説明

屋根の融雪装置および屋根の融雪方法

【課題】 融雪ムラをなくすとともに、イニシャルコストを安くし、さらには維持管理も容易にした屋根の融雪装置および屋根の融雪方法を提供する。
【解決手段】 融雪液を滴状に噴射する複数のノズル2を有しており、これらのノズル2によって噴射される融雪液の拡散範囲22が隣設するノズル2との拡散範囲22の外縁部を重複させるようにして各ノズル2が屋根Rに配置する。また、前記ノズル2のうち、融雪液の噴射角度を屋根面に対して上方に向けて配置されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の融雪に用いられる屋根の融雪装置および屋根の融雪方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水や温水を散水することにより、屋根に降り積もった雪を溶かす融雪装置等が様々提案されている。
【0003】
例えば、特開2006−169936号公報では、屋根の傾斜面を上流から下流側にかけて分割された複数の散水区域に設置される散水手段と、この散水手段に給湯する給湯ボイラーと、散水手段と給湯ボイラーとを繋ぐ複数の給湯管と、各給湯管に設けられた電動式開閉弁と、各電動式開閉弁の開放時間をセットするタイマーとを用いて、下流側の散水地域から順次タイマーを起動させて融雪をおこなう散水融雪方法が提案されている(特許文献2)。この散水融雪方法によれば、少量の温水を流下させて屋根を温めるとともに、直接雪と接触することにより屋根に降り積もる雪を融かすことができるとされており、例えば、縦横約20平米当たりに水温摂氏53度の温水を散水した場合、30センチの新雪を10分程度でほぼ消去できるとされている。
【0004】
また、特開平6−193310号公報では、屋根のほぼ全面にわたって散水するための流体の噴流に対する反力で回転ノズルを回転させるスプリンクラーと、このスプリンクラーに水道水を供給するための給水管と、このスプリンクラーに接続されており、かつ、水道水の加熱を行う加熱装置と、給水管の通水のオン・オフを行う自動弁と、降雪を感知するスノーセンサーと、このスノーセンサーからの降雪状況に基づいて給水管に設けられた自動弁の開閉制御をおこなう制御装置とからなるスプリンクラー式屋根消雪装置が提案されている(特許文献2)。このスプリンクラー式屋根消雪装置によれば、スプリンクラーにより水道水を屋根に均一に、かつ、効率よく水を散布することにより、少量の水量で効率よく消雪することができるとされている。
【0005】
さらに、特開2005−83180号公報では、散水用の小穴を多数備えた屋根の棟上げに設けられる散水管と、この散水管から散水された水や雨水、融雪水等を収集するための屋根の軒先に設けられる雨樋と、この雨樋により収集された融雪水等を貯留する貯水槽と、この貯留槽から散水管へ水を送る揚水ポンプとを備えた雨水循環式屋根消雪装置が提案されている(特許文献3)。この雨水循環式屋根消雪装置によれば、雨水と雪融け水を循環させて屋根の融雪ができるとされている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−169936号公報
【特許文献2】特開平6−193310号公報
【特許文献3】特開2005−83180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、屋根を流下する温水によって降り積もった雪にトンネル状の穴を形成し、融雪ムラが生じてしまうという問題がある。例えば、降り積もった雪が新雪状態の場合は、トンネル状の穴を形成する雪等は自重により崩れ落ちて流下する温水等により融雪されるため上述した問題が少ないが、降り積もった雪が時間の経過した圧雪状態の場合、雪同士の結びつきが強く、場合によっては氷の層を形成しているため雪が崩れ落ちずにそのままトンネル状に穴が空き、残った雪が融け残ってしまい、融雪ムラを生じさせてしまう。したがって、屋根の雪を完全に融雪しようとすると、降雪後すぐに融雪作業を行わなければならず、散水・水の加熱等のランニングコストが増大してしまうため実用的ではない。
【0008】
また、特許文献2に記載された発明においては、スプリンクラーに雪や氷が付着して回転ノズルが回らなくなるという問題がある。また、屋根に対して比較的高いところから散水を行うため、風の影響を受けやすく融雪ムラが発生し易い。さらに、風にあおられた水が近隣の住宅に飛散してトラブルの原因にもなりうる。
【0009】
さらに、特許文献3に記載された発明においては、雨樋により収集した融雪水等が貯留槽にダイレクトに貯留されるため、貯留槽内の水および散水される水の温度が低くなり、気温がマイナス5度以下になるような寒冷地域においては、連続的に使用していたとしても凍り付いてしまうという問題がある。また、散水開始直後は降り積もっている雪が散水された水を吸収して流れ落ちるまでに時間を必要とするため、一時的に水が不足してしまい循環が上手くいかないという問題がある。そのような水不足を回避するためには大量に水を貯留しておく必要があるが、大きい貯留槽やその大きい貯留槽を設置するための広い敷地等を用意しなければならず、イニシャルコストが増大してしまう。さらに、融雪水とともにゴミ等も流れ込むため、散水管の詰まりや、散水用の小穴の詰まり等の原因になる。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、融雪ムラをなくすとともに、イニシャルコストを安くし、さらには維持管理も容易にした屋根の融雪装置および屋根の融雪方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る屋根の融雪装置の特徴は、融雪液を滴状に噴射する複数のノズルを有しており、これらのノズルによって噴射される融雪液の拡散範囲が隣設するノズルとの拡散範囲の外縁部を重複させるようにして各ノズルが屋根に配置されている点にある。
【0012】
また、本発明において、前記ノズルのうち、融雪液の噴射角度を屋根面に対して上方に向けて配置されていることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明において、屋根の融雪領域を複数に分割した分割融雪領域を設定し、各分割融雪領域において、複数のノズルが少なくとも平行2列に並べられてノズル群を構成し、各列のノズル同士が対向する方向に向けられ、かつ各対向するノズル同士が列方向に位置をずらして配置されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、屋根の融雪領域を複数に分割した分割融雪領域を設定し、各分割融雪領域において、複数のノズルが少なくとも平行2列に並べられてノズル群を構成し、各列のノズル同士が列方向に沿って同一方向に向けられ、かつ隣の列のノズルに対して列方向に位置をずらして配置されていることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明において、屋根との間に融雪水が流れる程度の隙間を空けて前記屋根の軒先に着脱可能に固定される落雪防止板と、前記軒先から流れ落ちる融雪水を収集する断面凹溝状の融雪水収集雨樋と、この融雪水収集雨樋で収集された融雪水を濾過する融雪水濾過手段と、前記融雪水濾過手段により濾過された融雪水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクの融雪水を所定の温度に加熱する融雪水加熱手段と、この融雪水加熱手段により加熱された温水を貯留する温水貯留タンクと、この温水貯留タンクの温水を前記ノズルへ圧送する温水圧送ポンプと、前記ノズルから噴射される温水の噴射量を調節するための温水噴射量調節手段とを備えていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る屋根の融雪方法の特徴は、複数に分割した分割融雪領域の中から融雪時間の基準となる融雪基準領域を任意に選択し、当該融雪基準領域において所定の噴射量をもって雪を融かし、この融雪に要した時間を測定するとともに、その融雪時間に基づいて他の分割融雪領域における融雪時間を決定して順次、融雪作業を実行する点にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、屋根の融雪において融雪ムラをなくすとともに、イニシャルコストを安くし、さらには維持管理も容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る屋根の融雪装置の第1実施形態について図面を用いて説明する。図1は本第1実施形態に係る屋根の融雪装置1の構成を示す斜視図である。
【0019】
本第1実施形態に係る屋根の融雪装置1は、複数のノズル2と、温水噴射量調節手段3と、落雪防止板4と、融雪水収集雨樋5と、融雪水濾過手段6と、貯留タンク7と、融雪水加熱手段8と、温水貯留タンク9と、温水圧送ポンプ10とから構成されている。
【0020】
ノズル2は、形状等を特に限定されるものではないが、融雪効果の高い粒径の液滴を噴射できるものを選択することが好ましい。また、噴射された融雪液は屋根において所定の範囲に拡散される。なお、ノズル2から噴射する融雪液としては、不凍結液を混入するなど、様々なものが適用できるが、本第1実施形態では、通常の水を融雪水として利用する場合を例に説明する。
【0021】
本第1実施形態におけるノズル2は、略円筒状に形成されているとともに、その先端に融雪水を滴状に噴射する噴射口21が備えられている。また、ノズル2から噴射される融雪水は、略平面状で、かつ、約80度の拡がり角度を有する略扇状に飛散される。さらに、噴射口21は軸線を中心として任意の角度に回転させることができ、かつ、軸線に対して上下に最大約50度の任意の角度に傾斜させることができる。なお、ノズル2から飛散される融雪水の拡がり角度は特に限定されるものではなく、例えば、融雪水を広範囲に飛散させるために拡がり角度を大きくしたり、融雪水を遠くまで飛散させるために拡がり角度を小さくしたりする等して、屋根Rの形状やノズル2の設置間隔等に応じて十分な拡散範囲を有するように任意の角度のものを用いればよい。また、ノズル2の軸線に対する最大傾斜角度も本第1実施形態の数値に限定されるものではなく、任意に選択してよい。
【0022】
複数のノズル2は噴射口21を屋根Rの傾斜面に対して略水平または所定の噴射角度で上方に向けて設けられるとともに、隣設するノズル2同士の拡散範囲22の外縁部を重複させるように配置される。
【0023】
本第1実施形態では、図2に示すように、屋根Rの融雪領域に屋根の軒から棟上げ間を複数に分割した分割融雪領域a〜dを設定し、複数のノズル2は各分割融雪領域a〜dに軒先と略平行に2列に並べられてノズル群2Aを構成している。また、ノズル群2Aの各列のノズル2同士は噴射口21が対向する方向に向けられ、かつ各対向するノズル2同士が列方向に位置をずらしてジグザグ状に配置され、しかも、図3の水玉模様で塗りつぶした範囲に示すように、ノズル2同士の拡散範囲22の外縁部が重複するように配置されている。さらに、図3の斜線模様で塗りつぶした範囲に示すように、隣接する分割融雪領域a,b、b,c、c,d同士の拡散範囲22も重複させることが好ましい。
【0024】
なお、各分割融雪領域a〜dに配置されるノズル2の列は2列に限られるものではなく、3列や4列等、分割融雪領域の幅等に応じて任意に設定することができる。また、各列のノズル2同士の対向する方向は、図4および図5に示すように、各列ごとにその列方向に沿って同一方向を向くように配置して拡散範囲22を重複させてもよい。
【0025】
また、本第1実施形態における各ノズル2には、各列に沿った給水用のパイプ23が設けられている。そのパイプ23は各分割融雪領域a〜dのノズル群2Aごとに融雪水の供給量を調節する温水噴射量調節手段3を備えており、屋根Rのハゼ部11等に固定されている。なお、ノズル2に融雪水を供給するのはパイプ23に限られるものではなく、ホース等により供給してもよい。
【0026】
本第1実施形態における温水噴射調節手段3は、前記パイプ23に設けられるバルブ31と、このバルブ31を任意に開閉制御するバルブ制御部(図示しない)とから構成されている。バルブ31は、特に限定されるものではなく、汎用品の電磁弁等が用いられている。また、前記バルブ制御部は所定の処理手順で前記電磁弁の開閉制御をおこなうためのものであり、特に限定されるものではなく、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理手段および所定の処理手順を記憶した記憶手段を有した汎用品のマイクロコンピュータ等を用いてもよい。さらに、前記バルブ31は手動により開閉することができるようにしてもよく、手動と自動を任意に選べるようにしてもよい。
【0027】
落雪防止板4は、屋根Rとの間に融雪水が流れる程度の隙間を空けて軒先の外縁に沿うように立設されている。この落雪防止板4は、軒先において大きな雪が落雪するのを防止し、軒下の安全を確保するものである。また、雪Sを軒先で保持しながら融かすことによって融雪水として循環再利用が可能となる。
【0028】
融雪水収集雨樋5は、断面略凹状に形成されて融雪水を受けられるようになっており、所定の場所に排水口51を備えている。また、前記融雪水収集雨樋5は、軒先の外縁に沿って設けられる。なお、本第1実施形態における落雪防止板4および融雪水収集雨樋5には、様々なタイプのものが適用可能であるが、特に、本件発明者が発明した特願2007−137586号に係る雨樋付き落雪防止装置を適用することが好ましい。前記融雪水収集雨樋5は、雨樋吊り下げ具41によって落雪防止板4に吊り下げられているとともに、外気を遮断する外気遮断カバー52が設けられている。
【0029】
なお、屋根RがM字型屋根やフラット型屋根等の無落雪型の屋根において、落雪や融雪水が落下することがない場合は落雪防止板4や融雪水収集雨樋5は設けなくてもよい。
【0030】
融雪水濾過手段6は、融雪水収集雨樋5で収集された融雪水が貯留タンク7に貯留されるまでに濾過して泥や砂、落ち葉等のゴミを除去するためのものであるれば特に限定されるものではない。例えば、本第1実施形態における融雪水濾過手段6は、スノーダクト用ストレーナ61と、濾過器62とから構成されている。前記スノーダクト用ストレーナ61は、融雪水収集雨樋5の排水口51に設けられて主に落ち葉等を除去するためのものであって、例えば本件発明者が発明した特開2005−48462号公報に係るスノーダクト用ストレーナ61が好ましい。また、濾過器62は、貯留タンクに貯留される前の融雪水から泥や砂等の細かなごみを除去するためのものであって、異なるメッシュのフィルターを多層に重ねたものが好ましい。
【0031】
貯留タンク7は、水道水等の水や融雪水濾過手段6で濾過された融雪水を貯留するためのものであり、前記ノズル群2Aから所定時間に噴射される噴射量および融雪水が循環する経路に基づいて貯留量が設定される。材質等は特に限定されるものではないが、本第1実施形態における貯留タンク7は、ポリエステル樹脂によって形成されており、例えば融雪を行う屋根Rを有する建物と異なる別棟12の建物に設置、または地中に埋設されている。
【0032】
融雪水加熱手段8は、貯留タンク7から融雪水を取り入れ、その融雪水を温めて温水貯留タンク9へと供給することができる。本第1実施形態における融雪水加熱手段8は、前記別棟12に設置されており、汎用品の灯油ボイラーを用いて融雪水を加熱している。なお、融雪水の加熱に用いるボイラー等は灯油ボイラーに限られるものではなくガスや電気等による熱交換器を用いてもよい。
【0033】
温水貯留タンク9は、融雪水加熱手段8により加熱された融雪水を貯留するためのものである。本第1実施形態における温水貯留タンク9は、ポリエステル樹脂によって形成されており、前記別棟12に設置されている。
【0034】
温水圧送ポンプ10は、温水貯留タンク9から温められた融雪水を各ノズル2に圧送するためのものである。本第1実施形態における温水圧送ポンプ10は遠心ポンプが用いられているが、これに限られるものではなく、容積型ポンプ等、所定の圧力で融雪水をノズルに圧送する能力があればいかなるポンプを用いてもよい。
【0035】
つぎに、本第1実施形態における屋根の融雪装置1の各構成の作用とともに、屋根の融雪方法について説明する。
【0036】
まず、ノズル2から噴射された水滴状の融雪水によって如何に融雪されるかを説明する。各ノズル2は拡散範囲22に水滴状の融雪水を噴射する。噴射された水滴状の融雪水は勢いよく雪と接触して雪に熱量を与えて融雪を行う。
【0037】
特に、直径の大きな水滴は直径の小さな水滴に比較して熱量を多く有しており融雪能力が高い。したがって、噴霧状に噴射するよりも水滴状に噴射する方が好ましい。ただし、直径の大きな水滴は重力の影響を大きく受けるため、到達距離が短い。そのため、拡散範囲22における融雪能力に偏りができてしまう。具体的には、ノズル2の噴射口21近傍の融雪能力は高く、噴射口21から遠く離れた拡散範囲22の外縁部における融雪能力は低くなる。そこで、融雪能力のムラを少なくするため、隣設するノズル2同士は、融雪能力の低い拡散範囲22の外縁部を重複させており、各分割融雪領域a〜dに偏りが生じないように配置されている。
【0038】
つぎに、温水噴射調節手段3の作用を説明するとともに、併せて屋根の融雪方法について説明する。温水噴射調節手段3は、バルブ31を開閉することにより任意の分割融雪領域a〜dの融雪を行うことができる。本第1実施形態における融雪は温水噴射調節手段3を用いて次の手順で行われる。
【0039】
まず、分割融雪領域a〜dの中から1つ基準となる融雪基準領域を選定しておく。例えば、図2に示す領域aを融雪基準領域とする。温水噴射調節手段3は選択された融雪基準領域の融雪を行う。このとき、融雪基準領域の融雪に要した時間を計測し、その時間に基づいて他の分割融雪領域b〜dにおける融雪時間を決定する。例えば、融雪基準領域の融雪に要した時間とほぼ等しい時間に融雪時間をセットし、この融雪時間が経過する毎に温水噴射調節手段3により他の分割融雪領域b〜dのノズル群2Aへと温水の供給先を順次変更していく。
【0040】
なお、融雪領域を複数に分割して分割融雪領域a〜dごとに融雪を行うことにより、温水圧送ポンプ10への負担が軽減できる。また、噴射する融雪水の量が少なくて済むので、各タンク7,9の容量が小さくてよくなり、設置面積も小さくできる。したがって、屋根の融雪装置1を設置するにあたってのイニシャルコストを抑制することができる。
【0041】
つぎに、融雪水の供給から収集に至る循環に従って本第1実施形態における他の各構成の作用について説明する。
【0042】
ノズル2により噴射された融雪水および融雪された水は、屋根Rを流下して融雪水収集雨樋5に収集される。このとき落雪防止板4は、融けきらない雪Sが塊となって屋根から滑り落ちるのを防止するとともに、融雪水が風にあおられて屋根Rの下に飛散しないように保持することができる。また、屋根Rとの間に水が流れる隙間を有しているため、融雪水の排水を邪魔することもない。さらに融雪水収集雨樋5には外気遮断カバー52が設けられているため、融雪水収集雨樋5に雪が積もらず、排水を滞らせることもない。
【0043】
つぎに、融雪水収集雨樋5により集められた融雪水は、排水口51に設けられた融雪水濾過手段6により濾過され、貯留タンク7に貯留される。貯留タンク7に貯留された融雪水は、泥や砂、落ち葉等が取り除かれ、貯留タンク7、融雪水加熱手段8、温水貯留タンク9および温水圧送ポンプ10等を汚さず、メンテナンスを容易にし、かつ長期間使用することができるようになる。
【0044】
貯留タンク7に貯留された融雪水は、融雪水加熱手段8により加熱された後に温水貯留タンク9へ供給される。本第1実施形態において貯留タンク7と温水貯留タンク9とは別々に設けられているため、融雪後の融雪水と加熱後の融雪水とが混ざることがなく、加熱された融雪水を所定の温度に保つことができる。
【0045】
そして、温水貯留タンク9の融雪水は温水圧送ポンプ10によりノズル2へと圧送される。所定量の温水を温水貯留タンク9に溜めてから圧送するため、断続することなく連続して温水を供給することができる。このため、継続的な融雪作業によって効率的に融雪可能である。
【0046】
なお、運転を開始して間もない時間帯では、融雪水の噴射から貯留タンクに貯留されるまでの間にタイムラグが生じるため、一時的に貯留タンク7内の融雪水が不足することがあるが、その場合は水道水等を供給するのがよい。また、使用しない場合は各タンク7,9およびパイプ23の融雪水が凍結しないように、水抜きをするのがよい。また、パイプ23等が固定されるハゼ部11は防水加工が施されていることが望ましい。
【0047】
以上のような本第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
1.屋根Rの雪Sを短時間にムラなく融雪することができる。
2.使用する融雪水の量を少なくすることができ、かつ装置のイニシャルコストを低く抑えることができる。
3.融雪水は浄化されるため、故障が少なくメンテナンスが容易になる。
4.落雪および融雪水の飛散を防止して、近隣へのトラブルを回避することができる。
【0048】
つぎに、本発明に係る屋根の融雪装置の第2実施形態について図面を用いて説明する。本第2実施形態は、第1実施形態とはノズル2の配置およびノズル2の噴射角度が異なるものであり、圧雪状態の雪を溶かすのに有効な屋根の融雪装置1である。なお、本第2実施形態のうち、前述した第1実施形態の構成と同一若しくは相当する構成については同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0049】
本第2実施形態の屋根の融雪装置1は、図6および図7に示すように、棟上げ側から軒先側の方向に沿って複数に分割された各分割融雪領域a〜dを設定している。そして、複数のノズル2は、各分割融雪領域a〜dに対して平行に4列に並べてノズル群2Cを構成しているとともに、各列のノズル2同士が列方向に沿って同一方向に向けられ、かつ隣の列のノズル2同士が列方向に位置をずらして配置されており、しかも各列のノズル2は一つおきに噴射角度が屋根面に対して上方に向けられている。なお、各ノズル2の向きは、棟上げ方向あるいは軒先方向のいずれでも設置可能であるが、本第2実施形態では、融雪水の流れを考慮して軒先方向である下方に向けられている。
【0050】
本第2実施形態における複数のノズル2の作用について図を用いて説明する。図8は積雪量が多く、かつ積雪から相当な時間が経って圧雪状態にある屋根Rの雪Sを融かす状況を示す断面模式図である。図8の(a)に示すように、列方向に配置した全てのノズルをその角度を変えずに屋根Rの傾斜と平行に配置した場合、融雪水の水滴を直接的に飛散した場所の雪Sはよく溶けるが、それ以外の雪Sはアーチ橋のようにバランスが安定した構造を形成し、崩れにくくなるため、残雪してしまうことが実験的にわかっている。
【0051】
例えば、新雪の場合、雪Sの中に空洞ができると自重により雪Sが崩れるため、崩れた雪Sに融雪水を直接的に接触させて融雪することができる。しかし、圧雪状態の積雪は崩れにくくトンネル状にアーチ化して残ってしまうため、図8(a)のノズル2の配置では残雪してしまう場合がある。このように、積雪がアーチ化した場合において、融雪水の水滴は既に融雪が完了している空間に飛散させることになり、水滴との直接的な熱交換により融雪する本融雪装置1の一特徴を十分に発揮できなくなってしまう。そこで、本第2実施形態では、図8(b)に示すように、各列のノズル2の噴射角度を一つおきに屋根面に対して上方に向けることにより、トンネル状の雪Sを直接的に融かし、特に頂部を融かすことにより、アーチ構造を破壊し、融け残っている雪Sのバランスを不安定にさせて崩れやすくすることができる。このとき、崩れ落ちた雪Sは、噴射方向に隣接する屋根Rの傾斜と水平に配置されているノズル2から噴射された融雪水の水滴と直接的に熱交換することとなり、より高い融雪効果が得られる。
【0052】
以上のような本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、積雪量が多く、しかも圧雪状態になった雪Sであっても効果的に融雪することができる。
【実施例1】
【0053】
つぎに、本発明の実施例について説明する。本実施例1では、M型の屋根Rを有する建物に屋根の融雪装置1を設けて、実際に融雪を行った。
【0054】
本実施例1における屋根Rは、軒長さが約8mであり、かつ軒から棟上げまでの長さが約5mのM型屋根を使用した。また、この屋根Rには軒から棟上げまで張り出すハゼ部11が軒に沿う方向に455mm間隔で17本設けられている。
【0055】
なお、本実施例1における屋根Rは、無落雪タイプのM型屋根であるため落雪防止板4は設けなかった。また、融雪水収集雨樋5には予め屋根Rに備えられていた雨水等の排水用雨樋を使用した。
【0056】
ノズル2は、ハゼ部11に沿って500mm間隔に10個ないし9個ずつ並べてノズル列を形成し、かつ隣の列とはハゼ部11に沿って250mmずらしてジグザグ状になるように配置された。また、各列は4列を一組としてノズル群2Cを形成し、軒に沿って分割融雪領域a〜dを設定した。なお、最後の分割融雪領域dは5列を一組とするノズル群2Cの拡散範囲とした。
【0057】
まず、すべてのノズル2の噴射方向を屋根Rの傾斜ににほぼ沿う方向で、かつ下向きに向けて融雪実験を行った。新雪で積雪約15cmの場合、分割融雪領域a〜dごとの雪は5分程度で完全に融雪することができ、各分割融雪領域a〜dを5分間ずつ順次融雪することにより、屋根R全体を20分以内で完全に融雪することができた。
【0058】
つぎに、ノズル配置を同じくして、約190cmの新雪に相当する雪を約66cmに圧雪した状態について融雪実験を行った。実験の結果、雪は高さ30cm程度のトンネル状の空間を形成するが、それ以外の部分は崩れずに融け残ってしまい、各分割融雪領域a〜dにおいて30分経過しても融雪を完了することができなかった。
【0059】
そこで、各ノズル列のノズル2の噴射角度を一つおきに屋根面に対して上方に向けて、融雪実験をおこなった。上方に向けられたノズル2から噴射された融雪水が積雪の天井を突き破って前方のノズル2周辺の雪までも穴を空けるように融雪し、アーチ状の積雪を崩せることができた。
【0060】
なお、本発明に係る屋根の融雪装置1は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0061】
例えば、本第2実施形態では、上方に向かって噴射するノズル2を一つおきに配置する構成を例に説明したが、これに限らず、すべてのノズル2を所定の傾斜角をもって上方に向けて配置してもよい。これにより、トンネル状に雪が残ってしまう問題を回避することができて分割融雪領域a〜dごとに確実に融雪作業を進めることができる。
【0062】
あるいは、分割融雪領域a〜dごとに分けて順次融雪を進める場合、これらの各分割融雪領域a〜dの境界部分において、積雪がトンネル状に残ってしまう場合がある。これに対処するため、当該境界部分に配置される各ノズル2について、それらの傾斜角を上方に向けて配置することにより、境界部分の縁を切ることができるため、圧雪を効果的に融かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る屋根の融雪装置の第1実施形態を示す模式図である。
【図2】本第1実施形態におけるノズル群の配置例を示す平面図である。
【図3】本第1実施形態における拡散範囲の重複状態を示す平面図である。
【図4】本第1実施形態におけるノズル群の他の配置例を示す平面図である。
【図5】本第1実施形態における他の拡散範囲の重複状態を示す平面図である。
【図6】本第2実施形態におけるノズル群の配置例を示す平面図である。
【図7】本第2実施形態における拡散範囲の重複状態を示す平面図である。
【図8】本第2実施形態における傾斜角を変えたノズルによる融雪メカニズムを説明する図であって、(a)ノズル傾斜角を屋根の傾斜に平行にした場合、(b)ノズル傾斜角を屋根の傾斜に対して上方に向けた場合を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1 屋根の融雪装置
2 ノズル
21 噴射口
22 拡散範囲
23 パイプ
3 温水噴射量調節手段
31 バルブ
4 落雪防止板
41 雨樋吊り下げ具
5 融雪水収集雨樋
51 排水口
52 外気遮断カバー
6 融雪水濾過手段
61 スノーダクト用ストレーナ
62 濾過器
7 貯留タンク
8 融雪水加熱手段
9 温水貯留タンク
10 温水圧送ポンプ
11 ハゼ部
12 別棟
a,b,c,d 分割融雪領域
R 屋根
S 雪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融雪液を滴状に噴射する複数のノズルを有しており、これらのノズルによって噴射される融雪液の拡散範囲が隣設するノズルとの拡散範囲の外縁部を重複させるようにして各ノズルが屋根に配置されていることを特徴とする屋根の融雪装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ノズルのうち、融雪液の噴射角度を屋根面に対して上方に向けて配置されていることを特徴とする屋根の融雪装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、屋根の融雪領域を複数に分割した分割融雪領域を設定し、各分割融雪領域において、複数のノズルが少なくとも平行2列に並べられてノズル群を構成し、各列のノズル同士が対向する方向に向けられ、かつ各対向するノズル同士が列方向に位置をずらして配置されていることを特徴とする屋根の融雪装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、屋根の融雪領域を複数に分割した分割融雪領域を設定し、各分割融雪領域において、複数のノズルが少なくとも平行2列に並べられてノズル群を構成し、各列のノズル同士が列方向に沿って同一方向に向けられ、かつ隣の列のノズルに対して列方向に位置をずらして配置されていることを特徴とする屋根の融雪装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかにおいて、
屋根との間に融雪水が流れる程度の隙間を空けて前記屋根の軒先に着脱可能に固定される落雪防止板と、
前記軒先から流れ落ちる融雪水を収集する断面凹溝状の融雪水収集雨樋と、
この融雪水収集雨樋で収集された融雪水を濾過する融雪水濾過手段と、
前記融雪水濾過手段により濾過された融雪水を貯留する貯留タンクと、
この貯留タンクの融雪水を所定の温度に加熱する融雪水加熱手段と、
この融雪水加熱手段により加熱された温水を貯留する温水貯留タンクと、
この温水貯留タンクの温水を前記ノズルへ圧送する温水圧送ポンプと、
前記ノズルから噴射される温水の噴射量を調節するための温水噴射量調節手段と
を備えていることを特徴とする屋根融雪装置。
【請求項6】
屋根の融雪領域を複数に分割した分割融雪領域を設定し、各分割融雪領域に配置した複数のノズルを使用して屋根の雪を融かす融雪方法であって、
複数に分割した分割融雪領域の中から融雪時間の基準となる融雪基準領域を任意に選択し、当該融雪基準領域において所定の噴射量をもって雪を融かし、この融雪に要した時間を測定するとともに、その融雪時間に基づいて他の分割融雪領域における融雪時間を決定して順次、融雪作業を実行することを特徴とする屋根の融雪方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−228316(P2009−228316A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75448(P2008−75448)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(501051985)有限会社屋根の興研 (3)
【Fターム(参考)】