説明

屋根瓦保持材

【課題】軽量でありながら、なお且つ従来の屋根瓦保持材と同等あるいはそれ以上の特性を有し、施工性、安全性に優れた屋根瓦保持材を得る。
【解決手段】屋根瓦保持材は、綿状のパルプ繊維、例えば建築物の解体工事現場から廃棄される石膏ボードの紙部分の粉砕物からなる綿状のパルプ繊維を主材料とし、これにバインダ、重質炭酸カルシウム、消石灰、骨材、撥水剤を混合し、これらを適量の水と共に混練してペースト状としたものである。パルプ繊維は、有機質の繊維であり、砂等の骨材に比べて軽量である。パルプ繊維として綿状のものを使用するため、繊維同士の絡み合いにより、結着性が高く、屋根瓦保持材として求められる耐水性や強度等の特性が得らる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、屋根の棟に葺かれる棟瓦において、その棟の両側に葺かれる桟瓦の間や棟瓦と屋根下地の棟部分との間に充填され、その上にかんむり瓦を含む棟瓦を葺いて固定するためのペースト状で乾燥により硬化する性質がある屋根瓦保持材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、屋根の棟部に棟瓦を葺く場合、例えば特開平11−181965号公報に記載されたように、屋根の棟の両側に葺かれる桟瓦にいわゆる屋根土或いは南蛮漆喰と呼ばれる粘土状の屋根瓦保持材を充填し、さらにのし瓦を使用する場合は、棟の両側ののし瓦の間にも屋根瓦保持材を充填し、その上にかんむり瓦を載せて棟に沿って継ぎ合わせていく。なお、最近の特に都市部の家屋では旧来の日本家屋のように、のし瓦を積み上げるような高い棟瓦は好まれない傾向にあり、桟瓦の上にのし瓦を積み上げずに直接かんむり瓦を葺く施工が多くなされている。この場合は、屋根瓦保持材は棟の両側の桟瓦の間に充填し、さらにその上に盛り上げ、この屋根瓦保持材の上にかんむり瓦を葺く。
【0003】
このような屋根の棟構造では、多量の屋根瓦保持材を使用する。従来の屋根瓦保持材は、花崗岩等が風化して出来た山砂を主材料とし、石灰、炭酸カルシウム及び少量のつなぎ材、硬化遅延剤を混合し、適量の水で混練してペースト状としたものである。そのため、重量があり、様々な問題がある。特に、いわゆる南蛮漆喰と呼ばれる従来の屋根瓦保持材は、砂や土等の骨材と重質炭酸カルシウム(粒子状に粉砕した石灰石)を主原料とし、消石灰と砂等の骨材とのポゾラン反応を利用することにより、屋根の棟部を固定している。しかし比重が大きく、屋根全体の重量が重くなる欠点がある。
【0004】
具体的な問題としては、屋根の施工において、重い屋根瓦保持材を屋根上にまで運ばなければならず、屋根葺き職人の負担や危険度が大きい。屋根葺き職人の高齢化が進む中で、重量物の屋根上への搬送は深刻な問題であり、また次世代を担う若者が屋根葺き職人となるのを敬遠する原因ともなる。加えて、重い屋根瓦保持材を使用することにより、屋根全体の荷重が大きくなり、家屋の柱、梁、垂木等の構造物に過大な負担となる。そのため、地震対策のため、家屋の耐荷重性を大きくしなければならず、建築コストの増大をもたらす原因となる。
【0005】
この対策として、例えば特開平6−288048号公報では、山土等の土材により軽量な発泡ポリスチレンの原料であるスチロールビーズ等の樹脂素材を添加して軽量化を図る提案がなされている。しかし、スチロールビーズは耐久性に乏しく、山土等との結合性も悪いため、硬化した後の耐荷重性に課題があった。また、例えば特開2004−162406号公報のように、切断古紙を使用した屋根瓦保持材も提案されている。
【0006】
さらに例えば特開平8−143354号公報に記載されたように、精糖工場、アルミニウム製缶洗浄工程、レンズ研磨工程等から排出される沈殿汚泥を使用することも開示されている。例えば精糖工場においてサトウキビを搾って抽出した不純物を含む糖液を一旦粉化した原料糖を水に溶解し、この糖液から不純物を除去する際に排出される。すなわち、不純物を含む糖液に消石灰を加えてアルカリ溶液とし、この溶液中のカルシウムと不純物とで化合物を生成させ、これをフィルタープレスで圧搾し、糖液を搾り出したカスである沈殿汚泥を使用するものである。
【0007】
【特許文献1】特開平6−288048号公報
【特許文献2】特開平8−143354号公報
【特許文献3】特開平11−181965号公報
【特許文献4】特開平11−349371号公報
【特許文献5】特開2002−3268号公報
【特許文献6】特開2003−165761号公報
【特許文献7】特開2004−162406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、前記従来の屋根内の課題に鑑み、従来の屋根瓦保持材より軽量でありながら、なお且つ従来の屋根瓦保持材と同等あるいはそれ以上の特性を有し、施工性、安全性に優れた屋根瓦保持材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、前記の目的を達成するため、屋根瓦保持材の基材として、従来の山砂に代えて、綿状のパルプ繊維を使用し、従来の山砂を用いた屋根瓦保持材より軽量でありながら、屋根瓦保持材として要求される特性として従来のものよりさらに優れた特性を有する屋根瓦保持材を得たものである。さらに廃材の再利用による省資源化に資することが出来る屋根瓦保持材を得たものである。
【0010】
本願発明者は、従来の山砂に代わる屋根瓦保持材の主材の代替品を検討した結果、綿状のパルプ繊維、例えば建築物の解体工事現場から廃棄される石膏ボードの紙部分の粉砕物を使用することに着目した。この観点から、本発明による屋根瓦保持材は、綿状のパルプ繊維を主材料とし、これにバインダ、重質炭酸カルシウム、消石灰、骨材、撥水剤を混合し、これらを適量の水と共に混練してペースト状としたものである。
【0011】
パルプ繊維は、有機質の繊維であり、砂等の骨材に比べて軽量である。このため、このパルプ繊維を使用した屋根瓦保持材は、後述する通り、砂等の骨材を主材料とする従来の屋根瓦保持材より軽量となる。またパルプ繊維とした綿状のものを使用するため、繊維同士の絡み合いにより、結着性が高く、屋根瓦保持材として求められる耐水性や強度等の特性としては従来の屋根瓦保持材の特性以上のものが得られた。
【0012】
骨材として砂の他に樹脂粒子を含ませることにより、より軽量化が可能になると共に、樹脂粒子特有の粘りにより結着性が高く、耐水性や強度等の特性の向上を図ることが出来る。樹脂粒子は、砂と同様の粒子状材料であるため、樹脂ビーズに比べて耐久性に優れ、骨材の主材料である砂との結合性も高い。この樹脂粒子は骨材全体に対して20〜30重量%とするのがよい。
【0013】
さらに撥水剤を加えることにより、屋根瓦保持材の撥水性が得られ、耐水性が向上する。この撥水剤としては具体的にはシリコーンオイルが使用される。すなわち、常温で液状の連続したシロキサン結合(-Si-O-)を骨格とした有機中〜高分子(オリゴマー、ポリマー)が使用される。これを前記の綿状のパルプ繊維、バインダ、重質炭酸カルシウム、消石灰、骨材と共に混合する。
【0014】
本発明による屋根瓦保持材のより具体的な組成は、全体100重量%に対し綿状のパルプ繊維の0.1〜25重量%を主材料とし、これに全体100重量%に対しバインダ0.5〜1.5重量%、重質炭酸カルシウム10〜20重量%、消石灰10〜20重量%、骨材10〜20重量%、撥水剤0.05〜1重量%であり、これらを混合し、適量の水と共に混練してペースト状とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した通り、本発明の屋根瓦保持材は、従来の屋根瓦保持材より軽量なため、この屋根瓦保持材を屋根上に上げる作業が容易となり、棟瓦の施工が容易となり、瓦葺き職人の負担や危険度が軽減される。さらに屋根の棟部の重量を軽くすることが出来るので、屋根の耐震性の向上を図ることも出来る。しかも、屋根瓦保持材として要求される諸特性としても、従来の屋根瓦保持材と同等或いはそれ以上の特性が得られる。さらにこれまでは殆ど焼却処分或いは最終処分場で廃棄されていた建築物の解体工事現場から廃棄される石膏ボードの紙を利用することによって、廃棄物の再利用化を図ることが出来、省資源化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、屋根瓦保持材の主材料として綿状のパルプ繊維、例えば建築物の解体工事現場等から廃棄される石膏ボードの紙部分の粉砕物を使用することにより、その目的を達成するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0017】
本発明による屋根瓦保持材は、綿状のパルプ繊維を主材料とし、これにバインダ、重質炭酸カルシウム、消石灰、骨材、撥水剤を混合し、これらを適量の水と共に混練してペースト状としたものである。主材料となるパルプ繊維は、繊維が綿状となったものである。
【0018】
この主材料となるパルプ繊維は、例えば建築物の解体工事現場から廃棄される石膏ボードの両面に張られた紙部分を細かく粉砕し、その繊維質を取り出した綿状のものを使用する。建築物の解体工事現場からは様々な物が廃出されるが、そのうちの石膏ボードを再利用出来ることで、省資源化を図ることが出来る。
【0019】
屋根材として要求される特性の一つである吸水性については、撥水剤の添加により十分な性能を得ることが出来る。具体的には、撥水剤としてシリコーンオイルを添加することで、吸水率を10%前後にすることが出来る。すなわち、常温で液状の連続したシロキサン結合(-Si-O-)を骨格とした有機中〜高分子(オリゴマー、ポリマー)を添加する。従来の一般的な屋根瓦保持材の吸水率は、15〜20%であり、これに比べて本発明による屋根瓦保持材はより低い吸水率であり、雨水に対する高耐久性を確保することが出来る。
【0020】
このような屋根瓦保持材を製造する方法は、まず主材料となるパルプ繊維にバインダーとしてメチルセルロースと樹脂接着剤を添加して少量の水と共に混練する。これと共に重質炭酸カルシウム(粒子状に粉砕した石灰石)、消石灰及び少量の骨材として砂と樹脂粒子、撥水剤としてシリコーンオイルを混合し、さらに少量の顔料や糖蜜等の硬化遅延剤等を添加してペースト状とする。
【0021】
骨材として砂と共に使用する樹脂粒子としては、例えば使用済の包装資材として廃棄される発泡樹脂、例えば発泡ポリスチレン樹脂(スチロール樹脂)を細かく粒子状に粉砕したものを使用する。骨材中の樹脂粒子は骨材全体に対して20〜30重量%とするのがよい。これにより、廃材の有効利用を図ることが出来る。また、発泡ポリスチレン樹脂は骨材の主材料となる砂に比べて比重が小さいため、軽量化を図ることが出来る。
この屋根瓦保持材における各成分の組成比を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
このような屋根瓦保持材は、通気性の無い合成樹脂袋に収納して密封し、現場に出荷する。こうすることにより、数十日の間は屋根瓦保持材の状態を保つことが出来、現場で水を加えて練り込む必要が無い。また包装袋のまま屋根瓦保持材を屋根上に持ち上げて使用することが出来るので、屋根上への持ち上げも極めて容易となる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明のより具体的な実施例について説明する。
建築物の解体工事現場から廃出された石膏ボードのうち、その表面に張られた紙部分を細かく粉砕し、綿状としたものにバインダーとしてメチルセルロース、樹脂接着剤及び水を加え、混練しながら、砂とポリスチレン樹脂粒子、重質炭酸カルシウム、消石灰、撥水剤、顔料、糖蜜等の硬化遅延剤を加えて混合し、ペースト状として屋根瓦保持材を製造した。この組成を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
従来の山砂を主材料としたいわゆる南蛮漆喰と呼ばれる屋根瓦保持材の比重が、乾燥前の湿潤状態において概ね2であるのに対し、この実施例による屋根瓦保持材の比重は1.409であった。すなわち、乾燥前の湿潤状態において従来の屋根瓦保持材に対しこの実施例による屋根瓦保持材の重量は70.45%であり、約30%弱の軽量化がなされている。
【0027】
この実施例による屋根瓦保持材から直径100mm、厚さ70mmのテストピースを作り、このテストピースを一軸圧縮強度試験機にかけて強度試験を行った結果、17kN前後の耐荷圧縮重性が確認できた。従来の山砂を主材料とした屋根瓦保持材の一軸圧縮強度試験による圧縮強度は、14kN〜15kNであり、耐荷圧縮荷重性において従来の屋根瓦保持材に比べて優れた耐荷重性が確認された。
【0028】
前述した通り、雨水等に対応するための吸水率は撥水剤を利用することにより12%未満にまで低下させることができることが確認された。前記実施例の屋根瓦保持材を乾燥した後、水中に10日間漬け込んでも型崩れすることなく原型を留めており、3ヶ月間自然の中に放置した試験では、凍害をおこすことなく原型を留めていた。従来のいわゆる南蛮漆喰と呼ばれる屋根瓦保持材の吸水率は15%〜20%位が一般的であり、それ以上の耐水性があることが確認された。この試験結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
前述した通り、この実施例による屋根瓦保持材は、従来の屋根瓦保持材に対し乾燥前の湿潤状態において、約30%弱の軽量化がなされているが、この実施例の屋根瓦保持材を乾燥して水分の大半を除去した後では、従来の屋根瓦保持材を乾燥した重量に対し、約40%の軽量化が実現出来ることが確認された。表4は、この実施例による屋根瓦保持材と従来の屋根瓦保持材(比較例)のそれぞれ1.3リットル当たりを施工後20日乾燥したときの各日の重量変化を示す比較表である。
【0031】
【表4】

【0032】
この結果から明らかな通り、実施例による屋根瓦保持材は、施工後1日目で比較例の70%弱だった重量が、乾燥日数を経るに従って実施例による屋根瓦保持材の重量が比較例より速く減量化している。そして、完全乾燥の目安となる20日目では、実施例による屋根瓦保持材の重量は比較例の約57%となっている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による屋根瓦保持材は従来のものに比べて軽量化が可能であり、なお且つ硬化後の吸水性や機械的強度等では従来の屋根瓦保持材と同等あるいはそれ以上の特性が得られる。従って、屋根工事における作業の軽減化と屋根重量の軽量化が可能であり、屋根工事において利用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根の上に葺かれる屋根瓦を保持するための屋根瓦保持材であって、綿状のパルプ繊維を主材料とし、これにバインダ、重質炭酸カルシウム、消石灰、骨材、撥水剤を混合し、これらを適量の水と共に混練してペースト状としたことを特徴とする屋根瓦保持材。
【請求項2】
屋根の上に葺かれる屋根瓦を保持するための屋根瓦保持材であって、全体100重量%に対し綿状のパルプ繊維の0.1〜25重量%を主材料とし、これに全体100重量%に対しバインダ0.5〜1.5重量%、重質炭酸カルシウム10〜20重量%、消石灰10〜20重量%、骨材10〜20重量%、撥水剤0.05〜1重量%を混合し、これらを適量の水と共に混練してペースト状としたことを特徴とする屋根瓦保持材。
【請求項3】
綿状のパルプ繊維が石膏ボード廃材の紙部分を粉砕して綿状にしたものからなる請求項1または2に記載の屋根瓦保持材。
【請求項4】
骨材が砂を主体とし、これに樹脂粒子を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の屋根用保持剤。
【請求項5】
骨材中の樹脂粒子が骨材全体に対して20〜30重量%であることを特徴とする請求項4に記載の屋根用保持剤。
【請求項6】
撥水剤がシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の屋根用保持剤。

【公開番号】特開2009−221836(P2009−221836A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212549(P2008−212549)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000118073)
【出願人】(502240135)有限会社渡辺建材 (2)
【Fターム(参考)】