説明

岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造及び固定方法

【課題】 海面に設置した浮体と岸壁とを連結する連絡橋の浮体側の端部に連繋させる浮体に敷設される鋼製の敷板を固定する際の溶接熱が原因でコンクリートにひび割れを発生させることがあることに鑑みて、溶接熱の影響を極力排した岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造及び固定方法を提供する。
【解決手段】 位置アンカー21を鋼桁2bに載置させて上端のテンプレート部21aが露呈する状態にコンクリート12を打ち込む(図2示)。埋設された位置アンカー21の周囲に位置決め溝22を形成し、敷板20の裏面に該位置決め溝22に挿入される位置決めフランジ部20aを設ける。前記位置決め溝22にモルタル23を充填して位置決めフランジ部20aを挿入する。敷板20の位置アンカー21のテンプレート部21aと合致する位置に形成した溶接用透孔20bを介して敷板20と位置アンカー21とを溶着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶を係留させる浮桟橋や、汚水池に汚水処理装置を浮遊させて設置させる浮体等のように、海面や水面の変動に応じて昇降する浮体と岸壁とに掛け渡される連絡橋の自由端部となる浮体側端部の移動を円滑に行えるよう浮体に敷設される敷板の固定構造と敷板の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶を岸壁に係留する場合、岸壁の高さは一定であるのに対して、海面の昇降により船舶の高さ位置は潮位に応じて変動し、あるいは波高によっても常時変動している。このため、船舶を浮桟橋に係留させて、この浮桟橋と岸壁との間に連絡橋を配することにより、船員や船客等の乗員の船舶からの乗降を円滑に行えるようにしている。図5に示すように、岸壁1に対して適宜に離隔した位置に浮桟橋2を配し、岸壁1と浮桟橋2との間を連絡橋3で連絡させてある。船舶Sは浮桟橋2に係留される。浮桟橋2は海面に浮遊しているために、潮位や波高の変動によって昇降して、その上面が常に海面とほぼ一定の高さの位置にある。したがって、船舶Sの乗員は浮桟橋2との間で円滑に乗降できる。この浮桟橋2と岸壁1との間に掛け渡された前記連絡橋3の浮桟橋2側の端部は、浮桟橋3と共に昇降しながら岸壁1との架設状態が維持されるようにしてあり、乗員はこの連絡橋3により岸壁1と浮桟橋2との間を往来することができるようにしてある。
【0003】
一方、連絡橋3は浮桟橋2の昇降に応じて該浮桟橋2と連繋した側の端部が昇降する必要がある。図6は岸壁1と浮桟橋2とを連絡橋3で連絡させた状態の側面図であり、連絡橋3の岸壁1側の端部は揺動軸5aにより連絡橋3を揺動可能に支持する揺動機構5を介して連繋させてある。連絡橋3の浮桟橋2側の端部は、連絡橋2が前記揺動軸5aを中心として揺動する場合には、浮桟橋2との連繋位置が変化するから、この変化を許容するように浮桟橋2と連繋させる必要がある。このため、連絡橋3の浮桟橋2側の端部には、図6及び図7に示すように、回動軸6aを中心として回動する支持ローラ6bを備えた移動機構6を介して連繋させてある。すなわち、浮桟橋2の揺動に応じて支持ローラ6bが浮桟橋2の上面を転動することにより連絡橋3の揺動が許容されるようにしてある。なお、連絡橋3の両端部には、浮桟橋2の昇降によっても該連絡橋3と岸壁1または浮桟橋2とのそれぞれの間に間隙が生じないように、連絡橋3の両端部のそれぞれにフラップ7が揺動自在に設けられており、該フラップ7の先端部が岸壁1と浮桟橋2とに連繋した状態が保たれるようにしてある。
【0004】
この種の連絡橋を支持する構造として、例えば、特許文献1に開示された浮体用連絡橋がある。
【0005】
ところで、浮桟橋2は鋼桁を組み合わせた内部構造の周囲にコンクリートを打ち込んだ構造とされており、上面がコンクリート面となっている。このコンクリート面を鋼製の支持ローラ6bが転動すると、コンクリート面を損傷させてしまうそれがある。このため、支持ローラ6bが転動する範囲には、図7に示すように鋼製の敷板8が敷設されている。なお、前記特許文献1には、円筒形ローラの外周面と接触する水平正面を有する敷板が開示されている。
【0006】
図3及び図4は従来の敷板8の固定構造を示しており、図4は該敷板8を固定する施工手順を示している。図4(a)に示すように、浮桟橋2の内部構造となる鋼桁2bの上面にテンプレート10を載置させ、型枠11を配する。図4(b)に示すように、型枠11にコンクリート12を打ち込んで養生すると、図3に示すように、浮桟橋2の上面にテンプレート10が露呈することになる。このテンプレート10に前記敷板8を載置させる。このとき、図4(c)に示すように、敷板8の側部にテンプレート10の外周端部が露呈するように、該テンプレート10と敷板8との寸法を定めてあり、敷板8の周面とテンプレート10との上面とをすみ肉溶接13を施して、該敷板8をテンプレート10に固定するようにしている。その後、敷板8とコンクリート12との間にできた間隙にモルタルを注入してこの間隙を埋める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−226293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した固定構造では、敷板8をテンプレート10に固定する際には、すみ肉溶接13を敷板8の側端面の全周にわたって施すことから、コンクリート12が溶接による熱の影響を受け易い。この種の熱の影響は、図4(d)に示すように、テンプレート10とコンクリート12との接合部にひび割れCを生じさせるおそれがある。海水や雨水がこのひび割れ部分から浸入してコンクリート12の内部を腐食させるおそれがあるから、ひび割れが発生した場合には早急に補修を行う必要がある。このため、補修の要否を確認するための点検作業回数が増加し、また補修を行う必要もあることから、補修に要するコストが大きいものとなっている。
【0009】
そこで、この発明は、敷板を固定する際の溶接の熱がコンクリートに極力影響を与えることがないようにした岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造は、コンクリート製の浮体に敷設されて連絡橋の自由側端部の移動を円滑に行わせる連絡橋用敷板の固定構造において、前記コンクリートに埋設させた位置アンカーと、前記位置アンカーの周囲のコンクリート面に形成した位置決め溝と、前記敷板の裏面の周縁部に突設した、前記位置決め溝に挿入する位置決めフランジ部と、前記位置決めフランジが前記位置決め溝に挿入された状態の前記敷板の一部であって、位置アンカーと合致する位置に形成した複数個の溶接用透孔とからなり、前記位置決めフランジを前記位置決め溝に挿入させた敷板の前記溶接用透孔を介して該敷板を位置アンカーに溶着させることを特徴としている。
【0011】
前記敷板は、前記溶接用透孔の部分にて前記位置アンカーに溶着されて固定される。しかも、前記位置決めフランジ部が前記位置決め溝に挿入されているから、敷板は所定の位置に固定されることとなって、連絡橋の自由側端部の動作が円滑となる。なお、前記位置決め溝に位置決めフランジ部を挿入するのに先立って、該位置決め溝にモルタルを流し込み、位置決めフランジ部を挿入して該モルタルを養生させた後に、前記溶接施工を行うことで、浮桟橋にひび割れを発せさせることなく、敷板を確実に所定の位置に固定できる。その後、敷板とコンクリートとの間隙にモルタルを注入してこれらの間隙を埋めるが、前記位置決め溝に注入されたモルタルが位置決めフランジを固定することにより、敷板とコンクリートとの間隙に注入したモルタルの流出が抑止される。
【0012】
また、この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定方法は、コンクリート製の浮体に敷設されて連絡橋の自由側端部の移動を円滑に行わせる連絡橋用敷板を浮体に固定する連絡橋用敷板の固定方法において、位置アンカーに前記コンクリートを打ち込んで固定し、前記位置アンカーの周囲のコンクリート面に位置決め溝を形成し、前記敷板の裏面の周縁部に突設させた位置決めフランジ部を前記位置決め溝に挿入して、該敷板を固定位置に設置させ、前記敷板に形成すると共に、固定位置に設置された状態で前記位置アンカーと合致した複数個の溶接用透孔を介して、敷板と位置アンカーとを溶接して固定することを特徴としている。
【0013】
前記敷板は、前記位置決めフランジ部が位置決め溝に挿入されることにより、所定の位置に位置決めされる。この状態で前記溶接用透孔を介して位置アンカーに溶着させるので、敷板は所定の位置に固定されることになり、連絡橋の自由側端部の動作が円滑となる。なお、前記位置決め溝にモルタルを流し込んで前記位置決めフランジ部を挿入し、該モルタルの養生後に敷板の溶接施工を行えば、溶接作業時に敷板が不用意に移動することがなく好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造及び固定方法によれば、敷板を、該敷板に形成した複数個の溶接用透孔を介して位置アンカーに溶接するため、敷板と位置アンカーとは部分的なスポット溶接となるため、コンクリートへの溶接熱の伝達を極力抑制できる。このため、コンクリートにひび割れが発生することが防止されて、補修コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造を示す斜視図であり、敷板を固定する前の状態を示している。
【図2】この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造により敷板を固定する作業工程を説明する図であある。
【図3】従来の連絡橋用敷板の固定構造を示す図で、図1に相当する斜視図である。
【図4】従来の固定構造によって敷板を固定する作業工程を説明する図で、図2に相当する図である。
【図5】浮桟橋が岸壁に係留された状態を示す平面図である。
【図6】浮桟橋が岸壁に係留された状態を示す側面図である。
【図7】図6の一部の拡大図であり、連絡橋と浮桟橋との連繋状態を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造及び固定方法を具体的に説明する。
【0017】
図1に示すように、コンクリート製の浮桟橋2の上面に敷板20を固定するものである。図2(a)に示すように、浮桟橋2の内部の鋼桁2bの上面に位置アンカー21を載置させ、この鋼桁2bに型枠11を組み付け、コンクリート12を打ち込んで、図2(b)に示すように、位置アンカー21を埋設する。このとき、該位置アンカー21の上端面がテンプレート部21aとなってコンクリート12の上面に露呈させるようにする。本実施形態ではこの位置アンカー21は、図1に示すように、4列に配されている。この位置アンカー21の周囲のコンクリート12の上面に、図1及び図2(c)に示すように、ほぼV字形の溝による位置決め溝22を形成する。この位置決め溝22が形成された状態でコンクリート12を養生する。
【0018】
一方、前記敷板20の裏面には、図1及び図2(d)に示すように、位置決めフランジ部20aが下方を指向して突設されている。この位置決めフランジ部20aが前記位置決め溝22に挿入されることにより、敷板20が連絡橋3の前記支持ローラ6bの移動範囲に敷設されることになる。また、位置決めフランジ部20aが位置決め溝22に挿入された状態で、敷板20の前記位置アンカー21と合致する位置には、溶接用透孔20bが形成されている。この実施形態では、1列の位置アンカー21に対応して4個の溶接用透孔20bが形成されている
【0019】
以上により構成されたこの発明に係る固定構造を備えた敷板の固定方法を、以下に説明する。
【0020】
前述したように、コンクリート12の表面に前記位置決め溝22が形成されてコンクリート12の養生が完了したならば(図2(c)参照)、該位置決め溝22に、図2(d)に示すように、モルタル23を充填し、この位置決め溝22に位置決めフランジ部20aを挿入する。モルタル23の養生が完了した状態では、敷板20が、その位置決めフランジ部20aが位置決め溝22に挿入されていることにより、所定の位置に位置決めされた状態となっている。また、モルタル23の養生が完了した状態では、該敷板20がコンクリート12の上面に固定されている。
【0021】
コンクリート12の上面に固定された状態では、敷板20に形成された前記溶接用透孔20bが前記位置アンカー21のテンプレート部21aに合致した位置している。そこで、溶接用透孔20bを介して敷板20と位置アンカー21とを溶接材が該溶接用透孔20bを閉塞する栓体となるように溶接を行う。このため、溶接用透孔20bの部分で敷板20が位置アンカー21に固定されることになり、敷板20が浮桟橋2の上面に固定された状態となる。したがって、敷板20に連絡橋3の自由側端部の前記支持ローラ6bが案内されて転動する。
【0022】
しかも、敷板20と位置アンカー21との溶接がスポット状のものであるから、位置アンカー21からコンクリート12への熱伝達が極力抑制される。このため、コンクリート12が溶接熱により影響を受けることがなく、ひび割れの発生等が極力防止される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明に係る岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造及び固定方法によれば、溶接の際の熱がコンクリートに影響することを極力防止できるので、補修に手間がかからず、補修コストを削減でき、水面に浮かぶ浮体と岸との連絡橋の自由側端部用の敷板に適したものとなる。
【符号の説明】
【0024】
1 岸壁
2 浮桟橋
2b 鋼桁
3 連絡橋
5 揺動機構
6 移動機構
11 型枠
12 コンクリート
20 敷板
20a 位置決めフランジ部
20b 溶接用透孔
21 位置アンカー
21a テンプレート部
22 位置決め溝
23 モルタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の浮体に敷設されて連絡橋の自由側端部の移動を円滑に行わせる連絡橋用敷板の固定構造において、
前記コンクリートに埋設させた位置アンカーと、
前記位置アンカーの周囲のコンクリート面に形成した位置決め溝と、
前記敷板の裏面の周縁部に突設した、前記位置決め溝に挿入する位置決めフランジ部と、
前記位置決めフランジが前記位置決め溝に挿入された状態の前記敷板の一部であって、位置アンカーと合致する位置に形成した複数個の溶接用透孔とからなり、
前記位置決めフランジを前記位置決め溝に挿入させた敷板の前記溶接用透孔を介して該敷板を位置アンカーに溶着させることを特徴とする岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定構造。
【請求項2】
コンクリート製の浮体に敷設されて連絡橋の自由側端部の移動を円滑に行わせる連絡橋用敷板を浮体に固定する連絡橋用敷板の固定方法において、
位置アンカーに前記コンクリートを打ち込んで固定し、
前記位置アンカーの周囲のコンクリート面に位置決め溝を形成し、
前記敷板の裏面の周縁部に突設させた位置決めフランジ部を前記位置決め溝に挿入して、該敷板を固定位置に設置させ、
前記敷板に形成すると共に、固定位置に設置された状態で前記位置アンカーと合致した複数個の溶接用透孔を介して、敷板と位置アンカーとを溶接して固定することを特徴とする岸壁と浮体との連絡橋用敷板の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−208395(P2011−208395A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75754(P2010−75754)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】