説明

層構造物の無公害リサイクル方法及び装置

【課題】 Si基板やガラス基板といった基板表面に積層されている部分をグリット投射による研掃手段によって研掃・剥離した後、剥離した各種材料およびグリットを分別・回収するとともに、Si基板やガラス基板、配線用金属材料等ならびにグリットを再使用可能とする方法を提供すること。
【解決手段】 グリットを対象表面に投射して対象の表面を研掃する方法において、グリットを固有振動数の相異する少なくとも2種類として対象表面を研掃した後、研掃に用いたグリットおよび対象表面から剥離・除去したダストとの混合物を容器に収納し、前記複数種類のグリットそれぞれの固有振動数又はその近傍の振動数で混合物を加振し、前記複数のグリットそれぞれおよびダストの材料別に層別・分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si基板、半導体ガラス基板といった層構造物の使用部分を、グリットブラスティングにおけるように、グリットを対象表面に投射して基板表面の積層を研掃・剥離した後、グリットと研掃・剥離されたダストとの混合物を、グリットおよびダストを構成する各種材料に層別・分離する層構造物の無公害リサイクル方法及びそのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野においては、Si基板(Siウエハー)やガラス基板の表面に積層されている不純物拡散層、金属配線、レジスト等を除去してSi基板やガラス基板を再使用することがなされる。たとえば、半導体マスクとして使用されてきたガラス基板を、表面のクロム層を取除いて半導体マスク用ガラス基板として再使用することが行われている。
【0003】
Si基板やガラス基板の表面に積層されている不純物拡散層、金属配線、レジスト等を取除くのに、従来、薬品でエッチング処理した後多量の水を用いて洗浄する方法や多量の水を流しながら基板表面を研磨処理する方法が採られてきた。このような多量の水を用いる再処理方法に対して、蛍光管ガラスの再処理に用いられている、グリット投射による基板表面積層の研掃・除去方法が提案されている。このグリット投射による対象表面の研掃方法は、Si基板やマスクとして使用されたガラス基板といった対象表面に、グリットたとえば砂粒を圧縮空気と共に或は高速回転するインペラーによって投射し対象表面を研掃するものである。
【0004】
しかしながら、グリット投射による対象表面の研掃手段には、研掃・除去した各種材料たとえばSi材料、拡散層材料、配線用金属材料などが混在したままの状態であり、これらを材料別に分離・回収する手段がないという問題があった。グリット投射による対象表面の研掃手段たとえばショットブラスト法において、グリットと研掃・除去によって生じたダストを篩および加振手段によって分離し、グリットを再使用する方法は既知である(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平07−100767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬品を用いてSi基板等の表面をエッチング処理し水で洗浄処理する方法や多量の水を流しながらSi基板等の表面を研磨する従来の再処理方法は、エッチング処理に用いる薬品の無公害化処理や多量の水処理を要する問題がある。また、グリット投射による対象表面の研掃・除去方法は、薬品の無公害化処理や多量の水処理を要しない点で優れているけれども、Si基板や配線用金属材料等およびグリットを分離し、それぞれを再使用する手段がなかった。さらに、上記特許文献1に開示されている技術においても、大バリやダストとグリットとを分離する手段はあるものの、ダストを構成する各種材料を分離・回収する手段を有していない。
【0006】
本発明は、Si基板やガラス基板といった基板表面に積層されている部分をグリット投射による対象表面の研掃手段によって研掃・剥離した後、剥離した各種材料およびグリットを分別・回収するとともに、Si基板やガラス基板ならびにグリットを再使用可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、グリットを対象表面に投射して対象の表面を研掃する方法において、グリットを固有振動数の相異する少なくとも2種類として対象表面を研掃した後、研掃に用いたグリットおよび対象表面から剥離・除去したダストとの混合物を容器に収納し、前記複数種類のグリットそれぞれの固有振動数又はその近傍の振動数で混合物を加振し、前記複数のグリットそれぞれおよびダストの材質別に層別・分離するようにした層構造物の無公害リサイクル法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、グリットが磁性体である請求項1に記載の層構造物の無公害リサイクル法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、ガラス瓶又は缶に印刷されたペイント材又は貼付された紙類又は該紙類をガラス瓶又は缶に貼付するに用いた接着剤の剥離に用いる層構造物の無公害リサイクル法である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、液晶基板の表層構造を研掃・剥離し再生する、液晶基板の再生処理方法である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、プリント基板の表層構造を研掃・剥離し再生する、プリント基板の再生処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グリット投射による対象表面の研掃に際して、Si基板、ガラス基板、研掃・剥離してダストとなった拡散層形成材料、配線用金属材料といった各種材料およびグリットを分別回収することができ、これらをリサイクル使用することができる。また、薬品の無公害化処理や多量の水処理を要することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に則して説明する。本発明においては、グリット投射によって対象表面の研掃を行うに際し、投射するグリットのサイズ、形状、材質、硬度、固有振動数等が相異する少なくとも2種類のグリットを用いる。而して、グリット投射による対象表面の研掃によって生じたグリットと各種材料からなるダストとの混合物を容器に収納し、前記少なくとも2種類のグリットの固有振動数或はその近傍の振動数で容器を加振し、グリットおよび研掃・剥離された各種材料を層別・分離する。その際、グリットを鋼のような磁性材料とすると、グリットの分離・回収に磁気を用いることができる。
【実施例1】
【0014】
図1(a)〜(e)に示すように、石英ガラス1の表面の所定区画に、厚さ:400Å(0.04μm)のクロム膜2が形成されている半導体マスクに、石英ガラス1よりも硬度の高いグリット3(グリットA)およびクロムよりも硬度の高いグリット4(グリットB)の2種類のグリットを投射してクロム層2および石英ガラス1を研掃した。グリットは鋼製で粒子径:80μm〜100μmのもの(グリットA)と、粒子径:10μm〜20μmのもの(グリットB)の2種類とした。グリットの投射速度は、1m/s〜4m/s、グリット投射領域は約15cm平方であった。
【0015】
グリット3、4の投射による石英ガラス1表面の研掃・剥離によって生じたクロム2および石英ガラス1からなるダストならびにグリット3、4の混合物を、ステンレス鋼(SUS304)製の、幅:150mm、長さ:300mm、深さ:200mmの容器5に収納し、グリット3、4それぞれの固有振動数或はその近傍の振動数である20kHz〜50kHzおよび10kHz〜50kHzの2種類の振動数で加振機(振動源)6によって加振し、グリット3(グリットA)、4(グリットB)ならびに石英ガラス1およびクロム2に層別・分離した。このように、グリットを固有振動数の相異する少なくとも2種類とし、それぞれのグリット3、4の固有振動数或はその近傍の振動数で容器5を加振し、グリットを共振させることによって、グリットが移動するときに他の材料を攪拌してそれぞれの層に分離する。
【0016】
この実施例においては、容器5加振後、グリット3、4ならびに石英ガラス1およびクロム2は、図1に示すように、上から順に石英ガラス1粒子、クロム2粒子、粒子径:80μm〜100μmのもの(グリットA)、および粒子径:10μm〜20μmのもの(グリットB)の層が分離・形成されていた。これら各層を、負圧レベルの相異するバキュームノズルによって吸引し、石英ガラス1、クロム2ならびにグリット3(グリットA)およびグリット4(グリットB)を分離回収した。
【実施例2】
【0017】
印刷用インクで模様および文字が印刷されたラベルが貼付されたガラス瓶に、実施例1におけると同一のグリット3、4を投射し、貼付された紙類および紙類を貼付するに用いた接着剤を研掃・剥離した。生じた紙類粉末、接着剤ならびにグリット3、4の混合物を収納した容器5を2種類の振動数で加振し、層別した後、2種類のグリット3、4を磁気分離によって分別・回収するとともに、紙類および接着剤をバキュームノズルによって分別・回収した。
【実施例3】
【0018】
液晶基板の廃棄処分において重要なのは、基板周辺に配置されているドライバー回路の配線部材の剥離である。配線材である銅材(厚さ:700Å、幅:10μm、配線領域:約30cm)を、実施例1におけると同一のグリット3、4を投射し、配線部分を剥離した。液晶基板表面の研掃によって生じた銅材、多層樹脂の一番上層材、グリット3、4の混合物を収容した容器5を2種類の振動数で加振し、層別・分離した後、2種類のグリットを磁気分離によって分別・回収するとともに、銅材、多層樹脂の一番上層材をバキュームノズルによって分別・回収した。
【実施例4】
【0019】
プリント基板の廃棄処分に配線材料である銅材を剥離する。配線材である銅材(厚さ:300μm、幅:1mm、配線領域:約300cm)を、実施例1におけると同一のグリット3、4を投射し、配線部分を剥離した。プリント基板表面の研掃によって生じた銅材、プリント基板樹脂材、グリット3、4の混合物を収容した容器5を2種類の振動数で加振し、層別・分離した後、2種類のグリットを磁気分離によって分別・回収するとともに、銅材、プリント基板樹脂材をバキュームノズルによって分別・回収した。
【実施例5】
【0020】
次に、本発明の層構造物の無公害リサイクル装置について説明する。この実施例の装置は、グリットの投射による対象表面の研掃及び表層の剥離・除去手段ならびに対象表面の研掃に用いた固有振動数の相異する少なくとも2種類のグリットと対象表面の研掃によって生じたダストとの混合物を、前記少なくとも2種類のグリットおよびダストを構成する材質別に層別・分離する手段とを有する。
【0021】
グリットの投射による対象表面の研掃手段それ自体は、たとえばショットブラストに見られるように、周知である。グリットを投射する手段として、圧縮空気をキャリアとしてグリットたとえば砂粒や鋼粒を対象表面に指向して投射する方式や高速回転するインペラーによってグリットを投射する方式がある。この実施例においては、図1(a)、(b)に示すように、圧縮空気タンク9からの圧縮空気と共に投射銃8からグリット3およびグリット4を1m/s〜4m/sといった高速で対象表面に投射し、たとえばガラス表面に積層されているクロム層2を剥離・除去する。本発明においては、グリットとして固有振動数の相異する少なくとも2種類のグリットを用いている。
【0022】
グリットの投射による対象表面の研掃後生じた、少なくとも2種類のグリットならびに剥離・除去されたクロム2およびガラス基板1表層は、容器5に収納される。図1(c)に示すように、容器5には加振機6が付設されており、相異するグリット3およびグリット4の固有振動数或はその近傍の振動数の振動をそれぞれ容器5に印加すべく機能する。加振機6による、容器5への相異するグリット3およびグリット4の固有振動数或はその近傍の振動数の振動の印加によって、図1(d)に示すように、少なくとも2種類のグリット3、4ならびにダストを構成する材質、この実施例においては、ガラス1およびクロム2に層別・分離される。
【0023】
層別・分離された少なくとも2種類のグリット3、4ならびにガラス1およびクロム2は、この実施例においては、バキュームノズル7によってそれぞれの層を構成する材質に対応する負圧レベルによって吸引され、分別される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、半導体の分野に限らず瓶、缶など一般消費材のリサイクルにも適用できる。また、半導体薬品処理設備をもたない半導体設計専門会社では、半導体メーカーからの請負作業の一つとして、LSIの設計作業の後、実LSI製品の動作試験を行う。その際、設計依頼元である半導体メーカーから試験用のLSIを引き取り試験を行うが、作業終了後のLSIの処置に苦慮していた。顧客である半導体メーカーに対する秘密保持という観点からも当該LSIを外部に処分依頼できないでいた。本発明は、薬品による処理作業場所および廃液処理設備を持たない設計専門会社等で好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の層構造物の無公害リサイクル方法を実施するときの処理プロセス及び装置の概要を示す模式図
【符号の説明】
【0026】
1 ガラス
2 クロム
3 グリットA
4 グリットB
5 容器
6 加振機(振動源)
7 バキュームノズル
8 投射銃
9 圧縮空気タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリットを対象表面に投射して対象の表面を研掃する方法において、グリットを固有振動数の相異する少なくとも2種類として対象表面を研掃した後、研掃に用いたグリットおよび対象表面から剥離・除去したダストとの混合物を容器に収納し、前記複数種類のグリットそれぞれの固有振動数又はその近傍の振動数で混合物を加振し、前記複数のグリットそれぞれおよびダストの材質別に層別・分離するようにしたことを特徴とする層構造物の無公害リサイクル法。
【請求項2】
グリットが磁性体である請求項1に記載の層構造物の無公害リサイクル法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、ガラス瓶又は缶に印刷されたペイント材又は貼付された紙類又は該紙類をガラス瓶又は缶に貼付するに用いた接着剤の剥離に用いる層構造物の無公害リサイクル法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、液晶基板の表層構造を研掃・剥離し再生する、液晶基板の再生処理方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の層構造物の無公害リサイクル法を、プリント基板の表層構造を研掃・剥離し再生する、プリント基板の再生処理方法。
【請求項6】
グリットを対象表面に投射して対象の表面を研掃し、研掃後、用いたグリットと対象表面から剥離・除去したダストからなる混合物からグリットおよびダストを回収する装置であって、固有振動数が相異する少なくとも2種類のグリットを順次対象表面に投射するグリット投射手段と、対象表面から剥離・除去したダストと対象表面を研掃するに用いた固有振動数が相異する少なくとも2種類のグリットとの混合物を収容する容器と、該容器に前記少なくとも2種類のグリットそれぞれの固有振動数に共振する振動を印加する加振機と、容器に対する少なくとも2種類の振動数の振動の印加によって少なくとも2種類のグリットおよびダストを構成する材質別に層別・分離された各層を層毎に吸引する負圧吸引手段とを有することを特徴とする層構造物の無公害リサイクル装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−102599(P2006−102599A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290671(P2004−290671)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】