説明

層状複水酸化物含有ゲル状組成物

【課題】排水処理に層状複水酸化物を用いた際の効率を高め、かつ、有用薬剤を徐放剤としても使用可能なようにし、環境に配慮して有機溶媒を使用せず、水のみで作製する方法及び組成物を提供する。
【解決手段】ヒドロゲル中に層状複水酸化物の微粒子を非凝集状態で、または層状複水酸化物が層剥離を生じた状態で分散、保持させたゲル組成物。このゲル組成物の製造工程においては、層状複水酸化物およびそのコロイド溶液作製を含めて、媒質には水のみを使用して作製するのが好ましい。該ゲル組成物は、排水中の有害陰イオンをイオン交換により吸着し、また該ゲル組成物は有用陰イオン性薬剤成分含有水溶液と接触させることにより、該薬剤成分をヒドロゲル中に取り込み可能であり、徐放性剤として使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換性を有する層状複水酸化物をヒドロゲル中に分散保持させたゲル組成物及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状複水酸化物またはハイドロタルサイト様化合物と呼ばれる化合物は、以下の一般式で表される。
【化1】

【0003】
層状複水酸化物の層間陰イオンは基本的にイオン交換可能である。このため、層状複水酸化物の陰イオン交換特性を利用して、有害陰イオン除去を行う検討が多くなされてきた。例えば、リン酸イオンの除去(非特許文献1及び特許文献1)、フッ化物イオンの除去(特許文献2、3及び4)、ホウ酸イオンの除去(特許文献4及び5)、亜ヒ酸イオンまたはセレン酸イオンの除去(特許文献5及び6)、その他、上記の陰イオンを含む様々な有害陰イオン除去(非特許文献1及び特許文献7、8及び9)などの例がある。
層状複水酸化物の有害陰イオン吸着特性に関する検討は、上記のように様々に行われてきているが、被処理水への添加方法においては、層状複水酸化物を粉体、粉体の成形体またはスラリーとして被処理液に加えるか(特許文献1、5及び8)、有機または無機のバインダーを用いて造粒したものを用いる方法(特許文献1、6及び8)が挙げられていることが多い。しかし、これらの方法は、層状複水酸化物粒子の凝集やバインダーが層状複水酸化物の表面を覆うことなどによって、被処理液と接触する有効な表面性が少なくなり(特許文献10)、反応の効率が良好でないと考えられる。
【0004】
上記の反応効率における懸念を改良した例としては、細孔とマイクロボイドまたはセルなる空孔を有したポリマーマトリックス内に層状複水酸化物粒子などの機能性物質を保持させる旨の報告があり、これらにおいては、疎水性のポリマーとその良溶媒及び機能性物質の混合物であるドープを、貧溶媒を含有する凝固液中で凝固させたところ、スピノーダル現象により細孔が形成されたほか、マイクロボイドまたはセルなる空孔が生成し、これらマトリックス内の空隙を通して機能性物質と被処理液の接触を改善した旨報告されている(特許文献10及び11)。
【0005】
しかし、上記のようなマトリックス内に空隙を作製して外界との間で物質の移動性を向上させる上記の方法では、有機溶媒を用いることが避けられないし、ドープと凝固液を調整する必要があるなど、上記方法は作製工程に煩雑さがある。
一方、層状複水酸化物に関しては、層状複水酸化物微粒子の凝集を解膠する処理によって厚みがナノメーターレベルとみられる層状複水酸化物微粒子を分散質としている安定したコロイド溶液を得る報告、あるいは本発明者による層剥離によって生成した層状複水酸化物ナノシートを分散質とした安定したコロイド溶液に関する報告が近年なされている(非特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-305343号公報
【特許文献2】特開2005-193167号公報
【特許文献3】特開2008-29985号公報
【特許文献4】特開2006-334456号公報
【特許文献5】特開2009-34564号公報
【特許文献6】特開2000-233188号公報
【特許文献7】特許第4036237号
【特許文献8】特開2005-306667号公報
【特許文献9】特開2009-178682号公報
【特許文献10】特開2006-257371号公報
【特許文献11】特開2009-195843号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ハイドロタルサイトの水環境保全・浄化への応用」亀田知人、吉岡敏明、梅津良昭、奥脇照嗣(2005)The Chemical Times,No.1(通巻195号),pp.10-16(出版団体:関東化学株式会社)
【非特許文献2】“Dispersion and size control of layered double hydroxide nanoparticles in aqueous solutions”Xu,Z.P.et al.(2006)J.Phys.Chem.B,vol.110,pp.16923-16929.
【非特許文献3】“Delamination of layered double hydroxides in water”Hibino,T.and Kobayashi,M.(2005)J.Mater.Chem.Vol.15,pp.653-656.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように排水処理に層状複水酸化物を用いた従来の方法においては、例えば、被処理水への直接投入では層状複水酸化物粒子の凝集が、またバインダーを用いた造粒などにおいても層状複水酸化物粒子表面へのバインダーの被覆が被処理水との接触効率を低下させる懸念がある。また、上記した細孔とマイクロボイドまたはセルを有したポリマーマトリックス内に層状複水酸化物粒子を保持させた材料は、その作製において有機溶媒を使用する等の環境への問題がある他、作製法自体が煩雑であるという問題がある。
一方、層状複水酸化物をマトリックス内に保持させ、外界との物質の移動を検討する場合、マトリックス自体と層状複水酸化物自体の両者の検討が必要であるが、このような検討は充分になされているとはいえない状況にあった。
【0009】
本発明の課題は、マトリックス自体と層状複水酸化物自体の両者の検討を通して、上記の従来技術の問題点を解消し、層状複水酸化物を保持したマトリックス内と外界との物質移動が最適に行える組成物であって、層状複水酸化物の合成とそのコロイド溶液の作製を含めて媒質としては有機溶媒を用いず水を媒質とした環境に配慮した作製方法で、その作製が比較的簡便である組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、該層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、又は層状複水酸化物が層剥離した状態で、ヒドロゲルの網目構造中に分散保持させることを新たに見いだした。
このようにして作製されたヒドロゲル組成物は、その作製過程に使用する媒質はすべて水で行うことができ、環境適合性に優れるとともに、イオン交換能が極めて高く、層状複水酸化物の有用性をさらに向上させるものと確信し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1)層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、又は層状複水酸化物が層剥離した状態で、ヒドロゲルの網目構造中に分散保持されていることを特徴とする、ゲル組成物。
(2)上記層状複水酸化物が金属イオン源及び層間イオン源を含む水溶液中で生成されたものであることを特徴とする上記(1)に記載のゲル組成物。
(3)室温または加熱によって乾燥されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のゲル組成物。
(4)凍結乾燥によって乾燥されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のゲル組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか(1)に記載のゲル状組成物からなる陰イオン交換体。
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のゲル状組成物を含有することを特徴とする、有害陰イオン吸着除去剤。
(7)層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、又は層状複水酸化物が層剥離した状態で、ヒドロゲル形成性高分子化合物の水溶液に分散させた後、該高分子化合物をゲル化させることを特徴とする、上記(1)に記載のゲル組成物の製造方法。
(8)上記層状複水酸化物が金属イオン源及び層間イオン源を含む水溶液中で生成されたものであることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(9)さらに、室温または加熱によって乾燥させることを特徴とする、上記(7)または(8)に記載のゲル組成物の製造方法。
(10)さらに、凍結乾燥によって乾燥させることを特徴とする、上記(7)または(8)に記載のゲル組成物の製造方法。
(11)上記(6)に記載の有害陰イオン吸着除去剤を、有害陰イオンを含有する排水と接触させ、有害陰イオンを吸着除去することを特徴とする、排水の処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゲル組成物は、ヒドロゲル内で層状複水酸化物がイオン交換に有利な状態で分散した状態を保持している。また、ヒドロゲルであるため、該ヒドロゲル中の層状複水酸化物は、ポリマーが構成する3次元的網目構造の隙間を通して被処理水との接触が良好である。したがって、本発明によれば、従来技術におけるようなバインダーが層状複水酸化物表面を被覆することによる層状複水酸化物粒子と被処理水間の接触効率低下についての問題点を解消しうるとともに、被処理水中の有害陰イオンを効率よく吸着することが可能となる。マトリックスを通して外界との間でイオン性物質の移動が可能であることから、層状複水酸化物に有用薬剤成分を含有させるための徐放性基剤として使用できる。加えて、使用する媒質はすべて水で行えるため、環境にやさしい製造工程を特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゲル組成物は、ヒドロゲルマトリックス中に層状複水酸化物が、非凝集状態の微粒子状で、あるいは層剥離した状態で分散保持されたものである。後者の層剥離した状態には、一度層剥離した後、生成した薄層が数層再積層している場合も含んでも良い。しかし、これらの非凝集状態の微粒子あるいは層剥離した状態の薄片乃至再積層により生じた小片において呈する、縦、横、高さからなる3次元形状のうち、少なくとも1次元の大きさがナノスケールである状態を保っていることが望ましく、好ましくは1〜100nmである。
【0014】
ヒドロゲルは、水を分散媒とし、該分散媒中の高分子化合物が架橋することにより3次元網目状構造を形成したものであって、本願発明のヒドロゲル形成性高分子化合物としては、特に限定はないが、例えば、アガロース、アガロペクチン、アルギン酸、アミロース、アミロペクチン、イソリケナン、カードラン、グアーガム、クインシード、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、グルコマンナン、ジェランガム、ポルフィラン、ローカストビーンガム等の多糖類、ゼラチン、絹フィブロイン、コラーゲン等のタンパク質、ポリアクリルアミド、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリアクリル酸、ポリ(N-アクリロイルアミノエトキシエタノール)、ポリ(N-アクリロイルアミノプロパロパノール)、ポリアミジン、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリジオキソラン、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(N-メチロールアクリルアミド)等の合成高分子化合物が挙げられるが、高分子化合物がそれ自体ヒドロゲルを形成しないものであっても、架橋剤の使用によりヒドロゲルを形成できるものであればこれを包含する。以下、これらをゲル化剤という場合がある。
【0015】
このようなヒドロゲルは、水を多量に取り入れ可能であり、例えば、外界の水溶液中の陰イオンは、網目構造を通してヒドロゲル内部にたやすく移動可能である。
一方、本発明においては、層状複水酸化物を特定の形態でヒドロゲルの網目構造内に分散保持させるが、通常、層状水酸化物の粒子は凝集状態であり、被処理水と直接接触可能な面積の割合は低く、層状複水酸化物の層間陰イオンのうち有効に使われるものは少なく、イオン交換能のごく一部しか活用されない。これに対して、本願発明のように、層状複水酸化物の少なくとも1つの次元の大きさがナノスケールである微粒子が非凝集状態でヒドロゲルに分散される場合、該微粒層状複水酸化物の被処理水と直接接触可能な面積は飛躍的に大きくなり、イオン交換体として優れた性能を発揮するようになる。したがって、これにより、例えば、排水中の有害陰イオンの吸着効率が格段に向上する。
【0016】
また、本発明においては、層状複水酸化物を層剥離した状態でヒドロゲルの網目構造内に分散保持することが特に望ましい。微粒子状態は主として層剥離した層が数層積層している状態に相当するため、層剥離の状態は、微粒子状態と比較しても、被処理水との接触可能面積が大きくなり、より高い吸着効率が期待される。この層剥離により、層状複水酸化物は、1〜3nmの厚さに薄片化し、薄片の水酸化物層表面はプラスに荷電しており、ヒドロゲルの網目構造を通して外界の陰イオンを引きつけ、該陰イオンを各薄片表面に吸着する。この場合、層状複水酸化物を構成していた陰イオンが薄片表面に存在しているか遊離しているかは定かではないが、ヒドロゲルマトリックス内に留まっており、各薄片による外界陰イオンの吸着は、いわば、ヒドロゲルマトリックス内での上記の予め層状複水酸化物内に存在していた陰イオンと外界の陰イオンとのイオン交換によるものといえるが、層状複水酸化物における層間に保持された状態の陰イオンと外界陰イオンとのイオン交換に比較して、被処理水との接触効率は、陰イオンを吸着する水酸化物層表面がすべて露出しているため、吸着効率有害イオン吸着能は極めて増大する。
【0017】
このように、本発明のゲル組成物は、有害陰イオンの吸着除去剤として、排水処理に有用であり、このような有害陰イオンとしては、例えば農業排水中の富栄養化の原因とされるリン酸イオン、あるいは水質防止法の対象となる硝酸イオン、亜硝酸イオン、フッ化物イオン、ホウ酸イオン等、その他として有毒性の亜ヒ酸イオン、セレン酸イオン等が挙げられる。
【0018】
一方、本発明のゲル組成物は有害陰イオンの除去ばかりではなく、有用な薬剤成分の除放用基剤としても有用である。これには、例えば、陰イオン性の薬剤成分を含有する水溶液中に本発明のゲル組成物を浸漬し、陰イオン性薬剤をヒドロゲル内に取り込むことによりなされる。陰イオン性薬剤成分はヒドロゲル内の微粒子状の層状複水酸化物の層間陰イオンとイオン交換されるか、あるいは上記プラスに荷電した薄片表面に吸着されるかその周辺に引きつけられ、ヒドロゲル内に保持される。しかし、本発明においては、予め薬剤成分をイオン交換により含有させた層状複水酸化物を用いて、上記した方法によりゲル組成物を作製してもよい。
【0019】
このように有用薬剤成分が分散保持された本発明のゲル組成物は、例えば、徐放性薬剤として生体に導入された場合、網目構造を通して外部に徐々に放出され、薬効を持続させることができる。
このような薬剤としては、医薬および農薬等における陰イオン性薬剤が用いられる。
さらに、本発明のゲル組成物は、乾燥させることによって、その取り扱い性あるいは輸送等において利便性を向上させることができる。乾燥させた本発明のゲル組成物は、そのまま有害イオンあるいは薬剤イオン等を含む水と接触させることにより、これらイオンを含む水をゲルの網目構造内に速やかに取り込み膨潤し、これらイオンをイオン交換により吸着することができる。
【0020】
本発明のゲル組成物は、ゲル化剤をゲル化する前の水溶液の状態において層状複水酸化物を加え、層状複水酸化物が、撹拌・振とうなどの操作または拡散によって、上記溶液に均一に分散した状態を経由した後、ゲル化することによって得ることができる。
上記の操作によりゲル組成物が形成できれば、ゲルは物理ゲルでも化学ゲルでも構わないが、加温時に溶液となり、冷却によってゲル化する物理ゲルを用いることが簡便で好ましい。また、ゲル化剤は複数のものを混合して使用してもよい。
さらに、加える層状複水酸化物の形態は、層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、あるいは層剥離した状態で、ゲル化前の水溶液中に分散するのであれば粉体のまま加えても差し支えないが、予め水に懸濁または分散させておくことが好ましい。
【0021】
本発明においては、ゲル化剤水溶液に加える層状複水酸化物の形態は、層状複水酸化物の形態か、あるいは層状複水酸化物が層剥離または微粒子となった状態で水中に分散しているコロイド溶液の形態が好ましい。また、層状複水酸化物の生成工程においても、水を媒質とするのが好ましく、層状複水酸化物の生成から、コロイド溶液の形成及びヒドロゲルの製造に至る間、有機溶媒を使用せず、一貫して水を媒質として使用することが好ましい。本発明において使用する層状複水酸化物は、例えば、金属イオン源となる塩と層間イオン源となる塩とを含有する水溶液を用いて、アルカリ条件下で生成させることができる。
【0022】
層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で水中に分散しているコロイド溶液の作製は、例えば以下のように行う。
金属イオン源を含む水溶液を、該金属イオンを層状複水酸化物として沈殿させるのに必要な量のアルカリを含む水溶液と急速に混合し、生成した層状複水酸化物を洗浄後、水に懸濁させて密封容器に入れて水熱処理することによって、非凝集状態で層状複水酸化物の微粒子が分散したコロイド溶液を得る。
【0023】
また、層状複水酸化物が層剥離した状態で水中に分散しているコロイド溶液の作製は、例えば、以下のように行う。
金属イオン源を含む水溶液を、有機陰イオンの共存下で、アルカリ水溶液と混合して共沈によって層状複水酸化物を生成させ、洗浄後水に懸濁させて剥離によりコロイド溶液を得る。尚、洗浄後の水への懸濁状態において、剥離促進のため多少の加熱を行ってもよい。このようにして作製されたコロイド溶液は、上記ゲル化剤の水溶液と混合され、層状複水酸化物が撹拌・振とうなどの操作または拡散によって、上記の溶液に均一に分散した状態を経由した後、ゲル化することによって本発明のゲル組成物を得る。
【0024】
また、本発明においては、陰イオン吸着性能を高めるために、ゲル状組成物内の層状複水酸化物における層間陰イオンをイオン交換などによって1価の陰イオンに交換しておくことも可能である。
本発明のゲル組成物を乾燥させる場合、室温で乾燥雰囲気中に静置しても良いし、加熱によって乾燥させてもよく、また、凍結乾燥によっても良い。
【0025】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明は特にこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕乳酸イオンを層間陰イオンとして含有させた層状複水酸化物(乳酸型層状複水酸化物)を共沈法によって合成した。すなわち、D,L-乳酸5.73gを、350mlの水を加えて希釈した後、2N-NaOH水溶液を適量加えてpHを10に調整し、これとは別に、マグネシウムとアルミニウムのモル比が3:1となるように、乳酸マグネシウム3水和物4.81gと乳酸アルミニウム1.84gを溶かした水溶液250mlを用意し、上述の乳酸水溶液に250ml/hの速度で加えた。このとき、混合溶液は常にpHが10となるように、2N-NaOH水溶液を適宜加えた。以上により沈殿物として得られた乳酸型層状複水酸化物を水洗後、乾燥を経ずに水に懸濁させ、数日間おいた。乳酸型層状複水酸化物は、層剥離によって層状複水酸化物ナノシートとなり、上記懸濁液は層状複水酸化物ナノシートを分散質とする半透明なコロイド溶液となった。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。上記コロイド溶液を作製後、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水も含めて全体の1wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:20になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約1%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0027】
〔実施例2〕層状複水酸化物ナノシートを分散質とするコロイド溶液を実施例1と同様にして作製した。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。これとは別に、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水も含めて全体の1wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:10になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約1%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0028】
〔実施例3〕層状複水酸化物ナノシートを分散質とするコロイド溶液を実施例1と同様にして作製した。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。これとは別に、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水も含めて全体の1wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:5になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約1%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0029】
〔実施例4〕層状複水酸化物ナノシートを分散質とするコロイド溶液を実施例1と同様にして作製した。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。これとは別に、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水も含めて全体の1wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:2になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約1%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0030】
〔実施例5〕層状複水酸化物ナノシートを分散質とするコロイド溶液を実施例1と同様にして作製した。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。アガロースと上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:1になるように所定量を容器に加え、さらにアガロースが全体の1wt%程度になるように水を加えてから加温し、約90℃でアガロースをよく溶かした。アガロースがよく溶けた後も加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約1%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0031】
〔実施例6〕微粒子の層状複水酸化物を分散質とするコロイド溶液をまず以下の方法で作製した。硝酸マグネシウム6水和物3.85gと硝酸アルミニウム9水和物1.88gの混合水溶液50ml(溶液A)を作製し、これとは別に水酸化ナトリウム2.07gを水で溶かし250mlに定容した溶液Bを作製した。溶液A 10mlを溶液B 40mlに急速に加えてよく混合し、生成した層状複水酸化物を水洗した。水洗後、乾燥させずに水に懸濁させて密封容器に入れ、100℃−18時間処理した。冷却後、容器内の懸濁液は半透明なコロイド溶液に変化していた。コロイド溶液中の層状複水酸化物量は予め既知体積量を乾燥させて測定しておき、この値を基にコロイド溶液の体積量で層状複水酸化物を量りとれるようにした。以上のようにして微粒子の層状複水酸化物を分散質とするコロイド溶液を作製した後、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水を含めて全体の0.5wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:10になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約0.5%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0032】
〔実施例7〕実施例6と同様にして、微粒子の層状複水酸化物を分散質とするコロイド溶液を作製した。これとは別に、アガロースを水に加えて加温し、約90℃でよく溶かした。水の量は後でコロイド溶液を加えたときにアガロース量が水を含めて全体の0.5wt%になる量を使用した。アガロースがよく溶けた後、上記コロイド溶液を、重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:5になるように調整して加えた。加温した状態のまま、しばらく攪拌を行った。ゲル化させる前にアガロース量が系全体の約0.5%になるように蒸発で失われた分の水を加えて調整した後、得られた混合物を放冷によりゲル化させたところ、均一な状態のゲル状組成物が得られた。
【0033】
〔実施例8〕実施例1−7で作製したゲル状組成物を液体窒素で凍結後、凍結乾燥を行ったところ、外形的な大きさではほとんど収縮せずに、スポンジ状に乾燥した乾燥物が得られた。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、層状複水酸化物のナノ粒子が網目状マトリックの中にナノスケールでよく分散していることが認められた。
【0034】
〔実施例9〕実施例1−5で作製したゲル状組成物を60℃で乾燥させたところ、大幅に収縮し、実施例8に比べて硬い緻密化した乾燥物が得られた。
【0035】
〔実施例10〕実施例6及び7で作製したゲル状組成物を80℃で乾燥させたところ、大幅に収縮し、実施例8に比べて硬い緻密化した乾燥物が得られた。
【0036】
〔実施例11〕実施例5で得られたゲル状組成物(重量比で層状複水酸化物:アガロース=1:1)を、メッシュの上で表面に付着した水を落としたのち、一辺が約6mmの立方体に切断後、約5gを取ってガラス容器に入れた。ここに5mM Na2HPO4水溶液を5mL加え、20時間経過後に上澄み液を採取した。上澄み液は1/10の濃度に希釈してからイオンクロマトグラフィーにてリン酸イオン濃度を測定した。その結果、この上澄み液からはリン酸イオンが検出されなかった。対照実験として、層状複水酸化物ナノシートを加えていないアガロースのみのゲル(アガロース含有量約1wt%)を作製し、約5gを取って上記の試験と同じ処理をしてイオンクロマトグラフィーにて上澄み液中のリン酸イオン濃度を測定した。この場合は、上澄み中のリン酸イオン濃度は2.58mMと算出され、加えたNa2HPO4水溶液のリン酸イオン濃度の約半分という結果であった。5mLのNa2HPO4水溶液(5mM)を約99wt%が水であるアガロースゲル5gに加えたため、約半分の濃度というのはリン酸イオンが全く吸着されなかった値に相当する。以上より、実施例5で得られたゲル状組成物はリン酸イオン吸着に効果があることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、又は層状複水酸化物が層剥離した状態で、ヒドロゲルの網目構造中に分散保持されていることを特徴とする、ゲル組成物。
【請求項2】
上記層状複水酸化物が金属イオン源及び層間イオン源を含む水溶液中で生成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
室温または加熱によって乾燥されていることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル組成物。
【請求項4】
凍結乾燥によって乾燥されていることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゲル状組成物からなる陰イオン交換体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のゲル状組成物を含有することを特徴とする、有害陰イオン吸着除去剤。
【請求項7】
層状複水酸化物の微粒子が非凝集状態で、又は層状複水酸化物が層剥離した状態で、ヒドロゲル形成性高分子化合物の水溶液に分散させた後、該高分子化合物をゲル化させることを特徴とする、請求項1に記載のゲル組成物の製造方法。
【請求項8】
上記層状複水酸化物が金属イオン源及び層間イオン源を含む水溶液中で生成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
さらに、室温または加熱によって乾燥させることを特徴とする、請求項7または8に記載のゲル組成物の製造方法。
【請求項10】
さらに、凍結乾燥によって乾燥させることを特徴とする、請求項7または8に記載のゲル組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載の有害陰イオン吸着除去剤を、有害陰イオンを含有する排水と接触させ、排水中の有害陰イオンを吸着除去することを特徴とする、排水の処理方法。

【公開番号】特開2011−174043(P2011−174043A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275207(P2010−275207)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月13日 インターネットアドレス「http://www.elsevier.com/locate/clay」に発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】