯類で機能的除神経を実現するためにグアネチジンを使用すると、その除神経効果は永久と考えられ、治療後63週間の間、ラットで組織の神経再支配のエビデンスは認められなかった。高用量では、グアネチジンはミトコンドリアの呼吸を阻害し、ニューロンの死を引き起こす。本発明で重要なこととして、グアネチジンは、用量依存性の様式で局所的除神経を実現するのに利用可能であり、また遠方場効果を有さないことが挙げられる。これは、Demas及びBartnessが実施した実験、J Neurosci Method、2001年、で認められたが、同実験では、ハムスターの一方の後四半部内へのグアネチジン注射を比較し、対側に投与した対照注射と比較された。これは、腎臓の交感神経節を越えて脊髄又はその他の神経系に拡散することなく、特定の腎動脈に効果を局在化させるように、当該薬剤を使用する上で有利である。また、本発明にとって興味深いこととして、グアネチジンは、ドーパミン作動性線維及び非神経性のカテコールアミン分泌細胞には作用しないで、節後ノルアドレナリン作動性ニューロンを選択的に破壊する(したがって、ノルエピネフリンを減少させる)という、公表済みの観察結果が挙げられる。この高レベルの特異性こそが、グアネチジンが有用な療法として選択されてきた理由である。最終的に、グアネチジンは、交感神経機能を遮断する能力を有することから、全身性の血圧降下薬の用途としてFDAにより承認されたが、長期的又は恒久的除神経を引き起こすための局所的投与用としては承認されていない。
【0013】
局所的に送達されたグアネチジンは、Demas及びBartnessが2001年に認めたように、ハムスターの後四半部に局所化した交感神経切断を実現した。1マイクロリッター当たりグアネチジンを5〜10マイクログラムを含有する、10〜20回シリーズの片側注射では、各2マイクロリッターがハムスターの鼠径部脂肪組織内に投与され、対側の鼠径部脂肪組織に投与されたプラセボの同様の注射と比較されたが、機能的な交感神経切断が、各2マイクロリッターの注射が10回に及んだか又は20回に及んだかに関わらず、少なくとも200マイクログラムを送達することにより他方と比較して一方の側で認められた。この場合、結果は、送達後2週間経過して組織のノルエピネフリン含有量を測定することにより確認され、対照(プラセボ)側と比較して、グアネチジンの投与を受けた側で実質的な低下が認められた。
【0014】
グアネチジンは、化学名としてグアニジン、[2−(ヘキサヒドロ−1(2H)−アゾシニル)エチル]−を有し、また多くの場合、硫酸塩の形態、すなわちグアネチジンサルフェート、又はグアネチジンモノサルフェート(CAS 645−43−2)として供給され、化学名としてグアニジン、[2−(ヘキサヒドロ−1(2H)−アゾシニル)エチル]−サルフェート(1:1)を有する。グアネチジンは商標名Ismelinとして市販されている。
【0015】
その他の薬剤も、部分的な又は完全な交感神経切断を実現することが明らかにされている。これらには、免疫性交感神経切断薬の抗−神経増殖因子(抗−NGF);自己免疫性交感神経切断薬の抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)、及び抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe);化学的交感神経切断薬の6−ヒドロキシドーパミン(6−hydroxyldopamine)(6−OHDA)、ブレチリウムトシレート、グアナクリン、及びN−(2−クロロエチル)−N−エチル−2−ブロモベンジルアミン(DSP4);及び免疫毒素複合体交感神経切断薬のOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポリン(DBH−SAP)、及び抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT)が含まれる。これらの薬剤の全記載内容は、Picklo MJ、J Autonom Nerv Sys、1997年;62巻:111〜125頁に見出される。フェノール及びエタノールも、化学的交感神経切断に用いられてきたが、これらも本発明の方法で有用である。その他の交感神経遮断薬として、α−2−作動薬、例えばクロニジン、グアンファシン、メチルドーパ、ベタニジン、グアネチジン、グアノキサン、デブリソキン、グアノクロル、グアナゾジン、グアノキサベンズ、グアナシジン、グアナドレル等のグアニジン誘導体;イミダゾリン受容体作動薬、例えばモクソニジン、リルメニジン(relmenidine)等;神経節遮断薬又はニコチン遮断薬、例えばメカミラミン、トリメタファン等;MAOI阻害薬、例えばパーギリン等;アドレナリン取り込み阻害薬、例えばレシンナミン、レセルピン等;チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、例えばメチロシン等;α−1遮断薬、例えばプラゾシン、インドラミン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ウラピジル等;非選択的α遮断薬、例えばフェントラミン等;セロトニン拮抗薬、例えばケタンセリン等;及びエンドセリン拮抗薬、例えばボセンタン、アンブリセンタン、シタキセンタン等が挙げられる。
【0016】
更に、神経を硬化させる薬剤が、神経破壊又は交感神経破壊を実現するのに利用可能である。血管周辺における神経の傷害を引き起こす硬化薬として、キナクリン、クロロキン、テトラデシル硫酸ナトリウム、エタノールアミンオレアート、モルイン酸ナトリウム、ポリドカノール、フェノール、エタノール、又は高張液が挙げられる。
【0017】
腎臓交感神経活動は、ノルエピネフリンの生成を引き起こす。腎臓の交感神経切断(腎動脈交感神経切断又は腎除神経としても公知)が、腎臓中のノルエピネフリンの蓄積を低下させることは十分に立証されている。これは、腎動脈の外科的除神経が関係した試験により評価され、2004年にブタについてConnorsにより、1987年にイヌについてMizelleにより、及び1981年にラットについてKatholiにより発表された。実際、対側の腎動脈に対する偽手術と共に、一方の腎動脈に外科的な除神経を行うと、対照側と比較して徐神経された側で、腎臓のノルエピネフリン含有量が約90%以上低下することが明らかにされた。したがって、ブタのような大きな動物は、通常、本質的な高血圧症を発症しないので、この除神経のエビデンスは、そのような大動物における除神経法の試験に替わるものとして利用される。除神経とノルエピネフリンの蓄積との間の関連性について、更なるエビデンスが、腎静脈の流出血液中で測定された腎臓からのノルエピネフリンの溢出において認められた[Krumらの報告、Lancet、2009年]。更なる関連性が、大動物モデル(例えば、ブタモデル)で腎ノルエピネフリンを低下させる能力において認められ、高血圧のヒト患者において血圧を低下させる能力を示唆している。
【0018】
腎動脈の完全な交感神経切断を行うと、正常なレベルよりも血圧を低下させてしまうような副作用を有することから、問題が残る。過去30年以上、高血圧を低下させることと治療上のベネフィットとを関連付ける際に、「J−曲線」の存在及び影響について議論が続いている[Cruickshank J、Current Cardiology Reports、2003年;5巻:441〜452頁]。この議論では、高血圧症の治療における重要なポイント、すなわち、血圧を低下させれば、心血管系の疾病率及び死亡率を低減することができるが、あまり大幅に低下させるとベネフィットが逆効果になるという点に焦点が当てられてきた。外科的な交感神経切断では、腎臓の遠心性神経及び求心性神経が完全に除去され、したがって、対象患者の交感神経切断量を「漸増」することができない。神経変性薬又は交感神経遮断薬の外膜送達は、用量依存性の交感神経切断の実現を可能にするが、本発明では、このような送達により、個々の患者の必要量まで漸増することができる療法に関する改善した方法が提案される。適切な用量まで漸増させることにより、過剰な治療及び低血圧効果を引き起こすことなく、J−曲線の底部に到達するように、療法を最適化することができる。
【0019】
上記した理由全てにより、血管に傷害を与えずに、又は潜在する血管疾患を悪化させずに、生物学的及び可逆的除神経を実現するように、神経毒薬、交感神経遮断薬、交感神経ブロック薬、又は神経筋遮断薬(神経機能を調節することができるその他の薬剤、神経調節薬と共に)を外膜/血管周辺に送達するための更なる、及び改善した方法及びキットを提供することが望ましいと考えられる。特に、交感神経の遠心性神経及び求心性神経が位置する外膜及び血管周辺の組織内において、神経調節薬の治療濃度に特に目標を定める方法を提供することが有益となろう。当該方法が、標的組織内に薬物を効果的に送達することができ、また内腔血流中への薬物の喪失を制限する又は防止することができれば更に有益となろう。当該方法が、外膜及び外膜周辺において神経調節薬の局在化を促進して、周辺臓器又は神経への薬剤の拡散を防止することができれば、更に有益となろう。また、血管壁を取り巻く外膜組織を含め、特に、交感神経周辺の標的組織内で、組織内における神経調節薬のかかる治療濃度の持続性も高まれば、なお更に有益となろう。更に、所望の治療域全体にわたり、神経調節薬送達の均一性を高めることは有益となろう。また、神経調節薬が送達される組織領域又は治療域を、視覚画像及び手術担当医師に対する正のフィードバックを用いて予測及び監視可能であれば、なお更望ましい。少なくとも上記目的のいくつかは、本明細書で以下に記載する本発明により満たされる。
2.背景技術の説明
下記の参考資料は、血管内及び管腔内薬物送達に関する:O. Varenne及びP. Sinnaeve、「Gene Therapy for Coronary Restenosis: A Promising Strategy for the New Millenium?」Current Interventional Cardiology Reports、2000年、2巻:309〜315頁、B. J. de Smetら、「Metalloproteinase Inhibition Reduces Constrictive Arterial Remodeling After Balloon Angioplasty: A Study in the Atherosclerotic Yucatan Micropig.」Circulation、2000年、101巻:2962〜2967頁、A. W. Chanら、「Update on Pharmacology for Restenosis」、Current Interventional Cardiology Reports、2001年、3巻:149〜155頁、Braun−Dullaeus R C、Mann M J、Dzau V J、Cell cycle progression: new therapeutic target for vascular proliferative disease.、Circulation、1998年;98巻(1号):82〜9頁、Gallo R、Padurean A、Jayaraman T、Marx S、Merce Roque M、Adelman S、Chesebro J、Fallon J、Fuster V、Marks A、Badimon J J、Inhibition of intimal thickening after balloon angioplasty in porcine coronary arteries by targeting regulators of the cell cycle.、Circulation、1999年;99巻:2164〜2170頁、Herdeg C、Oberhoff M、Baumbach A、Blattner A、Axel D I、Schroder S、Heinle H、Karsch K R、Local paclitaxel delivery for the prevention of restenosis: biological effects and efficacy in vivo.、J Am Coll Cardiol、2000年、6月;35巻(7号):1969〜76頁、Ismail A、Khosravi H、Olson H、The role of infection in atherosclerosis and coronary artery disease: a new therapeutic target.、Heart Dis、1999年;1巻(4号):233〜40頁、Lowe H C、Oesterle S N、Khachigian L M、Coronary in−stent restenosis: Current status and future strategies.、J Am Coll Cardiol、2002年1月16日;39巻(2号):183〜93頁、Fuchs S、Komowski R、Leon M B、Epstein S E、Anti−angiogenesis: A new potential strategy to inhibit restenosis.、Intl J Cardiovasc Intervent、2001年;4巻:3〜6頁、Kol A、Bourcier T、Lichtman A H及びLibby P、Chlamydial and human heat shock protein 60s activate human vascular endothelium, smooth muscle cells, and macrophages.、J Clin Invest.、103巻:571〜577頁(1999年)、Farsak B、Vildirir A、Akyon Y、Pinar A、Oc M、Boke E、Kes S及びTokgozogclu L、Detection of Chlamydia pneumoniae and Helicobacter pylori DNA in human atherosclerotic plaques by PCR.、J Clin Microbiol、2000年;38巻(12号):4408〜11頁、Grayston J T、Antibiotic Treatment of Chlamydia pneumoniae for secondary prevention of cardiovascular events.、Circulation.、1998年;97巻:1669〜1670頁、Lundemose A G、Kay J E、Pearce J H、Chlamydia trachomatis Mip−like protein has peptidyl−prolyl cis/trans isomerase activity that is inhibited by FK506 and rapamycin and is implicated in initiation of chlamydial infection.、Mol Microbiol.、1993年;7巻(5号):777〜83頁、Muhlestein J B、Anderson J L、Hammond E H、Zhao L、Trehan S、Schwobe E P、Carlquist J F、Infection with Chlamydia pneumoniae accelerates the development of atherosclerosis and treatment with azithromycin prevents it in a rabbit model、Circulation.、1998年;97巻:633〜636頁、K. P. Seward、P. A. Stupar及びA. P. Pisano、「Microfabricated Surgical Device」、米国特許出願第09/877,653号、2001年6月8日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Method of Interventional Surgery」、米国特許出願第09/961,079号、2001年9月20日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Microfabricated Surgical Device for Interventional Procedures」、米国特許出願第09/961,080号、2001年9月20日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Method of Interventional Surgery」、米国特許出願第10/490,129号、2003年3月11日出願。
【0020】
下記の参考資料は高血圧症を軽減するための腎除神経療法に関する:Calhoun DAら、「Resistant Hypertension: Diagnosis, Evaluation and Treatement: A scientific statement from the American Heart Association Professional Education Committee of the Council for High Blood Pressure Research」、Hypertension、2008年;51巻:1403〜1419頁、Campese VM、Kogosov E、「Renal Afferent Denervation Prevents Hypertension in Rats with Chronic Renal Failure」、Hypertension、1995年;25巻:878〜882頁、Ciccone CD及びZambraski EJ、「Effects of acute renal denervation on kidney function in deoxycorticosterone acetate−hypertensive swine」、Hypertension、1986年;8巻:925〜931頁、Connors BAら、「Renal nerves mediate changes in contralateral renal blood flow after extracorporeal shockwave lithotripsy」、Nephron Physiology、2003年;95巻:67〜75頁、DiBona GF、「Nervous Kidney: Interaction between renal sympathetic nerves and the renin−angiotensin stystem in the control of renal function」、Hypertension、2000年;36巻:1083〜1088頁、DiBona GF、「The Sympathetic Nervous System and Hypertension: Recent Developments」、Hypertension、2004年;43巻;147〜150頁、DiBona GF及びEsler M、「Translational Medicine: The Antihypertensive Effect of Renal Denervation」、American Journal of Physiology − Regulatory, Integrative and Comparative Physiology.、2010年2月;298巻(2号):R245〜53頁、Grisk O、「Sympatho−renal interactions in the determination of arterial pressure: role in hypertension」、Experimental Physiology、 2004年;90巻(2号):183〜187頁、Huang W−C、Fang T−C、Cheng J−T、「Renal denervation prevents and reverses hyperinsulinemia−induced hypertension in rats」、Hypertension、1998年;32巻:249〜254頁、Krum Hら、「Catheter−based renal sympathetic denervation for resistant hypertension: a multicentre safety and proof−of−principle cohort study」、Lancet、2009年;373巻(9671号):1228〜1230頁、Joles JA及びKoomans HA、「Causes and Consequences of Increased Sympathetic Activity on Renal Disease」、Hypertension、2004年;43巻:699〜706頁、Katholi RE、Winternitz SR、Oparil S、「Role of the renal nerves in the pathogenesis of one−kidney renal hypertension in the rat」、Hypertension、1981年;3巻:404〜409頁、Mizelle HLら、「Role of renal nerves in compensatory adaptation to chronic reductions in sodium uptake」、Am. J. Physiol.、1987年;252巻(Renal Fluid Electrolyte Physiol.、21号):F291〜F298頁。
【0021】
下記の参考資料は、神経毒薬又は神経遮断薬に関する:Simpson LL、「Botulinum Toxin: a Deadly Poison Sheds its Negative Image」、Annals of Internal Medicine、1996年;125巻(7号):616〜617頁より抜粋:「ボツリヌス毒素は、斜視、痙性斜頚、及び排尿筋−括約筋制御喪失等の治療に用いられる。これらの障害は、コリン作動性神経内の過剰な遠心性活動により特徴付けられる。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンの放出を遮断するためにこれらの神経近傍に注射される」、Clemens MW、Higgins JP、Wilgis EF、「Prevention of anastomotic thrombosis by Botulinum Toxin A in an animal model」、Plast Rectonstr Surg、2009年;123巻(1号)64〜70頁、De Paiva Aら、「Functional repair of motor endplates after botulinum neurotoxin type A poisoning: Biphasic switch of synaptic activity between nerve sprouts and their parent terminals」、Proc Natl Acad Sci、1999年;96巻:3200〜3205頁、Morris JL、Jobling P、Gibbins IL、「Botulinum neurotoxin A attenuates release of norepinephrine but not NPY from vasoconstrictor neurons」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2002年;283巻:H2627〜H2635頁、Humeau Y、Dousseau F、Grant NJ、Poulain B、「How botulinum and tetanus neurotoxins block neurotransmitter release」、Biochimie、2000年;82巻(5号):427〜446頁、Vincenzi FF、「Effect of Botulinum Toxin on Autonomic Nerves in a Dually Innervated Tissue」、Nature、1967年;213巻:394〜395頁、Carroll I、Clark JD、Mackey S、「Sympathetic block with botulinum toxin to treat complex regional pain syndrome」、Annals of Neurology、2009年;65巻(3号):348〜351頁、Cheng CM、Chen JS、Patel RP、「Unlabeled Uses of Botulinum Toxins: A Review, Part 1」、Am J Health−Syst Pharm、2005年;63巻(2号):145〜152頁、Fassio A、Sala R、Bonanno G、Marchi M、Raiteri M、「Evidence for calcium−dependent vesicular transmitter release insensitive to tetanus toxin and botulinum toxin type F」、Neuroscience、1999年;90巻(3号):893〜902頁、Baltazar G、Tome A、Carvalho AP、Duarte EP、「Differential contribution of syntaxin 1 and SNAP −25 to secretion in noradrenergic and adrenergic chromaffin cells」、Eur J Cell Biol、2000年;79巻(12号):883〜91頁、Smyth LM、Breen LT、Mutafova−Yambolieva VN、「Nicotinamide adenine dinucleotide is released from sympathetic nerve terminals via a botulinum neurotoxin A−mediated mechanism in canine mesenteric artery」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2006年;290巻:H1818〜H1825頁、Foran P、Lawrence GW、Shone CC、Foster KA、Dolly JO、「Botulinum neurotoxin C1 cleaves both syntaxin and SNAP −25 in intact and permeabilized chromaffin cells: correlation with its blockade of catecholamine release」、Biochemistry、1996年;35巻(8号):2630〜6頁、Demas GE及びBartness TJ、「Novel Method for localized, functional sympathetic nervous system denervation of peripheral tissue using guanethidine」、Journal of Neuroscience Methods、2001年;112巻:21〜28頁、Villanueva Iら、「Epinephrine and dopamine colocalization with norepinephrine in various peripheral tissues: guanethidine effects」、Life Sci.、2003年;73巻(13号)1645〜53頁、Picklo MJ、「Methods of sympathetic degeneration and alteration」、Journal of the Autonomic Nervous System、1997年;62巻:111〜125頁、Nozdrachev ADら、「The changes in the nervous structures under the chemical sympathectomy with guanethidine」、Journal of the Autonomic Nervous System、1998年;74巻(2〜3号):82〜85頁。
【0022】
下記の参考資料は、本発明に記載する薬物動態学を拡張するのに有用な自己組織化するペプチドヒドロゲルマトリックスに関する: Koutsopoulos S、Unsworth LD、Nagai Y、Zhang S、「Controlled release of functional proteins through designer self−assembling peptide nanofiber hydrogel scaffold」、Proc Natl Acad Sci、2009年;106巻(12号):4623〜8頁、Nagai Y、Unsworth LD、Koutsopoulos S、Zhang S、「Slow release of molecules in self−assembling peptide nanofiber scaffold」、J Control Rel.、2006年;115巻:18〜25頁、BD(商標)PuraMatrix(商標)Peptide Hydrogel (Catalog No. 354250) Guidelines for Use、BD Biosciences、SPC−354250−G Rev 4.0、Erickson IE、Huang AH、Chung C、Li RT、Burdick JA、Mauck RL、Tissue Engineering Part A.印刷前のオンライン出版、doi:10.1089/ten.tea.2008.0099、Henriksson HB、Svanvik T、Jonsson M、Hagman M、Horn M、Lindahl A、Brisby H、「Transplantation of human mesenchymal stems cells into intervertebral discs in a xenogeneic porcine model」、Spine、2009年1月15日;34巻(2号):141〜8頁、Wang S、Nagrath D、Chen PC、Berthiaume F、Yarmush ML、「Three−dimensional primary hepatocyte culture in synthetic self−assembling peptide hydrogel」、Tissue Eng Part A、2008年2月;14巻(2号):227〜36頁、Thonhoff JR、Lou DI、Jordan PM、Zhao X、Wu P、「Compatibility of human fetal neural stem cells with hydrogel biomaterials in vitro」、Brain Res、2008年1月2日;1187巻:42〜51頁、Spencer NJ、Cotanche DA、Klapperich CM、「Peptide− and collagen−based hydrogel substrates for in vitro culture of chick cochleae」、Biomaterials、2008年3月;29巻(8号):1028〜42頁、Yoshida D、Teramoto A、「The use of 3−D culture in peptide hydrogel for analysis of discoidin domain receptor 1 −collagen interaction」、Cell Adh Migr、2007年4月;1巻(2号):92〜8頁、Kim MS、Yeon JH、Park JK、「A microfluidic platform for 3−dimensional cell culture and cell−based assays」、Biomed Microdevices、2007年2月;9巻(1号):25〜34頁、Misawa H、Kobayashi N、Soto−Gutierrez A、Chen Y、Yoshida A、Rivas−Carrillo JD、Navarro−Alvarez N、Tanaka K、Miki A、Takei J、Ueda T、Tanaka M、Endo H、Tanaka N、Ozaki T、「PuraMatrix facilitates bone regeneration in bone defects of calvaria in mice」、Cell Transplant、2006年;15巻(10号):903〜10頁、Yamaoka H、Asato H、Ogasawara T、Nishizawa S、Takahashi T、Nakatsuka T、Koshima I、Nakamura K、Kawaguchi H、Chung UI、Takato T、Hoshi K、「Cartilage tissue engineering using human auricular chondrocytes embedded in different hydrogel materials」、J Biomed Mater Res A、2006年7月;78巻(1号):1〜11頁、Bokhari MA、Akay G、Zhang S、Birch MA、「The enhancement of osteoblast growth and differentiation in vitro on a peptide hydrogel−polyHIPE polymer hybrid material」、Biomaterials、2005年9月;26巻(25号):5198〜208頁、Zhang S、Semino C、Ellis−Behnke R、Zhao X、Spirio L、「PuraMatrix: Self−assembling Peptide Nanofiber Scaffolds. Scaffolding in Tissue Engineering」、CRC Press、2005年、Davis ME、Motion JP、Narmoneva DA、Takahashi T、Hakuno D、Kamm RD、Zhang S、Lee RT、「Injectable self−assembling peptide nano fibers create intramyocardial microenvironments for endothelial cells」、Circulation、111巻:442〜450頁、2005年。
【0023】
下記の参考資料は、頚動脈洞症候群(CSS)、及び治療選択肢としての外膜の除神経に関する:Healey J、Connolly SJ、Morillo CA、「The management of patients with carotid sinus syndrome: is pacing the answer」、Clin Auton Res、2004年10月;14巻増刊1号:80〜6頁、Toorop RJ、Scheltinga MR、Bender MH、Charbon JA、Huige MC、「Effective surgical treatment of the carotid sinus syndrome」、J Cardiovasc Surg (Torino)、2008年10月24日、Toorop RJ、Scheltinga MR、Moll FL、「Adventitial Stripping for Carotid Sinus Syndrome」、Ann Vase Surg、2009年1月7日。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Huang W−Cら、hypertension、1998年;32巻:249〜254頁
【非特許文献2】Krum Hら、Lancet、2009年;373巻(9671号):1228〜1230頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明によるシステムは、血管を取り巻く標的組織、具体的には外膜組織、より具体的には腎交感神経を取り巻く腎動脈及び静脈の外膜組織内の神経調節薬の濃度を高めることができる。本システムは、配置可能な針を有するカテーテルを用いた、神経調節薬の血管外膜送達に関連する。当該カテーテルは、経脈管的に血管内の標的注射部位(腎動脈にあっても、またなくてもよい)まで進行する。針上の開口部が、一般的に注射部位を取り巻く血管周辺領域(以下で定義される)内にある外膜組織内に配置され、及び神経調節薬が極微針を経由して血管周辺領域内に送達されるように、針は血管壁を経由して進行する。
【0026】
本送達プロトコールを採用するシステムは、いくつかの利点を有することが判明した。1番目は、血管周辺領域に直接注射すると、注射された組織を直近で取り巻く外膜組織内に、比較的高濃度の神経調節薬が速やかに供給されることが判明した。2番目は、注射後、注射された神経調節薬は、注射部位の血管を実質的に均一に取り巻くように同心円状に、並びに薬物を担持する液体処方に応じて、注射部位から1cm、2cm、5cm又はより遠くまで長手方向に到達するように分布することが判明した。更に、注射された神経調節薬の一部は、血管の内皮及び脈管内膜層全体にわたり、並びに血管壁の媒体又は筋肉層内に貫壁的に分布し得ることが判明した。神経調節薬の分布経路は、現在、外膜及び血管周辺の空間を形成する脂肪結合組織を経由して存在する、及び脈管の血管内、及びその他の結合組織を貫通する毛管路内に存在し得ると考えられている。3番目に、送達され、分布した神経調節薬(複数可)は、やはり、薬剤の担体、その親油性、及びその細胞表面受容体に結合する能力に応じて数時間又は数日間存続し、そしてエンドサイトーシスを受ける。したがって、神経調節薬に基づく持続的な治療効果は、外膜及び血管壁の両方において実現され得る。4番目に、分布が生じた後には、薬剤の分布領域全体にわたり神経調節薬の濃度が極めて均一となる。注射部位の神経調節薬の濃度は、常に最高濃度に保たれるが、注射部位周辺の末梢外膜内のその他の場所における濃度は、通常注射部位濃度の少なくとも約10%、多くの場合少なくとも約25%、及び時に少なくとも約50%に達する。同様に、注射部位から約5cm長手方向に離れた場所にある外膜における濃度は、通常、注射部位濃度の少なくとも5%、多くの場合少なくとも10%、及び時に少なくとも25%に達する。5番目に、分布は、拡散範囲を調べるために、X線に基づく放射線造影剤を用いることにより(又は超音波に基づく高エコー性若しくは低エコー性の造影剤により、又は磁気共鳴に基づくMRI造影剤により)、追跡可能であり、こうして、望ましい拡散領域に達したら、これに基づき注射を制限する、より広い拡散領域に達するように希望する場合にはその希望に基づき増量する、又は針先端部の位置、これは肥厚したプラーク内に埋め込まれ又は肥厚した石灰化部位に起因して管腔内に位置する可能性があるが、その位置に基づき拡散範囲が不適切な場合にはこれに基づき注射部位を変更することが可能となる。最終的に、グアネチジン等の神経調節薬が分布した後、薬剤は、アミン取り込みポンプを経由して交感神経ニューロン内に選択的に蓄積し、そしてin vivoで、0.5〜1.0ミリモル濃度(mM)の濃度までニューロン内に蓄積することができる。
【0027】
身体の動脈及び静脈を取り巻く外膜組織には、身体の細胞及び臓器により分泌されるホルモン及びタンパク質を調節するためのシグナル経路を提供する交感神経が含まれる。腎動脈に繋がる遠心性(中枢神経系から信号を受ける)及び求心性(中枢神経系に信号を送る)の交感神経は、この外膜性の結合組織内に保持されている。交感神経系は、ホメオスタシスを実現する身体内の化学物質の上方及び下方制御に関与している。高血圧症の場合には、脊髄から腎臓に繋がっている交感神経は、超生理的なレベルでノルエピネフリンを産生するように身体にシグナルを送り、血圧上昇の原因となるシグナルのカスケードを引き起こす。腎動脈(及びある程度、腎静脈)の除神経では、この反応が排除され、血圧を正常に戻すことができる。
【0028】
本発明の利点は、神経調節薬、例えば神経毒薬、交感神経遮断薬、交感神経ブロック薬、又は神経筋遮断薬(神経シグナルの伝達を調節することができるその他の薬剤と一緒に、及びこれと共に)を、腎動脈又は静脈を取り巻く外膜又は血管周辺領域に送達することにより実現される。血管周辺領域は、動脈の外弾性板より外側の領域又は静脈の中膜より外側の領域として定義される。通常、注射は、主に外膜脂肪細胞から構成されるだけでなく、線維芽細胞からも構成される外膜、脈管の血管、リンパ管、及び神経細胞の領域内に直接実施され、また神経調節薬は、注射部位から外膜を同心円状に、長手方向に、及び貫壁的に分散することが判明している。かかる分布は、治療上有効な濃度の神経調節薬を、神経細胞に影響を及ぼし得る区域に直接送達したい場合に、これを可能にする。その他の送達技術を用いたのでは、これを実現するのは困難又は不可能である(例えば、非経口皮下への針による注射)。
【0029】
外膜は、ヒトの動脈及びその他の脊椎動物の心血管系を取り巻く脂肪組織の層である。外弾性板(EEL)は、脂肪性の外膜組織を動脈壁の媒体を形成する筋肉組織から区別する。本発明の針は、血管の筋肉組織及びEELを貫通して薬物が注射される外膜及び血管周辺の空間に到達する。本発明の対象である腎動脈又は静脈は、通常、1mm〜10mm、より多くの場合、特に、内腔に影響を及ぼしていたと考えられるあらゆるプラークを圧縮するために血管形成術が用いられた後には、3〜6mmの内部(内腔)直径を有する。内腔をEELから区別する脈管内膜及び媒体の厚さは、通常、200μm〜3mmの範囲、より多くの場合500μm〜1mmの範囲である。EELを取り巻く外膜組織は、数ミリメートルの厚さであり得るが、腎臓に繋がる交感神経は、通常、EELの外側3mm以内にあり、より多くの場合EELの外側1mm以内にある。
【0030】
本発明に記載する方法に基づき注射される神経調節薬は、一般的に、それ自身が液体の形態であるか、又は神経調節薬が外膜を通過して分散するのを可能にするために水性又は液状の担体中に懸濁される。また、薬物は、注射部位近傍の組織区域内に拡散物を含有し、薬剤を保持する期間を延長するために、自己組織化するヒドロゲル担体中にも懸濁され得る。
【0031】
EELの外側の外膜内に神経調節薬を送達すると、交感神経シグナル経路を直接の標的とし、妨害することができる。ボツリヌス毒素と特に関連して、外膜への送達後、毒素は、神経終末上の受容体と高い親和性を有して結合し、及び毒素分子は、受容体が媒介するエンドサイトーシスにより細胞膜を貫通する。神経細胞に侵入すると、毒素は、pH−依存性のトランスロケーションによりエンドソーム膜を横断する。次に、毒素は細胞質ゾルに到達し、ここでエクソサイトーシスに不可欠なポリペプチドを切断する。これらのポリペプチドがないと、受信神経シグナルはアセチルコリンの放出を引き起こすことができないので、したがって、あらゆる送信神経シグナル(又は神経シグナルの伝達)が遮断される。時間と共に神経シグナルの回復が認められているが、ボツリヌス毒素は、ヒトで1年以上、神経活動を遮断することが明らかにされている。
【0032】
ボツリヌス毒素は、神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害する当該毒素の能力に起因して、これを副交感神経系と相互作用させるように主として用いられてきた。本発明の1つの態様は、副交感神経及び交感神経の両方に影響を及ぼすように、ボツリヌス毒素等の神経調節薬を腎動脈の外膜に送達することである。節前の交感神経はコリン作用性であるが、節後の交感神経はアドレナリン作用性であり、アセチルコリンではなくノルアドレナリンを発現する。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンの他、ノルアドレナリンの発現を低減することが文献で明らかにされたが、これは、本出願で更に記載するように、副交感神経及び交感神経の両方に関わる神経調節薬として同毒素が利用できることを裏付ける。
【0033】
ボツリヌス神経毒素を使用した場合に、これにより、一部は致命的な転帰を伴う心筋梗塞又は不整脈を含む心血管系の合併症について、まれに報告が存在する。これらの患者の一部は、心血管系疾患のリスク因子を有し、合併症はボツリヌス毒素注射とは無関係であったと考えられるが、患者がボツリヌス中毒症に罹患するおそれがあるので、血流中又は消化管内に毒素を高レベルで放出するのは問題である。
【0034】
ボツリヌス毒素は、SNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(Soluble N−sensitive factor Attachment protein REceptor))タンパク質を切断するが、同タンパク質には、25−キロダルトンのシナプトソーム関連タンパク質(SNAP−25)、シンタキシン、及びシナプトブレビン(小胞関連膜タンパク質、又はVAMPとしても公知)が含まれる。これらの各タンパク質は、それらが神経細胞から放出されるには、アセチルコリン又はノルアドレナリンを含有する小胞を必要とする。このような様式で、ボツリヌス毒素はカテコールアミン(catecholemine)又はアセチルコリンを含有する小胞のエクソサイトーシスを妨害する。アセチルコリン又はノルアドレナリンの放出を必要とするその他の経路も調整可能であり、例えばいずれかのSNAREタンパク質(SNAP−25、シンタキシン及びシナプトブレビンに加えて、シナプトタグミン及びRab3aが含まれる)の下方制御又は根絶が挙げられる。ボツリヌス毒素のこれらの効果、最も多くは、筋肉の運動又は痙攣を防止するように、神経筋接合部におけるアセチルコリンの放出を阻止するために用いられてきたが、当該毒素は、腎動脈外膜内の神経を経由するシグナルの伝達を妨害するためにも利用可能である。異なるボツリヌス毒素(boltulinum toxin)の血清型(A〜G)は、タンパク質からなるSNARE複合体の異なる成分を切断する。
【0035】
ボツリヌス毒素を用いれば、SNAREタンパク質の切断は可能となるが、その他の方法も、腎動脈外膜を貫通する神経又は身体内でその他の神経系形成する神経における活動過多のシグナリングを低減する又は抑えるために利用可能である。神経伝達物質、推定神経伝達物質、又は神経刺激性ペプチドを減少させることにより、腎動脈に沿った神経シグナルの伝達を低減するという同じ目標を達成することができる。神経伝達物質、推定神経伝達物質、又は神経刺激性ペプチドとして、アミノ酸作動性システムの化合物、例えばγ−アミノブチレート(GABA)、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、グリシン、又はタウリン;コリン作動性システムの化合物、例えばアセチルコリン;ヒスタミン感作性システムの化合物、例えばヒスタミン;モノアミン作動性システムの化合物、例えばアドレナリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、又はトリプタミン;ペプチド作動性のシステム化合物、例えばアンジオテンシン、ボンベシンファミリーメンバー、ブラジキニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、カルノシン、セルレイン、コレシストキニンファミリーメンバー、副腎皮質刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、ダイノルフィンファミリーメンバー、エレドイシン、エンドルフィンファミリーメンバー、エンケファリンファミリーメンバー、ガストリンファミリーメンバー、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、メラトニン、モチリン、ニューロキニン、ニューロメジンファミリーメンバー、神経ペプチドK、神経ペプチドY、ニューロテンシン、オキシトシン、ペプチドヒスチジンイソロイシン(PHI)、フィサレミン、睡眠誘導ペプチド、ソマトスタチン、物質K、物質P、甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)、血管活性腸管ペプチド(VIP)、又はバソプレシン;プリン作動性システムの化合物、例えばアデノシン、ADP、AMP、又はATP;又は気体状の神経伝達物質の化合物、例えば一酸化炭素又は一酸化窒素が挙げられる。
【0036】
神経ブロックは、リドカイン又はブピバカイン等の薬剤を用いれば実現可能であり、毒素単独又はブピバカイン単独と比較して、ボツリヌス毒素及びブピバカインを同時注射することにより延長可能であることが報告されている。ブピバカインのような薬剤は神経内へのナトリウムイオンの流入を遮断するので、薬剤の併用は増強された結果をもたらすことができ、そのような結果は活動電位及び神経発火(nerve firing)を抑えるように働く。これは、カルシウムチャンネル遮断薬を毒素と共に同時注射することによっても実現可能である。
【0037】
交感神経切断は、免疫性交感神経切断薬、例えば抗−神経増殖因子(抗−NGF);自己免疫交感神経切断薬、例えば抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)及び抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe);化学的交感神経切断薬、例えば6−ヒドロキシドーパミン(6−hydroxydpoamine)(6−OHDA)、フェノール、エタノール、ブレチリウムトシレート、グアネチジン、グアナクリン、及びN−(2−クロロエチル)−N−エチル(ehtyl)−2−ブロモベンジルアミン(DSP4);免疫毒素複合体交感神経切断薬、例えばOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポリン(DBH−SAP)、及び抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT);又はこれらを組み合わせたものを用いれば実現可能である。その他の交感神経切断薬として、α−2−作動薬、例えばクロニジン、グアンファシン、メチルドーパ、ベタニジン、グアネチジン、グアノキサン、デブリソキン、グアノクロル、グアナゾジン、グアノキサベンズ、グアンシジン、グアナドレル等のグアニジン誘導体;イミダゾリン受容体作動薬、例えばモクソニジン、レルメニジン等;神経節遮断薬又はニコチン受容体遮断薬、例えばメカミラミン、トリメタファン等;MAOI阻害薬、例えばパーギリン等;アドレナリン取り込み阻害薬、例えばレシンナミン、レセルピン等;チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、例えばメチロシン等;α−1遮断薬、例えばプラゾシン、インドラミン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ウラピジル等;非選択的α遮断薬、例えばフェントラミン等;セロトニン拮抗薬、例えばケタンセリン等;エンドセリン拮抗薬、例えばボセンタン、アンブリセンタン、シタキセンタン等;及び硬化療法の薬剤、例えばキナクリン、クロロキン、テトラデシル硫酸ナトリウム、エタノールアミンオレアート、モルイン酸ナトリウム、ポリドカノール、フェノール、エタノール、又は高張液が挙げられる。
【0038】
グアネチジンの場合は、長期間、高用量で全身投与すると、機能的交感神経切断を引き起こすことができるが、厳しい副作用の代償を払うこととなる。グアネチジンは、交感神経末端からのノルエピネフリンの放出を阻止し、ノルエピネフリンを担持する小胞の興奮性の放出を妨害し、シナプス小胞中のノルエピネフリンと置き換わり、細胞の50%で有効な量(ED50)の0.5〜0.9mMを用いてミトコンドリアにおける酸化性のリン酸化反応を阻害し、神経増殖因子等の栄養因子逆行性輸送を阻害し、また、免疫介在性の機徐により細胞傷害性の効果も発揮することにより、交感神経切断を引き起こす。
【0039】
本発明の1つの態様では、神経調節薬又は薬剤を組み合わせたものを分布させるシステムは、生きている脊椎動物宿主の腎動脈、例えばヒト腎動脈を取り巻く外膜組織及び神経内に極微針を腎臓の血管壁を経由して配置し、及び当該極微針を経由して神経調節薬又は薬剤を組み合わせたもののある量を送達する。
【0040】
極微針は、システムにより、管腔(動脈又は静脈)壁の内に、患者に対する外傷をできるだけ無くすため、好ましくは実質的に直角の方向に挿入されるように向きが定められる。極微針が注射部位に至るまで、針がその先端で動脈又は静脈の壁を擦過しないように邪魔にならない位置に配置される。具体的には、極微針は、これが介入中に患者を、又は取り扱い中に医師を傷つけないように、作動装置の壁又はカテーテルに取り付けられたシース内に収納された状態にある。注射部位に到達したら、管腔に沿った作動装置の動きは終了し、そして作動装置は、例えばカテーテルが挿入されていた管腔の中心軸に対して実質的に垂直に、極微針が外側に向かって突き出されるように操作される。
【0041】
極微針の開口部は、血管壁の外弾性板(EEL)を越え、そして壁を取り巻く血管周辺領域内に位置するように配置される。通常、開口部は、注射部位の血管の平均内腔径の少なくとも10%に等しい血管内壁からの距離に配置される。好ましくは、当該距離は平均内腔径の10%〜75%の範囲である。
【0042】
極微針の開口部が、血管を取り巻くEELの外側の組織内に配置されると、神経調節薬又は薬剤を組み合わせたものは、針開口部を経由して送達され、この箇所では、薬剤又は組み合わせたものは、極微針の部位において血管を取り巻く外膜組織を通じて、実質的に完全に同心円状に分布する。通常、薬剤は、血管に沿って少なくとも1〜2cmの距離にわたり長手方向に更に分布し、また60分を上回らない時間内、多くの場合5分以内に、注射される用量(容積)に応じてより長い距離に広がることができる。外膜内の神経調節薬の濃度は、長手方向で若干減少するが、通常、注射部位から2cmの距離で測定される濃度は、通常、注射部位で同時刻に測定された濃度の少なくとも5%、多くの場合少なくとも10%、高頻度で25%に等しく、及び時に50%に等しい。濃度プロファイルは、外膜組織及び血管周辺組織内に送達される分子又は粒子のサイズに大きく依存する。濃度プロファイルは、薬剤を担持する液体又はゲル処方内で異なる担体及び添加剤を使用することにより、更に最適化される。
【0043】
開口部の場所は、外膜中に神経調節薬の全量を注入する前に、例えば放射線造影剤をX線、超音波、又は磁気共鳴により画像化する方法を用いることにより検出可能である。造影剤は、治療薬と同時に、治療薬を含む溶液と一緒に又は別に送達可能であり、又は造影剤は、針の開口部がEELの外側の望ましい組織の場所にあることを検出及び確認するために、治療薬の前に送達可能である。針開口部の配置に成功したことを確認した後、画像誘導の下で、針を通じて継続した注射が実施可能である。薬剤を送達するためのかかる方法は、注射の場所及び拡散範囲について、並びに拡散範囲及び生理反応に基づき用量を漸増するかどうかについても医師に正の視覚的フィードバックを提供する。血管周辺領域に送達される薬剤量は顕著に変化し得るが、治療薬の前に送達されるイメージング剤は、通常、10〜200μlの範囲、及び多くの場合50〜100μlの範囲である。また、治療薬の注射は、一般的に10μl〜10mlの範囲、より通常では100μl〜5mlの範囲、及び多くの場合500μl〜3mlの範囲である。
【0044】
本システムは、ボツリヌス毒素の有効な用量を、大動脈から腎臓に、又は腎臓から大静脈に繋がっている管腔を取り巻く外膜に送達するのに利用可能である。ボツリヌス毒素の治療上有効な用量は、神経伝達を低減し、これにより血圧を低下させるが、その用量は手術担当医師により監視可能であり、また患者の特徴に基づき漸増可能である。この用量は、10pg(Botox(登録商標)の約0.2U又はMyobloc(商標)の1Uに相当)〜25ng(Botox(登録商標)の約500U又はMyobloc(商標)の2500Uに相当)、より通常では、50pg(Botox(登録商標)の約1U又はMyobloc(商標)の5Uに相当)〜10ng(Botox(登録商標)の約200U又はMyobloc(商標)の1000Uに相当)、及びなおもより通常では100pg(Botox(登録商標)の約2U又はMyobloc(商標)の10Uに相当)〜2.5ng(Botox(登録商標)の約50U又はMyobloc(商標)の250Uに相当)であり得る。
【0045】
本発明の別の態様では、グアネチジンの有効な用量は大動脈から腎臓に、又は腎臓から大静脈に繋がっている、かかる管腔を取り巻く外膜に送達される。グアネチジンの治療上有効な用量は、交感神経切断を実現し、またノルエピネフリンの放出を低減して、これにより血圧を低下させるが、その用量は手術担当医師により監視可能であり、また患者の特徴に基づき漸増可能である。この用量は、10μg〜200mgの範囲、通常50μg〜100mgの範囲、より通常では100μg〜50mgの範囲、及びなおもより通常では500μg〜30mgの範囲、及び時に500μg〜10mgの範囲であり得る。
【0046】
任意選択的に、標的組織中のグアネチジン、神経毒素、又はその他の神経調節薬の活動は、神経細胞によりエンドサイトーシスで取り込まれ、そして不活性になる前の長期間、細胞内に留まる薬剤の使用を含む。
【0047】
標的組織内に存在する神経調節薬の活性の持続化又は安定化は、自己組織化する能力を有するヒドロゲル、例えば自己組織化ペプチドヒドロゲルマトリックス等の安定化剤を伴う、かかる薬剤の送達を含む。ヒドロゲル材料と共に同時投与すると、活性薬剤分子は、ヒドロゲルが生理的条件に触れて自己組織化するので、ナノ繊維マトリックス中に捕捉される。ヒドロゲルマトリックスは、直径が例えば、1〜100nm、及び孔径が例えば、1〜300nmの繊維を有し得る。マトリックス内に捕捉された分子は、多孔性構造を通過して徐々に拡散する、又は空孔内に留まることができる。当該マトリックスは周辺組織により徐々に再吸収されるが、それは、ペプチドマトリックスは一般的にそのように振舞い、単純なアミノ酸になることが公知であるためである。当該マトリックスが再吸収されると、次に捕捉された活性薬剤分子は、周辺組織内に放出され、神経調節薬の薬物動態を持続させる能力がもたらされる。細胞内では長期間活性が保たれない薬剤にとって、これは特に有用である。望ましい薬物動態プロファイルは、数週間から数ヶ月、又は数年もの範囲である。
【0048】
本発明中に記載されるシステム及び用途で用いられる典型的なヒドロゲルは、自己組織化するペプチドヒドロゲルであり、これは交互に配列した親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸を含み、生理条件下では、自然発生的に自己組織化して繊維の直径が10〜20nmの織り合わされたナノ繊維マトリックスとなる。タンパク質及び小分子の存在下で、ナノ繊維マトリックスは、生物活性分子を5〜200nmの範囲の空孔中に捕捉する。この自己組織化するペプチド、アセチル−(Arg−Ala−Asp−Ala)4−CONH2[Ac−(RADA)4−CONH2](PuraMatrix(商標))は、小分子の有効な徐放性担体として報告されている。ナノ繊維マトリックスからのタンパク質放出には、少なくとも2つの段階が含まれることが明らかにされた。1番目は放出物質の「バースト」で、この段階では、大きな空孔内に緩やかに捕捉されているタンパク質からなる物質が急速に(数時間のうちに)拡散し、次の段階では、より緊密に捕捉されている物質の徐放が、少なくとも数日間生じ、そして緊密なマトリックスの間を移動するタンパク質のブラウン運動により支配されることが理論付けられている。放出動態に対する3番目の側面として、ペプチドマトリックスがその境界で崩壊することが挙げられ、その結果、ペプチドが周辺組織により再吸収されるに従い、捕捉されていたタンパク質が放出される。「従来型の」ヒドロゲルと比較して、ペプチドヒドロゲルの1つの長所として、ペプチド構造が崩壊した結果、生ずるのは身体により容易に代謝されるアミノ酸副生成物のみであるということが挙げられる。PuraMatrixが、BD BioscienceからBD(商標)として入手可能である。PuraMatrix(商標)ペプチドヒドロゲルは研究用途に限られ、1%の濃度である。これは、主に細胞培養剤として用いられるが、細胞及び生物活性薬を送達する際にin vivoで用いる用途も有する。PuraMatrixは、間葉細胞及び軟骨細胞を用いて軟骨を工学的に作り出すためのマトリックスとして、椎間板損傷のための間葉細胞の担体として、in vitroでのヒト胎児神経幹細胞の分化を支援するための肝細胞培養マトリックスとしてその用途において、及びその他の細胞培養及び再生医学の用途で研究されてきた。Puramatrixの生体適合性試験では、これはその他の細胞外マトリックス構造と全く同様に組織と十分に一体化すること、及び数週間のうちに再吸収可能であるが判明した。機能的血管構造が、注射後28日間までにナノ繊維微環境中に認める得ることも判明した。本発明と特別に関連するものとして、PuraMatrixは、これが長期間にわたり捕捉又は溶出するタンパク質に有害な効果を有さないことも明らかにされている。
【0049】
本発明のなおも別の態様では、交感神経及び副交感神経の過活動に起因するその他の疾患を治療する方法は、動脈の化学的又は神経調節による除神経を行うための神経調節薬の送達を含む。この療法は、最も多くは、腎動脈に適用され得るが、その他の血管床もこの方法から利益を得ることができる。例えば、頚動脈洞症候群(CSS)は、目まい及び失神を引き起こすが、頚動脈外膜の除神経により調整可能な状態であり、頚動脈の除神経がこの患者を治療するのに利用可能である。
【0050】
本発明のなおも別の態様では、血管疾患を治療する方法は、血管周辺の外膜への神経調節薬の送達を含む。アテローム性動脈硬化症、不安定プラークの発症、及び過形成性新生内膜の増殖は、それぞれ副交感神経及び交感神経シグナル経路に依存することが明らかにされた。妨害を受けると、これらのシグナル経路は、もはや薬剤を生成しなくなり、最終的には、関連する虚血性の合併症に起因して死亡及び罹患を引き起こす血管の炎症の原因となる。
【0051】
身体内の腎動脈又はその他の血管について、化学的又は神経調節による除神経を実現するための典型的な神経調節薬として、神経毒素、例えばボツリヌス毒素(血清型A〜G)、レシニフェラトキシン(resinoferatoxin)、α−ブンガロトキシン、β−ブンガロトキシン、テトロドトキシン、破傷風毒素、α−ラトロトキシン、テトラエチルアンモニウム(tetraethylamonium)等;神経筋遮断薬、例えばツボクラリン、アルクロニウム、ピペクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、ベクロニウム等;カルシウムチャンネル遮断薬、例えばアムロジピン、ジルチアゼム、フェロジピン(felodiipine)、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ベラパミル等;ナトリウムチャンネル遮断薬、例えばモリシジン、プロパフェノン、エンカイニド、フレカイニド(flecainine)、トカイニド、メキシレチン(mexilietine)、フェニトイン、リドカイン、ジソピラミド(disopyramine)、キニジン、プロカインアミド等;β−アドレナリン作用性阻害薬、例えばアセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルベジロール、エスモロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、プロプラノロール、ピンドロール、ソタロール、チモロール等;アセチルコリン受容体阻害薬、例えばアトロピン等、免疫性交感神経切断薬、例えば抗−神経増殖因子(抗−NGF)等;自己免疫性交感神経切断薬、例えば抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)、抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe)等;化学的交感神経切断薬、例えば6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)、フェノール、エタノール、ブレチリウムトシレート、グアニジニウム化合物(例えば、グアネチジン又はグアナクリン)、N−(2−クロロエチル)−N−エチル−2−ブロモベンジルアミン(DSP4)等;免疫毒素複合体交感神経切断薬、例えばOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポニン(DBH−SAP)、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT)等;又はこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の1つの特別な長所として、患者が腎臓の除神経に対して十分反応しない場合に、療法を逆転させる能力が挙げられる。例えば、神経伝達を低減させるために毒素が用いられる場合には、効果を逆転させ、及び患者の健康を改善するために、抗−毒素を送達する(全身的に又は局所的に)ことができる。腎臓の交感神経を除神経するその他の方法は、神経の外科的な切断、又は神経がそこから先へシグナルを伝達することができなくなるようにする損傷を神経に引き起こす高周波エネルギー伝達に依存する。これらの各従来法は不可逆的である(但し、RFエネルギー伝達は、数ヶ月から数年後には徐々に減少し得る非恒久的な効果を実現することができる)。患者が、外科的又はRFによる除神経手技のいずれにも十分に反応しない場合には、手段は、もはやほとんど存在しない。
【0053】
本発明の別の特別な長所として、治療効果をもたらす用量が非常に低いが故に副作用が限られていることが挙げられ、本発明に記載する方法は、神経調節物質の狙いを交感神経が位置する組織内に正確に定めることを可能にするので、その範囲はボツリヌス神経毒素では、多くの場合0.1〜2.5ng、又はグアネチジンでは、多くの場合50mg未満(ヒトでは、5〜50mg/kg/日で全身投与しても確実な交感神経切断は実現しない)である。
【0054】
本発明の別の特別な長所として、上記の方法により外膜内に神経調節薬を送達しても、平滑筋細胞の死亡、炎症、又は再狭窄を引き起こさないことが挙げられるが、これらのいずれも、腔内側から動脈壁内への高周波エネルギー伝達に起因し得る。むしろ、薬剤は、管腔の平滑筋及び内皮細胞を機能的な状態で、健全に保ちながら、外膜を貫通する交感神経及び副交感神経を直接標的とし、また管腔を取り囲むように、及び通過して移動する血液又はリンパ液から送られて来る生理的シグナルに反応することができる。
【0055】
本発明の別の特別な長所として、神経調節薬は、造影剤を用いることにより、その送達期間中に監視可能であることが挙げられる。こうすることで、医師は、完全に外膜を治療するために十分多くの用量が投与されることを確実にできる他、拡散が解剖学的関心の対象となる区域に限定されるように、十分少ない用量が用いられることを保証することも可能となる。こうすることで、神経調節薬が中枢神経系に到達する可能性が制限される。血圧の監視と連携してイメージング剤を用いれば、医師は、周辺組織又は神経系に影響を及ぼさないように治療範囲を制御しながら、投与効果を能動的に監視することができるようになる。
【0056】
本発明のなおも更なる態様では、高血圧症に罹患した患者に神経調節薬を送達するキットは、カテーテル、カテーテルの使用説明書、及び薬剤送達説明書を含む。カテーテルは、極微針の開口部が血管を取り巻く血管周辺空間に配置されるように、血管の内腔から血管壁を貫通して進入することができる極微針を有する。使用説明書は、上記の代表的な治療プロトコールのいずれかを記載する。キットは、1つ又は複数のステント、及び腎動脈を広げ、また腎臓への血流を改善するのに利用可能な1つ又は複数の血管形成バルーンも含み得る。
【0057】
本発明の更なる態様では、疾患に罹患した患者の血管外膜に神経調節薬を送達するキットは、カテーテル、外膜組織及び隣接組織中への薬剤の溶出動態を拡張させることができる担体を含む処方の状態であっても、またなくてもよい神経調節薬、カテーテルの使用説明書、及び薬剤投与ガイドラインを含む。カテーテルは、極微針の開口部が血管のEEL外部であり血管周辺組織又は外膜内部の場所に配置されるように、血管の内腔から血管壁を貫通して進入することができる極微針を有する。薬剤は、通常、血管を取り巻く血管周辺の空間及び外膜内を同心円状及び長手方向に、少なくとも1cmの距離にわたり、5分を超えない時間内に、通常、1分以内に分布することができる。使用説明書は、上記の代表的な治療プロトコールのいずれかを記載する。キットは、1つ又は複数のステント、及び腎動脈を広げ、また腎臓への血流を改善するのに利用可能な1つ又は複数の血管形成バルーンも含み得る。
【0058】
本発明はカテーテルにより強化された方法を提供するが、同カテーテルは針を管腔の内側から導入することにより、針開口部を血管のEEL外部に配置する。これらのカテーテルは様々な形態を取り得る。1つの代表的な実施形態では、同一所有者による米国特許第6,547,803号、同第7,547,294号、及び同第7,666,163号に更に記載されているように、バルーン又は膨張可能な作動装置は、管腔壁を通ってほぼ垂直に挿入された極微針周辺からバルーンを展開するように膨張する。別のかかる代表的な実施形態は、膨張し、及び針を移動させ、及び針先端を通路に沿って管腔壁内に押し出すバルーンを利用する。かかる代表的な実施形態は、同一所有者による米国特許第7,141,041号で明らかにされている。これらの代表的な実施形態のそれぞれにおいて、複数の構成部材が、壁の一部が非膨張性であり、及び壁の別の一部が弾力性を有する又はゴム弾性を有するように、1回の膨張ステップが、容積又は圧力が関係するかどうかに関わらず、非膨張性及び弾力性の構造の両方を、同時に又は連続的に作動させるのに有用であり得るように、同一のバルーン又は加圧構成部材に組み込まれ得る。送達カテーテルに関するかかる強化された実施形態は、米国特許第7,691,080号に記載されている。神経調節薬を外膜内に送達するのに利用可能な代表的な方法は、同一所有者による同時係属出願第10/691,119号に記載されている。これらの同一所有者によるそれぞれの特許及び出願に関する全開示を本明細書に参考として援用する。
【0059】
腎動脈周辺の外膜に送達するためのこれらのデバイス及び技法の利用は、高血圧症の治療に有用であると認識されており、またこれらのデバイス及び技法の利用は、同様の目標を実現するために、その他の動脈、例えば頚動脈にも適用可能であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】図1Aは、本発明の方法及びシステムで利用するのに適する管腔内注射カテーテルの概略的な斜視図である。
【図1B】図1Bは、図1Aの1B〜1Bの線に沿った断面図である。
【図1C】図1Cは、図1Aの1C〜1Cの線に沿った断面図である。
【図2A】図2Aは、導入された注射針と共に示した、図1A〜1Cのカテーテルの概略的な斜視図である。
【図2B】図2Bは、図2Aの2B〜2Bの線に沿った断面図である。
【図3】図3は、本発明の方法に基づき、身体内腔を取り巻く外膜空間内に治療薬を注射している、図1A〜1Cの管腔内カテーテルの概略的な斜視図である。
【図4】図4A〜4Dは、本発明の方法で有用な管腔内注射カテーテルの膨張プロセスの断面図である。
【図5】図5A〜5Cは、本発明の方法で有用な膨張状態の管腔内注射カテーテルの断面図であり、複数の内腔径を治療する能力を示している。
【図6】図6は、本発明の方法及びシステムで有用な針注射カテーテルの斜視図である。
【図7】図7は、注射針が後退した状態で示した図6のカテーテルの断面図である。
【図8】図8は、本発明による治療薬又は診断薬を送達するために、内腔組織内に横方向に進入した注射針と共に示した、図7と同様の断面図である。
【図9】図9は、周辺組織と共に示す動脈の概略図であり、血管周辺組織、外膜、及び血管壁の各構成要素の間の関連性を示している。
【図10A】図10Aは、腎臓及び血液を腎臓に運ぶ動脈の構造を示す概略図である。
【図10B】図10Bは、腎動脈周辺の大動脈から腎臓に繋がる交感神経と共に示す、図10Aの概略図である。
【図10C】図10Cは、図10Bの10C〜10Cの線に沿った断面図である。
【図11A】図11Aは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11B】図11Bは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11C】図11Cは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11D】図11Dは、図11Aの11D〜11Dの線に沿った断面図である。
【図11E】図11Eは、図11Bの11E〜11Eの線に沿った断面図である。
【図11F】図11Fは、図11Cの11F〜11Fの線に沿った断面図である。
【図12】図12は、ボツリヌス毒素が神経細胞と相互作用してアセチルコリンのエクソサイトーシスを妨害する様式を示す説明図である。
【図13】図13は、本明細書に記載する実験データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、好ましくは血管内注射用の微細加工されたカテーテルを利用する。以下の記載及び図1〜8は、神経調節薬を血管周辺の空間又は外膜組織内に送達するのに適する極微針を有するカテーテルの3つの代表的な実施形態を提供する。カテーテル及び製造方法に関するより完全な説明は、米国特許第7,141,041、同第6,547,803号、同第7,547,294号、同第7,666,163号、及び同第7,691,080号に記載されており、その全開示は本明細書に参考として援用されている。
【0062】
本発明は、高血圧症の治療において血圧を低下させるために、腎動脈周辺の外膜内に神経調節薬を送達するのに有用な方法及びキットを記載する。各キットでは、送達カテーテルは、使用説明書、及び上記で定義した治療上有効な量の神経調節薬と併用可能である。
【0063】
図1A〜2Bに示すように、微細加工された管腔内カテーテル10には、作動装置本体12a及び長手方向の中心軸12bを有する作動装置12が含まれる。作動装置本体は、実質的にその長さ方向に沿って伸長する開口部分又はスリット12dを有する、U字形又はC字形の外形をいずれにせよ形成する。極微針14は、作動装置が作動していない状態(格納状態)の場合には、以下でより詳細に議論されるように、作動装置本体内に位置する(図1B)。極微針は、作動装置が作動状態(非格納状態)となるように操作された場合には、作動装置本体外側に移動する(図2B)。
【0064】
作動装置は、治療用カテーテル20の近位側末端部12eからリード末端部16、及び遠位側末端部12fから先端部18まで、それぞれキャップすることができる。カテーテルの先端部は、放射線不透過性コーティング物又はマーカーを使用することにより、作動装置を身体内腔の内部に設置する手段として機能する。また、カテーテルの先端は、作動装置の遠位側末端部12fでシール部も形成する。カテーテルのリード末端部は、作動装置の近位側末端部12eで、必要とされる相互連結(流体的、機械的、電気的、又は光学的)を提供する。
【0065】
保持リング22a及び22bは、作動装置の遠位側及び近位側末端部にそれぞれ位置する。カテーテル先端は保持リング22aに結合し、一方、カテーテルのリードは保持リング22bに結合する。保持リングは、10〜100ミクロン(μm)のオーダーの薄い、実質的に可撓性であるが、但し、比較的非膨張性の材料、例えばパリレン(タイプC、D、若しくはN)、又は金属、例えばアルミニウム、ステンレススチール、金、チタン、又はタングステンを原料として作成される。保持リングは、可撓性であるが、但し、比較的非膨張性の実質的に「U」字形、又は「C」字形の構造を作動装置の各末端部に形成する。カテーテルは、例えば、突き合わせ溶接、超音波溶接、一体化ポリマーのカプセル化、又はエポキシ若しくはシアノアクリレート等の接着剤により、保持リングに結合し得る。
【0066】
作動装置本体は、保持リング22a及び22bの中間に位置する中央部の拡張可能なセクション24を更に備える。拡張可能なセクション24には内部空隙区域26が含まれ、作動液が当該区域に供給されたときには迅速に拡張する。中央部セクション24は、薄い、半可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、又は可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、ポリマー等の拡張可能な材料、例えばパリレン(タイプC、D、又はN)、シリコーン、ポリウレタン、又はポリイミドを原料として作成される。中央部セクション24は、作動した際には、バルーン−デバイスに若干類似して拡張可能である。
【0067】
中央部セクションは、空隙区域26に作動液が負荷されたときに、最大約200psiの耐圧能力を有する。中央部セクションの原料となる材料は、空隙区域26から作動液が除去されると、中央部セクションは実質的にその当初の形態及び向き(非作動状態)に戻るように、可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、又は半可撓性であるが、但し比較的非膨張性である。したがって、この意味において、中央部セクションは本質的に安定構造を有さないバルーンとは極めて異なる。
【0068】
作動装置の空隙区域26は、カテーテルのリード末端部から作動装置の近位側末端部に伸びる、送達用の導管、管又は流路28と連結される。作動液は、送達用の管を経由して空隙区域に供給される。送達用の管は、テフロン(登録商標)(著作権)又はその他の不活性なプラスチックから構成され得る。作動液は生理食塩水又は放射線不透過性の色素であり得る。
【0069】
極微針14は、中央部セクション24のほぼ中央部に位置し得る。しかし、以下で議論するように、これは、特に複数の極微針が用いられるときには必ずしも必要ではない。極微針は、中央部セクションの外部表面24aに固定される。極微針は、シアノアクリレート等の接着剤により、表面24aに固定される。あるいは、極微針は、金属又はポリマーメッシュ様の構造物30(図2Aを参照)により表面24aに結合し得るが、同構造物は、接着剤により表面24aにそれ自身が固定されている。メッシュ様の構造物は、例えば、スチール、又はナイロンを原料として作成され得る。
【0070】
極微針には、鋭利な先端14a及びシャフト14bが含まれる。極微針の先端は、挿入エッジ又はポイントを提供し得る。シャフト14bは中空であり得、またその先端は出口14cを有することができ、神経調節薬又は薬物を患者内に注射するのを可能にする。しかし、極微針は、その他のタスクを実現するための神経プローブのように構成され得るので、中空である必要はない。示す通り、極微針は表面24aからほぼ垂直に伸びる。したがって、記載するように、極微針は、これが挿入された内腔の軸に対して実質的に垂直に移動して、身体内腔壁の直接的な穿刺又は切開を可能にする。
【0071】
極微針には、神経調節薬又は薬物を供給するための導管、管又は流路14dが更に含まれ、カテーテルのリード末端部において、適当な液体と相互に連結するように極微針を流通した状態にする。この供給管は、シャフト14bと一体的に形成されてもよく、また後に、例えばエポキシ等の接着剤でシャフトに結合される、分離した部品として形成されてもよい。極微針14は、例えば、シアノアクリレート等の接着剤を用いて供給管に接着可能である。
【0072】
針14は、30ゲージ以下のスチール製の針であり得る。あるいは、極微針は、ポリマー、その他の金属、合金、又は半導体材料から微細加工され得る。例えば、この針はパリレン、シリコン、又はガラスを原料として作成され得る。極微針及び製造方法は、2001年6月8日に申請された「Microfabricated Surgical Device」と題する米国特許出願第09/877,653号に記載されており、その全開示を本明細書に参考として援用する。
【0073】
カテーテル20は、使用時には、身体内の空隙を通して(例えば、気管支又は洞の治療の場合)、又は経皮的穿刺部位を通して(例えば、動脈又は静脈の治療の場合)挿入され、そして特定の、標的とする領域34に到達するまで、患者の身体の通路32の中を移動する(図3を参照)。標的領域34は、組織が損傷している部位であり得、又はより通常では、治療薬又は診断薬の移動が可能となるように、一般的に100mm以内の当該部位近傍である。カテーテルに基づく介入的手技で周知されているように、カテーテル20は、予め患者内に挿入されたガイドワイヤー36に追随し得る。任意選択的に、カテーテル20は、ガイドワイヤーを収納する予め挿入されたガイドカテーテルの通路(図示せず)にも追随することができる。
【0074】
カテーテル20の操作中、カテーテルを画像化し、及び作動装置12及び極微針14を標的領域に配置する際に役立つように、X線蛍光透視法又は磁気共鳴画像法(MRI)の周知の方法が利用可能である。カテーテルが患者身体内部に誘導される際には、極微針は、身体の内腔壁に外傷を生じさせないように、格納された状態又は作動装置本体内部に保持された状態に留まる。
【0075】
標的領域34に配置された後、カテーテルの動きは終了し、そして作動液が作動装置の空隙区域26に供給されると、拡張可能なセクション24を急速に膨らんだ状態にし、極微針14を作動装置本体12aの長手方向の中心軸12bに対して実質的に垂直方向に移動させて、身体の内腔壁32aを穿刺する。極微針を格納状態から非格納状態に移動させるのに、約100ミリ秒〜5秒しかかからないと考えられる。
【0076】
極微針の開口部は、身体内腔組織32b、並びに身体の内腔を取り巻く外膜、媒体、又は脈管内膜に侵入するように設計され得る。更に、作動装置は、作動する前に「留まる」、又は停止するので、身体内腔壁の貫通に関してより正確な配置及び制御が得られる。
【0077】
極微針の作動、及び極微針経由による標的領域への薬剤送達後に、作動液は作動装置の空隙区域26から排出され、拡張可能なセクション24をその当初の格納状態に戻す。これは、極微針が身体の内腔壁から撤去される原因ともなる。極微針が撤去されると、再び作動装置によって覆われる。
【0078】
様々な微細加工されたデバイスが、流量を測定し、生物学的組織サンプルを採取し、及びpHを測定するために針、作動装置、及びカテーテルに組み込み可能である。例えば、デバイス10には、極微針を経由する流量、並びに配置される神経調節薬のpHを測定する電気センサーを含めることが可能である。また、デバイス10には、当技術分野において周知なように、標的領域を可視化するように管腔壁及び光ファイバーを配置するための血管内超音波センサー(IVUS)も含めることが可能である。かかる完全なシステムの場合、力、エネルギー、及び神経調節薬又は生物学的薬剤を確実に伝達するための、高い完全性を有する電気的、機械的、及び流体的な結び付きが提供される。
【0079】
例として、極微針は約200〜3,000ミクロン(μm)の全長を有し得る。シャフト14b及び供給管14dの内側断面寸法は20〜250μmのオーダーであり得、一方管及びシャフトの外側断面寸法は約100〜500μmであり得る。作動装置本体の全長は、約5〜50ミリメーター(mm)であり得、一方、作動装置本体の外側及び内側の断面寸法は、それぞれ約0.4〜4mm、及び0.5〜5mmであり得る。作動装置の中央部セクションが膨らむ際に通過するギャップ又はスリットは、約4〜40mmの長さ、及び約50μm〜4mmの断面寸法を有し得る。作動液用の送達管の直径は100〜500μmであり得る。カテーテルのサイズは、1.5〜15フレンチ(Fr)であり得る。
【0080】
図4A〜4Dを参照すると、エラストマー構成部材は、図1〜3の管腔内カテーテルの壁と一体化している。図4A〜Dでは、かかる構造の加圧進行過程が、圧力が高まる順番で示されている。図4Aでは、バルーンは、身体内腔Lの中に配置されている。内腔壁Wは、具体的な内腔の生体構造に応じて、内腔を内腔周辺組織T又は外膜A*と区別する。圧力は中立であり、及び非膨張構造は、針14が覆われている図1の場合と同様に、U字形の退縮したバルーン12を形成する。この図では針が示されているが、切刃、光レーザー若しくは光ファイバーチップ、高周波トランスミッターを含むその他の作動要素、又はその他の構造物が針と置換し得る。しかし、全てのかかる構造物において、エラストマー製のパッチ400は、通常、退縮したバルーン12と針14とは反対側に配置される。
【0081】
加圧することにより、バルーン12の作動が生ずる。図4Bでは、圧力(+ΔP1)が加えられ、これにより可撓性であるが、但し比較的非膨張性の構造物の変形が開始し、バルーンの退縮した状態から、円形圧力管の低エネルギー状態に向けて反転を開始させる。図4Cのより高い圧力+ΔP2では、可撓性であるが、但し比較的非膨張性のバルーン材料は丸い形状に達し、エラストマー製のパッチはすでに伸張を始めている。最終的に、なおもより高い圧力+ΔP3にある図4Dでは、エラストマー製のパッチは伸びきって内腔の直径全体に丁度収まり、針の先端に抵抗する力を付与し、そして針を、内腔壁を貫通して外膜A内にスライドさせる。本図で検討された身体内腔の典型的な寸法は、0.1mm〜50mm、より多くの場合、0.5mm〜20mm、及び最も多くは、1mm〜10mmである。内腔及び外膜間の組織の厚さは、一般的に0.001mm〜5mm、より多くの場合0.01mm〜2mm、及び最も多くは0.05mm〜1mmである。バルーンを作動させるのに有用な圧力+ΔPは、一般的に0.1気圧〜20気圧、より一般的には0.5〜20気圧の範囲であり、及び多くの場合1〜10気圧の範囲である。
【0082】
図5A〜5Cに示すように、図4A〜4Dに示すデュアルモジュール構造は、低圧(すなわち、身体組織に損傷を与え得る圧力よりも低い)での管腔内医療デバイスの作動を実現して、針等の作動要素を内腔壁と接触させ又はこれを貫通させる。一定圧力で膨張させることにより、エラストマー製の材料は内腔の直径に丁度収まり、最大限の配置を実現する。デュアルモジュールバルーン12は、パッチ400が徐々により大きく膨張して、直径に関係なく管腔壁を貫通して最適な針の配置を実現するように、図5A、5B、及び5Cに示す3つの異なる内腔直径で圧力+ΔP3まで膨張する。したがって、全身を通じて直径範囲内の内腔において同一のカテーテルが利用可能な、可変直径システムが構築される。ほとんどの医療製品は、非常に厳密な制約(一般的に0.5mm以内に)に縛られており、そのような内腔において当該製品は利用可能なので、このシステムは有用である。本発明に記載するシステムは、内腔の直径が数ミリメートルばらついても、当該内腔の直径が実用範囲内であれば、これに適合することができる。
【0083】
上記カテーテルの設計及びこれに関する変形形態は、公表済みの米国特許第6,547,803号、同第6,860,867号、同第7,547,294号、同第7,666,163号、及び同第7,691,080号に記載されており、その全開示を本明細書に参考として援用する。本出願の代理人が担当する同時係属出願第10/691,119号は、心臓の外膜組織及び心嚢組織内に直接注射することにより送達された物質が、心臓組織内の注射部位から離れた場所にさえも、迅速かつ均一に分布する能力について記載する。当該同時継続出願の全開示も本明細書に参考として援用する。本発明の治療薬、又は診断薬を送達するのに適した別の針カテーテルの設計を下記に記載する。当該特別なカテーテルの設計は、米国特許第7,141,041号に記載され及び特許請求されているが、その全開示を本明細書に参考として援用する。
【0084】
図6を参照すると、本発明の原理に基づき構築された針注射カテーテル310は、遠位側末端部314及び近位側末端部316を有するカテーテル本体312を含む。通常、ガイドワイヤーの内腔313は、カテーテルの遠位側突端部352を提供するが、オーバーザワイヤー(over−the−wire)、及びガイドワイヤーの配置を必要としない実施形態も、本発明の範囲内である。2ポートハブ320が、カテーテル本体312の近位側末端部316に取り付けられており、これには例えばシリンジ324を用いて、作動流体を送達するための第1のポート322、及び、例えばシリンジ328を用いて神経調節薬を送達するための第2のポート326が含まれる。往復可能、湾曲可能な針330が、カテーテル本体312の遠位側末端部近傍に取り付けられており、図6では、その横方向に突き出た形態で示されている。
【0085】
図7を参照すると、カテーテル本体312の近位側末端部314は、針330、往復可能なピストン338、及び作動流体送達管340を保持する主内腔336を有する。ピストン338は、レール342上をスライドするように組み込まれ、針330に固定して取り付けられている。したがって、加圧された作動流体を、内腔341、管340を経由してベローズ構造物344内に送達することにより、ピストン338は、針をカテーテル突端部352内に形成された湾曲通路350経由で通過せしめるために、軸方向に遠位側先端部に向かって進入し得る。
【0086】
図8に認められるように、カテーテル310は、血管BVにおいて、ガイドワイヤーGW上に従来方式で配置可能である。ピストン338が遠位側に前進すると、針330が血管内に存在する場合には、これをカテーテルに隣接した、内腔を取り巻く組織T内に進入せしめる。次に、治療薬又は診断薬は、図8に示すように、薬剤のプルームPを心臓組織内に導入するために、シリンジ328を用いながらポート326を経由して導入され得る。プルームPは、上記のように組織が損傷した領域内又はその近傍にある。
【0087】
針330は、カテーテル本体312の全長にわたり伸長することができ、又はより通常では、管340内にあるの治療薬又は診断薬の送達用の内腔337内で、部分的にのみ伸長する。針の近位側末端部は、内腔337と共にスライディングシールを形成して、針を経由した薬剤の加圧送達を可能にする。
【0088】
針330は、弾性材料、一般的に弾性又は超弾性金属、一般的にニチノール又はその他の超弾性金属から構成される。あるいは、針330は、湾曲した通路を通過する際に形状を変えられる、非弾性的に変形可能又は打ち延ばし可能な金属から形成され得る。しかし、非弾性的に変形可能な金属の利用は、一般的に湾曲した通路を通過した後に直線的形状を維持しないので、かかる金属はあまり好ましくない。
【0089】
ベローズ構造344は、主軸上にパリレン又は別の適合性ポリマーの層を塗布し、次いでポリマーシェル構造内から主軸を溶解することにより作製可能である。あるいは、ベローズ344は、バルーン構造を形成するように、エラストマー製材料から作製され得る。なおも更なる選択肢として、加圧された作動流体が存在しない場合には、ベローズを縮められた位置に駆動するように、スプリング構造が、ベローズの内部、上部、又は上方部で利用可能である。
【0090】
図8に示す通り、針330を経由して治療物質が送達された後、針は後退し、そしてカテーテルは、更に薬剤を送達するために再配置される、又は撤去される。いくつかの実施形態では、針は、作動流体をベローズ344から吸引するだけで後退する。別の実施形態では、針の後退は、例えば、ピストン338の遠位側の面、及び遠位側先端部352の近位側の壁(図示せず)の間に固定されたリターンスプリングにより、及び/又はピストンに取り付けられ、内腔341を経由して走るプルワイヤーにより支援を受けることができる。
【0091】
血管周辺の空間は、動脈又は静脈の「血管壁」外面上の潜在空隙である。図9を参照すると、典型的な動脈壁が断面図として示されており、内皮細胞Eは壁を構成する層で、血管内腔Lに暴露されている。内皮細胞の下層は基底膜BMであり、この場合は脈管内膜Iに取り囲まれている。脈管内膜も、やはり内部弾性層IELに取り囲まれており、その上に媒体Mが位置する。同様に、媒体は、Wとしてまとめて示す動脈壁と外膜層Aとを区別する、外部バリアーとして機能する外弾性板(EEL)で覆われている。通常、血管周辺の空間とは、外膜内の領域及びその外部を含む外弾性板EELの外側に存在するあらゆるものと考えられている。
【0092】
次に、図10A〜Cに転ずると、腎動脈の場所及び構造が示されている。図10Aでは、大動脈(Ao)が身体の中心動脈として、大動脈から分岐して血液を腎臓に運ぶ右腎動脈(RRA)及び左腎動脈(LRA)と共に示されている。例えば、右腎動脈は、酸素を含んだ血液を右腎臓(RK)内に運ぶ。図10Bでは、大動脈から腎臓に繋がる神経(N)を示す。神経は腎動脈を取り巻くように示されており、ほぼ平行に、但し若干蛇行し、大動脈から腎臓に分岐しているルートに沿って走っている。次に、図10Bの10C〜10Cの線に沿った断面を、図10Cに示す。腎動脈の断面図に見られる通り、大動脈から腎臓に繋がる神経(N)は、動脈外膜(A)を貫通し、及び外弾性板(EEL)の近傍であるがその外側を走っている。図10Cには動脈全体の断面が示されており、内腔(L)は、内側から外側に向かって、内皮細胞(E)、脈管内膜(I)、内部弾性層(IEL)、媒体(M)、外弾性板(EEL)、及び最終的に外膜(A)により取り囲まれている。
【0093】
図11A〜Fに示すように、本発明の方法は、図1〜5に示すものと類似した注射用又は輸液用カテーテルを、図10Cに示す管腔内に配置するのに利用可能であり、また薬剤が腎動脈の外膜を刺激する神経(N)と接触するように、神経調節薬のプルーム(P)を外膜(A)内に注射するのに利用可能である。図11Aに見られるように、図4Aと同一の状態、すなわち針が管腔壁を擦過して傷害を引き起こすことなく、作動装置が身体の管腔を経由して誘導可能なように、当該作動装置は針を遮蔽している状態にあるカテーテルは、媒体(M)、外膜(A)、及び外膜内で媒体のすぐ外側にある神経(N)を有する動脈内に挿入される。図11Aの11D〜11Dの線に沿った断面を図11Dに示す。治療用具は、図1〜3に示すものと同様に、カテーテル(20)に取り付けられた作動装置(12)及び作動装置内に配置された針(14)を備えることが、この断面図から見て取れる。
【0094】
図11B及び11Eに転ずると、図11A及び11Dに示したものと同一のシステムが認められ、図11Eはやはり、図11Bの11E〜11Eの線に沿った断面図である。しかし、図11B及び11Eでは、作動装置は流体で満たされており、これにより当該作動装置が展開、拡張し、また針開口部が媒体を貫通し、神経が位置する外膜内に位置するようにせしめる。針が外膜を貫通した後、放射線不透過性の造影媒体等の診断薬、又はボツリヌス毒素若しくはグアネチジン等の神経調節薬、又は診断薬及び治療薬を組み合わせたものから構成されるプルーム(P)は、EELの外側の外膜内部に送達される。プルーム(P)は、同心円状及び長手方向に外膜内部で移動を開始し、そして外膜を貫通して走る神経繊維と接触するようになる。この時点で医師は治療効果を認める始め得る。通常、注射の存在及び注射の場所を診断するのに用いられるプルームPは、10〜100μlの範囲で、より多くの場合約50μlである。プルームは、通常、下記に示す4つの結果のうちの1つを示す。(1)針は外膜を貫通し、そしてプルームは滑らかな形状で、管腔の外側を取り巻くように、及びこれに沿って拡散を始める、(2)プルームは、側枝動脈路に進入し、この場合、針開口部は外膜ではなく側枝内に位置する、(3)プルームは、カテーテルが位置する動脈路内に進入し、針は管腔壁を貫通せず、液体は主管腔内に逆流していることを示す、又は(4)強固に凝り固まったプルームが形成され、管腔周辺を長手方向又は円柱状(cyndrically)に拡散しておらず、針開口部はEELから内側、及び媒体又は脈管内膜の内側に位置していることを示す。したがって、プルームは、手術担当医師にとって、注射を継続するか、又は作動装置を収縮させ、新規の治療部位に再配置するか、その妥当性を判断する上で有用である。
【0095】
図11C及び11Fでは、図11Fは、図11Cの11F〜11Fの線に沿った断面図であるが、プルームが、注射する組織の場所が適切であることを診断するのに用いられた後に、神経調節薬を用いて管腔を取り巻くように、更に注射が実施可能であることが理解できる。最終的なプルームP*の広がる範囲は、通常、動脈周辺において完全に同心円状であり、そして注射容積が300μl〜1mlの場合、通常、長手方向に少なくとも1cm移動する。多くの場合、患者の高血圧症に対して治療上のベネフィットを認めるには、これよりも少ない容積が必要とされ得る。この時点で、神経調節薬は動脈全体を取り巻く神経を貫通して神経シグナルの伝達を遮断し、そしてこれにより化学的、神経調節薬による、又は生物学的除神経が実現する。
【0096】
図12は、ボツリヌス毒素が神経シグナルの伝達を妨害するプロセスを示している。図12において、ここでは「ボツリヌス神経毒素」と表示されている毒素は、「軽鎖」及び「重鎖」から構成されていることが分かる。重鎖は、ボツリヌス神経毒素受容体に結合する上で、及びボツリヌス神経毒素が、エンドサイトーシスにより細胞に侵入するのを可能にする上で重要である。細胞内に侵入すると、この図では、ボツリヌス神経毒素の軽鎖は重鎖から分離し、そしてSNAREタンパク質である「シンタキシン」、「シナプトブレビン(synaptobrefin)」、及び「SNAP25」を切断する。これらのSNAREタンパク質が切断されると、アセチコリン(acetylchonine)を含有する小胞の神経からシナプス間隙への放出が不可能になる。このことは、図12では神経筋接合部について示されているが、これは、ボツリヌス神経毒素が神経細胞と相互作用する機徐を説明的に示しているに過ぎず、ボツリヌス神経毒素は、その他の神経接合部からのアセチルコリン及びノルアドレナリンの放出を阻止することも明らかにされている。
【0097】
下記の実験は、限定目的ではなく説明目的で提示されている。
【実施例】
【0098】
実験
試験は、グアネチジンの外膜送達が、除神経が成功したことのマーカーである腎臓のノルエピネフリン(NE)を低減し得るかどうか判定するために、正常なブタモデルにおいて実施された。除神経が成功すれば、高血圧症の患者で血圧が低下するのは周知である。
【0099】
NEの減少により証明された腎臓の除神経:グアネチジンモノサルフェートは、0.9%NaCl中で12.5mg/mlの濃度まで稀釈され、次にヨウ素化された造影媒体中で最終濃度が10 mg/mlになるまで更に稀釈された。この溶液は、Mercator MedSystems Bullfrog Micro−Infusion Catheter(本出願で更に記載され及び図11A〜Fに詳記する)を用いて、大動脈及び腎門間のほぼ中間の両腎動脈外膜内に注射された。外膜における分布を確認するために、造影媒体をX線により可視化することで注射を監視したが、この注射により、注射物質(injectate)が、動脈周辺を長手方向及び同心円状に、並びに血管周辺組織内を横方向に運ばれることが確認された。対照動物への注射は行われず、また2004年のConnorsの報告に由来するヒストリカルコントロールがコンパレータとして用いられた。
【0100】
注射後28日経過して、腎臓及び腎動脈が採取された。腎臓サンプルは、2004年のConnorsの報告により確立された方法を用いて採取された。要するに、腎の極(pole)に由来する皮質組織サンプルが取り出され、そして約100mgの断片に切断された。腎臓毎に、各極に由来するサンプルが分析用にプールされた。腎動脈は、10%の中性に緩衝化されたホルマリン内で潅流固定され、組織病理学検査用に提出された。
【0101】
組織学検査:動脈は28日の時点で正常な外観を呈し、血管毒性の兆候は認められなかった。血管周辺における除神経の効能は、リンパ球、マクロファージ、及び形質細胞の外膜神経本体への浸潤から明白であり、神経変質は、過剰空胞変性及び好酸球増加により特徴付けられた。
【0102】
ラジオイムノアッセイ:腎臓皮質組織中のNEレベルから、腎臓皮質1グラム(g)当たり、NEの平均レベルは64ナノグラム(ng)であることが明らかにされた。正常な対照値450ng/gと比較して、これは、腎臓皮質NEが86%減少したことに相当する。これらのデータを図13に示す。
【0103】
2004年のConnorsの報告が97%として報告し、また2008年のKrumの報告は94%として報告した外科的除神経に起因する腎臓皮質NEの減少に対して、更なる比較が実施可能である。また更に、腎臓神経への高周波カテーテルアブレーションの利用による腎臓NEの減少が報告されたが、これは86%として報告されている。以来、高周波法は臨床試験で用いられ、エビデンスは、NEを86%減少させる神経のアブレーションは、患者の高血圧低下に直接変換されることを明らかにし、治療後12ヶ月において、収縮期血圧で27mmHgの低下、及び拡張期血圧では17mmHgの低下が報告されている。
【0104】
上記したものは、本発明の好ましい実施形態の完全な記載であるが、様々な代替形態、修正形態、及び同等形態も利用可能である。したがって、上記記載を、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の制限と受け止めるべきではない。
【技術分野】
【0001】
1.本発明の分野
本発明は、一般的に、疾患を治療するための医療デバイス、システム、及び方法に関連する。より具体的には、本発明は、腎臓に繋がる動脈及び/又は静脈の外膜内で生じる過活動性交感神経活動を抑制する薬剤を送達することにより高血圧症を治療する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症又は血圧上昇症は、世界の成人人口の推定30〜40%に影響を及ぼしている。腎性又は腎血管性の高血圧症は、腎動脈の狭窄に起因する腎臓の灌流低下によって引き起こされる可能性がある。腎臓は、塩及び水を保持するように身体にシグナルを送るホルモンを放出することにより反応し、血圧の上昇を引き起こす。腎動脈は、動脈の傷害又はアテローム性動脈硬化症によって狭くなり得る。レニン−アンジオテンシン−アルドステロン経路を制御して、又は過剰の体液を身体から除去して、血圧を低減する有効な投薬計画がありながら、高血圧症の患者のおよそ20〜30%は本疾患の抵抗型に罹患している。
【0003】
抵抗性高血圧症は、一般的な臨床的問題であり、患者が、全身的投薬治療単独では血圧上昇症を制御できないときに引き起こされる。抵抗性高血圧症は、高齢及び肥満した人々において特に問題である。これらの人口はいずれも増加している。これらの患者で症状が明らかでなくても、上記患者が自身の血圧を制御することができない場合には、心血管系のリスクは大幅に増大する。
【0004】
高血圧症は、活動過多の腎臓交感神経によっても引き起こされる。腎臓交感神経の遠心性神経及び求心性神経は、一般的に、大動脈から腎臓に繋がる動脈の外側を長手方向に走っている。これらの神経は、全身性の高血圧症の開始と維持において非常に重要である。これらの神経を切断することにより、血圧が低減可能であることが明らかにされた。代表的な実験では、高インスリン血症により誘発された高血圧症のラットで、腎臓交感神経を除神経すると、対照と比較して正常血圧レベルまで血圧が低下することが明らかにされた[非特許文献1]。
【0005】
経皮的又は内視鏡的介入手技が、米国及び世界中のその他の国々において非常に一般的である。血管内カテーテルシステムが、バルーン血管形成、ステント留置、アテローム切除術、血栓除去、光力学療法、及び薬物送達等の手技で用いられる。これらの手技全ては、観血療法を行う必要もなく身体の深凹部にアクセスできるようにする、カテーテルとして公知の細長い管を、動脈、静脈、又は身体のその他の内腔内に配置することと関連する。
【0006】
腎動脈の閉塞が、投薬では制御することができない高血圧症を引き起こしている場合には、可能性のある別の療法として、腎動脈のバルーン血管形成術が挙げられる。稀な場合には、外科的バイパス移植術が治療上の選択肢として検討され得る。腎血管形成術は血圧低下に有効であり得るものの、血管形成術では、弾性反跳、解離、及び新生内膜過形成に起因して生じる再狭窄が問題となっている。腎臓ステントは成果を改善し得るものの、また新生内膜過形成に起因する動脈の再狭窄又は再狭小化も引き起こし得る。
【0007】
過去には、外科的方法を用いて腎臓の除神経が実施されたが、より最近では、高周波アブレーションを用いて腎動脈内から神経を加熱及び破壊する、カテーテルに基づく療法について研究されている。RF−アブレーションカテーテル法のヒト試験も実施されてきたが、当該試験のカテーテル治療群に登録された患者の血圧低下が報告されている[非特許文献2]。
【0008】
カテーテルに基づく高周波(RF)除神経を利用すると、治療効果が得られるように見えるが、RF手技により管腔壁及び神経に引き起こされた恒久的損傷から、どのような長期的な影響がもたらされるかは不明である。高周波エネルギーは、管腔壁内で熱を発生させることにより管腔を除神経する。RFプローブは動脈の内膜と接触し、そしてRFエネルギーは組織を経由して伝達される。
【0009】
抗−高血圧症治療には、いくつかの観点において解決の難しい問題があり得る。1番目は、高血圧症は、大部分が無症候性の疾患である。患者は、無症状という認識から投薬計画の順守を怠るおそれがある。2番目に、薬物療法を厳密に順守している患者の場合であっても、当該患者の目標血圧に達しない場合があり、介入以外ほとんど又は全く手段が存在しない。3番目に、介入が実施された場合(通常、腎血管形成術及び/又はステント留置の方式)でも、血管形成術は、線維症及び標的動脈のリモデリングの原因となる傷害カスケードの活性化を引き起こすので、長期効果には再狭窄、慢性腎臓疾患の進行、及び最終的には腎不全が含まれる可能性がある。4番目に、バイパスを形成する、又は腎動脈を除神経する外科的な技法は、過激であり、またいくつかの外科的な合併症を引き起こす可能性がある。そして5番目に、動脈のRF除神経が狭窄プラークの更なる増悪を引き起こすか、この手技がステントが留置された動脈と適合性を有するか、大部分の患者で認められる肥厚したプラークにRFプローブが接触した場合に、肥厚したプラーク又は線維性脈管内膜を介したエネルギーの伝達は、その下の神経に作用するのに十分であり、当該手技が機能するか、又は神経に限らず、動脈壁内の平滑筋の機能も有効に廃絶した場合には、それが脈管の血管の反応性血管過形成、及び壊死性プラークを引き起こす可能性があり、もしそれが破裂した場合には、急性腎阻血又は慢性腎臓疾患を引き起こすのではないか、不明である。したがって、システム及びプロトコールが、RFエネルギー又は外科的な切断により交感神経の除神経が実現するように設計されても、その適用性は高血圧性疾患の範囲に限定され、又は基礎疾患に固有ではない新しい血管合併症を生み出す可能性がある。
【0010】
ボツリヌス毒素、β−ブンガロトキシン(及びその他のヘビ毒)、破傷風毒素、及びα−ラトロトキシン等の神経毒薬が、神経を遮断し、筋肉活動を抑制し、又は筋肉を麻痺させるために、多くの外科的技法で用いられ、又はその用途で提案されてきた。ツボクラリン、アルクロニウム、ピペクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、ベクロニウム(及び、南米の部族が用いた麻痺させるダーツ及び矢に起源を有する、その他のクラーレ様薬物)等の神経筋遮断薬も、運動終板におけるコリン作動性受容体に対して競合することにより麻痺を誘発するのに用いられてきた。クラーレ様薬剤は、毒素と比較して作用時間が短い。例えば、ボツリヌス毒素(A型〜G型からなる、7つの異なる血清学的に区別される型の1つであり得る)は、斜視、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣を治療し、中程度から重度の眉間皺線を改善し(美容上)、及び脇の下の過剰の発汗を治療するために用いられており、またFDA承認を受けている。ボツリヌス毒素に関する上記使用のそれぞれは、数ヶ月から1年を超える範囲で治療効果を示した。
【0011】
ボツリヌス毒素の致死量は、マウスの実験より求められた結果から約1ng/kgである。ボツリヌス毒素の現在入手可能な形態であるMyobloc(商標)及びBotox(登録商標)は、70〜130U/ng及び約20U/ngの比活性をそれぞれ有する。1ユニット(1U)とは、腹腔内投与後、72時間経過して、試験対象マウスの50%に死をもたらすことが判明している毒素量である。Myoblocは、2500、5000、又は10000Uのバイアル形態で入手可能で、頸部ジストニアを治療するために合計2500〜5000Uの用量で処方される。Botoxは、1バイアル当たり100Uの形態で入手可能で、頸部ジストニアでは200〜300Uの用量で、脇の下の多汗では50〜75Uの用量で、又は眼瞼痙攣では12Uの塗布量で6回注射として処方される。活性なボツリヌス毒素は、重鎖及び軽鎖からなり、総質量は150kDaであり、したがって、活性物質1ng当たり、約40億個の活性毒素分子が含まれる。
【0012】
現在の抗高血圧薬は、一般的に、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン軸を妨害する、又は利尿薬として作用することにより血圧を調節する。血圧降下薬の初期の世代は、腎臓の神経系に直接障害を与える作用機徐を有した。グアネチジン、グアナクリン、及びブレチリウムトシレート等の薬剤は、交感神経末端からのノルエピネフリン(ノルアドレナリンとしても公知)の放出を阻止することにより高血圧症を調節する。グアネチジンを用いれば、興奮性の小胞放出を妨害することにより、及びシナプス小胞内のノルエピネフリンと置き換わることにより、交感神経切断が実現する。交感神経の障害は、これまでにラット及びハムスターで明らかにされたが、ヒトでは認められず、その理由は、おそらくは、グアネチジンは一般的に全身的に送達され、そしてヒトで交感神経の除神経を誘発するには、高い局所濃度が必要とされるが、こうした濃度では、極めて有害な全身性の副作用のリスクに曝されるためであろう。齧歯類で機能的除神経を実現するためにグアネチジンを使用すると、その除神経効果は永久と考えられ、治療後63週間の間、ラットで組織の神経再支配のエビデンスは認められなかった。高用量では、グアネチジンはミトコンドリアの呼吸を阻害し、ニューロンの死を引き起こす。本発明で重要なこととして、グアネチジンは、用量依存性の様式で局所的除神経を実現するのに利用可能であり、また遠方場効果を有さないことが挙げられる。これは、Demas及びBartnessが実施した実験、J Neurosci Method、2001年、で認められたが、同実験では、ハムスターの一方の後四半部内へのグアネチジン注射を比較し、対側に投与した対照注射と比較された。これは、腎臓の交感神経節を越えて脊髄又はその他の神経系に拡散することなく、特定の腎動脈に効果を局在化させるように、当該薬剤を使用する上で有利である。また、本発明にとって興味深いこととして、グアネチジンは、ドーパミン作動性線維及び非神経性のカテコールアミン分泌細胞には作用しないで、節後ノルアドレナリン作動性ニューロンを選択的に破壊する(したがって、ノルエピネフリンを減少させる)という、公表済みの観察結果が挙げられる。この高レベルの特異性こそが、グアネチジンが有用な療法として選択されてきた理由である。最終的に、グアネチジンは、交感神経機能を遮断する能力を有することから、全身性の血圧降下薬の用途としてFDAにより承認されたが、長期的又は恒久的除神経を引き起こすための局所的投与用としては承認されていない。
【0013】
局所的に送達されたグアネチジンは、Demas及びBartnessが2001年に認めたように、ハムスターの後四半部に局所化した交感神経切断を実現した。1マイクロリッター当たりグアネチジンを5〜10マイクログラムを含有する、10〜20回シリーズの片側注射では、各2マイクロリッターがハムスターの鼠径部脂肪組織内に投与され、対側の鼠径部脂肪組織に投与されたプラセボの同様の注射と比較されたが、機能的な交感神経切断が、各2マイクロリッターの注射が10回に及んだか又は20回に及んだかに関わらず、少なくとも200マイクログラムを送達することにより他方と比較して一方の側で認められた。この場合、結果は、送達後2週間経過して組織のノルエピネフリン含有量を測定することにより確認され、対照(プラセボ)側と比較して、グアネチジンの投与を受けた側で実質的な低下が認められた。
【0014】
グアネチジンは、化学名としてグアニジン、[2−(ヘキサヒドロ−1(2H)−アゾシニル)エチル]−を有し、また多くの場合、硫酸塩の形態、すなわちグアネチジンサルフェート、又はグアネチジンモノサルフェート(CAS 645−43−2)として供給され、化学名としてグアニジン、[2−(ヘキサヒドロ−1(2H)−アゾシニル)エチル]−サルフェート(1:1)を有する。グアネチジンは商標名Ismelinとして市販されている。
【0015】
その他の薬剤も、部分的な又は完全な交感神経切断を実現することが明らかにされている。これらには、免疫性交感神経切断薬の抗−神経増殖因子(抗−NGF);自己免疫性交感神経切断薬の抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)、及び抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe);化学的交感神経切断薬の6−ヒドロキシドーパミン(6−hydroxyldopamine)(6−OHDA)、ブレチリウムトシレート、グアナクリン、及びN−(2−クロロエチル)−N−エチル−2−ブロモベンジルアミン(DSP4);及び免疫毒素複合体交感神経切断薬のOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポリン(DBH−SAP)、及び抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT)が含まれる。これらの薬剤の全記載内容は、Picklo MJ、J Autonom Nerv Sys、1997年;62巻:111〜125頁に見出される。フェノール及びエタノールも、化学的交感神経切断に用いられてきたが、これらも本発明の方法で有用である。その他の交感神経遮断薬として、α−2−作動薬、例えばクロニジン、グアンファシン、メチルドーパ、ベタニジン、グアネチジン、グアノキサン、デブリソキン、グアノクロル、グアナゾジン、グアノキサベンズ、グアナシジン、グアナドレル等のグアニジン誘導体;イミダゾリン受容体作動薬、例えばモクソニジン、リルメニジン(relmenidine)等;神経節遮断薬又はニコチン遮断薬、例えばメカミラミン、トリメタファン等;MAOI阻害薬、例えばパーギリン等;アドレナリン取り込み阻害薬、例えばレシンナミン、レセルピン等;チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、例えばメチロシン等;α−1遮断薬、例えばプラゾシン、インドラミン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ウラピジル等;非選択的α遮断薬、例えばフェントラミン等;セロトニン拮抗薬、例えばケタンセリン等;及びエンドセリン拮抗薬、例えばボセンタン、アンブリセンタン、シタキセンタン等が挙げられる。
【0016】
更に、神経を硬化させる薬剤が、神経破壊又は交感神経破壊を実現するのに利用可能である。血管周辺における神経の傷害を引き起こす硬化薬として、キナクリン、クロロキン、テトラデシル硫酸ナトリウム、エタノールアミンオレアート、モルイン酸ナトリウム、ポリドカノール、フェノール、エタノール、又は高張液が挙げられる。
【0017】
腎臓交感神経活動は、ノルエピネフリンの生成を引き起こす。腎臓の交感神経切断(腎動脈交感神経切断又は腎除神経としても公知)が、腎臓中のノルエピネフリンの蓄積を低下させることは十分に立証されている。これは、腎動脈の外科的除神経が関係した試験により評価され、2004年にブタについてConnorsにより、1987年にイヌについてMizelleにより、及び1981年にラットについてKatholiにより発表された。実際、対側の腎動脈に対する偽手術と共に、一方の腎動脈に外科的な除神経を行うと、対照側と比較して徐神経された側で、腎臓のノルエピネフリン含有量が約90%以上低下することが明らかにされた。したがって、ブタのような大きな動物は、通常、本質的な高血圧症を発症しないので、この除神経のエビデンスは、そのような大動物における除神経法の試験に替わるものとして利用される。除神経とノルエピネフリンの蓄積との間の関連性について、更なるエビデンスが、腎静脈の流出血液中で測定された腎臓からのノルエピネフリンの溢出において認められた[Krumらの報告、Lancet、2009年]。更なる関連性が、大動物モデル(例えば、ブタモデル)で腎ノルエピネフリンを低下させる能力において認められ、高血圧のヒト患者において血圧を低下させる能力を示唆している。
【0018】
腎動脈の完全な交感神経切断を行うと、正常なレベルよりも血圧を低下させてしまうような副作用を有することから、問題が残る。過去30年以上、高血圧を低下させることと治療上のベネフィットとを関連付ける際に、「J−曲線」の存在及び影響について議論が続いている[Cruickshank J、Current Cardiology Reports、2003年;5巻:441〜452頁]。この議論では、高血圧症の治療における重要なポイント、すなわち、血圧を低下させれば、心血管系の疾病率及び死亡率を低減することができるが、あまり大幅に低下させるとベネフィットが逆効果になるという点に焦点が当てられてきた。外科的な交感神経切断では、腎臓の遠心性神経及び求心性神経が完全に除去され、したがって、対象患者の交感神経切断量を「漸増」することができない。神経変性薬又は交感神経遮断薬の外膜送達は、用量依存性の交感神経切断の実現を可能にするが、本発明では、このような送達により、個々の患者の必要量まで漸増することができる療法に関する改善した方法が提案される。適切な用量まで漸増させることにより、過剰な治療及び低血圧効果を引き起こすことなく、J−曲線の底部に到達するように、療法を最適化することができる。
【0019】
上記した理由全てにより、血管に傷害を与えずに、又は潜在する血管疾患を悪化させずに、生物学的及び可逆的除神経を実現するように、神経毒薬、交感神経遮断薬、交感神経ブロック薬、又は神経筋遮断薬(神経機能を調節することができるその他の薬剤、神経調節薬と共に)を外膜/血管周辺に送達するための更なる、及び改善した方法及びキットを提供することが望ましいと考えられる。特に、交感神経の遠心性神経及び求心性神経が位置する外膜及び血管周辺の組織内において、神経調節薬の治療濃度に特に目標を定める方法を提供することが有益となろう。当該方法が、標的組織内に薬物を効果的に送達することができ、また内腔血流中への薬物の喪失を制限する又は防止することができれば更に有益となろう。当該方法が、外膜及び外膜周辺において神経調節薬の局在化を促進して、周辺臓器又は神経への薬剤の拡散を防止することができれば、更に有益となろう。また、血管壁を取り巻く外膜組織を含め、特に、交感神経周辺の標的組織内で、組織内における神経調節薬のかかる治療濃度の持続性も高まれば、なお更に有益となろう。更に、所望の治療域全体にわたり、神経調節薬送達の均一性を高めることは有益となろう。また、神経調節薬が送達される組織領域又は治療域を、視覚画像及び手術担当医師に対する正のフィードバックを用いて予測及び監視可能であれば、なお更望ましい。少なくとも上記目的のいくつかは、本明細書で以下に記載する本発明により満たされる。
2.背景技術の説明
下記の参考資料は、血管内及び管腔内薬物送達に関する:O. Varenne及びP. Sinnaeve、「Gene Therapy for Coronary Restenosis: A Promising Strategy for the New Millenium?」Current Interventional Cardiology Reports、2000年、2巻:309〜315頁、B. J. de Smetら、「Metalloproteinase Inhibition Reduces Constrictive Arterial Remodeling After Balloon Angioplasty: A Study in the Atherosclerotic Yucatan Micropig.」Circulation、2000年、101巻:2962〜2967頁、A. W. Chanら、「Update on Pharmacology for Restenosis」、Current Interventional Cardiology Reports、2001年、3巻:149〜155頁、Braun−Dullaeus R C、Mann M J、Dzau V J、Cell cycle progression: new therapeutic target for vascular proliferative disease.、Circulation、1998年;98巻(1号):82〜9頁、Gallo R、Padurean A、Jayaraman T、Marx S、Merce Roque M、Adelman S、Chesebro J、Fallon J、Fuster V、Marks A、Badimon J J、Inhibition of intimal thickening after balloon angioplasty in porcine coronary arteries by targeting regulators of the cell cycle.、Circulation、1999年;99巻:2164〜2170頁、Herdeg C、Oberhoff M、Baumbach A、Blattner A、Axel D I、Schroder S、Heinle H、Karsch K R、Local paclitaxel delivery for the prevention of restenosis: biological effects and efficacy in vivo.、J Am Coll Cardiol、2000年、6月;35巻(7号):1969〜76頁、Ismail A、Khosravi H、Olson H、The role of infection in atherosclerosis and coronary artery disease: a new therapeutic target.、Heart Dis、1999年;1巻(4号):233〜40頁、Lowe H C、Oesterle S N、Khachigian L M、Coronary in−stent restenosis: Current status and future strategies.、J Am Coll Cardiol、2002年1月16日;39巻(2号):183〜93頁、Fuchs S、Komowski R、Leon M B、Epstein S E、Anti−angiogenesis: A new potential strategy to inhibit restenosis.、Intl J Cardiovasc Intervent、2001年;4巻:3〜6頁、Kol A、Bourcier T、Lichtman A H及びLibby P、Chlamydial and human heat shock protein 60s activate human vascular endothelium, smooth muscle cells, and macrophages.、J Clin Invest.、103巻:571〜577頁(1999年)、Farsak B、Vildirir A、Akyon Y、Pinar A、Oc M、Boke E、Kes S及びTokgozogclu L、Detection of Chlamydia pneumoniae and Helicobacter pylori DNA in human atherosclerotic plaques by PCR.、J Clin Microbiol、2000年;38巻(12号):4408〜11頁、Grayston J T、Antibiotic Treatment of Chlamydia pneumoniae for secondary prevention of cardiovascular events.、Circulation.、1998年;97巻:1669〜1670頁、Lundemose A G、Kay J E、Pearce J H、Chlamydia trachomatis Mip−like protein has peptidyl−prolyl cis/trans isomerase activity that is inhibited by FK506 and rapamycin and is implicated in initiation of chlamydial infection.、Mol Microbiol.、1993年;7巻(5号):777〜83頁、Muhlestein J B、Anderson J L、Hammond E H、Zhao L、Trehan S、Schwobe E P、Carlquist J F、Infection with Chlamydia pneumoniae accelerates the development of atherosclerosis and treatment with azithromycin prevents it in a rabbit model、Circulation.、1998年;97巻:633〜636頁、K. P. Seward、P. A. Stupar及びA. P. Pisano、「Microfabricated Surgical Device」、米国特許出願第09/877,653号、2001年6月8日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Method of Interventional Surgery」、米国特許出願第09/961,079号、2001年9月20日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Microfabricated Surgical Device for Interventional Procedures」、米国特許出願第09/961,080号、2001年9月20日出願、K. P. Seward及びA. P. Pisano、「A Method of Interventional Surgery」、米国特許出願第10/490,129号、2003年3月11日出願。
【0020】
下記の参考資料は高血圧症を軽減するための腎除神経療法に関する:Calhoun DAら、「Resistant Hypertension: Diagnosis, Evaluation and Treatement: A scientific statement from the American Heart Association Professional Education Committee of the Council for High Blood Pressure Research」、Hypertension、2008年;51巻:1403〜1419頁、Campese VM、Kogosov E、「Renal Afferent Denervation Prevents Hypertension in Rats with Chronic Renal Failure」、Hypertension、1995年;25巻:878〜882頁、Ciccone CD及びZambraski EJ、「Effects of acute renal denervation on kidney function in deoxycorticosterone acetate−hypertensive swine」、Hypertension、1986年;8巻:925〜931頁、Connors BAら、「Renal nerves mediate changes in contralateral renal blood flow after extracorporeal shockwave lithotripsy」、Nephron Physiology、2003年;95巻:67〜75頁、DiBona GF、「Nervous Kidney: Interaction between renal sympathetic nerves and the renin−angiotensin stystem in the control of renal function」、Hypertension、2000年;36巻:1083〜1088頁、DiBona GF、「The Sympathetic Nervous System and Hypertension: Recent Developments」、Hypertension、2004年;43巻;147〜150頁、DiBona GF及びEsler M、「Translational Medicine: The Antihypertensive Effect of Renal Denervation」、American Journal of Physiology − Regulatory, Integrative and Comparative Physiology.、2010年2月;298巻(2号):R245〜53頁、Grisk O、「Sympatho−renal interactions in the determination of arterial pressure: role in hypertension」、Experimental Physiology、 2004年;90巻(2号):183〜187頁、Huang W−C、Fang T−C、Cheng J−T、「Renal denervation prevents and reverses hyperinsulinemia−induced hypertension in rats」、Hypertension、1998年;32巻:249〜254頁、Krum Hら、「Catheter−based renal sympathetic denervation for resistant hypertension: a multicentre safety and proof−of−principle cohort study」、Lancet、2009年;373巻(9671号):1228〜1230頁、Joles JA及びKoomans HA、「Causes and Consequences of Increased Sympathetic Activity on Renal Disease」、Hypertension、2004年;43巻:699〜706頁、Katholi RE、Winternitz SR、Oparil S、「Role of the renal nerves in the pathogenesis of one−kidney renal hypertension in the rat」、Hypertension、1981年;3巻:404〜409頁、Mizelle HLら、「Role of renal nerves in compensatory adaptation to chronic reductions in sodium uptake」、Am. J. Physiol.、1987年;252巻(Renal Fluid Electrolyte Physiol.、21号):F291〜F298頁。
【0021】
下記の参考資料は、神経毒薬又は神経遮断薬に関する:Simpson LL、「Botulinum Toxin: a Deadly Poison Sheds its Negative Image」、Annals of Internal Medicine、1996年;125巻(7号):616〜617頁より抜粋:「ボツリヌス毒素は、斜視、痙性斜頚、及び排尿筋−括約筋制御喪失等の治療に用いられる。これらの障害は、コリン作動性神経内の過剰な遠心性活動により特徴付けられる。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンの放出を遮断するためにこれらの神経近傍に注射される」、Clemens MW、Higgins JP、Wilgis EF、「Prevention of anastomotic thrombosis by Botulinum Toxin A in an animal model」、Plast Rectonstr Surg、2009年;123巻(1号)64〜70頁、De Paiva Aら、「Functional repair of motor endplates after botulinum neurotoxin type A poisoning: Biphasic switch of synaptic activity between nerve sprouts and their parent terminals」、Proc Natl Acad Sci、1999年;96巻:3200〜3205頁、Morris JL、Jobling P、Gibbins IL、「Botulinum neurotoxin A attenuates release of norepinephrine but not NPY from vasoconstrictor neurons」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2002年;283巻:H2627〜H2635頁、Humeau Y、Dousseau F、Grant NJ、Poulain B、「How botulinum and tetanus neurotoxins block neurotransmitter release」、Biochimie、2000年;82巻(5号):427〜446頁、Vincenzi FF、「Effect of Botulinum Toxin on Autonomic Nerves in a Dually Innervated Tissue」、Nature、1967年;213巻:394〜395頁、Carroll I、Clark JD、Mackey S、「Sympathetic block with botulinum toxin to treat complex regional pain syndrome」、Annals of Neurology、2009年;65巻(3号):348〜351頁、Cheng CM、Chen JS、Patel RP、「Unlabeled Uses of Botulinum Toxins: A Review, Part 1」、Am J Health−Syst Pharm、2005年;63巻(2号):145〜152頁、Fassio A、Sala R、Bonanno G、Marchi M、Raiteri M、「Evidence for calcium−dependent vesicular transmitter release insensitive to tetanus toxin and botulinum toxin type F」、Neuroscience、1999年;90巻(3号):893〜902頁、Baltazar G、Tome A、Carvalho AP、Duarte EP、「Differential contribution of syntaxin 1 and SNAP −25 to secretion in noradrenergic and adrenergic chromaffin cells」、Eur J Cell Biol、2000年;79巻(12号):883〜91頁、Smyth LM、Breen LT、Mutafova−Yambolieva VN、「Nicotinamide adenine dinucleotide is released from sympathetic nerve terminals via a botulinum neurotoxin A−mediated mechanism in canine mesenteric artery」、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2006年;290巻:H1818〜H1825頁、Foran P、Lawrence GW、Shone CC、Foster KA、Dolly JO、「Botulinum neurotoxin C1 cleaves both syntaxin and SNAP −25 in intact and permeabilized chromaffin cells: correlation with its blockade of catecholamine release」、Biochemistry、1996年;35巻(8号):2630〜6頁、Demas GE及びBartness TJ、「Novel Method for localized, functional sympathetic nervous system denervation of peripheral tissue using guanethidine」、Journal of Neuroscience Methods、2001年;112巻:21〜28頁、Villanueva Iら、「Epinephrine and dopamine colocalization with norepinephrine in various peripheral tissues: guanethidine effects」、Life Sci.、2003年;73巻(13号)1645〜53頁、Picklo MJ、「Methods of sympathetic degeneration and alteration」、Journal of the Autonomic Nervous System、1997年;62巻:111〜125頁、Nozdrachev ADら、「The changes in the nervous structures under the chemical sympathectomy with guanethidine」、Journal of the Autonomic Nervous System、1998年;74巻(2〜3号):82〜85頁。
【0022】
下記の参考資料は、本発明に記載する薬物動態学を拡張するのに有用な自己組織化するペプチドヒドロゲルマトリックスに関する: Koutsopoulos S、Unsworth LD、Nagai Y、Zhang S、「Controlled release of functional proteins through designer self−assembling peptide nanofiber hydrogel scaffold」、Proc Natl Acad Sci、2009年;106巻(12号):4623〜8頁、Nagai Y、Unsworth LD、Koutsopoulos S、Zhang S、「Slow release of molecules in self−assembling peptide nanofiber scaffold」、J Control Rel.、2006年;115巻:18〜25頁、BD(商標)PuraMatrix(商標)Peptide Hydrogel (Catalog No. 354250) Guidelines for Use、BD Biosciences、SPC−354250−G Rev 4.0、Erickson IE、Huang AH、Chung C、Li RT、Burdick JA、Mauck RL、Tissue Engineering Part A.印刷前のオンライン出版、doi:10.1089/ten.tea.2008.0099、Henriksson HB、Svanvik T、Jonsson M、Hagman M、Horn M、Lindahl A、Brisby H、「Transplantation of human mesenchymal stems cells into intervertebral discs in a xenogeneic porcine model」、Spine、2009年1月15日;34巻(2号):141〜8頁、Wang S、Nagrath D、Chen PC、Berthiaume F、Yarmush ML、「Three−dimensional primary hepatocyte culture in synthetic self−assembling peptide hydrogel」、Tissue Eng Part A、2008年2月;14巻(2号):227〜36頁、Thonhoff JR、Lou DI、Jordan PM、Zhao X、Wu P、「Compatibility of human fetal neural stem cells with hydrogel biomaterials in vitro」、Brain Res、2008年1月2日;1187巻:42〜51頁、Spencer NJ、Cotanche DA、Klapperich CM、「Peptide− and collagen−based hydrogel substrates for in vitro culture of chick cochleae」、Biomaterials、2008年3月;29巻(8号):1028〜42頁、Yoshida D、Teramoto A、「The use of 3−D culture in peptide hydrogel for analysis of discoidin domain receptor 1 −collagen interaction」、Cell Adh Migr、2007年4月;1巻(2号):92〜8頁、Kim MS、Yeon JH、Park JK、「A microfluidic platform for 3−dimensional cell culture and cell−based assays」、Biomed Microdevices、2007年2月;9巻(1号):25〜34頁、Misawa H、Kobayashi N、Soto−Gutierrez A、Chen Y、Yoshida A、Rivas−Carrillo JD、Navarro−Alvarez N、Tanaka K、Miki A、Takei J、Ueda T、Tanaka M、Endo H、Tanaka N、Ozaki T、「PuraMatrix facilitates bone regeneration in bone defects of calvaria in mice」、Cell Transplant、2006年;15巻(10号):903〜10頁、Yamaoka H、Asato H、Ogasawara T、Nishizawa S、Takahashi T、Nakatsuka T、Koshima I、Nakamura K、Kawaguchi H、Chung UI、Takato T、Hoshi K、「Cartilage tissue engineering using human auricular chondrocytes embedded in different hydrogel materials」、J Biomed Mater Res A、2006年7月;78巻(1号):1〜11頁、Bokhari MA、Akay G、Zhang S、Birch MA、「The enhancement of osteoblast growth and differentiation in vitro on a peptide hydrogel−polyHIPE polymer hybrid material」、Biomaterials、2005年9月;26巻(25号):5198〜208頁、Zhang S、Semino C、Ellis−Behnke R、Zhao X、Spirio L、「PuraMatrix: Self−assembling Peptide Nanofiber Scaffolds. Scaffolding in Tissue Engineering」、CRC Press、2005年、Davis ME、Motion JP、Narmoneva DA、Takahashi T、Hakuno D、Kamm RD、Zhang S、Lee RT、「Injectable self−assembling peptide nano fibers create intramyocardial microenvironments for endothelial cells」、Circulation、111巻:442〜450頁、2005年。
【0023】
下記の参考資料は、頚動脈洞症候群(CSS)、及び治療選択肢としての外膜の除神経に関する:Healey J、Connolly SJ、Morillo CA、「The management of patients with carotid sinus syndrome: is pacing the answer」、Clin Auton Res、2004年10月;14巻増刊1号:80〜6頁、Toorop RJ、Scheltinga MR、Bender MH、Charbon JA、Huige MC、「Effective surgical treatment of the carotid sinus syndrome」、J Cardiovasc Surg (Torino)、2008年10月24日、Toorop RJ、Scheltinga MR、Moll FL、「Adventitial Stripping for Carotid Sinus Syndrome」、Ann Vase Surg、2009年1月7日。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Huang W−Cら、hypertension、1998年;32巻:249〜254頁
【非特許文献2】Krum Hら、Lancet、2009年;373巻(9671号):1228〜1230頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明によるシステムは、血管を取り巻く標的組織、具体的には外膜組織、より具体的には腎交感神経を取り巻く腎動脈及び静脈の外膜組織内の神経調節薬の濃度を高めることができる。本システムは、配置可能な針を有するカテーテルを用いた、神経調節薬の血管外膜送達に関連する。当該カテーテルは、経脈管的に血管内の標的注射部位(腎動脈にあっても、またなくてもよい)まで進行する。針上の開口部が、一般的に注射部位を取り巻く血管周辺領域(以下で定義される)内にある外膜組織内に配置され、及び神経調節薬が極微針を経由して血管周辺領域内に送達されるように、針は血管壁を経由して進行する。
【0026】
本送達プロトコールを採用するシステムは、いくつかの利点を有することが判明した。1番目は、血管周辺領域に直接注射すると、注射された組織を直近で取り巻く外膜組織内に、比較的高濃度の神経調節薬が速やかに供給されることが判明した。2番目は、注射後、注射された神経調節薬は、注射部位の血管を実質的に均一に取り巻くように同心円状に、並びに薬物を担持する液体処方に応じて、注射部位から1cm、2cm、5cm又はより遠くまで長手方向に到達するように分布することが判明した。更に、注射された神経調節薬の一部は、血管の内皮及び脈管内膜層全体にわたり、並びに血管壁の媒体又は筋肉層内に貫壁的に分布し得ることが判明した。神経調節薬の分布経路は、現在、外膜及び血管周辺の空間を形成する脂肪結合組織を経由して存在する、及び脈管の血管内、及びその他の結合組織を貫通する毛管路内に存在し得ると考えられている。3番目に、送達され、分布した神経調節薬(複数可)は、やはり、薬剤の担体、その親油性、及びその細胞表面受容体に結合する能力に応じて数時間又は数日間存続し、そしてエンドサイトーシスを受ける。したがって、神経調節薬に基づく持続的な治療効果は、外膜及び血管壁の両方において実現され得る。4番目に、分布が生じた後には、薬剤の分布領域全体にわたり神経調節薬の濃度が極めて均一となる。注射部位の神経調節薬の濃度は、常に最高濃度に保たれるが、注射部位周辺の末梢外膜内のその他の場所における濃度は、通常注射部位濃度の少なくとも約10%、多くの場合少なくとも約25%、及び時に少なくとも約50%に達する。同様に、注射部位から約5cm長手方向に離れた場所にある外膜における濃度は、通常、注射部位濃度の少なくとも5%、多くの場合少なくとも10%、及び時に少なくとも25%に達する。5番目に、分布は、拡散範囲を調べるために、X線に基づく放射線造影剤を用いることにより(又は超音波に基づく高エコー性若しくは低エコー性の造影剤により、又は磁気共鳴に基づくMRI造影剤により)、追跡可能であり、こうして、望ましい拡散領域に達したら、これに基づき注射を制限する、より広い拡散領域に達するように希望する場合にはその希望に基づき増量する、又は針先端部の位置、これは肥厚したプラーク内に埋め込まれ又は肥厚した石灰化部位に起因して管腔内に位置する可能性があるが、その位置に基づき拡散範囲が不適切な場合にはこれに基づき注射部位を変更することが可能となる。最終的に、グアネチジン等の神経調節薬が分布した後、薬剤は、アミン取り込みポンプを経由して交感神経ニューロン内に選択的に蓄積し、そしてin vivoで、0.5〜1.0ミリモル濃度(mM)の濃度までニューロン内に蓄積することができる。
【0027】
身体の動脈及び静脈を取り巻く外膜組織には、身体の細胞及び臓器により分泌されるホルモン及びタンパク質を調節するためのシグナル経路を提供する交感神経が含まれる。腎動脈に繋がる遠心性(中枢神経系から信号を受ける)及び求心性(中枢神経系に信号を送る)の交感神経は、この外膜性の結合組織内に保持されている。交感神経系は、ホメオスタシスを実現する身体内の化学物質の上方及び下方制御に関与している。高血圧症の場合には、脊髄から腎臓に繋がっている交感神経は、超生理的なレベルでノルエピネフリンを産生するように身体にシグナルを送り、血圧上昇の原因となるシグナルのカスケードを引き起こす。腎動脈(及びある程度、腎静脈)の除神経では、この反応が排除され、血圧を正常に戻すことができる。
【0028】
本発明の利点は、神経調節薬、例えば神経毒薬、交感神経遮断薬、交感神経ブロック薬、又は神経筋遮断薬(神経シグナルの伝達を調節することができるその他の薬剤と一緒に、及びこれと共に)を、腎動脈又は静脈を取り巻く外膜又は血管周辺領域に送達することにより実現される。血管周辺領域は、動脈の外弾性板より外側の領域又は静脈の中膜より外側の領域として定義される。通常、注射は、主に外膜脂肪細胞から構成されるだけでなく、線維芽細胞からも構成される外膜、脈管の血管、リンパ管、及び神経細胞の領域内に直接実施され、また神経調節薬は、注射部位から外膜を同心円状に、長手方向に、及び貫壁的に分散することが判明している。かかる分布は、治療上有効な濃度の神経調節薬を、神経細胞に影響を及ぼし得る区域に直接送達したい場合に、これを可能にする。その他の送達技術を用いたのでは、これを実現するのは困難又は不可能である(例えば、非経口皮下への針による注射)。
【0029】
外膜は、ヒトの動脈及びその他の脊椎動物の心血管系を取り巻く脂肪組織の層である。外弾性板(EEL)は、脂肪性の外膜組織を動脈壁の媒体を形成する筋肉組織から区別する。本発明の針は、血管の筋肉組織及びEELを貫通して薬物が注射される外膜及び血管周辺の空間に到達する。本発明の対象である腎動脈又は静脈は、通常、1mm〜10mm、より多くの場合、特に、内腔に影響を及ぼしていたと考えられるあらゆるプラークを圧縮するために血管形成術が用いられた後には、3〜6mmの内部(内腔)直径を有する。内腔をEELから区別する脈管内膜及び媒体の厚さは、通常、200μm〜3mmの範囲、より多くの場合500μm〜1mmの範囲である。EELを取り巻く外膜組織は、数ミリメートルの厚さであり得るが、腎臓に繋がる交感神経は、通常、EELの外側3mm以内にあり、より多くの場合EELの外側1mm以内にある。
【0030】
本発明に記載する方法に基づき注射される神経調節薬は、一般的に、それ自身が液体の形態であるか、又は神経調節薬が外膜を通過して分散するのを可能にするために水性又は液状の担体中に懸濁される。また、薬物は、注射部位近傍の組織区域内に拡散物を含有し、薬剤を保持する期間を延長するために、自己組織化するヒドロゲル担体中にも懸濁され得る。
【0031】
EELの外側の外膜内に神経調節薬を送達すると、交感神経シグナル経路を直接の標的とし、妨害することができる。ボツリヌス毒素と特に関連して、外膜への送達後、毒素は、神経終末上の受容体と高い親和性を有して結合し、及び毒素分子は、受容体が媒介するエンドサイトーシスにより細胞膜を貫通する。神経細胞に侵入すると、毒素は、pH−依存性のトランスロケーションによりエンドソーム膜を横断する。次に、毒素は細胞質ゾルに到達し、ここでエクソサイトーシスに不可欠なポリペプチドを切断する。これらのポリペプチドがないと、受信神経シグナルはアセチルコリンの放出を引き起こすことができないので、したがって、あらゆる送信神経シグナル(又は神経シグナルの伝達)が遮断される。時間と共に神経シグナルの回復が認められているが、ボツリヌス毒素は、ヒトで1年以上、神経活動を遮断することが明らかにされている。
【0032】
ボツリヌス毒素は、神経筋接合部でアセチルコリンの放出を阻害する当該毒素の能力に起因して、これを副交感神経系と相互作用させるように主として用いられてきた。本発明の1つの態様は、副交感神経及び交感神経の両方に影響を及ぼすように、ボツリヌス毒素等の神経調節薬を腎動脈の外膜に送達することである。節前の交感神経はコリン作用性であるが、節後の交感神経はアドレナリン作用性であり、アセチルコリンではなくノルアドレナリンを発現する。ボツリヌス毒素は、アセチルコリンの他、ノルアドレナリンの発現を低減することが文献で明らかにされたが、これは、本出願で更に記載するように、副交感神経及び交感神経の両方に関わる神経調節薬として同毒素が利用できることを裏付ける。
【0033】
ボツリヌス神経毒素を使用した場合に、これにより、一部は致命的な転帰を伴う心筋梗塞又は不整脈を含む心血管系の合併症について、まれに報告が存在する。これらの患者の一部は、心血管系疾患のリスク因子を有し、合併症はボツリヌス毒素注射とは無関係であったと考えられるが、患者がボツリヌス中毒症に罹患するおそれがあるので、血流中又は消化管内に毒素を高レベルで放出するのは問題である。
【0034】
ボツリヌス毒素は、SNARE(可溶性N−エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体(Soluble N−sensitive factor Attachment protein REceptor))タンパク質を切断するが、同タンパク質には、25−キロダルトンのシナプトソーム関連タンパク質(SNAP−25)、シンタキシン、及びシナプトブレビン(小胞関連膜タンパク質、又はVAMPとしても公知)が含まれる。これらの各タンパク質は、それらが神経細胞から放出されるには、アセチルコリン又はノルアドレナリンを含有する小胞を必要とする。このような様式で、ボツリヌス毒素はカテコールアミン(catecholemine)又はアセチルコリンを含有する小胞のエクソサイトーシスを妨害する。アセチルコリン又はノルアドレナリンの放出を必要とするその他の経路も調整可能であり、例えばいずれかのSNAREタンパク質(SNAP−25、シンタキシン及びシナプトブレビンに加えて、シナプトタグミン及びRab3aが含まれる)の下方制御又は根絶が挙げられる。ボツリヌス毒素のこれらの効果、最も多くは、筋肉の運動又は痙攣を防止するように、神経筋接合部におけるアセチルコリンの放出を阻止するために用いられてきたが、当該毒素は、腎動脈外膜内の神経を経由するシグナルの伝達を妨害するためにも利用可能である。異なるボツリヌス毒素(boltulinum toxin)の血清型(A〜G)は、タンパク質からなるSNARE複合体の異なる成分を切断する。
【0035】
ボツリヌス毒素を用いれば、SNAREタンパク質の切断は可能となるが、その他の方法も、腎動脈外膜を貫通する神経又は身体内でその他の神経系形成する神経における活動過多のシグナリングを低減する又は抑えるために利用可能である。神経伝達物質、推定神経伝達物質、又は神経刺激性ペプチドを減少させることにより、腎動脈に沿った神経シグナルの伝達を低減するという同じ目標を達成することができる。神経伝達物質、推定神経伝達物質、又は神経刺激性ペプチドとして、アミノ酸作動性システムの化合物、例えばγ−アミノブチレート(GABA)、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、グリシン、又はタウリン;コリン作動性システムの化合物、例えばアセチルコリン;ヒスタミン感作性システムの化合物、例えばヒスタミン;モノアミン作動性システムの化合物、例えばアドレナリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、又はトリプタミン;ペプチド作動性のシステム化合物、例えばアンジオテンシン、ボンベシンファミリーメンバー、ブラジキニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、カルノシン、セルレイン、コレシストキニンファミリーメンバー、副腎皮質刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、ダイノルフィンファミリーメンバー、エレドイシン、エンドルフィンファミリーメンバー、エンケファリンファミリーメンバー、ガストリンファミリーメンバー、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、メラトニン、モチリン、ニューロキニン、ニューロメジンファミリーメンバー、神経ペプチドK、神経ペプチドY、ニューロテンシン、オキシトシン、ペプチドヒスチジンイソロイシン(PHI)、フィサレミン、睡眠誘導ペプチド、ソマトスタチン、物質K、物質P、甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)、血管活性腸管ペプチド(VIP)、又はバソプレシン;プリン作動性システムの化合物、例えばアデノシン、ADP、AMP、又はATP;又は気体状の神経伝達物質の化合物、例えば一酸化炭素又は一酸化窒素が挙げられる。
【0036】
神経ブロックは、リドカイン又はブピバカイン等の薬剤を用いれば実現可能であり、毒素単独又はブピバカイン単独と比較して、ボツリヌス毒素及びブピバカインを同時注射することにより延長可能であることが報告されている。ブピバカインのような薬剤は神経内へのナトリウムイオンの流入を遮断するので、薬剤の併用は増強された結果をもたらすことができ、そのような結果は活動電位及び神経発火(nerve firing)を抑えるように働く。これは、カルシウムチャンネル遮断薬を毒素と共に同時注射することによっても実現可能である。
【0037】
交感神経切断は、免疫性交感神経切断薬、例えば抗−神経増殖因子(抗−NGF);自己免疫交感神経切断薬、例えば抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)及び抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe);化学的交感神経切断薬、例えば6−ヒドロキシドーパミン(6−hydroxydpoamine)(6−OHDA)、フェノール、エタノール、ブレチリウムトシレート、グアネチジン、グアナクリン、及びN−(2−クロロエチル)−N−エチル(ehtyl)−2−ブロモベンジルアミン(DSP4);免疫毒素複合体交感神経切断薬、例えばOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポリン(DBH−SAP)、及び抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT);又はこれらを組み合わせたものを用いれば実現可能である。その他の交感神経切断薬として、α−2−作動薬、例えばクロニジン、グアンファシン、メチルドーパ、ベタニジン、グアネチジン、グアノキサン、デブリソキン、グアノクロル、グアナゾジン、グアノキサベンズ、グアンシジン、グアナドレル等のグアニジン誘導体;イミダゾリン受容体作動薬、例えばモクソニジン、レルメニジン等;神経節遮断薬又はニコチン受容体遮断薬、例えばメカミラミン、トリメタファン等;MAOI阻害薬、例えばパーギリン等;アドレナリン取り込み阻害薬、例えばレシンナミン、レセルピン等;チロシンヒドロキシラーゼ阻害薬、例えばメチロシン等;α−1遮断薬、例えばプラゾシン、インドラミン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ウラピジル等;非選択的α遮断薬、例えばフェントラミン等;セロトニン拮抗薬、例えばケタンセリン等;エンドセリン拮抗薬、例えばボセンタン、アンブリセンタン、シタキセンタン等;及び硬化療法の薬剤、例えばキナクリン、クロロキン、テトラデシル硫酸ナトリウム、エタノールアミンオレアート、モルイン酸ナトリウム、ポリドカノール、フェノール、エタノール、又は高張液が挙げられる。
【0038】
グアネチジンの場合は、長期間、高用量で全身投与すると、機能的交感神経切断を引き起こすことができるが、厳しい副作用の代償を払うこととなる。グアネチジンは、交感神経末端からのノルエピネフリンの放出を阻止し、ノルエピネフリンを担持する小胞の興奮性の放出を妨害し、シナプス小胞中のノルエピネフリンと置き換わり、細胞の50%で有効な量(ED50)の0.5〜0.9mMを用いてミトコンドリアにおける酸化性のリン酸化反応を阻害し、神経増殖因子等の栄養因子逆行性輸送を阻害し、また、免疫介在性の機徐により細胞傷害性の効果も発揮することにより、交感神経切断を引き起こす。
【0039】
本発明の1つの態様では、神経調節薬又は薬剤を組み合わせたものを分布させるシステムは、生きている脊椎動物宿主の腎動脈、例えばヒト腎動脈を取り巻く外膜組織及び神経内に極微針を腎臓の血管壁を経由して配置し、及び当該極微針を経由して神経調節薬又は薬剤を組み合わせたもののある量を送達する。
【0040】
極微針は、システムにより、管腔(動脈又は静脈)壁の内に、患者に対する外傷をできるだけ無くすため、好ましくは実質的に直角の方向に挿入されるように向きが定められる。極微針が注射部位に至るまで、針がその先端で動脈又は静脈の壁を擦過しないように邪魔にならない位置に配置される。具体的には、極微針は、これが介入中に患者を、又は取り扱い中に医師を傷つけないように、作動装置の壁又はカテーテルに取り付けられたシース内に収納された状態にある。注射部位に到達したら、管腔に沿った作動装置の動きは終了し、そして作動装置は、例えばカテーテルが挿入されていた管腔の中心軸に対して実質的に垂直に、極微針が外側に向かって突き出されるように操作される。
【0041】
極微針の開口部は、血管壁の外弾性板(EEL)を越え、そして壁を取り巻く血管周辺領域内に位置するように配置される。通常、開口部は、注射部位の血管の平均内腔径の少なくとも10%に等しい血管内壁からの距離に配置される。好ましくは、当該距離は平均内腔径の10%〜75%の範囲である。
【0042】
極微針の開口部が、血管を取り巻くEELの外側の組織内に配置されると、神経調節薬又は薬剤を組み合わせたものは、針開口部を経由して送達され、この箇所では、薬剤又は組み合わせたものは、極微針の部位において血管を取り巻く外膜組織を通じて、実質的に完全に同心円状に分布する。通常、薬剤は、血管に沿って少なくとも1〜2cmの距離にわたり長手方向に更に分布し、また60分を上回らない時間内、多くの場合5分以内に、注射される用量(容積)に応じてより長い距離に広がることができる。外膜内の神経調節薬の濃度は、長手方向で若干減少するが、通常、注射部位から2cmの距離で測定される濃度は、通常、注射部位で同時刻に測定された濃度の少なくとも5%、多くの場合少なくとも10%、高頻度で25%に等しく、及び時に50%に等しい。濃度プロファイルは、外膜組織及び血管周辺組織内に送達される分子又は粒子のサイズに大きく依存する。濃度プロファイルは、薬剤を担持する液体又はゲル処方内で異なる担体及び添加剤を使用することにより、更に最適化される。
【0043】
開口部の場所は、外膜中に神経調節薬の全量を注入する前に、例えば放射線造影剤をX線、超音波、又は磁気共鳴により画像化する方法を用いることにより検出可能である。造影剤は、治療薬と同時に、治療薬を含む溶液と一緒に又は別に送達可能であり、又は造影剤は、針の開口部がEELの外側の望ましい組織の場所にあることを検出及び確認するために、治療薬の前に送達可能である。針開口部の配置に成功したことを確認した後、画像誘導の下で、針を通じて継続した注射が実施可能である。薬剤を送達するためのかかる方法は、注射の場所及び拡散範囲について、並びに拡散範囲及び生理反応に基づき用量を漸増するかどうかについても医師に正の視覚的フィードバックを提供する。血管周辺領域に送達される薬剤量は顕著に変化し得るが、治療薬の前に送達されるイメージング剤は、通常、10〜200μlの範囲、及び多くの場合50〜100μlの範囲である。また、治療薬の注射は、一般的に10μl〜10mlの範囲、より通常では100μl〜5mlの範囲、及び多くの場合500μl〜3mlの範囲である。
【0044】
本システムは、ボツリヌス毒素の有効な用量を、大動脈から腎臓に、又は腎臓から大静脈に繋がっている管腔を取り巻く外膜に送達するのに利用可能である。ボツリヌス毒素の治療上有効な用量は、神経伝達を低減し、これにより血圧を低下させるが、その用量は手術担当医師により監視可能であり、また患者の特徴に基づき漸増可能である。この用量は、10pg(Botox(登録商標)の約0.2U又はMyobloc(商標)の1Uに相当)〜25ng(Botox(登録商標)の約500U又はMyobloc(商標)の2500Uに相当)、より通常では、50pg(Botox(登録商標)の約1U又はMyobloc(商標)の5Uに相当)〜10ng(Botox(登録商標)の約200U又はMyobloc(商標)の1000Uに相当)、及びなおもより通常では100pg(Botox(登録商標)の約2U又はMyobloc(商標)の10Uに相当)〜2.5ng(Botox(登録商標)の約50U又はMyobloc(商標)の250Uに相当)であり得る。
【0045】
本発明の別の態様では、グアネチジンの有効な用量は大動脈から腎臓に、又は腎臓から大静脈に繋がっている、かかる管腔を取り巻く外膜に送達される。グアネチジンの治療上有効な用量は、交感神経切断を実現し、またノルエピネフリンの放出を低減して、これにより血圧を低下させるが、その用量は手術担当医師により監視可能であり、また患者の特徴に基づき漸増可能である。この用量は、10μg〜200mgの範囲、通常50μg〜100mgの範囲、より通常では100μg〜50mgの範囲、及びなおもより通常では500μg〜30mgの範囲、及び時に500μg〜10mgの範囲であり得る。
【0046】
任意選択的に、標的組織中のグアネチジン、神経毒素、又はその他の神経調節薬の活動は、神経細胞によりエンドサイトーシスで取り込まれ、そして不活性になる前の長期間、細胞内に留まる薬剤の使用を含む。
【0047】
標的組織内に存在する神経調節薬の活性の持続化又は安定化は、自己組織化する能力を有するヒドロゲル、例えば自己組織化ペプチドヒドロゲルマトリックス等の安定化剤を伴う、かかる薬剤の送達を含む。ヒドロゲル材料と共に同時投与すると、活性薬剤分子は、ヒドロゲルが生理的条件に触れて自己組織化するので、ナノ繊維マトリックス中に捕捉される。ヒドロゲルマトリックスは、直径が例えば、1〜100nm、及び孔径が例えば、1〜300nmの繊維を有し得る。マトリックス内に捕捉された分子は、多孔性構造を通過して徐々に拡散する、又は空孔内に留まることができる。当該マトリックスは周辺組織により徐々に再吸収されるが、それは、ペプチドマトリックスは一般的にそのように振舞い、単純なアミノ酸になることが公知であるためである。当該マトリックスが再吸収されると、次に捕捉された活性薬剤分子は、周辺組織内に放出され、神経調節薬の薬物動態を持続させる能力がもたらされる。細胞内では長期間活性が保たれない薬剤にとって、これは特に有用である。望ましい薬物動態プロファイルは、数週間から数ヶ月、又は数年もの範囲である。
【0048】
本発明中に記載されるシステム及び用途で用いられる典型的なヒドロゲルは、自己組織化するペプチドヒドロゲルであり、これは交互に配列した親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸を含み、生理条件下では、自然発生的に自己組織化して繊維の直径が10〜20nmの織り合わされたナノ繊維マトリックスとなる。タンパク質及び小分子の存在下で、ナノ繊維マトリックスは、生物活性分子を5〜200nmの範囲の空孔中に捕捉する。この自己組織化するペプチド、アセチル−(Arg−Ala−Asp−Ala)4−CONH2[Ac−(RADA)4−CONH2](PuraMatrix(商標))は、小分子の有効な徐放性担体として報告されている。ナノ繊維マトリックスからのタンパク質放出には、少なくとも2つの段階が含まれることが明らかにされた。1番目は放出物質の「バースト」で、この段階では、大きな空孔内に緩やかに捕捉されているタンパク質からなる物質が急速に(数時間のうちに)拡散し、次の段階では、より緊密に捕捉されている物質の徐放が、少なくとも数日間生じ、そして緊密なマトリックスの間を移動するタンパク質のブラウン運動により支配されることが理論付けられている。放出動態に対する3番目の側面として、ペプチドマトリックスがその境界で崩壊することが挙げられ、その結果、ペプチドが周辺組織により再吸収されるに従い、捕捉されていたタンパク質が放出される。「従来型の」ヒドロゲルと比較して、ペプチドヒドロゲルの1つの長所として、ペプチド構造が崩壊した結果、生ずるのは身体により容易に代謝されるアミノ酸副生成物のみであるということが挙げられる。PuraMatrixが、BD BioscienceからBD(商標)として入手可能である。PuraMatrix(商標)ペプチドヒドロゲルは研究用途に限られ、1%の濃度である。これは、主に細胞培養剤として用いられるが、細胞及び生物活性薬を送達する際にin vivoで用いる用途も有する。PuraMatrixは、間葉細胞及び軟骨細胞を用いて軟骨を工学的に作り出すためのマトリックスとして、椎間板損傷のための間葉細胞の担体として、in vitroでのヒト胎児神経幹細胞の分化を支援するための肝細胞培養マトリックスとしてその用途において、及びその他の細胞培養及び再生医学の用途で研究されてきた。Puramatrixの生体適合性試験では、これはその他の細胞外マトリックス構造と全く同様に組織と十分に一体化すること、及び数週間のうちに再吸収可能であるが判明した。機能的血管構造が、注射後28日間までにナノ繊維微環境中に認める得ることも判明した。本発明と特別に関連するものとして、PuraMatrixは、これが長期間にわたり捕捉又は溶出するタンパク質に有害な効果を有さないことも明らかにされている。
【0049】
本発明のなおも別の態様では、交感神経及び副交感神経の過活動に起因するその他の疾患を治療する方法は、動脈の化学的又は神経調節による除神経を行うための神経調節薬の送達を含む。この療法は、最も多くは、腎動脈に適用され得るが、その他の血管床もこの方法から利益を得ることができる。例えば、頚動脈洞症候群(CSS)は、目まい及び失神を引き起こすが、頚動脈外膜の除神経により調整可能な状態であり、頚動脈の除神経がこの患者を治療するのに利用可能である。
【0050】
本発明のなおも別の態様では、血管疾患を治療する方法は、血管周辺の外膜への神経調節薬の送達を含む。アテローム性動脈硬化症、不安定プラークの発症、及び過形成性新生内膜の増殖は、それぞれ副交感神経及び交感神経シグナル経路に依存することが明らかにされた。妨害を受けると、これらのシグナル経路は、もはや薬剤を生成しなくなり、最終的には、関連する虚血性の合併症に起因して死亡及び罹患を引き起こす血管の炎症の原因となる。
【0051】
身体内の腎動脈又はその他の血管について、化学的又は神経調節による除神経を実現するための典型的な神経調節薬として、神経毒素、例えばボツリヌス毒素(血清型A〜G)、レシニフェラトキシン(resinoferatoxin)、α−ブンガロトキシン、β−ブンガロトキシン、テトロドトキシン、破傷風毒素、α−ラトロトキシン、テトラエチルアンモニウム(tetraethylamonium)等;神経筋遮断薬、例えばツボクラリン、アルクロニウム、ピペクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、ベクロニウム等;カルシウムチャンネル遮断薬、例えばアムロジピン、ジルチアゼム、フェロジピン(felodiipine)、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニソルジピン、ベラパミル等;ナトリウムチャンネル遮断薬、例えばモリシジン、プロパフェノン、エンカイニド、フレカイニド(flecainine)、トカイニド、メキシレチン(mexilietine)、フェニトイン、リドカイン、ジソピラミド(disopyramine)、キニジン、プロカインアミド等;β−アドレナリン作用性阻害薬、例えばアセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ビソプロロール、カルベジロール、エスモロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、プロプラノロール、ピンドロール、ソタロール、チモロール等;アセチルコリン受容体阻害薬、例えばアトロピン等、免疫性交感神経切断薬、例えば抗−神経増殖因子(抗−NGF)等;自己免疫性交感神経切断薬、例えば抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ(抗−DβH)、抗−アセチルコリンエステラーゼ(抗−AChe)等;化学的交感神経切断薬、例えば6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)、フェノール、エタノール、ブレチリウムトシレート、グアニジニウム化合物(例えば、グアネチジン又はグアナクリン)、N−(2−クロロエチル)−N−エチル−2−ブロモベンジルアミン(DSP4)等;免疫毒素複合体交感神経切断薬、例えばOX7−SAP、192−SAP、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼサポニン(DBH−SAP)、抗−ドーパミンβ−ヒドロキシラーゼ免疫毒素複合体(DHIT)等;又はこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の1つの特別な長所として、患者が腎臓の除神経に対して十分反応しない場合に、療法を逆転させる能力が挙げられる。例えば、神経伝達を低減させるために毒素が用いられる場合には、効果を逆転させ、及び患者の健康を改善するために、抗−毒素を送達する(全身的に又は局所的に)ことができる。腎臓の交感神経を除神経するその他の方法は、神経の外科的な切断、又は神経がそこから先へシグナルを伝達することができなくなるようにする損傷を神経に引き起こす高周波エネルギー伝達に依存する。これらの各従来法は不可逆的である(但し、RFエネルギー伝達は、数ヶ月から数年後には徐々に減少し得る非恒久的な効果を実現することができる)。患者が、外科的又はRFによる除神経手技のいずれにも十分に反応しない場合には、手段は、もはやほとんど存在しない。
【0053】
本発明の別の特別な長所として、治療効果をもたらす用量が非常に低いが故に副作用が限られていることが挙げられ、本発明に記載する方法は、神経調節物質の狙いを交感神経が位置する組織内に正確に定めることを可能にするので、その範囲はボツリヌス神経毒素では、多くの場合0.1〜2.5ng、又はグアネチジンでは、多くの場合50mg未満(ヒトでは、5〜50mg/kg/日で全身投与しても確実な交感神経切断は実現しない)である。
【0054】
本発明の別の特別な長所として、上記の方法により外膜内に神経調節薬を送達しても、平滑筋細胞の死亡、炎症、又は再狭窄を引き起こさないことが挙げられるが、これらのいずれも、腔内側から動脈壁内への高周波エネルギー伝達に起因し得る。むしろ、薬剤は、管腔の平滑筋及び内皮細胞を機能的な状態で、健全に保ちながら、外膜を貫通する交感神経及び副交感神経を直接標的とし、また管腔を取り囲むように、及び通過して移動する血液又はリンパ液から送られて来る生理的シグナルに反応することができる。
【0055】
本発明の別の特別な長所として、神経調節薬は、造影剤を用いることにより、その送達期間中に監視可能であることが挙げられる。こうすることで、医師は、完全に外膜を治療するために十分多くの用量が投与されることを確実にできる他、拡散が解剖学的関心の対象となる区域に限定されるように、十分少ない用量が用いられることを保証することも可能となる。こうすることで、神経調節薬が中枢神経系に到達する可能性が制限される。血圧の監視と連携してイメージング剤を用いれば、医師は、周辺組織又は神経系に影響を及ぼさないように治療範囲を制御しながら、投与効果を能動的に監視することができるようになる。
【0056】
本発明のなおも更なる態様では、高血圧症に罹患した患者に神経調節薬を送達するキットは、カテーテル、カテーテルの使用説明書、及び薬剤送達説明書を含む。カテーテルは、極微針の開口部が血管を取り巻く血管周辺空間に配置されるように、血管の内腔から血管壁を貫通して進入することができる極微針を有する。使用説明書は、上記の代表的な治療プロトコールのいずれかを記載する。キットは、1つ又は複数のステント、及び腎動脈を広げ、また腎臓への血流を改善するのに利用可能な1つ又は複数の血管形成バルーンも含み得る。
【0057】
本発明の更なる態様では、疾患に罹患した患者の血管外膜に神経調節薬を送達するキットは、カテーテル、外膜組織及び隣接組織中への薬剤の溶出動態を拡張させることができる担体を含む処方の状態であっても、またなくてもよい神経調節薬、カテーテルの使用説明書、及び薬剤投与ガイドラインを含む。カテーテルは、極微針の開口部が血管のEEL外部であり血管周辺組織又は外膜内部の場所に配置されるように、血管の内腔から血管壁を貫通して進入することができる極微針を有する。薬剤は、通常、血管を取り巻く血管周辺の空間及び外膜内を同心円状及び長手方向に、少なくとも1cmの距離にわたり、5分を超えない時間内に、通常、1分以内に分布することができる。使用説明書は、上記の代表的な治療プロトコールのいずれかを記載する。キットは、1つ又は複数のステント、及び腎動脈を広げ、また腎臓への血流を改善するのに利用可能な1つ又は複数の血管形成バルーンも含み得る。
【0058】
本発明はカテーテルにより強化された方法を提供するが、同カテーテルは針を管腔の内側から導入することにより、針開口部を血管のEEL外部に配置する。これらのカテーテルは様々な形態を取り得る。1つの代表的な実施形態では、同一所有者による米国特許第6,547,803号、同第7,547,294号、及び同第7,666,163号に更に記載されているように、バルーン又は膨張可能な作動装置は、管腔壁を通ってほぼ垂直に挿入された極微針周辺からバルーンを展開するように膨張する。別のかかる代表的な実施形態は、膨張し、及び針を移動させ、及び針先端を通路に沿って管腔壁内に押し出すバルーンを利用する。かかる代表的な実施形態は、同一所有者による米国特許第7,141,041号で明らかにされている。これらの代表的な実施形態のそれぞれにおいて、複数の構成部材が、壁の一部が非膨張性であり、及び壁の別の一部が弾力性を有する又はゴム弾性を有するように、1回の膨張ステップが、容積又は圧力が関係するかどうかに関わらず、非膨張性及び弾力性の構造の両方を、同時に又は連続的に作動させるのに有用であり得るように、同一のバルーン又は加圧構成部材に組み込まれ得る。送達カテーテルに関するかかる強化された実施形態は、米国特許第7,691,080号に記載されている。神経調節薬を外膜内に送達するのに利用可能な代表的な方法は、同一所有者による同時係属出願第10/691,119号に記載されている。これらの同一所有者によるそれぞれの特許及び出願に関する全開示を本明細書に参考として援用する。
【0059】
腎動脈周辺の外膜に送達するためのこれらのデバイス及び技法の利用は、高血圧症の治療に有用であると認識されており、またこれらのデバイス及び技法の利用は、同様の目標を実現するために、その他の動脈、例えば頚動脈にも適用可能であることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】図1Aは、本発明の方法及びシステムで利用するのに適する管腔内注射カテーテルの概略的な斜視図である。
【図1B】図1Bは、図1Aの1B〜1Bの線に沿った断面図である。
【図1C】図1Cは、図1Aの1C〜1Cの線に沿った断面図である。
【図2A】図2Aは、導入された注射針と共に示した、図1A〜1Cのカテーテルの概略的な斜視図である。
【図2B】図2Bは、図2Aの2B〜2Bの線に沿った断面図である。
【図3】図3は、本発明の方法に基づき、身体内腔を取り巻く外膜空間内に治療薬を注射している、図1A〜1Cの管腔内カテーテルの概略的な斜視図である。
【図4】図4A〜4Dは、本発明の方法で有用な管腔内注射カテーテルの膨張プロセスの断面図である。
【図5】図5A〜5Cは、本発明の方法で有用な膨張状態の管腔内注射カテーテルの断面図であり、複数の内腔径を治療する能力を示している。
【図6】図6は、本発明の方法及びシステムで有用な針注射カテーテルの斜視図である。
【図7】図7は、注射針が後退した状態で示した図6のカテーテルの断面図である。
【図8】図8は、本発明による治療薬又は診断薬を送達するために、内腔組織内に横方向に進入した注射針と共に示した、図7と同様の断面図である。
【図9】図9は、周辺組織と共に示す動脈の概略図であり、血管周辺組織、外膜、及び血管壁の各構成要素の間の関連性を示している。
【図10A】図10Aは、腎臓及び血液を腎臓に運ぶ動脈の構造を示す概略図である。
【図10B】図10Bは、腎動脈周辺の大動脈から腎臓に繋がる交感神経と共に示す、図10Aの概略図である。
【図10C】図10Cは、図10Bの10C〜10Cの線に沿った断面図である。
【図11A】図11Aは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11B】図11Bは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11C】図11Cは、本発明に基づき、交感神経に進歩した薬剤送達を行うために、外膜に進入した注射針と共に示す図4A及び4Dと同様の断面図である。
【図11D】図11Dは、図11Aの11D〜11Dの線に沿った断面図である。
【図11E】図11Eは、図11Bの11E〜11Eの線に沿った断面図である。
【図11F】図11Fは、図11Cの11F〜11Fの線に沿った断面図である。
【図12】図12は、ボツリヌス毒素が神経細胞と相互作用してアセチルコリンのエクソサイトーシスを妨害する様式を示す説明図である。
【図13】図13は、本明細書に記載する実験データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、好ましくは血管内注射用の微細加工されたカテーテルを利用する。以下の記載及び図1〜8は、神経調節薬を血管周辺の空間又は外膜組織内に送達するのに適する極微針を有するカテーテルの3つの代表的な実施形態を提供する。カテーテル及び製造方法に関するより完全な説明は、米国特許第7,141,041、同第6,547,803号、同第7,547,294号、同第7,666,163号、及び同第7,691,080号に記載されており、その全開示は本明細書に参考として援用されている。
【0062】
本発明は、高血圧症の治療において血圧を低下させるために、腎動脈周辺の外膜内に神経調節薬を送達するのに有用な方法及びキットを記載する。各キットでは、送達カテーテルは、使用説明書、及び上記で定義した治療上有効な量の神経調節薬と併用可能である。
【0063】
図1A〜2Bに示すように、微細加工された管腔内カテーテル10には、作動装置本体12a及び長手方向の中心軸12bを有する作動装置12が含まれる。作動装置本体は、実質的にその長さ方向に沿って伸長する開口部分又はスリット12dを有する、U字形又はC字形の外形をいずれにせよ形成する。極微針14は、作動装置が作動していない状態(格納状態)の場合には、以下でより詳細に議論されるように、作動装置本体内に位置する(図1B)。極微針は、作動装置が作動状態(非格納状態)となるように操作された場合には、作動装置本体外側に移動する(図2B)。
【0064】
作動装置は、治療用カテーテル20の近位側末端部12eからリード末端部16、及び遠位側末端部12fから先端部18まで、それぞれキャップすることができる。カテーテルの先端部は、放射線不透過性コーティング物又はマーカーを使用することにより、作動装置を身体内腔の内部に設置する手段として機能する。また、カテーテルの先端は、作動装置の遠位側末端部12fでシール部も形成する。カテーテルのリード末端部は、作動装置の近位側末端部12eで、必要とされる相互連結(流体的、機械的、電気的、又は光学的)を提供する。
【0065】
保持リング22a及び22bは、作動装置の遠位側及び近位側末端部にそれぞれ位置する。カテーテル先端は保持リング22aに結合し、一方、カテーテルのリードは保持リング22bに結合する。保持リングは、10〜100ミクロン(μm)のオーダーの薄い、実質的に可撓性であるが、但し、比較的非膨張性の材料、例えばパリレン(タイプC、D、若しくはN)、又は金属、例えばアルミニウム、ステンレススチール、金、チタン、又はタングステンを原料として作成される。保持リングは、可撓性であるが、但し、比較的非膨張性の実質的に「U」字形、又は「C」字形の構造を作動装置の各末端部に形成する。カテーテルは、例えば、突き合わせ溶接、超音波溶接、一体化ポリマーのカプセル化、又はエポキシ若しくはシアノアクリレート等の接着剤により、保持リングに結合し得る。
【0066】
作動装置本体は、保持リング22a及び22bの中間に位置する中央部の拡張可能なセクション24を更に備える。拡張可能なセクション24には内部空隙区域26が含まれ、作動液が当該区域に供給されたときには迅速に拡張する。中央部セクション24は、薄い、半可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、又は可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、ポリマー等の拡張可能な材料、例えばパリレン(タイプC、D、又はN)、シリコーン、ポリウレタン、又はポリイミドを原料として作成される。中央部セクション24は、作動した際には、バルーン−デバイスに若干類似して拡張可能である。
【0067】
中央部セクションは、空隙区域26に作動液が負荷されたときに、最大約200psiの耐圧能力を有する。中央部セクションの原料となる材料は、空隙区域26から作動液が除去されると、中央部セクションは実質的にその当初の形態及び向き(非作動状態)に戻るように、可撓性であるが、但し比較的非膨張性の、又は半可撓性であるが、但し比較的非膨張性である。したがって、この意味において、中央部セクションは本質的に安定構造を有さないバルーンとは極めて異なる。
【0068】
作動装置の空隙区域26は、カテーテルのリード末端部から作動装置の近位側末端部に伸びる、送達用の導管、管又は流路28と連結される。作動液は、送達用の管を経由して空隙区域に供給される。送達用の管は、テフロン(登録商標)(著作権)又はその他の不活性なプラスチックから構成され得る。作動液は生理食塩水又は放射線不透過性の色素であり得る。
【0069】
極微針14は、中央部セクション24のほぼ中央部に位置し得る。しかし、以下で議論するように、これは、特に複数の極微針が用いられるときには必ずしも必要ではない。極微針は、中央部セクションの外部表面24aに固定される。極微針は、シアノアクリレート等の接着剤により、表面24aに固定される。あるいは、極微針は、金属又はポリマーメッシュ様の構造物30(図2Aを参照)により表面24aに結合し得るが、同構造物は、接着剤により表面24aにそれ自身が固定されている。メッシュ様の構造物は、例えば、スチール、又はナイロンを原料として作成され得る。
【0070】
極微針には、鋭利な先端14a及びシャフト14bが含まれる。極微針の先端は、挿入エッジ又はポイントを提供し得る。シャフト14bは中空であり得、またその先端は出口14cを有することができ、神経調節薬又は薬物を患者内に注射するのを可能にする。しかし、極微針は、その他のタスクを実現するための神経プローブのように構成され得るので、中空である必要はない。示す通り、極微針は表面24aからほぼ垂直に伸びる。したがって、記載するように、極微針は、これが挿入された内腔の軸に対して実質的に垂直に移動して、身体内腔壁の直接的な穿刺又は切開を可能にする。
【0071】
極微針には、神経調節薬又は薬物を供給するための導管、管又は流路14dが更に含まれ、カテーテルのリード末端部において、適当な液体と相互に連結するように極微針を流通した状態にする。この供給管は、シャフト14bと一体的に形成されてもよく、また後に、例えばエポキシ等の接着剤でシャフトに結合される、分離した部品として形成されてもよい。極微針14は、例えば、シアノアクリレート等の接着剤を用いて供給管に接着可能である。
【0072】
針14は、30ゲージ以下のスチール製の針であり得る。あるいは、極微針は、ポリマー、その他の金属、合金、又は半導体材料から微細加工され得る。例えば、この針はパリレン、シリコン、又はガラスを原料として作成され得る。極微針及び製造方法は、2001年6月8日に申請された「Microfabricated Surgical Device」と題する米国特許出願第09/877,653号に記載されており、その全開示を本明細書に参考として援用する。
【0073】
カテーテル20は、使用時には、身体内の空隙を通して(例えば、気管支又は洞の治療の場合)、又は経皮的穿刺部位を通して(例えば、動脈又は静脈の治療の場合)挿入され、そして特定の、標的とする領域34に到達するまで、患者の身体の通路32の中を移動する(図3を参照)。標的領域34は、組織が損傷している部位であり得、又はより通常では、治療薬又は診断薬の移動が可能となるように、一般的に100mm以内の当該部位近傍である。カテーテルに基づく介入的手技で周知されているように、カテーテル20は、予め患者内に挿入されたガイドワイヤー36に追随し得る。任意選択的に、カテーテル20は、ガイドワイヤーを収納する予め挿入されたガイドカテーテルの通路(図示せず)にも追随することができる。
【0074】
カテーテル20の操作中、カテーテルを画像化し、及び作動装置12及び極微針14を標的領域に配置する際に役立つように、X線蛍光透視法又は磁気共鳴画像法(MRI)の周知の方法が利用可能である。カテーテルが患者身体内部に誘導される際には、極微針は、身体の内腔壁に外傷を生じさせないように、格納された状態又は作動装置本体内部に保持された状態に留まる。
【0075】
標的領域34に配置された後、カテーテルの動きは終了し、そして作動液が作動装置の空隙区域26に供給されると、拡張可能なセクション24を急速に膨らんだ状態にし、極微針14を作動装置本体12aの長手方向の中心軸12bに対して実質的に垂直方向に移動させて、身体の内腔壁32aを穿刺する。極微針を格納状態から非格納状態に移動させるのに、約100ミリ秒〜5秒しかかからないと考えられる。
【0076】
極微針の開口部は、身体内腔組織32b、並びに身体の内腔を取り巻く外膜、媒体、又は脈管内膜に侵入するように設計され得る。更に、作動装置は、作動する前に「留まる」、又は停止するので、身体内腔壁の貫通に関してより正確な配置及び制御が得られる。
【0077】
極微針の作動、及び極微針経由による標的領域への薬剤送達後に、作動液は作動装置の空隙区域26から排出され、拡張可能なセクション24をその当初の格納状態に戻す。これは、極微針が身体の内腔壁から撤去される原因ともなる。極微針が撤去されると、再び作動装置によって覆われる。
【0078】
様々な微細加工されたデバイスが、流量を測定し、生物学的組織サンプルを採取し、及びpHを測定するために針、作動装置、及びカテーテルに組み込み可能である。例えば、デバイス10には、極微針を経由する流量、並びに配置される神経調節薬のpHを測定する電気センサーを含めることが可能である。また、デバイス10には、当技術分野において周知なように、標的領域を可視化するように管腔壁及び光ファイバーを配置するための血管内超音波センサー(IVUS)も含めることが可能である。かかる完全なシステムの場合、力、エネルギー、及び神経調節薬又は生物学的薬剤を確実に伝達するための、高い完全性を有する電気的、機械的、及び流体的な結び付きが提供される。
【0079】
例として、極微針は約200〜3,000ミクロン(μm)の全長を有し得る。シャフト14b及び供給管14dの内側断面寸法は20〜250μmのオーダーであり得、一方管及びシャフトの外側断面寸法は約100〜500μmであり得る。作動装置本体の全長は、約5〜50ミリメーター(mm)であり得、一方、作動装置本体の外側及び内側の断面寸法は、それぞれ約0.4〜4mm、及び0.5〜5mmであり得る。作動装置の中央部セクションが膨らむ際に通過するギャップ又はスリットは、約4〜40mmの長さ、及び約50μm〜4mmの断面寸法を有し得る。作動液用の送達管の直径は100〜500μmであり得る。カテーテルのサイズは、1.5〜15フレンチ(Fr)であり得る。
【0080】
図4A〜4Dを参照すると、エラストマー構成部材は、図1〜3の管腔内カテーテルの壁と一体化している。図4A〜Dでは、かかる構造の加圧進行過程が、圧力が高まる順番で示されている。図4Aでは、バルーンは、身体内腔Lの中に配置されている。内腔壁Wは、具体的な内腔の生体構造に応じて、内腔を内腔周辺組織T又は外膜A*と区別する。圧力は中立であり、及び非膨張構造は、針14が覆われている図1の場合と同様に、U字形の退縮したバルーン12を形成する。この図では針が示されているが、切刃、光レーザー若しくは光ファイバーチップ、高周波トランスミッターを含むその他の作動要素、又はその他の構造物が針と置換し得る。しかし、全てのかかる構造物において、エラストマー製のパッチ400は、通常、退縮したバルーン12と針14とは反対側に配置される。
【0081】
加圧することにより、バルーン12の作動が生ずる。図4Bでは、圧力(+ΔP1)が加えられ、これにより可撓性であるが、但し比較的非膨張性の構造物の変形が開始し、バルーンの退縮した状態から、円形圧力管の低エネルギー状態に向けて反転を開始させる。図4Cのより高い圧力+ΔP2では、可撓性であるが、但し比較的非膨張性のバルーン材料は丸い形状に達し、エラストマー製のパッチはすでに伸張を始めている。最終的に、なおもより高い圧力+ΔP3にある図4Dでは、エラストマー製のパッチは伸びきって内腔の直径全体に丁度収まり、針の先端に抵抗する力を付与し、そして針を、内腔壁を貫通して外膜A内にスライドさせる。本図で検討された身体内腔の典型的な寸法は、0.1mm〜50mm、より多くの場合、0.5mm〜20mm、及び最も多くは、1mm〜10mmである。内腔及び外膜間の組織の厚さは、一般的に0.001mm〜5mm、より多くの場合0.01mm〜2mm、及び最も多くは0.05mm〜1mmである。バルーンを作動させるのに有用な圧力+ΔPは、一般的に0.1気圧〜20気圧、より一般的には0.5〜20気圧の範囲であり、及び多くの場合1〜10気圧の範囲である。
【0082】
図5A〜5Cに示すように、図4A〜4Dに示すデュアルモジュール構造は、低圧(すなわち、身体組織に損傷を与え得る圧力よりも低い)での管腔内医療デバイスの作動を実現して、針等の作動要素を内腔壁と接触させ又はこれを貫通させる。一定圧力で膨張させることにより、エラストマー製の材料は内腔の直径に丁度収まり、最大限の配置を実現する。デュアルモジュールバルーン12は、パッチ400が徐々により大きく膨張して、直径に関係なく管腔壁を貫通して最適な針の配置を実現するように、図5A、5B、及び5Cに示す3つの異なる内腔直径で圧力+ΔP3まで膨張する。したがって、全身を通じて直径範囲内の内腔において同一のカテーテルが利用可能な、可変直径システムが構築される。ほとんどの医療製品は、非常に厳密な制約(一般的に0.5mm以内に)に縛られており、そのような内腔において当該製品は利用可能なので、このシステムは有用である。本発明に記載するシステムは、内腔の直径が数ミリメートルばらついても、当該内腔の直径が実用範囲内であれば、これに適合することができる。
【0083】
上記カテーテルの設計及びこれに関する変形形態は、公表済みの米国特許第6,547,803号、同第6,860,867号、同第7,547,294号、同第7,666,163号、及び同第7,691,080号に記載されており、その全開示を本明細書に参考として援用する。本出願の代理人が担当する同時係属出願第10/691,119号は、心臓の外膜組織及び心嚢組織内に直接注射することにより送達された物質が、心臓組織内の注射部位から離れた場所にさえも、迅速かつ均一に分布する能力について記載する。当該同時継続出願の全開示も本明細書に参考として援用する。本発明の治療薬、又は診断薬を送達するのに適した別の針カテーテルの設計を下記に記載する。当該特別なカテーテルの設計は、米国特許第7,141,041号に記載され及び特許請求されているが、その全開示を本明細書に参考として援用する。
【0084】
図6を参照すると、本発明の原理に基づき構築された針注射カテーテル310は、遠位側末端部314及び近位側末端部316を有するカテーテル本体312を含む。通常、ガイドワイヤーの内腔313は、カテーテルの遠位側突端部352を提供するが、オーバーザワイヤー(over−the−wire)、及びガイドワイヤーの配置を必要としない実施形態も、本発明の範囲内である。2ポートハブ320が、カテーテル本体312の近位側末端部316に取り付けられており、これには例えばシリンジ324を用いて、作動流体を送達するための第1のポート322、及び、例えばシリンジ328を用いて神経調節薬を送達するための第2のポート326が含まれる。往復可能、湾曲可能な針330が、カテーテル本体312の遠位側末端部近傍に取り付けられており、図6では、その横方向に突き出た形態で示されている。
【0085】
図7を参照すると、カテーテル本体312の近位側末端部314は、針330、往復可能なピストン338、及び作動流体送達管340を保持する主内腔336を有する。ピストン338は、レール342上をスライドするように組み込まれ、針330に固定して取り付けられている。したがって、加圧された作動流体を、内腔341、管340を経由してベローズ構造物344内に送達することにより、ピストン338は、針をカテーテル突端部352内に形成された湾曲通路350経由で通過せしめるために、軸方向に遠位側先端部に向かって進入し得る。
【0086】
図8に認められるように、カテーテル310は、血管BVにおいて、ガイドワイヤーGW上に従来方式で配置可能である。ピストン338が遠位側に前進すると、針330が血管内に存在する場合には、これをカテーテルに隣接した、内腔を取り巻く組織T内に進入せしめる。次に、治療薬又は診断薬は、図8に示すように、薬剤のプルームPを心臓組織内に導入するために、シリンジ328を用いながらポート326を経由して導入され得る。プルームPは、上記のように組織が損傷した領域内又はその近傍にある。
【0087】
針330は、カテーテル本体312の全長にわたり伸長することができ、又はより通常では、管340内にあるの治療薬又は診断薬の送達用の内腔337内で、部分的にのみ伸長する。針の近位側末端部は、内腔337と共にスライディングシールを形成して、針を経由した薬剤の加圧送達を可能にする。
【0088】
針330は、弾性材料、一般的に弾性又は超弾性金属、一般的にニチノール又はその他の超弾性金属から構成される。あるいは、針330は、湾曲した通路を通過する際に形状を変えられる、非弾性的に変形可能又は打ち延ばし可能な金属から形成され得る。しかし、非弾性的に変形可能な金属の利用は、一般的に湾曲した通路を通過した後に直線的形状を維持しないので、かかる金属はあまり好ましくない。
【0089】
ベローズ構造344は、主軸上にパリレン又は別の適合性ポリマーの層を塗布し、次いでポリマーシェル構造内から主軸を溶解することにより作製可能である。あるいは、ベローズ344は、バルーン構造を形成するように、エラストマー製材料から作製され得る。なおも更なる選択肢として、加圧された作動流体が存在しない場合には、ベローズを縮められた位置に駆動するように、スプリング構造が、ベローズの内部、上部、又は上方部で利用可能である。
【0090】
図8に示す通り、針330を経由して治療物質が送達された後、針は後退し、そしてカテーテルは、更に薬剤を送達するために再配置される、又は撤去される。いくつかの実施形態では、針は、作動流体をベローズ344から吸引するだけで後退する。別の実施形態では、針の後退は、例えば、ピストン338の遠位側の面、及び遠位側先端部352の近位側の壁(図示せず)の間に固定されたリターンスプリングにより、及び/又はピストンに取り付けられ、内腔341を経由して走るプルワイヤーにより支援を受けることができる。
【0091】
血管周辺の空間は、動脈又は静脈の「血管壁」外面上の潜在空隙である。図9を参照すると、典型的な動脈壁が断面図として示されており、内皮細胞Eは壁を構成する層で、血管内腔Lに暴露されている。内皮細胞の下層は基底膜BMであり、この場合は脈管内膜Iに取り囲まれている。脈管内膜も、やはり内部弾性層IELに取り囲まれており、その上に媒体Mが位置する。同様に、媒体は、Wとしてまとめて示す動脈壁と外膜層Aとを区別する、外部バリアーとして機能する外弾性板(EEL)で覆われている。通常、血管周辺の空間とは、外膜内の領域及びその外部を含む外弾性板EELの外側に存在するあらゆるものと考えられている。
【0092】
次に、図10A〜Cに転ずると、腎動脈の場所及び構造が示されている。図10Aでは、大動脈(Ao)が身体の中心動脈として、大動脈から分岐して血液を腎臓に運ぶ右腎動脈(RRA)及び左腎動脈(LRA)と共に示されている。例えば、右腎動脈は、酸素を含んだ血液を右腎臓(RK)内に運ぶ。図10Bでは、大動脈から腎臓に繋がる神経(N)を示す。神経は腎動脈を取り巻くように示されており、ほぼ平行に、但し若干蛇行し、大動脈から腎臓に分岐しているルートに沿って走っている。次に、図10Bの10C〜10Cの線に沿った断面を、図10Cに示す。腎動脈の断面図に見られる通り、大動脈から腎臓に繋がる神経(N)は、動脈外膜(A)を貫通し、及び外弾性板(EEL)の近傍であるがその外側を走っている。図10Cには動脈全体の断面が示されており、内腔(L)は、内側から外側に向かって、内皮細胞(E)、脈管内膜(I)、内部弾性層(IEL)、媒体(M)、外弾性板(EEL)、及び最終的に外膜(A)により取り囲まれている。
【0093】
図11A〜Fに示すように、本発明の方法は、図1〜5に示すものと類似した注射用又は輸液用カテーテルを、図10Cに示す管腔内に配置するのに利用可能であり、また薬剤が腎動脈の外膜を刺激する神経(N)と接触するように、神経調節薬のプルーム(P)を外膜(A)内に注射するのに利用可能である。図11Aに見られるように、図4Aと同一の状態、すなわち針が管腔壁を擦過して傷害を引き起こすことなく、作動装置が身体の管腔を経由して誘導可能なように、当該作動装置は針を遮蔽している状態にあるカテーテルは、媒体(M)、外膜(A)、及び外膜内で媒体のすぐ外側にある神経(N)を有する動脈内に挿入される。図11Aの11D〜11Dの線に沿った断面を図11Dに示す。治療用具は、図1〜3に示すものと同様に、カテーテル(20)に取り付けられた作動装置(12)及び作動装置内に配置された針(14)を備えることが、この断面図から見て取れる。
【0094】
図11B及び11Eに転ずると、図11A及び11Dに示したものと同一のシステムが認められ、図11Eはやはり、図11Bの11E〜11Eの線に沿った断面図である。しかし、図11B及び11Eでは、作動装置は流体で満たされており、これにより当該作動装置が展開、拡張し、また針開口部が媒体を貫通し、神経が位置する外膜内に位置するようにせしめる。針が外膜を貫通した後、放射線不透過性の造影媒体等の診断薬、又はボツリヌス毒素若しくはグアネチジン等の神経調節薬、又は診断薬及び治療薬を組み合わせたものから構成されるプルーム(P)は、EELの外側の外膜内部に送達される。プルーム(P)は、同心円状及び長手方向に外膜内部で移動を開始し、そして外膜を貫通して走る神経繊維と接触するようになる。この時点で医師は治療効果を認める始め得る。通常、注射の存在及び注射の場所を診断するのに用いられるプルームPは、10〜100μlの範囲で、より多くの場合約50μlである。プルームは、通常、下記に示す4つの結果のうちの1つを示す。(1)針は外膜を貫通し、そしてプルームは滑らかな形状で、管腔の外側を取り巻くように、及びこれに沿って拡散を始める、(2)プルームは、側枝動脈路に進入し、この場合、針開口部は外膜ではなく側枝内に位置する、(3)プルームは、カテーテルが位置する動脈路内に進入し、針は管腔壁を貫通せず、液体は主管腔内に逆流していることを示す、又は(4)強固に凝り固まったプルームが形成され、管腔周辺を長手方向又は円柱状(cyndrically)に拡散しておらず、針開口部はEELから内側、及び媒体又は脈管内膜の内側に位置していることを示す。したがって、プルームは、手術担当医師にとって、注射を継続するか、又は作動装置を収縮させ、新規の治療部位に再配置するか、その妥当性を判断する上で有用である。
【0095】
図11C及び11Fでは、図11Fは、図11Cの11F〜11Fの線に沿った断面図であるが、プルームが、注射する組織の場所が適切であることを診断するのに用いられた後に、神経調節薬を用いて管腔を取り巻くように、更に注射が実施可能であることが理解できる。最終的なプルームP*の広がる範囲は、通常、動脈周辺において完全に同心円状であり、そして注射容積が300μl〜1mlの場合、通常、長手方向に少なくとも1cm移動する。多くの場合、患者の高血圧症に対して治療上のベネフィットを認めるには、これよりも少ない容積が必要とされ得る。この時点で、神経調節薬は動脈全体を取り巻く神経を貫通して神経シグナルの伝達を遮断し、そしてこれにより化学的、神経調節薬による、又は生物学的除神経が実現する。
【0096】
図12は、ボツリヌス毒素が神経シグナルの伝達を妨害するプロセスを示している。図12において、ここでは「ボツリヌス神経毒素」と表示されている毒素は、「軽鎖」及び「重鎖」から構成されていることが分かる。重鎖は、ボツリヌス神経毒素受容体に結合する上で、及びボツリヌス神経毒素が、エンドサイトーシスにより細胞に侵入するのを可能にする上で重要である。細胞内に侵入すると、この図では、ボツリヌス神経毒素の軽鎖は重鎖から分離し、そしてSNAREタンパク質である「シンタキシン」、「シナプトブレビン(synaptobrefin)」、及び「SNAP25」を切断する。これらのSNAREタンパク質が切断されると、アセチコリン(acetylchonine)を含有する小胞の神経からシナプス間隙への放出が不可能になる。このことは、図12では神経筋接合部について示されているが、これは、ボツリヌス神経毒素が神経細胞と相互作用する機徐を説明的に示しているに過ぎず、ボツリヌス神経毒素は、その他の神経接合部からのアセチルコリン及びノルアドレナリンの放出を阻止することも明らかにされている。
【0097】
下記の実験は、限定目的ではなく説明目的で提示されている。
【実施例】
【0098】
実験
試験は、グアネチジンの外膜送達が、除神経が成功したことのマーカーである腎臓のノルエピネフリン(NE)を低減し得るかどうか判定するために、正常なブタモデルにおいて実施された。除神経が成功すれば、高血圧症の患者で血圧が低下するのは周知である。
【0099】
NEの減少により証明された腎臓の除神経:グアネチジンモノサルフェートは、0.9%NaCl中で12.5mg/mlの濃度まで稀釈され、次にヨウ素化された造影媒体中で最終濃度が10 mg/mlになるまで更に稀釈された。この溶液は、Mercator MedSystems Bullfrog Micro−Infusion Catheter(本出願で更に記載され及び図11A〜Fに詳記する)を用いて、大動脈及び腎門間のほぼ中間の両腎動脈外膜内に注射された。外膜における分布を確認するために、造影媒体をX線により可視化することで注射を監視したが、この注射により、注射物質(injectate)が、動脈周辺を長手方向及び同心円状に、並びに血管周辺組織内を横方向に運ばれることが確認された。対照動物への注射は行われず、また2004年のConnorsの報告に由来するヒストリカルコントロールがコンパレータとして用いられた。
【0100】
注射後28日経過して、腎臓及び腎動脈が採取された。腎臓サンプルは、2004年のConnorsの報告により確立された方法を用いて採取された。要するに、腎の極(pole)に由来する皮質組織サンプルが取り出され、そして約100mgの断片に切断された。腎臓毎に、各極に由来するサンプルが分析用にプールされた。腎動脈は、10%の中性に緩衝化されたホルマリン内で潅流固定され、組織病理学検査用に提出された。
【0101】
組織学検査:動脈は28日の時点で正常な外観を呈し、血管毒性の兆候は認められなかった。血管周辺における除神経の効能は、リンパ球、マクロファージ、及び形質細胞の外膜神経本体への浸潤から明白であり、神経変質は、過剰空胞変性及び好酸球増加により特徴付けられた。
【0102】
ラジオイムノアッセイ:腎臓皮質組織中のNEレベルから、腎臓皮質1グラム(g)当たり、NEの平均レベルは64ナノグラム(ng)であることが明らかにされた。正常な対照値450ng/gと比較して、これは、腎臓皮質NEが86%減少したことに相当する。これらのデータを図13に示す。
【0103】
2004年のConnorsの報告が97%として報告し、また2008年のKrumの報告は94%として報告した外科的除神経に起因する腎臓皮質NEの減少に対して、更なる比較が実施可能である。また更に、腎臓神経への高周波カテーテルアブレーションの利用による腎臓NEの減少が報告されたが、これは86%として報告されている。以来、高周波法は臨床試験で用いられ、エビデンスは、NEを86%減少させる神経のアブレーションは、患者の高血圧低下に直接変換されることを明らかにし、治療後12ヶ月において、収縮期血圧で27mmHgの低下、及び拡張期血圧では17mmHgの低下が報告されている。
【0104】
上記したものは、本発明の好ましい実施形態の完全な記載であるが、様々な代替形態、修正形態、及び同等形態も利用可能である。したがって、上記記載を、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の制限と受け止めるべきではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高血圧症治療における使用のためのグアネチジンであって、血管を取り巻く組織内に投与されるグアネチジン。
【請求項2】
前記血管が動脈又は静脈である、請求項1に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項3】
前記血管が腎動脈又は腎静脈である、請求項2に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項4】
一方の腎動脈の周辺の外膜空間に投与される、請求項3に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項5】
各腎動脈の周辺の外膜空間に投与される、請求項4に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項6】
血管壁を経由して前記血管を取り巻く前記外膜空間内に注射することにより投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項7】
前記高血圧症が全身薬物治療に対して抵抗性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項8】
約100μg〜約100mgの量で投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項9】
放射線不透過性造影剤と連続して又は同時に投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項10】
安定化剤と連続して又は同時に投与される、請求項1から8のいずれか一項にに記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項11】
高血圧症を治療するシステムであって、
患者の腎血管系に導入されるように適合されたカテーテルと、
前記カテーテルから腎血管の壁を貫通して前記腎血管を取り巻く外膜内に配置可能な針と、及び
前記患者の全身血圧を治療上有益な量だけ低下させるように、前記針を経由して前記外膜内に送達することができる神経調節薬の供給源と
を備えるシステム。
【請求項12】
前記神経調節薬が神経毒素断片の神経毒素である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記神経調節薬がグアネチジンである、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記針が、血管壁の表面に対して通常直角の方向に、前記壁を通過して300μm〜3mmの範囲の深さまで進入可能である、請求項11から13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項1】
高血圧症治療における使用のためのグアネチジンであって、血管を取り巻く組織内に投与されるグアネチジン。
【請求項2】
前記血管が動脈又は静脈である、請求項1に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項3】
前記血管が腎動脈又は腎静脈である、請求項2に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項4】
一方の腎動脈の周辺の外膜空間に投与される、請求項3に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項5】
各腎動脈の周辺の外膜空間に投与される、請求項4に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項6】
血管壁を経由して前記血管を取り巻く前記外膜空間内に注射することにより投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項7】
前記高血圧症が全身薬物治療に対して抵抗性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項8】
約100μg〜約100mgの量で投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項9】
放射線不透過性造影剤と連続して又は同時に投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項10】
安定化剤と連続して又は同時に投与される、請求項1から8のいずれか一項にに記載の使用のためのグアネチジン。
【請求項11】
高血圧症を治療するシステムであって、
患者の腎血管系に導入されるように適合されたカテーテルと、
前記カテーテルから腎血管の壁を貫通して前記腎血管を取り巻く外膜内に配置可能な針と、及び
前記患者の全身血圧を治療上有益な量だけ低下させるように、前記針を経由して前記外膜内に送達することができる神経調節薬の供給源と
を備えるシステム。
【請求項12】
前記神経調節薬が神経毒素断片の神経毒素である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記神経調節薬がグアネチジンである、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記針が、血管壁の表面に対して通常直角の方向に、前記壁を通過して300μm〜3mmの範囲の深さまで進入可能である、請求項11から13のいずれか一項に記載のシステム。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12】
【図13】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−524808(P2012−524808A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507393(P2012−507393)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/032097
【国際公開番号】WO2010/124120
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511255915)マーケイター メドシステムズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/032097
【国際公開番号】WO2010/124120
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511255915)マーケイター メドシステムズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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