説明

屋根補修用金具

【課題】既設の波形屋根材の上に、新たな屋根材を張り付けるための母屋材を容易且つ迅速に取り付けることのできる屋根補修用金具を提供する。
【解決手段】既設の波形屋根材5の上に、新たな屋根材10を張り付けるための母屋材9を支持する屋根補修用金具1であって、既設の波形屋根材5から上方へ突出している屋根材固定ボルト6を挿通するボルト挿通孔2dが形成されて、そのボルト挿通孔2d近傍に被押圧部2cが設けられた母屋材支持面2aと、その母屋材支持面2aの両端から下方へ折り曲げられて既設の波形屋根材の山部5bを跨ぐ一対の支持脚部2b,2bからなる支持具2と、屋根材固定ボルト6を挿通する挿通孔2dが形成されて、支持具2の被押圧部2cに取付けらるボルト引張部材3と、ボルト引張部材3に取付けられて支持具2の被押圧部2cを側方から押圧する押圧具4とからなる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化が進んだ工場などの波形屋根材の上に、新たな屋根材を張り付けるための屋根補修用金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
戦後、工場などの建物の屋根材として、安価で耐火性、耐水性、耐久性に優れた、石綿にセメントを混ぜ込んだスレートなどが好適に使用されてきたが、それらの老朽化に伴い雨漏りなどの補修を行う必要が生じてきた。既存のスレートを張り替えての補修は、工場の業務を停止するなど大規模な措置を講ずる必要があるため、通常は、既存のスレートの上に新たに波板又は折版などの屋根材を張り付けるという補修が一般的である。
【0003】
周知のように、スレートには人体に悪影響を及ぼすアスベストが含有されており、新たな屋根材の基礎を設けるために、ドリル等で既存のスレートを穿孔するという補修は、粉塵が工場内に落下してしまう恐れがあり好ましくない。そのため、新たな屋根材を張り付けるのに、例えば、既存のスレート板の外表面に配設される複数の支持金具と、新たな屋根材を支持するための支持面を有する外装下地材とで構成され、上記支持金具は、既存のスレート板の山部を跨いでその両側の谷部に配置される一対の脚部と、既存のスレート板の外表面から突出している既存のボルトの先端部に螺合された締付ナットとナット座金との隙間に挿入されて係止される挿入係止部と、外装下地材を支持するための外装下地材支持面とを備えた外装材葺替用治具などを用いることが多い(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、上記の外装材葺替用治具は、スレート板から突出している既存のボルトに螺合されている締付ナットを一旦緩め、締付ナットとナット座金との間に生じた隙間に支持金具の挿入係止部を挿入して、再びナットを締め付けて支持金具を固定するものなので、経年劣化で錆び付いたボルトから締付ナットを緩めたり締め付けたりの作業は簡単ではなく、時にはボルトのネジ山を潰したりボルト自体を折ってしまうなど、施工に多大な時間と労力を要するという問題があった。
【特許文献1】特開2002−146973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、既設の波形屋根材から上方へ突出している屋根材固定ボルトに締め付けられているナットに一切手を触れることなく、新たな屋根材を張り付けるための母屋材を容易且つ迅速に取り付けることのできる屋根補修用金具を提供することを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る屋根補修用金具は、既設の波形屋根材の上に、新たな屋根材を張り付けるための母屋材を支持する屋根補修用金具であって、既設の波形屋根材から上方へ突出している屋根材固定ボルトを挿通するボルト挿通孔が形成されて、そのボルト挿通孔近傍に被押圧部が設けられた母屋材支持面と、その母屋材支持面の両端から下方へ折り曲げられて既設の波形屋根材の山部を跨ぐ一対の支持脚部からなる支持具と、屋根材固定ボルトを挿通する挿通孔が形成されて、支持具の被押圧部に取付けらるボルト引張部材と、ボルト引張部材に取付けられて支持具の被押圧部を側方から押圧する押圧具とから構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の屋根補修用金具においては、支持具の被押圧部が、母屋材支持面から斜め上方へ突出するように設けられていることが好ましい。また、支持具の母屋材支持面に切欠部が形成され、その切欠部の端縁近傍に被押圧部が設けられていることが好ましく、支持具の被押圧部を押圧する押圧具がネジであって、ボルト引張部材にそのネジを螺合するネジ孔が形成されている屋根補修用金具がより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の屋根補修用金具は、支持具の被押圧部にボルト引張部材を取付けてから、既設の波形屋根材から上方へ突出している屋根材固定ボルトを、支持具の母屋材支持面に形成されたボルト挿通孔と、ボルト引張部材に形成された挿通孔に挿通して、押圧具で支持具の被押圧部を側方から押圧すると、支持具は押圧方向へ移動し始めると同時に、ボルト引張部材は押圧方向と逆方向へと引っ張られるので、該屋根材固定ボルトは、支持具のボルト挿通孔内周面とボルト引張部材の挿通孔内周面とによって強固に挟持されることになる。従って、従来の外装材葺替用治具のように、スレート板から突出している既存のボルトに螺合されている締付ナットを一旦緩めたり、再び締め付けたりするという面倒な作業を一切することなく、簡単且つ迅速に屋根補修用金具を既設の波形屋根材に取り付けることができる。
【0009】
また、支持具の被押圧部が、母屋材支持面から斜め上方へ突出するように設けられている屋根補修用金具は、立ち姿勢のまま楽に作業することができるので、支持具の母屋材支持面と既設の波形屋根材の山部との間に隙間が殆どない場合でも、既設の波形屋根材に屋根補修用金具を簡単に取付けることができる。
【0010】
更に、支持具の母屋材支持面に切欠部が形成され、その切欠部の端縁近傍に被押圧部が設けられている屋根補修用金具は、支持具の被押圧部にボルト引張部材を取付けても側方に出っ張らず、また、切欠部を形成すると必然的にボルト挿通孔は母屋材支持面の中心部付近に形成されることになるので、既設の波形屋根材に屋根補修用金具を取付けたときの安定性に優れる。
【0011】
特に、支持具の被押圧部を押圧する押圧具がネジであって、ボルト引張部材にそのネジを螺合するネジ孔が形成されている屋根補修用金具は、押圧具を通常のネジとすることで、電動工具等を使用することができるので施工性が更に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る屋根補修用金具の分解斜視図、図2は同補修用金具の構成部材である支持具を示すものであって、(a)は同支持具の平面図、(b)は同支持具の正面図、(c)は同支持具の右側面図、図3は同補修用金具の構成部材であるボルト引張部材を示すものであって、(a)は同引張部材の平面図、(b)は同支持具の正面図、(c)は同支持具の右側面図、図4は同補修用金具の被押圧部にボルト引張部材を取付ける前の状態を示す平面図、図5は同補修用金具の被押圧部にボルト引張部材を取付けると共に屋根材固定ボルトをそれぞれの挿通孔に挿通した状態を示す平面図、図6は図5の右側面図、図7は同補修用金具の押圧具で被押圧部を押圧した状態を示す平面図、図8は図7の右側面図、図9は同補修用金具を既設の波形屋根材に取付けて新たな屋根材を張り付けた状態を示す正面図である。
【0014】
本発明の屋根補修用金具1は、図1、図9に示すように、既設の波形屋根材5の上に新たな屋根材10を張り付けるための母屋材9を支持するためのものであって、母屋材9を支持する支持具2と、支持具2の被押圧部2cに取付けられるボルト引張部材3と、ボルト引張部材3に取付けられて支持具2の被押圧部2cを側方から押圧する押圧具4とで構成されている。
尚、図9に示す既設の波形屋根材5は、屋根材固定ボルト6に雨漏りを防止する防水パッキン8を介して六角のナット7によって水密的に取付けられおり、安価で耐火性、耐水性、耐久性に優れるスレートが好適に使用されている。また、新たな屋根材10としては、安価で耐久性、耐水性に優れる軽量な合成樹脂製の波板などを用いることが好ましい。
【0015】
支持具2は、図2に示すように、母屋材9を支持する母屋材支持面2aと、既設の波形屋根材5の山部5aを跨いでその両側の谷部5b,5bに配置される一対の支持脚部2b,2bと、後述するボルト引張部材3が取付けられて押圧具4によって押圧される被押圧部2cからなり、母屋材9及び新たな屋根材10の重みに耐え得るように金属で形成されている。
尚、本実施形態の支持具2は金属で形成されたものであるが、母屋材支持面2aと支持脚部2bの厚みを増して、合成樹脂で成形することも可能である。
【0016】
図2(a)に示すように、母屋材支持面2aの後側は凹型に切欠かれて切欠部2eが形成されており、図2(c)に示すように、その切欠部2eの端縁近傍からは被押圧部2cが斜め上方へ突出するように設けられている。この切欠部2eは、後述するボルト引張部材3を被押圧部2cに取付けたときに、ボルト引張部材3がこの切欠部2eに納まって、支持具2から出っ張らないようにする役割も果たすので、被押圧部2cにボルト引張部材3を取付けても出っ張らないような寸法に切欠くことが好ましい。
【0017】
また、上記被押圧部2cは、図2(c)に示すように、金属製の平板を略45°折り曲げてノ字型とし、更にその先端部分を略90°折り曲げることにより、後述する押圧具4によって押圧される被押圧面20cを形成したもので、上記母屋材支持面2aの切欠部2e近傍に固着一体化されている。
【0018】
そして、図2(b),(c)に示すように、上記被押圧部2cと母屋材支持面2aを貫通させるように穿孔することにより、既設の波形屋根材5から上方へ突出している屋根材固定ボルト6を挿通するボルト挿通孔2dが形成されている。このボルト挿通孔2dは、図6等に示すように、屋根材固定ボルト5を挿通し易いように、その内周面の内径が屋根材固定ボルト5の外径よりも大きく形成されている。
【0019】
また、既設の波形屋根材5の山部5aを跨いでその両側の谷部5b,5bに配置される一対の支持脚部2b,2bは、図2(b)に示すように、上記母屋材支持面2aの左右両端を下方へ略90°折り曲げることによって形成されたもので、その下端は既設の波形屋根材5の谷部5b,5bに確実に載置されるよう外側へ略90°折り曲げられており、更にその先端が略15°上方へと折り曲げられている。
【0020】
一方、図3に示すボルト引張部材3は、、図6、図8に示すように、前述した支持具2の被押圧部2cを覆うようにして被押圧部2cに取付けられる側面視が略ク字型のもので、その上面と下面には屋根材固定ボルト6を挿通する挿通孔3a,3bがそれぞれ形成されており、斜面には押圧具4を螺合するネジ孔3cが形成されている。このボルト引張部材3の挿通孔3a,3bは、上記母屋材支持面2aのボルト挿通孔2dと同径で、図6に示すように、支持具2の被押圧部2cに取付けたとき、被押圧部2cの被押圧面20cとの間に隙間が生じるように形成されている。
【0021】
そして、上記ボルト引張部材3のネジ孔3cに螺合されて支持具2の被押圧部2cを側方から押圧する押圧具4は一般的な+ネジで、このように一般的なネジを使用することで、電動工具で簡単且つ迅速に締め付けることができ、施工性が非常に良好となる。
【0022】
上記支持具2と上記ボルト引張部材3と上記押圧具4とで構成されている屋根補修用金具1の寸法は特に限定されないが、建物の屋根材として多く用いられてきた既設の波形屋根材5のサイズに合わせて、前後の長さが100mm程度、左右の幅が150mm程度、高さが60mm程度、支持脚部2bの幅が18〜20mm程度のものが好適に用いられる。
【0023】
以上のような構成の屋根補修用金具1は、次のようにして既設の波形屋根材5に取付けられる。
【0024】
即ち、図4に示すように、まず、ボルト引張部材3を支持具2の被押圧部2cに被せるようにして取り付ける。そして、図5に示すように、既設の波形屋根材5の屋根材固定ボルト6を支持具2の母屋材支持面2aに形成されたボルト挿通孔2dと、ボルト引張部材3の挿通孔3a,3bに挿通すると共に、図9に示すように、支持具2の支持脚部2b,2bの下端面を既設の波形屋根材5の谷部5b,5bに載置する。
【0025】
上記のように既設の波形屋根材5に屋根補修用金具1を載置した後、電動工具で押圧具4(ネジ)をボルト引張部材3のネジ孔3cに締め込んでいく。押圧具4を締め込んでいくと、その先端部分が被押圧部2cの被押圧面20cに当接し、更にネジ4を締め込んでいくと、図7、図8に示すように、押圧具4が被押圧部2cを矢印P1の方向へと押圧し始める。このように押圧具4で被押圧部2cを矢印P1の方向へ押圧すると、支持具2には矢印P1方向の力が作用すると共に、ボルト引張部材3には矢印P1(押圧方向)とは逆方向(矢印P2方向)の力が作用することになるので、支持具2は矢印P1の方向へ移動し始めると同時に、ボルト引張部材3は矢印P2の方向へと移動を始める。
【0026】
このように、支持具2、ボルト引張部材3がそれぞれ矢印P1,P2方向へ移動すると、母屋材支持面2aのボルト挿通孔2dの内周面と、ボルト引張部材3の挿通孔3a,3b内周面が屋根材固定ボルト6に当接して、屋根材固定ボルト6は、ボルト挿通孔2dの内周面と挿通孔3a,3bの内周面の3点で強固に挟持されるので、支持具2は既設の波形屋根材5に確実に取付けられる。このようにして、既設の波形屋根材5に屋根補修用金具1を取付けが完了した後、母屋材支持面2aに母屋材9を支持させて、新たな屋根材10を張り付けると屋根の補修作業が完了する。
【0027】
以上の説明から明らかなように、本発明の屋根補修用金具1は、ボルト引張部材3を支持具2の被押圧部2cに取付けてから、既設の波形屋根材5から上方へ突出している屋根材固定ボルト6を、支持具2の母屋材支持面2aに形成されたボルト挿通孔2dと、ボルト引張部材3の挿通孔3a,3bに挿通した後、押圧具5で支持具2の被押圧部2cを側方から押圧すると、支持具2は押圧方向へ移動する反面、ボルト引張部材3は押圧方向と逆方向へと移動するので、該屋根材固定ボルト6は、支持具2のボルト挿通孔2d内周面とボルト引張部材3の挿通孔3a,3b内周面とで強固に挟持される。しかも、支持具2の被押圧部2cが、母屋材支持面2から斜め上方へ略45°突出するように設けられているので、支持具2の母屋材支持面2aと既設の波形屋根材5の山部5aとの隙間が殆どない場合でも、立ち姿勢のまま作業することができ、施工性が非常に良好である。また、ボルト引張部材3を被押圧部2cに取付けても、切欠部2eに納まるので出っ張らず、ボルト挿通孔2dは母屋材支持面2aの中心部近くに形成されているので、屋根補修用金具1を既設の波形屋根材5に取付けたときの安定性に優れる、といった顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る屋根補修用金具の分解斜視図である。
【図2】同補修用金具の構成部材である支持具を示すものであって、(a)は同支持具の平面図、(b)は同支持具の正面図、(c)は同支持具の右側面図である。
【図3】同補修用金具の構成部材であるボルト引張部材を示すものであって、(a)は同引張部材の平面図、(b)は同支持具の正面図、(c)は同支持具の右側面図である。
【図4】同補修用金具の被押圧部にボルト引張部材を取付ける前の状態を示す平面図である。
【図5】同補修用金具の被押圧部にボルト引張部材を取付けると共に屋根材固定ボルトをそれぞれの挿通孔に挿通した状態を示す平面図である。
【図6】図5の右側面図である。
【図7】同補修用金具の押圧具で被押圧部を押圧した状態を示す平面図である。
【図8】図7の右側面図である。
【図9】同補修用金具を既設の波形屋根材に取付けて新たな屋根材を張り付けた状態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 屋根補修用金具
2 支持具
2a 母屋材支持面
2b 支持脚部
2c 被押圧部
2d ボルト挿通孔
2e 切欠部
3 ボルト引張部材
3a,3b 挿通孔
3c ネジ孔
4 押圧具(ネジ)
5 既設の波形屋根材
6 屋根材固定ボルト
9 母屋材
10 新たな屋根材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の波形屋根材の上に、新たな屋根材を張り付けるための母屋材を支持する屋根補修用金具であって、
既設の波形屋根材から上方へ突出している屋根材固定ボルトを挿通するボルト挿通孔が形成されて、そのボルト挿通孔近傍に被押圧部が設けられた母屋材支持面と、その母屋材支持面の両端から下方へ折り曲げられて既設の波形屋根材の山部を跨ぐ一対の支持脚部からなる支持具と、
屋根材固定ボルトを挿通する挿通孔が形成されて、支持具の被押圧部に取付けらるボルト引張部材と、
ボルト引張部材に取付けられて支持具の被押圧部を側方から押圧する押圧具とから構成されていることを特徴とする屋根補修用金具。
【請求項2】
支持具の被押圧部が、母屋材支持面から斜め上方へ突出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の屋根補修用金具。
【請求項3】
支持具の母屋材支持面に切欠部が形成され、その切欠部の端縁近傍に被押圧部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の屋根補修用金具。
【請求項4】
支持具の被押圧部を押圧する押圧具がネジであって、ボルト引張部材にそのネジを螺合するネジ孔が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の屋根補修用金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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