説明

屋上手摺構造

【課題】施工の簡略化を図りつつ、手摺の固定強度の向上を達成できる屋上手摺構造を提供することを課題とする。
【解決手段】屋上スラブ2上に設けられた防水層3上に、手摺10の支柱11とこの支柱11よりも人立入りスペースS側に所定長さで広がり支柱11の下端に一体的に形成された重石受ベース板12とで構成される支柱部材13を所定間隔で複数設置し、重石受ベース板12上に、重石層20を形成し、隣り合う支柱11間に手摺本体14を架け渡して固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上に形成される屋上手摺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の屋上に手摺を設けるには、図3の(a)に示すように、屋上スラブ51から立ち上げた基礎52で手摺40の支柱41を支持する構造や、図3の(b)に示すように、屋上スラブ51上の防水層53の上部に形成される押えコンクリート層54から立ち上げた基礎55で手摺40の支柱41を支持する構造(例えば、特許文献1参照)が採用されていた。
【0003】
【特許文献1】特開2007−255007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図3の(a)に示した従来の構造では、手摺40の支柱41を支持する支柱基礎52を屋上スラブ51と一体で形成しているので、基礎回りの防水工事や躯体工事が複雑になるといった問題があった。また、防水層53に貫通部が形成されるため、防水性の低下を招いてしまう可能性もあった。
【0005】
一方、図3の(b)に示した従来の構造では、防水層53の上部に手摺の支柱を支持する支柱基礎55を形成しているため、防水層53の形状は平坦となり、工事の複雑化や防水性の低下は防止できるものの、支柱基礎55は押えコンクリート層54から立ち上げて形成されており、その施工は複雑なままであった。また、近年では屋上緑化を行う場合が多くなってきているが、この構造では、支柱基礎55を押えコンクリート層54と一体化して手摺の傾倒を防止しているので、押えコンクリート層54は必ず形成しなければならず、図3の(a)の右側に示すように、屋上緑化のための土56を防水層53の上に直接敷設することができなかった。
【0006】
本発明は前記の問題を解決すべく案出されたものであって、施工の簡略化を図りつつ、手摺の固定強度の向上を達成できる屋上手摺構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、屋上に設けられる屋上手摺構造において、屋上スラブ上に設けられた防水層上に、手摺の支柱と当該支柱よりも人立入りスペース側に所定長さで広がり前記支柱の下端に一体的に形成された重石受ベース板とで構成される支柱部材を所定間隔で複数設置し、前記重石受ベース板上に、重石層を形成し、前記隣り合う支柱間に手摺本体を架け渡して固定したことを特徴とする屋上手摺構造である。
【0008】
このような構成によれば、重石受ベース板上に重石層が形成されているので、手摺を傾倒させようとする力、すなわち、重石受ベース板を浮かせようとする力に抵抗できる。さらに、重石受ベース板は支柱よりも人立入りスペース側に所定長さで広がって形成されているので、人が手摺を掴むときには、その人の体重が重石受ベース板に加わるので、支柱の固定強度を向上させることができる。また、支柱部材を設置して重石受ベース板を覆うように重石層を形成するだけで、手摺を固定することができるので、施工の簡略化が図れる。特に、重石層を土にて形成する場合は、屋上緑化に対応できるとともに、押えコンクリートの施工を省略できるので施工手間が大幅に低減される。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記重石受ベース板の上に、当該重石受ベース板よりも広い面積を有する重石受部材を布設したことを特徴とする請求項1に記載の屋上手摺構造である。
【0010】
このような構成によれば、重石受ベース板にかかる重石層の重量を大きくできるので、支柱の固定強度をさらに向上させることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記重石受部材が、隣り合う前記重石受ベース板の上面間に架け渡されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の屋上手摺構造である。
【0012】
このような構成によれば、人がどの位置で手摺を掴んでも、その人の体重を重石受ベース板に加えることができるので、支柱の固定強度を向上させることができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記防水層と前記重石受ベース板との間に前記防水層を保護する保護層を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の屋上手摺構造である。
【0014】
このような構成によれば、防水層と重石受ベース板とが直に接することがなく、支柱部材の重量や支柱部材に加わる応力が防水層に分散して伝達されるので、防水層の破損を防ぐことができ、防水性の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工の簡略化を図りつつ、手摺の固定強度の向上を達成できるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、屋上に土を敷設して植物を植えて緑化した、いわゆる屋上緑化された屋上に設けられる手摺を例に挙げて、屋上手摺構造を説明する。
【0017】
図1に示すように、屋上手摺構造1は、屋上に設けられる手摺10を固定する構造であって、屋上スラブ2上に設けられた防水層3上に、手摺10の支柱11と重石受ベース板12とで構成される支柱部材13が所定間隔で複数設置されている。そして、重石受ベース板12上には、重石層20が形成され、隣り合う支柱11間に手摺本体14が架け渡されて固定されている(図2参照)。
【0018】
防水層3は、屋上スラブ2の上にポリ塩化ビニルシートやアスファルト等を布設することで構成されている。防水層3の上面には、保護層5が設けられている。保護層5は、重石受ベース板12の下側に配置され、防水層3を保護する。保護層5は、例えば、所定厚さのシート材或いはプレート材を布設することで構成されている。保護層5は、重石受ベース板12よりも広い面積を有しており、重石受ベース板12と防水層3が直に接触しないように配置されている。
【0019】
なお、屋上緑化を行う場合には、防水層3の上部に防根シート(図示せず)等を布設して、植物の根が伸長して防水層3や屋上スラブ2に食い込むのを防止するように構成しておくのが好ましい。
【0020】
支柱部材13は、手摺本体14の長さ寸法に応じた所定の間隔で、手摺の延びる方向に複数設けられている。
【0021】
支柱11は、例えば、アルミニウムやステンレス等の軽量で防錆性能を有する素材で中空形状に形成されている。また、支柱11は、表面に亜鉛メッキ等の防錆加工が施された鋼材にて形成してもよい。
【0022】
重石受ベース板12は、支柱11よりも人立入りスペースS側に所定長さで広がり支柱11の下端に一体的に形成されている。重石受ベース板12は、支柱11の下端部に、溶接等の接合手段によって一体的に固定されている。重石受ベース板12は、支柱11よりも人立入りスペースS側に向かって、所定長さ(例えば、550mm程度)以上の寸法で広がっており、人立入りスペースS内の人が手摺を触るときに、その人が重石受ベース板12の上に立つように構成されている。このように、本実施形態では、重石受ベース板12が支柱11の下端部から人立入りスペースS側に広がっていることによって、支柱部材13は、側方から見てL字状を呈しているが、その形状はL字に限定されるものではない。例えば、手摺で区画された両側に人立入りスペースが存在する場合は、支柱の両側に重石受ベース板が広がって、支柱部材は、側方から見て逆T字状を呈することとなる。また、人立入りスペースが手摺の片側のみに位置する場合でも、重石受ベース板は人立入りスペース側とその反対側の両方に広がって、支柱部材が側方から見て逆T字状を呈するようになっていてもよい。
【0023】
重石受ベース板12は、所定の面積を有する板状の部材であって、重石層20の厚さや比重、支柱部材13の配置ピッチや、後述する重石受部材15の設置等の各種条件に応じて、支柱部材13の傾倒や横ずれ移動を防止可能なように、その面積が算出されている。重石受ベース板12は、例えば、鋼板(本実施形態では厚さ9mmで、150mm×700mmの長方形状(支柱11から人立入りスペースS側の寸法は550mm)に形成されている)にて構成して重量を確保し、傾倒防止のために必要な重量の負担割合(重石受ベース板12と重石層20との負担割合)を大きくするように構成するのが好ましい。このようにすれば、重石層20の厚さを小さくできる。
【0024】
支柱11の下端部側面には、重石受ベース板12の上面に延びる補強リブ16が形成されている。これによって、支柱11と重石受ベース板12との固定強度が高められている。
【0025】
重石受ベース板12の上には、当該重石受ベース板12よりも広い面積を有する重石受部材15が布設されている。重石受部材15は、重石層20の重量を広い範囲に亘って受けて重石受ベース板12に伝達し、あるいは重石受ベース板12から外れた位置に立つ人の体重を重石受ベース板12に伝達することによって、重石受ベース板12に作用する実質的重量を増加させている。これによって、手摺を傾倒させようとする力への抵抗力が増える。なお、重石受ベース板12にこれを浮かせようとする力がかかったときに、重石受部材15が重石受ベース板12を上から押さえる力がかかるが、実質的重量とは、重石受ベース板12を押える際の重石受部材15上の重石層20の重量と、重石受ベース板12上に位置する重石層20の重量とを合わせたものをいう。
【0026】
図2に示すように、本実施形態では、重石受部材15は、溶接金網(図2中、太線にて示す)にて構成されており、隣り合う重石受ベース板12,12の上面間に架け渡されている。溶接金網は、例えば、亜鉛メッキが施された6mmの鋼棒を縦横100mmピッチに配置・接合して幅400mmの帯状に構成されている。すなわち、本実施形態では、重石受ベース板12から外れた位置で手摺10に近付いた人の体重を重石受ベース板12に伝達させることで、重石受ベース板12に作用する実質的重量を増加させている。
【0027】
重石受部材15は、溶接金網に限定されるものではなく、鋼板等の板材にて構成されるものであってもよい。このような構成にすれば、重石受部材上に設けられている重石層の重量を重石受ベース板に伝達させることでも、重石受ベース板に作用する実質的重量を増加させることができる。
【0028】
本実施形態では、重石層20は、土にて構成されており、支柱部材13の傾倒を防止できるだけの重量を重石受ベース板12に作用させることができる厚さ寸法を有している。なお、重石層20は、屋上に植えられる植物の育成に必要な厚さを下回らないようにする。育成に必要な厚さは植物の種類によって異なるが、例えば、比較的根の浅い芝類を植える場合には、10cm程度の厚さを必要とする。つまり、手摺10の固定強度に必要な重量から求められる厚さと、植物から求められる厚さの大きい方を重石層20の厚さとする。また、高木類を植える場合には、さらに厚い重石層20が必要となるが、重石受ベース板12に作用する重量が大きくなるので、手摺10の固定強度の面で有利になる。
【0029】
以上のような構成の屋上手摺構造1によれば、支柱部材13の重石受ベース板12上に重石層20が形成されているので、重石受ベース板12およびその上部の重石層20の重量で、手摺10が傾倒しようとする力に抵抗でき、手摺10の傾倒を確実に防止できる。特に、重石受ベース板12が支柱11よりも人立入りスペースS側に所定長さで広がって形成されているので、人が手摺を掴むときには、その人の体重が重石受ベース板12に加わって作用する。これによって、支柱部材13の固定強度をさらに向上させることができる。また、重石受ベース板12の底面が保護層5に対して面接触してその上から重石層20で押えているので、その摩擦抵抗によって、支柱部材13が地震時に横ずれ移動するのを防止できる。
【0030】
また、施工工程においては、支柱部材13を設置して重石受ベース板12を覆うように重石層20を形成するだけでよいので、立上り形状の基礎をそれぞれ形成していた従来の屋上手摺の施工と比較して大幅な簡略化が図れる。特に、本実施形態では、重石層20を土にて防水層3上に直接形成しているので、押えコンクリートの施工を省略でき、施工手間が大幅に低減される。また、支柱部材13の構造が単純であるので、支柱部材13の製造コストを抑えることができ、屋上手摺構造1を少ない費用で構築することができる。
【0031】
さらに、本実施形態に係る屋上手摺構造1によれば、構築後所定時間経過した後であっても、手摺本体14を一旦取り外した後に、重石層20の土を移動させて、支柱部材13を移動させれば、手摺10のレイアウト変更を容易に行うことができる。
【0032】
また、重石受ベース板12の上に、重石受部材15を布設したことで、重石受ベース板12に作用する実質的重量を大きくできるので、支柱11の固定強度をさらに向上させることができるとともに、重石層20を薄くして屋根の積載荷重を低減することも可能である。また、重石受部材15を設けることによって、重石受ベース板12の面積を小さくすることができるので、支柱部材13の重量を低減できる。これによって、支柱部材13の取り回しが容易になり、さらなる施工の簡略化を達成することができる。
【0033】
さらに、重石受部材15が、隣り合う重石受ベース板12,12の上面間に架け渡されているので、人がどの位置で手摺を掴んでも、その人の体重を重石受ベース板12に伝達することができ、手摺10の固定強度をさらに向上させることができる。
【0034】
また、防水層3と重石受ベース板12との間に保護層5を設けたことによって、防水層3と重石受ベース板12とが直に接することがない。これによって、支柱部材13の重量や支柱部材13に加わる応力が防水層3の一箇所に集中することなく分散して伝達されるので、防水層3の破損を防ぐことができ、防水性の低下を防止できる。
【0035】
さらに、本実施形態では、従来のような手摺用の立上り基礎は必要せず、また重石層20を土で構成しているので、手摺10の支柱11があたかも緑地面から直接生えているような印象を見る者に与え、意匠上も優れた屋上手摺構造1とすることができる。
【0036】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、重石層20を土にて構成しているが、これに限定されるものではない。例えば、防水層3の上に形成される押えコンクリートを重石層としてもよいし、また、砂利や
砕石やアスファルト等で重石層を形成するようにしてもよい。さらには、重石層の下層を押えコンクリートで構成し表層(上層)を土で構成するようにしてもよい。押えコンクリートと土からなる二層の重石層とすれば、厚さが小さく屋上緑化に対応できる重石層を形成することができる。
【0037】
また、前記実施形態では、重石受ベース板12の上に重石受部材15を設けているが、必ずしも設けなくてもよい。この場合、重石受ベース板の面積を大きくして、重石受ベース板に作用する重量を増加させるようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る屋上手摺構造を実施するための最良の形態を示した断面図である。
【図2】本発明に係る屋上手摺構造を実施するための最良の形態を示した平面図である。
【図3】(a)は従来の屋上手摺構造を示した断面図、(b)は従来の他の屋上手摺構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 屋上手摺構造
2 屋上スラブ
3 防水層
10 手摺
11 支柱
12 重石受ベース板
13 支柱部材
14 手摺本体
15 重石受部材
S 人立入りスペース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋上に設けられる屋上手摺構造において、
屋上スラブ上に設けられた防水層上に、手摺の支柱と当該支柱よりも人立入りスペース側に所定長さで広がり前記支柱の下端に一体的に形成された重石受ベース板とで構成される支柱部材を所定間隔で複数設置し、
前記重石受ベース板上に、重石層を形成し、
前記隣り合う支柱間に手摺本体を架け渡して固定した
ことを特徴とする屋上手摺構造。
【請求項2】
前記重石受ベース板の上に、当該重石受ベース板よりも広い面積を有する重石受部材を布設した
ことを特徴とする請求項1に記載の屋上手摺構造。
【請求項3】
前記重石受部材は、隣り合う前記重石受ベース板の上面間に架け渡されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の屋上手摺構造。
【請求項4】
前記防水層と前記重石受ベース板との間に前記防水層を保護する保護層を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の屋上手摺構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65464(P2010−65464A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233287(P2008−233287)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】