説明

屈折力可変の液体レンズアレイ

【課題】ノンパワー化が可能で屈折力可変であって、明るく高画質な画像が得られる液体レンズアレイを提供する。
【解決手段】液体レンズアレイは、2つの透明板5、6の間に液体を密閉して収容する容器、容器内に収容された屈折率が異なる電解液7及び非電解液8、透明電極10、電圧印加手段、を有する。透明電極10は、電解液と非電解液とが成す界面の光軸に垂直な方向に配置され、2つの透明板のうちの少なくとも非電解液側に配置された透明板6上にあって液体に対して絶縁されている。電圧印加手段は、電解液7と透明電極10との間に印加する電圧を調整する。電解液7及び非電解液8の一方は液滴として複数配置される。電圧印加手段は、印加電圧の調整により界面の形状を変化させ、液滴を、所定の範囲の印加電圧値において、液滴側に配置された透明板と対向した他方の透明板5に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー可変素子を複数並べたパワー可変マイクロレンズなどの屈折力可変なレンズアレイに関する。特に、液体を用いてパワーを変える液体レンズアレイに関する。また、この液体レンズアレイをライトフィールドカメラに応用し、高解像の2D画像(2次元画像)を得ることが可能な撮像装置にも関する。本明細書において、マイクロレンズとは、後述の実施例で示す様な寸法の比較的微小なレンズを複数、例えば格子状ないしアレイ状に並べて構成された光学素子である。
【背景技術】
【0002】
従来、屈折力を変化させるパワー可変素子が数多く提案されている。その中でも、電圧を印加することで、2液体の境界面(以下界面とも言う)と界面が接触する固体部との角度(以下接触角とも言う)を変化させるエレクトロウェッティング(以下EWとも言う)現象を用いた液体レンズは、良好な光学特性を有している。EW現象を用いた素子に使われる2液体は、電導性を有する電解液と非電導性の非電解液からなり、両者は混ざり合うことなく界面を形成し、2液は異なる屈折率を有している。電圧は、電解液と2液に対して絶縁層を挟んで配置された電極層との間に印加される。2液は密閉されているため、電解液と電極層に電圧が印加されると、両液体の体積は維持されながら界面端部の接触角が変化する。界面端部の接触角が変化すると、界面の曲面曲率ないし曲率半径が変化し、2液間に屈折率差があるので屈折力も変わる。このとき、2液の密度差があると、重力の影響により界面曲面形状が歪み、良好な光学性能が得られないため、両液体の密度を揃えるのが一般的である。また、この液体レンズを同一面内に多数個並べた液体マイクロレンズも公知である。
【0003】
一方、ライトフィールドカメラ関連の発明も近年多く提案されている。被写体をレンズで撮像するが、結像面近傍にマイクロレンズを配置し、その背後に撮像素子が配置されている。撮像素子には、マイクロレンズによる多くの視差画像が撮像される。そして、これらの視差画像の画像処理により、被写体の距離情報を取得して、被写界深度の深い画像を生成したり、リフォーカス画像を生成したりする。また、オリジナルの被写体2D画像も多視差画像から画像処理により生成する。しかし、欠点は、オリジナルの被写体2D画像が低解像画像になってしまう点である。そこで、特許文献1に記載の発明では、電圧印加により屈折率を変えられる液晶をマイクロレンズに応用している。液晶に電圧を印加すると、所定方向の直線偏光光線に対しては、液晶の屈折率を変化させて作用させることができる。他方、所定方向と垂直な方向の直線偏光光線に対しては、屈折率は全く変化しない。そこで、液晶マイクロレンズの前に偏光方向可変素子を配置し、それによって所定方向の直線偏光光線のみを液晶マイクロレンズに入れると、液晶屈折率が変化し、屈折力を持ったマイクロレンズとなる。この時は多視差画像を結像させ、画像処理により被写体の距離情報を取得する。一方、偏光方向可変素子により、所定方向と垂直な方向の直線偏光光線のみを液体マイクロレンズに入射させた場合は、液晶の屈折率は変化しないので、マイクロレンズは屈折力を全く持たず(ノンパワー)、単なる平板と同じになる。そのため、被写体2D画像をダイレクトで撮像素子に結像可能となり、撮像素子の全ての画素を使用した高解像力の被写体2D画像を得ることができる。このようにしてライトフィールドカメラの欠点を解決している
【0004】
ライトフィールドカメラで、マイクロレンズによる多視差画像取得と高解像力の被写体2D画像取得の両者を実現するには、マイクロレンズが、屈折力を持つ場合と持たない場合の2状態を持たなければならない。前述したEWレンズでも、電極が円筒型のリング電極なら、界面の曲面曲率半径を∞とすることができ、ノンパワー状態を得ることができる。界面の曲面曲率半径を∞以外にしたときは、正負両者の屈折力を有することが可能である。この様なリング電極型のEWレンズを多数並べたマイクロレンズをライトフィールドカメラに応用した例も学会で発表されている(非特許文献1参照)。ただし、この例の目的は、リング型液体マイクロレンズを使って、マイクロレンズごとに屈折力を少し変え、多視差画像からの2Dオリジナル被写体画像生成時の画像劣化を少なくするものである。
【0005】
また、EW液体レンズにおいて、界面を透明保護板に接触させて、EW液体レンズをノンパワー化させる例がある(特許文献2参照)。電極タイプは、上記非特許文献1と同じく、リング電極である。ただし、EW液体レンズの界面を透明保護板に接触させる目的は、ノンパワー状態を作るものではない。電解液を透明保護板に接触させて、光学性能劣化の原因となる透明保護板に付着していた微小電解液滴を取り除くためのものである。そこで、電圧OFF時に電解液を透明保護板に接触させて微小電解液滴を吸収し、実際にレンズとして使う時は、印加電圧をかけて電解液の接触部をなくし(界面曲率半径を大きくし)、接触による歪みがない状態で屈折力可変レンズとして使う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開US-A1-2010/0066812
【特許文献2】国際公開WO-A1-2005/101064
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kensuke Ueda, Dongha Lee,Takafumi Koike, Keita Takahashi, Takeshi Naemura: "Multi-Focal CompoundEye: Liquid Lens Array for Computational Photography", ACM SIGGRAPH 2008 New Tech Demos, L.A.,CA, USA (2008.8).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した如く、特許文献1は液晶を使ったマイクロレンズである。液晶は光線の入射角依存性があり、マイクロレンズへの光線入射角度が大きい撮像光学系の場合は、コントラストが極端に落ちてしまう。従って、ライトフィールドカメラにおける多視差画像及びダイレクト2D被写体画像を、高画質で取得することは容易とは言い難い。また、或る方向に直線偏光している光線のみが作用するため、偏光ロスにより、明るさが半分以下になってしまう。また、非特許文献1と特許文献2に挙げられているEWマイクロレンズは、リング電極によるものを同一平面上に多数並べてあるため、各レンズの開口部よりリング電極部の面積のほうが大きくなることがある。よって、少なくない光線はこの電極部でケラれてしまい、光量ロスが大きくなり易い。更に、特許文献2の液体レンズのノンパワー化では、上部透明板への電解液接触でノンパワー状態を生成するが、接触エリアが狭く、界面の不連続形状による歪みが観察されてしまい易い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明の液体レンズアレイは、2つの透明板の間に液体を密閉して収容するための容器、該容器内に収容された屈折率が異なる電解液及び非電解液、透明電極、電圧印加手段、を有する。前記透明電極は、電解液と非電解液とが成す界面の光軸に垂直な方向に配置され、前記2つの透明板のうちの少なくとも非電解液側に配置された透明板上にあって前記液体に対して絶縁されている。前記電圧印加手段は、電解液と透明電極との間に印加する電圧を調整する。そして、電解液と非電解液の一方は液滴として複数配置され、電圧印加手段は、印加電圧の調整により前記界面の形状を変化させ、前記液滴を、所定の範囲の印加電圧値において、液滴側に配置された透明板と対向した他方の透明板に接触させる。
【0010】
また、上記課題に鑑み、本発明のライトフィールドカメラは、被写体を撮像する撮像レンズ、上記液体レンズアレイ、撮像素子を有する。そして、前記電解液と非電解液の一方の複数の液滴により複数のレンズを構成し、前記電圧印加手段による印加電圧の調整により、電解液と非電解液の一方の液滴の界面形状を変化させて、各レンズの屈折力を変化させる。また、前記電圧印加手段により印加電圧値を所定の範囲内で調整するときに、被写体の多視差画像を前記撮像素子上で得る。他方、前記電圧印加手段により印加電圧値を別の所定の範囲内で調整するときに、電解液と非電解液の一方の複数の液滴を前記他方の透明板に接触させて、被写体の2次元画像を前記撮像素子上で得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体レンズアレイによれば、上記の様に、透明電極を界面光軸と垂直方向に配置(平面電極型)し、界面を形成する液滴を複数並べてレンズアレイを構成したため、電極によるケラレがなくなりレンズアレイを明るくすることができる。また、偏光及び液晶を利用していないため、偏光による光量ロスがなく、光線の入射角依存性による画質劣化も抑制される。更に、ノンパワー化する際は、対向する透明板に液滴を十分な面積で接触させることができるので、各液体レンズの歪みの影響度を抑制できる。
【0012】
また、本発明の液体レンズアレイを用いる本発明のライトフィールドカメラによれば、ノンパワー化する際は各液体レンズの歪みの影響度を抑制できるので、ダイレクト2D被写体画像は、明るく良好な画像を得ることができる。屈折力を有した場合の液体レンズによる多視差画像も、明るく高画質画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の液体レンズアレイの屈折力を有した状態とノンパワー状態を示す図。
【図2】実施例1の液体マイクロレンズの各状態を示す断面図。
【図3】実施例2の液体マイクロレンズの各状態を示す断面図。
【図4】実施例3の液体マイクロレンズの各状態を示す断面図。
【図5】実施例4の液体マイクロレンズの各状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の特徴は、液滴が形成する界面の光軸に垂直な方向に透明電極が配置され、電圧印加手段が、或る印加電圧値において、複数の液滴を、液滴側に配置された透明板と対向した他方の透明板に十分な面積で接触させることである。典型的には、非電解液が液滴として、透明電極の配置された透明板上に複数配置される。また、透明電極は、2つの透明板のうちの少なくとも非電解液側に配置された透明板上に絶縁状態で配置されるが、後述の実施例2で説明する様に、対向する他方の透明板上にも絶縁状態で配置してもよい。
【0015】
以下、本発明の液体レンズアレイや撮像装置の実施形態及び実施例を図を用いて説明する。
図1は、本発明の液体レンズアレイである液体マイクロレンズを用いるライトフィールドカメラの実施形態の説明図である。(A)は、屈折力を有した状態の液体マイクロレンズ1により多視差画像を取得する状態を示し、(B)は、屈折力を持たない(ノンパワー)状態の液体マイクロレンズ1を通して撮像素子4でダイレクトに2D被写体画像を取得する状態を示す。(A)の状態では、被写体2を撮像レンズ3で結像し、結像面上に液体マイクロレンズ1を配置し、その直後に撮像素子4を置いて多視差画像を取得する。光線は、マイクロレンズ1の入射瞳中心を通る3本の光線を示している。被写体2の像はマイクロレンズ1上にピントが合っているため、撮像素子4上ではピントが合わない。各レンズが正のパワーの時は、被写体2よりも前側(カメラ側)の被写体が撮像素子2にピントを結んだ状態となり、マイクロレンズ1による多視差画像が撮像素子4で得られる。各レンズが負のパワーの時は、被写体2よりも後側(カメラより遠方)の被写体が撮像素子2にピントを結んだ状態であり、マイクロレンズ1による多視差画像が撮像素子4で得られる。このとき、各レンズは同一の屈折力でもよいし、異ならせてもよい。例えば、遠景の被写体が多い領域での各レンズは負のパワーにし、遠景にピントが合った多視差画像を取得する。近景の被写体が多い領域での各レンズには正のパワーを持たせて、近景にピントが合った多視差画像を取得する。これらの多視差画像から、画像処理により、被写体全体の距離情報を算出する。この場合、各レンズの屈折力を均一にした場合より、距離情報精度を上げることが可能となる。
【0016】
(B)の状態では、マイクロレンズ1をノンパワー化し、被写体2の像を、直接、撮像素子4に結像させている。この時、被写体2の像を撮像素子4に結像させるために、撮像レンズ3を被写体2側に繰り出してピント調整している。
【0017】
この様に、本実施形態の撮像装置であるライトフィールドカメラは、被写体を撮像する撮像レンズ3、本発明の液体レンズアレイ1、撮像素子4を有する。そして、後述する液体レンズアレイの実施例で説明する様に、電解液または非電解液の複数の液滴により複数のレンズを構成し、電圧印加手段による印加電圧の調整により、各液滴の界面形状を変化させて、各レンズの屈折力を変化させる。更に、印加電圧値を所定の範囲内で調整するときに、各レンズにパワーを持たせて、被写体の多視差画像を撮像素子上で得る。他方、印加電圧値を別の所定の範囲内で調整するときに、各レンズをノンパワーにして、各液滴を対向する透明板に接触させて、被写体の2次元画像を撮像素子上で得る。
【0018】
本実施形態のライトフィールドカメラによれば、被写体を撮像レンズで撮像するが、結像面近傍に本発明の液体レンズアレイを配置し、その背後に撮像素子を配置している。ここで、液体レンズアレイは、例えば、一方の透明板上に小さな隙間で非電解液の液滴を複数配置しマイクロレンズとしているため、微小ピッチで開口率の大きいマイクロレンズを構成可能である。そして、印加電圧により各レンズの屈折力を変えることができる。また、印加電圧により非電解液の複数の液滴の曲率半径を小さくしていくと、2枚の透明板の間にある液滴(一方の透明板には常に接触)の接触角θは大きくなる。そうすると、2液の体積は変化しないため、液滴は立つような形状になり、さらに立ってくると、液滴は他方の透明板に接触し、接触部は屈折力を持たないノンパワーエリアになる。このノンパワーエリアを十分にとると、液体レンズアレイは、歪みが観察されない単なる平板とほぼ同じになるので、このとき、被写体を撮像素子にピント調節して結像させ、歪みのない2D被写体画像をダイレクトに取得できる。この際、撮像素子のすべての画素で、2D被写体画像を取得できるため、高解像力画像が得られる。当然、液体レンズアレイの電極によるケラレはないため、ノンパワー時も屈折力を有した場合も明るい。また、偏光及び液晶を利用していないため、偏光による光量ロスがなく、光線の入射角依存性もないため画質劣化も少ない。
【0019】
以下、本発明の液体レンズアレイの具体的な実施例である液体マイクロレンズを説明する。
(実施例1)
図2において、(A)は、実施例1の液体マイクロレンズが屈折力を有した状態を示し、(B)は、液体マイクロレンズのノンパワー状態を示す。本実施例の液体マイクロレンズでは、容器の上部透明板5と下部透明板6の間の密閉空間内において、電解液7が上部透明板5側に、非電解液8の液滴が下部透明板6側に配置されている。非電解液8と下部透明板6との間には、絶縁膜9と平面透明電極10が挟まれている。そして、電圧印加手段が透明電極10と電解液7との間に印加する電圧を調整して、電解液7と非電解液8の液滴とによる界面端部の接触角θを変化させ、界面曲率半径を変化させて非電解液8の各液滴(各レンズ)による屈折力を変化させている。印加電圧を大きくすると、接触角θが大きくなり、界面曲率半径はさらに小さくなる。両液体7、8は封入されており体積は変化しない。従って、電圧増加、接触角θの増大に伴い、非電解液8の各液滴は立つような形状となり、下部透明板6との接触面積が減る。
【0020】
ここで、非電解液8はオイルであり、屈折率n=1.57である。電解液7は水に種々の溶剤を入れており、屈折率n=1.40である。また、非電解液8(オイル)と絶縁膜9との間には、親油膜(不図示)を入れ、印加電圧“0”での初期接触角を小さくしている。また、これにより、非電解液8の各液滴(各レンズ)は絶縁膜9上の所定の位置に保持される。本実施例では、光軸方向から見て、多数の非電解液8の液滴(マイクロレンズ)が、例えば 格子状に2次元的に配置されている。
【0021】
本実施例の液体マイクロレンズをライトフィールドカメラに使う場合は、各レンズを正レンズ領域で使ったほうが好ましい。多視差画像の画像処理により被写体の距離情報を算出する際、近距離被写体ほど距離情報の精度は高いものが要求される。各レンズが正レンズ領域の場合は、被写体の近距離側にピントがあった多視差画像が得られるため、近距離被写体での距離情報が高い信頼精度で得られる。マイクロレンズが正レンズであるためには、非電解液8の液滴の屈折率が電解液7の屈折率より高くなければならない。図2(B)は、図2(A)の状態から更に印加電圧を上げて、非電解液8の液滴を上部透明板5に接触させ、上部接触エリアを十分に確保してノンパワー化させている。特に、各液滴の上部接触エリアと下部接触エリアをほぼ同じにすれば(即ちほぼ円筒状にすれば)、ノンパワーエリアが最も広く確保できる。以上の様に、本実施例では、電圧印加手段による印加電圧の増大に伴い、界面の曲率が大きくなり、所定の印加電圧値を超えると、複数の液滴が、対向する透明板に接触する。また、界面による可変屈折力の範囲は、正の屈折力の範囲であり、そのために、非電解液の屈折率は、電解液の屈折率よりも高い。
【0022】
ところで、印加電圧“0”の状態で液滴を上部透明板5に接触させておき、電圧増加に伴い、上部透明板との接触をなくし、屈折力を有したマイクロレンズとすることもできる。さらに電圧増加させて、接触角θを小さくし、界面の曲率半径を大きくすることも可能である。この構成としては、上部透明板側に非電解液(オイル)を配置し、電解液を下部透明板側に配置して、非電解液と上部透明板との間には、上記のように絶縁膜、透明電極を挟む構成とする。ただし、多数の液滴は電解液で構成されるため、電圧印加する際は、透明電極と電解液の複数の液滴の各々に印加しなければならない。そのため、多くの電圧が電解液の複数の液滴にそれぞれ達するように各液滴に電極棒を入れる構成になる。よって、複数の電極棒による光線ケラレ等が発生する可能性はある。
【0023】
(実施例2)
図3の各断面図において、(A)は、実施例2の液体マイクロレンズが屈折力を有した状態を示し、(B)は、実施例2の液体マイクロレンズのノンパワー状態を示す。本実施例では、上部透明板5と下部透明板6との間において、電解液7が上部透明板5側に配置され、非電解液8の複数の液滴が下部透明板6側に配置されている。非電解液8の液滴と下部透明板6との間には、絶縁膜9と透明電極10が挟まれている。更に、電解液7と上部透明板6との間にも、絶縁膜9と透明電極10が挟まれている。下部の透明電極10と電解液7(ここには電極棒が差し込まれている)との間に電圧をかけ、電解液7と非電解液8の液滴による界面の端部の接触角θを変化させ、界面曲率半径を変化させて屈折力を変化させる。印加電圧を大きくすると、接触角θが大きくなり、界面曲率半径はさらに小さくなる。実施例1と同様、さらに電圧を上げると界面が上部透明板5に接触し始める。ここで、電解液7と非電解液8の材料は実施例1と同じものである。
【0024】
本実施例では、非電解液8の各液滴の界面が上部透明板5に接触し始めてから、上部の透明電極10と電解液7との間にも電圧を印加する。このとき、電解液7はグランドとし、上部透明電極と下部透明電極へは別々に電圧を印加する。この様にすれば、非電解液8の液滴の上部での接触角と下部での接触角を別々にコントロールできる。そこで、図3(B)のように、上部と下部の接触角を同じ90度とすれば、非電解液8の液滴を完全に近い円筒形状にすることができ、液滴と液滴の間での光学的な歪みを更に少なくすることができる。この図3(B)のノンパワー状態(円筒形状液滴)で、ライトフィールドカメラのダイレクト2D被写体画像を得ることは極めて望ましい。
【0025】
(実施例3)
図4の各断面図において、(A)は、実施例3の液体マイクロレンズが屈折力を有した状態を示し、(B)は、実施例3の液体マイクロレンズのノンパワー状態を示し、(C)は、ノンパワー状態でかつフレアー対策を施した状態を示す。本実施例は、図3の実施例2と同様、上下に透明電極10をもつタイプである。実施例2と異なる点は、上下の透明電極10がそれぞれ1つに繋がっておらず、上下とも分割電極になっている点である。
【0026】
下部の透明電極10では、非電解液8の多数の液滴が存在するエリアのみ透明電極(分割電極)が形成され、多数の透明電極10が独立して電圧駆動可能である。この多数の透明電極(分割電極)にそれぞれ異なる電圧を印加すれば、各レンズの屈折力を異ならせることができる。そうすると、前述したライトフィールドカメラで、被写体の領域ごとにマイクロレンズのピントを変えることができ、多視差画像から被写体全体の距離情報を高精度で算出することができる。また、上の透明電極10も、下の透明電極と同じ大きさの分割電極になっており、非電解液8の各液滴が上部に接触する時、上部での接触角と下部での接触角を液滴ごとにコントロールできる。
【0027】
実施例3を示す図4では、実施例2の上下の透明電極を透明分割電極に置き換えた他に、具体的な数値も追加した。液体の厚さはD=0.6mm、印加電圧“0”での非電解液8の液滴(オイルML)間の隙間はL=0.2mm、その時の非電解液8の液滴の直径は1.5mmである(図4(A)参照)。図4(B)はノンパワー状態であり、印加電圧を上げて、非電解液8の液滴を上面に接触させ、上下ともに接触角=90°とした場合である(円筒液滴)。非電解液の液滴の体積は一定のため、非電解液の円筒液滴の直径は1.16mmと小さくなり、円筒液滴間の隙間はL=0.54mmと広がり、レンズ直径の47%(0.54/1.16)を占める。図4(B)の状態では、非電解液8の液滴と電解液7では屈折率が違うため、非電解液の液滴部と液滴隙間部(電解液7の部分)との光路長差より位相差フレアーが発生する。円筒液滴間の隙間(L=0.54mm)では、この位相差フレアーが発生し好ましくない。
【0028】
そこで図4(C)では、この位相差フレアーを低減するために、複数の液滴が他方の透明板に接触後に、上下透明板5、6を上下から圧力で押して、上下透明板間の間隔即ち液体の厚さDを0.6mmから0.28mmまで薄くしている。一方の透明板を固定しておいて、他方の透明板のみを動かしてもよい。この駆動手段としては、例えば、透明板に接している気体の圧力を調整する手段や透明板に接しているカムやソレノイドのプランジャー等を駆動する手段などを用いることができる。この様にすると、非電解液8の円筒液滴の直径は、印加電圧“0”(図4(A)の状態での電圧)の時の液滴直径と同じ1.5mmに戻り、円筒液滴間の隙間Lも0.54mmから印加電圧“0”の時の0.2mmに戻る。結果として、位相差フレアーを大きく減らすことができる。
【0029】
(実施例4)
図5の各断面図において、(A)は、実施例4の液体マイクロレンズが屈折力を有した状態を示し、(B)は、実施例4の液体マイクロレンズがノンパワー状態で且つフレアー対策を施した状態を示し、(C)は、別のノンパワー状態で且つフレアー対策を施した状態を示す。
【0030】
本実施例は、実施例3のところで説明した位相差フレアーの低減のために別の改善手段を採用した例である。基本系は実施例1をベースとしており、実施例1の下部透明板(実施例4では中間透明板11に相当)の下に、さらに次のものを配置している。即ち、透明電極10、絶縁膜9、非電解液8の微小液滴(ベースとした実施例1の非電解液8の液滴よりも小さい)、電解液7、一番下の下部透明板6を配置している。追加した非電解液8の微小液滴は、ベースの実施例1での非電解液8の各液滴の間に、下向きに配置され、直径も実施例1での非電解液8の液滴直径よりもかなり小さい(図5(A)参照)。電圧は、実施例1の部分と下部追加部分との両者に独立して印加する。追加部分についても、透明電極10と電解液7とに印加する電圧は上記実施例と同じである。また、実施例1の部分の印加電圧が小さい時は、非電解液8の液滴の隙間Lは小さく、下部追加部の非電解液8の微小液滴は、実施例1の部分のレンズ有効径から外れたところに配置されている。従って、屈折力を有したマイクロレンズとして使う場合は、実施例1の部分の屈折力を使うため、下部追加部の微小液滴レンズの屈折力の有無は、あまり影響がない。よって、下部追加部に電圧印加しなくてもよい。
【0031】
実施例1の部分の非電解液8の液滴が上部透明板5に接触してノンパワー化する際、液滴間の隙間で位相差フレアーが発生する。図5(B)の状態では、位相差フレアーを低減するために、下部追加部に電圧を印加して微小液滴を下部透明板6に接触させて、下部追加部もノンパワー化させている。下部追加部の2種の液体材料は、実施例1の部分の2種の液体材料と同じであり、2液7、8の厚さも同じである。従って、実施例1の部分の非電解液8の液滴を透過し、下部追加部の電解液7の部分を通って射出する光と、実施例1の部分の非電解液8の液滴間の隙間(電解液7の部分)を透過し、追加部の非電解液8の液滴を通って射出する光の光路長は全く同じとなる。そのため、位相差フレアーが発生せず、ノンパワー状態で良好な光学性能を得ることができる。
【0032】
以上の様に、本実施例では、上部に複数配置された液滴の他に、複数の液滴が、下部の別の容器内に収容されて上部の2つの透明板に平行な平面上に更に配置されている。そして、更に配置された複数の液滴は、それぞれ、上部の液滴より小さく、光軸方向から見て前記透明電極側に複数配置された液滴間の隙間を埋めるように配置される。なお、下部追加部の微小液滴は、一番下の下部透明板6上に配置してもよい。ただし、その場合は、中間透明板11の下側の絶縁膜9と透明電極10も、下部透明板6の所に配置することになる。
【0033】
ここで、実施例1の部分でノンパワー化させる際、非電解液8の液滴が上部透明板5と接触するエリアに対する、下部透明板6(実施例4では中間透明板11)との接触エリアの面積比をαとすると、次の様になる。図5(B)の状態では、α=1.25で、下面側(実施例4では中間透明板11)のほうで接触エリアがやや大きい。この状態から、さらに印加電圧を上げていくと、図5(C)のように、α=0.75で、上面側のほうで接触エリアがやや大きくなる。αがこの範囲から外れると、実施例1の部分のノンパワー時の有効光束が細くなるため、位相差フレアーが多くなり、位相差フレアー対策または歪み対策が必須となる。従って、ノンパワーの状態では、電圧印加手段による印加電圧の調整で面積比αを0.7以上で1.3以下の範囲に入れられる様に、各要素の形態や材料などを選択するのが好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1:液体マイクロレンズ(液体レンズアレイ)、2:被写体、3:撮像レンズ、4:撮像素子、5:上部透明板(他方の透明板)、6:下部透明板(液滴側に配置された透明板)、7:電解液、8:非電解液、9:絶縁膜、10:透明電極、11:中間透明板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの透明板の間に液体を密閉して収容するための容器、
該容器内に収容された屈折率が異なる電解液及び非電解液、
前記電解液と非電解液とが成す界面の光軸に垂直な方向に配置された、前記2つの透明板のうちの少なくとも前記非電解液側に配置された透明板上にあって前記液体に対して絶縁された透明電極、
前記電解液と前記透明電極との間に印加する電圧を調整するための電圧印加手段、
を有し、
前記電解液と非電解液の一方は液滴として複数配置され、
前記電圧印加手段は、前記印加電圧の調整により前記界面の形状を変化させ、前記液滴を、所定の範囲の印加電圧値において、前記液滴側に配置された透明板と対向した他方の透明板に接触させることを特徴とする液体レンズアレイ。
【請求項2】
前記非電解液が液滴として複数配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体レンズアレイ。
【請求項3】
前記非電解液の複数の液滴が前記他方の透明板に接触する際、該他方の透明板との接触エリアに対する前記液滴側に配置された透明板との接触エリアの面積比αが0.7以上で1.3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体レンズアレイ。
【請求項4】
前記電圧印加手段による印加電圧の増大に伴い、前記界面の曲率が大きくなり、所定の印加電圧値を超えると、前記複数の液滴が前記他方の透明板に接触することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の液体レンズアレイ。
【請求項5】
前記界面による可変屈折力の範囲は、正の屈折力の範囲であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の液体レンズアレイ。
【請求項6】
前記非電解液の屈折率は、前記電解液の屈折率よりも高いことを特徴とする請求項5に記載の液体レンズアレイ。
【請求項7】
前記複数の液滴が前記他方の透明板に接触後に、前記2つの透明板の間の間隔を狭くするための手段を有することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の液体レンズアレイ。
【請求項8】
複数配置された前記液滴の他に、複数の液滴が、別の密閉空間内に収容されて前記2つの透明板に平行な平面上に更に配置されていることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の液体レンズアレイ。
【請求項9】
前記更に配置された複数の液滴は、それぞれ、前記複数配置された液滴より小さく、光軸方向から見て該液滴間の隙間を埋めるように配置されることを特徴とする請求項8に記載の液体レンズアレイ。
【請求項10】
被写体を撮像する撮像レンズ、請求項1から9の何れか1項に記載の液体レンズアレイ、撮像素子を有し、
前記電解液と非電解液の一方の複数の液滴により複数のレンズを構成し、前記電圧印加手段による印加電圧の調整により、前記電解液と非電解液の一方の液滴の界面形状を変化させて、各レンズの屈折力を変化させ、
前記電圧印加手段により印加電圧値を所定の範囲内で調整するときに、被写体の多視差画像を前記撮像素子上で得、
前記電圧印加手段により印加電圧値を別の所定の範囲内で調整するときに、前記電解液と非電解液の一方の複数の液滴を前記他方の透明板に接触させて、被写体の2次元画像を前記撮像素子上で得ることを特徴とするライトフィールドカメラ


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54208(P2013−54208A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192218(P2011−192218)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】